そのうすべに色を隠して。
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『四頁 閑話 外出之記録』
※メイン相手との絡み無し。
※モブだけどよく喋る髪結いのお姉さんが出ます。名前無し。
「ーーーーーーーーで、結局、誘えたの?」
鏡の前で、背中側からかけられる声に、ひまりはつい「いやぁ…」と、頭を掻こうとして、
「こら、動かない。」
と、その声にピシャリと怒られてしまった。
「すみません…」
「ほら、真っ直ぐ前向いてて。」
同じ女でも、触れられるとついドキッとしてしまいそうな、白くて指の細い手に頬を押されて正面を向かされる。
やおら、背中の方で、チョキ、チョキ、と降ろし髪の毛先を少しずつ切られる音が聞こえてくる。
今日は学園が休みで、ひまりは町の髪結い処に来ていた。
一年生の時からずっと懇意にしている店で、今、ひまりの髪を切っているお姉さんが一人で切り盛りしている。
妖艶で、美人だがさっぱりした気性で、男のファンも多いが、何故か彼女は女の人相手にしか仕事をしなかった。
その謎を除けば、相談事にも何かと乗ってくれる良い人だった。ちょっと、手厳しい所もあるけれど。
ひまりは、学園では女であることを隠して生活しているが、学園の外では逆に、そもそも忍術を学んでいることも知られてはいけないため、"近所の町娘"の設定で、男装はせずに、外出をしていた。
この髪結い処に来る時も、一貫して女の格好で通うことにしている。
そうして正体を隠しつつも、当たり障りのない範囲であれば、近況を話したり、或いは流行りの着物の柄だったり紅の色の話だったりと、いわゆる女子トークに華を咲かせるのが密かに楽しみでもあった。
ひまりは、先日、伊作を外出に誘い損ねたことをその髪結いのお姉さんに話していた。勿論、伊作のことは「気になる人」として伏せつつ。
「…向こうは、やっぱり、友達だと思ってるから。」
「なら、いいじゃないの。嫌われてるよりは。」
「う……深く考えると実はそうなんじゃないか、とも思えてきてしまって…こないだも顔つねっちゃったし……」
「まあ。お転婆ね。それじゃ、嫌われても仕方ないわねぇ。」
「ちょっ、嫌われてる前提やめてくださいよ…!」
「だったら、もう少し素直になってみたら?…さて、前髪は今日はどうする?」
「あ、お願いします…。」
「いつも通りね、はいはい。」
お姉さんが正面に回ってくるので、ひまりも目を閉じる。
しばらくは、丁寧に毛先を整えられる音だけが店の中に流れた。
「はい、お疲れ様。」
ひまりの着物に、切った髪の毛がかからないように被せてくれた布を外しながら、お姉さんが声をかける。
「ありがとうございました。」
お代を払っている時、「ひまりちゃん」とまた声をかけられる。
「あんた十分可愛いんだから、自信持たなきゃ、ダメよ。」
「あはは、持たなきゃダメ、ですかね…」
苦笑するひまりに、お姉さんがくすり、と笑いかける。
「あたしがその子、奪っちゃうわよ?」
「…?!だ、駄目です!!そんなの私、勝てません…!!」
一瞬で青ざめた。こんな美人に迫られたら、誰でも一発落ちだ。目に見えて慌てるひまりに、お姉さんは冗談よと、さも愉快そうに声をあげて笑った。
「さ、行った行った。ーーーーーーーー今度はちゃんと、告ってくんのよ?」
「…っ!」
背中をドンと押されるままに、店の暖簾をくぐったタイミングでそんな課題を一方的に出されてしまい。店の中にも戻りづらく、そのままひまりは少し赤くなった顔を冷ましつつ帰ることにした。
どの道、用事が終われば、後はあまり不用意に見知った人に会わないよう、さっさと帰路に着くのもいつも通りなのだ。
「はぁ…もう、人のことからかって…。」
