Kleines Kleinod
「何ぃ〜っ!?あんなお手手繋いで仲良く歩いとったのに、ガールフレンドではないだとぉ〜っ!?」
「おいキン肉マン!そんなデカい声で言うんじゃねぇ!」
ある日の合同トレーニング。背負い投げを決められ、突き破った壁の残骸から出てきたキン肉マンが大きな声で叫んだ。
「お、なんだ〜?面白れぇ話が聞こえたぜ?」
「ちょうど休憩を入れようと思っていたんだ。ブロッケンJr.、聞かせてくれないか」
ぞろぞろと騒ぎを聞きつけて、他の超人達がにやにやと面白そうに近寄ってきた。
「げぇ!?なんでもねぇよ!散れ散れ!」
「恋愛相談なら乗るぜ?タッグを組んだ仲だ。協力は惜しまねぇよ」
ウルフマンががっちりと肩を組み、逃げる事もできなくなる。
「お、俺は話さねぇぞ!」
「ほいじゃ私が!」
「余計な事すんな!」
「まぁまぁ」
「いーじゃねぇか。どーせあのガキンチョの事だろ?この際、はっきりさせとこうぜ」
ご丁寧にホワイトボードを持ってきたキン肉マンに掴みかかろうとすれば、ウルフマンとバッファローマンに押さえつけられてしまう。
「キン肉マン、わかりやすく簡潔に頼む」
「おっけーおっけー!んじゃ、まずはブロッケンJr.の想い人についてだが…」
「ふざっけんな!おかしいだろコレ!」
超人が何人も集まって、どうして俺の恋愛話を真面目に聞いているのか。異様な光景だと思う。
「おいテリー!ロビン!こんな事するより、スパーした方がいいだろ!?」
「まぁいいじゃないか。そうは言っても、悩んでるんだろう?」
「問題は早めに対処しておくべきだ。試合にも影響しかねないからな」
真面目なテリーマンとロビンマスクに訴えるが、正論を返されたため何も言い返せない。
「ぐぅ…!ウォーズマン!ジェロニモ!」
「俺はその…困ってるなら手伝ってやりたいから…」
「んだ。オラも力になれるかわからねぇけど、協力するズラ!」
次は良心的な二人に訴えるが、こちらも良心が変な方向に向かってしまっていた。ウルフマンとバッファローマンは俺を押さえ込んでいる時点で止める気はない。
「ら、ラーメンマン!」
最後に助けを求めて彼を見たが、黙って頷いただけだった。つまり、男は黙って流れに身を任せろという事だろう。
「お前ら全員覚えてろよ!?」
もう俺にはそう叫ぶしかなかった。
キン肉マンの説明が終わった時には、俺は恥ずかしさからまるで屍の様にぴくりとも動けなかった。
「幼馴染とは、また面白いねぇ」
「そんなに一緒にいたならいつでも言えたんじゃないのか?」
「それができないからこうなっているんだ」
「近すぎる関係ってのも難しいんだ。今までの良好な関係を崩したくないがゆえに、言い出しにくいからな」
「ほぇ〜そうなんズラか…」
「もうやめてくれ…」
図星をつかれ恥ずかしさに顔を覆った。
「でも手を繋ぐほどの仲とは、どういうことだ?」
「こいつらソレが当たり前なんだとよ。屋敷にいた時なんか、付き合ってもないのにベタベタしやがって…しまいにゃ、一緒に寝てやがるんだぜ?」
「「!?」」
バッファローマンの発言に一同が驚き、視線が一斉に自分へと向いた。
「仕方ねぇだろ!子供の頃からあの距離感で、あいつがその頃のままなんだから!」
「よく言うぜ。嬉しそうにしてるくせに」
「なんだと!?」
「やめろ。まぁ、好意を持つ相手がそばに居るのは誰しも嬉しい事だ。な?」
「くっそぉ…」
ラーメンマンに諭され、振り上げた手を下ろした。
「さて、どうするかだが…」
「はーい、ロビンせぇんせ!あっさり好きだと言ったらどうかと思うんじゃが!」
さっきまでキン肉マンが立っていたのに、今度はロビンマスクがまるで講師のようにホワイトボードの前に立った。
「キン肉マン、これは国によって考え方が異なる。告白などしない国もあるんだ。ブロッケンJr.、ドイツの恋愛観とはどういったものなんだ?」
「…ドイツには告白する文化はねぇ。なんとなく一緒にいて、いいなと思えば親に紹介するとかして関係を深めていくっていうか…なぁ、これおかしくね?」
「なるほど。とすると、親に紹介すればいいって事か?」
「でも幼馴染って事は、親も知ってんだろ。今さら紹介とかあんのか?」
真面目なロビンマスクにつられて答えてしまった。そしておかしいと思った俺の訴えはあっさりとスルーされ、本気で討論に入り出す。いい歳した男達がホワイトボードを囲んで何を話しているのだと、何故誰も疑問に思わないのだ。
「だったらもう好きだって言うべきズラ。やっぱり言葉にするのが一番だと思うズラ」
「俺もそう思う。やはり気持ちは伝えるべきだ」
「でもあのガキンチョ鈍そうだからなぁ…もうあっさり既成事実作っちまえよ」
「「既成事実?」」
「二人は知らなくていい。お前は変な事を言うな」
「いでっ!」
ジェロニモとウォーズマンとは程遠い発言をしたバッファローマンの背中にラーメンマンが蹴りを入れた。
「でも確かにあいつに好きって言ってもわかんねぇ気がする…」
好きは好きでも色々ある。きっとアイツが言う『好き』は、俺の思う『好き』とは違う気がした。
「…はぁ」
突きつけられた現実にノックアウトされた俺は、がっくりと項垂れた。
「わ!皆さん集まって何をしてるんですか?」
「おぉ、ミート!お前もブロッケンJr.に何か助言してはくれんかの。わしらじゃぜーんぜんお話にならんのよ」
「え?トレーニングの話とかなら皆さんの方が…」
「違う違う!ブロッケンJr.が好きな人と結ばれるにはどうしたらいいかって話」
「…えぇ!?いい歳した大人がこれだけ集まって何を話してるかと思えば…」
「だよな、やっぱおかしいよな…」
やっとまともな言葉が聞こえ、俺はおかしくなかったと頷いた。
「そんなのはっきり言うのが一番ですよ。遠回しなやり方は彼女と相性が悪いです」
「じゃがなミート。ドイツの恋愛事情というのがあっての…」
「そんな事考えてたら、いつまで経ってもこのままですよ!最悪の場合、他の男性の所へ行ってしまう可能性だってあるんですから」
ミートの言葉にはっと気付かされる。俺の気持ちなんて関係なく、彼女から離れていってしまう事だってあるのだと。
「お、俺今すぐアイツの所に…!」
「待て、ブロッケンJr.」
彼女の元へと行こうと立ち上がった俺の腕をラーメンマンが掴んだ。
