海中トライアングル
「はい、おれの勝ち〜!」
「くっそぉーっ!」
娯楽室にバラバラとトランプが散らばる。
「じゃあ、ビリのヤツは罰ゲームな」
「ちっ!なんだよ罰ゲームって」
シャチが不満そうな顔をする。正直目的を果たせれば誰でも良かったのだが、シャチが負けてくれて内心嬉しく思った。
「明日の留守番、変わってくれよ」
「あぁ?お前、当番じゃなかっただろ?」
「うん。おれじゃなくて、クラゲちゃんと変わって?」
これで邪魔されず、ゆっくりデートができる。
今回上陸する島ではタイミングよく祭りが開催されるらしく、彼女を誘ってみる事にした。しかし今回彼女は船の見張り番であったため、誰かに当番を変わってもらう必要があった。
「ふざっけんな!お前それが目的か!だから突然トランプで勝負しようとか言ってきたのかよ!」
「はいはい、負け犬は黙ってろ。悔しかったら勝ってみな」
いつものツナギでは海賊だとバレてしまう可能性があるので違う服を着る。慣れない格好に少しだけ着心地が悪い。後ろでずっとシャチが文句を言っているのを、軽く受け流し部屋を出る。
「じゃ、デートに行ってきまーす。留守番よろしく!」
「次は覚えてろよお前!」
「今日の事が楽しくて覚えてないかも♪」
「マジでムカつく!!」
これ以上は本気で怒らせるだろうと、早足で部屋を離れた。その勢いで船から飛び降りれば、少し離れた場所にツナギではない彼女の姿が見えた。
「クラゲちゃん、お待たせ」
彼女はおれに気づくと振り返る。その動きでスカートがふわりと動いた。
「この前の島で買った服じゃん!うわ〜!すっごい可愛い!よく似合ってる!」
彼女は恥ずかしそうに笑うと、ちらちらと船の方を気にしていた。
「あ、もしかしてシャチが当番変わってくれたのまだ気にしてる?気にしなくていいって!アイツが変わるって言ってくれたんだから」
当番を変わるように仕向けたのはおれだけど。まあ、土産くらいは買って帰ってもいいかとは思った。
「さ、せっかくなんだしお祭り楽しもう?初めてでしょ?お祭りなんてさ」
彼女がこくりと頷き、小さな背中に手を添えて歩き出す。さあこれからが勝負だ、邪魔が入らないうちにシャチとうんと差をつけてしまおう。そしてあわよくば進めるとこまで進んでしまおう。ニヤケそうな顔を慌てて手で隠した。
「うわぁ〜すっごい人」
祭りが開催されている街へと入れば、大きなメイン通路には出店とたくさんの人が行き交っていた。
「いやぁ、こんなに盛り上がってるとは思わなかったな〜じゃあ、はい!」
おれは彼女に手を差し出す。彼女はその手を見て首を傾げた。
「はぐれないように、手。繋いどこうか!」
すると恥ずかしいのか、手を取るのを迷う彼女。
「離れ離れになって楽しめなかったら嫌でしょ?ってのもあるけど、おれはクラゲちゃんと手繋ぎたいなぁ」
彼女にはこうしたいとはっきりと伝えてあげた方がすんなりと受け入れてくれる。少し悩んだ末、彼女は恥ずかしそうにおれの手を取った。
「ありがと〜!クラゲちゃんの手、小さくて可愛い」
褒めれば褒めるほど、耳まで赤くして俯く彼女ににやけが止まらない。
「さぁ行こう!欲しいものがあったら言ってね、おれがぜ〜んぶ買ってあげる」
彼女の小さな手を握り、人混みの中を歩き出した。出店はほとんどが食べ物系。彼女はあまり欲しがりさんではないので、彼女の好みのものを買い与える。
「あ、これクラゲちゃん好きそう!すみませーん、ひとつくださーい」
とある出店の前で足を止め、見るからに甘そうで女の子が好きそうなスイーツを受け取る。
「ほら、美味しそう!食べてごらん?」
生クリームがたっぷりのったスイーツを頬張る彼女、幸せそうな顔を見ておれも嬉しくなる。
