Kleines Kleinod

「これサンプルなんでどうぞ!」
「どうぞって言われてもなぁ…」
ファンのために作られたアイドル超人達のグッズが完成したので一度見て欲しいと集められ、それが終わった帰り道。手には自分そっくりに作られたぬいぐるみが握られている。
「それにしてもよくできてんな〜というか、できすぎて困るな…」
自分のぬいぐるみを自分が持っているのはおかしいような気がするし、だからといってこれを誰かにあげるのも恥ずかしい。どうしたものかと頭を悩ませながら屋敷へと戻る。
「お帰りジュニア!」
屋敷の扉を開ければ、幼馴染が出迎えてくれる。
「ただいま。何か食ってたろ、食べカスついてるぞ」
そう言われて袖で口元を拭おうとしていた彼女の手を止め、指で取ってやる。
「服が汚れるからやめろってば」
「ありがとジュニア」
全く反省の色を見せずに笑う彼女に苦笑する。
「あれ、ジュニア何持ってるの?」
突然、琥珀色の瞳を大きく見開き俺の手元を見つめた。
「あぁこれか?俺の新しいグッズらしくてさ、貰ったんだ」
「へぇ〜!ジュニアが可愛くなってる、いつ発売されるの?」
「ん?そういや、聞いてなかったな…」
「えーそこ大事な所なのに…調べとかないと売り切れちゃうよ。ジュニアはアイドル超人としてもっと自覚を持って」
「んな事言われても…欲しいんだったら、これやるよ。なんか恥ずかしいけど…」
「いいの?」
「俺が持っててもな」
「やった〜!大事にする〜!」
彼女にぬいぐるみを渡せば、嬉しそうに抱え上げくるくると回った。彼女が自分を模した物を持つのは少し恥ずかしい気持ちもあったが、これほど喜んでくれるのなら渡したかいがあったと思う。
「ちっちゃいジュニアだ。小さいジュニア、ジュニア小さい」
「なんか言い方に悪意あんな。わざとか?」
「ダメだよジュニア、心は広く持たないと。すぐ怒ってたら、試合に影響するよ」
意地の悪い笑みを浮かべこちらを見る様子から、喧嘩を売っているのだと分かった。
「やっぱりわざとじゃねぇか!」
「小さい男はダメだよジュニア〜!」
「待てこら!」
走り去る彼女を怒るフリをして、その後を追う。彼女といるとどうしても童心に還ってしまい、こんな姿格好つかなくて見せられないなと苦笑いを浮かべた。
それから俺のぬいぐるみは彼女と共に見かける事が多くなり、基本的にはお気に入りの鞄にぶら下がっている。他には本を読む彼女の膝の上、ソファーで寝ている彼女の腕の中、ある時は彼女の胸元から顔を覗かせていた。
「…」
最初の頃は大切にしてくれていると嬉しく思っていたのだが、最近はなんだか面白くない。俺が四苦八苦して手に入れた彼女の隣を、あいつは何の苦労もせず、ましてや俺よりも距離が近いのが許せない。たかがぬいぐるみ相手にと思ったが、自分の姿を模しているだけあってこちらが負けているように感じる。そんなもやもやした気持ちを抱えながら生活していたある日。
「お風呂入ろ〜」
食事を終え、のんびりしていた彼女がソファーから立ち上がった。何の気なしに目で追っていると、彼女が鞄からあのぬいぐるみを取り外し部屋を出て行こうとしていた。
「…は!?おい、待て!」
「え、何?」
彼女はきょとんとして俺の方を向いた。
「お、お前そいつと一緒に風呂入んのか?」
俺は彼女が持っているぬいぐるみを指差す。
「うん。ちょっと汚れちゃったから、お風呂で綺麗にしようかなって」
「そんなわざわざ手洗いしなくても、洗濯機に突っ込んどけばいいだろ」
「ダメだよ、装飾とか外れたらどうするのさ」
「だからって…」
何をこんなに必死になっているのか。彼女はあれを洗うだけと言っているのに、ぬいぐるみに先を越されるというのが嫌だった。
(俺だって、ガキの頃しか一緒に入った事ねぇのに!)
