アラバスタの守護神に恋をした
ある日、調理係がテラコッタ様に呼び出される。
「テラコッタ様、これはなんですか?」
私は調理台の上に置かれた大きな木箱を見た。
「チョコレートの原材料さ」
「ちょこれーと?」
聞いたことのない名前に呼び出された全員が首を傾げた。
「知らないかい?まぁ無理もないね。氷と一緒で気温が高いと溶けるんだよ。本当ならできたものが欲しいんだけど、ここまで運んでもらうのに大金がかかるからね。これなら溶ける事を気にしなくてもいいんだよ」
テラコッタ様は持っていたバールで木箱の蓋をこじ開ける。中には人の頭くらいの大きさのきのみがたくさん入っていた。
「市場で面白い話を聞いたのさ。せっかくだからやってみようかと思ってね」
「面白い話?」
「そう、バレンタインデーって言うみたいだよ。知ってるかい?」
「いえ、知らないです」
私はまたしても聞いた事のない言葉に首を傾げ彼女を見ていれば、木箱からきのみを一つ手に取った。
「じゃあ、それは作りながら話すとして…ふんっ!!」
テラコッタ様がきのみを両手で持ち替えたと思えば、ばきりと大きな音を立てそれが粉々に砕け散った。呆然としてそれを見ていれば、ぴんと額に破片が当たる。
「…え」
「さぁ、まずはこのきのみを粉々にするよ!ここから作るとなると時間がかかるからね、とっととやらないと明後日のディナーまでに間に合わないよ!」
ばきっと大きな音を立てて、二つ目のきのみが彼女によって粉砕される。
「素手が無理なら何使ってもいいから砕くんだよ!それか破片を集めな!」
「「は、はいぃぃぃっ!!」」
テラコッタ様の迫力に、私達は詳しい話も聞けずただひたすらきのみを砕いては集めてを繰り返した。
そして今日。壮大な労力と莫大な時間をかけ、チョコレートを使ったデザートが完成した。
「夜なら気温がそこまで高くないからね。うん、良かった。形は崩れてないよ」
テーブルに並べられたデザートを見て、皆が感嘆の声を上げた。中には手を叩く者もいる。
「最初はどうなる事かと思いましたが、上手くいって良かったです」
「初めてにしては上出来だよ。まぁでもしばらくはごめんだね、手間がかかりすぎる」
確かにとここまでの工程を思い出して苦笑いを浮かべた。
「さ!持って行くよ!」
「「はい!」」
私達は細心の注意を払いながら大広間へと向かう。すると入り口の前でイガラム様がウロウロしており、私達に気づくと慌てて近寄ってくる。
「テラコッタ、いつまで待たせるんだ!」
「ごめんよ、今持ってきたからもう少し待ってもらえるかい」
「貸しなさい!私も手伝…」
「手ェ出すんじゃないよ!大人しく座ってな!」
ばちんと大きな音を立て、イガラム様が真横に飛んだ。
(あ…あの護衛隊長のイガラム様が…)
床で伸びているイガラム様を見て、この国で一番強いのはこの人ではと皆がテラコッタ様を見た。
「まったく!せっかく綺麗に持ってきたのに、崩れたらどうすんだい!」
「ごめんなさい…」
((イガラム様が謝ってる!?))
「手伝いたいならドアを開けとくれ」
「はい」
そんなやり取りを目にしながら、私達は料理を運ぶ。
「大変お待たせいたしました。我が国にはない物を使ったデザートでして、時間がかかってしまいました。申し訳ありません」
そう一言添えながらデザートを配る。
「〇〇さん、私の後についてきてくれる?」
「はい」
先輩に呼ばれデザートを持ってその後ろをついて行く。
「お待たせいたしました」
先輩が手前から順に皿を置き、それに続こうとしてぴたりと足を止める。次の席にはチャカ様が座っており、急激に体温が上がっていくのを感じた。
「ちゃんと遅れてすみませんって言うのよ?」
そう言いウインクをして去っていく先輩を目で追えば、他の調理係の人達もニヤニヤとこちらを見ていた。
(は、嵌められた!)
