アラバスタの守護神に恋をした

この宮殿にはたくさんの人がいる。国王様やビビ様の護衛、食事の準備や身支度を整える人、宮殿を綺麗に保つために清掃をする人などなど。そしてここには外部からの客人も大勢来る事から、その人達の対応のため綺麗な女性もたくさんいるのだ。
「むむむ…またあの人、ペル様に話しかけてる」
訓練が終わり同じ部隊の人達と歩いていれば、ペル様と最近よく見る女性が楽しく話しているのを見つけた。
「ありゃこの前新しく雇った子だな。接待係に一発合格だそうだ」
「確かに美人だよなぁ〜護衛隊でも噂になってるし」
確かにスラリとした体型で目も大きく、髪もサラサラで綺麗だった。私が男だったら惚れているかもしれない、そう思って頭を振った。
「お、今度はその上司が来たぜ。あの人も綺麗だよなぁ」
すると今度はまた違うタイプの美人が、ペル様の所へ寄っていく。いつの間にやら、ペル様の周りには色とりどりの美人達が集まっていた。
「流石ペル様、表情一つ変えずあの美人達相手に話してるぜ…」
「俺なら目眩起こしてぶっ倒れそうだ」
「ほら、そろそろ行くぞ。見回りの時間だ」
隊長に促されるようにしてその場を後にする。私はもう一度振り返り、ペル様の周りにいる女性達を見てむっと頬を膨らませた。


「私、もっと大人びた女になりたいです」
「「…は?」」
見回りが終わり隊舎への帰り道で私は思っていた事を口にした。
「こう…もっとスラーっとして、髪の毛もサラサラ〜って感じで」
「「…」」
「そう!あの海賊女帝のように、見た目だけで相手を圧倒するような女性になりたいです!」
いつか新聞で見た記事を思い出し、写真と同じようなポーズを取った。
「ちょ…ま、ふっ!はははは!!」
「どうしたんだよお前!誰に対抗してんだよ!」
同じ部隊の人達が皆腹を抱え、その場に崩れ落ちた。
「失礼な!私は本気で言っているのに!」
「そもそも急になんでそんな事言うんだよ」
「わかった!お前、ペル様が美人に囲まれてたの見て焦ってんだろ」
「当たり前じゃないですか!ペル様はお国一筋な人だけどあんな美人に囲まれたら、流石に堅物なペル様でも負けてしまうかもしれない!」
「何と戦ってんだよペル様」
「だからってお前が張り合ってどうすんだ」
「ほぼ毎日顔を合わせる私が美人になれば耐性がつくかと思いまして」
「「…ははは!!」」
またしても腹を抱えて笑う同僚達を睨みつけ、怒りを地面へとぶつけるように足を踏み鳴らした。
「必要ない必要ない!ペル様はお前が美人だろうがそうじゃなかろうが、お前に釘付けだよ」
「え!それって…!」
もしかしてと、期待を込めて口元を抑える。
「心配すんな。どんな美人も霞むくらい、お前のやらかしの方が目立ってるよ」
「違うそうじゃない」
「日頃の行いの結果だ」
「そんなに言われるほど問題起こしてない…はず!」
「自信持って言えないって事は自覚あんだな」
私がどんなに訴えても軽くあしらわれるだけで、最後まで誰もまともに話を聞いてはくれなかった。


「とは言ったものの、できる事はしてみたい私なのであった!」
美人にはなれなくても、今の自分ができる最低限くらいは綺麗にしておきたいと思った。一応私も女性なのだから、少しくらいよく思われたい。
「手は武器を持つから豆だらけのなのは仕方ないとして。爪は…うーん、引っかかったりしたら嫌だから短くしたい。顔は…」
毎日強い日差しの中を訓練をしているおかげでしっかりと焼けている。
「…日焼け止めをよく塗る事だな。ん〜仕事に影響しないで綺麗にできそうなのは…」
そう言いながら手にしたのは、入隊して一度も切った事のない髪の毛だった。指を通せば途中で絡まり、枝毛も見つけた。
「…よし、髪の毛にしよう」
そう決めた次の日からビビ様の専属メイドさんに髪の手入れの仕方を習い、教えてもらったヘアオイルを買って使い続けた。
「なんとなくサラサラになった気がする、どう?」
隼達に問いかけてみれば、皆首を傾げ不思議そうに私を見ていた。
「まだダメか…訓練と同じで美容も日々の積み重ねなんだね〜」
私は鏡に向き直り、丁寧に櫛を通した。


