自由人HERO
地上にヒーロー達が戻ってきて乱世達の紹介が終わった頃、忍が何かの気配を察知し空を見上げた。
「…兄者、何か感じるね」
「忍、にいちゃん見えねーもんはわかんねぇな」
「ふふふ、わかってるくせに」
乱世も同じように空を見上げ、それにつられその場にいた全員も雲ひとつない空を見上げた。すると、ふわりとヒーローの元へ白い羽根が舞い落ちる。ヒーローはそれを拾い上げた。
「わぁ…ものすごく綺麗だぞ!」
「そりゃそうさ、天上界で一番美しいと言われる天使サマの羽だからな」
「天使?」
少しして空から真っ白な服に身を包み、バードとはまた違った柔らかそうな羽根を広げた少女が舞い降りてきた。
「…乱世様!よくご無事で!」
羽根の生えた少女は、乱世の前に跪いた。
「げっ!やめろって〇〇!そんな事しなくていいっての!ほら、立った立った!膝が汚れるでしょうが!まったくよぉ」
乱世が慌てて〇〇と呼ばれた少女を立ち上がらせ、膝についた土を払う。
「で、ですが乱世様は天帝様の…はっ!?そうです!天帝様は!?」
「これだよ」
リキッドが片手でヒーローを掴み上げ、〇〇の前に差し出す。〇〇は驚いた顔をしてしばらく見ていたが、次第に涙を溜め慈しむようにヒーローを見た。
「あぁ、天帝様!見知らぬ地でこのように立派になられて…きっと良い方々に巡り会ったのですね」
「あれがいい方々か?」
リキッドが指をさした方向には、虎や鳥、龍、カマキリといった動物達の姿が並んでいた。
「…こちらは天帝様の飼われているペットでしょうか?」
「ペットじゃないぞー友達だ!」
「地上の英雄様達と、あっちが各国の国王様達だ」
乱世に言われ、改めて周囲を見回す。
「地上の…し、失礼しました!自分、地上の事はあまり詳しくなくて…申し遅れました。天上界出身の〇〇でございます。この度は天帝様がお世話になりました。皆様にはなんと言ってお礼を…」
「ねぇ、君。彼氏とかいる?」
いつの間に近づいたのか、バードが〇〇の肩に手をかけている。
「俺、恥ずかしいっす」
「あいつ魔人にも言い寄ってたな。そんなに追い詰められてんのか」
「〇〇。せっかく会えたのに悪いが、俺達は冥界へ行く。だから…」
「はい、承知しております。私もご一緒させてもらうために、ここへ来ました」
「は!?馬鹿かお前!冥界だぞ、冥界!」
「気持ちは嬉しいが、お前は戦闘向きじゃない。確かに天使の加護があれば心強いが…」
「乱世様の言われた通り、力をつけてここへ来ました。どうか、今度こそ一緒に行かせてください」
引き下がらない〇〇に、がしがしと頭を掻く乱世。
「ん〜!俺、弱いんだよなぁ〜!その曇りのない目で見られると、全てを見透かされそうでさぁ!」
「乱世様。お手洗いに行かれた後は、きちんと手を洗ってください」
「俺の隠してる事、全部バレちゃう!」
「ちゃんと手ェ洗えよ、兄貴…」
「乱世ー、〇〇って強いのか?」
「ん?あー俺達とは違う意味で強いぞ。アイツは天上界で最も治癒能力の高い超人なんだ。防御壁張ったり怪我を治したり、そこらへんを一瞬でやっちまう」
「へぇ〜!そんなにすごいのか!」
「だから、一緒に来てくれるのはありがたいっちゃありがたいんだが…どうもこいつらの家系は無茶するクセがあるからなぁ〜」
「?」
「心配なさらずとも、自分の身は自分で守ります!ですので、私も…」
「だがよぉ、〇〇。お前、相手殺せねぇだろ?」
「!…そ、そんな事は…」
「君は優しい子だ。できる事なら戦ではなく
、傷ついた誰かを助けてあげてほしい」
「〇〇、お前の気持ちはよぉ〜くわかった。だがな、やっぱり連れて行けねぇ」
「…私はまた、見ている事しかできないのですか?…いえ、皆様がダメだと言っても私は!」
突然大きな音と爆風により、砂埃で何も見えなくなる。視界が晴れると、〇〇のすぐ近くにリキッドの斧が刺さっていた。
「お前、今死んだぞ」
「おい、リキッド!」
「敵は手加減なんてしてくれねぇんだよ!これくらいの攻撃を避けられないんなら、お前は確実に死ぬ」
〇〇は顔を青くして震えている。
「おいこら、ヤンキー!女の子に酷いことすんな!」
「うるせー!アホ鳥!こっちは真面目な話してんだよ!」
まだ震えている〇〇の肩に、乱世が優しく手を添える。
