キン肉マン
「ジェロニモこれあげる!」
とある冬の日。近所に住む今年小学生になったばかりの女の子に呼び止められ、小さなお菓子を渡された。
「ありがとズラ!学校でお菓子作りでもしたズラか?」
そう言うと、彼女はわざとらしく口元に手を当て驚いた。
「えー!ジェロニモ知らないの?これはバレンタインのチョコだよ!」
「ばれんたいん…って何ズラ?」
聞いた事のない言葉に首を傾げると、少女はなぜだか楽しそうにしていた。
「ジェロニモ私より年上なのに知らないの?バレンタインが何だか教えてあげようか?」
そう言うが、彼女の顔からは『教えたい!』という気持ちが滲み出ていた。
「うん、教えて欲しいズラ」
「仕方ないなぁ〜!一回しか言わないからちゃんと聞いててね!」
「わかったズラ」
お姉さんに見られたいというちょっとした憧れを持つ彼女は嬉しそうに飛び跳ねていた。
「まず、バレンタインっていうのは女の子が男の子にチョコをあげる日なの!」
「どうしてズラ?」
「それは知らない!」
そこが一番大事なのではと思いながらも、おしゃべりの止まらない少女の話に耳を傾ける。
「チョコにも種類があって、友達にあげるのが友チョコ。ジェロニモはお友達だから友チョコね」
「ともちょこ…」
自分の手の中にある、星やハート型の小さなものが沢山乗せられているお菓子を見つめた。
「で、一番大事なのが本命チョコ!」
大きな声を出した彼女に驚き思わず顔を上げれば、何やら真剣な顔をしており姿勢を正した。
「ほ、ほんめいちょこだか?」
「そう!好きな男の子にあげる大事なチョコ!」
『好きな男の子』と聞いて、好意を寄せている女性の顔が思い浮かび少しだけそわそわする。
「今年はしょう君にあげるんだ〜!」
「今年は?」
「うん。去年ははる君にあげたけど、今年はしょう君の方が好きだからしょう君!」
「なんだか複雑ズラ…」
子供の心変わりは早いと聞くが、今年は本命ではない子がなんだか可哀想に思えた。
「ジェロニモも貰えるといいね本命チョコ!」
「そ、そうズラね…」
あの人は自分にくれるだろうか。それとも他に渡したい人がいるのだろうか。そんな事ばかり気になってしまい、彼女のバレンタインデーの思い出話を聞いておらず怒られてしまった。
「ただいまズラ」
「お帰りぜろにも」
お世話になっている家へと戻れば、そこに住んでいる老夫婦が出迎えてくれた。
「あれ、姉さんはまだ仕事ズラ?」
いつもであればこの時間には仕事から帰っているはずの彼女がいない。
「あぁ仕事終わりに隣町の中村さんの家へ寄って帰るそうだ」
いつも野菜ができればお裾分けをくれる老夫婦の事だ。
「収穫の手伝いだか?でも今は時期じゃないズラよ?」
「んや、爺さんが腰を悪くしたらしくてな。それで屋根の雪下ろしをしてくるみたいだよ」
「そうだか!オラも手伝いに行ってくるズラ!」
困っているのなら助けに行かねばとすぐさま家を飛び出し、慣れない飛行で隣町へと向かった。
寒空の中、目的の家へと向かえば屋根の上で見知った人が作業しているのが見えた。
「姉さーん!手伝いに来ただよー!」
自分の声に気が付いたのか、屋根の上に登っていた人物がこちらを振り返り手を振った。
「やっぱり姉さんズラ!」
手を振り返し、さらに近づく。
「ありがとージェロニモー!落とした雪を邪魔にならない所に避けてほし…うわ!?」
「姉さん!!」
こちらを向いて手を振っていた彼女がバランスを崩した。すぐさま飛行スピードを上げ、なんとか屋根から滑り落ちそうになった彼女の身体を捕まえる。後は上昇すればいいだけ、のはずだった。
「わわわ!止まらないズラ!」
スピードを上げすぎてコントロールが効かず、そのまま雪の塊に突っ込んでしまう。
「ぶはっ!だ、大丈夫だか姉さん!」
