自由人HERO

平和を取り戻した世界は、のんびりとした時間が流れていた。
「はぁ〜い!キリーくぅ〜ん」
「ぎゃあああっ!?いきなり何スかリュウさん!今日はデートとかじゃないっすから!」
キリーの家に突然リュウが押しかけ、キリーの悲鳴が蟲人界に響いた。
「傷ついたぜ…人をそんな疫病神みたいに…」
「アンタ達が来ると、大体ロクな事ないんスよ」
「まぁいい。ちょいと聞きたい事があってよぉ」
「聞きたい事?」
リュウは念入りに周囲を確認して、キリーに耳打ちする。
「…そのよぉ、女ってのは何あげたら喜ぶんだ?」
「……うわあぁぁぁ!!あの酒と食いもんにしか興味のないリュウさんがおかしくなったぁぁ!!」
「おいキリー!でけぇ声出すな!あの馬鹿どもに聞かれたりしたら…」
「もう聞かれてまーす」
「キャアァァァァ!?」
窓から顔を覗かせるシンタロー達に、今度はリュウが悲鳴をあげた。
「シンタローさん達、ここに何しに来たんスか?」
「最近リュウの様子が変だったから、おもしろそ…ゲフン!心配でついてきたんだ」
(今面白そうって言いかけたこの人!)
「それがまさか…女にプレゼントだぁ〜?どこの誰なんだよ、お相手は」
「うるっせぇ!てめぇらに言ったら、何されるかわかんねぇだろうが!おい、キリー!何がいいんだ!?」
「ええっと…とりあえず、花とかは喜ぶと思うっス」
「花だな?お前らぜってぇついて来んなよ!」
そう言うと、リュウは慌てて家を飛び出していった。
「…ついて来んなと言われて」
「ついて行かない訳がないよなぁ」
シンタローとバードが悪い笑みを浮かべる。
(絶対ろくでもない事考えてるな…)
「ほら、何ボーッとしてんのさ!とっとと追いかけないと見失うよ!」
「サクラ!何でお前まで楽しんでんだよ!」
「いいじゃん。キリーは気になんないの?オッサンの好きな相手」
「ぐっ…」
結局好奇心に負けたのと日頃のお返しも含めて、シンタロー達と共にリュウの後を追う事にしたキリーだった。

急いでリュウの後追ってきたシンタロー、バード、タイガー、サクラ、キリーの英雄五人は近くの草むらに身を隠す。そわそわとしているリュウを、後ろから隠れて監視する。
「…つーか、こんなに近くに隠れてるってのに気づかないって相当浮かれてんだな。あのオッサン」
「普段なら気づかれてても、おかしくないんだがな」
「ガウ…」
「あ!誰か来たっスよ!」
林の奥から声が聞こえ、現れたのはヒーローとミイだった。
「「何ぃぃぃぃぃ!?」」
「リュウの好きな相手って、もしかしてミイちゃん!?」
「まさかの人妻か!オッサン!」
「てか犯罪じゃん!」
「年齢的にもアウトっス!リュウさんのロリコン!」
まさかの相手に全員驚きが隠せない。
「…いや!俺はリュウを応援する!」
「何言ってんスか、シンタローさん!ミイちゃんはヒーローの奥さんでしょ!」
「ミイちゃんとリュウがくっついてくれれば、ヒーローが戻って来る!」
(ここにもヤバいオッサンがいた…!)