「なんだよ!」
「焦ると考えもなしに動くのはお前の悪い癖だ。彼女の元へ行って、お前はどうするつもりだ」
「そ、それは…」
「頭の中をよく整理しておかないと、お前余計な事言いそうだしな」
「それに大切な事を伝える時は、場所とタイミングが重要だ」
「それならいい場所を知ってるぞ。私もよくナツコさんと行くんだ」
「テリーマンのおすすめなら間違いないな!」
「よし、じゃあいつにする?」
「あそこは夜景が綺麗だ。できれば時間は夜で天気が良い日がいいな」
「今週の天気はどうだった?」
「今週はずっと晴れだったズラ!」
自分を置き去りにして他の超人達があれやこれと話を進めていくのを呆然として見ていた。
「おい、なにぼーっとしてんだよ。お前はあのガキンチョの予定聞いてこい」
「え、お、おう…」
「いや、ちょっと待った。お前、慌てるとボロだしそうだな…ミート、代わりに聞いといてくれ」
「わかりました!」
さっとミートが部屋から出ていき、俺は一人オロオロと彼らの作戦会議を後ろから伺う。
「お前は告白のセリフでも考えときな」
落ち着きのない俺を見たウルフマンが、肩に手を置いて椅子に座らせた。混乱した頭ではいいセリフなど思い浮かばず、彼らの作戦会議が終わるまでたくさんの字が書かれたホワイトボードをぼんやりと見ていた。
そして作戦決行当日。連れてこられたのは観覧車のある大きなショッピングモール。
「じゃあ健闘を祈る!」
「しっかりなブロッケン」
「頑張ってくれズラ!」
「上手くいく事を祈ってる」
「デートはお互い楽しむ事が前提だからな、リラックスして行くんだ」
「お前、余計な事言うんじゃねぇぞ?」
「予定はこれに書いてある。この通りに動けば大丈夫だろう」
ロビンマスクから四つ折りにされた紙を渡されそれを受け取る。
「そんな緊張せんでも大丈夫大丈夫!いつもどーりのお前でな!ほいじゃ、行ってっしゃい!」
キン肉マンに背中を押され、仲間達に見送られながら待ち合わせ場所へと向かう。
(ほんとに大丈夫かよ…楽しめって言われても、緊張してそれどころじゃねぇし…ロビンマスクにもらった予定表見とかねぇと)
ロビンマスクに渡された紙を開けば、分刻みでびっしりと予定が書いてあった。
「いや細かすぎんだろ!親父の訓練スケジュールよりも厳しいじゃねぇか!」
思わず口に出てしまうが、仲間がせっかく考えてくれたので一応目を通すことにした。
「えーと、まずは買い物だぁ?全店舗を五分刻み…いや無理だろ。ジュエリーショップで彼女にプレゼントを…いや、あいつはアクセサリーとか興味ないしな。それより食べ物の方が喜ぶ」
プランを見ながらぶつぶつと一人で喋る。やはり作戦会議には口を出すべきだった。彼女の事を知らない彼らが考えたプランでは、満足してはくれないだろう。
「考えてくれたのは嬉しいが、これはなしだな。さてと、どうするか…」
告白は夜の観覧車の中で。それまでの間どうやって時間を過ごすか、俺はフロアガイドを見ながら考える。
「昼はここのフードコートで軽めに済ませて、デザート多めのあちこち買い食いコースだろうな」
「私またクレープ食べたい」
「おう、気に入ったんだな…うおっ!?」
彼女の声が聞こえたと思ったらいつの間にか隣に立っており、俺が見ていたフロアガイドを横から覗いていた。
「おまっ…びっくりさせんな!」
「声かけようとしたけど、なんか真剣に見てたから邪魔しちゃいけないと思って。というかなんでわざわざ待ち合わせなんてしたの?いつも一緒に行くのに…」
「た、たまにはいいだろ!とにかく行こうぜ!色々あるみたいだからさ」
「ふーん。まぁいっか、早く行こう!」
そう言うと、彼女が俺の手を取った。こうして見れば俺達は恋人であると思われてもおかしくないのに実際は異なる。
(もどかしいってこういう事を言うんだろうな…)
今日こそこの曖昧な関係に終止符をうってやると決意し、彼女の手を優しく握り歩き出した。
そして大きなショッピングモールを歩き回り、予想通りあちこちのスイーツを食べ歩く形となった。ジュエリーショップなど目もくれない。
(花より団子ってのは、こいつのためにある言葉だよな)
彼女が食べたいと言って買ったジェラートの残りを口に入れる。
「ジュニア!これたい焼きって言うの!中に餡子っていうのが入っててね!」
甘い物好きの彼女はもう次のスイーツを手にしていた。
「おい、もう甘いもんは遠慮するぜ。別のものが食いてぇよ」
魚の形をしたパンのようなものを豪快に頭からかぶりついた彼女を見て苦笑いを浮かべた。
「別のもの?」
「日本は米が美味いんだと。米が食べてみてぇ」
「お米…あ、おにぎりって言うのはどう?さっきお店があったよ!」
そう言って彼女が俺の手を取った。先ほどから俺達はここに来て食べる事しかしていない。楽しいから良いが、なんとも色気のないデートだと仲間達から言われそうだ。
そんな事を思いながら近くの店に目を向ける。するとショーウィンドウに反射して映る彼女と飾られていた服が重なり、思わず足を止めた。
「うわっ!急に止まらないでよ、どうしたの?」
彼女が俺の目線の先を追い、飾られている服を見つめた。
「ブロッケンママへの贈り物?」
「え、あ、いや…」
自分に服装のセンスなどあるとは思わないが、彼女にこの服が重なった時に感じたものは間違いないと思った。
「ちょっとここ入ろうぜ」
「おにぎりは?」
「休憩だ休憩。ほんとに晩飯入らなくなるって」
彼女の手を引き、ここへ来て初めて食べ物以外の店に入る。店内には落ち着いた色味でシックな服が並んでいた。
「…これだ」
ショーウィンドウから見えていた服を手に取る。
「ブロッケンママにはちょっと子供っぽい気がするよ?」
「ちげーよ。お前だお前」
隣に並んだ彼女に持っていた服を合わせてみる。いつもの堅苦しい服装とは真逆で落ち着いた色合いの上着にふんわりとしたスカート。
「…なぁ、これ良いと思うんだけどよ。ちょっと着てみてくれねぇか?」
「えぇ?…いいけど、私こんな服着たことないよ」
「たまにはいいだろ」
「…わかった」
不安そうな顔をして試着室へと入る彼女を見送り、一人外へ残されると自分の行動がだんだんと恥ずかしくなってきた。
(思わず試着させちまった!というかこの後どうするんだよ!俺、上手く褒められるかわかんねぇ!)
