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『夏休み番外編② Mission:鉢屋三郎と買い出しに行く』
※不穏な響きしかないタイトル
※三郎メイン
※お互い名前呼び固定になった辺りの話
※出現情報:めんどくさいモブ
「……だからさぁ、何であんたがついてくるのよ?」
「いいじゃないですか、むしろ喜んで下さいよ。僕が、重い荷物を持ってさしあげるんですから。」
何だか楽しそうに、そう言いながら鉢屋三郎は私の隣に並んで歩いている。
夏休み。学園に残っているのは私たち六年生だけかと思っていたら、どういう訳か彼も残っていたらしく。
曰く、実習だとか、遠い実家に帰るより残って自主練してた方が効率がいいだとかいうことらしいけれど。
とにかくそういうわけで、残っていることが分かった日から少し後のこと。つまり、今日。
私が他の六年生のご飯を作る担当になったことを小耳に挟んだとか何とかで、何故か、その三郎が、午後からのこの買い出しについて来ると言い出したのだった。
別に米一俵を買うとかでもないけれど、確かに荷物はそれなりに増えるだろうから、その申し出はありがたいと言えばありがたいものだ。…相手が三郎でさえなければ。
「荷物一つにつき、ひまり先輩に口吸いしてもらうのが条件……なんて冗談に決まってるじゃないですかやだなぁもう、本気にしちゃって。とりあえずその手裏剣、仕舞って下さいね?」
こめかみに青筋を立てて手裏剣を構える私に、流石に身の危険を感じたのか三郎はその提案はすぐに取り消した。
「その代わり、材料費払うんで、僕の分も是非お願いします。ご飯。」
「はあ?何で私が、あんたの分まで作らなくちゃいけないのよ?」
「どうせ自分含めて七人分作るんでしょ?そこに一人増えた所で、そんな変わらないでしょう。」
「変わらない、ってそんな簡単に…あんたの分まで作ったら、他の五年生の分まで、作らないといけなくなるじゃないの!」
「そんな細かいことまで気を回さなくていいですよ。というか、今皆居ないですし。」
「…大体、何で私の料理なんか食べたいのよ?」
「不味かったらアドバイスしてさしあげようかと。」
「あんたねぇ……!」
「あれ?自信が無いんですか?」
「あるわよ!…ちょっとくらい!不味くはない!」
「………黒古毛先生よりはマシという選択肢しか残されてなかった先輩方が、だんだん不憫になってきました。」
「三郎、あんたもうついてこないで!腹立ちすぎて、何買うか忘れそう!」
「だから冗談ですって…待ってくださいよー。」
足早に先に立つ私を、三郎は笑いながらついてくる。そのうちに、目的の町に着いた。
確かに、荷物はさりげなく持ってくれるのでありがたかった。……けど。
早くこの買い物を終わらせようと、手に取った葉物をすぐ買おうとすると、
「それ根元傷んでませんか?隣の方が新鮮だと思うんですけど?僕らが口にするものなんですから、ちゃんと見てくださいよ。」
或いは、どれくらい買うべきかちょっと分からないものを、とりあえずこれだけと買おうとすると、
「それだけですか?八人分ですよ?足りなくないですか?作る量考えてます?」
また、つい買い忘れて前の店に戻ったら、
「ホンット、計画性無いですねぇ。行動に無駄が多いですよ。」
…というように、荷物が増える度に悪態をつかれて。そこでまたしてもストレスが溜まり、しかしながら荷物を持ってもらっている以上は追い返す訳にもいかないという、板挟みの状態だった。
我慢だ、我慢。学園に帰って、料理作ってる時に三郎の分だけすごい辛い味付けにしてやるんだから…!
