Kleines Kleinod

今日は幼馴染が日本に遊びにやってくる。俺はこの日のためにあいつの喜びそうな場所を調べ、しっかりと計画を立てていた。
「ジュニアーっ!」
「クライノート!」
待ち合わせ場所に現れた彼女を見つけ近寄る。
「久しぶり!元気にしてた?」
「俺は元気だ。お前こそ怪我してねぇだろうな」
無茶をしがちな彼女の身体に傷痕がないかチェックしていると、困ったように笑われた。
「ジュニアは心配性だな〜」
「よく言うぜ、このお転婆娘」
とん、と生意気な事を言う彼女の額を指で押した。
「なぁ、今日は…」
「おーい!ブロッケンJr.じゃないの、そんな所で何しとるんじゃーい!」
「げ…」
能天気な声が聞こえ振り返れば、キン肉マンとミートがこちらに向かって歩いてきていた。
「ん?そちらのお嬢さんは…わかった!お前の熱烈なファンだな!この人気者め!」
「ちげーよ!俺の幼馴染だ!」
キン肉マンが肘で身体を小突いてきたので、思いっきり押し退けた。
「…あ、いつか図書館の場所を教えてくれた子だ。この前はありがとう!助かりました」
「いえいえ!ちゃんとたどり着けたみたいで良かったです」
彼女とミートがお互い頭を下げ合う。
「今日はどうされたんですか?」
「日本に遊びに来たの。美味しいものいっぱいあるって聞いて、楽しみにしてたんだ」
「それなら私のおすすめがあるのだが、どうかねお嬢さん!きっと気にいるぞい!」
「王子の事だからどうせ牛丼でしょ」
「何を言うミート!私だって、牛丼以外の美味しいものくらい知っとるわい!」
「本当?教えて欲しい!」
「いいともいいとも!任せんしゃい!」
「は!?」
冗談ではない。俺は今日のために色々プランを考えてきたのだ。ミートはともかく、キン肉マンがいてはすべての予定が狂いそうである。そもそも二人で行動する予定だったのだ。
「おいキン肉マン!勝手な事を言うんじゃ…」
「見て!ブロッケンJr.がいる!」
「本当!サインして!」
盛り上がっている彼女達に口を挟もうとすればそんな声が聞こえ、いつの間にか人に囲まれてしまう。
「うおっ!?ちょ!待ってくれ!」
怒涛のように押しかけてくる人に身動きがとれなくなってしまう。
「うわぁすごい人気だ…ドイツでもすごいけど、日本とは熱気が違うや」
「ここにもスーパースターがおるというのに…へーんだ!ブロッケンJr.!ワシら先に行っとるからなー!さ、お嬢さん。あの男はほっといて美味しいもの食べに行きましょ!」
「いいのかな…」
「へーき!へーき!あれに付き合ってたら、あっという間に日が暮れてしまうわい」
「そうなんだ、大変だねアイドル超人って」
「そーそー!ほいじゃ行きましょ!まずは牛丼じゃい!」
「やっぱり牛丼じゃないですか…」
「は!?待てキン肉マン!勝手な事すんじゃねぇ!」
彼女の肩に手を添え歩き出すキン肉マン達がどんどん離れ人混みの中に消えていく。
「あの野郎〜!」
追いかけようにも人に阻まれ、なかなか抜け出す事ができなかった。

やっと解放され、キン肉マン達を追いかければちょうど牛丼屋から出てきた所だった。
「牛丼って見た目はシンプルだけどボリュームがあって美味しいんだね!」
「おぉ!この良さをわかってくれるとは、さすがクラちゃん!」
(なにがクラちゃんだ!気安く呼びやがって!)
俺を差し置いて楽しそうにしているキン肉マンに、ふつふつと怒りを燃やしながら近づいていた時だった。
「あ、ブロッケンJr.だ!」
「げえっ!またかよ!」
またしてもあっという間に人に囲まれ、その隙に彼女達はどんどん先へと行ってしまう。
(くっそぉ〜!なんでいつも上手くいかねぇんだ!)
