アラバスタの守護神に恋をした

「ペル、隼の彼女を呼んできてくれないか。会いたいと客人が来ている」
「わかりました。すぐに呼んでまいります」
国王様に頼まれ、彼女を探していると隊舎から話し声が聞こえる。
「私、いずれ隼使いの〇〇とか呼ばれちゃって!」
ご機嫌な彼女の声が聞こえ、思わず笑みが溢れる。「〇〇はいるか!」
わざと大きな声で呼べば、彼女が慌てて駆けてきた。「はい!なんでしょうか、ペル様!」
「隼使いのお前に会いたいと客人だ」
「え、私に?…あれ、今ペル様なんて言いました!?」
「ん?隼使いの〇〇なんだろう?」
わざとらしく言ってやれば、恥ずかしいのか顔を赤くした。
「いざ呼ばれると恥ずかしいです!」
「自分で言っておきながら贅沢だな」
素直な反応に気をよくし歩き出せば、一歩離れて彼女がおれの後ろをついてくる。やはりこうでなければと思うほど、彼女とのやりとりが日常に染み付いてしまっていた。
「お待たせしました。〇〇を連れて参りました」
国王様の元へと彼女を連れて行けば、緊張で固まっている彼女の背中を押した。
「お前でも緊張するのか」
いつも明るい彼女が固まっている姿を見て笑う。
「いや、状況が状況ですし…こんなに注目されるのは、さすがに私でも」
「そんなに緊張しなくてもよい。いつも通りの君で構わんよ」
「ひゃい」
変な声を出した彼女を見て皆が笑う。愛されていると思わずにはいられない。彼女の力も彼女自身も。だからこそここへ呼ばれたのだ。隼達を使っての仕事に、快く了承した彼女に国王様は嬉しそうに笑った。

「〇〇さんと隼さん達、大人気ね!」
「私というか隼達が優秀ですからね。なんてったってペル様リスペクトの隼部隊ですから!」
「その設定は生きていたのか…」
前に行っていた隼部隊の話に苦笑いを浮かべる。
「これから忙しくなるな〇〇。まぁペルが監視しているから大丈夫だと思うが」
「監視っておかしくないですか?」
チャカに揶揄われ頬を膨らませる彼女を見てビビ様が笑う。少し後ろを歩く彼女を気遣い歩みを緩めて隣を歩けば、何故かちらちらとビビ様を気にし始めた。「そういえばチャカ。私あなたに聞きたい事があったのよ、ちょっとこっちに来てくれる?」
突然ビビ様はチャカの手を取り、おれ達から離れた。チャカも何かを察してビビ様に引かれるようについて行く。おかしな行動に首を傾げていると、ビビ様がこちらを振り返り楽しそうに笑った。
「あとは二人でこれからの事を話さなくちゃね!だって一生を誓った仲だもの!」
「あれは…!待って下さいビビ様!」
「ははは!言うようになったな〇〇!」
「違いますって!チャカ様!」
廊下に残され気まずそうにしている〇〇を見て、おれは照れているのだろうと思った。だからあえて言及はせず、仕事の話をした。すると彼女はほっと息をつき、いつも通りの彼女へと戻る。
(初心なのだな…)
おれは呑気にそんな事を思っていた。


宮殿の中を歩いていると、チャカの大きな笑い声と彼女の叫ぶ声が聞こえた。
「ははは!悩め悩め、簡単にいくなら誰も苦労しないさ」
「チャカ様助けて下さい!」
「残念、専門外だ」
「そんなぁ!?」
何を話しているのだろうか。悩み事があるなら、おれに聞けばいいのにと少しだけ苛立ちを覚えた。何を話しているのか気になって自然と足が二人の元へと向かう。
「はっきり言っておこう。お前の好きな相手は真面目で仕事のできる男だが、それ以外の事は全くもってダメだ!」
(〇〇の好きな相手?なら、おれのはずだが…仕事以外全くダメとは失礼な)
むっとして遠くから彼を睨む。確かに経験はほぼないと言っても等しくないが、ダメと言うほどではない、多分。それ以前に彼女が自分の事を好きでいるという事に一切の疑いを持たない自分には全く気づかなかった。
