キン肉マン
「チカちゃん、教えて欲しいことがあるズラ」近所の女の子に誘われおままごとに付き合っている最中、気になっていた事を口にした。
「ジェロニモ!今はチカちゃんじゃなくて、お母さんでしょ!」
「そうだったズラ。かぁ様聞きたい事があるズラ」
「なぁにジェロニモ」
「ほわいとでーについて教えてほしいズラ」
先月初めてバレンタインデーのプレゼントをもらい意味を教えてくれた少女に、今度はお返しの仕方を教えてもらおうと思っていたのだ。
「そうだ、ホワイトデー!お返しもらわないといけなかった!」
母親役をしていたはずなのにすっかり子供に戻り、着ていたエプロンを脱ぎ捨てた。
「あのねお返しなんだけど、あげるものによって意味があるから気をつけないといけないんだよ!」
「そうなんズラか?」
「そうなの!例えばマシュマロはあなたの事が嫌い!って意味なの!」
「それは大変ズラ!…ところでマシュマロって何ズラ?」
そう言うと少女は目をまん丸にして固まった。
「…なんで知らないの!」
「ご、ごめんズラ…」
日本に来てから学ぶ事が多く知識も増えたと思っていたが、彼女からしたらまだまだらしい。大きな身体を縮こませてホワイトデーのお返しについて教育を受けた後、手を引いて連れてこられたスーパーで『私、お返しはこれがいい!』と言われおもちゃのネックレスを買ってあげた。あれだけ教わったお返しの意味も結局相手が喜んでくれればいいのだろうなと、キラキラしたネックレスを首からかけて喜んでいる少女を見て思った。
「よし!姉さんへのお返しを買いに行くズラ!」
次の日。近所の畑の手伝いや雪かきでもらったバイト代を持ち、少し離れたといっても一時間はかかるホームセンターへと向かった。町のみんなから『ここなら欲しいもんは大体揃うずら』と言われ、良いお返しが見つかるだろうと意気揚々と店へと入った。
「…まかろん?そりゃ何だ?」
「オラも本物を見た事ないから、よくわかんないズラ」
しかし目当ての物が見つからず、店の店主に聞いてみればこの反応である。
「なんかの部品だか?」
「んや、食べ物らしいズラ」
「うちにはねぇなぁ…そんな変わった食いもんは」
「そうズラか…」
店主にお礼を言ってがっくりと肩を落として店内を歩く。他に聞いたものでこの店にある物はないかと探したが、どれも見つからなかった。
「ん〜どうするだ…チカちゃんが言ってたお菓子がないズラ」
やはりもっと都会の方へ行かなければいけないのかと店を出ようとした時だった。ふと視界の端に暖かそうな防寒着が目に入り、足を止めた。
(そう言えば、姉さん新しい仕事着が欲しいって言ってたズラ…)
豪雪地帯であるここでは屋根の雪下ろしや雪かきが頻繁に行われる。しかし住んでいるのは大体が高齢層で限界があり、業者を呼ぶにも山奥なので時間がかかる。若い者はみな都会へと出てしまい、元気に動けるのは姉さんしかおらず、ここ周辺の整備は彼女が担っているのだ。
「これ暖かそうズラ…」
ふと、ネックレスをあげた少女の喜んだ顔を思い出した。
「…お菓子じゃなくても、喜んでくれたらいいズラ。気持ちは言葉で伝えればいいだよ」
そう言って、目の前にあった防寒着を手に取った。
「た、ただいまズラ〜」
「お帰り〜って、なんでそんな大荷物なの?」
