Kleines Kleinod
超人になるための訓練をしていると、屋敷の中から父の怒号が聞こえてきた。
「このバカ娘が!いい加減にしろ!」
その声は上の方から聞こえ、思わず顔を向ければ二階から幼馴染が顔を覗かせる。ばちりと目があった瞬間、そこから彼女が飛び降りた。
「ジュニア!受け止めて!」
「はっ!?ふざっけんな!!」
持っていた鉄アレイを放り投げ、慌てて彼女を受け止めるため走り出す。日頃鍛えているおかげで、突然の事でも彼女を無事抱き止めることができた。
「さすがジュニア!」
「こ…の、馬鹿野郎!!死にてぇのか!!」
耳の穴に指を入れニコニコ笑っている所から、反省はしていないと見えた。
「俺がいなかったらどうすんだ!」
「ジュニアなら大丈夫だよ。それにこの時間なら絶対いると思ったんだよね!だってパパの言った事は絶対でしょ?」
「ぐっ…」
自分の事を信頼してもらえているという事に何も言い返せなくなる。
「どこに隠れた!クライノート!」
「ブロッケンパパが探してる。逃げなきゃ」
「お前また親父の書斎に忍び込んだのかよ…やめとけって」
「だってあの部屋には秘密の物がたくさん隠されてるんだから!ジュニアも気にならない?」
「俺は親父に怒られる方が嫌だ」
「つまんないの」
彼女は俺の腕からひょいと降りた。
「ねージュニアも一緒に行こうよ!私、絶対にブロッケンパパに見つからない時間を調べたの!」
「何やってんだよお前…」
「お願いジュニア!一緒に行こー!」
グイグイと腕を引っ張られ面倒そうにするも、内心は頼りにされ満更でもない。
「仕方ねぇな、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫!任せて!」
少し不安はあるものの、興味がない訳ではないので彼女に付き添う事に決めた。
そして予定の決行日。俺とクライノートは親父の書斎へ忍び込んでいた。
「ブロッケンパパ、今日は外でお友達とご飯だからいないよ」
「本当かよ」
あの気難しい父と仲良くできる相手なんて、ほとんどいないような気がした。
「この一ヶ月、ずっと調べたんだから。ブロッケンママにも聞いたし間違いない!」
「そこまでして見たいのもんなのか?」
彼女が一ヶ月も親父の行動を調べるほど、この部屋にはすごい物があるらしい。見た所、特に変わった物などないが。
「甘いなぁ、ジュニアは。私が見たいのはこの書斎のどこかにある秘密の部屋だよ」
「秘密の部屋!?」
急に宝探しのようになり、少しだけテンションが上がった。
「どこかに秘密の部屋への入り口が隠されてるんだよ!ジュニアも探して!」
「お、おう!」
そうして二人で書斎に怪しい場所はないか隅々まで探す。そして本棚を調べていると、見慣れない文字で書かれた本を見つけた。
「ん?何だこれ、変わった本だな…」
思わずそれを手に取ると、鈍い音がして本ごと本棚の一面が扉のようにして開いた。
「…クライノート!あった、あったぞ!」
「すごいジュニア!」
駆けつけてきた彼女が俺に抱きつき、本棚の後ろから出てきた扉を見つめた。
「すげぇ…本当に隠し部屋だ」
「入ろう入ろう!」
「おう!」
わくわくとしながら、ドアノブへと手を伸ばす。
「そこで何をしている、クソガキ共」
背後から聞こえた声に二人して振り向けば、すぐ後ろに父が立っていた。
「…ブロッケンパパ、お友達とご飯じゃ…」
「はっ、最近こそこそと付きまとわれていると思ってな。嘘の予定を入れていて正解だった」
そう言うと、驚く俺達を見て笑っていた親父の顔からすんと表情が消えた。右手をゆっくりと上げ始めたのを見て、直感で殴られると思った俺はすぐさま彼女を庇うように後ろに隠した。俺は鍛えてるし殴られ慣れてるからいい、でもこいつは普通の女の子だ。目を瞑り歯を食いしばって殴られるのを待っていると、木の軋む音がした。
「…入りたければ入れ。いつまでも周りをウロウロされても面倒だ」
振り上げられた手は俺達の背後にある木の扉を押しただけだった。
「うわぁい!やった!ブロッケンパパありがとう!」
「一度だけだぞ。見たらもう俺の周りをうろつくな。ジュニアの訓練の邪魔にもなる」
彼女は返事もそこそこに走って中へと入っていった。俺も恐る恐る中へと入る。薄暗くて埃っぽくて、時折機械油のような匂いもした。
「おいクライノート、どこ行ったんだ?」
中は思っていた以上に広く、物が高く敷き詰められているせいで周囲の状況がよくわからない。気をつけながら進んでいると、通路の真ん中に座り込んで何かを見ている彼女の姿が見えた。
「やっと見つけた。なんか面白い物でもあったか?」
「ジュニア見て」
