アラバスタの守護神に恋をした

大きな敷地内で、何羽もの隼達が入ったり出たりを繰り返している。
「お帰りジェタ。何か見つかった?」
机の上に広がった地図や文字の書かれた紙の上に隼が降り立つ。そしてくちばしでトントンと数字を指し示した。
「なるほど、なるほど」
私は彼の伝えたい事を読み取って、電電虫を取った。
「こちら〇〇。西側海岸付近で海賊船を発見。船員は約二十ほど、近場の街へ行く可能性があります」
「了解。もしものために護衛隊を配置する。お前は近場の街に連絡しといてくれ」
「了解です」
受話器を置き今のやりとりを報告書にまとめる。すると電話がかかってきた。
「〇〇、おれだ」
「ペル様!」
好きな人の声はいつ聞いてもいい。思わず大きな声が出てしまった。
「落ち着け。ジェタは帰ってきているか?」
「さっき帰ってきました!」
「休みたいだろうが申し訳ない。今から偵察に付き合ってほしいと伝えてくれないか?あと二羽ほどこちらへよこして欲しい」
「わかりました、ジェタ出動だって!行ける?」
ジェタと呼ばれた隼は頷くようにして、頭を縦に振った。
「ジェタ、行けるそうです!」
「助かる。では訓練場の上に集合だと伝えてくれ」
「了解です!」
通話が切れると、すぐさま彼の出発準備を行う。
「はい水分取って〜ご飯は?えっと、今空いてる子で偵察行ける子ー!」
外に向かって叫べば、ちょうど二羽の隼が降り立った。
「レタとルタね。ジェタと一緒にペル様の偵察に付き合って欲しいんだけどいい?」
二羽はお互い顔を見合わせた後、こちらを向いて頭を縦に振った。
「ありがとう!ジェタ、準備できたら二人と一緒に訓練場に行って。ペル様がそこで待ってるって」
ジェタは一鳴きすると、他の二羽と共に空高く飛び上がっていった。
「気をつけてねー!」
離れていく三羽に手を振れば、返事をするように鳴き声が空に響き渡った。


日が沈み始めた頃、ペル様と共に偵察に出ていた三羽が部屋へと戻ってきた。
「お帰り〜!みんな怪我がないところを見ると、何事もなく終わったみたいだね。お疲れ様」
彼らの食事である生肉を取り出し、皿の上に乗せてあげると皆勢いよく食べ始めた。
「いいなぁ〜みんなはペル様と空中デートできて!私も空を飛べたらな〜!」
「こら、おれ達は遊びに行っていた訳じゃない。仕事をしてきたんだ」
「ペ、ペル様!?」
窓から隼姿のペル様が入ってきた。
「窓から失礼する。今日の仕事の礼だ」
そう言って、肉の入った袋をテーブルの上に置いた。
「今日は突発だったからな、臨時報酬だ」
隼達は嬉しそうに鳴き声をあげた。
「それにしても、最初の頃に比べて増えたな」
彼が部屋を見渡しながらそう呟く。
「今じゃ二十羽いますからね。カルガモ部隊に加えて、ファルコン部隊っていうのどうですか?ペル様リスペクトで!」
「好きにしなさい。どうせやめろと言ってもやめないだろう?」
「じゃあ今日結成します!隊長はペル様で!」
「おれはすでに役職がある。お前がなればいいだろう」
「ペル様のために作ったのに!」
「彼らに指示を出すのは〇〇だ。ならばお前が隊長になるのが必然だと思うがな」
ペル様は軽い足取りで窓枠に飛び乗った。もう帰ってしまうのかとその背を見つめれば、彼がこちらを振り返った。
「〇〇、背中に乗ってみるか?」
「…え?」
「さっき空を飛んでみたいと言っていただろう。少しだけなら乗せてやってもいい」
「ええっ!いいんですか!?」
突然の申し出に飛び上がって喜んだ。すぐさま小走りで近寄れば、困ったように彼が笑う。
「まるで子供みたいだな」
「だって空を飛べるなんて夢のようじゃないですか!」
どこかの国では空飛ぶ機械もあるかもしれないが私は見た事はない。だからこそ空を飛べる彼に強い憧れを持つ。
「わかったわかった。ほら、早く乗りなさい」
彼が背を向け、私は恐る恐る肩の部分に手をかけた。
「しっかり捕まってるんだ。おれが大丈夫と言うまでは口を閉じているんだぞ。舌を噛むからな」
「わかりました」
きゅっと口を引き結び、しっかりと彼に掴まった。私が準備できたのを見て、彼が窓枠から飛び立つ。身体が下に落ちていく恐怖に目を閉じれば、バサバサと羽音が聞こえふわりと浮かんだ感覚にゆっくりと目を開けた。
「はは、やはり怖いか。もう口を開いても大丈夫だぞ」
「べ、別に怖がってませんけど?」
「その割には手に力が入っていたが?」
「…う」
「気にするな、慣れればなんて事はない。ビビ様を初めて背中に乗せた時は……しまった」
「えぇーーーっ!!ビビ王女もペル様の背中に!?」
