キン肉マン
「あぁ…どうしよう…」
時計はすでに0時を過ぎ、日付は次の日に変わっている。ベットに入ってからなかなか寝付けず何度も寝返りを打った。
「明日は…いや、もう今日か」
壁にかけられたカレンダーには、今日の日付に赤色で大きく花丸が描かれている。そう、今日は思いを寄せていた彼女との初めてのデートの日なのだ。
なかなか想いを伝えられず、結局お節介焼きのキン肉マンの後押しでデートをしてもらえる事となったのだ。
「あの時は他の超人達もいたから断りにくかっただろうな…」
不安と緊張からマイナスな事しか浮かばない。それが余計に寝付けない原因となる。
「デートなんてした事ないし、女性と二人きりなんて…どうしたらいいんだ」
明日はキン肉マンはいない。俺一人で彼女を楽しませなければならない。頭から煙が出そうだった。流石にそろそろ寝なければ、今日のデートに影響が出てしまう。しかし、忙しく頭の中は働いていて寝かせてくれそうにない。
「俺のコンピューターで調べればなんとか…」
そこで気づいた。俺は機械なのだ、強制オフ機能がある。少し不安はあったが寝ずに向かうよりはいいと使ってみる事にした。
「…再起動も大丈夫。おやすみパーパ、マーマ」
亡き両親にいつもの挨拶をして、パタリとベットへ倒れた。
「ニコライ起きて!」
「起きるんだニコライ、大切な約束に遅刻してしまうぞ!」
ぼんやりとした意識の中、懐かしい声が聞こえた。うっすらと目を開ければ、いないはずの両親が心配そうに自分を見ていた。
「パーパ、マーマ…」
情けない俺のために二人が心配して夢にまで出てきてくれたのかと、熱くなった目元を押さえた。
「さぁ早く起きて準備しなきゃ、初めてのデートで遅刻なんてダメよ!」
「そうだ、約束が守れない男は信頼を得られないぞ」
「…え」
夢かと思っていた二人は、はっきりと意識が覚醒した後も視界に映っていた。
「な、なんでパーパとマーマがいるの!?」
「いたらダメなのか?」
「そんな事より早く着替えなさい。ニコもしかして、試合のコスチュームのまま行こうとしてるんじゃないでしょうね」
「え、え…?」
部屋の中を右往左往する母、その様子を見つめる父。あり得ない光景に頭の中が混乱している。
「も、もしかして強制オフをしたから何かバグが起こったんじゃ…!」
恐る恐る立っている父へと手を伸ばす。伸ばした手は彼の身体を通り抜けた。
「やっぱり…」
やはり何かの機能がバグを起こし、いないはずの二人の幻影を映しているだけだった。証拠に二人に実体はなく、触れられないのだ。
「…」
わかってはいたものの、その事実にため息をついた。
「どうしたニコライ。これからデートだというのにそんな顔をして。楽しみじゃないのか?」
「パーパ…」
「ニコ!ぼんやりしている暇はないわ、時計を見て!」
そう言われて時計を見れば、約束の時間が迫っていた。
「大変だ!」
慌ててあらかじめ用意していた荷物を手に取り、上着を羽織る。
「待ってニコ!ハンカチは持った?」
「ちゃんと準備してるよマーマ!」
幼い頃を思い出させるような会話に、鼻の奥をつんとさせながら家を飛び出した。たとえバグでも、わずかな間夢を見させてくれた事に感謝した。
「はぁ、はぁ…良かった。まだ彼女は来てない」
全速力で走ったので、待ち合わせ時間の15分前に着いてしまった。乱れた服を整えて、彼女が来るのを待った。
「そう言えば花は用意しなくて良かったのか?」
「あなた、これから別の場所に行くのに花束なんてあげたら荷物になるでしょう?それに花束はちょっと時代が古いわよ」
「そうなのか」
「…」
冷や汗が背中を流れる。先ほどまではこのバグに感謝をしていたが、今は困惑が勝ってしまっていた。部屋に現れた二人の幻像が、今また俺の目の前に立っている。
「どうしよう、バグが治らない!」
そう言って頭を抱えると二人が笑った。
「私達の事は気にしないで、どうせ彼女さんには見えないもの」
「初めてのデートだろう?父さん達がついているから安心しなさい」
つまりこのバグが治らなければ二人はずっと俺の視界に映り続け語りかけてくる。本来であればこんな幸せな事はない。だが今は彼女とのデートに集中したいのだ。
