Kleines Kleinod

本を読むのが趣味である俺は、訓練の合間に今日も庭にある大きな椅子に座って本を読んでいた。
「ジュニア〜何してるの〜?」
突然姿を現した幼馴染に驚き、椅子から転げ落ちそうになる。
「び、びっくりした…また勝手に入ってきたの?」
「うん」
「うんって…父さんに怒られちゃうよ。ちゃんと玄関から入ってきなさいって言われただろ?」
「だって玄関から行ったら、ブロッケンパパ入れてくれないもん」
そう言って、俺が座っている椅子によじ登ってくる。俺も身体を寄せて彼女が座れるスペースを作ってあげる。
「ジュニア本読んでたの?すごーい!もう字が読めるんだ!」
琥珀色の瞳をキラキラさせて、彼女が本を指差した。
「う、うん…あんまり難しい本は無理だけどこれくらいなら」
「すごいよ!私まだ字読めないもん!これ、何の本?」
「男の子と犬のお話だよ。良い話だから、もう何回も読んでる」
「へぇ〜そんなに良い本なんだ…私もいつか読んでみたい!」
挿し絵のほとんどない字ばかりの本を興味津々に覗き込み、共感してくれた彼女に心が動く。
「じゃあ、字を教えながら読んであげるよ」
「やったぁ!ありがとうジュニア」
途中まで読んでいた場所からしおりを引き抜き、最初のページへと戻る事にした。

「ジュニアを見かけなかったか?」
「いいえ、どうしました?」
「時間になっても現れんのだ。逃げたか?」
「まさか、あの子は我慢強い子です。いくら辛くても逃げたりする事はないと思いますよ」
「…ではどこに」
訓練の時間になっても姿を見せない息子を探す。厳しくし過ぎたかと思うものの、彼のためだと考えれば手を抜く事ができない。庭へと出て、いつも本を読んでいる椅子へと向かう。
「…ここにいたか」
大きな椅子に息子と親友の娘が寄り添って寝ていた。本を読んでいる途中でいつの間にか寝てしまったのであろう。
「…はぁ、仕方あるまい」
二人を起こさないように抱き上げ、家の中へと戻る。
「ジュニアはいました?」
「いた。クライノートも一緒だ」
抱き上げられても寝ている二人の顔を妻が覗き込み、小さく笑った。
「まったく…いつ入り込んだんだ」
部屋へと連れて行き、ベットへと二人を寝かせる。
「…ジュニアには可哀想ですけど、訓練の妨げになってしまうなら離す事を考えますか?」
「…いや、それはしない。ジュニアにはこの子が必要なのだよ」
「そうなのですか?」
「あぁ。我々はどうしてもブロッケン一族として見られる。そんな中で、ブロッケンJr.として見てくれる相手が必要なんだ。俺がそうであったように」
かつての親友の姿を思い出す。立場を気にせず、ズカズカと入り込んできたあの男の事を。
「夕食まで寝かせておいてやろう。クライノートの母親には、夕食を食べさせてから帰らせると伝えておいてくれないか」
「わかりました」
規則正しい寝息をたてる子供達を置いて、妻と共に部屋を出た。

「…と、父さんごめんなさい!その、本を読んでたらそのまま寝てしまって…」
夕食の準備が終わる三十分前くらいに、ジュニアが真っ青な顔をして書斎へと走り込んできた。
「…今日は許そう。次はないからな」
「は、はい!」
「ところで、クライノート。お前、字は読めるのか?」
ジュニアに叩き起こされ無理やり連れてこられたのか、覚醒しきってない彼女に声をかけた。
「ん〜?読めなかったけど、今日ジュニアに教えてもらったからなんとなく読めるよ」
「ん?もう読めるだと?」
(たった数時間、ジュニアに読み聞かせをしてもらっただけのはず…)
「クライノート、ここの文章を読んでみなさい」
今日の新聞の一面を指差す。彼女はそれを見てスラスラと読み上げた。
「合ってた?」
そう言って、にこにこと笑う彼女に驚いた。
「ははは!ただのお転婆娘ではなさそうだ」
「なんかブロッケンパパご機嫌で怖い」
「しっ!余計な事言わないで!」
良い事を思いついた。ジュニアの訓練を邪魔されず、彼女を引き離す必要のない方法を。
「みんな夕食の準備ができましたよ」
「はーい!行こうジュニア!」
「あ、待って!」
「まったく、なんでお前が一番に返事をするのかね」
息子の手を引いて、バタバタと部屋を出ていった彼女の後を追う。俺の頭の中には今後の方針が明確に組み上がり、口元が緩むのを抑えられなかった。

「うえぇぇぇ〜!何これぇ!」
次の日。我が家へ忍び込んできた彼女を捕まえ、目の前に大量の本を並べれば思っていた通り不満げな声をあげた。
「ただの問題集だ。お前には俺が出す課題をこなしてもらう」
「なんで!」
「必要な事だからだ。ジュニアが超人になるための訓練をしている間に、お前は勉強をしなさい」
「私まだ学校行ってないよ!」
「いずれ行くんだ。早めにやっておいて損はない」
「字も書けないよぉ」
「書けるようになればいい。今月は字を書く練習だ。来月からは学校でやる基礎をお前に叩き込む、いいな?」
「よくないよぉ!」
彼女は床に倒れ込んでじたばたと暴れ出した。
「よく聞けクライノート。期限内に課題をこなせば、ジュニアと共に遊びに連れて行ってやる」
するとピタリと動きが止まり、起き上がって俺を見た。
「…ほんと?じゃあ、アイスクリーム食べに行ったり、おっきな公園で遊んでくれる?」
「やるべき事をやればな」
「やるー!」
これも思っていた通り、褒美を前にすればすんなりと言う事を聞いた。
「師匠。準備体操終わりました!」
「わかった、すぐ行く」
「あ!ジュニア、聞いて!今日から私も訓練するよ」
「え、クライノートも超人になるの?」
「違ーう。あのねブロッケンパパが勉強ちゃんとしてたら、遊びに連れて行ってくれるって!」
「え?」
「私頑張るから、たくさん遊びに行こうね!」
話がよくわかっていない息子は始終首を傾げていたが、嬉しそうにしている彼女につられて笑っていた。
(なんとも単純で気楽なものだ…)
小さく笑いながら、自分の準備をする。
「行くぞジュニア。クライノート、見ていないからといって手を抜くなよ。後で確認するからな」
「大丈夫だよ、ちゃんとやるもん」
「じゃあ、俺も頑張ってくるね」
「うん、頑張ってねジュニア。ブロッケンパパ、あんまり酷い事しないでね」
「…はぁ、考えておく」
やはり厳しすぎるのか。熱が入るとどうしても抑えられない。そんな事をもやもやと考えていると、ジュニアが俺の服の袖を引いた。
「大丈夫です師匠!立派な超人になるため、もっと厳しくして下さい!」
彼女のやる気に当てられたのか、いつもより覇気がこもっていた。
「…そうか。では、覚悟しておけ」
「はい!」
息子の頭に軽く手を置き外へと向かう。俺の考えは間違いではなかった。きっとこの子達は共に強く成長していくだろう。
今になって新たな目標ができ、やらなければならない事を考え出す。
(そのためならば、俺は鬼にでもなんにでもなろう)
たとえどんなに辛くても、二人が一緒ならばついてきてくれると絶対な自信があった。
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