「美味しい?おれにもひとくちちょうだい?」
あーんと大きく口を開ければ、迷う事なく差し出してくれる。これは恥ずかしくないんだと思いながら、スイーツにかぶりついた。
「ん〜あっま!美味いねこれ、今度おれも作ってみよ〜」
彼女が気に入ったのなら、作らない理由がない。どんな材料が必要なのか考えながら味わっていると、彼女が手を引いた。
「ん?どうしたの?」
どうやらおれの口元に生クリームがついているらしい。まあ、確信犯なのだが。
「え?ほんと?とってとって!」
わざとらしく顔を近づけ彼女からスイーツを取れば、ハンカチを取り出して口元を拭ってくれた。おれ的には指で取ってペロリとか直接でも良かったのだが、真面目な彼女らしい。
「ありがと!じゃあ次に行こうか」
たくさんの人を避けながら、所々で買い食いをして出店の最後までたどり着いた。
「ふぅ、美味しいものたくさん食べたし満足満足!」
広場で少し休憩していると、彼女が手を洗いたいと言ったので一人手洗い場へと向かった。
(えーと、もう少ししたら花火があがるって言ってたよな。どこかゆっくり見られて、いい感じな場所ないかな〜)
辺りを見回していれば、こっちを見ている女集団と目が合ってしまった。慌てて目を逸らしたが、嫌な予感がする。逃げようとしたが、彼女が戻ってきていない。突然おれがいなくなってしまったら困るだろうと、そこから動けずにいた。
「あの〜お兄さん一人ですか?」
すると、先ほど目が合った女性達にあっという間に囲まれた。
(ほーら、やっぱり。おれってかっこいいからさぁ)
と、自惚れている場合ではない。おれには本命がいるのだ。しかしせっかく声をかけられたのだ、いい情報を持っていないか聞き出してみるのもいいだろう。
「いや〜?一人じゃないんだけど。あのさ、これから花火があがるらしいじゃん。どっかよく見える場所知らない?」
余計な事を言われる前に、こちらから先手を打つ。必要な事を聞ければ、後はどうでもいい。
「あ、知ってます!案内するので一緒に行きましょ!」
「いや、一緒に来てる子いるからさ。場所だけ教えて?」
「じゃあ、その人も一緒に行けばいいじゃないですか〜!」
まったく引く気がないのかしっかりと腕を組んできた。好きな相手がいなければ喜んで行くのだが、今のおれにはそれがいる。
「あのさ、おれ今日好きな子と来てんの。変な誤解されたくないから、触んないでくれる?」
するりと組まれた腕を解く。
「ごめんね、他あたってよ」
「え〜でも…」
「…しつこい」
声のトーンを落としてちょっと脅してやれば、慌てて逃げ出した。
「…あ、ちょっとやり過ぎちゃったかな〜ま、いっか!どーせもう会う事もないし!というか結局、いい場所聞けなかったな」
もう一度、周りを見ていれば物陰からそっとこちらを伺う彼女の姿が見えた。
「…え、何してんのクラゲちゃん」
どうやら女性達に囲まれていたのを見られていたらしい。邪魔にならないよう、隠れていたようだ。
「え!?あの人たちと行かなくていいのかって!?なんで!?クラゲちゃんと来たのに、他の子と一緒に行くわけないじゃん!」
ほら見ろ、こうなるから嫌だったんだ。かっこよすぎるおれが少しだけ憎い。
「今からでも行っていいって!?いやいや!行かない、行かないよ!?」
訂正、ふざけている場合ではない。彼女は本気でそう思っている。自己評価の低い彼女は、自分よりもいい人がいるのではないかと常に思っている節があるのだから。
「ほ、ほら!そろそろ花火があがるみたいだか
見に行こう?ね?」
慌てて手を掴み、とりあえず高い場所へと向かう。さっきまでにこにこと楽しそうにしていたのに、今は困った顔で隣を歩いている。
(くっそ!失敗した!やっぱ逃げればよかった!)
