そのうすべに色を隠して。
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『七頁 ”あの男の子”との再会』
※風魔のあいつメイン。
※それっぽい方言でお送りしております。
※あまり喋らないモブが何人か出てきます。
とある休日。私、上町陽太は"ひまり"の姿で、…まあ要するに、普通に女の姿で、学園から少し離れた道を歩いていた。今日は、ある人と会う約束をしていた。
学園の外で、これだけ離れていればそうそう学園関係者に会うことはないはず。
万が一、会ったとしても顔を隠して男装して喋らないでいる"上町先輩"が、"ひまり"と同一人物だと気付く後輩はいないだろう。
そうこうしているうちに、私は今日会うその人と待ち合わせている場所の近くまで来ていた。えっと、確かあの、道の側に生えている松の木の前でって……
と、歩きながら焦点を合わせていると、木の側に立っている人影が見えた。私は声をかけながら、手を振る。
「与四郎ー、ごめんお待たせ!」
相手、錫高野与四郎はこちらに気付き、パッと笑顔を見せた。
「よしグホぁ!!?」
そして私の方に走ってきて、タックルしてきた。いやもとい、与四郎的にはハグなんだろうけども。何しろ、体格が違いすぎる。おまけに、腕力も。
「ひまり〜!おめー、ちっと見ねーうちに、まぁた一段と可愛いぐなって!」
「よ、よしろっ…離せ苦しいっ!」
「いさしかぶりに会えたっさー、ンな照れねーでもいーじゃんよー。」
「いや、久しぶりに会えたのは私も嬉しいよ?でもっあんたの締め付けが…ぐぉおお…!!」
「ん?おー、わりーわりー。」
ほっとくと勢い余りすぎてどんどん締め上げてくるので、力を振り絞って与四郎の肩を叩くと漸く気付いたらしく、パッと手を離してくれた。
「んじゃー改めて、ひまり!いさしかぶりだぁなー。」
「うん。元気だった?」
私は、相手と改めて挨拶を交わす。彼は相模国にある、風魔流忍術学校の六年生、錫高野与四郎。とあるきっかけから顔見知りになって以来の、私の友達だ。ここから相模国までは遠く離れているけれど、与四郎はたまにこうして、遊びにやってくる。
「おーよー。ひまりに会いたくってよー、思わずこっち来ちまったっさァ。」
「えー、足柄山からわざわざ?」
「いんやァ、校外実習でよー。近びに来たし、折角だからと思って。」
「そうだったの。…実習の後でしょ、疲れてないの?」
「ひまりの顔見たら、疲れなんざ吹っ飛んじまうべーよ。」
「何言ってんのよ、もう…。」
「実際そーだべ?ひまりは、俺の元気のモトだぁなー。つーことでよ!」
笑顔で言いながら与四郎は、でも目は真剣になって、視線を合わせてくる。
「そろそろ俺と、夫婦になる気ンなったか?」
「いや、なるかい。」
私の即ツッコミ返しに、あからさまにショックを受けたような顔になる与四郎。
「あんでー?!……俺のこと、ひまりはきれーか?」
「いやぁ、そういうわけじゃなくってさ…」
「俺、おめーのこと、ぜってーでーじにすっからよー。な?」
「って、言われても…」
「あんで、ダメなんだべ?」
シュン……と、いたいけな子犬のような表情にキュンとしかけるが、何とか我に返って。
「…あのね与四郎。与四郎が、そういうふうに言ってくれるのは、とっても嬉しいの。」
「そんなら…」
「でも、ごめん。私、ずっと好きな人がいるから。」
「…」
「忍として失格かもしれないけど、私はその人のことがずっと好きで、だから…」
「…分かった。」
「与四郎の気持ちには応えられ……え?」
「そーかァ。それじゃー仕方ねーもんなー。」
「与四郎…。」
「そしたらひまり、俺そいつ倒すからよ、名前教えてくれ。」
「何でそうなる?!いやあかんあかん、絶対に教えんからな!」
「後生だからよー!なんも戦わずして、惚れた女諦めたくねーだよ!」
「知るか!大体倒すってあんた、殺す気満々だろ!」
「いかにも。」
「いかにも。じゃねぇえええええ!!!!!」
しばらくの押し問答の後、好きな人を教えるのと代わりに、私が甘味を奢るということで今日のところは収めてもらうことにした。与四郎は、かなーーり、ふてていたけれど。