彼女が顔を上げて、持っていたアルバムの写真の一つを指差した。
「これ。私のパパ」
彼女に似た人懐っこい笑顔で癖っ毛の男性が、むすりとした俺の親父と並んでいる写真。彼女の父親は、俺達が一歳にもならないうちに亡くなっている。
「…そんなものを見てどうする」
またいつの間にか父が背後に立っていた。全く気配に気づけず、人間離れした能力に超人の凄さを思い知らされる。
「パパの姿をもっと見たかったの。ブロッケンパパと仲良しだったから、写真くらいあるかなと思って」
「…くだらん」
「親父!」
それは言ってはいけない事だと声を荒げるが、ひと睨みされ口をつぐんだ。
「…そんなものなくても俺の目の前に似たようなのがいるんだ。嫌でも思い出す…お前にそっくりで怖いもの知らずの大馬鹿だ」
そう言って父は背を向けて離れていく。俺は力が抜けて、へたりと座り込んだ。
「ジュニア聞いた?私にそっくりだって!」
「ちゃんと聞いてたか?喜んでいいのかよ、ほぼ悪口だぜ?」
「怖いもの知らずの大馬鹿なんて、ブロッケンパパからしたら褒め言葉だよ?」
「わかんねぇよ…あーすっげぇ疲れた…」
彼女の背中を背もたれ代わりにして、ぐったりと寄りかかった。
「ありがとうジュニア」
「ん、まぁ俺も秘密の部屋って言われて気になってたし…たまにはいいんじゃねぇか?」
「えーと、うん。それもなんだけど…」
部屋の探索に付き合ってくれたお礼ではないのかと、俺は首を傾げた。
「ブロッケンパパに叩かれそうになった時、庇ってくれてありがとうって言いたかったの」
「…!?あ、うん…そ、そっちか!ま、まぁ俺は殴られ慣れてるしな。それに鍛えてるし」
「ブロッケンパパのパンチは弱々だから平気だってー」
「お前、俺がとばっちり受けるような事言うなよ!」
余計な事を言う口を手で塞いでやると、楽しそうに笑っていた。亡き父の事を思い出して落ち込んでいると思ったが、いつも通りの彼女で安心した。
という訳で、彼女の秘密の部屋探索は終了しいつもの訓練の日々が戻ってくると思っていた数日後。
「この小娘がーっ!!」
訓練中、父親の怒号に顔を上げれば自分の上に影がかかる。
「ジュニア!!」
「ほんっとにお前は!!」
降ってきた彼女を抱きとめながら、ふと思う。親父もきっとこんな風に彼女の父親に巻き込まれたのだろう。同じような日々に刺激を与える、嵐のようなこの親子に。
「このバカ娘が!いい加減にしろ!」
その声は上の方から聞こえ、思わず顔を向ければ二階から幼馴染が顔を覗かせる。ばちりと目があった瞬間、そこから彼女が飛び降りた。
「ジュニア!受け止めて!」
「はっ!?ふざっけんな!!」
持っていた鉄アレイを放り投げ、慌てて彼女を受け止めるため走り出す。日頃鍛えているおかげで、突然の事でも彼女を無事抱き止めることができた。
「さすがジュニア!」
「こ…の、馬鹿野郎!!死にてぇのか!!」
耳の穴に指を入れニコニコ笑っている所から、反省はしていないと見えた。
「俺がいなかったらどうすんだ!」
「ジュニアなら大丈夫だよ。それにこの時間なら絶対いると思ったんだよね!だってパパの言った事は絶対でしょ?」
「ぐっ…」
自分の事を信頼してもらえているという事に何も言い返せなくなる。
「どこに隠れた!クライノート!」
「ブロッケンパパが探してる。逃げなきゃ」
「お前また親父の書斎に忍び込んだのかよ…やめとけって」
「だってあの部屋には秘密の物がたくさん隠されてるんだから!ジュニアも気にならない?」
「俺は親父に怒られる方が嫌だ」
「つまんないの」
彼女は俺の腕からひょいと降りた。
「ねージュニアも一緒に行こうよ!私、絶対にブロッケンパパに見つからない時間を調べたの!」
「何やってんだよお前…」
「お願いジュニア!一緒に行こー!」
グイグイと腕を引っ張られ面倒そうにするも、内心は頼りにされ満更でもない。
「仕方ねぇな、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫!任せて!」
少し不安はあるものの、興味がない訳ではないので彼女に付き添う事に決めた。
そして予定の決行日。俺とクライノートは親父の書斎へ忍び込んでいた。
「ブロッケンパパ、今日は外でお友達とご飯だからいないよ」
「本当かよ」
あの気難しい父と仲良くできる相手なんて、ほとんどいないような気がした。
「この一ヶ月、ずっと調べたんだから。ブロッケンママにも聞いたし間違いない!」
「そこまでして見たいのもんなのか?」
彼女が一ヶ月も親父の行動を調べるほど、この部屋にはすごい物があるらしい。見た所、特に変わった物などないが。