「〇〇、お前ここに来るまでにだいぶん力を使っただろ」
「…そ、そんな乱世様が心配するほどでは」
「ん〜そうかぁ?地上に結界張って、魔人達に襲われた奴らの怪我も治してきたって所かねぇ」
「は!?お前、力使いすぎだろ!ぶっ倒れるぞ!?」
「だ、大丈夫です」
「自分の命を削ってまでやるんじゃない。お前ら一族が優しいってのは、前の戦争で痛いほど知ってる。だがな、本来お前達は守られる側だ。俺達より先に死ぬんじゃない」
「…疲労は回復しています。張った結界はわずかですが、魔人達の力を抑えることができます」
「あぁ、ありがとな。それだけでも、充分助かってんだ」
「…」
〇〇は悔しそうにうつむいた。
「なぁ、〇〇ー」
「!な、なんでしょう天帝様!」
ヒーローに声をかけられ、乱世にしたように跪く。
「僕から〇〇にお願いがあるんだけど、聞いてくれるかー?」
「は、はい!天帝様の願いなら何でも」
「じゃあまず、僕の事は天帝様じゃなくてヒーローって呼ぶ事ー!」
ヒーローの発言に顔を青くする〇〇。
「で、ですが…!天帝様をそんな軽々しくお呼びするなんて!」
「あと膝をつくのもダメー!」
「ええっ!?ど、どうしろと…」
「確かに僕は天帝かもしれないけど、今は自由人ヒーローだから〇〇とは友達として仲良くしたい」
「…わかりました。えぇと…ひ、ヒーロー様」
「友達に様はおかしくないか?」
「申し訳ありません。こういう性格でございますので」
「仕方ないか。よし、これは友達としてのお願いだ」
「はい、なんでしょう」
「ここに残って、みんなと一緒に地上を守ってほしい」
「…」
「この戦いが終わったら、〇〇に地上を案内してやるぞ!」
「…ヒーロー様」
「僕のお嫁さんも紹介するぞ!」
「て、天帝様がご結婚されていらっしゃる!地上では、幼子でも結婚ができるのですね!」
「あー…こっちにめちゃくちゃ落ち込んでる鳥がいるんすけど…」
「ほっとけほっとけ」
「わかりました。天使の名に恥じぬよう、ヒーロー様の大切な方々のいる地上を守らせていただきます」
「頼んだぞ。あ、でも無茶はしちゃダメだぞー」
「はい、承知しました」
二人は指切りをして、笑い合った。
「みんな地上の事、任せたぞー!〇〇と仲良くしないとダメだからな、ジージもだぞ!」
「わかってまちゅよ〜ヒーローたーん!」
「…えっと」
「気にしちゃダメだ、あれでもすごい人なんだぞ」
そして、ヒーロー達は決着をつけに冥界へ。残された英雄達は地上にて、冥界からの敵を迎え討つ事になった。
「…王の皆様。今後の動きについてお話がございます。聞いていただけますでしょうか」
〇〇は王達の前に膝をついた。
「頭を上げよ、天上界の天使とやら。この緊急事態にそこまで畏まらんでも良い」
「普通にしてればいーんだよ。このオッサン達、ただ身体がデカいだけなんだから」
「サクラ!」
「お前はもっと敬え」
(大丈夫なのでしょうか、この上下関係…)
「…さ、先ほど話したように誠に勝手ながら地上に簡易的な結界を張らせていただきました」
「その件に関しては礼を言おう」
「いえ、あれではまだ不十分なのです。冥界からの攻撃は防げません。これからお渡ししますこちらを、国へと持ち帰って下さい。これがあれば結界を強化する事ができ、敵は結界の中には入ってこられません」
「すっげー!最強じゃん!」
「騒ぐな、ガキンチョ」
「ですが欠点がありまして…外部から攻撃が続きますと力が弱まってしまいます。なので、戦える方にはできるだけ力を貸していただきたいと…」
「それなら俺達の出番だな!任せときな、天使のお嬢さん…俺が華麗に敵を…」
「うっさい鳥!」
サクラがバードの額に一撃を食らわせ、大人しくなる。
「…」
「…落ち着きがなくて申し訳ない。作戦はわかった。喜んで協力させてもらおう」
「ありがとうございます」
「だが、天上界の天使よ。その加護の代償は、お主の命を脅かすのではないか?」
「ご心配なく。私達は守るために存在しているのです。では、こちらを…」
〇〇が王達に結界を強化するための道具を渡そうとした時だった。突然、壁に大きな穴が空き砂煙が上がった。
「あ〜っもう!信じらんない、あの超人!レディーの顔を蹴り飛ばすなんて!」
「あ、あいつさっきの!?」
先ほど逃げ出したはずの、魔人のフープが戻ってきた。