「あまり大きな声を出すな!背中に乗せるなと言われているんだ」
「あのペル様が!言われた事を守らないなんて!!」
「あの時は色々とあったんだ!それよりもう少し声を抑えろ!」
ペル様は他の人に見つからないよう、上へと飛び上がった。地上がさらに離れて見え、怖くなって思わず彼の服にしがみついた。
「いいか、今日の事とさっき話した事は誰にも言わないように。わかったな?」
「あぁ〜っ!ビビ様に初めてを全部奪われた!」
「おれの話を聞いているのか!それと変な事を言うのをやめろ!」
「すみませ〜ん…」
満点の夜空の中、私と彼以外誰もいない。最近忙しくてなかなか話す機会もなく、これは色々話せるチャンスだと話題を考えていると先に口を開いたのは彼だった。
「〇〇」
「はい」
「例えばの話なんだが…」
そこで少しの間沈黙する。何か良くない事だろうか、何も悪い事はしていないはずだが不安になってきた。
「…例えばお前が護衛隊の誰かと結婚したとしよう」
「……はい?」
全く想像していなかった言葉に返事をしながらも首を傾げた。
「それでだ。その相手がお前よりも国のために自分の命を犠牲にすると言えば、お前はどう思う」
「どうって…」
私は頭を悩ませる。その可能性は私にもあり得る事だから。
「うーん、それでいいんじゃないかと思いますね…私も護衛隊なので、もしもの時は国を取ると思います」
「…そうか、だがそれでもだ。お前は好きな相手に見捨てられたとは思わないのか?」
「そうは思わないですね。だって国がないと生きていけませんもん!だから国を取ったというより、国ごと守ってくれたんだって思います!」
少しの沈黙の後、ペル様が小さく笑う。
「…はは、お前はすごいな」
「でしょう!もっと褒めてください!」
「調子に乗るな」
「急に冷たい…」
ペル様はどうして急にそんな事を聞いたのだろうか。聞きたいと思いながらも、口から出るのはくだらない世間話ばかり。
「そろそろ戻るか」
「はい。あ、見てくださいペル様。今日も星が綺麗ですよ」
「ん、あぁ…そうだな」
私は今日見たこの景色をずっと忘れないだろう。最後にもう一度、彼の背中にぎゅっとしがみついた。


本日も元気に隼達と仕事に励む。愛する国のため、そして憧れの人のため。この国に生きる人たちの暮らしを守るのが私の仕事。
「最近は目立った事件がないから平和だ〜!いい事だよね〜」
ここ最近の報告書を見直して、近くにいた隼に話しかけた。隼はわからないといった様子で首を傾げる。
「君はまだ小さいからわかんないか〜」
最近産まれた隼の子供。私の近くで先輩達の仕事を見学するのが日課となっている。その様子を微笑ましく見ていれば、部屋の戸がノックされた。
「はい!どうぞ!」
他の部隊だろうか。遠征に行くのに隼を借りに来たのかもしれないと、ドアの先を見た。
「こんにちは」
「ビ、ビビビビ…ビビ様!?」
現れたのはこの国の王女様であるビビ様だった。王族のオーラに思わず一歩後ずさる。
「お仕事中ごめんなさい。もしかして貴方がペルが言ってた〇〇さん?」
「え!?は、はい!」
ペル様は一体、ビビ様に何をしゃべったのだろうか。自分じゃ言う事を聞かないからって、雇い主にチクるとは酷くないだろうか。ダラダラと冷や汗が流れる中、ビビ様は部屋の中を見回しながら入ってくる。
「へぇ〜すごい…こんなに隼さん用の部屋があるなんて…それだけ数がいるって事よね」
「は、はい!現在、22羽の隼がここで生活しております!」
ピシリと敬礼しながら答えれば、クスクスと笑われた。
「そんなに固くならないで。実は仕事の合間に抜け出してきちゃったの。だからね、仕事を思い出しちゃうから普通にしてもらえるとありがたいんだけど…」
「ぬ、抜け出して!?え…でも王女様に普通に接するなんて…」
私も私だが、ビビ様も結構やんちゃな部類ではとふとそう思った。
「今日は貴方とお話がしたくて来たの。今忙しい?」
「えっ!?私と!?忙しくはないですが…お叱りでしょうか?」
そう言えば、彼女は大きく口を開けて笑った。いつもは凛としてていかにも国の王女様という雰囲気だったのが、今は普通の女性にしか見えない。
「そんなんじゃないわよ!貴方はとてもよく頑張ってくれてるって、いつもペルは言ってるし」
お叱りではないらしく、私はほっと息をついた。
「では、なんでしょう?」
「貴方のことを知りたいの」
「私のこと?」
「ええ。それとペルの話も色々教えてあげたいし…いつも貴方ばかり話題になってたら、不公平でしょ?」
ビビ様が意地悪を思いついたような顔で笑い、少しだけ親近感がわいた。
「…何か飲まれます?王女様のお口に合うかはわかりませんが…」