「ふ、二人共お願いだから…」
「ウォーズマンさん、ごめんなさい。待たせてしまったみたいで…」
背後から聞こえた声に慌てて振り返れば、彼女が近くまで来ていた。
「だ、大丈夫時間通りだから、俺が早く来過ぎただけなんだ」
「まぁ美人さんね!」
「母さんみたいに綺麗な髪色をしているな!」
「もういやだ、あなたったら」
後ろから二人の楽しそうな声が聞こえ、慌てて頭を振った。
「どうしました?」
「!?いや、なんでもない…大丈夫」
本当は大丈夫なんかじゃない。でも今のこの状態を彼女に伝える事はできなかった。死んだ両親がコンピューターのバグで話しかけてくるなんて言えない。
「どこに行きましょうか?」
そう言われてハッと気付いた。彼女が来る前に調べておこうと思っていたのに、バグのせいですっかり忘れていた。
「ご、ごめん!ちょっと待ってくれ、すぐ調べるから」
「調べる?」
カシャカシャと身体から機械音をさせれば、彼女が驚いた顔をして俺を見た。気持ち悪かっただろうか。そんな不安がよぎるも、行く場所を決めねば始まらない。自身のコンピュータを使ってデートにぴったりな場所を探し出す。
「ゆっくり話したいなら、この先にいいカフェがあるわ!」
「テイクアウトもできるはずだ。近くに公園もあるから、そこで食べるのもいいぞ」
検索の途中で二人の会話が入り込んでくる。
「…この先にカフェ…テイクアウト…公園?」
「あ、確かにありますね。そうします?」
「え!?あ、そ、そうしようか」
思わず口にしてしまった言葉を拾われ、正確に調べる前にそこへ行く事になってしまった。
(危ない…彼女には二人の声が聞こえないんだ。パーパ、マーマ、お願いだから今は静かにしててくれ…!)
自分の機能のせいなのに、全くコントロールができない。デートよりもこっちの方が不安になってきた。
「わぁ!たくさん種類があるんですね、迷うなぁ」
サンドイッチにハンバーガー、ホットドッグにピザ。甘い物ならドーナツにスコーン、アップルパイなどなど。種類豊富なメニューに色々と目移りしてしまう。
「どれがおすすめなんでしょうね。あ、もしかしてこれも調べる事ができるんですか?」
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。やってみる」
メニュー表をスキャンして検索機能にかける。カシャカシャとまた音がするがもう彼女は気にしていないようで、俺が答えを出すのを待っていた。
「…人気なのはハンバーガーだそうだ。でも味は美味しいが、食べにくいので口元や手が汚れるらしい。食べにくさを気にしないのならいいと思う」
「なるほど、ではドーナツはどうですか?」
「ドーナツは…女性人気が高いな。食べやすいのと、さほど甘過ぎないのがいいらしい。ドリンクとの相性が抜群だそうだ」
「そうですか、ではドーナツを」
そうして食べ物と飲み物を買い、近くの公園へと向かう。公園には走り回る子供達や世間話に花を咲かせている老人達がいた。それぞれが思い思いに楽しんでいる中に、自分達も入り込む。
「それにしても自分の中で調べる事ができるなんて、すごい特技があるんですね」
「そんな大した事じゃない。あらかじめ色んなデータを集めて、そこから最適なものを探してるだけなんだ」
「なるほど…すごいですね!ありがとうございます」
「お礼なんて…俺は機械だから、そういう事ができるんだ」
「ふふ、私がお礼を言ったのはその機能を使ってくれた事じゃないですよ」
「え?」
「あなた言ったじゃないですか。あらかじめ色んなデータを集めてたって。それって、今日のためにたくさんのお店を調べていてくれたって事ですよね?」
「あ…」
そう言われ、思わず目を逸らした。確かにその通りでデートの日が決まってからテレビに雑誌など色んなものに目を通した。なんだか恥ずかしくなり、彼女から目を逸らす。
「それとも、色んな女の人をデートに誘うために常日頃から情報を集めてたり?」
「そ、そんなんじゃない!その…」
「冗談です。そんな風には見えませんから」
否定しようと慌てて彼女の方を見れば、ドーナツを頬張りながら楽しそうに笑っていた。揶揄われたと恥ずかしくなり、また目を逸らすと大きな身体を縮こませるように膝を抱き寄せた。