「へへ…ちょっと買い物しすぎたズラ」
家へと戻れば部屋から顔を覗かせた姉さんが、自分の姿を見て驚いていた。
「言ってくれれば車出したのに。飛んで行ったの?」
「行きは飛んでっただが、帰りは歩きズラ。オラ飛ぶのまだ得意じゃねぇから…」
「歩き…それ隣町のホームセンターの袋よね。一体何時間かかると思ってるの…」
「でも、これも修行の一つと思えば大した事ないズラ!」
「まぁジェロニモが言うならいいけど…で、何をそんなに大買い物してきたの?」
「今から見せるズラ!」
「待って待って!部屋で見せて!ここ玄関だから!」
気持ちが先走りまだ靴も脱いでいないのに袋を開けようとしてしまい、慌てて取り出してしまった物を片付けた。
「で、何を買ってきたのかな?」
「んだ、まず暖かそうな防寒着ズラ」
そう言って、取り出した防寒着を彼女へと渡す。
「へぇ〜!良い物買ったね〜!」
「んだんだ!他には同じ売り場にあった手袋に
耳当て、首巻、靴下、中に着る物…最後に靴の裏に滑らないようトゲが付いてる靴ズラ!これで大雪でも怖くないズラ!」
一つ一つ紹介しながら、袋に入っていた物を彼女の前に並べた。
「奮発したね〜!ジェロニモの防寒対策はこれでバッチリね!」
「…?何言ってるだ、これぜーんぶ姉さんの物ズラ!」
「…え?」
彼女は目をまん丸にして驚いていた。
「バレンタインデーのお返しズラ!探してたお菓子は見つけられなかったけど、代わりに喜びそうな物を見つけてきただよ」
「…え、や、お返しの桁が違う!どー見ても買いすぎでしょ!私、市販のチョコと首飾りしかあげてないのに!」
「お金なんて気にしないズラ。気持ちが嬉しかったズラ」
そう言うと、ぱたりと彼女が後ろに倒れた。
「あ〜なんて綺麗な目をして言うの、後光が見えるわ…あのね、ジェロニモ。確かに嬉しいけど、あげすぎってのも良くないの。いつか損するよ」
「…そうだったズラか」
喜んでくれるかと思っていたが、彼女を困らせたみたいで少し落ち込む。
「でも、まぁ初めてのお返しだしね!わからないのは当然よ、これ本当に全部もらって良いんだね?」
「ん、姉さんのために買ってきた」
「そう、じゃあありがたく貰うわ!大切に使わせてもらうよ、ありがとうジェロニモ」
そう笑った彼女に自分も笑い返す。少し失敗してしまったが、喜んでくれたのは確かだと満面の笑顔を見て確信した。
次の日、彼女の朝は早い。仕事や学校へ行く子供達のために道を作らねばならないからだ。自分も起きて手伝おうと家を出ようとすると、外からよく知る声が聞こえた。
「おはよう、プリンセス!可愛いネックレスしてるねぇ〜!」
「おはようお姉ちゃん!いいでしょ!ジェロニモからのホワイトデーのお返しに貰ったの!」
話しているのは自分の想い人と、近所の女の子。
「ジェロニモにこれを買ってきてって言ってもわからないだろうから、一緒に買いに行ったの!」
「それなら確実ね、賢いな…」
「お姉ちゃんは何を貰ったの?」
「ん、私?私はねぇ〜」
そこでふと思う。お返しのプレゼントなのに、仕事道具とはどうなのだろうか。少女に渡したような、綺麗なアクセサリーとかの方が良かったのではと今更になって思い始めた。
(姉さんは女性だ…綺麗で可愛い物の方が良かったんじゃ…オラまた失敗しちまったズラ!)