「紅茶をいただこうかしら」
私達は顔を見合わせて、にっと笑った。

「…って、そう言って飛んでっちゃって…」
「…っ、うっ、ぐすっ…!」
王女様の前なのに目と鼻から流れるものが止まらない。最初はビビ様のやらかしエピソードで笑っていたのに、いつの間にか時代が流れ話題は戦争の話へ。ビビ様はあの戦争であった事を私に話してくれた。とある海賊に助けてもらった事、色んな場所を旅してきた事、そしてあの爆発の事も。
「本当に感謝してる。ペルがああしてくれなかったら、きっとみんなあの爆発に巻き込まれてもっと被害が出てた。でもね、本当にあれで良かったのかなって思うの。もっと、良い方法があったんじゃないのかって…終わった後に言ってもなんだけど」
「うぅ〜っ!それでも…それでもペル様がたくさんの人を助けたのは間違いないです!」
「…そうね。ペルには感謝しきれないほどの恩があるわ」
「ペル様が生きてて良かった…」
「ふふ、あなた本当にペルの事が好きなのね」
「もちろんです!…あ、でも!好きと言っても尊敬の意味で、決して邪魔をするような事は…」
自分で言って、自分で落ち込む。そういえばビビ様は私のライバルという存在になるのだった。私が勝手に思っているだけだが。雲の上すぎて全く実感がなく、半ば諦めていたので今まで忘れていた。
(やっぱり王女様には相応しい相手だよね、ペル様って。絵になるもん!)
複雑な心境に思わずため息をついた。
「邪魔ってどういう事かしら?もしかして、ペルに好きな人ができて弱くなっちゃうとかって思ってる?」
ビビ様は私の思いも知らず、楽しそうに笑った。
「…ないと思います」
「そうよね、私もそう思う!だって仕事の事しか頭にないんだもの!」
ビビ様が楽しそうに笑っている。改めて王女様って何しても絵になるなと感心した。
「ほんと仕事仕事って!たまには自分の事を考えてもいいのにね。この国を好きでいてくれるのは嬉しいけど、ペルにだって自分の人生があるんだから」
「もはや国が恋人なのでは?」
「そうかも!やだ、ペルってば自分の部下にもこんな風に思われてるだなんて。やっぱり仕事のしすぎね!休みを取らせなきゃ」
ビビ様は涙を流しながら笑った。
「ペルにだって幸せになる権利があるわ。せっかく生きててくれたんだもの、ね?」
さっきの話を振り返され、またじわりと目頭が熱くなる。
「うわぁ〜!ペル様ぁ〜!!」
「あら、思い出しただけで泣いちゃった」
すると部屋の戸をノックする音が聞こえる。
「はい、どなた?」
返事をしたのはビビ様。
「…ビビ様。私です、ペルです」
その声にぴくりと肩を振るわせる。
「残念、見つかっちゃった」
ドアが開いた瞬間、私はすごい勢いで彼の足元に飛び出した。
「〇〇!?どうした!」
「ペ…っ、ペルさまぁぁぁぁ!!生ぎでで本当によがったぁぁぁ〜っ!!」
今日だけで何回この言葉を言っただろう。泣きすぎて出ないと思っていた涙が新しく流れる。
「まったく何を言っているんだ…ここしばらく、死にかけた事はないぞ」
「そうじゃないですよぉぉぉ〜っ!」
「だからどうしたと言うんだ…」
訳が分からず困っている彼を見て、ビビ様が楽しそうに笑った。
「ペルが時計塔で爆弾を持って飛んでいっちゃった時の話を彼女にしてあげたの。そしたら泣いちゃって」
「なんでそんな話を…」
「だって不公平でしょ?彼女の話はたくさんするのに、自分の話は秘密にしてるなんて」
「私は別に秘密になど…」
「ペル様ぁ!私は…私は情けないです…ペル様が命をかけて守ってくれたのに、私はあの時ただ家に閉じこもっていただけで…!」
「それはお前はまだ子供で…」
泣きながらしゃがみ込む私にどうしたらいいかわからず、行き場のない彼の手がうろうろと宙を彷徨った。それを見てさらにビビ様が笑う。
「彼女、貴方が飛び立つ前に言った言葉にすごく感動ししててね。私もそうなりたいって」
ビビ様がそう言うと、彼は私の前に片膝をついた。
「…〇〇、あのな」
声をかけられ泣きながら顔を上げれば、やはりいつものように困った顔をしていた。
「ペル様ぁぁ!私、ペル様に一生ついていきますぅぅ〜っ!」
そう私が言った言葉を聞いて彼が笑う。
「うわぁぁん!笑われた!私本気で言ってるのに!ひどいですペル様〜!」
さらに子供のように泣きわめけば、彼もさらに笑う。
「いや、おかしくて笑ったんじゃない」
「じゃあなんで…」
「〇〇。お前、今一生と言ったな?」
「…言いましたけど…」
「その言葉、よく心に留めておくんだ」
「へ?」
