キン肉マン
彼と一緒に住み始めて一年が経ったある日、突然荷物が届いた。
「…血盟軍?バッファローマンさん、軍隊にも所属してたの?」
差出人の所に書いてあった字を見て、間違いなく彼宛てだろう。何か重要な物かもしれないので開けないでおこうと思ったが、どうやら中身は生物らしく仕方なく開けることにした。
(どうしよう…変な物だったら…)
軍と聞いて、あまりいい想像ができない。
「謎の地球外生命体とかやめてよ…?」
映画に影響されすぎだと思うが、超人という存在と一緒に住んでいるためあり得ないことではないだろう。恐る恐る箱を開ければ、入っていた物は見慣れた果物だった。
「…桃だ。御中元だったのかな、これ」
時期的には少し遅いが、彼の知り合いは出身が皆色々だ。日本の風習に合わせて送ってきてくれたのかもしれない。
「バッファローマンさんが帰ってきたら、お返しの相談しないとな」
桃を冷蔵庫に移し、空箱を畳もうと持ち上げるとぱさりと封筒が落ちた。
「…?手紙だ。しかも私に?」
拾いあげた手紙にははっきりと私の名前が書かれていた。彼の友人達の話は聞いた事あるが、直接関わった事はないし顔も見た事はない。そんな相手からの手紙に、何が書かれているのだろうと変な緊張が走る。
「…なんだろう」
彼に関する重大な秘密か、もしくは私に対する苦言か、緊張しながら封を開け目を通す。綺麗な字で書かれた手紙を最後まで読み終え丁寧に片付けると、ソファーの上に寝転び真っ白な天井を見た。
「…たった一人の生き残りかぁ…」
広い部屋に自分の独り言が響いた。
「おう、今日は何飲むよ!新発売のビールか?それともこの前見つけた日本酒か?」
ご機嫌にお酒を並べ出す彼を見て苦笑する。
「デザートに合いそうなのがいいです」
「デザート?そんなもんいつ買ったんだ?」
お酒を選んでいたバッファローマンが、キッチンで桃を準備している私を見に来る。
「今日届いたんですよ。血盟軍という方々から」
「何でだ?」
「私に聞かれても困るんですけど…御中元じゃないんですか?」
「御中元?」
「日本ではお世話になった人に半年経ちましたけど元気ですか〜って、贈り物をするんですよ」
「へぇ、これをあいつらが?」
「だから、私に聞かれても知らないですってば」
まだ皮を剥いていない桃を訝しげに見ていた彼の手からそれを取り上げた。
「美味いのか?それ」
「食べた事ないんですか?」
「ないな」
「甘くて美味しいと思いますよ。ほら」
切り分けた桃をひと切れつまみ、彼に差し出す。彼は一瞬驚いた顔をした後、すぐに私の手から桃を食べた。
「…うん、美味いな」
「色も綺麗だし、とてもいい桃ですよ」
「なぁ、もう一個くれ」
「そんなに美味しかったんですか?ちょっと待って下さいよ…じゃあ、こっちは切り終わったんで持っていって下さい」
二つ分切り終えて皿に乗せた桃を渡そうとすれば、彼が手を引っ込めた。
「そうじゃねぇ、食べさせてくれ」
「はい?」
子供じゃないのだからと言いそうになり、ぐっと堪えた。今日の手紙で彼の境遇を知ってしまい寂しがり屋な理由がわかった今、いつもみたいに軽くあしらう事ができない。
「…仕方ないですね。はい、どうぞ」
さっきみたいに手からではないが、フォークで差し出してあげれば嬉しそうに食いついた。
「なんだぁ?今日はやけに優しいじゃねぇか」
よほど嬉しかったのか、背後から抱きついてきた。
「包丁持ってるんですから、危ないですよ」
「おう。そうだな、悪かった」
普段なら絶対離れないが、危険であると分かればあっさりと離れる。物分かりがいいのか悪いのか。私から離れた彼は鼻歌を歌いながら、今から飲むお酒を持ってリビングへと歩いていく。私は切り終わった桃を皿に乗せて彼の隣に座った。
「今度お礼を送りましょう。何が良いですかね?」