追いかけたい気持ちはあったが、目の前にいるファン達をないがしろにする事はできない。一通りファンサービスに応え、きりのいい所で抜け出し後を追う。今度こそは捕まえてみせると、まるで犯人を追う刑事のような気持ちだった。
彼女達の姿を見つけたのは、俺のプランの中にも入れていた有名なクレープ屋の前だった。甘いものが好きな彼女なら絶対に喜んでくれるだろうと目をつけていたのに、すでに彼女の手には美味しそうなクレープが握られていた。
「これが日本のクレープ…生地がもちもちしてて美味しい!アイスクリームに生クリーム、チョコに小さなケーキ!私の好きなものがたくさん!」
想像していた通り、彼女はとても幸せそうに笑っていた。でもそれを引き出したのは俺ではなかった。
「ほら見ろミート!私だって女子が喜ぶ場所くらい知っとるわい!」
「たまたまテレビで見たからでしょ!調子いいんだから王子は…」
ぶちりと何かが切れた音がして、地面を踏みしめながらキン肉マン達に近づく。
「お、ブロッケンJr.〜!遅かったじゃないの、真面目にファンに応えてあげるなんて…よ!アイドル超人!」
「うるせぇ!!」
俺に気づいたキン肉マンが近寄ってきて肩を叩いたのを一喝すれば、慌てて離れ彼女の後ろに隠れる。
「な、なんじゃいブロッケンJr.…そんな怒らんでもええやないの」
「これが怒らずにいられるか!勝手な事しやがって…覚悟しろ!」
「ひぇぇ!なんで怒っとるんじゃ!助けてクラちゃん!」
彼女の後ろで小さくなるキン肉マンを見て、舌打ちをする。
「ジュニア、勝手に行ったのは謝るよ。キン肉マンさんを怒らないで?今度は皆んなで食べよう。ここのお店有名なんだって」
「そんな事は知ってるんだよ!」
差し出されたクレープを睨みつけ大声で叫べば、しんと場が静まり返る。
「…ほんとは俺がここにお前を連れて来たかったんだ!なのにキン肉マンが勝手な事しやがって!今日はお前のために色々調べた店を回るつもりで…」
そこまで言って、俺は何を叫んでいるのかとはっと我に帰る。慌てて顔をあげれば、驚いた顔をしている三人が見えた。
「…あ、いや、今のは…!」
「なぁ〜んだ、ワシらお邪魔虫だったみたいじゃのミート」
「王子のせいですよ。ブロッケンJr.さんとクライノートさんのデートの邪魔をしてしまったじゃないですか」
「は…はぁ!?そんなんじゃ…!」
「なにも照れんでええじゃない!最初からそー言ってくれれば、二人っきりにしたのに。ほいじゃごゆっくり!」
「邪魔をしてしまってごめんなさい!あとは二人で楽しんでくださいね!」
「うん、二人共ありがとー!また牛丼食べに行こうねー!」
俺達を残して離れていくキン肉マン達に彼女が手を振る。そして二人だけとなり、沈黙が流れた。俺は恥ずかしくて顔を上げる事ができず、じっと自分の足元を見ていた。
「…ねぇ、ジュニア」
「な、なんだよ…」
顔は上げずに答える。からかわれるだろうか、それとも呆れられるだろうか。どちらにせよ今現在最高に格好が悪いのは理解している。
「私、和菓子っていうの食べてみたい!美味しいお店知ってる?」
「…知ってる…けど、今お前クレープ食ってたろ」
「もう食べちゃった!」
「相変わらず食うの早いな…」
「ねーねー!和菓子の美味しいお店連れてってよ!」
そう言って彼女が俺の手を掴んだ。まだ少しやり切れない気持ちはあったが、その手を拒む事はできなかった。
「…わーかったよ、連れてく連れてく」
「やった!その次はどこに行くの?」
「お前の好きなまーるいチョコがたくさん売ってる店」
「え!先に言ってよ!お金たくさん持ってきたのに!」
「それくらい俺が買ってやるよ」
「私、100個くらい買うよ?」