今回のデザートを作りながらテラコッタ様の話を思い出す。バレンタインデーとは好意を持っている相手やお世話になっている人にチョコレートを使ったお菓子を渡す日らしい。『あんたみたいな照れ屋さんのためにあるようなイベントだねぇ』とテラコッタ様が自分を見て言ったため、他の人達が相手は誰なのだと問い詰められる結果となったのだ。好きな人の話なんてするんじゃなかったと後悔しても遅い。精一杯睨み返してから前へと向き直り、大きく深呼吸をして彼に近づく。
「お、お待たせしました。こちらチョコレートを使った、けっ、ケーキです…」
他の人にはすらすらと説明できたのに、彼の前だとこんなに言葉がでないとは思わなかった。しかも噛んでしまい、恥ずかしくて早々にこの場を去ろうと足を引いた時だった。
「チョコレート?初めて聞くな、どういった物なんだ?」
「えっ?えっと…」
彼に呼び止められ思わず顔を上げれば、しっかりと目が合い緊張で固まってしまう。
「え、あ、あの…チョコレートと、いうのは…」
なんとか声を絞り出し答えようとするが、頭の中から記憶が飛んでしまったかのように何も言葉が出てこない。
「チャカ、それは後で聞いてくれ。早く食べないと溶けてしまうそうだ」
チャカ様の隣に座っていたペル様が小さくケーキを切り分けながら言った。
「それはいけないな。すまない、下がっていいぞ」
「は、はい…」
私は一礼すると早足で他の人達の元へと戻った。
「〇〇さん顔真っ赤!」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!」
ニヤニヤしている先輩の背を押し、部屋の外へと出る。
「ペルに助けられたねぇ。あのままだったら永遠にあそこで固まったままだっただろうね。チャカも気になったらとことん聞きたがるから、話してくれるまで下がれって言わないだろうし」
テラコッタ様もどこか楽しそうに笑っていた。
「皆さんひどいです…」
「私達は手伝ってあげただけさ」
「そーよ!どさくさ紛れに気持ちも伝えられるってお得じゃん!」
「あの場所で言える訳ないじゃないですか!それに、わ、私はまだそんな段階では…!」
「よく言うよ。余ったチョコレートで別のお菓子作っておいて」
「ど、どうしてそれを…」
大量にできたチョコレートは今日のデザートで使用しても余っており、残りは調理係で分けたのだ。
「なんだ〜作ってたんだ。用意してなかったら私が作ったのを持たせようと思ってたのに」
「俺も俺も」
「私もだよ」
そう言ってテラコッタ様含めた皆が思い思いに作ったお菓子を掲げた。
「そ、そこまでお膳立てしていただかなくても私、自分でできます!」
「緊張して固まってたのにね」
「う…!」
痛い所を突かれ何も言い返せず項垂れる。
「早く渡すんだよ?いくら溶けにくい物を作ったからって、この国じゃ暑さですぐ腐るからね。それとちゃんと私からです、ってわかるようにするんだよ。送り主がわかんないのも不安だからね」
もしもの時の逃げ場まで塞がれ、私は何も言えなくなってしまった。
「ま、頑張りな!さ、片付けするよ!」
「「はい!」」
「はぁ…」
私はポケットに入れていた焼き菓子を取り出してため息をついた。
「どうしよう…」
次の日。洗い終わった調理室の台拭きを抱えて廊下を歩きながら、私はポケットの中に入っているお菓子について悩んでいた。
(突然渡してもいいのかな。バレンタインデーを知っている人ならわかるかもしれないけど。いや、むしろ知らない方がいいのでは…?私がチャカ様の事を好きだと思っている事がバレる方が恥ずかしいかも…)
朝からこの事ばかり考えており、頭が沸騰しそうだった。二度目の洗濯物を取りに行こうとまた廊下を歩く。
「差し入れという事にしても良さそうだけど、そうすると他の方にも用意するべきだろうし。一人だけ特別もあからさますぎて…」
物を贈るだけでこんなにも頭を悩ませるなんてとため息をついた。それに時間も迫っており、少しずつ追い詰められているようだった。
「…今回はやめとこう…かな。ちゃんと渡し方も考えて来年にしよう」
私はポケットに入れていたお菓子を取り出した。
「これは後で食べよう」
紅茶に合うかなと呑気な事を考えていると、曲がり角から人が現れ思わず足を止めた。
「む、すまない」
「チ、チャカ様…!申し訳ありません!」
私は慌てて下がり、持っていたお菓子を後ろに隠した。
「いや、私もぼんやりしていたからな。申し訳ない」
「い、いえ、私が…」
「おや、君は調理係の子か。昨日のデザートは美味しかった!チョコ…えーと、なんといったかな…」
「チョコレート…」
「そう、それだ!」
チャカ様の機嫌が良さそうで、手間暇かけて作ったかいがあったと嬉しくなった。その後も料理の感想を聞いていると、彼が突然お腹の辺りをさすり始める。