「少しいたずら好きさんだけど、いい人ね」
「…うん。いい人だなって思ったから、好きになったんだ」
母の声にそう答えた。試合会場で偶然見かけた彼女。転んだ子供に手を差し伸べ手当てをする姿に、一目惚れをしてしまった。たったそれだけの事でも、自分の心を動かすのには十分だった。
「そういう事は、本人に直接言うのがいいですよ」
「え?」
彼女の声に顔を向ければ、にこにこと笑いながらこちらを見ていた。
「…あっ!?い、今のは!」
「先程からどなたと話しているのかわかりませんが、思っている事は直接伝えてもらえる方が私は嬉しいです」
「…そ、そのごめん。実はコンピューターのバグで…」
俺は今の状態を最初から説明する事にした。信じてもらえるかわからなかったが、誤魔化す事もできないと腹を括る事にした。
「なるほど…だからずっときょろきょろしていたんですね」
彼女は俺の話を気味悪がる事なく納得してくれた。
「変だと思わないのかい?」
「え?私は人間ですから超人の事はわからないですし、ましてやロボットとなると知らない事だらけですから。そんな事もあるんだってくらいですね」
「…」
「私の普通とあなたの普通は違うので。それを知るためにデートに誘ってくれたんじゃないんですか?」
そう言って優しく笑いかけてくれる彼女に、カタカタと心臓部から音がする。
「大丈夫ですか?変な音がしてますよ、緊張している証拠でしょうか?」
俺の変化を楽しむように笑う、彼女に心臓部の音がまた一段と速くなる。
「…えっと、その…」
シューと空気の抜ける音がした。それを見て彼女が笑った。
「大変、今度は煙が出てきた。本当に大丈夫ですか?」
それを見て彼女ならこんな自分でも受け入れてくれる。そう思って姿勢を正し、彼女へ向き直る。
「その、俺はこんなだけど…君の事が好きで…良ければ、またこうして会ってほしい…」
そう言うと、彼女も姿勢を正してこちらを向いた。
「こちらこそ。こんな人間ですけど、よろしくお願いします」
カタカタとまた音が大きくなる。
「こんなだなんて…君は素敵な人だよ」
「ならあなたも自分の事を否定しないで?あなたも素敵な人よ」
その言葉に無意識に自分を卑下していた事に気づかされる。
「…うん。ごめん、気をつけるよ」
広い公園でたくさんの人が楽しそうに過ごしている中、背筋を伸ばして向かい合い笑う俺達。そんな光景に安心したのか、気づけば両親の姿は見えなくなっていた。
時計はすでに0時を過ぎ、日付は次の日に変わっている。ベットに入ってからなかなか寝付けず何度も寝返りを打った。
「明日は…いや、もう今日か」
壁にかけられたカレンダーには、今日の日付に赤色で大きく花丸が描かれている。そう、今日は思いを寄せていた彼女との初めてのデートの日なのだ。
なかなか想いを伝えられず、結局お節介焼きのキン肉マンの後押しでデートをしてもらえる事となったのだ。
「あの時は他の超人達もいたから断りにくかっただろうな…」
不安と緊張からマイナスな事しか浮かばない。それが余計に寝付けない原因となる。
「デートなんてした事ないし、女性と二人きりなんて…どうしたらいいんだ」
明日はキン肉マンはいない。俺一人で彼女を楽しませなければならない。頭から煙が出そうだった。流石にそろそろ寝なければ、今日のデートに影響が出てしまう。しかし、忙しく頭の中は働いていて寝かせてくれそうにない。
「俺のコンピューターで調べればなんとか…」
そこで気づいた。俺は機械なのだ、強制オフ機能がある。少し不安はあったが寝ずに向かうよりはいいと使ってみる事にした。
「…再起動も大丈夫。おやすみパーパ、マーマ」
亡き両親にいつもの挨拶をして、パタリとベットへ倒れた。
「ニコライ起きて!」
「起きるんだニコライ、大切な約束に遅刻してしまうぞ!」
ぼんやりとした意識の中、懐かしい声が聞こえた。うっすらと目を開ければ、いないはずの両親が心配そうに自分を見ていた。
「パーパ、マーマ…」
情けない俺のために二人が心配して夢にまで出てきてくれたのかと、熱くなった目元を押さえた。
「さぁ早く起きて準備しなきゃ、初めてのデートで遅刻なんてダメよ!」
