そのうすべに色を隠して。
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※流血あり。
「な…何だ、こいつら…?!」
頭から血を流し、尻餅をつきながら後ずさる忍者の一人を瞳で捉えたまま、小平太が一歩ずつ歩みを詰める。
「おい。先に死にたい奴から来いよ。」
「一人とて、取り逃しはしない…」
眉一つ動かさない表情で苦無を取り出す彼の隣で、縄鏢を手元で振り回しながら口の端を上げる長次も同じように狙い定めていた。
その少し離れた場所で、次々に敵を倒していく与四郎が怒りを顕に叫ぶ。
「絶ってぇ許さねえ…おめぇら全員、生きて帰れると思うな!!ーーーーーーーーーー…仙蔵?」
与四郎の背後に迫っていた敵を斬り伏した仙蔵は、振り返って、
「冷静さを失うな。戦闘集団期待のエースの名が廃れるぞ?」
と口角を上げてみせる。
背中合わせになりながら、「そんな二つ名は持ってねーだよ…」と返す与四郎への相槌もそこそこに、彼はまた、普段から仲の悪い二人組に向けても声をかける。
「お前たち、今日は意見が合致してもいいぞ。私はこの頃、悪天候でも点火する火器を研究していてな、そろそろ試し打ちをしたいと思っていた所だ。」
そして丁度顔の同じ所に同じだけの返り血を浴びている文次郎と留三郎が、お互い顔を見合わせた。
「…だってよ、留。」
「ああ、文次。なら思う存分、仲良く暴れようじゃねぇか?」
年端もゆかぬと見くびる勿れ。
我らは忍。
時に、目的完遂のためならばどんな手を使うことも躊躇わず。
大恩ある学び舎に、そして、何より大事な仲間に、仇なす存在を一人残らず殲滅するまで。
心は鋼に徹す。
守りたいものは (四)
学園の遠く外で、敵方の数多の命が潰える中。
伊作は、医務室にある書物の中から何度か取り出しては開き、を繰り返し。やがて、頁をめくるその指が止まった。
「……見つけた、これだ。」
そして、薬研や鉢などを準備させていた乱太郎に声をかける。保健委員のサポートに、伊作は乱太郎だけを呼んでいた。
「乱太郎、陽太の頭巾を外して。」
学園に着いた直後までは、陽太の正体を知らない人間の目に触れる恐れがあったため戻させていた覆面を、取るように指示する。乱太郎が振り返って、目を見張った。
「えっ……よろしいのですか?」
「早く。」
伊作は、薬棚の薬草を抽斗ごと取り出しながら。
有無を待たないその声に、乱太郎は急いで従う。
陽太を寝かせた布団の側に膝をつき、頭巾をずらすと。隙間から彼女の素顔を見て思わず伊作の方を見上げたが、すぐ思い直したのか、何も言わないまま頭巾を完全に取り払った。
静かな部屋に、薬を調合する音と、時々飛ぶ短い指示だけの時間が流れる。
やがて液体状の解毒剤は完成したものの、それを意識の無い彼女に飲ませることは容易ではなかった。
体を起こさせ、支えながらまず少量を試そうとしたが、やはり上手く飲み込むことができず咳と共に吐き出してしまった。
早く飲ませなければ、彼女を助けられない。
伊作は薬の入った器に手を伸ばしかけて、
…一瞬、躊躇う。
早くしないといけない。分かっている。…でも、……
青白い、苦しそうな顔を見つめた。
ーーーーーーーーーー『……伊作にだったら、別に…嫌とか思わない、よ。』
支えていた彼女の肩をギュッと握る。
死なせるものか。絶対に。
薬を煽り、自分の口に含んで。
少し開けさせた小さな唇に、自身の唇を合わせる。
ーーーーーーーーーーひまり。
僕、君に嫌われてもいいよ。
こんな酷いことをと罵られても、一生軽蔑されても、それでも構わない。
だから、死なないで。どうか目を覚まして。……お願いだよ。ーーーーーーーーーー
合わせた唇から、彼女の体温の低さを知る。
おこがましくも自分の熱が、少しでも移るように、そうして彼女の命を繋ぎ止めるように。
そう願いながら。薬を少しずつ、流し込んでいく。
やがて。こくり、と彼女の喉が鳴った。
笑った顔。
私を思って怒ってくれる顔。
誰かのために心を痛めて悲しむ顔。
実技がうまくいかなくて悔しそうな顔。
からかった時に照れる顔。
友達皆でふざけあう時には、一緒になって楽しそうに。
その声も、薬草を丁寧に摘む指も。
忍として致命的な優しい眼差しも。
本当はね。ぜんぶ、好き。
泣きたくなるほど、あなたが好きだよ。
ごめんね。ずっと、言えない意気地無しで。
でも、その方が良かったのかもしれない。
だってそんなの、困るでしょう?