雪に埋もれた彼女を引っ張り起こす。
「あはは!大丈夫大丈夫!」
「ごめんズラ…オラがちゃんと飛べてたらこんな事にはならなかっただよ…」
「気にしない気にしない!そもそもジェロニモが助けてくれなかったらどうなってたかわかんなかったんだし。ありがとねジェロニモ」
そう言って彼女が頭についた雪を払ってくれる。
「ど、どういたしましてズラ…気を取り直して雪かき手伝うズラ!力仕事ならオラの得意分野だ!」
沈んだ気分を振り払うようにして頭を振り、雪かきをするための道具を手に取ると早速落ちた雪を道の端へと移動させ始める。
「そうそう、切り替えは大事!苦手な事は練習すればいいし、得意な事はもっと伸ばせばいいだけ!」
「んだ!」
彼女もスコップを手に取り、自分の近くで作業を始めた。二人で作業すればあっという間に雪は片付き、老夫婦からお礼にと餅を大量に貰った。
「ほんとありがとねーおかげで早く終わったよ」
「どういたしましてズラ。困った時はお互い様ズラよ」
彼女の車の助手席に乗ってそう言った。自分が初めてここへ来た時、雪の中迷子になっていた所を助けてもらった車のシートベルトをさする。
「ほんとにそれ。助け合いは大事」
「んだんだ。あれ姉さんどこ行くズラ?」
家へと向かっていたはずの車がいつもと違う方向へ進み首を傾げた。
「ちょっとお腹空いたからさ。家まで長いし、何か食べながら帰ろうと思ってね」
そう言われたどり着いたのは、この地域唯一のコンビニだった。
「好きな物持っておいで」
「でも…」
「手伝いのお礼だからさ!」
そう言って背中を叩かれ、店内を見て回る。しかし、文化の大きく違う日本では初めて見るものが多い。
(見た事ないものばっかりでよくわからないズラ…)
結局何も持たずに彼女の元へと戻る。
「あれ、いい物なかった?」
「ん〜オラにはよくわからない物ばっかりズラ」
「そうか〜じゃあどうしようかな…あ、これは?」
そう言って彼女が指差したのは、レジの近くにあるガラスケースに入った白い丸い物。
「これは?」
「肉まんって言うの。ふわふわのパンの中にお肉が入ってる食べ物だよ」
「なんだか美味しそうズラ」
「じゃあこれにしようか」
会計を済ませ店を出ると、自分の手の中にある白い食べ物から湯気が上がる。
「熱いから気をつけてね」
「わかったズラ」
車に乗り一口頬張る。
「…おいひぃズラ〜!」
柔らかい生地の中にしっかりと味付けされた肉が入っており、思わず感嘆の声が漏れた。
「気に入ったみたいだね。良かった!」
ふと隣の彼女を見れば似たような物を持っているが中身が違う。
「姉さんのは何ズラ?」
「私のは期間限定のチョコ味なんだ。肉の代わりにチョコが入ってるの。私期間限定っていうのに弱くてさぁ〜」
「ちょこ…」
聞き覚えのある言葉に首を傾げた。
「…あ!ちょこズラ!」
先程話した少女の声が頭の中に響き、思わず声を上げる。
「うわぁ!?どした!?」
「オラ姉さんに聞きたい事があったズラ!」
「聞きたい事?」
彼女は本命チョコを用意しているのか、誰に渡すのか気になっていた。
「姉さんは本命チョ…コ…」
しかしいざ聞こうと彼女を見て、急に言葉に詰まる。
(よく考えたらオラが聞いていいズラか?もし他の人に渡すって言われたらオラ…)
「…どうしたのジェロニモ?」
もじもじと指をすり合わせ、ちらちらと彼女を盗み見る。
「…あ、姉さんはバレンタインデーって知ってるだか?今日チカちゃんに教えてもらって…姉さんはその…」
目線を上げれば、彼女は目を大きく見開き驚いていた。
「…あ、姉さん?」
「うっわ!忘れてた!そうだねバレンタインデーね!ちょっと待ってて!」
そう言うと姉さんは慌ててパンを口に放り込み、車から降りてコンビニへと入っていってしまう。