私は訳がわからないという顔をして彼を見たが、ただ優しく微笑むだけでいつものようにぽんと頭に手を置いた。
「さぁて、ペルに見つかっちゃったし私も仕事に戻ろうかしら」
ビビ様が椅子から立ち上がって伸びをした。
「ビビ様、隊舎でもちゃんと誰かに言伝してから行ってください。皆、貴女を心配して…」
「わかってる!でもペル、私が〇〇さんと話したいって言ったらあまりいい顔しないじゃない。言ったら止めるでしょ?」
「そんな事は…」
「私、別に王女様に悪い事教えませんけど」
「いや、おれが心配しているのはそう言う事じゃ…待て。それもあるな」
普段無鉄砲だと怒られているので何かやらかすだろうと警戒されているのかと思って言ったが、理由は他にもあるらしい、
「ペル、『それも』って何?彼女に聞かれると困る事でもあるのかしら」
意地の悪い笑みを浮かべる王女に、ペル様は顔をしかめた。
「今日は時間がなかったから、あまり話せなかったけど。また今度、ゆっくりお話ししましょう?次はペルが入隊して間もない頃の写真も持って来てあげる」
「ビビ様!」
「ありがとうございます!」
「お前も喜ぶんじゃない!」
私は迷わずビビ様に向かって敬礼をすると、ペル様にぱしんと軽く頭を叩かれた。
「あら、私の口から話されるのが嫌なら自分で話してあげたら?」
「…ぐ」
「え、もしかしてペル様も昔は問題児だったとか?」
「お前と一緒にするんじゃない。というか問題児という自覚があるのか…」
そう言って呆れ顔で私を見た。
「優秀すぎて問題児だったのよね」
「ビビ様!」
「えぇ!?聞きたい!めちゃくちゃ聞きたいです!」
「やめなさい!」
ペル様は恥ずかしそうに顔を逸らした。
「いつも仲が良くて良いことね!じゃあまた来るわ!」
「はい!お待ちしてます!」
「ビビ様、次はおれも同席します」
「あなた何言ってるのよ。ペルがいたら色々話せないわ」
「何を話されるつもりですか!」
「色々よ色々!」
ビビ様は楽しそうに廊下を駆けていき、曲がり角で一度私達に手を振ってから姿を消した。
「今度はお菓子も用意しとこう」
「…はぁ。悩みの種が増えた」
「いいじゃないですか優等生なら、何も恥ずかしがる事ないじゃないですか」
「おれだって失敗する時はするんだ。きっと失望するぞ?」
「そんな事はありませんよ。私のファン歴を甘く見ないでほしいですね」
「変な自信だな」
どんと胸を張れば、彼は苦笑いを浮かべた。
「さ、仕事だ。今日もこの国のために」
「ばりばり頑張りますよ!」
「お前のその前向きな姿勢はとても良いんだがな」
また頭を軽くぽんと叩かれ、彼は自分の仕事へと戻っていった。
「…あ、結局ペル様が言ってた意味ってなんだったんだろ」
『一生』という言葉を心に留めておけ。ペル様は時々難しい事を言うので、私にはさっぱりだった。
「というかペル様が入隊した時の写真とかすごいレアだ!楽しみだなぁ〜!」
私も部屋へと戻り自分の仕事に取り掛かる。私の独り言を、隼の子供は首を傾げながら聞いていた。


「最近話題になってるぞ、お前の隼達」
ある日の訓練終わり、隊長がそう私に言った。
「そうなんですよ〜他の隊からも好評で、いずれ隼使いの〇〇とか呼ばれちゃって!」
「あんまり調子に乗ってると、またペル様に怒られるぞ」
「うっ!この前怒られたばっかりなのに!」
「何したんだ、アイツ?」
「コブラ様に頼まれて、会議に出席して隼達使って芸を見せたらしいぞ」
「それが何で?」
「ペル様に内緒で行ったらしい。しかも隼達全羽連れて行ったもんだから、こっちの仕事ができなくて大変だったらしいぞ」
「そりゃ怒られるな」
「〇〇はいるか!」
突然、ペル様の声が隊舎の外から聞こえた。
「ほらみろ、噂をすればなんとやらだ」
「また何やったんだよ〜」
「まだ何もしてない!」
慌てて汗を拭いて、声がした方へと駆けていく。
「はい!なんでしょうか、ペル様!」
「隼使いのお前に会いたいと客人だ」
「え、私に?…あれ、今ペル様なんて言いました!?」
「ん?隼使いの〇〇なんだろう?」
そう言うと、彼は悪い笑みを浮かべ私を見た。
「もしかして今の聞こえてました!?」
「あんな大きな声で言えば聞こえる。行くぞ」
「いざ呼ばれると恥ずかしいです!」
「自分で言っておきながら贅沢だな」
ペル様が楽しそうに笑い歩く後ろをついて行く。最近のペル様はとてもご機嫌だ。前は断られていた稽古の相手もしてくれるようになった。自分の側から離れないという約束を守るなら、あれだけ渋っていた遠征も連れていってくれるようになった。彼に一体何があったのだろうか。
(…はっ!もしかしてビビ様と恋仲になったんじゃ!)