落ち着きなく試着室の前をうろうろしていると、彼女が顔だけ覗かせた。
「何してるの?」
「はっ!いや、その…」
「ねぇ、見せなきゃだめ?私、いつもブロッケンパパの軍服着てたから似合ってるかわかんない」
「だ、大丈夫だ…と思う。正直俺もわかんねぇけど、見せてくれねぇと良いか悪いかわかんねぇだろ」
「…笑ったら怒るからね」
「わかった、笑わない」
俺が似合うと思って彼女に着せた服だ。笑う事はないと思うが、一応気を引き締めた。彼女が不安そうな顔をして、試着室のカーテンを開ける。
「…っ」
シックな色合いが大人っぽさを見せる中、ふわりと広がったスカートが彼女の素質を引き立たせる。
「…変?」
「はっ!いや、その!似合って…る。か…可愛い…と思う…」
恥ずかしくて直視できず、帽子をこれでもかと引き下げた。
「ほんと?」
「ほ…ほんとだよ」
女性への褒め言葉は『綺麗』や『可愛い』など簡単で短い。しかしいざ相手に伝えるとなるとさらりと言えない。キン肉マンやテリーマンはよく自然に口にできるものだと思った。そうして二人して試着室の前でもじもじしていると、店員がそろりと近づいてくる。
「彼女さんよくお似合いです〜!よろしかったら、このまま着て帰れるようにしますけどどうされますか〜?」
「え?いや…」
「頼んだ!」
「ジュニア!?」
「あとこの服に合う靴と鞄も見繕ってくれ!」
「ジュニア!!」
「ありがとうございま〜す!」
ご機嫌な店員に見送られ、来た時とは雰囲気ががらりと変わった彼女と歩く。
「も〜ジュニアってば。全身コーディネートされるなんて初めてだよ」
「いいじゃねぇか。に…似合ってるんだからよ」
「後で領収書ちょうだい。お金返すから」
「いらねぇよ。俺がお前に着て欲しくて買ったんだから」
「でも」
「いらないって言ってんだろ。その代わり、その…また、こうして出かける時に着て欲しい…というか…」
柄にもない事を言うのは本当に恥ずかしい。さっきから彼女と目を合わせる事ができず、何度も帽子のツバを下げては自分の顔を隠す。
「着るのはいいけど…今日のジュニアいつもと違う。どうしたの?」
「は!?そんな事ない…はず」
「いや、違う」
「そんな事ねぇ!あ、ほら見ろ!クレープあったぞ、クレープ!」
「クレープ…ほんとだ!」
運良く目に入ったクレープの看板を指差せばすぐに彼女が食いつき、話を逸らす事に成功する。あのまま問い詰められていれば、全てはいてしまいそうだった。
(危ねぇ…せっかく考えてくれた計画をバラす所だった…)
仲間達が考えてくれた本番まであと二時間の辛抱である。それまではなんとしても口を滑らせないように気をつけなければならない。
「ジュニアは何にする?」
「…いや、俺はいらねぇわ」
ついさっき、たい焼きというのを平らげたばかりなのによく食べられるものだと苦笑いを浮かべた。その後は適当に見て周り夕食を済ませ、いよいよ決着の時がくる。仲間達が考えた計画は、観覧車に乗って一番頂上で告白をする。ありきたりと言えばそうだが、確実に二人きりになる事ができ邪魔も入らない。あとは自分次第だ。
「なぁ、最後にあれ乗ろうぜ」
俺が指差した先を彼女が見た。
「観覧車?」
「あぁ。この時間に乗ると夜景が綺麗なんだと」
「へぇ〜!じゃあ乗る!」
すんなりと彼女がのってくれたので、心の中でガッツポーズを決める。そして二人でゴンドラに乗り込み、ゆっくりと地上から離れていく。
「わぁ〜!すごいすごい!ドイツの夜景も綺麗だけど、日本も負けてないね!」
「そう、だな…」
夜景を見て興奮気味な彼女に対し、俺は緊張で外の景色など見ている余裕などなかった。
(てっぺんに来たら言えよ俺!好きだって!恋人になってくれって!)
今日まで色々と告白のセリフを考えてはみたが、やはりシンプルが一番だと正直に気持ちを伝える事にした。それなら失敗する事などない、口に出す事さえできれば上手くいくはずだと自分に言い聞かせる。
「ジュニア大丈夫?」
声をかけられ慌てて顔を上げれば、心配そうな顔をした彼女が自分を見ていた。
「これに乗ってから怖い顔してる…もしかして高い所ダメなの?」
「んな訳ないだろ!俺は空を飛べるんだぜ?」
「だよね〜でもどうしたの?今日はやっぱりいつもと違うよ」
「…っ」
頂上まではまだ半分も行っていない。思っていたよりも観覧車の動きはゆっくりだった。
「ジュニア?」
頭の中で色んな思いや考えが交差し、ウォーズマンではないが頭から煙が出そうだった。
「…ダメだ!俺には隠し事はできねぇ!」
とうとう我慢できずそう叫んで立ち上がり、彼女の前で膝をつくとその小さな手を取った。
「お前の事が好きだ!俺と結婚してくれ!」
言うはずだった言葉より何段か順序をすっ飛ばした事を言ってしまったが間違いはない。彼女と上手く行った先の未来に伝える事になる言葉なのだから。
「…私と?」
彼女は琥珀色の瞳を大きく見開き、あまり見たことのない驚いた顔をしていた。
「お前以外に誰がいるんだよ」
「なんで私なの?」
「なんでって…ずっと一緒にいたから、これからも一緒にいたい、と思って…」
「…ジュニアは私と逆の事を考えてたんだね」
「は?」
「…私はいつかジュニアと離れるんだって思ってた」
「なんで」
「小さい頃は訓練ばっかりで、女の子に会ったとしてもブロッケンパパがあんまり関わるなって言ってたから。私しか知らないでしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
「今は超人になって色んな所に行くし、有名になってファンもたくさんできたから色んな人と関わる事が増えたと思うんだ」
「それは…そうだな」
「…色んな人と会ってるうちに、いつかジュニアに好きな人ができるんだろうなって。その時に私はジュニアの好きな人と仲良くできるかなって…良かったねって言えるかなって」
自分達が乗ったゴンドラが頂上に到達し、月明かりが彼女の寂しそうな顔を照らした。
「私はただの幼馴染だから」
「違う!」
俯いた彼女の肩を掴めば、驚いて顔を上げた。
「もうここまで言ったんだ、この際全部言ってやる!」
緊張や恥ずかしさなど、さっきの告白でどこかへ吹っ飛んだ。
「俺はお前と初めて会った時から惚れてんだ!子供の頃に言ったろ!お前の瞳の色が好きだって」
最初に心を奪われたのはその瞳。光のあたり方できらきらと輝く様は、名前と同じように宝石のように綺麗だった。
「それにな、好きでもない奴を隣に座らせたり膝の上に乗せたり、ましてやベッドに入るなんて許す訳ねぇだろ!」
近いと思っていた距離感だったが、訓練の辛さや孤独を癒すその心地良さに言及する事はしなかった。
「俺が今までお前のためにやってきた事は、お前に喜んでもらうためで、それは幼馴染だからじゃねぇ…お前が好きだからだ」
「…ジュニア」
「信じられねぇってんなら、いくらでも証明してやるよ。お前の好きな所を言えとか、好物を答えろとか、得意な事を言えとかか?言っとくけど、よっぽどの事じゃなければお前の事で知らねぇ事はないぜ?」
