キン肉マン
外を歩いていると、突然足元に穴ができ胸から下が地面に埋まる。というより、どこか別の場所に出ている。
「〜っ!やめてよ!ブラックホール!」
大きな声をあげれば、小さく笑いながら地面からぬるっと黒い物体が現れた。
「相変わらず間抜けだな、お前は」
そう言って、私を見下ろすのは悪魔超人のブラックホール。私は彼をぎっと一度睨みつけると、キョロキョロと周囲を見渡した。
「ペンタゴン!助けて!ブラックホールがまた私をいじめるの!」
「お前…」
「ペンタゴン!」
「はいはい。もう、やめなよブラック。子供じゃないんだからさ」
地面の下から声が聞こえたと思うと、ブラックホールの作った穴が一回り大きくなって完全に落ちた私を白い腕が抱き止める。
「ペンタゴン!」
「やぁ、久しぶり」
彼は私を抱えたまま飛び上がり、地面へと降ろす。
「ありがとうペンタゴン!」
「どういたしまして」
「…ちっ、いつもいつも困ったらこれだ。自力でなんとかしようと思わないのか」
私はペンタゴンの後ろへ逃げ、腕を組んだブラックホールを睨みつけた。
「なんとかできないからペンタゴンに助けてもらってるの!私は二人みたいになんの力も持ってないんだから!」
私はこの二人の遠い親戚でもあり、昔から交流があった。彼らは自由に場所を行き来できる能力を持っているが、私は親戚でありながらそういった能力を持たずに生まれてきた。そのせいで、昔からブラックホールには馬鹿にされてきたのだ。
「俺らの親戚なのにな」
「仕方ないよ。親戚といっても私達からかなり遠い親戚だから、血が薄くなっちゃう事もあるさ」
ペンタゴンの助言にそうだと頷けば、ブラックホールは面白くなさそうに舌打ちした。
「そうやってそいつに甘えてるから、お前はいつまで経っても間抜けなんだよ」
「やめなよブラック」
「別に間抜けでもいいし!困ってないもん!」
彼の顔からは感情というものは読めないが、雰囲気で苛立っているのはわかった。また変な所に飛ばされないよう、ペンタゴンにしっかりと捕まった。
「…ちっ」
彼はまた舌打ちすると、私達に背を向けずるずると地面の下へ沈んでいく。
「どこ行くのブラック」
「そこらへん」
「ブラックの言うそこらへんって広いんだよねぇ」
ペンタゴンの言葉には答えず、そのまま地面の下へと吸い込まれるようにして消えた。私はほっと息をつき、ペンタゴンから手を離す。
「もう嫌い、ブラックホール」
「そんな事言わないでくれよ。親戚なんだからさ。ブラックは君を心配しているんだよ」
「心配〜?あれが?どちらかというと危険に晒してるのはブラックホールの方じゃん!」
小さい頃はあのどこへ繋がっているかわからない穴から知らない場所へ落としたり、時には真っ暗な空間に閉じ込めて泣かされた。成長してからは大事な場面を何度も邪魔されたのだ。
「聞いてよ!この前好きな人に告白しようとしたら、ブラックホールがその彼を穴に落としちゃったんだよ!?おかげで告白できなかったし、その後連絡も取れなくなっちゃって…」
「へぇ〜それは…うん、残念だったね。縁がなかったって事だよ」
「これ一回だけじゃないんだよ!?今までず〜っと!私の邪魔ばっかりするんだから!どうにかしてよペンタゴン〜!」
「そんな事言われてもなぁ。ブラックなりの考えがあってやってる事だろうし」
「ただの嫌がらせにしか思えないけど!」
タッグを組むほどの仲だからか、私を助けてはくれるがペンタゴンはいつもブラックホールの味方だ。膨れた顔をしていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「まあ、そのうちわかるさ」
彼はそう言って、仕事があると白い羽を広げて飛んでいってしまった。
「何よ、理由があるなら教えてくれたっていいじゃん!」
私は見えなくなった彼の背中に向かって叫んだ。
ある日私は一冊の旅行雑誌を見ながら、ペンタゴンへ声をかける。
「ねぇペンタゴン!今週の休み暇?」
「ん?確か予定はなかったけど、どうしたんだい?」
私はとあるページを開いて、彼に見せた。
「私、ここに行きたいんだけど。用事がないなら連れて行って!」
「えーと、オランダのキューケンホフ公園?」
ペンタゴンは顎に手を当てながら、雑誌を見つめた。
「そう!今の時期が見頃なの!でも外国に一人で行くのは怖いし、飛行機も怖いし…ペンタゴンなら空を飛んで行けるでしょ?」
「飛行機がダメなら、僕もダメじゃない?」
「飛行機は不安だけど、ペンタゴンは落ちたりしないでしょ?だから大丈夫」
「飛行機の方が安全だし、快適だと思うんだけどな。あ、私よりブラックに頼みなよ。ブラックなら一瞬で連れて行ってくれるじゃないか」
彼の名前が出てきて、すぐさま顔を横に振った。
「絶対ない!そんな事言ったら『そんなくだらない事に俺の力を使うな』って絶対言うもの!」
「そんな事ないよ」