「おい、静かにしろ!まだ、誰か来るぞ」
慌ててまた草むらに身を隠す。仲良く歩いているヒーローとミイの後ろから、天使の〇〇が現れた。
「どうだ〇〇!ここは、人間界で一番良い景色が見られる場所なんだぞー」
「はい、とても綺麗で良い場所ですね。それより、良かったのですか?奥様とのお出かけに、私もついてきてしまって…」
「本来であれば浮気だと物申す所ですが。話を聞けば、〇〇さんはヒーロー様とこの世界を救って下さった方のようですので特別に許しますわ!」
「ありがとうございます、奥様。ヒーロー様がこのような優しい方と巡り逢われて、私は嬉しいです」
「きゃ〜!何でもできて美人な良妻だなんてぇ〜!恥ずかしいですわ!」
((そこまで言ってないんだけどな…))
草むらに隠れていた五人がそんな事を考えていると、リュウがヒーロー達へ近づいて行く。
「あ!リュウさんが動いたっス!」
「よぉ!相変わらず仲良しなこったな、ヒーロー!」
「おぉ、リュウ!こんな所でどうしたんだ?パーパに用なら、今いないぞ?」
「いや、特に用事はねぇよ。たまたま空を飛んでたら、お前らを見つけてな。声かけとこうかなってね」
「要するに、暇人って事ですね」
「ミイ様、英雄様に対してそのような事を…」
「こりゃあ天使様もご一緒で、地上観光ですかい?」
「こんにちは、リュウ様。ヒーロー様に色んな場所を案内していただいております」
「そいつは良い!他の国にも行くご予定で?」
「はい、ヒーロー様が忙しくない時にでも」
「よし!じゃあ、竜人界は俺が案内しましょう。ついでにヒーロー達も来いよ!竜人界のおもてなしってのを、見せてやるぜ?」
「そんなご迷惑では…」
「良いのですわ、〇〇さん!こういう時は甘えておくのが一番ですのよ」
「は、はい」
「よっし、決まりだな!日にちはまた改めて教えるぜ」
「わーい!竜人界最高のおもてなしだぞ、ミィ!」
「えぇ!楽しみですわ!」
ヒーローとミイが嬉しそうに手を取り合って喜んでいる。
「おっと、そういや天使様に渡したいもんがあったんだ」
リュウがごそごそと淡い紫色の花を取り出し、〇〇へと渡す。
「これは?」
「リュウノウロコって言う花だ。その名の通り、小さい花が何枚も重なって龍の鱗のように見えるからその名がつけられたんだ。竜人界にしか咲かない花だから、天使様にと思って」
「わぁ…!綺麗ですね!ありがとうございます、リュウ様」
「ガハハ!いや〜どういたしまして!」
大袈裟に笑うリュウを、胡散臭いという風に見つめるミイ。
「…たまたま空を飛んでいただけなのに、花なんて持ってるなんて不自然ですわ」
「なっ!?たまたま花も拾ったんだよ!」
「怪しいですわ…」
「うるせぇやい!お子様はあっちで遊んでな!」
手で追い払うような仕草をする。
「行きましょうヒーロー様。私達はどうやらお邪魔虫みたいですわ」
「んー?お邪魔虫ー?」
ミイがヒーローの手を取り、リュウ達から離れる。
「いいから!今時花を送るなんて古臭いですわ。もっとアピールしないと、伝わらないですわよ!」
「じゃあかしい五歳児が!」
そう言って二人を追いかけるリュウの姿を、草むらの影から一部始終見ていた他の英雄。
「はぁ〜ん、なるほどねぇ〜」
「リュウさんは天使様の事が好きなんスね」
「いや〜これは…」
「「面白くなってきましたねぇ〜!」」
キリーとタイガー以外、皆悪い笑みを浮かべている。
(なんでこの人達、人の恋路をとことん邪魔したくなるんだろう…)
せめて天使様には被害が出ませんようにと祈るキリーだった。

そしてヒーロー達が竜人界にあるリュウの屋敷へと訪れた。
「遊びに来たぞリュウ!」
「本日はよろしくお願いします、リュウ様」