「もぉ〜!めちゃくちゃイライラするから、ここにいる全員み〜んな殺しちゃお!さっきの超人達もいなくなったみたいだし、ラッキー!」
「強化する前に魔人が…!皆様、早くこれを!あの者は私が引き付けます!」
フープの前に、〇〇が立ち塞がる。
「あら〜?クズ共の中に、新しいウジ虫が増えてるじゃない!…と思ったら、アンタ天使の生き残り?もしかして、そっこらへんにウザったい結界張ってんのアンタ?」
「だとしたら、何だと言うのです」
「じゃあ、アンタから早めに殺さないとね!」
ニヤリと笑ったフープは光の輪を投げつけ、〇〇はなんとかそれを避けた。
「前の戦争の時も天使の力は厄介だから、早めに始末しとけって言われてさぁ〜!天使のいる国、全部焼き尽くしたんだっけ!」
「…!」
「でも、まさか生き残りがいたなんてフープ驚き!戦争の時にも何人かいたけど、力使い過ぎちゃってみ〜んな死んでるとか笑っちゃうんですけど!」
フープの攻撃はさらに続き、〇〇は必死にそらから逃げ続けた。
「アンタも無様に死んじゃえ!!」
壁際に追い詰められた〇〇に光の輪が迫る。輪が爆散し、壁が崩れ落ちて砂埃で〇〇の姿が見えなくなった。
「さぁて、どんな肉片になってるのかしら?」
フープが様子を見ようと近く。
「紅龍見参!!」
砂煙の中から紅龍が現れ、フープを弾き飛ばした。
「いやぁ〜危機一髪だったねぇ!天使のお嬢ちゃん」
リュウが〇〇を抱きかかえ、砂埃の中立ち上がる。
「うわーっ!かっこいいっす!リュウさん!」
「あっ、リュウ!てめぇいつの間に!?いいとこ取りしやがって!」
「うるさい鳥」
「あ…ありがとうございます」
「いいって事よ!」
天使が舞い降りて来るという言葉通りの光景に、思わず『綺麗だ』と口に出てしまいそうになった。
〇〇と呼ばれた彼女の視線はヒーローとその兄弟達にしか向いておらず、少しだけ悔しかった。この気持ちは何なのかそれを理解する前に、まずは目の前の敵を倒すのが先だと前へ出た。
(かーっ!近くで見ると本当に綺麗だな!)
腕の中にすっぽりとおさまっている少女を安心させるように、にっと笑いかけた。
「チッ!ウジ虫が何匹集まっても虫は虫なんだよ!死ねっ!」
フープの連続攻撃をなんとか回避する。
(…っ、こんなにやられちゃ近づけねぇな)
「きゃははは!!反撃してこねぇのかよ!」
「ちぃっ!!」
「とっとと死ね!…えっ?」
攻撃しようとしていたフープの左手が、肩から切断され地面に落ちる。
「…へぇ、天使族ってそんな事もできるんだ」
弓を構えた〇〇が、次の弓を放つ準備をする。
「…次は、外しません」
「やってみろよ!このウジ虫がぁ!」
「よそ見してんじゃねぇぞオラァ!」
フープの意識が〇〇に向いている瞬間を狙い、リュウが攻撃をしかけ勢いよく壁に打ち付けられる。
「くっそ!…っ!?」
フープは起きあがろうとして、ぴたりと動きを止めた。
「貴方の負けです」
目の前に弓を構えた〇〇が立っており、弓の先はフープの心臓へと向けられていた。
「…クソが!」
「…」
弓を構える〇〇だが、一向に手を離すことはない。しばらく見つめ合った状態が続く。
「ど、どうしたんすか?逃げられちゃうっすよ!」
「何?今更怖気付いたってわけ?いいの〜?私はアンタの仲間を殺した張本人なのよ〜仇打ちになるじゃない」
〇〇は弓を構えたまま動かない。
「…たとえ、私がみんなの仇を打っても喜びはしないでしょう。私達は傷を癒すために生まれてきたんですから」
〇〇が弓を降ろしたのを見て、フープは一気に距離をとった。
「キャハハハ!馬鹿な奴!敵に情けをかけて何になるってのよ!私を殺しておけば少しは戦況が楽になったかもしれないのにね!そんなんだから、アンタの一族は真っ先に滅びんのよ!」
「てめぇ!さっきから聞いてりゃあ、この野郎!俺が相手になってやるから、降りてこいやコラァ!」
「オカマ相手なら、タイガーさんが適任っす!」
「どういう意味だよキリー!」
「え、あの子男なの?」
「まだ、気づいてなかったのかお前」
「だぁれがお前らみたいな馬鹿相手にするかっての!じゃ〜ね〜天使さん!せいぜい、自分の命を使い切るまで頑張ってねぇ〜!」
フープは壁を破壊して、また逃げてしまった。力なく俯く彼女に近づく。