「どうしたんですか?」
また別の店で、かぼちゃを見ていると三郎が声をかけてきた。
お味噌汁と煮物用に買うか、でもたくさん買うと一個の値段が高いので、代金が膨れ上がってしまうし……と、私は悩んでいたのだった。
「食費は皆に払ってもらうとは言え、やっぱりなるべく抑えたいもの。でも……うーん、どうしようかな…。」
「それなら……ご主人、これとこれとこれ、側面に傷があるんですけど、まとめて買うんでまけてもらえませんか?」
隣ですらすらと値引き交渉をする三郎に、私が呆気に取られているうちにかぼちゃが通常よりも安く手に入ってしまっていた。
「あんた…交渉上手ね…。」
「僕のこと、見直しました?」
「はいはい、見直した見直した。」
「あっ、ひまり先輩、テキトーに返事しないで下さい!全くもう、持ってあげてるの僕なのに…。」
「やー、お嬢ちゃん、優しい恋人だねぇ。羨ましいねぇ!」
店の主人に言われ、思わず顔が煮え上がった。
「ち、違います!恋人なんかじゃ…!」
「いやぁ、僕ら、周りから見てもお似合いらしいですねぇ。」
「んなわけあるか!誤解を招くからやめなさいよ!」
私と三郎のやり取りを見た主人に、仲が良いんだねぇとまた言われてしまい、私は恥ずかしさをこらえてさっさとお会計を済ませて店を出た。
「……というか、そもそも今は不破雷蔵の格好してるんだから、私とあんたがお似合いってことにはならないんじゃないの?」
「……あ、確かに。」
「気付いてなかったんかい…。」
「まあ、どっちでもいいですけどねぇ。」
そんなに頓着していなさそうな返事に、呆れるしかなかった。
「さてと、そんなことより、買うものは買ったから、学園に戻るわよ。」
「あ、すみません、ひまり先輩。僕、最後に買いたいものがあるんで、すぐ戻るのでここで待っててもらえますか?」
「えっ、あ、ちょっと三郎?!……って、荷物結局、私が持つんじゃん…!」
口を尖らせても、三郎が帰ってくる気配はまだ無かったので、仕方なく待つことにした。
通行人の邪魔にならないように、道の端に、端にと、移動したのがまずかったのか。
いつの間にか、二人の見知らぬ男に近付かれていた。
「お姉ちゃん、誰か待ってるの?」
「重そうだねぇ、その荷物。持ってあげるから、俺たちと一緒に行こうよ。」
いや何であんたらと行かなきゃいけないんだよ、とは心の中で毒づくものの、この手の人間は相手にしてはいけない。それに私は、顔の傷をあまり見られたくないので、顔を逸らしながら、さりげなく距離を取るようにする。
でも、この二人の男はしつこかった。
「おいおい、人が話しかけてんのに無視する気?」
「いーからさ、こっち来なよ。」
手首まで掴まれそうになって、身を翻す。応戦することはできなくはないが、荷物もあるし、こんな町中で大立ち回りをするのも憚られる。
そう思っていた時だった。
「そこのお二方、私の連れに何かご用でもおありかな?」
聞き慣れた声に振り返ると、私服姿の仙蔵が立っていた。
私が驚いているうちに、私を連れて行こうとしていた男たちが「い、いや…」「別に…」と引き攣った笑顔で後退り、やがてそそくさと逃げていった。
私は、仙蔵に駆け寄る。
「仙蔵も、町に来てたの?」
「何言ってるんですか。さっきまで隣にいた男のこと、もう忘れちゃったんですか?」
「……三郎?」
三郎は、周りの一般人の目にも止まらぬ早さで仙蔵の変装を解いた。
「そんな、今更驚くことじゃないでしょう?」
「いやそうなんだけど…まさか仙蔵の私服と同じ服まで変装用に持ってるなんて思わなかったから…制服だけかと。」
「変装名人と呼ばれる僕のこだわりです。さ、お待たせしました。行きましょう。」
促されて、三郎と並んで歩き始めるけれど、私はまだ疑問に思っていた。
「何で、わざわざ仙蔵に?あんた、どうせ素顔見せないんだから不破のままでも良かったんじゃないの?」
「雷蔵じゃ、相手があんまり怖がらないじゃないですか。」