茶店の前に置かれた長い腰掛けに、私たちは隣り合って座っていた。近くには、他のお客さんもいる。
「ちぇー……やっぱ、遠距離恋愛は不利だんべなー。」
団子を一つ頬張りながら、与四郎がそう言うので私は忘れずにつっこんでおく。
「いやいつ恋愛した。誰と誰が。」
与四郎は団子を咀嚼して、お茶を一口飲むと湯呑みを置き、横の私の方に顔を向けてくる。
「けど、俺は諦めねーべ?ひまりが、俺に振り向いてくれるまで!」
「ええぇ……私は、友達のままがいいんだけどなぁ……。」
「いんや俺は、おめーを嫁にするって、昔から決めてっからな!」
店の中からも周囲からも、目線が集まるのを全身に感じて、顔が熱くなる。
「ちょっ、与四郎!ここお店!声大きいってば…!」
「へへっ、真っ赤ンなっちまって、可愛いべなぁ。」
至近距離で、ニカッと笑いかけられ。
怒る気力も、空気が抜けた紙風船のようにしぼむ。
結局俯くしかなくなり、そんな私を見て与四郎は、やっぱ可愛いべと笑っている。
……この男には、恥じらいというものがないのだろうか。
素直というかストレート過ぎるというか。もう少し周りを見てほしい。
お店の、周りのお客さんや店員さんは、私たちに注目した後は、気遣うように静かにしている。……なんか逆に、居心地が悪い。
「ほ、ほら、もう食べたでしょ?早く行くわよ!おじさん、お勘定!」
「いや、ここは俺が。」
立ち上がって懐のお財布に手をかける私を、与四郎が止める。
「え?でも、私が…」
「いーから。俺ばっか食っちまったしよ。それに、おめーの可愛い顔見れただけで十分貰っちまったよーなモンだぁな。」
腰掛けの、反対側にいた数人の女の人たちから、抑え気味でも、色めき立つ声が耳に届く。
ーーーーーーーーも、
もう駄目だ、限界だ。恥ずかしくて。
足早に店の前から立ち去る私を、驚いた与四郎の声が追ってくる。
「ひまり?!あぁこれ、お代!これで、足りるだんべ?」
「へ、へぇ。毎度あり…。」
困惑している店主の人との会話が遠くに聞こえたかと思うと、そのうちに、与四郎が追いかけてくる足音が。
茶屋が見えなくなってきた辺りで、私も、急に走ってしまってやっぱり申し訳ないのと、走るより前から上がりっぱなしの息を整えたくて、立ち止まる。
「ひまり!」
「……与四郎はさ、そうやって、」
「ん?」
「自分の気持ちを好きに伝えてるけど、その……」
駄目だ、思い出すと顔から火が出る。思わず手で顔を覆った。
「つ、伝えられる側の身にも、なってよ……あんな、人がいるところで、堂々と……」
そんなに、可愛いとか、好きとか。
言われ慣れないことを連発されるのは、正直、心臓がもたない。たとえ、友達だと思っていても。
後ろにいたはずの与四郎が、いつの間にか私の正面に来ていて、私の顔を覆う手をはがして握った。
「よ、与四ろ……」
「言ったべ?いつも遠距離で、会えねーくれぇ近くに居られねーんだから。今、言わねーでどうすべ。」
与四郎は、真剣な表情で、手を強く握ってくる。
「俺は、会えねー時もいっつもひまりのことを思い出してる。そんぐれー、好きなんだ。」
まっすぐな、言葉と、目。
「…私だって……自分の気持ちに、嘘つきたくない。」
それを見たら、どうしてなのか、何だか悔しい気持ちになる。じわ、と涙が溢れ出ようとするのを、何とかして抑えたくて、ぎゅっと目を瞑る。
「…顔に傷があるから自信が持てなくて、こんな私じゃ駄目だから、誰かに嫁ぐより、いっそプロの忍者を目指そうって。好きな人への気持ちも抑えようって。でも、それも結局は中途半端で……ただ臆病なだけなの。もし困らせたら、拒否されたらどうしよう、って……。」
ふっと、手を握る体温が離れていった。伏せていた目を上げると。
与四郎は優しい顔をしていた。
「俺も、好きな子に拒否されまくってんべ。」
「あ……」
「そんなもんだべ、誰かを好きになるって。」
そう言うと与四郎は不意に、私の体を横抱きに持ち抱えた。
「わっ、ちょ、与四郎?!」
「いーから。じっとしてろ。」
幸い、辺りに人影は見当たらないけど。