「証明してくれるの?」
「そうだよ。お前の事が好きって俺がどんだけ思ってるか証明してやるって言ってんだ」
彼女への想いは誰にも負けない自信がある。それだけ彼女と共に過ごし、彼女を見てきたのだから。
「…じゃあ、キスして」
「あぁ、任せ…はぁ!?」
彼女の発言に思わずひっくり返りそうになった。
「おやすみのチューみたいな、おでこやほっぺはなしね」
「は!?お、おま…!」
「恋人はそんな所にしないでしょ?」
「ぐっ…!」
俺を試すような事を言う彼女を見つめる。しかしその表情はどこか諦めたような寂しさを含んだ顔をしていた。
(…変な所で気を使ってんじゃねぇよ)
大きく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
(相手に相応しいかそうじゃないかなんてお前が決める事じゃねぇ…俺がいいと思えばそれで十分だ)
彼女を抱き寄せ、その唇に自分のを重ねた。ほんの数秒間ほどゴンドラが軋む音だけとなり、ゆっくりと離れて彼女を見つめる。
「どうだ、ちゃんと証明したぜ?」
「…世の中にはもっと綺麗な人がたくさんいるのに」
「興味ねぇな。俺はガキの頃からお前だけなんだよ」
ほんのりと赤くなった頬に触れた。いつもより体温が高めなのは、多少なり俺の事を意識しているからだと思いたい。
「お前はどうなんだ?俺の事は嫌いか?」
「…好きじゃなかったら、手を繋いだり着たことない服なんて着ないもん」
いつも真っ直ぐに俺を見るはずの瞳が、どこに視線を向ければいいのか迷っている。彼女の珍しい姿にきゅっと胸が締め付けられた。
「…じゃあ俺達、両想いって事でいいんだな」
「…うん」
俺は嬉しさが抑えられず、もう一度彼女に口付ける。すぐに離れて彼女を見つめれば、今度は彼女が俺に口付けた。
「へへっ、これは私からね」
いつもの彼女に戻り、いたずらな笑みを浮かべた。
「へぇ〜?じゃあお返しだ」
「えっ!?」
驚く彼女にこれでもかと口付ける。
「〜っ!ジュニア!」
「なんだよ」
「もう下に着くよ!」
「げっ!?」
やっと自分達が観覧車の中にいる事を思い出し慌てて離れた。こんな所を他人に見られるのはさっきとは違う意味で恥ずかしい。
「ジュニアのすけべ!」
「はあっ!?そんなんじゃねぇし!」
「じゃあ、えっち!」
「ほとんど意味変わんねぇじゃねぇか!」
そんなくだらない言い合いをしているうちに、地上へと戻ってきてゴンドラから降りる。
「んじゃ、帰ろうぜ」
「うん!」
そしていつものように手を繋ごうとして、ぴたりと動きを止めた。
「ジュニア?」
「…恋人になったんだから、繋ぐんならこうだよな」
彼女の指に自分の指を絡ませ、いわゆる恋人繋ぎをする。
「次からはこれな」
「…ジュニアってわかりやすいって言われない?」
「どういう意味だよ!」
俺が声を荒げれば彼女が揶揄うように笑う。こうして俺達は幼馴染から恋人へと、共に歩みを進めたのだった。
それから数週間ぶりの合同練習。部屋へと入れば仲間達がすでにそろっていた。
「おぉ!ブロッケンJr.!」
俺にいち早く気づいたキン肉マンが手を振り駆け寄ってくる。
「お前が何も言わんから、こっちは心配してたんだぞ!で、どうなったんじゃ?」
「…」
俺は黙ってピースサインを仲間達に向けた。
「えーと、ピースしとるという事は…上手くいったんじゃな!この野郎〜!」
飛びかかってきたキン肉マンが俺を肘で小突いてきた。
「いでっ!?おい、加減を考えろよ!」
「この!この!」
「…っ!いい加減に…しろっ!」
やめろと言っているのにあまりにもしつこいので、我慢できずバックドロップでやり返した。
「ひどいじゃないの!せっかく祝福してやっとるのに!」
「やり過ぎなんだよお前は!」
「おー良かったじゃねぇか。アイツきっと浮かれてるぜ?」
「おいおい、問題を解決させるために協力したんだぜ?俺達。浮かれてちゃダメだろ」
「まぁ、誰しも最初はそんなものさ」
「景気づけに一発かましてやるのがいいかもしれんな」
「誰から行く?」
「「…」」
少し離れた所でそんな事を話しているとは知らずキン肉マンと言い合っていると、ぞわりと背筋に寒気が走った。
「なんだ?」
振り返れば、今回の件に協力してくれた仲間達が横一列に並んで近づいてきていた。
「ブロッケンJr.。幼馴染の件、上手くいったようで良かったな」
「お、おう!最初はどうなるかと思ってたけど、助かったぜ!ありがとな!」
「どういたしましてだ。君が嬉しそうでなによりだとも」
「だがよ、ちょ〜っと浮かれすぎは良くねぇな」
「…は?」
「…若干だが、筋肉量が落ちている。体重も少し増えているようだ」
カシャカシャとウォーズマンが俺を見て、何か分析をしているようだ。
「恋人と仲良くするのはいいズラが、鍛錬を怠るのはダメズラ!」
「今度は稽古の方に俺達全員で協力してやるぜ?」
「…な、何言ってんだよ」
明らかに空気がおかしい事に気づき、後ずさる。すると、がっしりとキン肉マンが俺を羽交締めにした。
「ダメじゃないのブロッケンJr.〜!みんなが協力してくれるって言うんだから、素直に受け取らんとな!」
「ば、馬鹿っ!離せ!なんか雰囲気おかしいだろこれ!」
「ブロッケンJr.」
ラーメンマンの声が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「男は黙って受け止めろ」
「要するにうまくいって気に入らねぇって八つ当たりだな!?」
「ははは!その通り!」
彼がそう言うと、一斉に目の前にいた仲間達が俺に向かって走ってくる。
「ちくしょう!やってやろうじゃねぇか!!」
「おぉ!いいぞ、ブロッケンJr.!」
「まずはお前からだキン肉マン!!」
「えぇ!?私!?」
羽交締めにされていた腕を解き、キン肉マンの腕を掴んで向かってきている仲間達の方へと投げる。あっさりと避けられるが想定内だ。
「かかってきやがれ!!」
八人を相手にするのは不利である事など分かりきっているが、売られた喧嘩は買うのみ。俺は協力してくれた仲間達にお礼の気持ちも込めて全力で立ち向かったのだった。
「はぁ〜あ!いい大人がよってたかって情けない!」
「いくつになっても男の人って子供っぽい所があるよね〜」
大きな物音が聞こえトレーニングルームにやってきたミートと彼女が、部屋の中央で取っ組み合いをしている俺達を見ていた。
「お、見ろよブロッケン!愛しのハニーがいるぜ?」
「あ?」
バッファローマンの視線をおえば、彼女の姿が視界に入る。
「スキありだっ!」
「ぐぁっ!?」
視線を外してしまった事でバッファローマンの体当たりをもろにくらい、俺の身体は吹っ飛び壁へと叩きつけられる。
「やり過ぎだ馬鹿者」
「おー悪い悪い」
朦朧とする意識の中、全く悪びれる様子のない声が聞こえた。
「…くっそぉ、いてぇ」
「大丈夫?ジュニア」
痛みに耐え目を開ければ、彼女が心配そうな顔をして俺を見ていた。
「へっ、これくらい問題ねぇよ」