「んーアイツらの好きな物…酒か?」
「それはあなたでは?」
「いや、全員好きだぜ?それぞれ国がバラバラだからよ、食い物になると難しいんだ。酒だ、酒がいい」
「はいはい、わかりました」
酒にも好みが色々あるのでは?と思いながらも、この人も何でも飲むから大丈夫だろうと深くは考えなかった。
「それにしてもバッファローマンさん。色んな人に心配されてますよ」
「あ?何でだよ」
「私宛に手紙が入ってたんです。みなさん、あなたが一人で寂しがっていないか心配しているそうですよ」
「何だと!?俺は別に一人だって…!」
「そうなんですか?せっかく寂しがり屋なあなたのために、家族を増やしてもいいかなと思ったのに」
そう言えば、彼はぐっと言いかけた言葉を飲み込んだ。
「超人と人間とのハーフですけどね」
「……超人と人間との子供はできにくいって言われてる」
「それは聞いた事あります」
「それにできたとしても、母親にも子供にも負担がでかい」
「あなたにしては珍しく弱気ですね。どうしたんですか?」
ぐっと拳を握りしめて俯く彼とは反対に、いつも通りの態度で接する。
「…あのな、大変なのはお前なんだよ。もしそれで、お前が…」
「そんなに心配しなくても、今の医療は進歩してます。もしもはないとは言いきれませんが、私はできる事なら残したいと思います」
彼が失ってしまった物を再び取り戻す手伝いをする事は、パートナーとして不思議ではないだろう。完全とまではいかないとしても、少しくらいなら彼の寂しさを和らげてくれるかもしれない。平々凡々な自分が超人の子供を産み育てる、そんな大変な決断をするなんて思ってもいなかった。
「……」
彼は何も言わずに、もともと険しい顔をさらに険しくして悩んでいる。きっと彼の中の天秤が私の命と新しい命とでぐらぐらと揺れているのだろう。思い悩んでいる彼をあえて放置して、呑気に桃を食べる。ここで私が狼狽えたら彼はきっと私の命を優先するだろうから。
(本当に悪魔超人だったのかって疑うくらい良い人なんだよね…)
「…いいのか?」
俯いていた顔を上げ、まだ不安そうな表情で私を見る。
「いいですよ。あなたの友人達もそれを願って、これを送ってきてくれたんじゃないんですか?」
そう言って桃を指差せば、彼は首を傾げた。
「桃は子宝に恵まれますようにっていう意味があるらしいですよ。まあ、今の時期の旬な果物なんで本当にただの贈り物かもしれないですけどね」
正確に言えば桃の花の方らしいのだが、似たようなものだろう。彼は桃をじっと見て考え込む。そしてやっと決断したのか、こちらに向き直り姿勢を正した。
「…お前には負担をかけると思うが、俺の子供を産んで欲しい」
「うん、いいですよ」
そう返事を返せば、やっと眉間のシワがなくなりほぼ突進に近い形で抱きつかれる。
「ちょっと、力加減考えて下さい!」
「悪い、嬉しくてよ。本気出してもいいんだなって」
「……本気?」
その言葉に、若干嫌な予感がする。
「おう。今まであんたに負担かけないようセーブしてたけど、必要ないって事だろ?」
きょとんとした顔でとんでもない事を言い出した彼に、今度は私の方が眉間にシワを寄せた。
「…あれでセーブしてたと?」
彼との夜の営みを思い出して、ますますシワが深くなる。あれで抑えていたと言うのなら、本気を出されるとまずいのではと寒気がした。
「…ちょ、ちょっと待って下さい。いきなり本気出されると困るんですけど…」
エンジンのかかり始めた彼を落ち着かせようとすれば、捨てられた子犬のような顔をしてこちらを見ていた。
「……っ、私が言い出したんですもんね!いいですよ!かかってきなさい!」
どんな誘い文句だと思いながらも、そう叫べば嬉しそうに抱きついてきた。桃の味のするキスをされながら、もうなんとでもなれと彼の好きにさせる事にした。