「しまった…食べ物の話をしていたら小腹が空いたな」
「でしたら何かお作りしてきましょうか?」
「ありがたい話だが、これからビビ様の護衛があってな。ゆっくりと食べる時間はないんだ」
それを聞いて後ろに隠したお菓子の存在を思い出す。小腹を満たすためならば、変な気を使う必要はない。今なら渡すのにいいタイミングだと私は勇気を振り絞った。
「あ、あの…よろしければこれを…」
私は少し手を震わせながら、彼に丁寧にラッピングしたお菓子を差し出した。
「これは?」
「昨日使用したチョコレートの余りで焼き菓子を作りました。お、お口に合うかわからないですけど、よろしかったら…」
「綺麗に包んであるが、私が貰ってもいいのだろうか?」
「お、お気になさらず!こういう時のために包んでいただけですので!」
「はは!そうか、ならありがたくいただこう」
少し無理な言い訳だったかと思ったが、彼は笑って私の手からお菓子を受け取った。
「仕事の邪魔をしたな。では」
「は、はい!お気をつけて!」
彼の姿が見えなくなり、私は大きく息をついて小さくガッツポーズをした。
「ちゃんと渡せたのかい、よくやったねぇ!」
調理室へ戻り、作ったお菓子を彼に渡せた事を報告すればテラコッタ様が嬉しそうに笑った。
「で、なんて言って渡したんだい?」
「はい!チャカ様がお腹が空いたとおっしゃったのでよろしければとお渡ししました」
「…なんだって?」
「出かける用事があったそうなので、すぐ食べられる物がないかと…」
テラコッタ様は何か思う所があったのか、額に手を当て考えているようだった。
「あの…私、何かいけない事をしてしまいましたか?」
「…いや、今回の件は私が悪いね。まぁ、ちゃんと渡したかった人に渡せたから良かったって事にしとこうか」
「?」
私はよくわからず首を傾げたが、彼のために作った物がちゃんと渡せた事にほっと胸を撫で下ろしたのだった。
「テラコッタ様、これはなんですか?」
私は調理台の上に置かれた大きな木箱を見た。
「チョコレートの原材料さ」
「ちょこれーと?」
聞いたことのない名前に呼び出された全員が首を傾げた。
「知らないかい?まぁ無理もないね。氷と一緒で気温が高いと溶けるんだよ。本当ならできたものが欲しいんだけど、ここまで運んでもらうのに大金がかかるからね。これなら溶ける事を気にしなくてもいいんだよ」
テラコッタ様は持っていたバールで木箱の蓋をこじ開ける。中には人の頭くらいの大きさのきのみがたくさん入っていた。
「市場で面白い話を聞いたのさ。せっかくだからやってみようかと思ってね」
「面白い話?」
「そう、バレンタインデーって言うみたいだよ。知ってるかい?」
「いえ、知らないです」
私はまたしても聞いた事のない言葉に首を傾げ彼女を見ていれば、木箱からきのみを一つ手に取った。
「じゃあ、それは作りながら話すとして…ふんっ!!」
テラコッタ様がきのみを両手で持ち替えたと思えば、ばきりと大きな音を立てそれが粉々に砕け散った。呆然としてそれを見ていれば、ぴんと額に破片が当たる。
「…え」
「さぁ、まずはこのきのみを粉々にするよ!ここから作るとなると時間がかかるからね、とっととやらないと明後日のディナーまでに間に合わないよ!」
ばきっと大きな音を立てて、二つ目のきのみが彼女によって粉砕される。
「素手が無理なら何使ってもいいから砕くんだよ!それか破片を集めな!」
「「は、はいぃぃぃっ!!」」
テラコッタ様の迫力に、私達は詳しい話も聞けずただひたすらきのみを砕いては集めてを繰り返した。
そして今日。壮大な労力と莫大な時間をかけ、チョコレートを使ったデザートが完成した。
「夜なら気温がそこまで高くないからね。うん、良かった。形は崩れてないよ」
テーブルに並べられたデザートを見て、皆が感嘆の声を上げた。中には手を叩く者もいる。
「最初はどうなる事かと思いましたが、上手くいって良かったです」
「初めてにしては上出来だよ。まぁでもしばらくはごめんだね、手間がかかりすぎる」
確かにとここまでの工程を思い出して苦笑いを浮かべた。
「さ!持って行くよ!」
「「はい!」」
私達は細心の注意を払いながら大広間へと向かう。すると入り口の前でイガラム様がウロウロしており、私達に気づくと慌てて近寄ってくる。
「テラコッタ、いつまで待たせるんだ!」
「ごめんよ、今持ってきたからもう少し待ってもらえるかい」
「貸しなさい!私も手伝…」
「手ェ出すんじゃないよ!大人しく座ってな!」
ばちんと大きな音を立て、イガラム様が真横に飛んだ。
(あ…あの護衛隊長のイガラム様が…)
床で伸びているイガラム様を見て、この国で一番強いのはこの人ではと皆がテラコッタ様を見た。
「まったく!せっかく綺麗に持ってきたのに、崩れたらどうすんだい!」
「ごめんなさい…」
((イガラム様が謝ってる!?))