「それに私、この前ブラックに二度と関わらないでって言ったし」
「へぇ…え!?なんでそんな事に!?」
ペンタゴンは驚いて翼をはためかせた。
「別に大した事ないよ」
「いや大した事あるでしょ!何があったのさ」
私は教えたくなかったが、彼があまりにもしつこく聞いてくるのでしかたなく説明する事にした。
それは自身の誕生日にと買ったマグカップを持って歩いていた時だった。いつものように突然足元が消えると、歩いていた場所とは違う場所へと落ち尻餅をつく。
「痛っ!?」
じんわりと鈍い痛みが広がり、この原因を作った相手を睨みつける。
「もう!何するのよ!」
「お前が間抜けだからだ。毎度毎度、周りを見て歩けとあれほど…」
ブラックホールが何か言いかけていた途中で、はっと自分が持っていた物を思い出した。慌ててマグカップの入っている箱の蓋を開けると、やはり中身は真っ二つに割れてしまっていた。落ちた衝撃で割れてしまったのだろう、使う事ができなくなってしまったマグカップを見つめた。
「おい、聞いてるのか。お前はいつも人の話を聞かな…」
「嫌い…」
「何?」
「ブラックホールなんて大嫌い!」
私は持っていたマグカップを箱ごと彼に投げつけた。彼は驚きはしたものの簡単にそれをキャッチし、それがとても悔しかった。
「なんで私に構うの、間抜けならほっとけばいいじゃない!どうせ私は無能よ!」
「おい、待て…」
自分で言って、悔しくて涙が溢れる。なんで私は普通の人として生まれてきたのか。
「間抜けな私が嫌いなんでしょ!?だったら今後一切私に関わらないで!」
そう言い捨てると、走ってその場を離れた。それからは一切彼にはあってないし、彼の嫌がらせにも合っていない。
「はぁ、もうブラックってば…」
「そんなに間抜け間抜け言うなら、二度と関わらなければいいのよ。ほっといてくれればいいの、私は超人でもないし戦わないんだから」
ペンタゴンは額に手を当て悩んでいるようだった。
「もういいの。ねぇ、それよりここに連れて行って!私、サンドイッチ作っていくから!」
「んーそうだなぁ…」
彼は少しの間考えた後、ぽんと手を叩いた、
「いいよ、連れて行くさ」
「ほんと?ありがとう!さすがペンタゴン!」
「じゃあ今週の休みに迎えに行くから、準備しててね」
「うん、わかった!」
綺麗な花でも見れば、この傷ついた心が少しくらい癒やされるだろうと雑誌を見つめたのだった。
そして当日、白い彼は待ち合わせ時間になっても来ない。何かあったのかと連絡しようとすれば、タイミングよく彼からメッセージが届いた。
『ごめん!急用が入って、行けなくなっちゃった⭐︎』
最後の星がなんとなく腹立たしい。でも無理を言ったのはこちらなので、大丈夫だと連絡する。仕方ないので家で映像でも見て済ませるかと思っていれば、すぐさま返事が来た。
『でも心配しないで!代打を頼んでおいたから!それじゃ楽しんできて⭐︎』
「代打ってどういう事?」
そのメッセージを睨んでいると、すっと足元が消えた。この展開はよく知っている。ふわりと身体が浮く気持ち悪さと来るであろう痛みに目を閉じて歯を食いしばるが、ゆっくりと安定した場所に着地した私は不思議に思いながら目を開けた。
「…うわぁ…!」
目の前には色とりどりのチューリップが並んでおり、雑誌で見た光景が広がっていた。
「え、何?どういう事?」
この移動の仕方は黒い彼にしかできない。もしかしてまた嫌がらせかもと、周囲を警戒しながら立ち上がる。
「幻覚だったり、近くに落とし穴とかあったり…」
近くの地面を片足で踏んで確かめたり、チューリップに触れてみるが本物であった。
「…じゃあ、ここ…オランダ?」
どうやら本当にオランダのキューケンホフ公園に来ている。ペンタゴンが言っていた代打というのはブラックホールの事らしい。しかし彼の姿は見当たらない。いつもなら小言を言ってくるはずなのに、目の前に現れないのだ。
(そっか、二度と関わらないでって言ったもんな…)
きっとどこかで様子を見ているのだろうと思うとなんとなく気まずい。綺麗な景色を見ながら食べようと思っていたサンドイッチにも手がつかない。
「…あの、いるんでしょ?ブラックホール…」
とうとう我慢できずに何もない場所へ声をかけた。返事はなかったが、近くにはいるだろうと言葉を続けた。
「その…サンドイッチ作ってきたの…私一人じゃ食べきれないから、食べてくれるとありがたいんだけど…」
するとしばらく間が空いて、小さな黒い穴がぽっかり開きそこから手だけ出てきた。
「…ツナとタマゴがあるけど、どっちがいい?」
「…ツナ」
私はツナサンドを穴から出てきた手に持たせた。するとその手と共にサンドイッチが穴の中に消える。
「…たくさんあるから、おかわり欲しかったら言って?」
返事はない。しかし、また間を開けてにゅっと手だけ出てきた。今度はタマゴサンドを彼の手に持たせると、さっきと同じように穴の中に消えた。私もサンドイッチを食べるが、やはり彼が気になって目の前の景色に集中できない。