「…血盟軍?バッファローマンさん、軍隊にも所属してたの?」
差出人の所に書いてあった字を見て、間違いなく彼宛てだろう。何か重要な物かもしれないので開けないでおこうと思ったが、どうやら中身は生物らしく仕方なく開けることにした。
(どうしよう…変な物だったら…)
軍と聞いて、あまりいい想像ができない。
「謎の地球外生命体とかやめてよ…?」
映画に影響されすぎだと思うが、超人という存在と一緒に住んでいるためあり得ないことではないだろう。恐る恐る箱を開ければ、入っていた物は見慣れた果物だった。
「…桃だ。御中元だったのかな、これ」
時期的には少し遅いが、彼の知り合いは出身が皆色々だ。日本の風習に合わせて送ってきてくれたのかもしれない。
「バッファローマンさんが帰ってきたら、お返しの相談しないとな」
桃を冷蔵庫に移し、空箱を畳もうと持ち上げるとぱさりと封筒が落ちた。
「…?手紙だ。しかも私に?」
拾いあげた手紙にははっきりと私の名前が書かれていた。彼の友人達の話は聞いた事あるが、直接関わった事はないし顔も見た事はない。そんな相手からの手紙に、何が書かれているのだろうと変な緊張が走る。
「…なんだろう」
彼に関する重大な秘密か、もしくは私に対する苦言か、緊張しながら封を開け目を通す。綺麗な字で書かれた手紙を最後まで読み終え丁寧に片付けると、ソファーの上に寝転び真っ白な天井を見た。
「…たった一人の生き残りかぁ…」
広い部屋に自分の独り言が響いた。
「おう、今日は何飲むよ!新発売のビールか?それともこの前見つけた日本酒か?」
ご機嫌にお酒を並べ出す彼を見て苦笑する。
「デザートに合いそうなのがいいです」
「デザート?そんなもんいつ買ったんだ?」
お酒を選んでいたバッファローマンが、キッチンで桃を準備している私を見に来る。
「今日届いたんですよ。血盟軍という方々から」
「何でだ?」
「私に聞かれても困るんですけど…御中元じゃないんですか?」
「御中元?」
「日本ではお世話になった人に半年経ちましたけど元気ですか〜って、贈り物をするんですよ」
「へぇ、これをあいつらが?」
「だから、私に聞かれても知らないですってば」
まだ皮を剥いていない桃を訝しげに見ていた彼の手からそれを取り上げた。
「美味いのか?それ」
「食べた事ないんですか?」
「ないな」
「甘くて美味しいと思いますよ。ほら」
切り分けた桃をひと切れつまみ、彼に差し出す。彼は一瞬驚いた顔をした後、すぐに私の手から桃を食べた。
「…うん、美味いな」
「色も綺麗だし、とてもいい桃ですよ」
「なぁ、もう一個くれ」
「そんなに美味しかったんですか?ちょっと待って下さいよ…じゃあ、こっちは切り終わったんで持っていって下さい」
二つ分切り終えて皿に乗せた桃を渡そうとすれば、彼が手を引っ込めた。
「そうじゃねぇ、食べさせてくれ」
「はい?」
子供じゃないのだからと言いそうになり、ぐっと堪えた。今日の手紙で彼の境遇を知ってしまい寂しがり屋な理由がわかった今、いつもみたいに軽くあしらう事ができない。
「…仕方ないですね。はい、どうぞ」
さっきみたいに手からではないが、フォークで差し出してあげれば嬉しそうに食いついた。
「なんだぁ?今日はやけに優しいじゃねぇか」
よほど嬉しかったのか、背後から抱きついてきた。
「包丁持ってるんですから、危ないですよ」
「おう。そうだな、悪かった」
普段なら絶対離れないが、危険であると分かればあっさりと離れる。物分かりがいいのか悪いのか。私から離れた彼は鼻歌を歌いながら、今から飲むお酒を持ってリビングへと歩いていく。私は切り終わった桃を皿に乗せて彼の隣に座った。
「今度お礼を送りましょう。何が良いですかね?」
「んーアイツらの好きな物…酒か?」
