Kleines Kleinod
今日もブロッケン邸へ遊びに行く。正面の門からは絶対に入らない。なぜなら、高確率でブロッケンパパに捕まるから。捕まると今日の課題をやれと開口一番に言われるので、見つかるまでが勝負なのだ。小さい頃から抜け道として使っていた穴は、まだぎりぎり使える。そこから入りこみ時計を見た。
「よーし、この時間はジュニアとスパーをしてるからブロッケンパパはいない…」
顎に手を当て、次の行動を考える。
「そうだ!パパの書斎で面白い本がないか探そう!」
ジュニア同様、その父も読書が好きなのか彼の部屋にも本がたくさんあった。触ろうとすると怒られてしまうので、彼がいない今がチャンスである。すぐさま駆け出し、ブロッケンマンの書斎へと向かった。
「へへへ、お邪魔しまーす!って、誰もいないけど…」
普段はしないノックをして、わくわくしながら部屋へと入る。
「よく来たクライノート。そこへ座りなさい」
「うわぁ!?ブロッケンパパ!?」
誰もいないと思っていたのに、部屋にはブロッケンマンが椅子に座って待ち構えていた。
「何を驚いている。いると思ったから、ノックをしたのだろう?普段はしないのにな」
鼻で笑われ、なんとなく自分の行動が読まれていたのだろうと感じた。さすがドイツの鬼、侮れない。
「クライノート、ソファーへ」
「えっと、私…」
「クライノート、座れ」
「はぁい」
これ以上は本気で怒られると思い、観念して目の前のソファーに座った。
「お前にいくつか質問をする。真面目に答えなさい」
「えぇ、怖い」
ぎろりと睨まれ口元を手で覆った。
「来年お前は学校に行く事になるが、どこに行くのか決めているのかね?」
「えっと、近くの学校に行く予定だよ」
「将来何かやりたい事は?」
「将来…?んーやりたい事はないけど、早く働きたいかな」
「それは何故だ?」
「だって、うちはママしかいないから。大変だと思って」
父が早くに亡くなり母が一人で育ててくれていたため、少しでも負担を減らしたいと思っていた。
「…それなら、いい学校を私が見繕っておいた。そこに通いなさい」
ブロッケンマンが立ち上がり、一枚の冊子を私の前に置いた。
「お前の通う学校の詳細だ。よく見ておくように」
そう言われ、学校名を見て立ち上がる。
「ブロッケンパパ、これ超名門校だよ!」
「それがどうした」
「だって、こんな学校通うお金なんてうちにはないよ!」
「金銭面なら俺が用意するから心配はいらん。学力もお前の実力なら申し分ない。何か問題あるか」
「でも…それじゃ悪いよ」
「俺はお前の父親に、面倒を見てやってくれと頼まれたのだよ。頼まれたからには責任を持って、最後まで面倒を見るつもりだ」
「…」
もう一度、渡された資料を見る。やはり金額が桁違い過ぎて、いくら父に頼まれたといってもここまでしてもらうわけにはいかない。
「ブロッケンパパ、やっぱり…」
「残念だが、もう入学の手続きは済ませている。お前は行くしかないのだよ、クライノート」
「…え!?」
「この前、論文を書かせただろう。あれは入学試験のためのものだ。そして、ついこの間やらせたテスト…あれもそうだ」
思い返せば、個室に入れられて知らない人に監視されながら問題を解いた気がする。おかしいなとは思っていたが、まさかあんなやり方で試験を受けるとは思わなかった。
「全て問題なく合格だ。まぁ、当たり前だがな。お前にはそれ以上の能力がある。学校では、ここだけでは学べないものをしっかりと勉強してきなさい」
「うぇぇぇぇ!?本当に!?」
「本当だとも。制服も用意してある、これで逃げられんな?」
にやりと笑ってこちらを見る顔は、鬼というより悪魔だ。結局、いつもの事だが私に拒否権はないらしい。
「…私こんなお金返せないよぉ」
「返さんでいい。お前の学力を伸ばすためなんだ、しっかりと励め。そして、家の名声だけで上がってきた甘ったれ共を蹴落としてこい」
「そっちが本音だぁ〜」
血の滲むような努力をしてきた人からしたら許せないんだろう、ブロッケンマンらしい言葉に納得した。
「ブロッケンパパがそう言うなら、私ボッコボコにしてくるよ」
ぶんぶんと片手を振り回す。