しばらく歩いて、そのうち、河原へと辿り着く。ゆっくり体を下ろされ、与四郎も、私の隣に座った。
綺麗な眺めで、誰もいなくて、静かなところだった。ただ、涼しげな川のせせらぎだけが、耳に入る。
「手ぬぐい、俺の使え。」
「あ、ありがとう……」
「ひまりの気持ち、考えてやれねーで。ごめんな。」
「…ううん。」
「俺も困らせちまっただぁよ。でも、言わねぇで後悔したくねーからさ。だからおめーも、あまり細けーこと気にしねーで、言える内に言っといたほうがいいべ?な。」
「……うん。ありがとう。」
「しっかし、羨ましいべなー、そいつ!ひまりに好かれてんだもんよー。」
「まぁでも、向こうはどうかな…顔にこんな大きな傷があるんじゃ、ね。」
「気にすることねーだよ。」
「え?」
「傷があろうがなかろうが、ひまりは、ひまりのままだんべ!」
傷があったって、ひまりはひまりのままじゃないか!ーーーーーーーー
「…っふ、ふふ……あはははっ……!」
重なってしまった。というか、同じだった。"あいつ"に言われた、あの、台詞と。それがなんだか、おかしくて。
思わず笑ってしまった私を見て、与四郎はぽかんとしていたけれど、やがて、優しく笑った。
「元気ンなったべな。んじゃ、俺はそろそろ行くべ。」
「えっ、もう帰るの?」
「まー、遠いからな。戻んねーと、先生にしょっぴかれらぁ。ひまりも、気を付けて帰るだぁよ。」
「う、うん。与四郎も……」
「あ。そーだ最後に。」
慌てて立ち上がって見送ろうとすると、与四郎はもう数歩ほど歩いていたのに、急に振り返って戻ってきたかと思うと、
両手を顔の前で、包み込むようにギュッと握られた。
「俺、ぜってー諦めねーから。それだけは、忘れねーでくれよな。」
「うん、分かっ……」
苦笑する私の言葉は途中で止まった。
与四郎の唇を通して、頬に一瞬だけ移された彼の体温がまだ残ってるうちに、真正面からニッと笑いかけられる。
「んじゃーな!体、でーじにしろよー。」
パッと離された手も、口も、からだ全体が動かない間に与四郎が駆け出して。
こちらに手を振る姿がだんだん小さくなるのを呆然と見ながら、自分の顔が沸騰していくのが分かってしまった。
※風魔のあいつメイン。
※それっぽい方言でお送りしております。
※あまり喋らないモブが何人か出てきます。
とある休日。私、上町陽太は"ひまり"の姿で、…まあ要するに、普通に女の姿で、学園から少し離れた道を歩いていた。今日は、ある人と会う約束をしていた。
学園の外で、これだけ離れていればそうそう学園関係者に会うことはないはず。
万が一、会ったとしても顔を隠して男装して喋らないでいる"上町先輩"が、"ひまり"と同一人物だと気付く後輩はいないだろう。
そうこうしているうちに、私は今日会うその人と待ち合わせている場所の近くまで来ていた。えっと、確かあの、道の側に生えている松の木の前でって……
と、歩きながら焦点を合わせていると、木の側に立っている人影が見えた。私は声をかけながら、手を振る。
「与四郎ー、ごめんお待たせ!」
相手、錫高野与四郎はこちらに気付き、パッと笑顔を見せた。
「よしグホぁ!!?」
そして私の方に走ってきて、タックルしてきた。いやもとい、与四郎的にはハグなんだろうけども。何しろ、体格が違いすぎる。おまけに、腕力も。
「ひまり〜!おめー、ちっと見ねーうちに、まぁた一段と可愛いぐなって!」
「よ、よしろっ…離せ苦しいっ!」
「いさしかぶりに会えたっさー、ンな照れねーでもいーじゃんよー。」
「いや、久しぶりに会えたのは私も嬉しいよ?でもっあんたの締め付けが…ぐぉおお…!!」
「ん?おー、わりーわりー。」
ほっとくと勢い余りすぎてどんどん締め上げてくるので、力を振り絞って与四郎の肩を叩くと漸く気付いたらしく、パッと手を離してくれた。
「んじゃー改めて、ひまり!いさしかぶりだぁなー。」
「うん。元気だった?」
私は、相手と改めて挨拶を交わす。彼は相模国にある、風魔流忍術学校の六年生、錫高野与四郎。とあるきっかけから顔見知りになって以来の、私の友達だ。ここから相模国までは遠く離れているけれど、与四郎はたまにこうして、遊びにやってくる。