「上等だ、受けて立ってやる」
掴まれた手を優しく握り返し歩き出す。隣に並ぶ彼女を見れば、やっと自分が望んでいたものを見る事ができたと思った。

多少の計画の乱れはあったものの自分の考えていたルートを回る事ができ、最後は彼女のお気に入りであるチョコレートの店へたどり着く。
「うわぁ〜!私の好きなチョコばっかり!こんなに種類があるなんて知らなかった!」
子供のように駆け出し店内を見て回る彼女に苦笑する。
「これはもう全種類制覇しないとダメだよ!」
「なにがダメなんだよ」
早速、一種類2個ずつ袋に詰めていく彼女の背後に立ちその様子を見守った。
「あ、私ブラックは苦手だからジュニアが2個食べてね」
「じゃあ一個でいいだろ」
「ちょっとかじらせてもらうから」
「結局食べるんじゃねぇか」
何十種類あるのか一袋では収まらず、合計3袋に大量に詰め込まれたチョコレートを持ち帰る。
「どれから食べようかな〜ジュニアは何からがいい?」
「なんでもいいな。こんだけ数があったら何食べたかなんて覚えられねぇよ」
「私は覚えられるー」
「そうかよ、じゃあお前が選んでくれ」
「わかった!」
彼女は袋に入ったチョコレートを見て、にこにこと笑っていた。
(最初はしくじったけど、なんとか上手くいったな…)
「ジュニア」
「ん?」
慌てるとつい言わなくていい事を口に出してしまう癖をどうにかしなければと改めて考えていると、並んで歩いていた彼女が俺の名前を呼んだ。
「私、好きだよ」
「…はぁ!?お前なに言って…」
そこまで言って口を閉じる。もしかするとこれはチャンスなのかもしれない。幼馴染という関係のせいで距離が近すぎたために気持ちを伝える事ができなかった俺に最高のタイミングがやってきたのではと思った。ぐっと拳を握りしめ、大きく深呼吸をした。
「…お、俺も…」
「クレープもギュウヒって和菓子も美味しくて私大好き!日本は食べ物が美味しいっていうのは本当だね!キン肉マンさん達と食べた牛丼も美味しかった!」
「…」
琥珀色の瞳をキラキラさせながら語る彼女はなんて可愛くて罪深いのだろう。俺は喉から出かかった言葉を飲み込んで肩を落とした。
「ありがとうジュニア」
「ん」
「今度はジュニアも牛丼食べようね。それともまだ他にもいい場所がある?」
若干不満ではあるものの無邪気な笑顔を向けられれば、まあいいかと思ってしまうほどに彼女の事が好きだ。
「また調べとくよ」
「うん!楽しみにしてる!」
そう言って繋いだ手を優しく握りしめた。

「ブロッケンJr.〜!クラちゃんとのデートはどうじゃったんじゃ〜?」
「あぁ?今はトレーニング中だ、話しかけてくんな!」
馴れ馴れしい呼び方に苛立ちを隠す事なく答える。合同でのトレーニング中、なんとなく聞かれるだろうと思っていたがまさか他の超人達がいる所で言われるとは思ってなかった。皆がトレーニングをしながら耳を澄ませているのがわかる。
「つれないのぅ…というかガールフレンドがおるなら教えてくれたっていいのに。恥ずかしがり屋さんなんだから!」
『ガールフレンド』という言葉にダンベルを持っていた手がぴたりと止まる。
「…違ぇよ」
「ん?なんて?」
「違ぇって言ってんだよ!」
ダンベルを投げ捨て、素早くキン肉マンの腕を取り懐へと入り込む。
「あいつとは…まだ幼馴染のままなんだーっ!!」
あれだけ恥ずかしい思いをしたのに、俺はまた言わなくていい事を大声で叫んでしまう。
キン肉マンにかけた背負い投げが見事にきまり、彼は綺麗に飛んでいったのであった。
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