「手は出すなよ、あくまでもお前の学力を使ってでだ」
「任せろください!」
そう言って敬礼すれば、満足したように彼が頷いた。
「それと、これは別件だが…我々超人の事やプロレスの事を勉強してみるのはどうかね?」
「ジュニアじゃなくて、私が?」
超人になるために頑張っているジュニアな
らともかく、ただの人間の私が知る必要があるのかわからず首を傾げた。
「これから先、お前のやりたい事が見つからないのならばジュニアのセコンドにでもなればいいと思ってな」
「セコンド…って何?」
「セコンドというのは試合の際の付き添いはもちろん、試合の作戦を考えたり、傷の手当てなどをする者の事だ。お前、ジュニアの傷の手当てをしているだろう」
「なんだバレてたのか」
怪我の多いジュニアのために、独学で簡単な手当てを勉強した。時々訓練の合間を見ては、これ以上ひどくならないよう手を加えていたのだ。
「最初はジュニアが自分でやったのかと思っていたが、残念ながらそこまで器用じゃないからなアイツは」
ブロッケンマンが苦笑いを浮かべた。
「お前の頭なら作戦も考えられるし、何よりジュニアが落ち着いて話を聞くだろう。長い月日、共に過ごした分だけお前達には強い繋がりがある。それはとても強みになるはずだ」
「ん〜私にできるかなぁ…」
勉強ができてもそれが試合に役立つかはあまり自信がない。彼の足を引っ張るかもしれないと不安に思った。
「大会も色々ある。中にはタッグマッチというのがあってな。俺とジュニアでタッグを組み、お前がセコンドとして試合に出る事も夢ではない」
ブロッケンマンの言葉にその光景を思い浮かべる。リングに並んで立つブロッケンマンとジュニア、お揃いのコスチュームで並んだ姿はきっと偉観だろう。
「俺達家族で勝ち上がり、名を残したいとは思わんか?」
「…家族?」
ブロッケンマンの言葉に首を傾げる。
「何を今さら驚いている、クライノート。お前も我が家族の一員だとも」
「…」
「…本当の父ではないが、お前の事を娘のように思っているのだよ」
いつも怖い顔か無を貫いているブロッケンマンが少しだけ笑った。
「…ブロッケンパパ!私セコンドになる!パパとジュニアのために頑張るよ!」
「そうか、なら話は…」
「ジュニアーっ!ジュニア聞いてー!」
早速、幼馴染に伝えようと部屋を飛び出した。背後からブロッケンマンが何か叫んでいたが、また戻ってくるからいいかとそのまま外へと駆けていく。
「ジュニアーっ!!」
「なんだよ、クライノート!」
ジュニアの声が聞こえた方へと向かえば、彼は外で腕立てをしていた。そのまま駆け寄り、その背に飛び乗った。
「ぐえっ!?お前、引っ付くな!汗かいてんだって!」
そんな事はお構いなく、背中に寝そべるようにして引っ付いた。
「ねぇ聞いて聞いて!私、ブロッケンパパとジュニアのセコンドになる!」
「はぁ?お前がセコンドぉ〜?」
ジュニアは話をしながら、私を背中に乗せたまま腕立てを続行する。
「そう!パパとジュニアがタッグを組んで私がセコンド!」
「げぇ〜親父と組むのか、怖ぇな」
「親子でタッグマッチに出場なんて、ジュニアにしかできないよ!ねぇ、お揃いのコスチュームにしよ〜?」
「気が早いっての。俺はまだ超人になれるかわかんねぇし、お前も勉強してないだろ」
「絶対なれる!やっぱり私、パパのお古の軍服もらう!三人でお揃い!」
「まだ諦めてなかったのかよ…まぁでも、できたらいいな。それ」
「できるよ!きっと!」
次々と夢が膨らんでいく。超人になったジュニア、ブロッケン親子で挑むタッグマッチ、それを側で見守る自分。図々しくも、優勝した時の光景まで考えてにやにやと笑いが止まらない。
「クライノート!戻ってこい!話はまだ終わってないぞ!」
上からブロッケンマンの怒鳴り声が聞こえ、想像の世界から引き戻される。
「おい、親父怒ってんぞ。早く戻れって」
「はーい。うわ、汗でびちょびちょだ」
「だから言っただろ…」
「そのままにして風邪ひかないようにようにね、ジュニア!」
「わーったよ」
彼の背中から降り、ブロッケンマンが待つ部屋へと戻る。
