キン肉マン

動きの悪いカセットドアを開け、お気に入りのカセットを入れる。印字の消えかけた再生ボタンを押すと音楽が流れ始め、本来より少しとぼけた音色が聞こえる。祖父より前から受け継がれてきたカセットテープレコーダーは、現在父から私へと今も現役で渡ってきた。
「よぅ姉ちゃん!いいもん持ってんな〜!」
「うわぁ!?」
突然目の前に、へんてこなロボットみたいな人形が現れた。私は驚いてその場に尻餅をついてしまう。
「おぉ悪い悪い。なぁ、それちょっと見せてくれよ」
変なロボットは私のカセットテープレコーダーを指差した。
「そ…その前にあなたは誰ですか?」
「何ぃ!?俺の事を知らないだと!?…まぁいいか。本来だったら挨拶代わりに地獄のシンフォニーをお見舞いしてる所だが〜?今日の俺は気分がいいからやめといてやる。俺の名前はステカセキングだ」
「ステカセキング…」
よく見れば自分の持っているカセットテープレコーダーに似たような形をしていた。
(もしかしてテープレコーダー大事にしすぎて、付喪神的なものが憑いたんじゃ…!)
物を大事にすると神が宿ると聞いた事がある。信じてはいなかったがこういう事なのかと目の前のテープレコーダーに似た何かを見つめた。
「ほぉ〜こいつはかなり昔の物だな。どこで手に入れたんだ?」
「それはうちの親からもらった物で…曾祖父さんのもっと前から持ってたって…」
「すげぇな。それでもまだ動いてるなんて、すげぇよお前」
(テープレコーダーと話してる…やっぱり付喪神…?)
「物を大切にするっていい事だぜ?特にこういう精密機械はメンテナンスを怠ると、すぐやられちまう。お前、いい持ち主に会えて良かったな」
じっくり観察した後、最後にテープレコーダーに声をかけて私に返した。
「…あなたは付喪神?それともテープレコーダーの王様的な…」
「はぁ?何言ってんだ姉ちゃん。でもいいな、ステカセキングだから王様ってか!ケケケ〜!」
よくわからないが気に入られたようで、背中をバシバシと叩かれた。
「これからもそいつを大事にしてくれよ〜」
そう言って、ステカセキングというロボットのような彼は去っていった。後から聞けば悪魔超人の一人である事がわかり、よく無事だったと驚かれた。
「あれが悪魔超人?可愛いマスコットキャラクターみたいだったけど…」
そんな事を考えながら、今日もテープレコーダーにカセットをセットする。
(うん、今日もちゃんと動いてる)
周りからは、そんな古い物を使っているなんてとよく言われる。しかしこの前初めて褒められ、それが嬉しくて今までよりも時間をかけてメンテナンスをしてきた。
(またあの可愛い王様に会えないかな)
できる事なら、これを長持ちさせる方法を聞いてみたい。彼ならわかるだろう。なんせ自分の身体がこれと同じなのだから。そんな浮かれた気分で歩いていたのが良くなかったのか、捻くれた人に目をつけられてしまったらしい。
「うわっ!?」
突然タックルのような勢いでぶつかられ、バランスを崩した。倒れ込んだ方には階段があり、落ちないように慌てて手摺りを掴む。その拍子に持っていたテープレコーダーを手放してしまい、嫌な音をさせながら階段を落ちていった。
「ちょっと!!」
体当たりをしてきた男を捕まえてやろうと思ったが、それよりもテープレコーダーの方が心配になり捕まえるのは諦めて拾いに行く事にした。拾い上げたテープレコーダーは、カセットドアに大きなひびが入っており他のパーツも劣化で弱っていた部分が欠けてしまっていた。慌てて中身が壊れていないか確認するが、全く反応せず音楽は聞こえなくなっていた。
「…そんな」
「あなた大丈夫?男の人ぶつかられてたけど、怪我はない?」
親切な人が声をかけてくれる。
「私は大丈夫です…ありがとうございます」
泣いてしまいそうなのをぐっと堪え、笑顔で答えた。壊れたテープレコーダーを握りしめて、早足でその場を逃げるようにして去った。
「…ダメだ。やっぱり動いてくれない」
帰り道の途中で座り込み、必死に再生機能だけでも治らないかと色々やってみるが全く動かない。せっかく長い間大切にしてきたのに、壊れた理由が落としてしまったからなんてなんて情けないのだろう。じわりと潤んだ視界にひび割れたテープレコーダーが見える。
「よぅ、姉ちゃん!また会ったな!」
その声に顔を上げれば、ステカセキングが目の前に立っていた。
「ゲ、なんで泣いてんだよ。誰かにいじめられたか?物を大切にする仲間同士だ、言ってくれたら俺が代わりに仕返ししてやるぜ〜?」