「オラ、何かいけない事でも言っただか…?」
少しすると店から彼女が走って出てきた。そして車のドアを勢いよく開けたと思うと、片手に収まるくらいのビニール袋が目の前に差し出される。
「ごめんね!長い間バレンタインデーなんて縁のない生活送ってたからすっかり忘れてた!チョコがこれしかなかったの、ほんとごめん!」
差し出された袋を受け取って見れば、小さな四角い形をしたものがたくさん入っている。
「…これオラが全部貰っていいズラ?誰かと分けるだか?」
「え?全部ジェロニモのだよ。それに渡せる相手ってジェロニモしかいないしね」
「…オラだけ?」
という事は彼女にはこれといって相手はいない。もう一度チョコレートが入った袋を見つめる。本命ではないかもしれないが、自分だけがチョコを貰えたという事実に胸が躍る。
「ありがとう姉さん。大事に食べるズラ!」
帰りの車の中、いつもなら雪景色を眺めているのに今日はカラフルなパッケージをずっと見つめていた。
家へと戻り食事と風呂を終え、炬燵に入りながら貰ったチョコレートの袋を開けて中身を取り出す。いくつか種類があり同じ絵柄を揃えて机の上に並べた。
「何やってるの…」
風呂を終えた彼女が苦笑いを浮かべながら、炬燵へと入り込む。
「今、どれから食べるか考えてただよ。今日はこれにするズラ」
そう言って、一番数の多かった白と黒の牛の絵柄が描いてあるチョコを手に取った。
「もしかして一日一個?」
「んだ」
小さなチョコレートの包装に悪戦苦闘しながらなんとか開封し口の中へと入れる。
「…美味しいズラ〜!」
「まぁ、間違いはないよね」
優しいチョコレートの味を堪能しながら、机の上に広げた他のチョコを袋へと片付けた。そして今食べたチョコの包装紙を手に取り綺麗にシワを伸ばして、それも袋の中へと入れようとすれば彼女が自分の手を取った。
「ちょっと待った!何してんの!」
「何って…初めて貰ったばれんたいんのチョコだから国に帰ってみんなに見せるズラ!」
「ええっ!?待って待ってそれはダメだ!」
そうして彼女の必死な説得に泣く泣くチョコの包装紙を手放し、最後の一つを食べてしまえば後には何も残らなかった。
「美味しかったけど、切ないズラ…」
最後のチョコレートをよく味わって食べる。
「ジェロニモーっ!」
とうとう口の中に入っていたチョコもなくなり、ぼんやりとしている所に自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向けば彼女がこちらへと走り寄ってくる。
「どうしたズラ?何かあっただか?」
「いんや、いつものように平和よ。はいこれ!この前のリベンジ!」
そう言って差し出された箱を受け取る。
「国に帰って見せたいんでしょう?流石に空き箱や包装紙は見せてもわかんないからさ。開けてみて?」
言われた通りに箱を開ければ、羽飾りのついた首飾りが入っていた。
「バレンタインって、なにもチョコじゃないといけないって決まりはないんだよ。これね、ちょっと前に見つけてさ〜!羽飾り見てたらジェロニモの顔が浮かんじゃって!」
箱からそれを取り出し、首にかける。
「この前のは間に合わせで買った物だから、これが本物って事で!うん、いい感じ!これなら国のみんなに見せても大丈夫。流石にお菓子の包紙じゃ、なんの事やらわからないでしょ?」
そう言って笑う彼女の顔を見つめた。冬なのに首から上が太陽にじりじりと焼かれているように熱い。
「…あ、ありがとうズラ…」
大きな声が自慢であるはずなのに、小さく掠れた声しか出なかった。
「どういたしまして!」
満面の笑顔にまたしても体温が上昇する。こんなに身体が熱いのは、きっと彼女が自分にとって太陽のような存在だからだ。そんな言葉が思い浮かんでしまうほど、惚れ込んでしまっているのだと思った。