よく考えると、ビビ様が私の仕事部屋へ訪れた日の後くらいから機嫌がいいのだ。あの後私が知らない間に、二人の関係を変える何かがあったのだろう。
(…もともと勝ち目のない戦いだったし、こうしてペル様と一緒に仕事できるだけでいいじゃない)
いつものように迷いなく堂々と進む彼の背中に視線を向けた。
「さよなら、私の初恋…」
「何か言ったか?」
「いえ、お気になさらず」
ペル様は私の独り言に首を傾げ、また前を向いて歩き出す。そして連れてこられた部屋へと入れば、国王様とビビ様にチャカ様。そしていつかの会議で芸を披露した時にいた人達が数人。
「お待たせしました。〇〇です」
お偉いさんに囲まれて緊張で固まっている私の背中をペル様が押した。
「お前でも緊張するのか」
ペル様がそう言って苦笑いを浮かべた。
「いや、状況が状況ですし…こんなに注目されるのは、さすがに私でも」
「そんなに緊張しなくてもよい。いつも通りの君で構わんよ」
「ひゃい」
国王様にまで気を使われ変な声が出る。その様子を見ていたビビ様達が笑う。
「皆、君と君の隼達に喜んでくれていてな。その技術を役立てたいと考えているそうなんだが、協力をしてもらえないだろうか?」
「国王様がおっしゃるなら、私なんでもします!」
「ありがたい。となると彼女の負担が増えるのだが…ペル、お前はどう思う」
「彼女がやりたいのなら、自分はそれを支えるまでです」
「うむ。では頼んだぞ」
その後はお偉いさん達と簡単に挨拶を交わして部屋を出る。
「〇〇さんと隼さん達、大人気ね!」
「私というか隼達が優秀ですからね。なんてったってペル様リスペクトの隼部隊ですから!」
「その設定は生きていたのか…」
「これから忙しくなるな〇〇。まぁペルが監視しているから大丈夫だと思うが」
「監視っておかしくないですか?」
そう言えばチャカ様とビビ様が笑う。彼らの少し後ろを歩いていると、ペル様が歩みを緩め私の隣を歩き出す。
(ペル様!ビビ様がいるのに私の隣を歩くとかダメですよ!!)
ちらちらとビビ様を気にしていると、彼女はにっと笑いチャカ様の手を引いた。
「そういえばチャカ。私あなたに聞きたい事があったのよ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「聞きたい事?」
チャカ様はビビ様と私を交互に見て、何かを察すると彼女に手を引かれるまま歩き出した。
「わかりました、すぐ行きましょう」
「え?」
私は訳がわからず、困ったように二人を見た。
「あとは二人でこれからの事を話さなくちゃね!だって一生を誓った仲だもの」
「えっ、一生を誓ったって…あっ!」
以前ペル様に『一生ついて行く』と宣言した事を思い出した。
「ビビ様!あれは…!」
「お幸せに!」
「待って下さいビビ様!」
「ははは!言うようになったな〇〇!」
「違いますって!チャカ様!」
いたずらが成功したという風に笑って逃げていく二人の背中を呆然と見た。廊下にペル様と残され、気まずさに冷や汗が止まらない。
(どうしよう誤解させてしまった…ペル様はビビ様の事が…)
「確かにビビ様の言う通りだ。それに隼達の仕事の分担も考えてやらなければならない。彼らにも一言伝えておいた方がいいだろう」
私が心配とは裏腹に、ペル様は仕事の話をし始めた。
(良かった、ペル様が仕事人間で)
私もほっと息をついた。ビビ様達の誤解はまた解けばいいかと、彼の話を真剣に聞く事にしたのであった。


報告書を持ち隊舎への道を歩く。声が聞こえる方へと足を向ければ、訓練を終え休憩していた仲間達の姿が見えた。
「隊長〜ハンコ下さいハンコ!」
「ん?あぁ、ちょっと待ってろ。身体拭いたら行く」
全員水浴びをしたのか、全身ずぶ濡れでポタポタと雫を垂らしていた。
「〇〇タオル取ってくれ!」
「はーい」
近くにあったタオルをみんなに配り歩く。
「暑っついな!ほんと!」
そう言って、全員が服を脱ぎ去っていく。基本男ばかりの職場だから仕方ないと思うが一応女性がいるのだから少しは配慮してほしい。あっという間に半裸姿の男達に囲まれる。もう慣れた事なので何も言わないが、もう少し考えた方がいいのではと思う。ビビ様の侍女だってたまにだが通る事があるのだから。
「〇〇、きゃー!とかすごーい!とかないの?」
そう言い、みんなが思い思いに自慢の筋肉や歴戦の傷痕を見せつけてくる。しかしそれらは飲み会の席で、昔話とセットで何度も見たので慣れてしまった。
「え〜父親と同じ歳のおじさん達見て、それはないですね」
「ちょっと待て!おれ、お前と歳四つしか違わないんだけど!?」