「今痛いって言ってたよ」
「しっかり聞こえてんじゃねぇか!」
「おーおー!そのままハニーに看病してもらえよ!」
「あの野郎…!」
「牛のおじさん、今日はいつもより元気だね」
「聞こえてんぞ!おじさん言うなガキンチョ!」
言われっぱなしだった俺に変わって彼女が言い返し、少しだけすっきりした。
「頑張って。八対一だけど」
「ほんとだぜ。反則にも限度があるだろ」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、彼女が俺の軍服の襟首を掴み唇の端に口付けた。
「あ、ズレちゃった。まぁいいか」
「やるな、あのレディ」
「羨ましいねぇ」
それを見ていた超人達が囃し立てる。
「おい!とっとと戻ってこい!その腑抜けたつらに喝を入れてやる!」
「ふ、腑抜けてねぇよ!」
「声が震えてるぞ。動揺し過ぎだ」
「動揺もしてねぇ!」
今度こそ立ち上がり、帽子を被り直した。
「ったく、何してくれんだよ。揶揄われんのは俺なんだぞ!」
「元気が出るかと思って」
「……危ないから下がってろ」
帽子の上から彼女の頭を撫で、にやにやと俺を見ている彼らの元へと歩き出す。
「…ありがとな、元気出た」
彼女の方は見ずに小さな声で伝えた。
「ジュニア…へへ、単純!」
「お前も俺を揶揄うのかよ!」
がくりと膝から力が抜けて姿勢を崩すと、トレーニングルームに大きな笑い声が響いた。
ともかく紆余曲折、七転八倒。色んな事があったが『Ende gut alles gut』終わり良ければ全てよしだ。
「おいキン肉マン!そんなデカい声で言うんじゃねぇ!」
ある日の合同トレーニング。背負い投げを決められ、突き破った壁の残骸から出てきたキン肉マンが大きな声で叫んだ。
「お、なんだ〜?面白れぇ話が聞こえたぜ?」
「ちょうど休憩を入れようと思っていたんだ。ブロッケンJr.、聞かせてくれないか」
ぞろぞろと騒ぎを聞きつけて、他の超人達がにやにやと面白そうに近寄ってきた。
「げぇ!?なんでもねぇよ!散れ散れ!」
「恋愛相談なら乗るぜ?タッグを組んだ仲だ。協力は惜しまねぇよ」
ウルフマンががっちりと肩を組み、逃げる事もできなくなる。
「お、俺は話さねぇぞ!」
「ほいじゃ私が!」
「余計な事すんな!」
「まぁまぁ」
「いーじゃねぇか。どーせあのガキンチョの事だろ?この際、はっきりさせとこうぜ」
ご丁寧にホワイトボードを持ってきたキン肉マンに掴みかかろうとすれば、ウルフマンとバッファローマンに押さえつけられてしまう。
「キン肉マン、わかりやすく簡潔に頼む」
「おっけーおっけー!んじゃ、まずはブロッケンJr.の想い人についてだが…」
「ふざっけんな!おかしいだろコレ!」
超人が何人も集まって、どうして俺の恋愛話を真面目に聞いているのか。異様な光景だと思う。
「おいテリー!ロビン!こんな事するより、スパーした方がいいだろ!?」
「まぁいいじゃないか。そうは言っても、悩んでるんだろう?」
「問題は早めに対処しておくべきだ。試合にも影響しかねないからな」
真面目なテリーマンとロビンマスクに訴えるが、正論を返されたため何も言い返せない。
「ぐぅ…!ウォーズマン!ジェロニモ!」
「俺はその…困ってるなら手伝ってやりたいから…」
「んだ。オラも力になれるかわからねぇけど、協力するズラ!」
次は良心的な二人に訴えるが、こちらも良心が変な方向に向かってしまっていた。ウルフマンとバッファローマンは俺を押さえ込んでいる時点で止める気はない。
「ら、ラーメンマン!」
最後に助けを求めて彼を見たが、黙って頷いただけだった。つまり、男は黙って流れに身を任せろという事だろう。
「お前ら全員覚えてろよ!?」
もう俺にはそう叫ぶしかなかった。
キン肉マンの説明が終わった時には、俺は恥ずかしさからまるで屍の様にぴくりとも動けなかった。
「幼馴染とは、また面白いねぇ」
「そんなに一緒にいたならいつでも言えたんじゃないのか?」
「それができないからこうなっているんだ」
「近すぎる関係ってのも難しいんだ。今までの良好な関係を崩したくないがゆえに、言い出しにくいからな」
「ほぇ〜そうなんズラか…」
「もうやめてくれ…」
図星をつかれ恥ずかしさに顔を覆った。
「でも手を繋ぐほどの仲とは、どういうことだ?」
「こいつらソレが当たり前なんだとよ。屋敷にいた時なんか、付き合ってもないのにベタベタしやがって…しまいにゃ、一緒に寝てやがるんだぜ?」
「「!?」」
バッファローマンの発言に一同が驚き、視線が一斉に自分へと向いた。
「仕方ねぇだろ!子供の頃からあの距離感で、あいつがその頃のままなんだから!」
「よく言うぜ。嬉しそうにしてるくせに」
「なんだと!?」
「やめろ。まぁ、好意を持つ相手がそばに居るのは誰しも嬉しい事だ。な?」
「くっそぉ…」
ラーメンマンに諭され、振り上げた手を下ろした。
「さて、どうするかだが…」
「はーい、ロビンせぇんせ!あっさり好きだと言ったらどうかと思うんじゃが!」
さっきまでキン肉マンが立っていたのに、今度はロビンマスクがまるで講師のようにホワイトボードの前に立った。
「キン肉マン、これは国によって考え方が異なる。告白などしない国もあるんだ。ブロッケンJr.、ドイツの恋愛観とはどういったものなんだ?」
「…ドイツには告白する文化はねぇ。なんとなく一緒にいて、いいなと思えば親に紹介するとかして関係を深めていくっていうか…なぁ、これおかしくね?」
「なるほど。とすると、親に紹介すればいいって事か?」
「でも幼馴染って事は、親も知ってんだろ。今さら紹介とかあんのか?」
真面目なロビンマスクにつられて答えてしまった。そしておかしいと思った俺の訴えはあっさりとスルーされ、本気で討論に入り出す。いい歳した男達がホワイトボードを囲んで何を話しているのだと、何故誰も疑問に思わないのだ。
「だったらもう好きだって言うべきズラ。やっぱり言葉にするのが一番だと思うズラ」
「俺もそう思う。やはり気持ちは伝えるべきだ」
「でもあのガキンチョ鈍そうだからなぁ…もうあっさり既成事実作っちまえよ」
「「既成事実?」」
「二人は知らなくていい。お前は変な事を言うな」
「いでっ!」
ジェロニモとウォーズマンとは程遠い発言をしたバッファローマンの背中にラーメンマンが蹴りを入れた。
「でも確かにあいつに好きって言ってもわかんねぇ気がする…」
好きは好きでも色々ある。きっとアイツが言う『好き』は、俺の思う『好き』とは違う気がした。
「…はぁ」
突きつけられた現実にノックアウトされた俺は、がっくりと項垂れた。
「わ!皆さん集まって何をしてるんですか?」
「おぉ、ミート!お前もブロッケンJr.に何か助言してはくれんかの。わしらじゃぜーんぜんお話にならんのよ」
「え?トレーニングの話とかなら皆さんの方が…」
「違う違う!ブロッケンJr.が好きな人と結ばれるにはどうしたらいいかって話」
「…えぇ!?いい歳した大人がこれだけ集まって何を話してるかと思えば…」