「いや〜よく来てくれたぜぇ!どうぞゆっくりして行って下さいよ!…んで、後ろの奴らは呼んだ覚えはないんだが?」
ヒーローと〇〇の後ろに、各界の英雄達が並んでいた。
「水くさいこと言うなよリュウ〜!俺達の仲じゃないか〜!」
「今すぐお前らと縁切りたくなったわ」
「流石にこんな大人数では困りますよね…」
「いや、ぜんっぜん大丈夫ですよ!天使様!」
「よぉーし、リュウの許可ももらえたしご馳走になるかぁ!」
「お前ら後でシメる」
「おや、騒がしいと思えば皆さんでしたか」
「あ、ヒーローたん!」
騒ぎを聞きつけて、白龍とタツが様子を見に顔を覗かせた。
「げっ、白龍!お前、用があるからって出るんじゃ…」
「父上が特別な客人が来るとおっしゃったので、顔を見ておこうと思いまして」
「客人ってヒーローたんと、いつものこいつらかい」
「タっちゃん、コイツとはなんだ!コイツらとは!!」
「自分らの行動見てから、物を言えっちゅう話じゃい」
「皆さんになら会おうと思えばいつでも…」
お馴染みの英雄達の顔を見渡している中、見慣れない顔を見つけ間合いを詰めた。
「失礼、リュウの弟の白龍です。お名前は?」
「〇〇と申します。この度はお招きいただきありがとうございます」
「〇〇さん。天上界の天使とは貴女の事ですね。一度お礼が言いたかったのです。我々を救って下さりありがとうございました」
「い、いえ!私はそんな…」
「ご謙遜なさらず。皆感謝しております。どうぞこちらへ、ささやかではありますが宴会の準備をしております。皆さんもどうぞ」
白龍は〇〇の手を取り、中へとエスコートをする。
「おいコラ、白龍!何てめぇが案内して…!」
「「お邪魔しまーす!」」
リュウを押し退け次々と部屋の中へと入る英雄達。そして目の前は、豪華な食事が並べられていた。
「うわぁ!すっげぇ!」
「高級食材ばっかじゃん!今まで渋ってたなおっさん!」
「おぉ!よく来た客人達!」
豪華な食事が並ぶ机の一番奥に、リュウの父親であるドラゴンが座っていた。
「ん?リュウ、特別な客人が来ると言っていたが各界の英雄達ではないか」
「父上、この方が特別な客人です」
白龍は〇〇をドラゴンの前まで連れて行く。
「初めまして、天使の〇〇です」
そう言って一礼した。
(リュウ様も大きいですが、お父様も大きい…)
座っているのに見上げなければならないほど大きい竜人に驚かされてばかりだった。
「おぉ!これはこれは我らの命の恩人でしたか!今日はどうぞ竜人界を楽しんでくだされ!」
ドラゴンは上機嫌で豪快に笑った。各々が席につき、早速好き勝手に食事を楽しんでいる。
「いやいや!うちの息子が特別なおもてなしをしたいと言うからどのような方かと思えば、まさか天使とは!」
「おい親父殿!天使様にウザ絡みは控えて下さいよ」
〇〇と話そうと酒瓶片手に近寄ってきたドラゴンをリュウが止める。
「見ろよ。普段ならリュウも酔っ払ってカラミだすのに、天使様にいい所見せようとしてるぜ?」
「兄さん。今日はお酒を飲まれないのですね。いつもなら一番に飲み出すのですが」
「うるせぇ、今日は客人をもてなすのが先だ」
「そ、そんなに気を使わなくても…」
「どうしたんだリュウ!酒好きのお前が飲まないなんて、明日は雪が降るぞ!天使様、こいつはワシの一人目の嫁の子でして…ワシに似て酒好きでしてなぁ!こっちは二人目の嫁の子でして…」
ドラゴンの言葉に、驚き目を丸くする〇〇。
「竜人は長寿でしてな!嫁の二人や三人は当たり前なんですよ!ガッハハハ!」
「ねぇ、竜人滅ぼしていい?いいよね?」
「落ち着くっスバードさん!目が怖いっス!」
「こう嫁が多いと困るわい!」
「ちょっと親父殿、こっち来てくんない?」