「……普段から顔借りてる人に向かってなんちゅうことを……」
「場合によりけり、ってことですよ。その点、立花先輩は滲み出る威圧感がありますからねぇ。」
確かに、さっきのナンパ師も、姿を見ただけでビビっていた。
「実際、あっさりお助けすることができて良かったです。」
「…そういえば言ってなかった。ありがとう…。」
どういたしまして、と返される。
「…最後の買い物って、何買ったの?」
歩くうちに町の中心から遠く離れて、周りにお店も人もまばらになってきた辺りで、私は訊いてみた。
「聞きたいですか?」
「いやまぁ、言いたくないなら別にいいけど。」
「えー、興味ないんですか?ひまり先輩に差し上げようと思ってたものなのに。」
「…え、私?」
思わず立ち止まると、三郎は悪戯っぽく笑って、懐から小さな包みを出した。
包みの封を解き、中から、簪を取り出す。
「似合うかなと思いまして。」
「…私に、くれるってこと?」
「そう言ってるじゃないですか。折角ですから、今、付けてみてください。」
「……手、塞がってるんですけど。」
「仕方ないですねぇ。僕がお付けします。…髪、触りますね。」
三郎は私の後ろに立ち、私のおろし髪を手際良くまとめて、簪を刺した。
「はい、できましたよ。」
「…まさか、これで食費チャラにしろって言うんじゃないでしょうね?」
「あれ?バレちゃいました?」
「……はぁ、もう。面倒臭くなってきたからもうそれでいいわよ。」
呆れすぎて、逆に笑いが込み上げてきてしまう。私は、後ろの三郎を振り返った。
「ありがと。後で、鏡で見せてもらうわ。」
さあ、早く帰るわよ、と促した私だったけれど。
「さっき、誤解を招くって、言ってましたよね。」
手首を捕まえられて、引き止められてしまった。
「だったら、誤解じゃなくて、本当にしちゃえば良くないですか?」
そんなことを言う、彼に。ーーーーーーーー折角、ちょっとは良い所あるじゃないと、見直した所だったのに。
「だからぁ……人をからかうのも大概にしなさいよ!あんたの分の食事、作ってあげないわよ?!」
「はーい、すみません。」
三郎は謝りながら笑い、私から荷物を引き取って隣を歩き始めた。
「ほんっと、鈍感なんですから。」
ーーーーーーーーその笑顔がズルいくせに。
※不穏な響きしかないタイトル
※三郎メイン
※お互い名前呼び固定になった辺りの話
※出現情報:めんどくさいモブ
「……だからさぁ、何であんたがついてくるのよ?」
「いいじゃないですか、むしろ喜んで下さいよ。僕が、重い荷物を持ってさしあげるんですから。」
何だか楽しそうに、そう言いながら鉢屋三郎は私の隣に並んで歩いている。
夏休み。学園に残っているのは私たち六年生だけかと思っていたら、どういう訳か彼も残っていたらしく。
曰く、実習だとか、遠い実家に帰るより残って自主練してた方が効率がいいだとかいうことらしいけれど。
とにかくそういうわけで、残っていることが分かった日から少し後のこと。つまり、今日。
私が他の六年生のご飯を作る担当になったことを小耳に挟んだとか何とかで、何故か、その三郎が、午後からのこの買い出しについて来ると言い出したのだった。
別に米一俵を買うとかでもないけれど、確かに荷物はそれなりに増えるだろうから、その申し出はありがたいと言えばありがたいものだ。…相手が三郎でさえなければ。
「荷物一つにつき、ひまり先輩に口吸いしてもらうのが条件……なんて冗談に決まってるじゃないですかやだなぁもう、本気にしちゃって。とりあえずその手裏剣、仕舞って下さいね?」
こめかみに青筋を立てて手裏剣を構える私に、流石に身の危険を感じたのか三郎はその提案はすぐに取り消した。
「その代わり、材料費払うんで、僕の分も是非お願いします。ご飯。」
「はあ?何で私が、あんたの分まで作らなくちゃいけないのよ?」
「どうせ自分含めて七人分作るんでしょ?そこに一人増えた所で、そんな変わらないでしょう。」