うちの隊で私を除く、一番の若手が吠えた。
「別に護衛隊なんですから鍛えてるし、当たり前じゃないですか〜」
「つまんねぇな〜」
「そもそも護衛隊である私にそんな反応を求める方が無理だと…」
「〇〇、おれにもタオルをくれないか?」
「きゃーっ!?ペル様!!」
突然現れた上裸のペル様の姿に、慌てて手で目を隠す。
「おれ達と反応が違いすぎる」
「ペ、ペル様ってば!そんな格好でダメですよ!あ、意外と色白…」
「お前、指の間から見てるだろ」
スパンと隊長に頭を叩かれる。
「み、見てないですよ!」
とは言いながらも鍛え上げられた筋肉を記憶に収めておこうと視線を動かせば、胸元の大きな傷痕が目に入った。
「その傷ってもしかして…!」
「ん?あぁ、爆発に巻き込まれた時の…」
「うわぁぁぁん!」
「喜んだり泣いたり忙しいな」
「まったくだ、ほらタオルをくれないか」
傷痕を見て泣いている私を見て苦笑いを浮かべるペル様。
「ペル様、痛くないんですかそれぇ…」
「まぁ、時々痛むが大した事はない」
「名誉の傷痕だぞ」
「名誉だろうがなんだろうが痛そうなのは嫌なんですよぉ…というか!それで自慢になるんだったら私にもありますからね!」
以前銃で打たれた痕が残っていた事を思い出し、腹部を叩いた。
「なに?傷が残っているのか」
「え?あ、はい。治すのが遅くなったから痕が残ったってお医者様があぁぁ〜ってペル様!?」
なんとペル様は私の服をめくり、腹にある銃痕を探す。
「どこだ」
「あぁぁぁ〜!左のちょっと下…って、ペル様!」
「これか」
彼は全く気にせず傷痕を観察している。ペル様だから許されるが、それはセクハラになってしまう。
「傷痕は別にいいんですよ!それよりも、そんな事されたらお嫁に行けなくなるじゃないですか!」
気まずくならないよう、冗談を含んだ言い方でやめてもらおうと試みた。
「心配しなくても、おれが責任を取ってやる」
彼はさらっとそう言って私の服を直し立ち上がる。
「医者に傷痕を消せないか聞いておく」
動けない私と驚いて固まっている隊員達を置いて、ペル様は一人隊舎へと戻っていってしまった。


「チャカ様!チャカ様!」
私は仕事の報告を済ませてチャカ様を探し、宮殿を走り回る。
「どうした〇〇。またペルに怒られたか」
「最近怒られる事してませんよ!というか毎回私と会う度に怒られたのかって聞くのやめてください!」
「はは、悪い悪い。なんせペルが顔を合わせるたびにお前の話しかしないんだ。何かやらかしたのかと思うだろう?」
「誓って今回は何もしてません!むしろやらかしたのはペル様なんですよぉ!」
「ふむ、それはおもしろ…いや、珍しいな」
「だからチャカ様に聞こうと思って」
「ペルは何をやらかしたんだ?」
さっきあった事を言おうとしたが、なんだか恥ずかしくなってきて上手く言い出せない。
「どうした?」
「えーと…非常に言いにくんですが…ペル様が…」
「ペルが?」
「…私がお嫁に行けないって言ったら『おれが責任を取る』っておっしゃったんですけど、どう思いますか?」
チャカ様は大きく目を見開き固まった後、腹を抱えて笑い始めた。
「なんで笑うんですか!私の妄想とかそんなんじゃないですよ!嘘だと思うなら、うちの隊員に聞いてみてくださいよぉ!」
恥を承知で言ったのにこんなに笑われるとは。いまだチャカ様は笑っている。
「ははは!アイツが!そんな事を!いや、すまん。面白くてな、そんな顔をしないでくれ」
チャカ様は涙を拭いながら言った。
「良かったじゃないか、お前ペルの事が好きなんだろう?」
「だ、だって突然ですよ?私いつも通り過ごしてただけなのに、ペル様が急にあんな事言うなんて…」
「この前の一生をどうとかじゃないのか?」
「あれは護衛隊として一生ついて行きますって意味で…それにペル様にはもっと相応しい方が…」
もじもじとしているとまたチャカ様が笑いだし、私は彼の顔を睨んだ。
「悪い悪い。いや、不器用な者同士困ったものだなと思ってな」
「どういう意味ですか」
「まず相手として相応しいかどうかなんてのは、ペル自身が決める事だ。他人が口出しする事じゃない」
「確かにそうですけど…」
「それによく考えてみろ、今まで国の事しか考えていなかった男だぞ?色恋がわかると思うか?」
「…確かに」
真面目なのはいい事だがストイックすぎる彼の行動を思い出し、二人して頷いた。
「これは、お前達でしっかり話をする事だな」
「話をするって言ったって…」
ペル様って私の事好きなんですか?なんて聞けない。