町からも少し離れ、人の往来もそこまで多くない道でひまりは、まだほんのり熱い頬を押さえて独り言を呟く。
でもお姉さん綺麗だし、ホントに狙われたらイヤだな……などと考えかけた時、遠く、道の先からこちらに向かって歩いてくる人影が二つ、あることに気付いた。
瞬間、ひまりは咄嗟に俯き加減になってそのまま歩いていく。その二人が、見知った顔、忍術学園の五年生の後輩だったからだ。
五年い組の久々知兵助と、もう一人は、ーーーーーーーー最初に思い浮かべたのは五年ろ組の不破雷蔵だが、彼と同じ顔にいつも変装している、同じクラスの鉢屋三郎の可能性もあって、そちらは残念ながら見分けがつかなかった。
いずれにせよ、関わる気は毛頭無いので、不自然にならない程度に少し早足になって、横を通り過ぎる。
顔バレの危険を避けたい、というのもそうだが、傷痕も、軽く化粧をして見えにくくしているとは言え、やはり人にはあまりジッとは見られたくない。
向こうは互いに話しながら歩いていて、こちらのことはあまり気に留めていない様子だった。
ーーーーーーーーと思っていたのは、通り過ぎる瞬間までだったらしい。
それでも、その後もひまりは、無事にやり過ごせたと思ってホッとして、そのまま学園の方へ戻っていったのだった。
まさか、すれ違った瞬間、
「……へぇ。外出る時はそっちなのか。」
僅かに振り返られ、そんなふうに呟かれているなどとは、思いも寄らず。
「…ん、三郎?どうかしたのか?」
呟いた方の、鉢屋三郎にその横を歩く久々知兵助がキョトンとした顔で声をかけると。
「いや?何でもないよ。」
彼は何事もなかったように、パッと隣の同級生を振り返った。
「じゃあ、急ごう。早くしないと限定のお豆腐、売り切れちゃうよ!」
「あー分かった、分かった…。ほんと兵助ってば、豆腐が好きなんだから。」
今にも走り出しそうな彼に、合わせるように鉢屋三郎も、呆れ笑いを浮かべつつほんの少し歩くスピードを上げたのだった。
※メイン相手との絡み無し。
※モブだけどよく喋る髪結いのお姉さんが出ます。名前無し。
「ーーーーーーーーで、結局、誘えたの?」
鏡の前で、背中側からかけられる声に、ひまりはつい「いやぁ…」と、頭を掻こうとして、
「こら、動かない。」
と、その声にピシャリと怒られてしまった。
「すみません…」
「ほら、真っ直ぐ前向いてて。」
同じ女でも、触れられるとついドキッとしてしまいそうな、白くて指の細い手に頬を押されて正面を向かされる。
やおら、背中の方で、チョキ、チョキ、と降ろし髪の毛先を少しずつ切られる音が聞こえてくる。
今日は学園が休みで、ひまりは町の髪結い処に来ていた。
一年生の時からずっと懇意にしている店で、今、ひまりの髪を切っているお姉さんが一人で切り盛りしている。
妖艶で、美人だがさっぱりした気性で、男のファンも多いが、何故か彼女は女の人相手にしか仕事をしなかった。
その謎を除けば、相談事にも何かと乗ってくれる良い人だった。ちょっと、手厳しい所もあるけれど。
ひまりは、学園では女であることを隠して生活しているが、学園の外では逆に、そもそも忍術を学んでいることも知られてはいけないため、"近所の町娘"の設定で、男装はせずに、外出をしていた。
この髪結い処に来る時も、一貫して女の格好で通うことにしている。
そうして正体を隠しつつも、当たり障りのない範囲であれば、近況を話したり、或いは流行りの着物の柄だったり紅の色の話だったりと、いわゆる女子トークに華を咲かせるのが密かに楽しみでもあった。
ひまりは、先日、伊作を外出に誘い損ねたことをその髪結いのお姉さんに話していた。勿論、伊作のことは「気になる人」として伏せつつ。
「…向こうは、やっぱり、友達だと思ってるから。」