とある冬の日。近所に住む今年小学生になったばかりの女の子に呼び止められ、小さなお菓子を渡された。
「ありがとズラ!学校でお菓子作りでもしたズラか?」
そう言うと、彼女はわざとらしく口元に手を当て驚いた。
「えー!ジェロニモ知らないの?これはバレンタインのチョコだよ!」
「ばれんたいん…って何ズラ?」
聞いた事のない言葉に首を傾げると、少女はなぜだか楽しそうにしていた。
「ジェロニモ私より年上なのに知らないの?バレンタインが何だか教えてあげようか?」
そう言うが、彼女の顔からは『教えたい!』という気持ちが滲み出ていた。
「うん、教えて欲しいズラ」
「仕方ないなぁ〜!一回しか言わないからちゃんと聞いててね!」
「わかったズラ」
お姉さんに見られたいというちょっとした憧れを持つ彼女は嬉しそうに飛び跳ねていた。
「まず、バレンタインっていうのは女の子が男の子にチョコをあげる日なの!」
「どうしてズラ?」
「それは知らない!」
そこが一番大事なのではと思いながらも、おしゃべりの止まらない少女の話に耳を傾ける。
「チョコにも種類があって、友達にあげるのが友チョコ。ジェロニモはお友達だから友チョコね」
「ともちょこ…」
自分の手の中にある、星やハート型の小さなものが沢山乗せられているお菓子を見つめた。
「で、一番大事なのが本命チョコ!」
大きな声を出した彼女に驚き思わず顔を上げれば、何やら真剣な顔をしており姿勢を正した。
「ほ、ほんめいちょこだか?」
「そう!好きな男の子にあげる大事なチョコ!」
『好きな男の子』と聞いて、好意を寄せている女性の顔が思い浮かび少しだけそわそわする。
「今年はしょう君にあげるんだ〜!」
「今年は?」
「うん。去年ははる君にあげたけど、今年はしょう君の方が好きだからしょう君!」
「なんだか複雑ズラ…」
子供の心変わりは早いと聞くが、今年は本命ではない子がなんだか可哀想に思えた。
「ジェロニモも貰えるといいね本命チョコ!」
「そ、そうズラね…」
あの人は自分にくれるだろうか。それとも他に渡したい人がいるのだろうか。そんな事ばかり気になってしまい、彼女のバレンタインデーの思い出話を聞いておらず怒られてしまった。
「ただいまズラ」
「お帰りぜろにも」
お世話になっている家へと戻れば、そこに住んでいる老夫婦が出迎えてくれた。
「あれ、姉さんはまだ仕事ズラ?」
いつもであればこの時間には仕事から帰っているはずの彼女がいない。
「あぁ仕事終わりに隣町の中村さんの家へ寄って帰るそうだ」
いつも野菜ができればお裾分けをくれる老夫婦の事だ。
「収穫の手伝いだか?でも今は時期じゃないズラよ?」
「んや、爺さんが腰を悪くしたらしくてな。それで屋根の雪下ろしをしてくるみたいだよ」
「そうだか!オラも手伝いに行ってくるズラ!」
困っているのなら助けに行かねばとすぐさま家を飛び出し、慣れない飛行で隣町へと向かった。
寒空の中、目的の家へと向かえば屋根の上で見知った人が作業しているのが見えた。
「姉さーん!手伝いに来ただよー!」
自分の声に気が付いたのか、屋根の上に登っていた人物がこちらを振り返り手を振った。
「やっぱり姉さんズラ!」
手を振り返し、さらに近づく。
「ありがとージェロニモー!落とした雪を邪魔にならない所に避けてほし…うわ!?」
「姉さん!!」
こちらを向いて手を振っていた彼女がバランスを崩した。すぐさま飛行スピードを上げ、なんとか屋根から滑り落ちそうになった彼女の身体を捕まえる。後は上昇すればいいだけ、のはずだった。
「わわわ!止まらないズラ!」
スピードを上げすぎてコントロールが効かず、そのまま雪の塊に突っ込んでしまう。
「ぶはっ!だ、大丈夫だか姉さん!」
雪に埋もれた彼女を引っ張り起こす。