「…大丈夫かい?天使の嬢ちゃん」
「…はい。助けていただきありがとうございました。引き受けると言って、逃してしまい申し訳ありません…」
彼女は深々と頭を下げた。
「気にする必要ないっすよ!追い払っただけでも十分っす!」
「そうだよ。これで作戦も邪魔されずに済むし、今頃オッサン達も自分の国に戻ってるでしょ」
「…甘いな、言ってただろう。アイツを逃した事で、削れたはずの戦力が削れなかったんだぞ」
〇〇はさらに俯いた。
「いーんだよ、あんなオカマの一人くらい!戦うのは俺達の役目だぜ?ただ見てただけの俺らが、天使の嬢ちゃんを責めるのはおかしいと思うがね」
「…ふん」
クラーケンがそっぽを向いた。
「悪いね〜アイツ口が悪くて性格も悪いから友達いないんだけど仲良くしてやってくれな!」
「竜人殺す」
クラーケンの殺気がリュウに向かいそうになった所に、人王が戻ってきた。
「天上界の天使よ。他の国王から準備が整ったと連絡が来た。これで良いのか?」
「承知しました、ありがとうございます」
〇〇は目を閉じ胸の前で手を組む。
「…はい。全ての結界の強化を確認しました。これなら問題ないかと」
「良かった〜!」
「安心するのはまだ早いぞ、これから冥界の魔物達がわんさか来るってんだろ。俺達も準備するぜ」
「うっス!」
するとさっきまで明るかった空が曇り始め、異常な空気を醸し出す。
「…来ました」
「おい、冗談じゃねぇぞ…どんだけ来るんだよ…」
空を埋め尽くさんとばかりの魔獣の群れが、こちらへ向かってきている。
「他の国でも攻撃が始まっているようです」
魔獣達はこちらへ近づこうとするが、〇〇の結界によってそれ以上は進めない。結界を破壊しようと攻撃を試みている。
「うわぁ、すっげぇ!あの結界があれば怖いもんなしっスよ!流石天使…って、大丈夫っスか!?」
〇〇の顔色がかなり悪くなっている事に気づいたキリーが慌てて近寄った。
「ご心配なく…皆様はやるべき事を…」
「そんな事言ってる場合じゃ…って冷たっ!?めちゃくちゃ身体冷えてるじゃないスか!」
「ここに羽毛と虎の毛皮ならあるが?」
「真面目にお願いします。天使様の命かかってんスから…」
「オラぁ!てめぇら気合い入れろ!天使の嬢ちゃんも命かけて戦ってんだ、俺達も行くぞ!」
「結界に攻撃されなきゃいい話なんだろ?グズグスしてねぇで行くぜ!」
「ガウっ!」
「…」
バードを先頭にリュウ、タイガー、クラーケンが外へと飛び出して行った。
「ま、待って下さいよぉ!天使さん、俺達行ってきますけど、何かあったらすぐ呼んでくださいっス!」
「はいコレ。気休めにしかならないだろうけど」
サクラがラベンダーを取り出し、〇〇へと渡す。
「ラベンダーの香りは心を落ち着かせる効果があるからあげる」
「…ありがとうございます」
そして、キリーとサクラも他の英雄達の後を追って外へ飛び出して行った。
「天上界の天使よ。あんな者達ですが、各国の英雄です。どうか信じてやって下さい、我ら地上の者達を」
人王は立ち上がる事さえ出来なくなった〇〇を、安全な場所へと移す。
「…はい。私は彼らを、この地上の人々の力を信じます」
そう言って、胸の前で組んだ手にさらに力を込めた。
いつから気を失っていたのかはわからないが、意識を取り戻した時には戦いは終わり平和な日々が戻っていた。
「…ごめん〇〇。乱世達が…」
「ヒーロー様が謝る事はありません。秘石のおかげで、赤子からではありますが皆生きております」
随分と小さくなってしまったが、息をしている三人の姿を見てヒーローに優しく笑いかける〇〇。
「これから〇〇はどうするんだ?」
「仙人様の所で、乱世様達のお世話を手伝おうと思っております」
「そうか!じゃあ、また会えるんだな!」
「はい、もちろんでございますとも」
「ジージが〇〇にお礼をしたいと言ってたぞー」
「そんな、私は当たり前の事をしたまでですのに」
「それでも〇〇はすごいんぞ。それに、僕との約束を守ってくれたお礼もしなきゃならないからな」
「…そうでしたね。人王様のご予定がいい日にでもお伺いいたします」
「約束だぞー」
「約束です」
二人はまた指切りを交わした。
こうして世界を救う手伝いをした天使は、ガマ仙人の所で乱世達の面倒を見る事となったのであった。
