そのうすべに色を隠して。
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『六頁 すれ違う想い』
※モブ下級生くのたま台詞あり。(拙宅の脳内設定では、くの一教室にはユキちゃんたち11歳の子だけでなく10歳、12歳辺りもいることになっています。)
「あ、あのっ、上町先輩!これ…受け取って下さい…!」
名前は分からないが、恐らく、下級生のくのたまの子たちなのだろう、と思いながら陽太は、モジモジとほんのり赤い顔でお菓子を差し出してくるその二人の女の子を見た。
お菓子を受け取り、筆談用のメモ帳を取り出して白紙のページをめくり、サラッと書き綴った文面を二人に見えるように持つ。
『ありがとう』
「……!」
覆面を取ることはできないが、感謝が伝わるように精一杯、ニコッと笑いかけると。その二人の女の子たちは嬉しそうに口に手を当てて、小さく、きゃあっと声をあげて色めき立っていた。
その様子を可愛いと思いつつ、実は女でごめんね…、と、恐らく男としての上町陽太に憧憬を抱いているのであろう彼女たちに、心の中で謝りつつ。
彼女たちに手を振ってその場を後にし、歩いていくと、さほど離れていない場所で伊作に声をかけられた。
「や、陽太。」
「伊作…もしかしてさっきの、見てた?」
「ごめんごめん、たまたま通りかかって。でも本当、陽太ってモテるんだなぁ。」
嫌味とかでもなく、本当に純粋に、感心している様子の伊作に、
「何言ってるんだか、一番モテる癖に。」
と、肩をすくめてみせる。
「そ、そんなことないよ…」
「よく、くの一教室の子たちが、学園で誰が一番人気だと思うか、って話してるらしいんだけど、そういう時いつも最初に伊作の名前が出るんだって。」
「ええっ?そうなの?」
「うん。乱太郎たちが言ってた。」
「そっかぁ。参ったなあ…。」
困ったような苦笑を、伊作は浮かべている。
「今の顔、留三郎辺りが見たら舌打ちしそう。」
「そう言われてもなあ……そもそも僕、女の子と付き合ったこと無いし。」
「…あると思ってた。え、だって昔、伊作が女の子に告白されたって、それこそ留三郎や文次郎たちが騒いでたから、てっきり……」
「ううん。付き合ってないよ。」
伊作が、嘘をつくような性格ではないのは分かっていたが、陽太は思わず重ねて訊く。
「何で断っちゃったの?」
「何で、って……そりゃ、僕、不運だからさ。」
「不運がどうして、関係してくるんだよ?」
「だって、立てば焙烙火矢が飛んできて、歩けば落とし穴に落ちる僕だよ?一緒にいたら、その子まで巻き込んでしまうじゃないか。そんなの、申し訳ないよ…。」
そんなこと思ってたのか、と思いつつ。陽太は、ちょっとからかうような心持ちになった。
「でも勿体ないこと。折角告白されたんだから、付き合っちゃえば良かったのに。」
「そんなの……それに、本当に好きな人同士じゃないと相手にだって失礼じゃないかと思って。」
「…真面目だねぇ。ま、それもそうかもしれないけど。ーーーーーーーーもしかしてその時、他に好きな人がいたとか?」
「えっ…い、いやその…」
つい調子に乗って更にからかおうとした、その時。
突如、空から投げ焙烙が飛んできた。
「わっ…」
「危ない!」
間一髪、伊作に庇われて地面に二人して倒れ込む。
二人が立っていた場所に落ちてきた投げ焙烙は、幸い、導火線に火はついておらず、爆発はしなかった。
「陽太、大丈夫?!」
倒れた体を起こした伊作に、肩を掴まれて怪我がないか確認される。
「う、うん…ありがと…」
急に距離が詰まって、陽太は何とか返事をするので精一杯だった。体が固まって、動けない。
「…ほら、巻き込んじゃう。」
自嘲するように、伊作に弱く笑いかけられて。
そんな、傷付いたみたいな顔をしてほしくなくて、言い募る。
「別にそんなの、…相手が気にしなかったら、伊作も気にしなくていいじゃないか。こんなの……」
「…でも、……やっぱり、駄目なんだよ。すごく、大切な人でもあるから。」
こんなのいつものことだし私だったら気にしない、と思わず言いそうになったのを、思いとどまった。
ズキ、と心にその言葉が突き刺さる。
『本当に好きな人』、いるんだ。
ーーーーーーーー今度はちゃんと、告ってくんのよ?