「なら、いいじゃないの。嫌われてるよりは。」
「う……深く考えると実はそうなんじゃないか、とも思えてきてしまって…こないだも顔つねっちゃったし……」
「まあ。お転婆ね。それじゃ、嫌われても仕方ないわねぇ。」
「ちょっ、嫌われてる前提やめてくださいよ…!」
「だったら、もう少し素直になってみたら?…さて、前髪は今日はどうする?」
「あ、お願いします…。」
「いつも通りね、はいはい。」
お姉さんが正面に回ってくるので、ひまりも目を閉じる。
しばらくは、丁寧に毛先を整えられる音だけが店の中に流れた。
「はい、お疲れ様。」
ひまりの着物に、切った髪の毛がかからないように被せてくれた布を外しながら、お姉さんが声をかける。
「ありがとうございました。」
お代を払っている時、「ひまりちゃん」とまた声をかけられる。
「あんた十分可愛いんだから、自信持たなきゃ、ダメよ。」
「あはは、持たなきゃダメ、ですかね…」
苦笑するひまりに、お姉さんがくすり、と笑いかける。
「あたしがその子、奪っちゃうわよ?」
「…?!だ、駄目です!!そんなの私、勝てません…!!」
一瞬で青ざめた。こんな美人に迫られたら、誰でも一発落ちだ。目に見えて慌てるひまりに、お姉さんは冗談よと、さも愉快そうに声をあげて笑った。
「さ、行った行った。ーーーーーーーー今度はちゃんと、告ってくんのよ?」
「…っ!」
背中をドンと押されるままに、店の暖簾をくぐったタイミングでそんな課題を一方的に出されてしまい。店の中にも戻りづらく、そのままひまりは少し赤くなった顔を冷ましつつ帰ることにした。
どの道、用事が終われば、後はあまり不用意に見知った人に会わないよう、さっさと帰路に着くのもいつも通りなのだ。
「はぁ…もう、人のことからかって…。」
町からも少し離れ、人の往来もそこまで多くない道でひまりは、まだほんのり熱い頬を押さえて独り言を呟く。
でもお姉さん綺麗だし、ホントに狙われたらイヤだな……などと考えかけた時、遠く、道の先からこちらに向かって歩いてくる人影が二つ、あることに気付いた。
瞬間、ひまりは咄嗟に俯き加減になってそのまま歩いていく。その二人が、見知った顔、忍術学園の五年生の後輩だったからだ。
五年い組の久々知兵助と、もう一人は、ーーーーーーーー最初に思い浮かべたのは五年ろ組の不破雷蔵だが、彼と同じ顔にいつも変装している、同じクラスの鉢屋三郎の可能性もあって、そちらは残念ながら見分けがつかなかった。
いずれにせよ、関わる気は毛頭無いので、不自然にならない程度に少し早足になって、横を通り過ぎる。
顔バレの危険を避けたい、というのもそうだが、傷痕も、軽く化粧をして見えにくくしているとは言え、やはり人にはあまりジッとは見られたくない。
向こうは互いに話しながら歩いていて、こちらのことはあまり気に留めていない様子だった。
ーーーーーーーーと思っていたのは、通り過ぎる瞬間までだったらしい。
それでも、その後もひまりは、無事にやり過ごせたと思ってホッとして、そのまま学園の方へ戻っていったのだった。
まさか、すれ違った瞬間、
「……へぇ。外出る時はそっちなのか。」
僅かに振り返られ、そんなふうに呟かれているなどとは、思いも寄らず。
「…ん、三郎?どうかしたのか?」
呟いた方の、鉢屋三郎にその横を歩く久々知兵助がキョトンとした顔で声をかけると。
「いや?何でもないよ。」
彼は何事もなかったように、パッと隣の同級生を振り返った。
「じゃあ、急ごう。早くしないと限定のお豆腐、売り切れちゃうよ!」
「あー分かった、分かった…。ほんと兵助ってば、豆腐が好きなんだから。」
今にも走り出しそうな彼に、合わせるように鉢屋三郎も、呆れ笑いを浮かべつつほんの少し歩くスピードを上げたのだった。