「あはは!大丈夫大丈夫!」
「ごめんズラ…オラがちゃんと飛べてたらこんな事にはならなかっただよ…」
「気にしない気にしない!そもそもジェロニモが助けてくれなかったらどうなってたかわかんなかったんだし。ありがとねジェロニモ」
そう言って彼女が頭についた雪を払ってくれる。
「ど、どういたしましてズラ…気を取り直して雪かき手伝うズラ!力仕事ならオラの得意分野だ!」
沈んだ気分を振り払うようにして頭を振り、雪かきをするための道具を手に取ると早速落ちた雪を道の端へと移動させ始める。
「そうそう、切り替えは大事!苦手な事は練習すればいいし、得意な事はもっと伸ばせばいいだけ!」
「んだ!」
彼女もスコップを手に取り、自分の近くで作業を始めた。二人で作業すればあっという間に雪は片付き、老夫婦からお礼にと餅を大量に貰った。
「ほんとありがとねーおかげで早く終わったよ」
「どういたしましてズラ。困った時はお互い様ズラよ」
彼女の車の助手席に乗ってそう言った。自分が初めてここへ来た時、雪の中迷子になっていた所を助けてもらった車のシートベルトをさする。
「ほんとにそれ。助け合いは大事」
「んだんだ。あれ姉さんどこ行くズラ?」
家へと向かっていたはずの車がいつもと違う方向へ進み首を傾げた。
「ちょっとお腹空いたからさ。家まで長いし、何か食べながら帰ろうと思ってね」
そう言われたどり着いたのは、この地域唯一のコンビニだった。
「好きな物持っておいで」
「でも…」
「手伝いのお礼だからさ!」
そう言って背中を叩かれ、店内を見て回る。しかし、文化の大きく違う日本では初めて見るものが多い。
(見た事ないものばっかりでよくわからないズラ…)
結局何も持たずに彼女の元へと戻る。
「あれ、いい物なかった?」
「ん〜オラにはよくわからない物ばっかりズラ」
「そうか〜じゃあどうしようかな…あ、これは?」
そう言って彼女が指差したのは、レジの近くにあるガラスケースに入った白い丸い物。
「これは?」
「肉まんって言うの。ふわふわのパンの中にお肉が入ってる食べ物だよ」
「なんだか美味しそうズラ」
「じゃあこれにしようか」
会計を済ませ店を出ると、自分の手の中にある白い食べ物から湯気が上がる。
「熱いから気をつけてね」
「わかったズラ」
車に乗り一口頬張る。
「…おいひぃズラ〜!」
柔らかい生地の中にしっかりと味付けされた肉が入っており、思わず感嘆の声が漏れた。
「気に入ったみたいだね。良かった!」
ふと隣の彼女を見れば似たような物を持っているが中身が違う。
「姉さんのは何ズラ?」
「私のは期間限定のチョコ味なんだ。肉の代わりにチョコが入ってるの。私期間限定っていうのに弱くてさぁ〜」
「ちょこ…」
聞き覚えのある言葉に首を傾げた。
「…あ!ちょこズラ!」
先程話した少女の声が頭の中に響き、思わず声を上げる。
「うわぁ!?どした!?」
「オラ姉さんに聞きたい事があったズラ!」
「聞きたい事?」
彼女は本命チョコを用意しているのか、誰に渡すのか気になっていた。
「姉さんは本命チョ…コ…」
しかしいざ聞こうと彼女を見て、急に言葉に詰まる。
(よく考えたらオラが聞いていいズラか?もし他の人に渡すって言われたらオラ…)
「…どうしたのジェロニモ?」
もじもじと指をすり合わせ、ちらちらと彼女を盗み見る。
「…あ、姉さんはバレンタインデーって知ってるだか?今日チカちゃんに教えてもらって…姉さんはその…」
目線を上げれば、彼女は目を大きく見開き驚いていた。
「…あ、姉さん?」
「うっわ!忘れてた!そうだねバレンタインデーね!ちょっと待ってて!」
そう言うと姉さんは慌ててパンを口に放り込み、車から降りてコンビニへと入っていってしまう。
「オラ、何かいけない事でも言っただか…?」