「もっとたくさん勉強しないと!たっくさん勉強して、ブロッケンパパとジュニアを支えるんだ!」
これから先の楽しみを考えたら、どんな難題でもこなせてしまえそうなほどに今の自分にはやる気が満ちていた。
「よーし、この時間はジュニアとスパーをしてるからブロッケンパパはいない…」
顎に手を当て、次の行動を考える。
「そうだ!パパの書斎で面白い本がないか探そう!」
ジュニア同様、その父も読書が好きなのか彼の部屋にも本がたくさんあった。触ろうとすると怒られてしまうので、彼がいない今がチャンスである。すぐさま駆け出し、ブロッケンマンの書斎へと向かった。
「へへへ、お邪魔しまーす!って、誰もいないけど…」
普段はしないノックをして、わくわくしながら部屋へと入る。
「よく来たクライノート。そこへ座りなさい」
「うわぁ!?ブロッケンパパ!?」
誰もいないと思っていたのに、部屋にはブロッケンマンが椅子に座って待ち構えていた。
「何を驚いている。いると思ったから、ノックをしたのだろう?普段はしないのにな」
鼻で笑われ、なんとなく自分の行動が読まれていたのだろうと感じた。さすがドイツの鬼、侮れない。
「クライノート、ソファーへ」
「えっと、私…」
「クライノート、座れ」
「はぁい」
これ以上は本気で怒られると思い、観念して目の前のソファーに座った。
「お前にいくつか質問をする。真面目に答えなさい」
「えぇ、怖い」
ぎろりと睨まれ口元を手で覆った。
「来年お前は学校に行く事になるが、どこに行くのか決めているのかね?」
「えっと、近くの学校に行く予定だよ」
「将来何かやりたい事は?」
「将来…?んーやりたい事はないけど、早く働きたいかな」
「それは何故だ?」
「だって、うちはママしかいないから。大変だと思って」
父が早くに亡くなり母が一人で育ててくれていたため、少しでも負担を減らしたいと思っていた。
「…それなら、いい学校を私が見繕っておいた。そこに通いなさい」
ブロッケンマンが立ち上がり、一枚の冊子を私の前に置いた。
「お前の通う学校の詳細だ。よく見ておくように」
そう言われ、学校名を見て立ち上がる。
「ブロッケンパパ、これ超名門校だよ!」
「それがどうした」
「だって、こんな学校通うお金なんてうちにはないよ!」
「金銭面なら俺が用意するから心配はいらん。学力もお前の実力なら申し分ない。何か問題あるか」
「でも…それじゃ悪いよ」
「俺はお前の父親に、面倒を見てやってくれと頼まれたのだよ。頼まれたからには責任を持って、最後まで面倒を見るつもりだ」
「…」
もう一度、渡された資料を見る。やはり金額が桁違い過ぎて、いくら父に頼まれたといってもここまでしてもらうわけにはいかない。
「ブロッケンパパ、やっぱり…」
「残念だが、もう入学の手続きは済ませている。お前は行くしかないのだよ、クライノート」
「…え!?」
「この前、論文を書かせただろう。あれは入学試験のためのものだ。そして、ついこの間やらせたテスト…あれもそうだ」
思い返せば、個室に入れられて知らない人に監視されながら問題を解いた気がする。おかしいなとは思っていたが、まさかあんなやり方で試験を受けるとは思わなかった。
「全て問題なく合格だ。まぁ、当たり前だがな。お前にはそれ以上の能力がある。学校では、ここだけでは学べないものをしっかりと勉強してきなさい」
「うぇぇぇぇ!?本当に!?」
「本当だとも。制服も用意してある、これで逃げられんな?」
にやりと笑ってこちらを見る顔は、鬼というより悪魔だ。結局、いつもの事だが私に拒否権はないらしい。
「…私こんなお金返せないよぉ」
「返さんでいい。お前の学力を伸ばすためなんだ、しっかりと励め。そして、家の名声だけで上がってきた甘ったれ共を蹴落としてこい」
「そっちが本音だぁ〜」
血の滲むような努力をしてきた人からしたら許せないんだろう、ブロッケンマンらしい言葉に納得した。
「ブロッケンパパがそう言うなら、私ボッコボコにしてくるよ」
ぶんぶんと片手を振り回す。
「手は出すなよ、あくまでもお前の学力を使ってでだ」
「任せろください!」
そう言って敬礼すれば、満足したように彼が頷いた。