「だよな、やっぱおかしいよな…」
やっとまともな言葉が聞こえ、俺はおかしくなかったと頷いた。
「そんなのはっきり言うのが一番ですよ。遠回しなやり方は彼女と相性が悪いです」
「じゃがなミート。ドイツの恋愛事情というのがあっての…」
「そんな事考えてたら、いつまで経ってもこのままですよ!最悪の場合、他の男性の所へ行ってしまう可能性だってあるんですから」
ミートの言葉にはっと気付かされる。俺の気持ちなんて関係なく、彼女から離れていってしまう事だってあるのだと。
「お、俺今すぐアイツの所に…!」
「待て、ブロッケンJr.」
彼女の元へと行こうと立ち上がった俺の腕をラーメンマンが掴んだ。
「なんだよ!」
「焦ると考えもなしに動くのはお前の悪い癖だ。彼女の元へ行って、お前はどうするつもりだ」
「そ、それは…」
「頭の中をよく整理しておかないと、お前余計な事言いそうだしな」
「それに大切な事を伝える時は、場所とタイミングが重要だ」
「それならいい場所を知ってるぞ。私もよくナツコさんと行くんだ」
「テリーマンのおすすめなら間違いないな!」
「よし、じゃあいつにする?」
「あそこは夜景が綺麗だ。できれば時間は夜で天気が良い日がいいな」
「今週の天気はどうだった?」
「今週はずっと晴れだったズラ!」
自分を置き去りにして他の超人達があれやこれと話を進めていくのを呆然として見ていた。
「おい、なにぼーっとしてんだよ。お前はあのガキンチョの予定聞いてこい」
「え、お、おう…」
「いや、ちょっと待った。お前、慌てるとボロだしそうだな…ミート、代わりに聞いといてくれ」
「わかりました!」
さっとミートが部屋から出ていき、俺は一人オロオロと彼らの作戦会議を後ろから伺う。
「お前は告白のセリフでも考えときな」
落ち着きのない俺を見たウルフマンが、肩に手を置いて椅子に座らせた。混乱した頭ではいいセリフなど思い浮かばず、彼らの作戦会議が終わるまでたくさんの字が書かれたホワイトボードをぼんやりと見ていた。
そして作戦決行当日。連れてこられたのは観覧車のある大きなショッピングモール。
「じゃあ健闘を祈る!」
「しっかりなブロッケン」
「頑張ってくれズラ!」
「上手くいく事を祈ってる」
「デートはお互い楽しむ事が前提だからな、リラックスして行くんだ」
「お前、余計な事言うんじゃねぇぞ?」
「予定はこれに書いてある。この通りに動けば大丈夫だろう」
ロビンマスクから四つ折りにされた紙を渡されそれを受け取る。
「そんな緊張せんでも大丈夫大丈夫!いつもどーりのお前でな!ほいじゃ、行ってっしゃい!」
キン肉マンに背中を押され、仲間達に見送られながら待ち合わせ場所へと向かう。
(ほんとに大丈夫かよ…楽しめって言われても、緊張してそれどころじゃねぇし…ロビンマスクにもらった予定表見とかねぇと)
ロビンマスクに渡された紙を開けば、分刻みでびっしりと予定が書いてあった。
「いや細かすぎんだろ!親父の訓練スケジュールよりも厳しいじゃねぇか!」
思わず口に出てしまうが、仲間がせっかく考えてくれたので一応目を通すことにした。
「えーと、まずは買い物だぁ?全店舗を五分刻み…いや無理だろ。ジュエリーショップで彼女にプレゼントを…いや、あいつはアクセサリーとか興味ないしな。それより食べ物の方が喜ぶ」
プランを見ながらぶつぶつと一人で喋る。やはり作戦会議には口を出すべきだった。彼女の事を知らない彼らが考えたプランでは、満足してはくれないだろう。
「考えてくれたのは嬉しいが、これはなしだな。さてと、どうするか…」
告白は夜の観覧車の中で。それまでの間どうやって時間を過ごすか、俺はフロアガイドを見ながら考える。
「昼はここのフードコートで軽めに済ませて、デザート多めのあちこち買い食いコースだろうな」
「私またクレープ食べたい」
「おう、気に入ったんだな…うおっ!?」
彼女の声が聞こえたと思ったらいつの間にか隣に立っており、俺が見ていたフロアガイドを横から覗いていた。
「おまっ…びっくりさせんな!」
「声かけようとしたけど、なんか真剣に見てたから邪魔しちゃいけないと思って。というかなんでわざわざ待ち合わせなんてしたの?いつも一緒に行くのに…」
「た、たまにはいいだろ!とにかく行こうぜ!色々あるみたいだからさ」
「ふーん。まぁいっか、早く行こう!」
そう言うと、彼女が俺の手を取った。こうして見れば俺達は恋人であると思われてもおかしくないのに実際は異なる。
(もどかしいってこういう事を言うんだろうな…)
今日こそこの曖昧な関係に終止符をうってやると決意し、彼女の手を優しく握り歩き出した。
そして大きなショッピングモールを歩き回り、予想通りあちこちのスイーツを食べ歩く形となった。ジュエリーショップなど目もくれない。
(花より団子ってのは、こいつのためにある言葉だよな)
彼女が食べたいと言って買ったジェラートの残りを口に入れる。
「ジュニア!これたい焼きって言うの!中に餡子っていうのが入っててね!」
甘い物好きの彼女はもう次のスイーツを手にしていた。
「おい、もう甘いもんは遠慮するぜ。別のものが食いてぇよ」
魚の形をしたパンのようなものを豪快に頭からかぶりついた彼女を見て苦笑いを浮かべた。
「別のもの?」
「日本は米が美味いんだと。米が食べてみてぇ」
「お米…あ、おにぎりって言うのはどう?さっきお店があったよ!」
そう言って彼女が俺の手を取った。先ほどから俺達はここに来て食べる事しかしていない。楽しいから良いが、なんとも色気のないデートだと仲間達から言われそうだ。
そんな事を思いながら近くの店に目を向ける。するとショーウィンドウに反射して映る彼女と飾られていた服が重なり、思わず足を止めた。
「うわっ!急に止まらないでよ、どうしたの?」
彼女が俺の目線の先を追い、飾られている服を見つめた。
「ブロッケンママへの贈り物?」
「え、あ、いや…」
自分に服装のセンスなどあるとは思わないが、彼女にこの服が重なった時に感じたものは間違いないと思った。
「ちょっとここ入ろうぜ」
「おにぎりは?」
「休憩だ休憩。ほんとに晩飯入らなくなるって」
彼女の手を引き、ここへ来て初めて食べ物以外の店に入る。店内には落ち着いた色味でシックな服が並んでいた。
「…これだ」
ショーウィンドウから見えていた服を手に取る。
「ブロッケンママにはちょっと子供っぽい気がするよ?」
「ちげーよ。お前だお前」
隣に並んだ彼女に持っていた服を合わせてみる。いつもの堅苦しい服装とは真逆で落ち着いた色合いの上着にふんわりとしたスカート。
「…なぁ、これ良いと思うんだけどよ。ちょっと着てみてくれねぇか?」
「えぇ?…いいけど、私こんな服着たことないよ」
「たまにはいいだろ」
「…わかった」
不安そうな顔をして試着室へと入る彼女を見送り、一人外へ残されると自分の行動がだんだんと恥ずかしくなってきた。
(思わず試着させちまった!というかこの後どうするんだよ!俺、上手く褒められるかわかんねぇ!)