玄関先で一人オロオロと慌てふためく。
「私はねぇ〜この上から下までドレス一式を貰ったのさ!見てよこれ、地面凍ってても大丈夫なの」
その言葉にぴたりと自分の動きが止まる。
「え〜ドレスってもっときらきらしててヒラヒラしてるやつだよ。靴もそんな危ないやつじゃないもん」
「私にとってこれはドレスと同じ物だよ。人によって感じ方は違うからさ、私からしたらこの防寒着はきらきらのドレスだしこの靴はガラスの靴になるんだよ〜」
「よくわかんない!」
「わかんないか〜!じゃあ学校行って勉強しておいで。学校は国語とか算数とかを勉強するだけの所じゃないからね」
「そうなの?」
「そうだよ、勉強以外も学ぶ所なの。さぁ、行ってらっしゃーい!」
足音が離れていき静かになったのを確認して外へと出る。
「あ、おはようジェロニモ」
朝日に照らされて微笑む彼女。煌びやかな装飾などなくても、自分にはとても輝いて見えた。
「ジェロニモ!今はチカちゃんじゃなくて、お母さんでしょ!」
「そうだったズラ。かぁ様聞きたい事があるズラ」
「なぁにジェロニモ」
「ほわいとでーについて教えてほしいズラ」
先月初めてバレンタインデーのプレゼントをもらい意味を教えてくれた少女に、今度はお返しの仕方を教えてもらおうと思っていたのだ。
「そうだ、ホワイトデー!お返しもらわないといけなかった!」
母親役をしていたはずなのにすっかり子供に戻り、着ていたエプロンを脱ぎ捨てた。
「あのねお返しなんだけど、あげるものによって意味があるから気をつけないといけないんだよ!」
「そうなんズラか?」
「そうなの!例えばマシュマロはあなたの事が嫌い!って意味なの!」
「それは大変ズラ!…ところでマシュマロって何ズラ?」
そう言うと少女は目をまん丸にして固まった。
「…なんで知らないの!」
「ご、ごめんズラ…」
日本に来てから学ぶ事が多く知識も増えたと思っていたが、彼女からしたらまだまだらしい。大きな身体を縮こませてホワイトデーのお返しについて教育を受けた後、手を引いて連れてこられたスーパーで『私、お返しはこれがいい!』と言われおもちゃのネックレスを買ってあげた。あれだけ教わったお返しの意味も結局相手が喜んでくれればいいのだろうなと、キラキラしたネックレスを首からかけて喜んでいる少女を見て思った。
「よし!姉さんへのお返しを買いに行くズラ!」
次の日。近所の畑の手伝いや雪かきでもらったバイト代を持ち、少し離れたといっても一時間はかかるホームセンターへと向かった。町のみんなから『ここなら欲しいもんは大体揃うずら』と言われ、良いお返しが見つかるだろうと意気揚々と店へと入った。
「…まかろん?そりゃ何だ?」
「オラも本物を見た事ないから、よくわかんないズラ」
しかし目当ての物が見つからず、店の店主に聞いてみればこの反応である。
「なんかの部品だか?」
「んや、食べ物らしいズラ」
「うちにはねぇなぁ…そんな変わった食いもんは」
「そうズラか…」
店主にお礼を言ってがっくりと肩を落として店内を歩く。他に聞いたものでこの店にある物はないかと探したが、どれも見つからなかった。
「ん〜どうするだ…チカちゃんが言ってたお菓子がないズラ」
やはりもっと都会の方へ行かなければいけないのかと店を出ようとした時だった。ふと視界の端に暖かそうな防寒着が目に入り、足を止めた。
(そう言えば、姉さん新しい仕事着が欲しいって言ってたズラ…)
豪雪地帯であるここでは屋根の雪下ろしや雪かきが頻繁に行われる。しかし住んでいるのは大体が高齢層で限界があり、業者を呼ぶにも山奥なので時間がかかる。若い者はみな都会へと出てしまい、元気に動けるのは姉さんしかおらず、ここ周辺の整備は彼女が担っているのだ。
「これ暖かそうズラ…」
ふと、ネックレスをあげた少女の喜んだ顔を思い出した。
「…お菓子じゃなくても、喜んでくれたらいいズラ。気持ちは言葉で伝えればいいだよ」
そう言って、目の前にあった防寒着を手に取った。
「た、ただいまズラ〜」
「お帰り〜って、なんでそんな大荷物なの?」
「へへ…ちょっと買い物しすぎたズラ」
家へと戻れば部屋から顔を覗かせた姉さんが、自分の姿を見て驚いていた。