「変わらない、ってそんな簡単に…あんたの分まで作ったら、他の五年生の分まで、作らないといけなくなるじゃないの!」
「そんな細かいことまで気を回さなくていいですよ。というか、今皆居ないですし。」
「…大体、何で私の料理なんか食べたいのよ?」
「不味かったらアドバイスしてさしあげようかと。」
「あんたねぇ……!」
「あれ?自信が無いんですか?」
「あるわよ!…ちょっとくらい!不味くはない!」
「………黒古毛先生よりはマシという選択肢しか残されてなかった先輩方が、だんだん不憫になってきました。」
「三郎、あんたもうついてこないで!腹立ちすぎて、何買うか忘れそう!」
「だから冗談ですって…待ってくださいよー。」
足早に先に立つ私を、三郎は笑いながらついてくる。そのうちに、目的の町に着いた。
確かに、荷物はさりげなく持ってくれるのでありがたかった。……けど。
早くこの買い物を終わらせようと、手に取った葉物をすぐ買おうとすると、
「それ根元傷んでませんか?隣の方が新鮮だと思うんですけど?僕らが口にするものなんですから、ちゃんと見てくださいよ。」
或いは、どれくらい買うべきかちょっと分からないものを、とりあえずこれだけと買おうとすると、
「それだけですか?八人分ですよ?足りなくないですか?作る量考えてます?」
また、つい買い忘れて前の店に戻ったら、
「ホンット、計画性無いですねぇ。行動に無駄が多いですよ。」
…というように、荷物が増える度に悪態をつかれて。そこでまたしてもストレスが溜まり、しかしながら荷物を持ってもらっている以上は追い返す訳にもいかないという、板挟みの状態だった。
我慢だ、我慢。学園に帰って、料理作ってる時に三郎の分だけすごい辛い味付けにしてやるんだから…!
「どうしたんですか?」
また別の店で、かぼちゃを見ていると三郎が声をかけてきた。
お味噌汁と煮物用に買うか、でもたくさん買うと一個の値段が高いので、代金が膨れ上がってしまうし……と、私は悩んでいたのだった。
「食費は皆に払ってもらうとは言え、やっぱりなるべく抑えたいもの。でも……うーん、どうしようかな…。」
「それなら……ご主人、これとこれとこれ、側面に傷があるんですけど、まとめて買うんでまけてもらえませんか?」
隣ですらすらと値引き交渉をする三郎に、私が呆気に取られているうちにかぼちゃが通常よりも安く手に入ってしまっていた。
「あんた…交渉上手ね…。」
「僕のこと、見直しました?」
「はいはい、見直した見直した。」
「あっ、ひまり先輩、テキトーに返事しないで下さい!全くもう、持ってあげてるの僕なのに…。」
「やー、お嬢ちゃん、優しい恋人だねぇ。羨ましいねぇ!」
店の主人に言われ、思わず顔が煮え上がった。
「ち、違います!恋人なんかじゃ…!」
「いやぁ、僕ら、周りから見てもお似合いらしいですねぇ。」
「んなわけあるか!誤解を招くからやめなさいよ!」
私と三郎のやり取りを見た主人に、仲が良いんだねぇとまた言われてしまい、私は恥ずかしさをこらえてさっさとお会計を済ませて店を出た。
「……というか、そもそも今は不破雷蔵の格好してるんだから、私とあんたがお似合いってことにはならないんじゃないの?」
「……あ、確かに。」
「気付いてなかったんかい…。」
「まあ、どっちでもいいですけどねぇ。」
そんなに頓着していなさそうな返事に、呆れるしかなかった。
「さてと、そんなことより、買うものは買ったから、学園に戻るわよ。」
「あ、すみません、ひまり先輩。僕、最後に買いたいものがあるんで、すぐ戻るのでここで待っててもらえますか?」
「えっ、あ、ちょっと三郎?!……って、荷物結局、私が持つんじゃん…!」
口を尖らせても、三郎が帰ってくる気配はまだ無かったので、仕方なく待つことにした。
通行人の邪魔にならないように、道の端に、端にと、移動したのがまずかったのか。
いつの間にか、二人の見知らぬ男に近付かれていた。
「お姉ちゃん、誰か待ってるの?」