「おーよー。ひまりに会いたくってよー、思わずこっち来ちまったっさァ。」
「えー、足柄山からわざわざ?」
「いんやァ、校外実習でよー。近びに来たし、折角だからと思って。」
「そうだったの。…実習の後でしょ、疲れてないの?」
「ひまりの顔見たら、疲れなんざ吹っ飛んじまうべーよ。」
「何言ってんのよ、もう…。」
「実際そーだべ?ひまりは、俺の元気のモトだぁなー。つーことでよ!」
笑顔で言いながら与四郎は、でも目は真剣になって、視線を合わせてくる。
「そろそろ俺と、夫婦になる気ンなったか?」
「いや、なるかい。」
私の即ツッコミ返しに、あからさまにショックを受けたような顔になる与四郎。
「あんでー?!……俺のこと、ひまりはきれーか?」
「いやぁ、そういうわけじゃなくってさ…」
「俺、おめーのこと、ぜってーでーじにすっからよー。な?」
「って、言われても…」
「あんで、ダメなんだべ?」
シュン……と、いたいけな子犬のような表情にキュンとしかけるが、何とか我に返って。
「…あのね与四郎。与四郎が、そういうふうに言ってくれるのは、とっても嬉しいの。」
「そんなら…」
「でも、ごめん。私、ずっと好きな人がいるから。」
「…」
「忍として失格かもしれないけど、私はその人のことがずっと好きで、だから…」
「…分かった。」
「与四郎の気持ちには応えられ……え?」
「そーかァ。それじゃー仕方ねーもんなー。」
「与四郎…。」
「そしたらひまり、俺そいつ倒すからよ、名前教えてくれ。」
「何でそうなる?!いやあかんあかん、絶対に教えんからな!」
「後生だからよー!なんも戦わずして、惚れた女諦めたくねーだよ!」
「知るか!大体倒すってあんた、殺す気満々だろ!」
「いかにも。」
「いかにも。じゃねぇえええええ!!!!!」
しばらくの押し問答の後、好きな人を教えるのと代わりに、私が甘味を奢るということで今日のところは収めてもらうことにした。与四郎は、かなーーり、ふてていたけれど。
茶店の前に置かれた長い腰掛けに、私たちは隣り合って座っていた。近くには、他のお客さんもいる。
「ちぇー……やっぱ、遠距離恋愛は不利だんべなー。」
団子を一つ頬張りながら、与四郎がそう言うので私は忘れずにつっこんでおく。
「いやいつ恋愛した。誰と誰が。」
与四郎は団子を咀嚼して、お茶を一口飲むと湯呑みを置き、横の私の方に顔を向けてくる。
「けど、俺は諦めねーべ?ひまりが、俺に振り向いてくれるまで!」
「ええぇ……私は、友達のままがいいんだけどなぁ……。」
「いんや俺は、おめーを嫁にするって、昔から決めてっからな!」
店の中からも周囲からも、目線が集まるのを全身に感じて、顔が熱くなる。
「ちょっ、与四郎!ここお店!声大きいってば…!」
「へへっ、真っ赤ンなっちまって、可愛いべなぁ。」
至近距離で、ニカッと笑いかけられ。
怒る気力も、空気が抜けた紙風船のようにしぼむ。
結局俯くしかなくなり、そんな私を見て与四郎は、やっぱ可愛いべと笑っている。
……この男には、恥じらいというものがないのだろうか。
素直というかストレート過ぎるというか。もう少し周りを見てほしい。
お店の、周りのお客さんや店員さんは、私たちに注目した後は、気遣うように静かにしている。……なんか逆に、居心地が悪い。
「ほ、ほら、もう食べたでしょ?早く行くわよ!おじさん、お勘定!」
「いや、ここは俺が。」
立ち上がって懐のお財布に手をかける私を、与四郎が止める。
「え?でも、私が…」
「いーから。俺ばっか食っちまったしよ。それに、おめーの可愛い顔見れただけで十分貰っちまったよーなモンだぁな。」
腰掛けの、反対側にいた数人の女の人たちから、抑え気味でも、色めき立つ声が耳に届く。
ーーーーーーーーも、
もう駄目だ、限界だ。恥ずかしくて。
足早に店の前から立ち去る私を、驚いた与四郎の声が追ってくる。
「ひまり?!あぁこれ、お代!これで、足りるだんべ?」
「へ、へぇ。毎度あり…。」
困惑している店主の人との会話が遠くに聞こえたかと思うと、そのうちに、与四郎が追いかけてくる足音が。