私はこれから死んでしまうのに。
私の気持ちは伝えられないけど、私はせめて、最期の最期まで、あなたのことを忘れたくないから。動かない手を伸ばして、音にならない声で呼ぶ。
ねえ、伊作。
最期に、ほんの少しでいい。
君の声が聞きたい。
夢の中で自分が泣いていた、ように思うのに。
次に目を覚ました時、目元は濡れていなかった。
自分が居るのが書物に聞くあの世だとか三途の川だとかではなく、嗅ぎ慣れた、薬のにおいがする部屋で。
「……先輩?」
たっぷり、瞬き五つ分、くらいだろうか。
寝かされていたそこが医務室の更に奥の部屋だと分かり、自分を覗き込んでいるのが乱太郎だと分かり、……その後で、自分が頭巾の覆面をしていないことに気付くまで。
「ごめんなさい、薬を飲んでいただかないといけなかったので…外させてもらいました。」
眉尻を下げて謝る乱太郎は、それから、おずおずと。
「…あの、……陽太先輩、で、いいんですよね?」
忍の男に破られたはずのインナーや晒は、新しいものを身につけさせられていた。多分、伊作だろうと見当付けながら。
「バレてしまったな。」
陽太は、バツが悪そうに素顔で照れ笑いした。
自分が目を覚ますより前からずっと、乱太郎が一人で付きっきりの看病をしてくれていたことを陽太は知った。布団の上で体を起こして座ったまま、目を覚ますまでの間のことを聞く。
今回の敵のこと。学園内外での攻防のこと。学園関係者も、陽太の実家の家族も全員、無事だということ。加勢したタソガレドキ忍軍も然りであること。
そして、その日から一日以上経っていること。学園は既に元の日常が戻ってきていること。
上町陽太は数日間、この、普段の医務室と障子で隔てられている奥の部屋に入院しなければならないこと。加えて、看病担当となった乱太郎以外とは"面会謝絶"であること。……
全て、「そうか」とか、「良かった」と短い相槌で答えていた陽太は。
ふと、自分の方から切り出してみる。
「……私のこと、何も訊いたりしないのか?」
乱太郎は、今度は優しく微笑んだ。
「最初はびっくりしました。でも、陽太先輩は、陽太先輩ですから。」
「…そうか。」
陽太も、漸く緊張の解れた顔で微笑み返した。
「そういえば、前に言ってた宿題はできたのか?」
「それが…ぜーんぜん、できませんでしたぁ。」
「…すまなかったな。教えると、約束していたのに。」
「いえ、私たちが宿題できないのはいつものことですから。」
「おいおい、そろそろ進級だろう?あまり土井先生たちを困らせるなよ?」
苦笑していた、その表情が沈む。
「…先輩面できるような立場じゃないか、私も。」
気遣うように、乱太郎がその手を握る。
「陽太先輩が、ご無事で良かったです。」
その温かい、自分より少し小さな両手を陽太は、なるべく力を弱く、けれどもはっきりと押し返す。
「周りに散々迷惑をかけた。自分が心底情けないよ。」
「そんな、先輩は何も悪くないのに…。」
「全て、私の甘さと力不足のせいだ。」
「誰もそんなこと、思ってません!」
「言い訳したくないんだ。弱いのであれば私は、強くならなきゃいけない。お願いだから、慰めないでくれ。」
「……。」
俯き、押し黙ってしまった乱太郎の頭をそっと撫でる。
「…けど、…ありがとう。」
乱太郎は、泣きそうだったからなのか、それとも照れてしまったからなのか、少し鼻先を赤らめていたけれども、陽太に向けて小さな笑顔を見せた。
その顔が、また伺うように少しだけ俯きかける。
「あの、陽太先輩。実は、」
「失礼しまーす!」