「それはあなたでは?」
「いや、全員好きだぜ?それぞれ国がバラバラだからよ、食い物になると難しいんだ。酒だ、酒がいい」
「はいはい、わかりました」
酒にも好みが色々あるのでは?と思いながらも、この人も何でも飲むから大丈夫だろうと深くは考えなかった。
「それにしてもバッファローマンさん。色んな人に心配されてますよ」
「あ?何でだよ」
「私宛に手紙が入ってたんです。みなさん、あなたが一人で寂しがっていないか心配しているそうですよ」
「何だと!?俺は別に一人だって…!」
「そうなんですか?せっかく寂しがり屋なあなたのために、家族を増やしてもいいかなと思ったのに」
そう言えば、彼はぐっと言いかけた言葉を飲み込んだ。
「超人と人間とのハーフですけどね」
「……超人と人間との子供はできにくいって言われてる」
「それは聞いた事あります」
「それにできたとしても、母親にも子供にも負担がでかい」
「あなたにしては珍しく弱気ですね。どうしたんですか?」
ぐっと拳を握りしめて俯く彼とは反対に、いつも通りの態度で接する。
「…あのな、大変なのはお前なんだよ。もしそれで、お前が…」
「そんなに心配しなくても、今の医療は進歩してます。もしもはないとは言いきれませんが、私はできる事なら残したいと思います」
彼が失ってしまった物を再び取り戻す手伝いをする事は、パートナーとして不思議ではないだろう。完全とまではいかないとしても、少しくらいなら彼の寂しさを和らげてくれるかもしれない。平々凡々な自分が超人の子供を産み育てる、そんな大変な決断をするなんて思ってもいなかった。
「……」
彼は何も言わずに、もともと険しい顔をさらに険しくして悩んでいる。きっと彼の中の天秤が私の命と新しい命とでぐらぐらと揺れているのだろう。思い悩んでいる彼をあえて放置して、呑気に桃を食べる。ここで私が狼狽えたら彼はきっと私の命を優先するだろうから。
(本当に悪魔超人だったのかって疑うくらい良い人なんだよね…)
「…いいのか?」
俯いていた顔を上げ、まだ不安そうな表情で私を見る。
「いいですよ。あなたの友人達もそれを願って、これを送ってきてくれたんじゃないんですか?」
そう言って桃を指差せば、彼は首を傾げた。
「桃は子宝に恵まれますようにっていう意味があるらしいですよ。まあ、今の時期の旬な果物なんで本当にただの贈り物かもしれないですけどね」
正確に言えば桃の花の方らしいのだが、似たようなものだろう。彼は桃をじっと見て考え込む。そしてやっと決断したのか、こちらに向き直り姿勢を正した。
「…お前には負担をかけると思うが、俺の子供を産んで欲しい」
「うん、いいですよ」
そう返事を返せば、やっと眉間のシワがなくなりほぼ突進に近い形で抱きつかれる。
「ちょっと、力加減考えて下さい!」
「悪い、嬉しくてよ。本気出してもいいんだなって」
「……本気?」
その言葉に、若干嫌な予感がする。
「おう。今まであんたに負担かけないようセーブしてたけど、必要ないって事だろ?」
きょとんとした顔でとんでもない事を言い出した彼に、今度は私の方が眉間にシワを寄せた。
「…あれでセーブしてたと?」
彼との夜の営みを思い出して、ますますシワが深くなる。あれで抑えていたと言うのなら、本気を出されるとまずいのではと寒気がした。
「…ちょ、ちょっと待って下さい。いきなり本気出されると困るんですけど…」
エンジンのかかり始めた彼を落ち着かせようとすれば、捨てられた子犬のような顔をしてこちらを見ていた。
「……っ、私が言い出したんですもんね!いいですよ!かかってきなさい!」
どんな誘い文句だと思いながらも、そう叫べば嬉しそうに抱きついてきた。桃の味のするキスをされながら、もうなんとでもなれと彼の好きにさせる事にした。