「そしてとんでもなく愛の重い男だ。この国への忠誠心を見てたらわかるだろ?そういう男は嫉妬させると厄介なんだ」
「信じられない…」
「じゃあさっきから鋭い視線をおれに向けてくるあいつはなんだ?」
余計な事をペラペラと喋るチャカに睨みをきかせていれば、やっと気づいたのか彼女がおれの方を向いた。
「ペル様、いつの間に…」
おれは彼女の手を掴みチャカから離すように引いた。
「チャカ。いつも言っているが〇〇をあまり甘やかさないでくれ」
「おれは甘やかしているつもりはないんだが…どちらかと言えば、甘やかしているのはお前の方だろう」
「おれはいいんだ。〇〇とは番なんだから」
「えっ!?番!?」
驚き慌てる彼女の様子を見て、チャカが腹を抱え笑い出した。
「なにがおかしい、チャカ」
「悪い、ここまで不器用だとは。面白いな」
「チャカ様!面白がってないで、ちゃんとした説明を!」
「説明なんていらないだろう」
「でも、私はペル様の気持ちを聞いてない!私はずっとペル様はビビ様が好きなんだと…」
そこでやっと〇〇が大きな勘違いをしている事に気づいた。
「いつおれがそんな事を言ったんだ」
「まぁ後は二人でゆっくり話すといい。おれも自分の方で忙しいからな」
「えっ、チャカ様の恋バナ!?聞きたいんですけど!!」
「お前、散々人を煽っておいて…」
彼女が護衛隊に入ってからというもの『あの子はどうだ?』『お前が手に負えないならおれが受け持とうか?』などちょっかいをかけてきた男を睨みつける。
「ははは!おれのはまた今度。色々と勉強になったぞペル」
チャカは片手を上げ、おれ達をおいて離れていく。彼女が気まずそうに指を擦り合わせていた。
「…〇〇」
おれはため息をついて彼女の名前を呼んだ。
「は、はい!!」
「相当酔っていたから覚えているかは不明だが、おれはお前からの告白を受け取っている」
「酔ってた?…あっ!もしかして!」
「思い出したか。酔い潰れたお前を部屋まで運んだ時だ」
「あの時は本当にご迷惑を…えっ!?私そんな事を!?」
「あぁ、しっかりと聞いたぞ」
彼女が廊下に崩れ落ちる。
「寝落ちする前にそんな事を言ってた気がする…」
耳まで真っ赤に染めて廊下にうずくまる姿が可愛らしくて小さく笑う。
「ほら、立ちなさい。そんな所にいたら他の者の邪魔になるだろう」
彼女の手を取り立ち上がらせると、掴んだ手はそのままで歩き出す。
「ペル様…?」
「…おれの気持ちを聞いていないと言ったな。
あれだけわかりやすく言っているのに、信じられないのか」
彼女ほどはっきりとした好意を伝えてはいないが、それなりの言葉は言っているはずだ。今更言わなければならないのかと思うと、顔が熱くなってきた。
「…信じられないですよ。だって…いつも『目を離すと海賊より危険』とか『発想が十代の少年』って言われてますから」
「……そうだな。でもその通りだろう」
「そんな相手に惹かれる要素があるのかわかりませぇん」
拗ねたように唇を尖らせる彼女に、おれは首を傾げた。
「そこがお前の可愛い所じゃないのか?」
無邪気な彼女の行動はトラブルの元となる事も多いが、部隊の皆を和ませている事もある。彼女が愛される理由の一つであり、おれが好ましいと思う理由。
「…っ!ペル様!私と恋人になったら大変ですよ!毎日、おはようとお休みの挨拶は絶対です!」
「今でも毎日会う度してるだろう」
「私が構ってほしいって言ったら、相手しないといけないんですよ!」
「いつも構ってやってるだろう」
「それから…隼がたくさんいますよ!」
「知ってる」
「寝相も悪いです!」
「それも知ってる」
「なんで!?」
「野営をした時にテントがひっくり返ってるのを見た時は驚いたぞ」
「…」
「これで終わりか?あとは…そうだな。一日に一度は褒めないといけない、か?」