「…ねぇ、出てきたら?せっかく綺麗な花がたくさん咲いてるんだからさ。興味ないかもしれないけど、その…真っ暗な中よりいいんじゃない?この前の事は…もういいから」
それからだいぶん間が空いて、背後に誰かの気配がした。振り返りはしないが、きっと彼だろう。
「…この前は…悪かった」
ぼそりと小さな声で彼が言った。彼が謝るなんて初めてだったので、驚いてしまいサンドイッチが喉に詰まる。慌ててお茶を飲み事なきを得た。
「…め、珍しいね。ブラックホールが謝るなんて」
「悪いか」
「いや別に…」
すると、トンと私が座っている横に一つ箱が置かれた。
「…何これ?」
彼は何も言わない。仕方なく手に取り蓋を開けた。
「…これ…新しいの買ってきてくれたの?」
箱の中に入っていたのは、この前真っ二つに割れてしまったマグカップだった。
「…ありがとう」
また彼は何も言わない。私は箱からマグカップを取り出して眺めた。
「これいいでしょ。たくさん星が描いてあってさ。私、星柄好きなの」
「…それはアイツが星を模してるからか」
だんまりだった彼がぽつりと言った。アイツとはペンタゴンの事だろう。
「うん。でもこのカップの色、星空なら濃い青とかが多いけど真っ黒なの」
「それがどうした」
「なんでわかんないのさ。ほら、真っ黒なブラックホールと星のペンタゴン。これ見てたら二人を思い出して、つい買っちゃったんだ」
「…」
「二人はいいパートナーだよ。応援してる」
「お前、俺の事は嫌いだろう」
「意地悪しなければ嫌いにならないよ!嫌がらせするのが悪いんでしょ?」
「あれは嫌がらせじゃなくて…」
「嫌がらせじゃないなら何なの」
「…」
彼は何も言わずに地面に沈む。おかげで背中を預けていたものがなくなり、後ろにひっくり返り頭を打つ。
「いった…もう!それがダメだって言ってるのよ!」
「一時間後に迎えに来る」
それだけ言い残して、彼の気配が消えた。私は打ちつけた頭をさすりながら起き上がり、目の前の景色を楽しむ事にした。新しいマグカップに持ってきたお茶を入れて。
その後きっちり一時間後、強制的に家の前に戻された。お礼を言いたかったが、彼は姿を見せずすぐにその気配を消してしまっのだった。
「楽しかったかい?ピクニックは」
あれから数日後、買い物へ出ているとペンタゴンに声をかけられた。
「とっても綺麗だった!写真撮ってくれば良かったなぁ、カメラ持って行くの忘れてたの」
「じゃあまたブラックにお願いしなよ。次も連れて行ってくれるさ」
「えぇ〜?あれは仲直りするためのご機嫌取りな気がする」
「まぁ、あの日は仲直りのきっかけが欲しかったかもしれないけど。君のお願いなら聞いてくれるさ!なんたって、ブラックは君の事を一番気にかけているからね!」
「嫌っているの間違いでは?」
「そんな事ないよ。ブラックは昔から君の心配をしてたんだ。だって小さい頃から危ない事ばっかりするんだもん」
「え?」
私は思い当たる節がなく、首を傾げた。
「わかんないのも当然さ。危ない目に遭う前に、ブラックが全部回避させてたんだからね」
「ちょ、ちょっと待って。どういう事?」
「ん〜言ってもいいのかなぁ?知られるとブラック、恥ずかしがるかも」
わざとらしく顎に手を当て悩むフリをするペンタゴン。でも内心言いたくて仕方ないようだった。
「教えてよ!ここまで言っておいて、秘密とか気になる!」
「気になるよね〜!じゃあ特別にいくつかネタばらししようか!」
うきうきとした様子で語り始める彼を見て、やっぱり言いたかったのかと思った。私も聞きたかったので、彼が陽気な性格で良かった。
「まず、君が好意を抱いていた相手。彼、奥さんがいるのにいないって嘘をついていたんだ」
「…え!?嘘!?独身だって言ってたのに!?」
「そうなんだよ〜それに少しばかり悪い事にも手を染めててね。もれなくコレさ」
そう言ってペンタゴンは、両手を揃えて前に出した。
「つ、捕まったって事?」
彼は何も言わない代わりに、翼をばさりと動かした。私はショックでくらくらする頭に手を当てた。
「そして次に君が真っ暗な場所へ閉じ込められた時の話だけど…」
あれは確か三人で山へ遊びに行っていた。突然、真っ暗な空間に落とされ怖くて大泣きした思い出がある。
「実はあの時、近くに熊がいてさ。僕らは逃げられるけど、君は逃げられないじゃない?だからブラックは君を閉じ込めた。あの頃は小さかったから力が上手く扱えなくて、入れたのはいいけど出せないって親に助けてもらってたんだよ〜ブラックってば、失敗した事を知られたくなくて黙ってたんだ」
私は知らなかった事実に、あんぐりと口を開いた。
「後は〜君がよそ見をしていて車に撥ねられそうになったのを助けた事もあったし、壁にぶつかりそうになってたのもあったな…とりあえず、君はよく周りを見ないとね。ブラック、いつも言ってたでしょ?」