落ち着きなく試着室の前をうろうろしていると、彼女が顔だけ覗かせた。
「何してるの?」
「はっ!いや、その…」
「ねぇ、見せなきゃだめ?私、いつもブロッケンパパの軍服着てたから似合ってるかわかんない」
「だ、大丈夫だ…と思う。正直俺もわかんねぇけど、見せてくれねぇと良いか悪いかわかんねぇだろ」
「…笑ったら怒るからね」
「わかった、笑わない」
俺が似合うと思って彼女に着せた服だ。笑う事はないと思うが、一応気を引き締めた。彼女が不安そうな顔をして、試着室のカーテンを開ける。
「…っ」
シックな色合いが大人っぽさを見せる中、ふわりと広がったスカートが彼女の素質を引き立たせる。
「…変?」
「はっ!いや、その!似合って…る。か…可愛い…と思う…」
恥ずかしくて直視できず、帽子をこれでもかと引き下げた。
「ほんと?」
「ほ…ほんとだよ」
女性への褒め言葉は『綺麗』や『可愛い』など簡単で短い。しかしいざ相手に伝えるとなるとさらりと言えない。キン肉マンやテリーマンはよく自然に口にできるものだと思った。そうして二人して試着室の前でもじもじしていると、店員がそろりと近づいてくる。
「彼女さんよくお似合いです〜!よろしかったら、このまま着て帰れるようにしますけどどうされますか〜?」
「え?いや…」
「頼んだ!」
「ジュニア!?」
「あとこの服に合う靴と鞄も見繕ってくれ!」
「ジュニア!!」
「ありがとうございま〜す!」
ご機嫌な店員に見送られ、来た時とは雰囲気ががらりと変わった彼女と歩く。
「も〜ジュニアってば。全身コーディネートされるなんて初めてだよ」
「いいじゃねぇか。に…似合ってるんだからよ」
「後で領収書ちょうだい。お金返すから」
「いらねぇよ。俺がお前に着て欲しくて買ったんだから」
「でも」
「いらないって言ってんだろ。その代わり、その…また、こうして出かける時に着て欲しい…というか…」
柄にもない事を言うのは本当に恥ずかしい。さっきから彼女と目を合わせる事ができず、何度も帽子のツバを下げては自分の顔を隠す。
「着るのはいいけど…今日のジュニアいつもと違う。どうしたの?」
「は!?そんな事ない…はず」
「いや、違う」
「そんな事ねぇ!あ、ほら見ろ!クレープあったぞ、クレープ!」
「クレープ…ほんとだ!」
運良く目に入ったクレープの看板を指差せばすぐに彼女が食いつき、話を逸らす事に成功する。あのまま問い詰められていれば、全てはいてしまいそうだった。
(危ねぇ…せっかく考えてくれた計画をバラす所だった…)
仲間達が考えてくれた本番まであと二時間の辛抱である。それまではなんとしても口を滑らせないように気をつけなければならない。
「ジュニアは何にする?」
「…いや、俺はいらねぇわ」
ついさっき、たい焼きというのを平らげたばかりなのによく食べられるものだと苦笑いを浮かべた。その後は適当に見て周り夕食を済ませ、いよいよ決着の時がくる。仲間達が考えた計画は、観覧車に乗って一番頂上で告白をする。ありきたりと言えばそうだが、確実に二人きりになる事ができ邪魔も入らない。あとは自分次第だ。
「なぁ、最後にあれ乗ろうぜ」
俺が指差した先を彼女が見た。
「観覧車?」
「あぁ。この時間に乗ると夜景が綺麗なんだと」
「へぇ〜!じゃあ乗る!」
すんなりと彼女がのってくれたので、心の中でガッツポーズを決める。そして二人でゴンドラに乗り込み、ゆっくりと地上から離れていく。
「わぁ〜!すごいすごい!ドイツの夜景も綺麗だけど、日本も負けてないね!」
「そう、だな…」
夜景を見て興奮気味な彼女に対し、俺は緊張で外の景色など見ている余裕などなかった。
(てっぺんに来たら言えよ俺!好きだって!恋人になってくれって!)
今日まで色々と告白のセリフを考えてはみたが、やはりシンプルが一番だと正直に気持ちを伝える事にした。それなら失敗する事などない、口に出す事さえできれば上手くいくはずだと自分に言い聞かせる。
「ジュニア大丈夫?」
声をかけられ慌てて顔を上げれば、心配そうな顔をした彼女が自分を見ていた。
「これに乗ってから怖い顔してる…もしかして高い所ダメなの?」
「んな訳ないだろ!俺は空を飛べるんだぜ?」
「だよね〜でもどうしたの?今日はやっぱりいつもと違うよ」
「…っ」
頂上まではまだ半分も行っていない。思っていたよりも観覧車の動きはゆっくりだった。
「ジュニア?」
頭の中で色んな思いや考えが交差し、ウォーズマンではないが頭から煙が出そうだった。
「…ダメだ!俺には隠し事はできねぇ!」
とうとう我慢できずそう叫んで立ち上がり、彼女の前で膝をつくとその小さな手を取った。
「お前の事が好きだ!俺と結婚してくれ!」
言うはずだった言葉より何段か順序をすっ飛ばした事を言ってしまったが間違いはない。彼女と上手く行った先の未来に伝える事になる言葉なのだから。
「…私と?」
彼女は琥珀色の瞳を大きく見開き、あまり見たことのない驚いた顔をしていた。
「お前以外に誰がいるんだよ」
「なんで私なの?」
「なんでって…ずっと一緒にいたから、これからも一緒にいたい、と思って…」
「…ジュニアは私と逆の事を考えてたんだね」
「は?」
「…私はいつかジュニアと離れるんだって思ってた」
「なんで」
「小さい頃は訓練ばっかりで、女の子に会ったとしてもブロッケンパパがあんまり関わるなって言ってたから。私しか知らないでしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
「今は超人になって色んな所に行くし、有名になってファンもたくさんできたから色んな人と関わる事が増えたと思うんだ」
「それは…そうだな」
「…色んな人と会ってるうちに、いつかジュニアに好きな人ができるんだろうなって。その時に私はジュニアの好きな人と仲良くできるかなって…良かったねって言えるかなって」
自分達が乗ったゴンドラが頂上に到達し、月明かりが彼女の寂しそうな顔を照らした。
「私はただの幼馴染だから」
「違う!」
俯いた彼女の肩を掴めば、驚いて顔を上げた。
「もうここまで言ったんだ、この際全部言ってやる!」
緊張や恥ずかしさなど、さっきの告白でどこかへ吹っ飛んだ。
「俺はお前と初めて会った時から惚れてんだ!子供の頃に言ったろ!お前の瞳の色が好きだって」
最初に心を奪われたのはその瞳。光のあたり方できらきらと輝く様は、名前と同じように宝石のように綺麗だった。
「それにな、好きでもない奴を隣に座らせたり膝の上に乗せたり、ましてやベッドに入るなんて許す訳ねぇだろ!」
近いと思っていた距離感だったが、訓練の辛さや孤独を癒すその心地良さに言及する事はしなかった。
「俺が今までお前のためにやってきた事は、お前に喜んでもらうためで、それは幼馴染だからじゃねぇ…お前が好きだからだ」
「…ジュニア」
「信じられねぇってんなら、いくらでも証明してやるよ。お前の好きな所を言えとか、好物を答えろとか、得意な事を言えとかか?言っとくけど、よっぽどの事じゃなければお前の事で知らねぇ事はないぜ?」
「証明してくれるの?」
「そうだよ。お前の事が好きって俺がどんだけ思ってるか証明してやるって言ってんだ」
彼女への想いは誰にも負けない自信がある。それだけ彼女と共に過ごし、彼女を見てきたのだから。
「…じゃあ、キスして」
「あぁ、任せ…はぁ!?」
彼女の発言に思わずひっくり返りそうになった。
「おやすみのチューみたいな、おでこやほっぺはなしね」
「は!?お、おま…!」
「恋人はそんな所にしないでしょ?」
「ぐっ…!」
俺を試すような事を言う彼女を見つめる。しかしその表情はどこか諦めたような寂しさを含んだ顔をしていた。
(…変な所で気を使ってんじゃねぇよ)
大きく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