「私、ペル様一筋だったからどうしたらいいのかわかんないですよぉ〜!」
「ははは!悩め悩め、簡単にいくなら誰も苦労しないさ」
「チャカ様助けて下さい!」
「残念、専門外だ」
「そんなぁ!?」
チャカ様は助言はないと言うように笑い、私はがっくりと肩を落とした。
「仕方ない、一つ忠告しよう。あまり嫉妬させてやるな。あとが怖い」
「ペル様が嫉妬なんてするんですか?」
「だったらなぜ最近あいつがお前と自ら手合わせをするようになったのか。嫌がっていた遠征への同行を許可するようになったか…わかるか?」
「…目を離すと危ないから?」
「それもあるかもしれないが…まぁ、自分のお気に入りの部下が他の男に頼るのが嫌なんだ」
私は身体が90度に曲がるくらいまで首を倒す。
「わからないか。それは余計にタチが悪いな」
チャカ様は苦笑いを浮かべた。
「〇〇、はっきり言っておこう。お前の好きな相手は真面目で仕事のできる男だが、それ以外の事は全くもってダメだ!」
そう言って、チャカ様は笑う。
「そしてとんでもなく愛の重い男だ。この国への忠誠心を見てたらわかるだろ?そういう男は嫉妬させると厄介なんだ」
「信じられない…」
「じゃあさっきから鋭い視線をおれに向けてくるあいつはなんだ?」
チャカ様が笑って指を差す方を見れば、機嫌の悪そうなペル様が自分達を見ていた。
「ペル様、いつの間に…」
ペル様はこちらへと向かって歩いてくると、私の手を掴んだ。
「チャカ。いつも言っているが〇〇をあまり甘やかさないでくれ」
「おれは甘やかしているつもりはないんだが…どちらかと言えば、甘やかしているのはお前の方だろう」
「おれはいいんだ。〇〇とは番なんだから」
「!?」
ペル様の言葉に耳を疑う。思わず彼を見れば、いまだチャカ様を睨みつけていた。一方チャカ様は一生懸命笑いを堪えているように見える。
「そうか番か。それにしても急だな、そんな素振りなかったのに」
「ペル様!つ、番ってどういう事ですか!?」
「知らないのか。人で言う夫婦というものだ」
「いや、私が聞いてるのは言葉の意味じゃなくてですね…!」
噛み合わない会話を聞いて、とうとうチャカ様が腹を抱え盛大に笑い出した。
「なにがおかしい、チャカ」
「悪い、ここまで不器用だとは。面白いな」
「チャカ様!面白がってないで、ちゃんとした説明を!」
「説明なんているのか?いいじゃないか、両思いで」
「でも、私はペル様の気持ちを聞いてない!私はずっとペル様はビビ様が好きなんだと…」
「だからビビ様といると変な気を使うのか」
「だって…」
「いつおれがそんな事を言ったんだ」
「焦るお前を見るのは面白かったぞ。いつもそわそわしていて、ビビ様もお気付きだ」
「なんで!?」
「「お前はわかりやすい」」
副官二人が腕を組んで頷く。
「まぁ後は二人でゆっくり話すといい。おれも自分の方で忙しいからな」
「えっ、チャカ様の恋バナ!?聞きたいんですけど!!」
「お前、散々人を煽っておいて…」
「ははは!おれのはまた今度。色々と勉強になったぞペル」
チャカ様は片手を上げ、私達をおいて離れていった。広い廊下にペル様と残され、気まづい空気に指を擦り合わせる。
「…〇〇」
「は、はい!!」
「…さっきも言ったように、お前はわかりやすい。それに直接言葉も聞いている」
「え…?」
私は驚いて彼を見た。『憧れている』『尊敬している』などは言った事はあるが、直接的な気持ちは言った事はないはずだ。
「相当酔っていたから覚えているかは不明だが」
「酔ってた?…あっ!もしかして!」
「思い出したか。酔い潰れたお前を部屋まで運んだ時だ」
「あの時は本当にご迷惑を…えっ!?私そんな事を!?」
「あぁ、ちなみにおれは酒を飲んでないから酔っていない。しっかりと聞いたぞ」
私は思わず廊下に崩れ落ちる。
「寝落ちする前にそんな事を言ってた気がする…」
「ほら、立ちなさい。そんな所にいたら他の者の邪魔になるだろう」
手を取られ立たされると、掴んだ手はそのままで歩き出す。
「ペル様…?」
「…おれの気持ちを聞いていない、と言ったな」
「え、はい。まぁ…」
ぴたりとペル様が歩くのをやめ、こちらを振り返る。
「あれだけわかりやすく言っているのに、信じられないのか」
今まで見た事のない彼の照れ顔を、目をまん丸にして見つめた。
「…信じられないですよ。だって…いつも『目を離すと海賊より危険』とか『発想が十代の少年』って言われてますから」
「……そうだな」
護衛隊に入ってからペル様は私の事を可愛がってくれているのはわかっていたが、対応は好奇心旺盛な親戚の子供の世話の延長といった感じだった。彼は思い当たる節があったのか口元に手をやり、眉間に皺を寄せた。