「…あ」
そう言えば、いつも彼が私に何かした時はそんな事を言われていた気がする。私は彼に怒ってばかりで話を全く聞いてなかった。
「それにロクでもない男に引っかかりそうになってたのを邪魔したり…君、男を見る目ないよね…大体の難ありの相手ばっかりだ!」
ペンタゴンは面白いのか軽快に笑う。こちらからしてみれば笑い事ではないのだが。
「…じゃあ、ブラックホールは私を助けてくれてたって事?」
「もちろん。力を持たない君をブラックはいつも心配していたよ。物言いはひどい事もあるけれど、彼は繋がりのある相手を大切にする男さ!」
「…そう、なんだ」
では今までの事は私を守るためだったのかと思うと、なんだか彼に申し訳なくなってきた。私は彼の話を聞かずに、ひどい事を言っていたのだと。
「そう!特に好意を抱いた相手にはとびきり優し…うわぁ!?」
「ペンタゴン!?」
突然上機嫌で話していたペンタゴンが闇に飲み込まれるようにして消えた。きっとブラックホールの仕業だ。
「あの、ブラックホール!」
「……なんだ。ヤツなら遠くに飛ばしてやった」
少し間が空いて、姿は見えないが声が聞こえた。
「ペンタゴンは…一人で帰ってこれるから大丈夫…だと思う。それよりもペンタゴンから聞いたんだけど、今まで私を助けてくれてたって本当?」
「あれはアイツが勝手に言ってるだけだ。俺にそんなつもりはない」
ぴしゃりと言われてしまうが、ペンタゴンは嘘を言う男ではない。
「ブラックホールにそんなつもりはなくても、一応お礼は言うね。ありがとう」
「あれだけ痛い目にあっておいてか?間抜けだな」
「でも多分ブラックホールが助けてくれなかったら、もっと痛い目にあってたと思う」
「…」
「ねぇ、また連れて行って欲しいところがあるんだけど…いい?」
「…アイツに頼まないのか?」
「ペンタゴンはほら…ファンの相手が忙しそうだし」
「俺は暇だと言いたいのか」
「そ、そういう意味じゃないよ!ほら、今までのお礼に色々お弁当作るから。私特別な力は持ってないけど、料理は自信があるの」
「…」
「それに、私間抜けだからさ。誰かが見てくれてないと、何するかわかんないし…」
今まで迷惑をかけておいて、さらにプチ旅行の手伝いの対価がお弁当とは安上がりだろうか。お金もいくらか払った方がいいかと考えていると、彼は大きくため息つきながらずるりと地面から出てくる。
「デザートもつけろ。じゃないと連れていかない」
「わ、わかった。デザートね、デザート…」
意外な答えに戸惑いながらも、了承してくれた事にほっとする。
「で、次はどこに行きたいんだ」
「えっとね…」
持っていた携帯で行きたかった場所を映し、彼に見せる。
「容易いな」
「さすがブラックホール様、頼りにしてます」
「…調子のいいヤツ」
そうは言うものの、なんとなく機嫌が良さそうな気がする。それからは突然穴に落とされる事もなくなり、移動時はあのブラックホールが私を抱きかかえてくれるようになった。最初は驚いたが、何度も繰り返しているうちに私も身体を預けるようになった。
「…美味い」
彼が隣でぼそりと独り言のように隣で呟く。今まで背中合わせで食べていた弁当も隣で同じ方向を向いて食べるようになった。私達の関係は随分と良くなったと思う。いつしか私は彼とのプチ旅行が楽しみになっていた。
「やぁ!二人共、仲睦まじくていい事じゃないか!」
突如白い羽根が舞い落ちてきたと思えば、ペンタゴンが空から私達を見ていた。
「ペンタゴンも一緒に食べる?」
「いや、遠慮しておくよ!せっかくのデートを邪魔しちゃいけないしね!」
ペンタゴンは大袈裟なリアクションで答えた。
「もしかして私って恋のキューピッドだったりするのかな〜!だって君達がここまで仲良くなれたのって、私が全部話したからだろう?」
「やっぱりか…」
ブラックホールが持っていた箸を置くと、立ち上がって彼に向かって手を伸ばした。
「あ!ちょっと待ってブラック!もう寒い所は嫌だよ!」
「心配するな」
逃げようとしたペンタゴンだったが、あっさりとブラックホールが作った穴に飲み込まれた。よくよく考えると恐ろしい技だと思った。
「はぁ…」
「別にそこまでしなくても…ペンタゴンのおかげで仲直りできたのはあるんじゃない?」
彼は若干不満気に隣へと座り直した。
「アイツは調子に乗ると余計な事まで喋る。確かに助かったとは思うが、それ以上の事は余計なお世話だ」
「それ以上って?」
「お前は知らなくていい」
彼は答える気がないようで、大量の米を口の中に入れた。私はそれを見て『そこが口なんだ』と思っているうちに、私は考える事をやめ目の前の景色とこの状況を楽しむ事にしたのだった。
「次はどこに連れて行ってもらおうかな」
「図々しいな、お前」
そう言った彼の声色は、若干嬉しさを含んでいるように聞こえた。