先日、髪結いのお姉さんに背中を押された時の台詞に、陽太は、心の中で首を横に振る。
…やっぱり、言うべきじゃないんだよ。
伊作の本当に好きな人が、誰であれ、私のこの気持ちは、言ったところで彼を困らせるだけなのだろうから。
伊作はその人と、一緒になることを望んでる訳じゃないんだ。きっと。
「…陽太?あの…本当に、大丈夫?」
「うん、大丈夫。…部屋、戻るね。」
心は、ズキズキするけれど。
伊作の目を、今見たくない。
その目に誰が映っているのか、確かめるのが怖くて。
離したくない手を、離した。
※モブ下級生くのたま台詞あり。(拙宅の脳内設定では、くの一教室にはユキちゃんたち11歳の子だけでなく10歳、12歳辺りもいることになっています。)
「あ、あのっ、上町先輩!これ…受け取って下さい…!」
名前は分からないが、恐らく、下級生のくのたまの子たちなのだろう、と思いながら陽太は、モジモジとほんのり赤い顔でお菓子を差し出してくるその二人の女の子を見た。
お菓子を受け取り、筆談用のメモ帳を取り出して白紙のページをめくり、サラッと書き綴った文面を二人に見えるように持つ。
『ありがとう』
「……!」
覆面を取ることはできないが、感謝が伝わるように精一杯、ニコッと笑いかけると。その二人の女の子たちは嬉しそうに口に手を当てて、小さく、きゃあっと声をあげて色めき立っていた。
その様子を可愛いと思いつつ、実は女でごめんね…、と、恐らく男としての上町陽太に憧憬を抱いているのであろう彼女たちに、心の中で謝りつつ。
彼女たちに手を振ってその場を後にし、歩いていくと、さほど離れていない場所で伊作に声をかけられた。
「や、陽太。」
「伊作…もしかしてさっきの、見てた?」
「ごめんごめん、たまたま通りかかって。でも本当、陽太ってモテるんだなぁ。」
嫌味とかでもなく、本当に純粋に、感心している様子の伊作に、
「何言ってるんだか、一番モテる癖に。」
と、肩をすくめてみせる。
「そ、そんなことないよ…」
「よく、くの一教室の子たちが、学園で誰が一番人気だと思うか、って話してるらしいんだけど、そういう時いつも最初に伊作の名前が出るんだって。」
「ええっ?そうなの?」
「うん。乱太郎たちが言ってた。」
「そっかぁ。参ったなあ…。」
困ったような苦笑を、伊作は浮かべている。
「今の顔、留三郎辺りが見たら舌打ちしそう。」
「そう言われてもなあ……そもそも僕、女の子と付き合ったこと無いし。」
「…あると思ってた。え、だって昔、伊作が女の子に告白されたって、それこそ留三郎や文次郎たちが騒いでたから、てっきり……」
「ううん。付き合ってないよ。」
伊作が、嘘をつくような性格ではないのは分かっていたが、陽太は思わず重ねて訊く。
「何で断っちゃったの?」
「何で、って……そりゃ、僕、不運だからさ。」
「不運がどうして、関係してくるんだよ?」
「だって、立てば焙烙火矢が飛んできて、歩けば落とし穴に落ちる僕だよ?一緒にいたら、その子まで巻き込んでしまうじゃないか。そんなの、申し訳ないよ…。」
そんなこと思ってたのか、と思いつつ。陽太は、ちょっとからかうような心持ちになった。
「でも勿体ないこと。折角告白されたんだから、付き合っちゃえば良かったのに。」
「そんなの……それに、本当に好きな人同士じゃないと相手にだって失礼じゃないかと思って。」
「…真面目だねぇ。ま、それもそうかもしれないけど。ーーーーーーーーもしかしてその時、他に好きな人がいたとか?」
「えっ…い、いやその…」
つい調子に乗って更にからかおうとした、その時。
突如、空から投げ焙烙が飛んできた。
「わっ…」
「危ない!」
間一髪、伊作に庇われて地面に二人して倒れ込む。
二人が立っていた場所に落ちてきた投げ焙烙は、幸い、導火線に火はついておらず、爆発はしなかった。
「陽太、大丈夫?!」
倒れた体を起こした伊作に、肩を掴まれて怪我がないか確認される。
「う、うん…ありがと…」
急に距離が詰まって、陽太は何とか返事をするので精一杯だった。体が固まって、動けない。
「…ほら、巻き込んじゃう。」
自嘲するように、伊作に弱く笑いかけられて。
そんな、傷付いたみたいな顔をしてほしくなくて、言い募る。
「別にそんなの、…相手が気にしなかったら、伊作も気にしなくていいじゃないか。こんなの……」
「…でも、……やっぱり、駄目なんだよ。すごく、大切な人でもあるから。」
こんなのいつものことだし私だったら気にしない、と思わず言いそうになったのを、思いとどまった。
ズキ、と心にその言葉が突き刺さる。
『本当に好きな人』、いるんだ。
ーーーーーーーー今度はちゃんと、告ってくんのよ?
先日、髪結いのお姉さんに背中を押された時の台詞に、陽太は、心の中で首を横に振る。
…やっぱり、言うべきじゃないんだよ。
伊作の本当に好きな人が、誰であれ、私のこの気持ちは、言ったところで彼を困らせるだけなのだろうから。
伊作はその人と、一緒になることを望んでる訳じゃないんだ。きっと。
「…陽太?あの…本当に、大丈夫?」
「うん、大丈夫。…部屋、戻るね。」
心は、ズキズキするけれど。
伊作の目を、今見たくない。
その目に誰が映っているのか、確かめるのが怖くて。
離したくない手を、離した。