「甘いなぁ、ジュニアは。私が見たいのはこの書斎のどこかにある秘密の部屋だよ」
「秘密の部屋!?」
急に宝探しのようになり、少しだけテンションが上がった。
「どこかに秘密の部屋への入り口が隠されてるんだよ!ジュニアも探して!」
「お、おう!」
そうして二人で書斎に怪しい場所はないか隅々まで探す。そして本棚を調べていると、見慣れない文字で書かれた本を見つけた。
「ん?何だこれ、変わった本だな…」
思わずそれを手に取ると、鈍い音がして本ごと本棚の一面が扉のようにして開いた。
「…クライノート!あった、あったぞ!」
「すごいジュニア!」
駆けつけてきた彼女が俺に抱きつき、本棚の後ろから出てきた扉を見つめた。
「すげぇ…本当に隠し部屋だ」
「入ろう入ろう!」
「おう!」
わくわくとしながら、ドアノブへと手を伸ばす。
「そこで何をしている、クソガキ共」
背後から聞こえた声に二人して振り向けば、すぐ後ろに父が立っていた。
「…ブロッケンパパ、お友達とご飯じゃ…」
「はっ、最近こそこそと付きまとわれていると思ってな。嘘の予定を入れていて正解だった」
そう言うと、驚く俺達を見て笑っていた親父の顔からすんと表情が消えた。右手をゆっくりと上げ始めたのを見て、直感で殴られると思った俺はすぐさま彼女を庇うように後ろに隠した。俺は鍛えてるし殴られ慣れてるからいい、でもこいつは普通の女の子だ。目を瞑り歯を食いしばって殴られるのを待っていると、木の軋む音がした。
「…入りたければ入れ。いつまでも周りをウロウロされても面倒だ」
振り上げられた手は俺達の背後にある木の扉を押しただけだった。
「うわぁい!やった!ブロッケンパパありがとう!」
「一度だけだぞ。見たらもう俺の周りをうろつくな。ジュニアの訓練の邪魔にもなる」
彼女は返事もそこそこに走って中へと入っていった。俺も恐る恐る中へと入る。薄暗くて埃っぽくて、時折機械油のような匂いもした。
「おいクライノート、どこ行ったんだ?」
中は思っていた以上に広く、物が高く敷き詰められているせいで周囲の状況がよくわからない。気をつけながら進んでいると、通路の真ん中に座り込んで何かを見ている彼女の姿が見えた。
「やっと見つけた。なんか面白い物でもあったか?」
「ジュニア見て」
彼女が顔を上げて、持っていたアルバムの写真の一つを指差した。
「これ。私のパパ」
彼女に似た人懐っこい笑顔で癖っ毛の男性が、むすりとした俺の親父と並んでいる写真。彼女の父親は、俺達が一歳にもならないうちに亡くなっている。
「…そんなものを見てどうする」
またいつの間にか父が背後に立っていた。全く気配に気づけず、人間離れした能力に超人の凄さを思い知らされる。
「パパの姿をもっと見たかったの。ブロッケンパパと仲良しだったから、写真くらいあるかなと思って」
「…くだらん」
「親父!」
それは言ってはいけない事だと声を荒げるが、ひと睨みされ口をつぐんだ。
「…そんなものなくても俺の目の前に似たようなのがいるんだ。嫌でも思い出す…お前にそっくりで怖いもの知らずの大馬鹿だ」
そう言って父は背を向けて離れていく。俺は力が抜けて、へたりと座り込んだ。
「ジュニア聞いた?私にそっくりだって!」
「ちゃんと聞いてたか?喜んでいいのかよ、ほぼ悪口だぜ?」
「怖いもの知らずの大馬鹿なんて、ブロッケンパパからしたら褒め言葉だよ?」
「わかんねぇよ…あーすっげぇ疲れた…」
彼女の背中を背もたれ代わりにして、ぐったりと寄りかかった。
「ありがとうジュニア」
「ん、まぁ俺も秘密の部屋って言われて気になってたし…たまにはいいんじゃねぇか?」
「えーと、うん。それもなんだけど…」
部屋の探索に付き合ってくれたお礼ではないのかと、俺は首を傾げた。
「ブロッケンパパに叩かれそうになった時、庇ってくれてありがとうって言いたかったの」
「…!?あ、うん…そ、そっちか!ま、まぁ俺は殴られ慣れてるしな。それに鍛えてるし」
「ブロッケンパパのパンチは弱々だから平気だってー」
「お前、俺がとばっちり受けるような事言うなよ!」
余計な事を言う口を手で塞いでやると、楽しそうに笑っていた。亡き父の事を思い出して落ち込んでいると思ったが、いつも通りの彼女で安心した。
という訳で、彼女の秘密の部屋探索は終了しいつもの訓練の日々が戻ってくると思っていた数日後。
「この小娘がーっ!!」
訓練中、父親の怒号に顔を上げれば自分の上に影がかかる。
「ジュニア!!」
「ほんっとにお前は!!」
降ってきた彼女を抱きとめながら、ふと思う。親父もきっとこんな風に彼女の父親に巻き込まれたのだろう。同じような日々に刺激を与える、嵐のようなこの親子に。