そう思っても後の祭り。今はとにかく、彼女の誤解を解く事が優先だ。小高い丘へ辿り着いたのはいいが、みな考える事は同じで人がたくさん集まっていた。
「ん〜困った」
おれはいいが小さな彼女では、人混みに埋まってしまう。その時、ふと近くに大きな木があるのが見えた。
「…あ、あの上に行こうか」
そう思いついた瞬間、彼女を抱きかかえ危なげなく木のてっぺんへと登る。そしていい感じの場所へと、彼女を抱きかかえたまま腰掛けた。
「ここならよく見えそう!ね?」
彼女を見れば困惑と驚きの表情をしていた。
「ごめんごめん!急にびっくりした?でもさ、下じゃ息苦しそうだったし。ここなら誰にも邪魔されないで見られるでしょ?」
すると、時間になったのか花火が打ち上がり始めた。
「わ、見てクラゲちゃん!綺麗!」
大きくてド派手な花火。その色とりどりの光に照らされた彼女の顔には、すっかり笑顔が戻っていた。
「…はぁ、よかった」
花火の音で聞こえないだろうと呟いた声は、しっかりと聞こえていたようで彼女がおれの方を見た。
「あ、いや…えっと…今日、楽しかった?」
そう聞けば、彼女は今日一の笑顔を見せてくれる。
「…うん。君が楽しんでくれたなら、おれは嬉しいよ。さ!今日の締めくくりだから、最後まで楽しんで帰ろう」
彼女は大きく頷くと、花火へと視線を向けた。ラストスパートなのか、連続で大きな花火が打ち上がる。
「…クラゲ、好きだよ」
ぽつりと呟いた言葉は、今までの中で一番大きな花火にかき消された。
「あーあ…」
このため息はデートが終わってしまった落胆か、それとも一番聞いて欲しかった言葉が伝わらなかった事か。
「終わっちゃったね…帰ろうか」
彼女を抱え直し、さっと木の上から飛び降りた。
「まだ出店あるだろうし、みんなにお土産でも買って帰ろうか」
そう言って彼女の方を見れば、顔が見えないように俯いている。やはりさっき女性に囲まれていたのがいけなかったかと困っていると、小さな耳が街頭に照らされ真っ赤に染まっているのが見えた。
(…もしかして、さっき好きだって言ったの聞こえてた?)
「クラゲちゃん?」
返事はするが顔は見せない。覗き込もうとすれば、逃げるように顔を背ける。
「どうしたの?おれの事、嫌い?」
はっとしたように顔を上げ否定した彼女の頬は、わかりやすいほど赤く染まっていた。
「じゃあ…好き?」
なんとか答えようとするものの言葉が出ないようで、顔を赤くして困り果てている姿に思わず笑ってしまう。
「その反応だとおれの事好きって言ってんのと同じだよ?」
追い打ちをかけるように耳元でそう言えば、とうとう固まってしまった。
「はは!さ、帰ろ!あんまり遅くなるとキャプテンに怒られるし、おれが」
彼女を遅くまで連れ出すと、教育に悪いとぐちぐち言われるのだ。海賊のくせに。固まって動かない彼女の手を取って歩き出す。彼女は何も言わず、俯き少しだけ見える耳を赤くして手を引かれるまま歩く。見られなくてちょうどよかった。今のおれ、嬉しくてにやけまくってるだろうから。
「ただいま〜!いや〜デート楽しかった!はい、お土産!」
船へと戻れば、みんなが呆れ顔をして迎える。
「お疲れ様クラゲ。ペンギンの相手するの大変だったでしょ」
「失礼な!おれの完璧なエスコートに間違いはない!」
「はいはい」
イッカクが苦笑いしながら、お土産で買ってきた出店の食べ物をつまんでいった。他の船員達も好きな物を取っていく。そんな中、シャチの姿が見えない。
(…へそ曲げてるな、あいつ)
長い付き合いだからわかる。あいつも彼女の事が好きだ。だからおれに先を越されて怒ってるんだろうと思う。
「クラゲちゃん、ちょっと来て」