「手伝いたいならドアを開けとくれ」
「はい」
そんなやり取りを目にしながら、私達は料理を運ぶ。
「大変お待たせいたしました。我が国にはない物を使ったデザートでして、時間がかかってしまいました。申し訳ありません」
そう一言添えながらデザートを配る。
「〇〇さん、私の後についてきてくれる?」
「はい」
先輩に呼ばれデザートを持ってその後ろをついて行く。
「お待たせいたしました」
先輩が手前から順に皿を置き、それに続こうとしてぴたりと足を止める。次の席にはチャカ様が座っており、急激に体温が上がっていくのを感じた。
「ちゃんと遅れてすみませんって言うのよ?」
そう言いウインクをして去っていく先輩を目で追えば、他の調理係の人達もニヤニヤとこちらを見ていた。
(は、嵌められた!)
今回のデザートを作りながらテラコッタ様の話を思い出す。バレンタインデーとは好意を持っている相手やお世話になっている人にチョコレートを使ったお菓子を渡す日らしい。『あんたみたいな照れ屋さんのためにあるようなイベントだねぇ』とテラコッタ様が自分を見て言ったため、他の人達が相手は誰なのだと問い詰められる結果となったのだ。好きな人の話なんてするんじゃなかったと後悔しても遅い。精一杯睨み返してから前へと向き直り、大きく深呼吸をして彼に近づく。
「お、お待たせしました。こちらチョコレートを使った、けっ、ケーキです…」
他の人にはすらすらと説明できたのに、彼の前だとこんなに言葉がでないとは思わなかった。しかも噛んでしまい、恥ずかしくて早々にこの場を去ろうと足を引いた時だった。
「チョコレート?初めて聞くな、どういった物なんだ?」
「えっ?えっと…」
彼に呼び止められ思わず顔を上げれば、しっかりと目が合い緊張で固まってしまう。
「え、あ、あの…チョコレートと、いうのは…」
なんとか声を絞り出し答えようとするが、頭の中から記憶が飛んでしまったかのように何も言葉が出てこない。
「チャカ、それは後で聞いてくれ。早く食べないと溶けてしまうそうだ」
チャカ様の隣に座っていたペル様が小さくケーキを切り分けながら言った。
「それはいけないな。すまない、下がっていいぞ」
「は、はい…」
私は一礼すると早足で他の人達の元へと戻った。
「〇〇さん顔真っ赤!」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!」
ニヤニヤしている先輩の背を押し、部屋の外へと出る。
「ペルに助けられたねぇ。あのままだったら永遠にあそこで固まったままだっただろうね。チャカも気になったらとことん聞きたがるから、話してくれるまで下がれって言わないだろうし」
テラコッタ様もどこか楽しそうに笑っていた。
「皆さんひどいです…」
「私達は手伝ってあげただけさ」
「そーよ!どさくさ紛れに気持ちも伝えられるってお得じゃん!」
「あの場所で言える訳ないじゃないですか!それに、わ、私はまだそんな段階では…!」
「よく言うよ。余ったチョコレートで別のお菓子作っておいて」
「ど、どうしてそれを…」
大量にできたチョコレートは今日のデザートで使用しても余っており、残りは調理係で分けたのだ。
「なんだ〜作ってたんだ。用意してなかったら私が作ったのを持たせようと思ってたのに」
「俺も俺も」
「私もだよ」
そう言ってテラコッタ様含めた皆が思い思いに作ったお菓子を掲げた。
「そ、そこまでお膳立てしていただかなくても私、自分でできます!」
「緊張して固まってたのにね」
「う…!」
痛い所を突かれ何も言い返せず項垂れる。
「早く渡すんだよ?いくら溶けにくい物を作ったからって、この国じゃ暑さですぐ腐るからね。それとちゃんと私からです、ってわかるようにするんだよ。送り主がわかんないのも不安だからね」