ちなみにペンタゴンはハワイへと飛ばされたようで『これお土産!』とハイビスカスの首飾りを私にくれたのだった。
「〜っ!やめてよ!ブラックホール!」
大きな声をあげれば、小さく笑いながら地面からぬるっと黒い物体が現れた。
「相変わらず間抜けだな、お前は」
そう言って、私を見下ろすのは悪魔超人のブラックホール。私は彼をぎっと一度睨みつけると、キョロキョロと周囲を見渡した。
「ペンタゴン!助けて!ブラックホールがまた私をいじめるの!」
「お前…」
「ペンタゴン!」
「はいはい。もう、やめなよブラック。子供じゃないんだからさ」
地面の下から声が聞こえたと思うと、ブラックホールの作った穴が一回り大きくなって完全に落ちた私を白い腕が抱き止める。
「ペンタゴン!」
「やぁ、久しぶり」
彼は私を抱えたまま飛び上がり、地面へと降ろす。
「ありがとうペンタゴン!」
「どういたしまして」
「…ちっ、いつもいつも困ったらこれだ。自力でなんとかしようと思わないのか」
私はペンタゴンの後ろへ逃げ、腕を組んだブラックホールを睨みつけた。
「なんとかできないからペンタゴンに助けてもらってるの!私は二人みたいになんの力も持ってないんだから!」
私はこの二人の遠い親戚でもあり、昔から交流があった。彼らは自由に場所を行き来できる能力を持っているが、私は親戚でありながらそういった能力を持たずに生まれてきた。そのせいで、昔からブラックホールには馬鹿にされてきたのだ。
「俺らの親戚なのにな」
「仕方ないよ。親戚といっても私達からかなり遠い親戚だから、血が薄くなっちゃう事もあるさ」
ペンタゴンの助言にそうだと頷けば、ブラックホールは面白くなさそうに舌打ちした。
「そうやってそいつに甘えてるから、お前はいつまで経っても間抜けなんだよ」
「やめなよブラック」
「別に間抜けでもいいし!困ってないもん!」
彼の顔からは感情というものは読めないが、雰囲気で苛立っているのはわかった。また変な所に飛ばされないよう、ペンタゴンにしっかりと捕まった。
「…ちっ」
彼はまた舌打ちすると、私達に背を向けずるずると地面の下へ沈んでいく。
「どこ行くのブラック」
「そこらへん」
「ブラックの言うそこらへんって広いんだよねぇ」
ペンタゴンの言葉には答えず、そのまま地面の下へと吸い込まれるようにして消えた。私はほっと息をつき、ペンタゴンから手を離す。
「もう嫌い、ブラックホール」
「そんな事言わないでくれよ。親戚なんだからさ。ブラックは君を心配しているんだよ」
「心配〜?あれが?どちらかというと危険に晒してるのはブラックホールの方じゃん!」
小さい頃はあのどこへ繋がっているかわからない穴から知らない場所へ落としたり、時には真っ暗な空間に閉じ込めて泣かされた。成長してからは大事な場面を何度も邪魔されたのだ。
「聞いてよ!この前好きな人に告白しようとしたら、ブラックホールがその彼を穴に落としちゃったんだよ!?おかげで告白できなかったし、その後連絡も取れなくなっちゃって…」
「へぇ〜それは…うん、残念だったね。縁がなかったって事だよ」
「これ一回だけじゃないんだよ!?今までず〜っと!私の邪魔ばっかりするんだから!どうにかしてよペンタゴン〜!」
「そんな事言われてもなぁ。ブラックなりの考えがあってやってる事だろうし」
「ただの嫌がらせにしか思えないけど!」
タッグを組むほどの仲だからか、私を助けてはくれるがペンタゴンはいつもブラックホールの味方だ。膨れた顔をしていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「まあ、そのうちわかるさ」
彼はそう言って、仕事があると白い羽を広げて飛んでいってしまった。
「何よ、理由があるなら教えてくれたっていいじゃん!」
私は見えなくなった彼の背中に向かって叫んだ。
ある日私は一冊の旅行雑誌を見ながら、ペンタゴンへ声をかける。
「ねぇペンタゴン!今週の休み暇?」
「ん?確か予定はなかったけど、どうしたんだい?」
私はとあるページを開いて、彼に見せた。
「私、ここに行きたいんだけど。用事がないなら連れて行って!」
「えーと、オランダのキューケンホフ公園?」
ペンタゴンは顎に手を当てながら、雑誌を見つめた。
「そう!今の時期が見頃なの!でも外国に一人で行くのは怖いし、飛行機も怖いし…ペンタゴンなら空を飛んで行けるでしょ?」
「飛行機がダメなら、僕もダメじゃない?」
「飛行機は不安だけど、ペンタゴンは落ちたりしないでしょ?だから大丈夫」
「飛行機の方が安全だし、快適だと思うんだけどな。あ、私よりブラックに頼みなよ。ブラックなら一瞬で連れて行ってくれるじゃないか」
彼の名前が出てきて、すぐさま顔を横に振った。
「絶対ない!そんな事言ったら『そんなくだらない事に俺の力を使うな』って絶対言うもの!」
「そんな事ないよ」
「それに私、この前ブラックに二度と関わらないでって言ったし」