おれは彼女の手を取るとシャチの部屋へと向かう。
「クラゲちゃん、シャチの事呼んで?」
彼女はおれに言われたように、部屋の外からシャチの名前を呼んだ。そうすればすぐに返事が返ってくる。おれが呼んだら、絶対無視されてただろう。
「何、クラゲどうかしたのか?」
部屋から出てきたシャチに元気に挨拶をする。
「よっ!」
「ちっ!なんだよ、お前かよ!」
「お土産買ってきたから一緒に食おうぜ」
「なんでお前と…」
「へーじゃあおれとクラゲちゃんで食べようか?」
「あーっ!やっぱりおれも食う!」
部屋から出てきたシャチを連れて、みんながいる部屋へと戻る。
「クラゲ、今度はおれとどっか行かねぇ?」
「じゃあまたトランプで決める?」
「なんで話に入ってくるんだよ、お前今日行っただろ!次はおれ!」
「そんな決まりないし、おれだってデート行きたいし。あ、もしかして勝つ自信がなかったり?」
「はぁ?そんな事ねぇし、いいぜ。次もトランプで決めようじゃねぇか」
「あんた達、クラゲの意見は聞かないわけ?」
「そんな事ないけど?クラゲちゃん、どっか行きたい所ある?」
「そういう事じゃない」
イッカクの隣で困り顔で笑う彼女をじっと見つめる。目が合えば、ぽっと頬を染めて俯いた。
「あともうひと押しかなぁ…」
「なにが?」
「いや、こっちの話」
口いっぱいに買ってきたお土産を頬張っているシャチを見て、呑気だなと思うのだった。まぁ手を緩めるつもりは、最初からないのだが。
「くっそぉーっ!」
娯楽室にバラバラとトランプが散らばる。
「じゃあ、ビリのヤツは罰ゲームな」
「ちっ!なんだよ罰ゲームって」
シャチが不満そうな顔をする。正直目的を果たせれば誰でも良かったのだが、シャチが負けてくれて内心嬉しく思った。
「明日の留守番、変わってくれよ」
「あぁ?お前、当番じゃなかっただろ?」
「うん。おれじゃなくて、クラゲちゃんと変わって?」
これで邪魔されず、ゆっくりデートができる。
今回上陸する島ではタイミングよく祭りが開催されるらしく、彼女を誘ってみる事にした。しかし今回彼女は船の見張り番であったため、誰かに当番を変わってもらう必要があった。
「ふざっけんな!お前それが目的か!だから突然トランプで勝負しようとか言ってきたのかよ!」
「はいはい、負け犬は黙ってろ。悔しかったら勝ってみな」
いつものツナギでは海賊だとバレてしまう可能性があるので違う服を着る。慣れない格好に少しだけ着心地が悪い。後ろでずっとシャチが文句を言っているのを、軽く受け流し部屋を出る。
「じゃ、デートに行ってきまーす。留守番よろしく!」
「次は覚えてろよお前!」
「今日の事が楽しくて覚えてないかも♪」
「マジでムカつく!!」
これ以上は本気で怒らせるだろうと、早足で部屋を離れた。その勢いで船から飛び降りれば、少し離れた場所にツナギではない彼女の姿が見えた。
「クラゲちゃん、お待たせ」
彼女はおれに気づくと振り返る。その動きでスカートがふわりと動いた。
「この前の島で買った服じゃん!うわ〜!すっごい可愛い!よく似合ってる!」
彼女は恥ずかしそうに笑うと、ちらちらと船の方を気にしていた。
「あ、もしかしてシャチが当番変わってくれたのまだ気にしてる?気にしなくていいって!アイツが変わるって言ってくれたんだから」
当番を変わるように仕向けたのはおれだけど。まあ、土産くらいは買って帰ってもいいかとは思った。
「さ、せっかくなんだしお祭り楽しもう?初めてでしょ?お祭りなんてさ」
彼女がこくりと頷き、小さな背中に手を添えて歩き出す。さあこれからが勝負だ、邪魔が入らないうちにシャチとうんと差をつけてしまおう。そしてあわよくば進めるとこまで進んでしまおう。ニヤケそうな顔を慌てて手で隠した。