彼女の腕の中にある自分そっくりなぬいぐるみが、邪魔をするなと言いたげな顔をしているように見えた。結局まともな反論ができず彼女と共に風呂へと向かったぬいぐるみは、いい香りをさせふわふわになって戻ってきた。
「ふわぁ〜眠たくなった」
「そろそろ寝るか」
大きなあくびをした彼女を見て、読んでいた本を閉じ立ち上がる。寝室へ向かい、ベッドへ倒れるようにして寝転んだ彼女に毛布をかけてやる。
「もうちょっと向こう行けって。俺が入れねぇ」
「ジュニアが大きくなりすぎなのが悪いんだよ〜」
文句を言いながら彼女が空けたスペースに入り込み、自分も毛布を被る。
「おやすみジュニア」
「ん、おやすみ」
「おやすみチビジュニア」
「は?」
聞き捨てならない言葉に彼女を見れば、忌々しいぬいぐるみにキスをして毛布に潜り込んだ。瞬間ぷちんと何かが切れた音がして、勢いよく彼女に覆い被さった。
「わぁ!何!?」
「…お前、本物がここにいるってのにそれはねぇだろ」
大切にしてくれるのは嬉しい。だが本人を差し置いて、それは流石に許せなかった。
「…おやすみのちゅーして欲しかったの?」
「そいつにして俺にはなしってのがムカつく」
「だってジュニア、ちゅーすると長いんだもん!」
「…え、は!?そ、そんな事ねぇよ!普通だろ、普通!」
長いとか短いとか考えた事もなかったので、知らなかった事実に慌てて反論した。
「長いし何回もしてるの!私眠いから後はジュニアの好きにして!」
そう声を上げると、彼女が俺に口付ける。
「おやすみ!」
ぼすんとベッドに沈み込んだ彼女を追いかけるようにして自分も沈み込み、額に瞼に何度もキスを落とす。
「ん〜ほら、何回もしてる!」
「なっ…いいじゃねぇか!ほんのちょっとだろ」
その後も何度か軽く口付けていると、文句を言っていた彼女がいつの間にか大人しくなり寝息を立てていた。
(普通寝るか?)
若干納得のいかない気持ちではあるものの、好きにしていいと言われたのでまた額に口付けた。ふと視界の端にあのぬいぐるみが見え、彼女を起こさないように掴み上げる。
「悪いな、こいつは俺のだ」
勝ち誇ったように笑い、近くのソファーへと投げた。ぬいぐるみが綺麗にソファーへ着地したのを見届けると、彼女を抱き寄せ自分も睡魔に誘われるまま眠りについた。

「ジュニア!チビジュニアをどこにやったの!?」
次の日の朝。ぼさぼさの頭で彼女がキッチンへと駆け込んでくる。
「あれなら不良部が見つかったからって言われたんで返す事になった」
俺はコーヒーを飲みながら、淡々とそう告げる。彼女はショックだったのか、ガックリと肩を落とした。
「そんなぁ〜どこにも変な所なんてなかったよ?」
「他のやつにあったんだと。一応全部回収ってなったらしいぜ」
不良部なんてのは嘘。やはりぬいぐるみと彼女がいちゃついてる姿は見たくないと思い、こっそりと隠した。みっともない独占欲だがそれだけ愛しているのだ。たかが綿の塊だとしても彼女の隣は譲れない。
「お前にはご本人様がいるじゃねぇか」
「んー可愛くない」
「まぁ可愛いって言われるようなガラじゃないからな」
膨れっ面の彼女を抱きあげ膝の上に乗せる。
「大きいジュニアと一緒だと、私がぬいぐるみになった気分」
「いいじゃねぇか。俺はその方がいい」
それならいつまでも大切に可愛がれる自信があると、俺はご機嫌に答えた。
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