面会謝絶であるはずの障子が唐突に、止める間もなく引かれた。
立っていたきり丸としんべヱが、白湯とお粥を載せた盆を抱えたまま陽太を見て笑顔になる。
「あっ!陽太先輩、起きたんスか?良かったあ!」
「というか、乱太郎ずるーい!僕も陽太先輩とお話したいってずっと思ってたのにぃ!」
数回瞬きの後、陽太は乱太郎を振り返って、手招きした。
「……乱太郎、ちょっとこっちに来な?」
「あ、その……はい…」
そー…っと気付かれない内に後ずさろうとしていた彼だが、ニッコリ笑う先輩の圧に負けて指示通りに布団の上の、陽太の横に座らされる。
「面会謝絶のはずだが、私の正体、何でこの二人も知ってるんだ?」
「あの、その、わ、私隠し事が苦手で……で、でも!二人以外には喋ったりしてません!本当です!」
それを聞いた陽太は眉間を押さえ、呆れたように深いため息をつく。
「全く、忍者を目指す者が隠し事が苦手でどうする。……それ!お仕置きだっ!」
「わあぁ?!ひ、陽太せんぱ、くす、くすぐった……あはははっ!」
あとの二人も、盆を置いて"お仕置き"のくすぐりっこに加わってきた。
「僕も!えーいっ!」
「俺もー!」
「ひゃあああやめてぇあはは…ッ」
…後に、陽太が病み上がりであることと、静かにしなければいけない医務室で騒いだことと、二つの理由で校医の新野洋一に怒られる四人であった。
「な…何だ、こいつら…?!」
頭から血を流し、尻餅をつきながら後ずさる忍者の一人を瞳で捉えたまま、小平太が一歩ずつ歩みを詰める。
「おい。先に死にたい奴から来いよ。」
「一人とて、取り逃しはしない…」
眉一つ動かさない表情で苦無を取り出す彼の隣で、縄鏢を手元で振り回しながら口の端を上げる長次も同じように狙い定めていた。
その少し離れた場所で、次々に敵を倒していく与四郎が怒りを顕に叫ぶ。
「絶ってぇ許さねえ…おめぇら全員、生きて帰れると思うな!!ーーーーーーーーーー…仙蔵?」
与四郎の背後に迫っていた敵を斬り伏した仙蔵は、振り返って、
「冷静さを失うな。戦闘集団期待のエースの名が廃れるぞ?」
と口角を上げてみせる。
背中合わせになりながら、「そんな二つ名は持ってねーだよ…」と返す与四郎への相槌もそこそこに、彼はまた、普段から仲の悪い二人組に向けても声をかける。
「お前たち、今日は意見が合致してもいいぞ。私はこの頃、悪天候でも点火する火器を研究していてな、そろそろ試し打ちをしたいと思っていた所だ。」
そして丁度顔の同じ所に同じだけの返り血を浴びている文次郎と留三郎が、お互い顔を見合わせた。
「…だってよ、留。」
「ああ、文次。なら思う存分、仲良く暴れようじゃねぇか?」
年端もゆかぬと見くびる勿れ。
我らは忍。
時に、目的完遂のためならばどんな手を使うことも躊躇わず。
大恩ある学び舎に、そして、何より大事な仲間に、仇なす存在を一人残らず殲滅するまで。
心は鋼に徹す。
守りたいものは (四)
学園の遠く外で、敵方の数多の命が潰える中。
伊作は、医務室にある書物の中から何度か取り出しては開き、を繰り返し。やがて、頁をめくるその指が止まった。
「……見つけた、これだ。」
そして、薬研や鉢などを準備させていた乱太郎に声をかける。保健委員のサポートに、伊作は乱太郎だけを呼んでいた。
「乱太郎、陽太の頭巾を外して。」
学園に着いた直後までは、陽太の正体を知らない人間の目に触れる恐れがあったため戻させていた覆面を、取るように指示する。乱太郎が振り返って、目を見張った。
「えっ……よろしいのですか?」