「〇〇!こっちへ」
訓練の休憩中、ペル様に呼ばれて駆け足で近寄った。
「私なにか怒られる事しましたか?」
「おれに呼びだされたら怒られると勘違いするくらいなら行動を慎め」
ぺしと持っていた紙の束で軽く頭を叩かれた。
「ペル様が昨日の報告書について詳しく聞きたいそうだ。説明してくれないか?」
隊長にそう言われ二つ返事で、ペル様に報告書についてひと通り説明を始めた。
「ところで〇〇」
「はい?」
説明が終わった所で、ペル様が腕を組んで不思議そうに私を見た。
「最近、髪の毛の艶が良くなったな。何かしているのか?」
「…」
「〇〇?」
「ペ、ペル様わかるんですか!?」
「わかるも何も気づいたから聞いたんだ」
ペル様は気づかないだろうから自分で言おうと思っていたのに、ちゃんと気づいてくれた事に飛び上がって喜んだ。
「実はですね!ビビ様の専属メイドさんに髪の手入れの仕方を教えてもらいまして、ほら!髪の毛がサラサラになったんですよ!」
「そうか、良かったな」
「ほら、触ってみてください!すごいサラサラですよ!」
私は興奮して髪の毛を掴みペル様に向けるが、頭を掴まれ向きを変えられる。
「わかったわかった。さ、訓練に戻りなさい」
「ペル様が話を振ってきたのに!」
「もう十分だ」
「ペル様冷たい!」
「冷たくて結構、早く行きなさい」
背中を押されそのまま他の隊員達の所へと走りだし、振り返れば困ったように笑っていた。
「前を向いていないと転ぶぞ」
「え、うわっ!?」
ペル様の注意も虚しく、自分の足に躓いてそのまま地面に倒れ込む。
「痛い…」
「遅かったか」
「おいおい、子供じゃねぇんだからよ〜」
「大人びた女になりたきゃ、まずそのおっちょこちょいをどうにかするんだな」
「うぎぃ…私が元気すぎるばかりに!」
悔しそうにしている私を見て、皆んなが楽しそうに笑った。