もしもの時の逃げ場まで塞がれ、私は何も言えなくなってしまった。
「ま、頑張りな!さ、片付けするよ!」
「「はい!」」
「はぁ…」
私はポケットに入れていた焼き菓子を取り出してため息をついた。
「どうしよう…」
次の日。洗い終わった調理室の台拭きを抱えて廊下を歩きながら、私はポケットの中に入っているお菓子について悩んでいた。
(突然渡してもいいのかな。バレンタインデーを知っている人ならわかるかもしれないけど。いや、むしろ知らない方がいいのでは…?私がチャカ様の事を好きだと思っている事がバレる方が恥ずかしいかも…)
朝からこの事ばかり考えており、頭が沸騰しそうだった。二度目の洗濯物を取りに行こうとまた廊下を歩く。
「差し入れという事にしても良さそうだけど、そうすると他の方にも用意するべきだろうし。一人だけ特別もあからさますぎて…」
物を贈るだけでこんなにも頭を悩ませるなんてとため息をついた。それに時間も迫っており、少しずつ追い詰められているようだった。
「…今回はやめとこう…かな。ちゃんと渡し方も考えて来年にしよう」
私はポケットに入れていたお菓子を取り出した。
「これは後で食べよう」
紅茶に合うかなと呑気な事を考えていると、曲がり角から人が現れ思わず足を止めた。
「む、すまない」
「チ、チャカ様…!申し訳ありません!」
私は慌てて下がり、持っていたお菓子を後ろに隠した。
「いや、私もぼんやりしていたからな。申し訳ない」
「い、いえ、私が…」
「おや、君は調理係の子か。昨日のデザートは美味しかった!チョコ…えーと、なんといったかな…」
「チョコレート…」
「そう、それだ!」
チャカ様の機嫌が良さそうで、手間暇かけて作ったかいがあったと嬉しくなった。その後も料理の感想を聞いていると、彼が突然お腹の辺りをさすり始める。
「しまった…食べ物の話をしていたら小腹が空いたな」
「でしたら何かお作りしてきましょうか?」
「ありがたい話だが、これからビビ様の護衛があってな。ゆっくりと食べる時間はないんだ」
それを聞いて後ろに隠したお菓子の存在を思い出す。小腹を満たすためならば、変な気を使う必要はない。今なら渡すのにいいタイミングだと私は勇気を振り絞った。
「あ、あの…よろしければこれを…」
私は少し手を震わせながら、彼に丁寧にラッピングしたお菓子を差し出した。
「これは?」
「昨日使用したチョコレートの余りで焼き菓子を作りました。お、お口に合うかわからないですけど、よろしかったら…」
「綺麗に包んであるが、私が貰ってもいいのだろうか?」
「お、お気になさらず!こういう時のために包んでいただけですので!」
「はは!そうか、ならありがたくいただこう」
少し無理な言い訳だったかと思ったが、彼は笑って私の手からお菓子を受け取った。
「仕事の邪魔をしたな。では」
「は、はい!お気をつけて!」
彼の姿が見えなくなり、私は大きく息をついて小さくガッツポーズをした。
「ちゃんと渡せたのかい、よくやったねぇ!」
調理室へ戻り、作ったお菓子を彼に渡せた事を報告すればテラコッタ様が嬉しそうに笑った。
「で、なんて言って渡したんだい?」
「はい!チャカ様がお腹が空いたとおっしゃったのでよろしければとお渡ししました」
「…なんだって?」
「出かける用事があったそうなので、すぐ食べられる物がないかと…」
テラコッタ様は何か思う所があったのか、額に手を当て考えているようだった。
「あの…私、何かいけない事をしてしまいましたか?」
「…いや、今回の件は私が悪いね。まぁ、ちゃんと渡したかった人に渡せたから良かったって事にしとこうか」
「?」
私はよくわからず首を傾げたが、彼のために作った物がちゃんと渡せた事にほっと胸を撫で下ろしたのだった。