「へぇ…え!?なんでそんな事に!?」
ペンタゴンは驚いて翼をはためかせた。
「別に大した事ないよ」
「いや大した事あるでしょ!何があったのさ」
私は教えたくなかったが、彼があまりにもしつこく聞いてくるのでしかたなく説明する事にした。
それは自身の誕生日にと買ったマグカップを持って歩いていた時だった。いつものように突然足元が消えると、歩いていた場所とは違う場所へと落ち尻餅をつく。
「痛っ!?」
じんわりと鈍い痛みが広がり、この原因を作った相手を睨みつける。
「もう!何するのよ!」
「お前が間抜けだからだ。毎度毎度、周りを見て歩けとあれほど…」
ブラックホールが何か言いかけていた途中で、はっと自分が持っていた物を思い出した。慌ててマグカップの入っている箱の蓋を開けると、やはり中身は真っ二つに割れてしまっていた。落ちた衝撃で割れてしまったのだろう、使う事ができなくなってしまったマグカップを見つめた。
「おい、聞いてるのか。お前はいつも人の話を聞かな…」
「嫌い…」
「何?」
「ブラックホールなんて大嫌い!」
私は持っていたマグカップを箱ごと彼に投げつけた。彼は驚きはしたものの簡単にそれをキャッチし、それがとても悔しかった。
「なんで私に構うの、間抜けならほっとけばいいじゃない!どうせ私は無能よ!」
「おい、待て…」
自分で言って、悔しくて涙が溢れる。なんで私は普通の人として生まれてきたのか。
「間抜けな私が嫌いなんでしょ!?だったら今後一切私に関わらないで!」
そう言い捨てると、走ってその場を離れた。それからは一切彼にはあってないし、彼の嫌がらせにも合っていない。
「はぁ、もうブラックってば…」
「そんなに間抜け間抜け言うなら、二度と関わらなければいいのよ。ほっといてくれればいいの、私は超人でもないし戦わないんだから」
ペンタゴンは額に手を当て悩んでいるようだった。
「もういいの。ねぇ、それよりここに連れて行って!私、サンドイッチ作っていくから!」
「んーそうだなぁ…」
彼は少しの間考えた後、ぽんと手を叩いた、
「いいよ、連れて行くさ」
「ほんと?ありがとう!さすがペンタゴン!」
「じゃあ今週の休みに迎えに行くから、準備しててね」
「うん、わかった!」
綺麗な花でも見れば、この傷ついた心が少しくらい癒やされるだろうと雑誌を見つめたのだった。
そして当日、白い彼は待ち合わせ時間になっても来ない。何かあったのかと連絡しようとすれば、タイミングよく彼からメッセージが届いた。
『ごめん!急用が入って、行けなくなっちゃった⭐︎』
最後の星がなんとなく腹立たしい。でも無理を言ったのはこちらなので、大丈夫だと連絡する。仕方ないので家で映像でも見て済ませるかと思っていれば、すぐさま返事が来た。
『でも心配しないで!代打を頼んでおいたから!それじゃ楽しんできて⭐︎』
「代打ってどういう事?」
そのメッセージを睨んでいると、すっと足元が消えた。この展開はよく知っている。ふわりと身体が浮く気持ち悪さと来るであろう痛みに目を閉じて歯を食いしばるが、ゆっくりと安定した場所に着地した私は不思議に思いながら目を開けた。
「…うわぁ…!」
目の前には色とりどりのチューリップが並んでおり、雑誌で見た光景が広がっていた。
「え、何?どういう事?」
この移動の仕方は黒い彼にしかできない。もしかしてまた嫌がらせかもと、周囲を警戒しながら立ち上がる。
「幻覚だったり、近くに落とし穴とかあったり…」
近くの地面を片足で踏んで確かめたり、チューリップに触れてみるが本物であった。
「…じゃあ、ここ…オランダ?」
どうやら本当にオランダのキューケンホフ公園に来ている。ペンタゴンが言っていた代打というのはブラックホールの事らしい。しかし彼の姿は見当たらない。いつもなら小言を言ってくるはずなのに、目の前に現れないのだ。
(そっか、二度と関わらないでって言ったもんな…)
きっとどこかで様子を見ているのだろうと思うとなんとなく気まずい。綺麗な景色を見ながら食べようと思っていたサンドイッチにも手がつかない。
「…あの、いるんでしょ?ブラックホール…」
とうとう我慢できずに何もない場所へ声をかけた。返事はなかったが、近くにはいるだろうと言葉を続けた。
「その…サンドイッチ作ってきたの…私一人じゃ食べきれないから、食べてくれるとありがたいんだけど…」
するとしばらく間が空いて、小さな黒い穴がぽっかり開きそこから手だけ出てきた。
「…ツナとタマゴがあるけど、どっちがいい?」
「…ツナ」
私はツナサンドを穴から出てきた手に持たせた。するとその手と共にサンドイッチが穴の中に消える。
「…たくさんあるから、おかわり欲しかったら言って?」
返事はない。しかし、また間を開けてにゅっと手だけ出てきた。今度はタマゴサンドを彼の手に持たせると、さっきと同じように穴の中に消えた。私もサンドイッチを食べるが、やはり彼が気になって目の前の景色に集中できない。