「でもその通りだろう」
「そんな相手に惹かれる要素があるのかわかりませぇん」
拗ねたように唇を尖らせれば、彼は不思議そうな顔をした。
「そこがお前の可愛い所じゃないのか?」
「…き、急になんなんですか!そんな事言って、次の遠征留守番させる気ですね!」
「今仕事の話はしていない」
今日のペル様はおかしい。私が手放した想いを次々と拾ってくる。
「ペル様!私と恋人になったら大変ですよ!毎日、おはようとお休みの挨拶は絶対です!」
「今でも毎日会う度してるだろう」
「私が構ってほしいって言ったら、相手しないといけないんですよ!」
「いつも構ってやってるだろう」
「それから…隼がたくさんいますよ!」
「知ってる」
「寝相も悪いです!」
「それも知ってる」
「なんで!?」
「野営をした時にテントがひっくり返ってるのを見た時は驚いたぞ」
「…」
私は一体何を言っているのだろうか。嬉しいはずなのに、それが信じられない。
(だってペル様にはビビ様じゃなくても、もっと綺麗でお嬢様みたいな相手の方が…)
「これで終わりか?あとは…そうだな。一日に一度は褒めないといけない、か?」
「うぎぎ…」
悔しそうに見つめれば彼が笑う。
「…後悔するからやめた方がいいですよ、きっと。周りからなんて言われるか」
「…お前は気にしない人間だと思ったんだがな」
「私が言われるのは平気です。でもペル様が言われるのは嫌なんです」
私のせいで彼の功績に泥を塗るのは嫌だった。
「おれが他人の評価を気にするような男だと思うか?」
「違います〜私が嫌なんです〜」
「困ったやつだな」
そう困った人間なのだ。好きなのにそれを受け入れられても、素直に喜ぶ事ができない。子供のようなわがままに、さすがの彼も呆れるだろう。
「なら周りの人間が何も文句を言えないくらい、お前を大切にしよう」
「……ん?」
「おれがお前に惚れ込んでいるとなれば、誰も口出しはしないだろう。要は疑問を持たせなければいい」
「えーと…」
私はペル様の言葉を理解できず、首を傾げた。
「おれはお前を愛している」
「あ、あい…して?」
「あぁ、この国と同じくらいお前を愛している」
「ペル様の愛国心と同じ熱量を一人の人間にぶつけられると死にそうなんですけど…」
彼の国に対する思いを知っているからこそ、その愛は重すぎる。
「これでいいんだ。おれはこの国もお前も守ってみせる」
そう言って、私の手を取り口付けた。
「わぁぁっ!?なにしてんですか!」
慌てて距離を取れば、彼はいつもの紳士的な笑顔で笑う。
「やはり、お前はこういうのに弱いのか」
「あ、悪い顔してる!」
彼はまたにこりと笑うと私の手を取った。
「ペル様!」
「手を離すと勝手にどこかへ行ってしまうからな、お前は。一生ついて来るんだろう?もうおれの前で自分を犠牲にするような事はしないでくれ」
「…ペル様」
「最後を迎えるなら…おれも一緒だ」
「…わかりました!じゃあペル様も自分を犠牲にするのはダメですからね」
「わかった」
とは言いつつもお互い無茶をするんだろうなと、彼の横顔を見て思った。どうせなら最後を考えるより、長く一緒にいられる方法を考えたい。
「ペル様と長くいられるように、もっと強くなりたくて明日からいろんな人に手合わせお願いしてこようと思…」
「ダメだ」
まさか話している途中で遮られた。
「な、なぜ!」
「手合わせならおれが相手をする」
「いや、たまには他の人とやったって…」
「ダメだ。チャカに頼む事も許さん」
「えぇ!?」
そう言えば、チャカ様がペル様は嫉妬深いと言っていたのを思い出した。
「ペル様ぁ!手合わせするだけじゃないですか!」
「許さん」
「そんなぁ!」
どんなに説得しようとしても、頑なに首を縦には振らなかった。結局、手合わせは同じ隊の人かペル様だけ。遠征は連れて行ってくれるものの常に彼が隣にいるし、仕事は情報収集などの裏方。
「ペル様と背中合わせで戦うイメージをしてたのに!」
「そんな戦闘は滅多にない、これまでと同じで十分だ」
あれよあれよといつの間にか、護衛隊の一兵士から副官秘書と聞いた事のない役職に就かされ、彼の側から嫌でも離れられなくなる。
「職権濫用!ペル様は意地悪だ〜っ!!」
「意地悪で構わん。さ、仕事だ」
腕に縋りついて訴えても、彼はただ満足そうに笑うだけ。

私の憧れの人は真面目で優しく、少しばかり愛の重い人でした。
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