「言ってくれれば車出したのに。飛んで行ったの?」
「行きは飛んでっただが、帰りは歩きズラ。オラ飛ぶのまだ得意じゃねぇから…」
「歩き…それ隣町のホームセンターの袋よね。一体何時間かかると思ってるの…」
「でも、これも修行の一つと思えば大した事ないズラ!」
「まぁジェロニモが言うならいいけど…で、何をそんなに大買い物してきたの?」
「今から見せるズラ!」
「待って待って!部屋で見せて!ここ玄関だから!」
気持ちが先走りまだ靴も脱いでいないのに袋を開けようとしてしまい、慌てて取り出してしまった物を片付けた。
「で、何を買ってきたのかな?」
「んだ、まず暖かそうな防寒着ズラ」
そう言って、取り出した防寒着を彼女へと渡す。
「へぇ〜!良い物買ったね〜!」
「んだんだ!他には同じ売り場にあった手袋に
耳当て、首巻、靴下、中に着る物…最後に靴の裏に滑らないようトゲが付いてる靴ズラ!これで大雪でも怖くないズラ!」
一つ一つ紹介しながら、袋に入っていた物を彼女の前に並べた。
「奮発したね〜!ジェロニモの防寒対策はこれでバッチリね!」
「…?何言ってるだ、これぜーんぶ姉さんの物ズラ!」
「…え?」
彼女は目をまん丸にして驚いていた。
「バレンタインデーのお返しズラ!探してたお菓子は見つけられなかったけど、代わりに喜びそうな物を見つけてきただよ」
「…え、や、お返しの桁が違う!どー見ても買いすぎでしょ!私、市販のチョコと首飾りしかあげてないのに!」
「お金なんて気にしないズラ。気持ちが嬉しかったズラ」
そう言うと、ぱたりと彼女が後ろに倒れた。
「あ〜なんて綺麗な目をして言うの、後光が見えるわ…あのね、ジェロニモ。確かに嬉しいけど、あげすぎってのも良くないの。いつか損するよ」
「…そうだったズラか」
喜んでくれるかと思っていたが、彼女を困らせたみたいで少し落ち込む。
「でも、まぁ初めてのお返しだしね!わからないのは当然よ、これ本当に全部もらって良いんだね?」
「ん、姉さんのために買ってきた」
「そう、じゃあありがたく貰うわ!大切に使わせてもらうよ、ありがとうジェロニモ」
そう笑った彼女に自分も笑い返す。少し失敗してしまったが、喜んでくれたのは確かだと満面の笑顔を見て確信した。
次の日、彼女の朝は早い。仕事や学校へ行く子供達のために道を作らねばならないからだ。自分も起きて手伝おうと家を出ようとすると、外からよく知る声が聞こえた。
「おはよう、プリンセス!可愛いネックレスしてるねぇ〜!」
「おはようお姉ちゃん!いいでしょ!ジェロニモからのホワイトデーのお返しに貰ったの!」
話しているのは自分の想い人と、近所の女の子。
「ジェロニモにこれを買ってきてって言ってもわからないだろうから、一緒に買いに行ったの!」
「それなら確実ね、賢いな…」
「お姉ちゃんは何を貰ったの?」
「ん、私?私はねぇ〜」
そこでふと思う。お返しのプレゼントなのに、仕事道具とはどうなのだろうか。少女に渡したような、綺麗なアクセサリーとかの方が良かったのではと今更になって思い始めた。
(姉さんは女性だ…綺麗で可愛い物の方が良かったんじゃ…オラまた失敗しちまったズラ!)
玄関先で一人オロオロと慌てふためく。
「私はねぇ〜この上から下までドレス一式を貰ったのさ!見てよこれ、地面凍ってても大丈夫なの」
その言葉にぴたりと自分の動きが止まる。
「え〜ドレスってもっときらきらしててヒラヒラしてるやつだよ。靴もそんな危ないやつじゃないもん」
「私にとってこれはドレスと同じ物だよ。人によって感じ方は違うからさ、私からしたらこの防寒着はきらきらのドレスだしこの靴はガラスの靴になるんだよ〜」
「よくわかんない!」
「わかんないか〜!じゃあ学校行って勉強しておいで。学校は国語とか算数とかを勉強するだけの所じゃないからね」
「そうなの?」
「そうだよ、勉強以外も学ぶ所なの。さぁ、行ってらっしゃーい!」
足音が離れていき静かになったのを確認して外へと出る。
「あ、おはようジェロニモ」
朝日に照らされて微笑む彼女。煌びやかな装飾などなくても、自分にはとても輝いて見えた。