「…兄者、何か感じるね」
「忍、にいちゃん見えねーもんはわかんねぇな」
「ふふふ、わかってるくせに」
乱世も同じように空を見上げ、それにつられその場にいた全員も雲ひとつない空を見上げた。すると、ふわりとヒーローの元へ白い羽根が舞い落ちる。ヒーローはそれを拾い上げた。
「わぁ…ものすごく綺麗だぞ!」
「そりゃそうさ、天上界で一番美しいと言われる天使サマの羽だからな」
「天使?」
少しして空から真っ白な服に身を包み、バードとはまた違った柔らかそうな羽根を広げた少女が舞い降りてきた。
「…乱世様!よくご無事で!」
羽根の生えた少女は、乱世の前に跪いた。
「げっ!やめろって〇〇!そんな事しなくていいっての!ほら、立った立った!膝が汚れるでしょうが!まったくよぉ」
乱世が慌てて〇〇と呼ばれた少女を立ち上がらせ、膝についた土を払う。
「で、ですが乱世様は天帝様の…はっ!?そうです!天帝様は!?」
「これだよ」
リキッドが片手でヒーローを掴み上げ、〇〇の前に差し出す。〇〇は驚いた顔をしてしばらく見ていたが、次第に涙を溜め慈しむようにヒーローを見た。
「あぁ、天帝様!見知らぬ地でこのように立派になられて…きっと良い方々に巡り会ったのですね」
「あれがいい方々か?」
リキッドが指をさした方向には、虎や鳥、龍、カマキリといった動物達の姿が並んでいた。
「…こちらは天帝様の飼われているペットでしょうか?」
「ペットじゃないぞー友達だ!」
「地上の英雄様達と、あっちが各国の国王様達だ」
乱世に言われ、改めて周囲を見回す。
「地上の…し、失礼しました!自分、地上の事はあまり詳しくなくて…申し遅れました。天上界出身の〇〇でございます。この度は天帝様がお世話になりました。皆様にはなんと言ってお礼を…」
「ねぇ、君。彼氏とかいる?」
いつの間に近づいたのか、バードが〇〇の肩に手をかけている。
「俺、恥ずかしいっす」
「あいつ魔人にも言い寄ってたな。そんなに追い詰められてんのか」
「〇〇。せっかく会えたのに悪いが、俺達は冥界へ行く。だから…」
「はい、承知しております。私もご一緒させてもらうために、ここへ来ました」
「は!?馬鹿かお前!冥界だぞ、冥界!」
「気持ちは嬉しいが、お前は戦闘向きじゃない。確かに天使の加護があれば心強いが…」
「乱世様の言われた通り、力をつけてここへ来ました。どうか、今度こそ一緒に行かせてください」
引き下がらない〇〇に、がしがしと頭を掻く乱世。
「ん〜!俺、弱いんだよなぁ〜!その曇りのない目で見られると、全てを見透かされそうでさぁ!」
「乱世様。お手洗いに行かれた後は、きちんと手を洗ってください」
「俺の隠してる事、全部バレちゃう!」
「ちゃんと手ェ洗えよ、兄貴…」
「乱世ー、〇〇って強いのか?」
「ん?あー俺達とは違う意味で強いぞ。アイツは天上界で最も治癒能力の高い超人なんだ。防御壁張ったり怪我を治したり、そこらへんを一瞬でやっちまう」
「へぇ〜!そんなにすごいのか!」
「だから、一緒に来てくれるのはありがたいっちゃありがたいんだが…どうもこいつらの家系は無茶するクセがあるからなぁ〜」
「?」
「心配なさらずとも、自分の身は自分で守ります!ですので、私も…」
「だがよぉ、〇〇。お前、相手殺せねぇだろ?」
「!…そ、そんな事は…」
「君は優しい子だ。できる事なら戦ではなく
、傷ついた誰かを助けてあげてほしい」
「〇〇、お前の気持ちはよぉ〜くわかった。だがな、やっぱり連れて行けねぇ」
「…私はまた、見ている事しかできないのですか?…いえ、皆様がダメだと言っても私は!」
突然大きな音と爆風により、砂埃で何も見えなくなる。視界が晴れると、〇〇のすぐ近くにリキッドの斧が刺さっていた。
「お前、今死んだぞ」
「おい、リキッド!」
「敵は手加減なんてしてくれねぇんだよ!これくらいの攻撃を避けられないんなら、お前は確実に死ぬ」
〇〇は顔を青くして震えている。
「おいこら、ヤンキー!女の子に酷いことすんな!」
「うるせー!アホ鳥!こっちは真面目な話してんだよ!」
まだ震えている〇〇の肩に、乱世が優しく手を添える。
「〇〇、お前ここに来るまでにだいぶん力を使っただろ」
「…そ、そんな乱世様が心配するほどでは」