「…ねぇ、出てきたら?せっかく綺麗な花がたくさん咲いてるんだからさ。興味ないかもしれないけど、その…真っ暗な中よりいいんじゃない?この前の事は…もういいから」
それからだいぶん間が空いて、背後に誰かの気配がした。振り返りはしないが、きっと彼だろう。
「…この前は…悪かった」
ぼそりと小さな声で彼が言った。彼が謝るなんて初めてだったので、驚いてしまいサンドイッチが喉に詰まる。慌ててお茶を飲み事なきを得た。
「…め、珍しいね。ブラックホールが謝るなんて」
「悪いか」
「いや別に…」
すると、トンと私が座っている横に一つ箱が置かれた。
「…何これ?」
彼は何も言わない。仕方なく手に取り蓋を開けた。
「…これ…新しいの買ってきてくれたの?」
箱の中に入っていたのは、この前真っ二つに割れてしまったマグカップだった。
「…ありがとう」
また彼は何も言わない。私は箱からマグカップを取り出して眺めた。
「これいいでしょ。たくさん星が描いてあってさ。私、星柄好きなの」
「…それはアイツが星を模してるからか」
だんまりだった彼がぽつりと言った。アイツとはペンタゴンの事だろう。
「うん。でもこのカップの色、星空なら濃い青とかが多いけど真っ黒なの」
「それがどうした」
「なんでわかんないのさ。ほら、真っ黒なブラックホールと星のペンタゴン。これ見てたら二人を思い出して、つい買っちゃったんだ」
「…」
「二人はいいパートナーだよ。応援してる」
「お前、俺の事は嫌いだろう」
「意地悪しなければ嫌いにならないよ!嫌がらせするのが悪いんでしょ?」
「あれは嫌がらせじゃなくて…」
「嫌がらせじゃないなら何なの」
「…」
彼は何も言わずに地面に沈む。おかげで背中を預けていたものがなくなり、後ろにひっくり返り頭を打つ。
「いった…もう!それがダメだって言ってるのよ!」
「一時間後に迎えに来る」
それだけ言い残して、彼の気配が消えた。私は打ちつけた頭をさすりながら起き上がり、目の前の景色を楽しむ事にした。新しいマグカップに持ってきたお茶を入れて。
その後きっちり一時間後、強制的に家の前に戻された。お礼を言いたかったが、彼は姿を見せずすぐにその気配を消してしまっのだった。
「楽しかったかい?ピクニックは」
あれから数日後、買い物へ出ているとペンタゴンに声をかけられた。
「とっても綺麗だった!写真撮ってくれば良かったなぁ、カメラ持って行くの忘れてたの」
「じゃあまたブラックにお願いしなよ。次も連れて行ってくれるさ」
「えぇ〜?あれは仲直りするためのご機嫌取りな気がする」
「まぁ、あの日は仲直りのきっかけが欲しかったかもしれないけど。君のお願いなら聞いてくれるさ!なんたって、ブラックは君の事を一番気にかけているからね!」
「嫌っているの間違いでは?」
「そんな事ないよ。ブラックは昔から君の心配をしてたんだ。だって小さい頃から危ない事ばっかりするんだもん」
「え?」
私は思い当たる節がなく、首を傾げた。
「わかんないのも当然さ。危ない目に遭う前に、ブラックが全部回避させてたんだからね」
「ちょ、ちょっと待って。どういう事?」
「ん〜言ってもいいのかなぁ?知られるとブラック、恥ずかしがるかも」
わざとらしく顎に手を当て悩むフリをするペンタゴン。でも内心言いたくて仕方ないようだった。
「教えてよ!ここまで言っておいて、秘密とか気になる!」
「気になるよね〜!じゃあ特別にいくつかネタばらししようか!」
うきうきとした様子で語り始める彼を見て、やっぱり言いたかったのかと思った。私も聞きたかったので、彼が陽気な性格で良かった。
「まず、君が好意を抱いていた相手。彼、奥さんがいるのにいないって嘘をついていたんだ」
「…え!?嘘!?独身だって言ってたのに!?」
「そうなんだよ〜それに少しばかり悪い事にも手を染めててね。もれなくコレさ」
そう言ってペンタゴンは、両手を揃えて前に出した。
「つ、捕まったって事?」
彼は何も言わない代わりに、翼をばさりと動かした。私はショックでくらくらする頭に手を当てた。
「そして次に君が真っ暗な場所へ閉じ込められた時の話だけど…」
あれは確か三人で山へ遊びに行っていた。突然、真っ暗な空間に落とされ怖くて大泣きした思い出がある。
「実はあの時、近くに熊がいてさ。僕らは逃げられるけど、君は逃げられないじゃない?だからブラックは君を閉じ込めた。あの頃は小さかったから力が上手く扱えなくて、入れたのはいいけど出せないって親に助けてもらってたんだよ〜ブラックってば、失敗した事を知られたくなくて黙ってたんだ」
私は知らなかった事実に、あんぐりと口を開いた。
「後は〜君がよそ見をしていて車に撥ねられそうになったのを助けた事もあったし、壁にぶつかりそうになってたのもあったな…とりあえず、君はよく周りを見ないとね。ブラック、いつも言ってたでしょ?」
「…あ」