「…仕返しよりも、これを治してほしいです」
「はぁ〜?仕返しよりも大事なのかよぉ〜」
ステカセキングは差し出したテープレコーダーを見ると、すぐさましゃがみ込みそれを手に取った。
「…あ〜こりゃ派手にいったな」
「…私がぼんやりしてて、それで…」
「あぁもう泣くな泣くな!俺が泣かせてるみたいじゃねぇか!安心しろよ、元通りにはならねぇが治してやるぜ」
「…本当に?」
「俺に任せとけ!」
そう言われて彼に連れて行かれたのは、よくあるの中古品売り場。
「じゃーん、ここは宝の山だぜぇ!この中から、こいつと同じ型の物を探すんだ」
「別の物を買えと?」
「違う違う。ここにあるのはどこか一部が壊れて、動かなくなった道具達だ。使える部品を貰うんだよ。本来ならやり方次第で、こいつらはまだまだ現役でもいけるんだぜ〜?」
そう言って、ステカセキングはたくさんの小型機器がまとめて入れられた箱を漁る。その中から一つのテープレコーダーを引っ張り出した。
「ほら、例えばこいつ。本体は綺麗だろ?でも、中身が錆びてて使えねぇ。だから、こいつのボディだけを使わせてもらうんだ」
「…なるほど」
「こいつもまた使ってもらえてラッキー!って所だな。ケケケ」
そして彼はまた箱の中を漁り出した。自分もそれを見て、使えそうな物がないか探してみる事にした。しばらく探して、いくつか似た物を見つけ出しそれを購入した。店員は変な顔で私を見ていたが、後ろにいたステカセキングが目に入った途端に顔を真っ青にした。彼が悪魔超人として恐れられているのは本当らしい。
「よ〜し、じゃあ治してくぜ〜!姉ちゃんはこいつらをバラしてくれ」
「は、はい」
言われた通りに、次々とテープレコーダーを分解していく。彼の言った通り、中にはまだ使えそうな物達も多くあった。
「人間は新しいもん好きだからな〜次が出ると今持ってるもんをすぐに手放して、次に行っちまう。もったいねぇよな〜」
ぶつぶつと文句を言いながら、器用に部品を組み立てていく。慣れた手つきに感心しながら見ていると、突然彼が多分顔であろう部分を赤く染めた。
「そ、そんなに見つめんなよ。照れるだろ!」
「えっ、ご、ごめんなさい…」
「ケケケ!本気にすんなよ、冗談だ。見たけりゃ見てろよ、自分で治せりゃまた壊れても泣かないで済むぜ〜?」
私が泣いていた事を今になって揶揄ってくる彼は少し意地が悪いと思った。でも、本当の事なので悔しいと思いながらも彼の手つきを観察させてもらう。
「よーし、これでいいだろ。使ってみな?」
渡されたテープレコーダーにカセットを入れて再生する。
「…聞こえる!ちゃんと治ってます!」
「ケケケ!治ってなきゃ困るぜ!どうだ、生まれ変わったそいつはよぉ!」
前よりもハッキリと音が聞こえ、カセットドアの引っかかりもなくなってスムーズになった。
「前のそいつとはちょっと違うが、そりゃ色んな奴のパーツ使ってんだから仕方ねぇな」
「いいです。これならまだ長く使えそうですから」
そう言えば、嬉しそうにステカセキングが笑った。
「姉ちゃん、あんたは救世主だぜ?こいつ以外のテープレコーダーも助けたんだ。あそこにいた奴らは、まだ使えるのにゴミになっちまう運命だった奴らなんだぜ?それをまた使えるようにした。最高じゃねぇか!」
「でも助けたのはあなたで…」
「あのな、治せても使ってくれなきゃ意味ねぇんだ。道具ってのは、使ってもらってこそ生まれてきた意味があるんだよ」
ステカセキングはそう言うと、立ち上がって大きく伸びをした。
「さぁーて、やる事も終わったし俺は帰るぜ〜」
「ありがとうございます!」
「シッ!お礼はノーサンキューだっ!じゃあ姉ちゃんも気をつけろよ〜人間ってのは変なヤツが多いからな〜」
そう言われて、これが壊れた原因を作ったタックル男が思い浮かんだ。次会ったら絶対に捕まえてやると拳を力強く握る。
「まぁ、同じヤツにはもう会う事なんてないだろうけどな!ケケケ!」
「…え?」
彼の意味深な言葉に顔を上げれば、暗闇の中に三日月に光る目を残して、笑い声と共に消えていった。
次の日。どこかの会社員が何者かによって大怪我を負わされたというニュースが流れ、彼が別れ際に言っていた言葉の意味に気づいた。そして私は改めて、彼が悪魔超人である事を思い知ったのであった。
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