「重そうだねぇ、その荷物。持ってあげるから、俺たちと一緒に行こうよ。」
いや何であんたらと行かなきゃいけないんだよ、とは心の中で毒づくものの、この手の人間は相手にしてはいけない。それに私は、顔の傷をあまり見られたくないので、顔を逸らしながら、さりげなく距離を取るようにする。
でも、この二人の男はしつこかった。
「おいおい、人が話しかけてんのに無視する気?」
「いーからさ、こっち来なよ。」
手首まで掴まれそうになって、身を翻す。応戦することはできなくはないが、荷物もあるし、こんな町中で大立ち回りをするのも憚られる。
そう思っていた時だった。
「そこのお二方、私の連れに何かご用でもおありかな?」
聞き慣れた声に振り返ると、私服姿の仙蔵が立っていた。
私が驚いているうちに、私を連れて行こうとしていた男たちが「い、いや…」「別に…」と引き攣った笑顔で後退り、やがてそそくさと逃げていった。
私は、仙蔵に駆け寄る。
「仙蔵も、町に来てたの?」
「何言ってるんですか。さっきまで隣にいた男のこと、もう忘れちゃったんですか?」
「……三郎?」
三郎は、周りの一般人の目にも止まらぬ早さで仙蔵の変装を解いた。
「そんな、今更驚くことじゃないでしょう?」
「いやそうなんだけど…まさか仙蔵の私服と同じ服まで変装用に持ってるなんて思わなかったから…制服だけかと。」
「変装名人と呼ばれる僕のこだわりです。さ、お待たせしました。行きましょう。」
促されて、三郎と並んで歩き始めるけれど、私はまだ疑問に思っていた。
「何で、わざわざ仙蔵に?あんた、どうせ素顔見せないんだから不破のままでも良かったんじゃないの?」
「雷蔵じゃ、相手があんまり怖がらないじゃないですか。」
「……普段から顔借りてる人に向かってなんちゅうことを……」
「場合によりけり、ってことですよ。その点、立花先輩は滲み出る威圧感がありますからねぇ。」
確かに、さっきのナンパ師も、姿を見ただけでビビっていた。
「実際、あっさりお助けすることができて良かったです。」
「…そういえば言ってなかった。ありがとう…。」
どういたしまして、と返される。
「…最後の買い物って、何買ったの?」
歩くうちに町の中心から遠く離れて、周りにお店も人もまばらになってきた辺りで、私は訊いてみた。
「聞きたいですか?」
「いやまぁ、言いたくないなら別にいいけど。」
「えー、興味ないんですか?ひまり先輩に差し上げようと思ってたものなのに。」
「…え、私?」
思わず立ち止まると、三郎は悪戯っぽく笑って、懐から小さな包みを出した。
包みの封を解き、中から、簪を取り出す。
「似合うかなと思いまして。」
「…私に、くれるってこと?」
「そう言ってるじゃないですか。折角ですから、今、付けてみてください。」
「……手、塞がってるんですけど。」
「仕方ないですねぇ。僕がお付けします。…髪、触りますね。」
三郎は私の後ろに立ち、私のおろし髪を手際良くまとめて、簪を刺した。
「はい、できましたよ。」
「…まさか、これで食費チャラにしろって言うんじゃないでしょうね?」
「あれ?バレちゃいました?」
「……はぁ、もう。面倒臭くなってきたからもうそれでいいわよ。」
呆れすぎて、逆に笑いが込み上げてきてしまう。私は、後ろの三郎を振り返った。
「ありがと。後で、鏡で見せてもらうわ。」
さあ、早く帰るわよ、と促した私だったけれど。
「さっき、誤解を招くって、言ってましたよね。」
手首を捕まえられて、引き止められてしまった。
「だったら、誤解じゃなくて、本当にしちゃえば良くないですか?」
そんなことを言う、彼に。ーーーーーーーー折角、ちょっとは良い所あるじゃないと、見直した所だったのに。
「だからぁ……人をからかうのも大概にしなさいよ!あんたの分の食事、作ってあげないわよ?!」
「はーい、すみません。」
三郎は謝りながら笑い、私から荷物を引き取って隣を歩き始めた。
「ほんっと、鈍感なんですから。」
ーーーーーーーーその笑顔がズルいくせに。