ある日、私達は宮殿の正門の前に整列していた。
「よし、全員揃ったな」
隊長が私達を見て頷いた。
「先日隼達が見つけた海賊がまだ街にいるそうだ。この数日何もないから問題ないとは思うが…もし何か不審な動きをするなら捕獲するように。手配書に載ってないから大したことないとは思うが気を抜くなよ」
「「はい!!」」
各々が装備の最終確認を始め、自分も腰元の剣がある事を見た。
「また転けるなよ〇〇」
「転けませんよ、失礼な!」
隊長を先頭にアルバーナの街の中を歩く。時折、空から偵察している隼達の動きを確認しながら不審な人物がいないか目を光らせる。しばらく歩いていると、突然隼達の飛び方が変わった。
「隊長隊長!」
「どうした」
「隼達の動きが変わりました。海賊達がバラバラに別れて動き始めたみたいです」
「そうか、じゃあ俺達も別れるか。人数は?」
「一人と二人が二組、三人が一組ですね」
「わかった。同じ人数で別れよう」
隊長の指示で別れ隼の案内により、海賊達の元へと向かう。私は先輩と一緒に二人組を追う。
「やれやれ、人数が多いとやっかいだな」
「あ、二人が別れたみたいです!どうしますか?」
「なんだって?どっちがヤバそうかとかわかるか?」
「あっちに行った方が体がでかいらしいです」
「よしわかった、そっちは俺が行くからお前はもう一人を追え。いいか、絶対手を出すなよ!何かあったらすぐ呼べ!」
「承知!」
「ほんとにわかってんだろうな!」
「大丈夫ですよぉ〜!」
「不安しかねぇ!」
先輩が不安そうな顔をして何度も振り返ってくる。そんなに心配しなくても、ちゃんと国民の安全を第一に考えて行動すると決意表明するように大きく手を振った。それでも最後まで先輩の表情は晴れなかった。
「これでも私、ちょっと前に比べたら剣の腕は上達したんだけどなぁ〜」
そんな事をぶつぶつ言いながら隼を追う。そして海賊らしき男が店の中に入っていくのを見つけた。
「あそこは酒屋か…食料調達って感じかな」
それならば準備が済み次第アラバスタを出ていくだろうと安心していると、店の中からガラスの割れる音と悲鳴が聞こえた。建物の陰に隠れて様子を見ていれば、酒屋の店主が店の外へと投げ出された。
「おい!俺は海賊だぞ!こんなふざけた値段つけやがって、ナメてんのか!」
「ふざけてなんかいない!あれが適正な値段なんだ!」
「こっちが大人しく金を払ってやろうとしてんのに、足元見やがって」
するりと海賊の男が剣を抜いた。これはまずいと飛び出そうとした時だった。
「やめてください!あのお酒なら差し上げますので!」
店の中から女性が出てきて男に近づいた。
(まずい…!!)
彼女はすぐさま捕まり、喉元に剣を当てられてしまう。
「この女がタダでくれるってよ。ついでにこの店の酒全部よこしな。それとも嘘か、ならこの嘘つき女を殺すぜ?」
(最悪の展開になってしまった…)
私は空を飛んでいる隼に合図を送る。
(他の人が来るまで持てばいいけど)
「わ、わかった…酒は全部持って行っていいから」
「最初からそう言えばいいんだよ!おい、店の酒ぜーんぶ持って行っていいってさ!」
すると中からもう一人男が出できた。
(げ、もう一人いた!)
隼の偵察より前に来ていたのか、敵が増えた事により状況が悪くなっていく。
「とりあえず持っていけるだけ持っていこうぜ。船に戻って仲間呼んでこよう」
「ついでにこの女も貰っていくぜ」
「そんな!」
「…!?離して!」
後で怒られるだろうなとか、死ぬかもしれないとか考える前に身体が動いていた。
「その人を放しなさい!あとお酒を持ってくならちゃんとお金を払え!」
「あ?なんだガキか」
全く相手にされていないようで、男達は呑気に酒を担ぎ始めた。
「ガキじゃない!これでも護衛隊の一人なんですけど!」
「護衛隊…!?」
それを聞いて驚いた顔をしたと思えば、すぐさま腹を抱えて笑い出した。
「こんなガキが護衛隊なんて人手不足なのかよ!」
「うるさい!いいからその人を離して、この国から出ていけ!捕まって海軍に引き渡されたくなかったらね!」
「やれるもんならやってみろ!」
男は人質を見せびらかすように自分へと向けた。今の最優先事項は人質の解放、どうにかしてあの人を引き離さいといけない。この状況で突っ込んでも、怪我をさせてしまう可能性が高い。ここは一芝居する事にした。
「…はっ!なるほどなるほど」
「あ?」
「どうしておじさん達みたいな海賊がここまで来れたのかわかった!弱すぎて誰も相手にされなかったんだ!」
「何!?てめぇ馬鹿にしてんのか!」
「だって、ガキ相手に人質を取ってどうだ〜ってしてるなんて情けない!そりゃ手配書にも載れないよ!」
「こ、の…っ!お前相手に人質なんかいらねぇよ!」
上手く私の挑発に乗ってくれたようで、人質だった女性を突き飛ばした。
「お姉さん離れて!」
女性は慌てて離れ、店主の元へと走り寄った。それを見て私は鞘ごと剣を抜き男達へと向けた。
「ナメてんのか」
「これが私のやり方だから」
一般人にショッキングなものは見せたくないので、私は国民がいる前で剣を抜く事はしない。
(大丈夫、急所を突いて気絶させればいい)
騒がしい心臓を落ち着かせるように、大きく深呼吸をした。
「ガキだからって容赦しねぇぞ」
「子供相手に本気にならないと勝てないなんてやっぱり情けないね」
「ぶっ殺してやる!」
男が剣を振りかぶりながら向かってくる。無駄に大きく動いてくれるおかげで難なく避け、隙をついてみぞおちに剣を突き立てた。うずくまったのを見て、剣を持っていた腕を払い武器から遠ざける。
「よし!」
次は二人目の男へと向かい走る。こちらも同じように剣を叩き落とし、とにかく武器を持たせないようにした。剣を向ければ男が両手を上げ降参のポーズを取る。
「このまま大人しくしてれば…っ!?」
突然ぐんと頭を強い力で引かれバランスを崩す。もう一人の男が私の髪の毛を思いっきり引っ張ったのだ。
「しまっ…!?」
後ろに気を取られていると、右頬に強い衝撃を受け地面に倒れ込む。
「おい起きろ!」
またしても髪の毛を引っ張られ、無理やり身体を起こされる。
「散々馬鹿にしやがって!何が護衛隊だ!」
今度は思いっきり顔を蹴られた。離れようとしても髪の毛をしっかり掴まれているため上手く動けない。
(仕方ない…な!)
殴られても離さず持っていた剣を鞘から引き抜き、掴まれていた髪の毛を切り落とした。自由になった瞬間、驚いている隙に目の前の男の股間を思いっきり蹴り上げた。もう一人の男にも同じように蹴りを入れ、剣を鞘に戻すと首元を狙い思いっきり振り下ろした。