リュウが虚な目をして、ドラゴンを外へと連れ出した。
「父上と兄が失礼しました。お詫びに変わったものをお見せしましょう」
白龍が差し出した写真を見て、〇〇はまたしても目を大きく見開き驚きで口が開いていた。
「あんのクソじじぃ…天使様の前でとんでもねぇ事言ってくれるぜ…」
「こちら、兄が女装した時の写真です」
ドラゴンを軽くシメて戻ってきたリュウが目にしたのは、バードの結婚問題にふざけて女装した時の写真を天使様が見て驚いている光景だった。
「ぎゃあぁぁぁ!?白龍ーーっ!!」
すぐさま〇〇の手から写真を奪い取り、粉々に破り捨てた。
「てめぇ!なんてもん天使様に見せてんだ!」
「見せられないものというのは理解していましたか」
「天使様、ウチのリュウ兄さんは大喰らいの大酒飲みで手ぇつけられへん男です」
「タツーー!!お前二人揃って…表に出やがれ!兄ちゃん怒ったぞぉーー!!」
「うわぁー!リュウさんガチギレじゃないっすか!」
「ちょっとヤバいんじゃない?今のうちに、高そうなの食べとこ!」
「そうじゃねぇだろ!!」
龍の姿になったリュウが白龍に食らいつこうと大きく口を開いた。白龍もそれに応戦しようと構えを取る。
「お待ちください!!」
二人の間に〇〇が入り込み、ギリギリの所で
動きを止めた。
「邪魔しないでくれ天使様!いつもの兄弟喧嘩だ!」
「兄弟喧嘩が命懸けって、どんだけ激しいんだよ…」
「喧嘩のスケールがでけぇんだよなぁ、竜人は」
「一度、深呼吸を」
そう言って、リュウの鼻先に触れる。すると、リュウの逆立っていた立髪が少しずつ落ち着いてきた。
「せっかく皆さんで集まっての食事です。怒っていては楽しめませんよ?さぁお座り下さい、リュウ様」
「…天使様が言うなら」
人の姿に戻り、大人しく席へと座る。その隣に〇〇が座り、酒瓶を持つ。
「リュウ様はお酒が好きなのですね。私がお注ぎしましょう」
「そうかい?天使様にお酌してもらえるなんて、俺は幸せ者だねぇ〜!」
先程とは打って変わって、ご機嫌な様子で酒を飲み始めた。
「な…なんやあの天使様…キレたリュウ兄さんを黙らせよったで!」
「惚れた弱みだな〜」
その後、宴会は終わる事なく全員が酔い潰れるまで続いた。
「んゴォ…はっ!?」
宴会会場でそのまま寝落ちしてしまったリュウが目を覚ます。起き上がって周りを見渡すと、いつもの顔ぶれが自分と同じように酔い潰れ寝ていた。
「…あっ、天使様がいねぇ!?」
リュウは〇〇の姿が見えず飛び起きると、慌てて外へと飛び出した。もてなすと言っておいて、兄弟喧嘩はするわ変な写真は見られるわお酌をされ逆に自分がもてなされるという状況になってしまった。
(呆れて帰ってなきゃいいんだが…)
そんな心配も杞憂に終わり、〇〇は庭に植えてある花を眺めていた。すぐさま声をかけようとして足を止めた。昨日寝落ちしそのままだった事を思い出し、簡単ではあるが身だしなみをチェックする。
(普段だったら気になんてしないってのによぉ…)
好きな相手には格好よく見られたい。今まで抱いた事のない気持ちに、呆れ笑いを浮かべる。
「おはようございます天使様。昨日はすみませんねぇ〜もてなすって言いながら迷惑かけて」
「おはようございますリュウ様。昨日の事ならお気になさらず。とても楽しかったですよ」
朝日に照らされて彼女の白い衣装が輝き、優しく微笑む姿が神々しく見える。
(天使様というより女神様だな、こりゃ…)
締め付けられるような胸の苦しさも、彼女がくれるものなら喜んで受け取ろう。それほどまでに惚れ込んでしまっている事を自覚したリュウだった。
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