「ん〜そうかぁ?地上に結界張って、魔人達に襲われた奴らの怪我も治してきたって所かねぇ」
「は!?お前、力使いすぎだろ!ぶっ倒れるぞ!?」
「だ、大丈夫です」
「自分の命を削ってまでやるんじゃない。お前ら一族が優しいってのは、前の戦争で痛いほど知ってる。だがな、本来お前達は守られる側だ。俺達より先に死ぬんじゃない」
「…疲労は回復しています。張った結界はわずかですが、魔人達の力を抑えることができます」
「あぁ、ありがとな。それだけでも、充分助かってんだ」
「…」
〇〇は悔しそうにうつむいた。
「なぁ、〇〇ー」
「!な、なんでしょう天帝様!」
ヒーローに声をかけられ、乱世にしたように跪く。
「僕から〇〇にお願いがあるんだけど、聞いてくれるかー?」
「は、はい!天帝様の願いなら何でも」
「じゃあまず、僕の事は天帝様じゃなくてヒーローって呼ぶ事ー!」
ヒーローの発言に顔を青くする〇〇。
「で、ですが…!天帝様をそんな軽々しくお呼びするなんて!」
「あと膝をつくのもダメー!」
「ええっ!?ど、どうしろと…」
「確かに僕は天帝かもしれないけど、今は自由人ヒーローだから〇〇とは友達として仲良くしたい」
「…わかりました。えぇと…ひ、ヒーロー様」
「友達に様はおかしくないか?」
「申し訳ありません。こういう性格でございますので」
「仕方ないか。よし、これは友達としてのお願いだ」
「はい、なんでしょう」
「ここに残って、みんなと一緒に地上を守ってほしい」
「…」
「この戦いが終わったら、〇〇に地上を案内してやるぞ!」
「…ヒーロー様」
「僕のお嫁さんも紹介するぞ!」
「て、天帝様がご結婚されていらっしゃる!地上では、幼子でも結婚ができるのですね!」
「あー…こっちにめちゃくちゃ落ち込んでる鳥がいるんすけど…」
「ほっとけほっとけ」
「わかりました。天使の名に恥じぬよう、ヒーロー様の大切な方々のいる地上を守らせていただきます」
「頼んだぞ。あ、でも無茶はしちゃダメだぞー」
「はい、承知しました」
二人は指切りをして、笑い合った。
「みんな地上の事、任せたぞー!〇〇と仲良くしないとダメだからな、ジージもだぞ!」
「わかってまちゅよ〜ヒーローたーん!」
「…えっと」
「気にしちゃダメだ、あれでもすごい人なんだぞ」
そして、ヒーロー達は決着をつけに冥界へ。残された英雄達は地上にて、冥界からの敵を迎え討つ事になった。
「…王の皆様。今後の動きについてお話がございます。聞いていただけますでしょうか」
〇〇は王達の前に膝をついた。
「頭を上げよ、天上界の天使とやら。この緊急事態にそこまで畏まらんでも良い」
「普通にしてればいーんだよ。このオッサン達、ただ身体がデカいだけなんだから」
「サクラ!」
「お前はもっと敬え」
(大丈夫なのでしょうか、この上下関係…)
「…さ、先ほど話したように誠に勝手ながら地上に簡易的な結界を張らせていただきました」
「その件に関しては礼を言おう」
「いえ、あれではまだ不十分なのです。冥界からの攻撃は防げません。これからお渡ししますこちらを、国へと持ち帰って下さい。これがあれば結界を強化する事ができ、敵は結界の中には入ってこられません」
「すっげー!最強じゃん!」
「騒ぐな、ガキンチョ」
「ですが欠点がありまして…外部から攻撃が続きますと力が弱まってしまいます。なので、戦える方にはできるだけ力を貸していただきたいと…」
「それなら俺達の出番だな!任せときな、天使のお嬢さん…俺が華麗に敵を…」
「うっさい鳥!」
サクラがバードの額に一撃を食らわせ、大人しくなる。
「…」
「…落ち着きがなくて申し訳ない。作戦はわかった。喜んで協力させてもらおう」
「ありがとうございます」
「だが、天上界の天使よ。その加護の代償は、お主の命を脅かすのではないか?」
「ご心配なく。私達は守るために存在しているのです。では、こちらを…」
〇〇が王達に結界を強化するための道具を渡そうとした時だった。突然、壁に大きな穴が空き砂煙が上がった。
「あ〜っもう!信じらんない、あの超人!レディーの顔を蹴り飛ばすなんて!」
「あ、あいつさっきの!?」
先ほど逃げ出したはずの、魔人のフープが戻ってきた。
「もぉ〜!めちゃくちゃイライラするから、ここにいる全員み〜んな殺しちゃお!さっきの超人達もいなくなったみたいだし、ラッキー!」