「〇〇大丈夫か!」
同じ部隊の人達が到着した時には、海賊達をロープで縛り終えていた。
「見てください、やりましたよ!どうです、私だってやればできるんですから!」
護衛隊として役目を果たした事を胸を張って自慢する。
「よくやったけど、お前…」
隊長は苦虫を噛み潰したような顔をして私を見た。
「お前達無事か!被害状況を教えてくれ」
ペル様もやってきて他の隊員に話を聞いて周り、私はそれをぼんやりと眺めた。
(右側の目があんまり開かないや、腫れてるんだろうなぁ…今私、多分すっごい不細工だ)
「〇〇!」
きっと私が海賊と戦闘になった話を聞いたのだろう、ペル様が私の名前を呼んだ。今の自分の顔を見られたくないと思ったが、無視するわけにもいかなかった。
「…はいペル様!見てください、私一人で二人も海賊を捕まえました!」
いつものように明るく振る舞えば、小言を一つ二つ貰って終わりだろうと思っていた。しかし彼は私を見ると一瞬足を止め、表情を引き締めると早足でこちらへと向かってきた。
「え、あ…あれ?ペル様?」
ただならぬ雰囲気にオロオロしていると、ペル様は身につけていたドレーパリーを外しそれを私の頭の上へと被せた。
「よくやった。後はおれ達に任せて、お前は早く医者の所へ行きなさい」
「ペル様…」
「心配するな、早く治療すれば顔の腫れもすぐ治る。誰か〇〇を医師の所へ連れていってくれないか?」
「自分がついていきます!」
そうして私は先輩に連れられ、医者の元へと向かったのであった。


「復活!!」
あれから数日後、若干アザは残っているもの顔の腫れは引き怪我はほぼ完治した。
「良かったな、危うく失明する所だったんだから」
「無茶するなよ」
「ほーい」
「緊張感のない返事だな、おい」
「髪の毛は…まぁまたすぐ伸びるだろ。短いのも悪くないと思うぞ」
「えへへ、そうですかぁ?」
腰まであった髪の毛はあの時自分で切り捨ててしまったため、首にかからない長さに切り揃えてもらった。
「でも今回の事で髪の毛は短くしてようかなって。また掴まれたら困るし」
すっきりした首元を撫でていると、隊長達が顔を見合わせて気まずそうな顔をする。
「そりゃあ…あるかもしれないが、そこまで気にする事はないんじゃないか?」
「せっかく綺麗にしてたんだからなぁ」
それを言われてちくりと胸が痛む。どんなに時間をかけて手入れをしても、ほんの一瞬であっさりとなくなってしまうのだから。
「でもほら、短いのも似合ってるんならそれで…」
「〇〇」
半ば諦めのようなものを口にしようとした時、名前を呼ばれる。振り返ればペル様がこちらに向かって歩いてきていた。
「怪我の具合は良くなったか?」
「はい!もうバッチリです!」
「そうか、それは良かった。あと…これをお前に」
ペル様は困ったように笑いながら、小さな紙袋を私に差し出した。
「これは?」
「この前の件で髪紐が使い物にならなくなっただろう。まだ先の話にはなるだろうが、髪が伸びたらこれを使いなさい」
そう言って私の手の上にそれを置くと、頭に軽く手を乗せ早足で離れていった。
「あ、ちょっとペル様!」
「なんだなんだ?」
「髪紐だってよ」
他の隊員達が気になって集まってくる中、私は袋を開けて中身を取り出す。紐というよりリボンに近く、畳まれていたのを広げてみれば見た事のある模様が施されていた。
「……あ!これペル様の帽子と同じ模様だ!」
私は彼の被っている帽子を真似るようにしてそれを額に巻いた。
「お、ほんとだ」
「え…え!やったぁ!どうしよう、これ早く使いたい!」
「良かったなぁ!」
私がそれを嬉しそうに見ていれば、皆が安心したように笑い顔を見合わせていた。
「早く髪の毛伸びないかなぁ〜!あ!先輩の育毛剤借りてもいいですか!?」
「良いわけねぇだろ!というかなんで知ってんだよ、自然に伸びるのを待ちやがれ!」
「ダメかぁ〜」
笑いが巻き起こる中、私は持っていたそれを丁寧に畳んだ。
(美人じゃなくたって、ペル様はちゃんと私を見てくれてる)
もう一度手のひらの上のリボンをよく見れば、陽の光に照らされ輝いているかのように見えたのだった。
6/8ページ
スキ