「うわぁ〜すっごい人」
祭りが開催されている街へと入れば、大きなメイン通路には出店とたくさんの人が行き交っていた。
「いやぁ、こんなに盛り上がってるとは思わなかったな〜じゃあ、はい!」
おれは彼女に手を差し出す。彼女はその手を見て首を傾げた。
「はぐれないように、手。繋いどこうか!」
すると恥ずかしいのか、手を取るのを迷う彼女。
「離れ離れになって楽しめなかったら嫌でしょ?ってのもあるけど、おれはクラゲちゃんと手繋ぎたいなぁ」
彼女にはこうしたいとはっきりと伝えてあげた方がすんなりと受け入れてくれる。少し悩んだ末、彼女は恥ずかしそうにおれの手を取った。
「ありがと〜!クラゲちゃんの手、小さくて可愛い」
褒めれば褒めるほど、耳まで赤くして俯く彼女ににやけが止まらない。
「さぁ行こう!欲しいものがあったら言ってね、おれがぜ〜んぶ買ってあげる」
彼女の小さな手を握り、人混みの中を歩き出した。出店はほとんどが食べ物系。彼女はあまり欲しがりさんではないので、彼女の好みのものを買い与える。
「あ、これクラゲちゃん好きそう!すみませーん、ひとつくださーい」
とある出店の前で足を止め、見るからに甘そうで女の子が好きそうなスイーツを受け取る。
「ほら、美味しそう!食べてごらん?」
生クリームがたっぷりのったスイーツを頬張る彼女、幸せそうな顔を見ておれも嬉しくなる。
「美味しい?おれにもひとくちちょうだい?」
あーんと大きく口を開ければ、迷う事なく差し出してくれる。これは恥ずかしくないんだと思いながら、スイーツにかぶりついた。
「ん〜あっま!美味いねこれ、今度おれも作ってみよ〜」
彼女が気に入ったのなら、作らない理由がない。どんな材料が必要なのか考えながら味わっていると、彼女が手を引いた。
「ん?どうしたの?」
どうやらおれの口元に生クリームがついているらしい。まあ、確信犯なのだが。
「え?ほんと?とってとって!」
わざとらしく顔を近づけ彼女からスイーツを取れば、ハンカチを取り出して口元を拭ってくれた。おれ的には指で取ってペロリとか直接でも良かったのだが、真面目な彼女らしい。
「ありがと!じゃあ次に行こうか」
たくさんの人を避けながら、所々で買い食いをして出店の最後までたどり着いた。
「ふぅ、美味しいものたくさん食べたし満足満足!」
広場で少し休憩していると、彼女が手を洗いたいと言ったので一人手洗い場へと向かった。
(えーと、もう少ししたら花火があがるって言ってたよな。どこかゆっくり見られて、いい感じな場所ないかな〜)
辺りを見回していれば、こっちを見ている女集団と目が合ってしまった。慌てて目を逸らしたが、嫌な予感がする。逃げようとしたが、彼女が戻ってきていない。突然おれがいなくなってしまったら困るだろうと、そこから動けずにいた。
「あの〜お兄さん一人ですか?」
すると、先ほど目が合った女性達にあっという間に囲まれた。
(ほーら、やっぱり。おれってかっこいいからさぁ)
と、自惚れている場合ではない。おれには本命がいるのだ。しかしせっかく声をかけられたのだ、いい情報を持っていないか聞き出してみるのもいいだろう。
「いや〜?一人じゃないんだけど。あのさ、これから花火があがるらしいじゃん。どっかよく見える場所知らない?」
余計な事を言われる前に、こちらから先手を打つ。必要な事を聞ければ、後はどうでもいい。
「あ、知ってます!案内するので一緒に行きましょ!」
「いや、一緒に来てる子いるからさ。場所だけ教えて?」
「じゃあ、その人も一緒に行けばいいじゃないですか〜!」