「早く。」
伊作は、薬棚の薬草を抽斗ごと取り出しながら。
有無を待たないその声に、乱太郎は急いで従う。
陽太を寝かせた布団の側に膝をつき、頭巾をずらすと。隙間から彼女の素顔を見て思わず伊作の方を見上げたが、すぐ思い直したのか、何も言わないまま頭巾を完全に取り払った。
静かな部屋に、薬を調合する音と、時々飛ぶ短い指示だけの時間が流れる。
やがて液体状の解毒剤は完成したものの、それを意識の無い彼女に飲ませることは容易ではなかった。
体を起こさせ、支えながらまず少量を試そうとしたが、やはり上手く飲み込むことができず咳と共に吐き出してしまった。
早く飲ませなければ、彼女を助けられない。
伊作は薬の入った器に手を伸ばしかけて、
…一瞬、躊躇う。
早くしないといけない。分かっている。…でも、……
青白い、苦しそうな顔を見つめた。
ーーーーーーーーーー『……伊作にだったら、別に…嫌とか思わない、よ。』
支えていた彼女の肩をギュッと握る。
死なせるものか。絶対に。
薬を煽り、自分の口に含んで。
少し開けさせた小さな唇に、自身の唇を合わせる。
ーーーーーーーーーーひまり。
僕、君に嫌われてもいいよ。
こんな酷いことをと罵られても、一生軽蔑されても、それでも構わない。
だから、死なないで。どうか目を覚まして。……お願いだよ。ーーーーーーーーーー
合わせた唇から、彼女の体温の低さを知る。
おこがましくも自分の熱が、少しでも移るように、そうして彼女の命を繋ぎ止めるように。
そう願いながら。薬を少しずつ、流し込んでいく。
やがて。こくり、と彼女の喉が鳴った。
笑った顔。
私を思って怒ってくれる顔。
誰かのために心を痛めて悲しむ顔。
実技がうまくいかなくて悔しそうな顔。
からかった時に照れる顔。
友達皆でふざけあう時には、一緒になって楽しそうに。
その声も、薬草を丁寧に摘む指も。
忍として致命的な優しい眼差しも。
本当はね。ぜんぶ、好き。
泣きたくなるほど、あなたが好きだよ。
ごめんね。ずっと、言えない意気地無しで。
でも、その方が良かったのかもしれない。
だってそんなの、困るでしょう?
私はこれから死んでしまうのに。
私の気持ちは伝えられないけど、私はせめて、最期の最期まで、あなたのことを忘れたくないから。動かない手を伸ばして、音にならない声で呼ぶ。
ねえ、伊作。
最期に、ほんの少しでいい。
君の声が聞きたい。
夢の中で自分が泣いていた、ように思うのに。
次に目を覚ました時、目元は濡れていなかった。
自分が居るのが書物に聞くあの世だとか三途の川だとかではなく、嗅ぎ慣れた、薬のにおいがする部屋で。
「……先輩?」
たっぷり、瞬き五つ分、くらいだろうか。
寝かされていたそこが医務室の更に奥の部屋だと分かり、自分を覗き込んでいるのが乱太郎だと分かり、……その後で、自分が頭巾の覆面をしていないことに気付くまで。
「ごめんなさい、薬を飲んでいただかないといけなかったので…外させてもらいました。」
眉尻を下げて謝る乱太郎は、それから、おずおずと。
「…あの、……陽太先輩、で、いいんですよね?」
忍の男に破られたはずのインナーや晒は、新しいものを身につけさせられていた。多分、伊作だろうと見当付けながら。
「バレてしまったな。」
陽太は、バツが悪そうに素顔で照れ笑いした。
自分が目を覚ますより前からずっと、乱太郎が一人で付きっきりの看病をしてくれていたことを陽太は知った。布団の上で体を起こして座ったまま、目を覚ますまでの間のことを聞く。