「強化する前に魔人が…!皆様、早くこれを!あの者は私が引き付けます!」
フープの前に、〇〇が立ち塞がる。
「あら〜?クズ共の中に、新しいウジ虫が増えてるじゃない!…と思ったら、アンタ天使の生き残り?もしかして、そっこらへんにウザったい結界張ってんのアンタ?」
「だとしたら、何だと言うのです」
「じゃあ、アンタから早めに殺さないとね!」
ニヤリと笑ったフープは光の輪を投げつけ、〇〇はなんとかそれを避けた。
「前の戦争の時も天使の力は厄介だから、早めに始末しとけって言われてさぁ〜!天使のいる国、全部焼き尽くしたんだっけ!」
「…!」
「でも、まさか生き残りがいたなんてフープ驚き!戦争の時にも何人かいたけど、力使い過ぎちゃってみ〜んな死んでるとか笑っちゃうんですけど!」
フープの攻撃はさらに続き、〇〇は必死にそらから逃げ続けた。
「アンタも無様に死んじゃえ!!」
壁際に追い詰められた〇〇に光の輪が迫る。輪が爆散し、壁が崩れ落ちて砂埃で〇〇の姿が見えなくなった。
「さぁて、どんな肉片になってるのかしら?」
フープが様子を見ようと近く。
「紅龍見参!!」
砂煙の中から紅龍が現れ、フープを弾き飛ばした。
「いやぁ〜危機一髪だったねぇ!天使のお嬢ちゃん」
リュウが〇〇を抱きかかえ、砂埃の中立ち上がる。
「うわーっ!かっこいいっす!リュウさん!」
「あっ、リュウ!てめぇいつの間に!?いいとこ取りしやがって!」
「うるさい鳥」
「あ…ありがとうございます」
「いいって事よ!」
天使が舞い降りて来るという言葉通りの光景に、思わず『綺麗だ』と口に出てしまいそうになった。
〇〇と呼ばれた彼女の視線はヒーローとその兄弟達にしか向いておらず、少しだけ悔しかった。この気持ちは何なのかそれを理解する前に、まずは目の前の敵を倒すのが先だと前へ出た。
(かーっ!近くで見ると本当に綺麗だな!)
腕の中にすっぽりとおさまっている少女を安心させるように、にっと笑いかけた。
「チッ!ウジ虫が何匹集まっても虫は虫なんだよ!死ねっ!」
フープの連続攻撃をなんとか回避する。
(…っ、こんなにやられちゃ近づけねぇな)
「きゃははは!!反撃してこねぇのかよ!」
「ちぃっ!!」
「とっとと死ね!…えっ?」
攻撃しようとしていたフープの左手が、肩から切断され地面に落ちる。
「…へぇ、天使族ってそんな事もできるんだ」
弓を構えた〇〇が、次の弓を放つ準備をする。
「…次は、外しません」
「やってみろよ!このウジ虫がぁ!」
「よそ見してんじゃねぇぞオラァ!」
フープの意識が〇〇に向いている瞬間を狙い、リュウが攻撃をしかけ勢いよく壁に打ち付けられる。
「くっそ!…っ!?」
フープは起きあがろうとして、ぴたりと動きを止めた。
「貴方の負けです」
目の前に弓を構えた〇〇が立っており、弓の先はフープの心臓へと向けられていた。
「…クソが!」
「…」
弓を構える〇〇だが、一向に手を離すことはない。しばらく見つめ合った状態が続く。
「ど、どうしたんすか?逃げられちゃうっすよ!」
「何?今更怖気付いたってわけ?いいの〜?私はアンタの仲間を殺した張本人なのよ〜仇打ちになるじゃない」
〇〇は弓を構えたまま動かない。
「…たとえ、私がみんなの仇を打っても喜びはしないでしょう。私達は傷を癒すために生まれてきたんですから」
〇〇が弓を降ろしたのを見て、フープは一気に距離をとった。
「キャハハハ!馬鹿な奴!敵に情けをかけて何になるってのよ!私を殺しておけば少しは戦況が楽になったかもしれないのにね!そんなんだから、アンタの一族は真っ先に滅びんのよ!」
「てめぇ!さっきから聞いてりゃあ、この野郎!俺が相手になってやるから、降りてこいやコラァ!」
「オカマ相手なら、タイガーさんが適任っす!」
「どういう意味だよキリー!」
「え、あの子男なの?」
「まだ、気づいてなかったのかお前」
「だぁれがお前らみたいな馬鹿相手にするかっての!じゃ〜ね〜天使さん!せいぜい、自分の命を使い切るまで頑張ってねぇ〜!」
フープは壁を破壊して、また逃げてしまった。力なく俯く彼女に近づく。
「…大丈夫かい?天使の嬢ちゃん」
「…はい。助けていただきありがとうございました。引き受けると言って、逃してしまい申し訳ありません…」