まったく引く気がないのかしっかりと腕を組んできた。好きな相手がいなければ喜んで行くのだが、今のおれにはそれがいる。
「あのさ、おれ今日好きな子と来てんの。変な誤解されたくないから、触んないでくれる?」
するりと組まれた腕を解く。
「ごめんね、他あたってよ」
「え〜でも…」
「…しつこい」
声のトーンを落としてちょっと脅してやれば、慌てて逃げ出した。
「…あ、ちょっとやり過ぎちゃったかな〜ま、いっか!どーせもう会う事もないし!というか結局、いい場所聞けなかったな」
もう一度、周りを見ていれば物陰からそっとこちらを伺う彼女の姿が見えた。
「…え、何してんのクラゲちゃん」
どうやら女性達に囲まれていたのを見られていたらしい。邪魔にならないよう、隠れていたようだ。
「え!?あの人たちと行かなくていいのかって!?なんで!?クラゲちゃんと来たのに、他の子と一緒に行くわけないじゃん!」
ほら見ろ、こうなるから嫌だったんだ。かっこよすぎるおれが少しだけ憎い。
「今からでも行っていいって!?いやいや!行かない、行かないよ!?」
訂正、ふざけている場合ではない。彼女は本気でそう思っている。自己評価の低い彼女は、自分よりもいい人がいるのではないかと常に思っている節があるのだから。
「ほ、ほら!そろそろ花火があがるみたいだか
見に行こう?ね?」
慌てて手を掴み、とりあえず高い場所へと向かう。さっきまでにこにこと楽しそうにしていたのに、今は困った顔で隣を歩いている。
(くっそ!失敗した!やっぱ逃げればよかった!)
そう思っても後の祭り。今はとにかく、彼女の誤解を解く事が優先だ。小高い丘へ辿り着いたのはいいが、みな考える事は同じで人がたくさん集まっていた。
「ん〜困った」
おれはいいが小さな彼女では、人混みに埋まってしまう。その時、ふと近くに大きな木があるのが見えた。
「…あ、あの上に行こうか」
そう思いついた瞬間、彼女を抱きかかえ危なげなく木のてっぺんへと登る。そしていい感じの場所へと、彼女を抱きかかえたまま腰掛けた。
「ここならよく見えそう!ね?」
彼女を見れば困惑と驚きの表情をしていた。
「ごめんごめん!急にびっくりした?でもさ、下じゃ息苦しそうだったし。ここなら誰にも邪魔されないで見られるでしょ?」
すると、時間になったのか花火が打ち上がり始めた。
「わ、見てクラゲちゃん!綺麗!」
大きくてド派手な花火。その色とりどりの光に照らされた彼女の顔には、すっかり笑顔が戻っていた。
「…はぁ、よかった」
花火の音で聞こえないだろうと呟いた声は、しっかりと聞こえていたようで彼女がおれの方を見た。
「あ、いや…えっと…今日、楽しかった?」
そう聞けば、彼女は今日一の笑顔を見せてくれる。
「…うん。君が楽しんでくれたなら、おれは嬉しいよ。さ!今日の締めくくりだから、最後まで楽しんで帰ろう」
彼女は大きく頷くと、花火へと視線を向けた。ラストスパートなのか、連続で大きな花火が打ち上がる。
「…クラゲ、好きだよ」
ぽつりと呟いた言葉は、今までの中で一番大きな花火にかき消された。
「あーあ…」
このため息はデートが終わってしまった落胆か、それとも一番聞いて欲しかった言葉が伝わらなかった事か。
「終わっちゃったね…帰ろうか」
彼女を抱え直し、さっと木の上から飛び降りた。
「まだ出店あるだろうし、みんなにお土産でも買って帰ろうか」
そう言って彼女の方を見れば、顔が見えないように俯いている。やはりさっき女性に囲まれていたのがいけなかったかと困っていると、小さな耳が街頭に照らされ真っ赤に染まっているのが見えた。
(…もしかして、さっき好きだって言ったの聞こえてた?)