「うぎぎ…」
悔しそうにおれを見る彼女。どうやら思った以上におれはこの雛鳥にぞっこんらしい。
「…後悔するからやめた方がいいですよ、きっと。周りからなんて言われるか」
「…お前は気にしない人間だと思ったんだがな」
これまでも見合いの話はいくつかあった。しかしおれはこの国を守るため、いつ命を捨ててもおかしくない人間。相手に悲しい思いはしてほしくない。でも以前彼女に聞いた問いの答えは、おれの悩みをあっさりと蹴飛ばした。
「おれはお前を愛している。この国と同じくらいお前を愛し、守ってみせる」
そう言って、彼女の手を取り口付けた。
「わぁぁっ!?なにしてんですか!」
「やはり、こういうのに弱いのか」
彼女はおれに変な理想を描いていると、彼女のいる部隊の体調が言っていた。逃げた彼女の手を取れば、さらに逃げようとするので強く握りしめる。
「手を離すと勝手にどこかへ行ってしまうからな、お前は」
おれの目が届かない所に彼女がいる事が、どれだけ不安かわからないだろう。
「一生ついてくるんだろう?もうおれの前で自分を犠牲にするような事はしないでくれ」
『一生』という言葉を聞いた時は嬉しかった。少なくともおれが生きていれば、〇〇も生きてくれるという事だから。
「…ペル様」
「最後を迎えるなら…おれも一緒だ」
そんな事はないようにしたいが、こればかりはわからない。もしもその時は、絶対に一人では行かせないと手を強く握りしめた。
「ならペル様と長くいられるように、いろんな人に手合わせお願いして…」
「ダメだ」
彼女の言葉をぴしゃりと遮る。彼女の事だ、すぐさま相手の懐に入り込み可愛がられるはずだ。そんな所見たくない。
「手合わせならおれが相手をする」
「いや、たまには他の人とやったって…」
「ダメだ。チャカに頼む事も許さん」
「えぇ!?ペル様ぁ!手合わせするだけじゃないですか!」
「許さん」
「そんなぁ!」
「おれを頼ればいいだろう。他の男を頼る必要がどこにある」
「だって、それじゃペル様の負担に…」
「お前の相手をする事を負担に思う事はない。むしろ視界にいない事の方が気がかりだ。常に側にいるようにしなさい」
「チャカ様ーっ!嫉妬どころか束縛がすごいですーっ!!」
「お前は困ればすぐチャカ、チャカと…手合わせはおれがやる、わかったな?」
「…でも」
「ビビ様のように、丁重に扱われたいのか?お前の中では、おれは紳士なんだろう?」
「何でそれを!?でも、それを私がやられるのは解釈違いなんですぅ〜!!勘弁してください!」
「なら、わかったな?」
「うぅ…はぁい」
おれはその返事に満足して頷く。しかし彼女が大人しく言う事を聞くとは思わない。なので離れられないような役職を作った。職権濫用と言われてもおかしくないが、この方が安全だと皆共通理解してくれたため何も言われない。
「副官秘書ってなんですか!?聞いた事ないんですけど!?」
「おれが作った新しい役職だ。常に側に控え、共に行動する」
「いりますかそれ!?しかもペル様だけ…あ!もしかして私の行動を制限するためじゃ…」
「つべこべ言わずついてきなさい。あれだけ一緒がいいと言っていたのに、何の不満があるんだ」
「それとこれとは話が別で!」
「行くぞ」
「待ってペル様!」
重いやら束縛がすごいやら色々言われたが、それがなんだと言うのだ。
「お前を愛しているからこそなんだ」
「そ、そんなセリフ言われても納得なんてしないんですからね!」
「顔がにやけてるぞ」
「に…にやけてません!」
「お前はわかりやすくて助かる」
どんなに無謀と言われようがおれは全て守ってみせると、この命に誓う。
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