「それと、これは別件だが…我々超人の事やプロレスの事を勉強してみるのはどうかね?」
「ジュニアじゃなくて、私が?」
超人になるために頑張っているジュニアな
らともかく、ただの人間の私が知る必要があるのかわからず首を傾げた。
「これから先、お前のやりたい事が見つからないのならばジュニアのセコンドにでもなればいいと思ってな」
「セコンド…って何?」
「セコンドというのは試合の際の付き添いはもちろん、試合の作戦を考えたり、傷の手当てなどをする者の事だ。お前、ジュニアの傷の手当てをしているだろう」
「なんだバレてたのか」
怪我の多いジュニアのために、独学で簡単な手当てを勉強した。時々訓練の合間を見ては、これ以上ひどくならないよう手を加えていたのだ。
「最初はジュニアが自分でやったのかと思っていたが、残念ながらそこまで器用じゃないからなアイツは」
ブロッケンマンが苦笑いを浮かべた。
「お前の頭なら作戦も考えられるし、何よりジュニアが落ち着いて話を聞くだろう。長い月日、共に過ごした分だけお前達には強い繋がりがある。それはとても強みになるはずだ」
「ん〜私にできるかなぁ…」
勉強ができてもそれが試合に役立つかはあまり自信がない。彼の足を引っ張るかもしれないと不安に思った。
「大会も色々ある。中にはタッグマッチというのがあってな。俺とジュニアでタッグを組み、お前がセコンドとして試合に出る事も夢ではない」
ブロッケンマンの言葉にその光景を思い浮かべる。リングに並んで立つブロッケンマンとジュニア、お揃いのコスチュームで並んだ姿はきっと偉観だろう。
「俺達家族で勝ち上がり、名を残したいとは思わんか?」
「…家族?」
ブロッケンマンの言葉に首を傾げる。
「何を今さら驚いている、クライノート。お前も我が家族の一員だとも」
「…」
「…本当の父ではないが、お前の事を娘のように思っているのだよ」
いつも怖い顔か無を貫いているブロッケンマンが少しだけ笑った。
「…ブロッケンパパ!私セコンドになる!パパとジュニアのために頑張るよ!」
「そうか、なら話は…」
「ジュニアーっ!ジュニア聞いてー!」
早速、幼馴染に伝えようと部屋を飛び出した。背後からブロッケンマンが何か叫んでいたが、また戻ってくるからいいかとそのまま外へと駆けていく。
「ジュニアーっ!!」
「なんだよ、クライノート!」
ジュニアの声が聞こえた方へと向かえば、彼は外で腕立てをしていた。そのまま駆け寄り、その背に飛び乗った。
「ぐえっ!?お前、引っ付くな!汗かいてんだって!」
そんな事はお構いなく、背中に寝そべるようにして引っ付いた。
「ねぇ聞いて聞いて!私、ブロッケンパパとジュニアのセコンドになる!」
「はぁ?お前がセコンドぉ〜?」
ジュニアは話をしながら、私を背中に乗せたまま腕立てを続行する。
「そう!パパとジュニアがタッグを組んで私がセコンド!」
「げぇ〜親父と組むのか、怖ぇな」
「親子でタッグマッチに出場なんて、ジュニアにしかできないよ!ねぇ、お揃いのコスチュームにしよ〜?」
「気が早いっての。俺はまだ超人になれるかわかんねぇし、お前も勉強してないだろ」
「絶対なれる!やっぱり私、パパのお古の軍服もらう!三人でお揃い!」
「まだ諦めてなかったのかよ…まぁでも、できたらいいな。それ」
「できるよ!きっと!」
次々と夢が膨らんでいく。超人になったジュニア、ブロッケン親子で挑むタッグマッチ、それを側で見守る自分。図々しくも、優勝した時の光景まで考えてにやにやと笑いが止まらない。
「クライノート!戻ってこい!話はまだ終わってないぞ!」
上からブロッケンマンの怒鳴り声が聞こえ、想像の世界から引き戻される。
「おい、親父怒ってんぞ。早く戻れって」
「はーい。うわ、汗でびちょびちょだ」
「だから言っただろ…」
「そのままにして風邪ひかないようにようにね、ジュニア!」
「わーったよ」
彼の背中から降り、ブロッケンマンが待つ部屋へと戻る。
「もっとたくさん勉強しないと!たっくさん勉強して、ブロッケンパパとジュニアを支えるんだ!」
これから先の楽しみを考えたら、どんな難題でもこなせてしまえそうなほどに今の自分にはやる気が満ちていた。