茶屋が見えなくなってきた辺りで、私も、急に走ってしまってやっぱり申し訳ないのと、走るより前から上がりっぱなしの息を整えたくて、立ち止まる。
「ひまり!」
「……与四郎はさ、そうやって、」
「ん?」
「自分の気持ちを好きに伝えてるけど、その……」
駄目だ、思い出すと顔から火が出る。思わず手で顔を覆った。
「つ、伝えられる側の身にも、なってよ……あんな、人がいるところで、堂々と……」
そんなに、可愛いとか、好きとか。
言われ慣れないことを連発されるのは、正直、心臓がもたない。たとえ、友達だと思っていても。
後ろにいたはずの与四郎が、いつの間にか私の正面に来ていて、私の顔を覆う手をはがして握った。
「よ、与四ろ……」
「言ったべ?いつも遠距離で、会えねーくれぇ近くに居られねーんだから。今、言わねーでどうすべ。」
与四郎は、真剣な表情で、手を強く握ってくる。
「俺は、会えねー時もいっつもひまりのことを思い出してる。そんぐれー、好きなんだ。」
まっすぐな、言葉と、目。
「…私だって……自分の気持ちに、嘘つきたくない。」
それを見たら、どうしてなのか、何だか悔しい気持ちになる。じわ、と涙が溢れ出ようとするのを、何とかして抑えたくて、ぎゅっと目を瞑る。
「…顔に傷があるから自信が持てなくて、こんな私じゃ駄目だから、誰かに嫁ぐより、いっそプロの忍者を目指そうって。好きな人への気持ちも抑えようって。でも、それも結局は中途半端で……ただ臆病なだけなの。もし困らせたら、拒否されたらどうしよう、って……。」
ふっと、手を握る体温が離れていった。伏せていた目を上げると。
与四郎は優しい顔をしていた。
「俺も、好きな子に拒否されまくってんべ。」
「あ……」
「そんなもんだべ、誰かを好きになるって。」
そう言うと与四郎は不意に、私の体を横抱きに持ち抱えた。
「わっ、ちょ、与四郎?!」
「いーから。じっとしてろ。」
幸い、辺りに人影は見当たらないけど。
しばらく歩いて、そのうち、河原へと辿り着く。ゆっくり体を下ろされ、与四郎も、私の隣に座った。
綺麗な眺めで、誰もいなくて、静かなところだった。ただ、涼しげな川のせせらぎだけが、耳に入る。
「手ぬぐい、俺の使え。」
「あ、ありがとう……」
「ひまりの気持ち、考えてやれねーで。ごめんな。」
「…ううん。」
「俺も困らせちまっただぁよ。でも、言わねぇで後悔したくねーからさ。だからおめーも、あまり細けーこと気にしねーで、言える内に言っといたほうがいいべ?な。」
「……うん。ありがとう。」
「しっかし、羨ましいべなー、そいつ!ひまりに好かれてんだもんよー。」
「まぁでも、向こうはどうかな…顔にこんな大きな傷があるんじゃ、ね。」
「気にすることねーだよ。」
「え?」
「傷があろうがなかろうが、ひまりは、ひまりのままだんべ!」
傷があったって、ひまりはひまりのままじゃないか!ーーーーーーーー
「…っふ、ふふ……あはははっ……!」
重なってしまった。というか、同じだった。"あいつ"に言われた、あの、台詞と。それがなんだか、おかしくて。
思わず笑ってしまった私を見て、与四郎はぽかんとしていたけれど、やがて、優しく笑った。
「元気ンなったべな。んじゃ、俺はそろそろ行くべ。」
「えっ、もう帰るの?」
「まー、遠いからな。戻んねーと、先生にしょっぴかれらぁ。ひまりも、気を付けて帰るだぁよ。」
「う、うん。与四郎も……」
「あ。そーだ最後に。」
慌てて立ち上がって見送ろうとすると、与四郎はもう数歩ほど歩いていたのに、急に振り返って戻ってきたかと思うと、
両手を顔の前で、包み込むようにギュッと握られた。
「俺、ぜってー諦めねーから。それだけは、忘れねーでくれよな。」
「うん、分かっ……」
苦笑する私の言葉は途中で止まった。
与四郎の唇を通して、頬に一瞬だけ移された彼の体温がまだ残ってるうちに、真正面からニッと笑いかけられる。
「んじゃーな!体、でーじにしろよー。」
パッと離された手も、口も、からだ全体が動かない間に与四郎が駆け出して。
こちらに手を振る姿がだんだん小さくなるのを呆然と見ながら、自分の顔が沸騰していくのが分かってしまった。