「そうだ、約束が守れない男は信頼を得られないぞ」
「…え」
夢かと思っていた二人は、はっきりと意識が覚醒した後も視界に映っていた。
「な、なんでパーパとマーマがいるの!?」
「いたらダメなのか?」
「そんな事より早く着替えなさい。ニコもしかして、試合のコスチュームのまま行こうとしてるんじゃないでしょうね」
「え、え…?」
部屋の中を右往左往する母、その様子を見つめる父。あり得ない光景に頭の中が混乱している。
「も、もしかして強制オフをしたから何かバグが起こったんじゃ…!」
恐る恐る立っている父へと手を伸ばす。伸ばした手は彼の身体を通り抜けた。
「やっぱり…」
やはり何かの機能がバグを起こし、いないはずの二人の幻影を映しているだけだった。証拠に二人に実体はなく、触れられないのだ。
「…」
わかってはいたものの、その事実にため息をついた。
「どうしたニコライ。これからデートだというのにそんな顔をして。楽しみじゃないのか?」
「パーパ…」
「ニコ!ぼんやりしている暇はないわ、時計を見て!」
そう言われて時計を見れば、約束の時間が迫っていた。
「大変だ!」
慌ててあらかじめ用意していた荷物を手に取り、上着を羽織る。
「待ってニコ!ハンカチは持った?」
「ちゃんと準備してるよマーマ!」
幼い頃を思い出させるような会話に、鼻の奥をつんとさせながら家を飛び出した。たとえバグでも、わずかな間夢を見させてくれた事に感謝した。
「はぁ、はぁ…良かった。まだ彼女は来てない」
全速力で走ったので、待ち合わせ時間の15分前に着いてしまった。乱れた服を整えて、彼女が来るのを待った。
「そう言えば花は用意しなくて良かったのか?」
「あなた、これから別の場所に行くのに花束なんてあげたら荷物になるでしょう?それに花束はちょっと時代が古いわよ」
「そうなのか」
「…」
冷や汗が背中を流れる。先ほどまではこのバグに感謝をしていたが、今は困惑が勝ってしまっていた。部屋に現れた二人の幻像が、今また俺の目の前に立っている。
「どうしよう、バグが治らない!」
そう言って頭を抱えると二人が笑った。
「私達の事は気にしないで、どうせ彼女さんには見えないもの」
「初めてのデートだろう?父さん達がついているから安心しなさい」
つまりこのバグが治らなければ二人はずっと俺の視界に映り続け語りかけてくる。本来であればこんな幸せな事はない。だが今は彼女とのデートに集中したいのだ。
「ふ、二人共お願いだから…」
「ウォーズマンさん、ごめんなさい。待たせてしまったみたいで…」
背後から聞こえた声に慌てて振り返れば、彼女が近くまで来ていた。
「だ、大丈夫時間通りだから、俺が早く来過ぎただけなんだ」
「まぁ美人さんね!」
「母さんみたいに綺麗な髪色をしているな!」
「もういやだ、あなたったら」
後ろから二人の楽しそうな声が聞こえ、慌てて頭を振った。
「どうしました?」
「!?いや、なんでもない…大丈夫」
本当は大丈夫なんかじゃない。でも今のこの状態を彼女に伝える事はできなかった。死んだ両親がコンピューターのバグで話しかけてくるなんて言えない。
「どこに行きましょうか?」
そう言われてハッと気付いた。彼女が来る前に調べておこうと思っていたのに、バグのせいですっかり忘れていた。
「ご、ごめん!ちょっと待ってくれ、すぐ調べるから」
「調べる?」
カシャカシャと身体から機械音をさせれば、彼女が驚いた顔をして俺を見た。気持ち悪かっただろうか。そんな不安がよぎるも、行く場所を決めねば始まらない。自身のコンピュータを使ってデートにぴったりな場所を探し出す。
「ゆっくり話したいなら、この先にいいカフェがあるわ!」
「テイクアウトもできるはずだ。近くに公園もあるから、そこで食べるのもいいぞ」
検索の途中で二人の会話が入り込んでくる。
「…この先にカフェ…テイクアウト…公園?」
「あ、確かにありますね。そうします?」
「え!?あ、そ、そうしようか」
思わず口にしてしまった言葉を拾われ、正確に調べる前にそこへ行く事になってしまった。
(危ない…彼女には二人の声が聞こえないんだ。パーパ、マーマ、お願いだから今は静かにしててくれ…!)