「クラゲちゃん?」
返事はするが顔は見せない。覗き込もうとすれば、逃げるように顔を背ける。
「どうしたの?おれの事、嫌い?」
はっとしたように顔を上げ否定した彼女の頬は、わかりやすいほど赤く染まっていた。
「じゃあ…好き?」
なんとか答えようとするものの言葉が出ないようで、顔を赤くして困り果てている姿に思わず笑ってしまう。
「その反応だとおれの事好きって言ってんのと同じだよ?」
追い打ちをかけるように耳元でそう言えば、とうとう固まってしまった。
「はは!さ、帰ろ!あんまり遅くなるとキャプテンに怒られるし、おれが」
彼女を遅くまで連れ出すと、教育に悪いとぐちぐち言われるのだ。海賊のくせに。固まって動かない彼女の手を取って歩き出す。彼女は何も言わず、俯き少しだけ見える耳を赤くして手を引かれるまま歩く。見られなくてちょうどよかった。今のおれ、嬉しくてにやけまくってるだろうから。
「ただいま〜!いや〜デート楽しかった!はい、お土産!」
船へと戻れば、みんなが呆れ顔をして迎える。
「お疲れ様クラゲ。ペンギンの相手するの大変だったでしょ」
「失礼な!おれの完璧なエスコートに間違いはない!」
「はいはい」
イッカクが苦笑いしながら、お土産で買ってきた出店の食べ物をつまんでいった。他の船員達も好きな物を取っていく。そんな中、シャチの姿が見えない。
(…へそ曲げてるな、あいつ)
長い付き合いだからわかる。あいつも彼女の事が好きだ。だからおれに先を越されて怒ってるんだろうと思う。
「クラゲちゃん、ちょっと来て」
おれは彼女の手を取るとシャチの部屋へと向かう。
「クラゲちゃん、シャチの事呼んで?」
彼女はおれに言われたように、部屋の外からシャチの名前を呼んだ。そうすればすぐに返事が返ってくる。おれが呼んだら、絶対無視されてただろう。
「何、クラゲどうかしたのか?」
部屋から出てきたシャチに元気に挨拶をする。
「よっ!」
「ちっ!なんだよ、お前かよ!」
「お土産買ってきたから一緒に食おうぜ」
「なんでお前と…」
「へーじゃあおれとクラゲちゃんで食べようか?」
「あーっ!やっぱりおれも食う!」
部屋から出てきたシャチを連れて、みんながいる部屋へと戻る。
「クラゲ、今度はおれとどっか行かねぇ?」
「じゃあまたトランプで決める?」
「なんで話に入ってくるんだよ、お前今日行っただろ!次はおれ!」
「そんな決まりないし、おれだってデート行きたいし。あ、もしかして勝つ自信がなかったり?」
「はぁ?そんな事ねぇし、いいぜ。次もトランプで決めようじゃねぇか」
「あんた達、クラゲの意見は聞かないわけ?」
「そんな事ないけど?クラゲちゃん、どっか行きたい所ある?」
「そういう事じゃない」
イッカクの隣で困り顔で笑う彼女をじっと見つめる。目が合えば、ぽっと頬を染めて俯いた。
「あともうひと押しかなぁ…」
「なにが?」
「いや、こっちの話」
口いっぱいに買ってきたお土産を頬張っているシャチを見て、呑気だなと思うのだった。まぁ手を緩めるつもりは、最初からないのだが。