彼女は深々と頭を下げた。
「気にする必要ないっすよ!追い払っただけでも十分っす!」
「そうだよ。これで作戦も邪魔されずに済むし、今頃オッサン達も自分の国に戻ってるでしょ」
「…甘いな、言ってただろう。アイツを逃した事で、削れたはずの戦力が削れなかったんだぞ」
〇〇はさらに俯いた。
「いーんだよ、あんなオカマの一人くらい!戦うのは俺達の役目だぜ?ただ見てただけの俺らが、天使の嬢ちゃんを責めるのはおかしいと思うがね」
「…ふん」
クラーケンがそっぽを向いた。
「悪いね〜アイツ口が悪くて性格も悪いから友達いないんだけど仲良くしてやってくれな!」
「竜人殺す」
クラーケンの殺気がリュウに向かいそうになった所に、人王が戻ってきた。
「天上界の天使よ。他の国王から準備が整ったと連絡が来た。これで良いのか?」
「承知しました、ありがとうございます」
〇〇は目を閉じ胸の前で手を組む。
「…はい。全ての結界の強化を確認しました。これなら問題ないかと」
「良かった〜!」
「安心するのはまだ早いぞ、これから冥界の魔物達がわんさか来るってんだろ。俺達も準備するぜ」
「うっス!」
するとさっきまで明るかった空が曇り始め、異常な空気を醸し出す。
「…来ました」
「おい、冗談じゃねぇぞ…どんだけ来るんだよ…」
空を埋め尽くさんとばかりの魔獣の群れが、こちらへ向かってきている。
「他の国でも攻撃が始まっているようです」
魔獣達はこちらへ近づこうとするが、〇〇の結界によってそれ以上は進めない。結界を破壊しようと攻撃を試みている。
「うわぁ、すっげぇ!あの結界があれば怖いもんなしっスよ!流石天使…って、大丈夫っスか!?」
〇〇の顔色がかなり悪くなっている事に気づいたキリーが慌てて近寄った。
「ご心配なく…皆様はやるべき事を…」
「そんな事言ってる場合じゃ…って冷たっ!?めちゃくちゃ身体冷えてるじゃないスか!」
「ここに羽毛と虎の毛皮ならあるが?」
「真面目にお願いします。天使様の命かかってんスから…」
「オラぁ!てめぇら気合い入れろ!天使の嬢ちゃんも命かけて戦ってんだ、俺達も行くぞ!」
「結界に攻撃されなきゃいい話なんだろ?グズグスしてねぇで行くぜ!」
「ガウっ!」
「…」
バードを先頭にリュウ、タイガー、クラーケンが外へと飛び出して行った。
「ま、待って下さいよぉ!天使さん、俺達行ってきますけど、何かあったらすぐ呼んでくださいっス!」
「はいコレ。気休めにしかならないだろうけど」
サクラがラベンダーを取り出し、〇〇へと渡す。
「ラベンダーの香りは心を落ち着かせる効果があるからあげる」
「…ありがとうございます」
そして、キリーとサクラも他の英雄達の後を追って外へ飛び出して行った。
「天上界の天使よ。あんな者達ですが、各国の英雄です。どうか信じてやって下さい、我ら地上の者達を」
人王は立ち上がる事さえ出来なくなった〇〇を、安全な場所へと移す。
「…はい。私は彼らを、この地上の人々の力を信じます」
そう言って、胸の前で組んだ手にさらに力を込めた。
いつから気を失っていたのかはわからないが、意識を取り戻した時には戦いは終わり平和な日々が戻っていた。
「…ごめん〇〇。乱世達が…」
「ヒーロー様が謝る事はありません。秘石のおかげで、赤子からではありますが皆生きております」
随分と小さくなってしまったが、息をしている三人の姿を見てヒーローに優しく笑いかける〇〇。
「これから〇〇はどうするんだ?」
「仙人様の所で、乱世様達のお世話を手伝おうと思っております」
「そうか!じゃあ、また会えるんだな!」
「はい、もちろんでございますとも」
「ジージが〇〇にお礼をしたいと言ってたぞー」
「そんな、私は当たり前の事をしたまでですのに」
「それでも〇〇はすごいんぞ。それに、僕との約束を守ってくれたお礼もしなきゃならないからな」
「…そうでしたね。人王様のご予定がいい日にでもお伺いいたします」
「約束だぞー」
「約束です」
二人はまた指切りを交わした。
こうして世界を救う手伝いをした天使は、ガマ仙人の所で乱世達の面倒を見る事となったのであった。
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