自分の機能のせいなのに、全くコントロールができない。デートよりもこっちの方が不安になってきた。
「わぁ!たくさん種類があるんですね、迷うなぁ」
サンドイッチにハンバーガー、ホットドッグにピザ。甘い物ならドーナツにスコーン、アップルパイなどなど。種類豊富なメニューに色々と目移りしてしまう。
「どれがおすすめなんでしょうね。あ、もしかしてこれも調べる事ができるんですか?」
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。やってみる」
メニュー表をスキャンして検索機能にかける。カシャカシャとまた音がするがもう彼女は気にしていないようで、俺が答えを出すのを待っていた。
「…人気なのはハンバーガーだそうだ。でも味は美味しいが、食べにくいので口元や手が汚れるらしい。食べにくさを気にしないのならいいと思う」
「なるほど、ではドーナツはどうですか?」
「ドーナツは…女性人気が高いな。食べやすいのと、さほど甘過ぎないのがいいらしい。ドリンクとの相性が抜群だそうだ」
「そうですか、ではドーナツを」
そうして食べ物と飲み物を買い、近くの公園へと向かう。公園には走り回る子供達や世間話に花を咲かせている老人達がいた。それぞれが思い思いに楽しんでいる中に、自分達も入り込む。
「それにしても自分の中で調べる事ができるなんて、すごい特技があるんですね」
「そんな大した事じゃない。あらかじめ色んなデータを集めて、そこから最適なものを探してるだけなんだ」
「なるほど…すごいですね!ありがとうございます」
「お礼なんて…俺は機械だから、そういう事ができるんだ」
「ふふ、私がお礼を言ったのはその機能を使ってくれた事じゃないですよ」
「え?」
「あなた言ったじゃないですか。あらかじめ色んなデータを集めてたって。それって、今日のためにたくさんのお店を調べていてくれたって事ですよね?」
「あ…」
そう言われ、思わず目を逸らした。確かにその通りでデートの日が決まってからテレビに雑誌など色んなものに目を通した。なんだか恥ずかしくなり、彼女から目を逸らす。
「それとも、色んな女の人をデートに誘うために常日頃から情報を集めてたり?」
「そ、そんなんじゃない!その…」
「冗談です。そんな風には見えませんから」
否定しようと慌てて彼女の方を見れば、ドーナツを頬張りながら楽しそうに笑っていた。揶揄われたと恥ずかしくなり、また目を逸らすと大きな身体を縮こませるように膝を抱き寄せた。
「少しいたずら好きさんだけど、いい人ね」
「…うん。いい人だなって思ったから、好きになったんだ」
母の声にそう答えた。試合会場で偶然見かけた彼女。転んだ子供に手を差し伸べ手当てをする姿に、一目惚れをしてしまった。たったそれだけの事でも、自分の心を動かすのには十分だった。
「そういう事は、本人に直接言うのがいいですよ」
「え?」
彼女の声に顔を向ければ、にこにこと笑いながらこちらを見ていた。
「…あっ!?い、今のは!」
「先程からどなたと話しているのかわかりませんが、思っている事は直接伝えてもらえる方が私は嬉しいです」
「…そ、そのごめん。実はコンピューターのバグで…」
俺は今の状態を最初から説明する事にした。信じてもらえるかわからなかったが、誤魔化す事もできないと腹を括る事にした。
「なるほど…だからずっときょろきょろしていたんですね」
彼女は俺の話を気味悪がる事なく納得してくれた。
「変だと思わないのかい?」
「え?私は人間ですから超人の事はわからないですし、ましてやロボットとなると知らない事だらけですから。そんな事もあるんだってくらいですね」
「…」
「私の普通とあなたの普通は違うので。それを知るためにデートに誘ってくれたんじゃないんですか?」
そう言って優しく笑いかけてくれる彼女に、カタカタと心臓部から音がする。
「大丈夫ですか?変な音がしてますよ、緊張している証拠でしょうか?」
俺の変化を楽しむように笑う、彼女に心臓部の音がまた一段と速くなる。
「…えっと、その…」
シューと空気の抜ける音がした。それを見て彼女が笑った。
「大変、今度は煙が出てきた。本当に大丈夫ですか?」
それを見て彼女ならこんな自分でも受け入れてくれる。そう思って姿勢を正し、彼女へ向き直る。
「その、俺はこんなだけど…君の事が好きで…良ければ、またこうして会ってほしい…」
そう言うと、彼女も姿勢を正してこちらを向いた。
「こちらこそ。こんな人間ですけど、よろしくお願いします」
カタカタとまた音が大きくなる。
「こんなだなんて…君は素敵な人だよ」
「ならあなたも自分の事を否定しないで?あなたも素敵な人よ」
その言葉に無意識に自分を卑下していた事に気づかされる。
「…うん。ごめん、気をつけるよ」
広い公園でたくさんの人が楽しそうに過ごしている中、背筋を伸ばして向かい合い笑う俺達。そんな光景に安心したのか、気づけば両親の姿は見えなくなっていた。