今回の敵のこと。学園内外での攻防のこと。学園関係者も、陽太の実家の家族も全員、無事だということ。加勢したタソガレドキ忍軍も然りであること。
そして、その日から一日以上経っていること。学園は既に元の日常が戻ってきていること。
上町陽太は数日間、この、普段の医務室と障子で隔てられている奥の部屋に入院しなければならないこと。加えて、看病担当となった乱太郎以外とは"面会謝絶"であること。……
全て、「そうか」とか、「良かった」と短い相槌で答えていた陽太は。
ふと、自分の方から切り出してみる。
「……私のこと、何も訊いたりしないのか?」
乱太郎は、今度は優しく微笑んだ。
「最初はびっくりしました。でも、陽太先輩は、陽太先輩ですから。」
「…そうか。」
陽太も、漸く緊張の解れた顔で微笑み返した。
「そういえば、前に言ってた宿題はできたのか?」
「それが…ぜーんぜん、できませんでしたぁ。」
「…すまなかったな。教えると、約束していたのに。」
「いえ、私たちが宿題できないのはいつものことですから。」
「おいおい、そろそろ進級だろう?あまり土井先生たちを困らせるなよ?」
苦笑していた、その表情が沈む。
「…先輩面できるような立場じゃないか、私も。」
気遣うように、乱太郎がその手を握る。
「陽太先輩が、ご無事で良かったです。」
その温かい、自分より少し小さな両手を陽太は、なるべく力を弱く、けれどもはっきりと押し返す。
「周りに散々迷惑をかけた。自分が心底情けないよ。」
「そんな、先輩は何も悪くないのに…。」
「全て、私の甘さと力不足のせいだ。」
「誰もそんなこと、思ってません!」
「言い訳したくないんだ。弱いのであれば私は、強くならなきゃいけない。お願いだから、慰めないでくれ。」
「……。」
俯き、押し黙ってしまった乱太郎の頭をそっと撫でる。
「…けど、…ありがとう。」
乱太郎は、泣きそうだったからなのか、それとも照れてしまったからなのか、少し鼻先を赤らめていたけれども、陽太に向けて小さな笑顔を見せた。
その顔が、また伺うように少しだけ俯きかける。
「あの、陽太先輩。実は、」
「失礼しまーす!」
面会謝絶であるはずの障子が唐突に、止める間もなく引かれた。
立っていたきり丸としんべヱが、白湯とお粥を載せた盆を抱えたまま陽太を見て笑顔になる。
「あっ!陽太先輩、起きたんスか?良かったあ!」
「というか、乱太郎ずるーい!僕も陽太先輩とお話したいってずっと思ってたのにぃ!」
数回瞬きの後、陽太は乱太郎を振り返って、手招きした。
「……乱太郎、ちょっとこっちに来な?」
「あ、その……はい…」
そー…っと気付かれない内に後ずさろうとしていた彼だが、ニッコリ笑う先輩の圧に負けて指示通りに布団の上の、陽太の横に座らされる。
「面会謝絶のはずだが、私の正体、何でこの二人も知ってるんだ?」
「あの、その、わ、私隠し事が苦手で……で、でも!二人以外には喋ったりしてません!本当です!」
それを聞いた陽太は眉間を押さえ、呆れたように深いため息をつく。
「全く、忍者を目指す者が隠し事が苦手でどうする。……それ!お仕置きだっ!」
「わあぁ?!ひ、陽太せんぱ、くす、くすぐった……あはははっ!」
あとの二人も、盆を置いて"お仕置き"のくすぐりっこに加わってきた。
「僕も!えーいっ!」
「俺もー!」
「ひゃあああやめてぇあはは…ッ」
…後に、陽太が病み上がりであることと、静かにしなければいけない医務室で騒いだことと、二つの理由で校医の新野洋一に怒られる四人であった。