少しすると店から彼女が走って出てきた。そして車のドアを勢いよく開けたと思うと、片手に収まるくらいのビニール袋が目の前に差し出される。
「ごめんね!長い間バレンタインデーなんて縁のない生活送ってたからすっかり忘れてた!チョコがこれしかなかったの、ほんとごめん!」
差し出された袋を受け取って見れば、小さな四角い形をしたものがたくさん入っている。
「…これオラが全部貰っていいズラ?誰かと分けるだか?」
「え?全部ジェロニモのだよ。それに渡せる相手ってジェロニモしかいないしね」
「…オラだけ?」
という事は彼女にはこれといって相手はいない。もう一度チョコレートが入った袋を見つめる。本命ではないかもしれないが、自分だけがチョコを貰えたという事実に胸が躍る。
「ありがとう姉さん。大事に食べるズラ!」
帰りの車の中、いつもなら雪景色を眺めているのに今日はカラフルなパッケージをずっと見つめていた。
家へと戻り食事と風呂を終え、炬燵に入りながら貰ったチョコレートの袋を開けて中身を取り出す。いくつか種類があり同じ絵柄を揃えて机の上に並べた。
「何やってるの…」
風呂を終えた彼女が苦笑いを浮かべながら、炬燵へと入り込む。
「今、どれから食べるか考えてただよ。今日はこれにするズラ」
そう言って、一番数の多かった白と黒の牛の絵柄が描いてあるチョコを手に取った。
「もしかして一日一個?」
「んだ」
小さなチョコレートの包装に悪戦苦闘しながらなんとか開封し口の中へと入れる。
「…美味しいズラ〜!」
「まぁ、間違いはないよね」
優しいチョコレートの味を堪能しながら、机の上に広げた他のチョコを袋へと片付けた。そして今食べたチョコの包装紙を手に取り綺麗にシワを伸ばして、それも袋の中へと入れようとすれば彼女が自分の手を取った。
「ちょっと待った!何してんの!」
「何って…初めて貰ったばれんたいんのチョコだから国に帰ってみんなに見せるズラ!」
「ええっ!?待って待ってそれはダメだ!」
そうして彼女の必死な説得に泣く泣くチョコの包装紙を手放し、最後の一つを食べてしまえば後には何も残らなかった。
「美味しかったけど、切ないズラ…」
最後のチョコレートをよく味わって食べる。
「ジェロニモーっ!」
とうとう口の中に入っていたチョコもなくなり、ぼんやりとしている所に自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向けば彼女がこちらへと走り寄ってくる。
「どうしたズラ?何かあっただか?」
「いんや、いつものように平和よ。はいこれ!この前のリベンジ!」
そう言って差し出された箱を受け取る。
「国に帰って見せたいんでしょう?流石に空き箱や包装紙は見せてもわかんないからさ。開けてみて?」
言われた通りに箱を開ければ、羽飾りのついた首飾りが入っていた。
「バレンタインって、なにもチョコじゃないといけないって決まりはないんだよ。これね、ちょっと前に見つけてさ〜!羽飾り見てたらジェロニモの顔が浮かんじゃって!」
箱からそれを取り出し、首にかける。
「この前のは間に合わせで買った物だから、これが本物って事で!うん、いい感じ!これなら国のみんなに見せても大丈夫。流石にお菓子の包紙じゃ、なんの事やらわからないでしょ?」
そう言って笑う彼女の顔を見つめた。冬なのに首から上が太陽にじりじりと焼かれているように熱い。
「…あ、ありがとうズラ…」
大きな声が自慢であるはずなのに、小さく掠れた声しか出なかった。
「どういたしまして!」
満面の笑顔にまたしても体温が上昇する。こんなに身体が熱いのは、きっと彼女が自分にとって太陽のような存在だからだ。そんな言葉が思い浮かんでしまうほど、惚れ込んでしまっているのだと思った。
