キン肉マン

ドタバタと人が歩き回る音と話し声で目を覚ます。ぼんやりとした頭で時計を見て、いつも起きる時間よりだいぶん寝過ごしている事に気づき一瞬で目が覚めた。
「…大変!」
慌ててカーディガンを羽織り部屋を出る。すると、メイド達が何やら大荷物を部屋へと運び込んでいた。
「おはようございます。奥様」
作業をしていたメイド達が動きを止め、頭を下げ挨拶をしてくる。私ごときにそんな丁寧にしなくてもと思うが、この家の慣わしなら仕方ない。それに倣って自分も止まって頭を下げた。
「お、おはようございます皆さん。えっと…どうされたのですか?」
「申し訳ありません。旦那様から口止めされているので、私どもからは何も言えないのです」
やはり今日は何か予定があったのだろうか。ならば余計に寝坊などしている場合ではない。早く彼を見つけなければと、メイド達に別れを告げ長い廊下を走る。そして大広間に出ると彼が玄関に立ち、メイド達に指示をしているのを見つけた。
「ブロッケンマンさん!」
声をかければ、彼がこちらに視線を向ける。
「おはよう。騒がしかったか」
「いえ、そんな事は…ごめんなさい。寝坊してしまって…」
「あぁ、気にしなくていい。ゆっくり寝ていて欲しかったのでな、目覚ましは私が止めた」
「え?」
私は訳が分からず、首を傾げた。
「メイドの方達がたくさん荷物を運んでいましたが、今日は来客の予定でもありましたか?」
「ない」
「でしたら、あの荷物達は?」
「あれは君への誕生日の贈り物だ。他にも用意している。メイド長!」
「はい旦那様」
彼が声を張り上げれば、この屋敷に長い事メイドとして勤めている女性がすっと現れた。
「先日話した通りに彼女のエスコートを任せる」
「承知しました」
「では、〇〇良き1日を。君が生まれてきてくれた事に感謝する」
「え、あの!ブロッケンマンさん!?」
彼はそう告げると、私を置いてその場から離れる。追いかけようとすれば、メイド長に手を取られた。
「さぁ、奥様。旦那様があなたの為に色々と用意してくださりました。私がお連れしますので、こちらへ」
「え、ちょっ…」
「皆さん!奥様に失礼のないよう、旦那様に言われた事を忠実に行ってください!」
「「承知致しました」」
メイド達がまるで兵士のようにずらりと並び、その姿に圧倒され別室へと連れて行かれる。それからはとんでもないもてなしの数々。頭のてっぺんから爪先まで綺麗に整えられ、食事もわざわざ有名店のシェフを呼び見た事ない料理が並んだ。
「奥様、次はドレスを何着か選びますからね」
「ド、ドレス…?」
メイド長に案内され入った部屋には、端から端まで煌びやかなドレス達が並んでいた。その中に彼が懐中時計を手に立っている。
「予定通りの時間だ。流石だな」
「ありがとうございます旦那様。さ、奥様気に入ったものがあればなんなりと」
「え!そんな急に言われても…私には何が良いのか…」
生まれが平民である自分では、すごい豪華だというレベルでしかわからない。
「えっと…あの、ブロッケンマンさんはどれがいいですか?」
「なぜ私に聞く。君の好きなものを選べばいい」
「でも、私こういったものはよくわからないので…」
「…ならば仕方ない」
そう言うと彼はたくさんのドレスが並ぶ方を見た。
「…まず、露出の多いものはなしだ。このように背中が開いているものはすべて除外する」
彼が言えば、すぐさまメイド達が対象となったドレスを片付ける。
「色の濃い物もなしだ、淡い色がよく似合う。タイトな物もなしだ、柔らかな印象を与えるものがいい」
彼の指示とそれに忠実に従うメイド達により、次々とドレスが減っていく。
「派手な装飾は彼女には不要だ、シンプルなものを」
そして残ったのは十着。ここからさらに一着に絞るのだろうと彼の様子を伺う。
「…ん。よし、ここにあるものすべてを彼女の部屋へ」
「承知しました」
「…え、ええっ!?多すぎませんか?」
「遠慮するな。次は何だ」
「次はアクセサリー類となります」
今度はずらりと宝石達が並べられ、目がちかちかする。一体いくらするのだろうか、考えただけで恐ろしい。
「さっき選んだ衣装と合うものを選ぶとなると…」
彼が一つの指輪を指差した。小さな宝石が一つ、シンプルで何にでも合いそうな物。これなら先ほどの選んだドレスのどれにでも合いそうだった。
「ここからここまで。あとそちらの一列全てだ」
「承知しました」
「え、えっ?待って!待って下さいブロッケンマンさん!」
「何かね。気に入ったものがあったか?」
「そうではなくて!こんなに沢山どうするんですか!」
「何か問題があるのか」
「大アリです!」
「わからんな。待て、そっちの物も追加だ」
「待つのはあなたです!メイド長さん、それキャンセルで!」
「金の問題か。心配する事はない、私のファイトマネーだ」
「そういう意味でもなくて!いや、お金の心配はあるんですけど…どこにお金を使っているのかっていう問題です!」
「私が稼いだ金だ。好きに使って何の問題がある」
「正論ですが、もっと他に使い道が…!」
「あいにく趣味はない。欲しい物はすでに手に入れた。であれば、それを保持するために金を使う事はおかしな話ではないだろう」
すっと私の髪の毛に彼が指を通す。絡まりなく指が通った事に満足そうに笑うと、前へと向き直る。
「さぁ、次は何だ。どんどん持ってこい!」
「…ま、待って!待って下さい!それでも限度と言うものが!」
彼の言葉に少しの間惚けていたが、やはり問題があると彼の服を掴み必死に止めようとする。しかし止まる事はなく、むしろヒートアップしていく。
「はは!いい顔だ。見ていて飽きない」
私の困っている顔を見て、彼は嬉しそうに笑うのだった。
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