(相手に相応しいかそうじゃないかなんてお前が決める事じゃねぇ…俺がいいと思えばそれで十分だ)
彼女を抱き寄せ、その唇に自分のを重ねた。ほんの数秒間ほどゴンドラが軋む音だけとなり、ゆっくりと離れて彼女を見つめる。
「どうだ、ちゃんと証明したぜ?」
「…世の中にはもっと綺麗な人がたくさんいるのに」
「興味ねぇな。俺はガキの頃からお前だけなんだよ」
ほんのりと赤くなった頬に触れた。いつもより体温が高めなのは、多少なり俺の事を意識しているからだと思いたい。
「お前はどうなんだ?俺の事は嫌いか?」
「…好きじゃなかったら、手を繋いだり着たことない服なんて着ないもん」
いつも真っ直ぐに俺を見るはずの瞳が、どこに視線を向ければいいのか迷っている。彼女の珍しい姿にきゅっと胸が締め付けられた。
「…じゃあ俺達、両想いって事でいいんだな」
「…うん」
俺は嬉しさが抑えられず、もう一度彼女に口付ける。すぐに離れて彼女を見つめれば、今度は彼女が俺に口付けた。
「へへっ、これは私からね」
いつもの彼女に戻り、いたずらな笑みを浮かべた。
「へぇ〜?じゃあお返しだ」
「えっ!?」
驚く彼女にこれでもかと口付ける。
「〜っ!ジュニア!」
「なんだよ」
「もう下に着くよ!」
「げっ!?」
やっと自分達が観覧車の中にいる事を思い出し慌てて離れた。こんな所を他人に見られるのはさっきとは違う意味で恥ずかしい。
「ジュニアのすけべ!」
「はあっ!?そんなんじゃねぇし!」
「じゃあ、えっち!」
「ほとんど意味変わんねぇじゃねぇか!」
そんなくだらない言い合いをしているうちに、地上へと戻ってきてゴンドラから降りる。
「んじゃ、帰ろうぜ」
「うん!」
そしていつものように手を繋ごうとして、ぴたりと動きを止めた。
「ジュニア?」
「…恋人になったんだから、繋ぐんならこうだよな」
彼女の指に自分の指を絡ませ、いわゆる恋人繋ぎをする。
「次からはこれな」
「…ジュニアってわかりやすいって言われない?」
「どういう意味だよ!」
俺が声を荒げれば彼女が揶揄うように笑う。こうして俺達は幼馴染から恋人へと、共に歩みを進めたのだった。
それから数週間ぶりの合同練習。部屋へと入れば仲間達がすでにそろっていた。
「おぉ!ブロッケンJr.!」
俺にいち早く気づいたキン肉マンが手を振り駆け寄ってくる。
「お前が何も言わんから、こっちは心配してたんだぞ!で、どうなったんじゃ?」
「…」
俺は黙ってピースサインを仲間達に向けた。
「えーと、ピースしとるという事は…上手くいったんじゃな!この野郎〜!」
飛びかかってきたキン肉マンが俺を肘で小突いてきた。
「いでっ!?おい、加減を考えろよ!」
「この!この!」
「…っ!いい加減に…しろっ!」
やめろと言っているのにあまりにもしつこいので、我慢できずバックドロップでやり返した。
「ひどいじゃないの!せっかく祝福してやっとるのに!」
「やり過ぎなんだよお前は!」
「おー良かったじゃねぇか。アイツきっと浮かれてるぜ?」
「おいおい、問題を解決させるために協力したんだぜ?俺達。浮かれてちゃダメだろ」
「まぁ、誰しも最初はそんなものさ」
「景気づけに一発かましてやるのがいいかもしれんな」
「誰から行く?」
「「…」」
少し離れた所でそんな事を話しているとは知らずキン肉マンと言い合っていると、ぞわりと背筋に寒気が走った。
「なんだ?」
振り返れば、今回の件に協力してくれた仲間達が横一列に並んで近づいてきていた。
「ブロッケンJr.。幼馴染の件、上手くいったようで良かったな」
「お、おう!最初はどうなるかと思ってたけど、助かったぜ!ありがとな!」
「どういたしましてだ。君が嬉しそうでなによりだとも」
「だがよ、ちょ〜っと浮かれすぎは良くねぇな」
「…は?」
「…若干だが、筋肉量が落ちている。体重も少し増えているようだ」
カシャカシャとウォーズマンが俺を見て、何か分析をしているようだ。
「恋人と仲良くするのはいいズラが、鍛錬を怠るのはダメズラ!」
「今度は稽古の方に俺達全員で協力してやるぜ?」
「…な、何言ってんだよ」
明らかに空気がおかしい事に気づき、後ずさる。すると、がっしりとキン肉マンが俺を羽交締めにした。
「ダメじゃないのブロッケンJr.〜!みんなが協力してくれるって言うんだから、素直に受け取らんとな!」
「ば、馬鹿っ!離せ!なんか雰囲気おかしいだろこれ!」
「ブロッケンJr.」
ラーメンマンの声が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「男は黙って受け止めろ」
「要するにうまくいって気に入らねぇって八つ当たりだな!?」
「ははは!その通り!」
彼がそう言うと、一斉に目の前にいた仲間達が俺に向かって走ってくる。
「ちくしょう!やってやろうじゃねぇか!!」
「おぉ!いいぞ、ブロッケンJr.!」
「まずはお前からだキン肉マン!!」
「えぇ!?私!?」
羽交締めにされていた腕を解き、キン肉マンの腕を掴んで向かってきている仲間達の方へと投げる。あっさりと避けられるが想定内だ。
「かかってきやがれ!!」
八人を相手にするのは不利である事など分かりきっているが、売られた喧嘩は買うのみ。俺は協力してくれた仲間達にお礼の気持ちも込めて全力で立ち向かったのだった。
「はぁ〜あ!いい大人がよってたかって情けない!」
「いくつになっても男の人って子供っぽい所があるよね〜」
大きな物音が聞こえトレーニングルームにやってきたミートと彼女が、部屋の中央で取っ組み合いをしている俺達を見ていた。
「お、見ろよブロッケン!愛しのハニーがいるぜ?」
「あ?」
バッファローマンの視線をおえば、彼女の姿が視界に入る。
「スキありだっ!」
「ぐぁっ!?」
視線を外してしまった事でバッファローマンの体当たりをもろにくらい、俺の身体は吹っ飛び壁へと叩きつけられる。
「やり過ぎだ馬鹿者」
「おー悪い悪い」
朦朧とする意識の中、全く悪びれる様子のない声が聞こえた。
「…くっそぉ、いてぇ」
「大丈夫?ジュニア」
痛みに耐え目を開ければ、彼女が心配そうな顔をして俺を見ていた。
「へっ、これくらい問題ねぇよ」
「今痛いって言ってたよ」
「しっかり聞こえてんじゃねぇか!」
「おーおー!そのままハニーに看病してもらえよ!」
「あの野郎…!」
「牛のおじさん、今日はいつもより元気だね」
「聞こえてんぞ!おじさん言うなガキンチョ!」
言われっぱなしだった俺に変わって彼女が言い返し、少しだけすっきりした。
「頑張って。八対一だけど」
「ほんとだぜ。反則にも限度があるだろ」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、彼女が俺の軍服の襟首を掴み唇の端に口付けた。
「あ、ズレちゃった。まぁいいか」
「やるな、あのレディ」
「羨ましいねぇ」
それを見ていた超人達が囃し立てる。
「おい!とっとと戻ってこい!その腑抜けたつらに喝を入れてやる!」
「ふ、腑抜けてねぇよ!」
「声が震えてるぞ。動揺し過ぎだ」
「動揺もしてねぇ!」
今度こそ立ち上がり、帽子を被り直した。
「ったく、何してくれんだよ。揶揄われんのは俺なんだぞ!」
「元気が出るかと思って」
「……危ないから下がってろ」
帽子の上から彼女の頭を撫で、にやにやと俺を見ている彼らの元へと歩き出す。
「…ありがとな、元気出た」
彼女の方は見ずに小さな声で伝えた。
「ジュニア…へへ、単純!」
「お前も俺を揶揄うのかよ!」
がくりと膝から力が抜けて姿勢を崩すと、トレーニングルームに大きな笑い声が響いた。
ともかく紆余曲折、七転八倒。色んな事があったが『Ende gut alles gut』終わり良ければ全てよしだ。