そう言えば、いつも彼が私に何かした時はそんな事を言われていた気がする。私は彼に怒ってばかりで話を全く聞いてなかった。
「それにロクでもない男に引っかかりそうになってたのを邪魔したり…君、男を見る目ないよね…大体の難ありの相手ばっかりだ!」
ペンタゴンは面白いのか軽快に笑う。こちらからしてみれば笑い事ではないのだが。
「…じゃあ、ブラックホールは私を助けてくれてたって事?」
「もちろん。力を持たない君をブラックはいつも心配していたよ。物言いはひどい事もあるけれど、彼は繋がりのある相手を大切にする男さ!」
「…そう、なんだ」
では今までの事は私を守るためだったのかと思うと、なんだか彼に申し訳なくなってきた。私は彼の話を聞かずに、ひどい事を言っていたのだと。
「そう!特に好意を抱いた相手にはとびきり優し…うわぁ!?」
「ペンタゴン!?」
突然上機嫌で話していたペンタゴンが闇に飲み込まれるようにして消えた。きっとブラックホールの仕業だ。
「あの、ブラックホール!」
「……なんだ。ヤツなら遠くに飛ばしてやった」
少し間が空いて、姿は見えないが声が聞こえた。
「ペンタゴンは…一人で帰ってこれるから大丈夫…だと思う。それよりもペンタゴンから聞いたんだけど、今まで私を助けてくれてたって本当?」
「あれはアイツが勝手に言ってるだけだ。俺にそんなつもりはない」
ぴしゃりと言われてしまうが、ペンタゴンは嘘を言う男ではない。
「ブラックホールにそんなつもりはなくても、一応お礼は言うね。ありがとう」
「あれだけ痛い目にあっておいてか?間抜けだな」
「でも多分ブラックホールが助けてくれなかったら、もっと痛い目にあってたと思う」
「…」
「ねぇ、また連れて行って欲しいところがあるんだけど…いい?」
「…アイツに頼まないのか?」
「ペンタゴンはほら…ファンの相手が忙しそうだし」
「俺は暇だと言いたいのか」
「そ、そういう意味じゃないよ!ほら、今までのお礼に色々お弁当作るから。私特別な力は持ってないけど、料理は自信があるの」
「…」
「それに、私間抜けだからさ。誰かが見てくれてないと、何するかわかんないし…」
今まで迷惑をかけておいて、さらにプチ旅行の手伝いの対価がお弁当とは安上がりだろうか。お金もいくらか払った方がいいかと考えていると、彼は大きくため息つきながらずるりと地面から出てくる。
「デザートもつけろ。じゃないと連れていかない」
「わ、わかった。デザートね、デザート…」
意外な答えに戸惑いながらも、了承してくれた事にほっとする。
「で、次はどこに行きたいんだ」
「えっとね…」
持っていた携帯で行きたかった場所を映し、彼に見せる。
「容易いな」
「さすがブラックホール様、頼りにしてます」
「…調子のいいヤツ」
そうは言うものの、なんとなく機嫌が良さそうな気がする。それからは突然穴に落とされる事もなくなり、移動時はあのブラックホールが私を抱きかかえてくれるようになった。最初は驚いたが、何度も繰り返しているうちに私も身体を預けるようになった。
「…美味い」
彼が隣でぼそりと独り言のように隣で呟く。今まで背中合わせで食べていた弁当も隣で同じ方向を向いて食べるようになった。私達の関係は随分と良くなったと思う。いつしか私は彼とのプチ旅行が楽しみになっていた。
「やぁ!二人共、仲睦まじくていい事じゃないか!」
突如白い羽根が舞い落ちてきたと思えば、ペンタゴンが空から私達を見ていた。
「ペンタゴンも一緒に食べる?」
「いや、遠慮しておくよ!せっかくのデートを邪魔しちゃいけないしね!」
ペンタゴンは大袈裟なリアクションで答えた。
「もしかして私って恋のキューピッドだったりするのかな〜!だって君達がここまで仲良くなれたのって、私が全部話したからだろう?」
「やっぱりか…」
ブラックホールが持っていた箸を置くと、立ち上がって彼に向かって手を伸ばした。
「あ!ちょっと待ってブラック!もう寒い所は嫌だよ!」
「心配するな」
逃げようとしたペンタゴンだったが、あっさりとブラックホールが作った穴に飲み込まれた。よくよく考えると恐ろしい技だと思った。
「はぁ…」
「別にそこまでしなくても…ペンタゴンのおかげで仲直りできたのはあるんじゃない?」
彼は若干不満気に隣へと座り直した。
「アイツは調子に乗ると余計な事まで喋る。確かに助かったとは思うが、それ以上の事は余計なお世話だ」
「それ以上って?」
「お前は知らなくていい」
彼は答える気がないようで、大量の米を口の中に入れた。私はそれを見て『そこが口なんだ』と思っているうちに、私は考える事をやめ目の前の景色とこの状況を楽しむ事にしたのだった。
「次はどこに連れて行ってもらおうかな」
「図々しいな、お前」
そう言った彼の声色は、若干嬉しさを含んでいるように聞こえた。
ちなみにペンタゴンはハワイへと飛ばされたようで『これお土産!』とハイビスカスの首飾りを私にくれたのだった。
