そのうすべに色を隠して。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はあ?陽太?凶暴だしガサツだし短気だし、おまけに生意気で人のことすぐ馬鹿にしてくるしよ。」
「でも、居なかったら居ないで味気ねえんだろうな、きっと。なあ文次郎?」
「もどかしくもあるが、見ていて面白くはあるしな。」
「表立って出さなくとも、とても優しい所もある。もそ…」
「あいつの居ない六年間なんて考えられないぞ!だって、」
「僕たちにとって大事な友達、…だからね。」
守りたいものは (一)
インタビューのマイク(に見立てた、でっかいつくし)を向けられた、忍術学園最高学年の六人それぞれが出すコメントに、インタビュアーの乱太郎、きり丸、しんべヱは
「…なるほどー。」
と大きく頷いた。留三郎が、ふと思いついたように口を開く。
「でもこれ、今度出す壁新聞の記事にするんだろ?あいつ、このこと知ってるのか?」
「いえ、まだお話してなくて…。やっぱり、ご本人に先に許可取った方が良いですか?『特集・上町陽太を追え!』。」
仙蔵は思案顔で、顎に指を添えて言う。
「注目されるのは嫌がるだろうな。大々的にじゃなく、隅の目立たないスペースに使うのでは駄目なのか?」
「それが…むしろ今回それで特集組むことになっちゃいまして。たくさんの生徒の希望で。」
あー……と、複数の納得したような声がハモった。小平太が頭の後ろで手を組んで、思い出すように宙に視線を移す。
「陽太のやつ、こないだのサッカー勝負の件ですっかり有名人になってしまったもんなあ。」
「もそ。そのせいか最近は、外で読書をしなくなったらしい。」
「尤も、話題になるより前から『学園一模範的な忍者』、なんて呼ばれたりしてたけどな。」
「けどそれは常に覆面しているからだったろ。別に実力が無いとは言わねえけどよ…」
「そこまで取り立てて噂にされることは、今まで無かったよね。」
口々に発言する彼ら六年生に、きり丸はおずおずと訊く。
「僕ら、もしかして上町先輩に怒られちゃいますかね…?」
「仕方ない、私が掲載を許可する。」
「お前が許可してどうすんだよ!」
「なら文次郎、お前が陽太に載せてもいいかどうか訊け。」
「何で俺が!」
仙蔵と文次郎が言い合う途中、何気なく別の方向を見ていたらしい小平太が気付いたように声を上げる。
「あっ、マズい。陽太がこっちに来るぞ。」
「おっと。では仕方ない、インタビューは一旦中止だな。」
「お前たち、壁新聞のことはくれぐれも本人にバレるんじゃないぞ?……つーことで、伊作、後は頼む。」
留三郎に肩を叩かれた伊作が戸惑った表情になる。
「え…頼むって、皆どこ行くの?」
そうこうしているうちに、伊作以外の五人はさっさと立ち去ってしまい、後に残された伊作は近くまで来ていた陽太に声をかける。
「お、おかえり陽太。昨日は、けっこう遠くまで行ってたんだね。お疲れ様。」
『どうかした?』
「いや、何でもないよ。」
「上町先輩、どちらかへお出かけだったんですか?」
「面接だよ。就活の。」
乱太郎の質問に代わりに答えてくれた伊作に、ね?と振り返られて、コク、と頷く陽太。するとしんべヱが飛びつくようにやって来た。
「先輩〜、お土産のお饅頭くださあい!」
「しんべヱったら!上町先輩はご旅行に出かけられた訳じゃ、…え?本当にあるんですか?!」
「えーと…『こわい饅頭』?どこで売ってんスかこれ…」
「おいしーい!」
「食うのはえーよ!」
「もー、私たちの分も残しといてよ!」
わちゃわちゃと饅頭を取り合う三人。陽太が微笑ましそうに彼らを見守っているのを、伊作はつい横から盗み見てしまっていた。
そこに、事務員の小松田秀作が手を振りながら歩いてきた。
「上町くーん、君宛に文が送られてきたよお。差出人は書いてないんだけど。」
『ありがとうございます』
テンプレのページを開いて、手紙を受け取ると、小松田がにっこり笑った。
「どういたしまして。あ、乱太郎君きり丸君しんべヱ君、今度特集組むんでしょー?楽しみにしてるよ!」
「あわわ、小松田さん、しーっ!」
これ以上ボロが出ないように、と伊作は小松田の腕を両手で掴んだ。
「あーあの!小松田さん!ちょっと大事な用事があるのでこちらに来て頂けますかっ?」
「え、善法寺君急にどうしたの?うわぁあちょっと、僕用事なんて何も…」
後に残された乱太郎たちを、陽太がじーっ…と問うように見つめる。何の話だ?と。
「な、何でもありません…!あの、いえホント、なにも…」
「あ!そうだ俺たち宿題で分からないところあるんだった、なあ乱太郎!」
「そ…そうでしたそうでした!上町先輩、もしお時間あれば教えていただけませんかっ?明日提出しないと、補習授業受けさせられちゃうんです…!」
「これ以上補習受けたら、僕、疲労で痩せ細っちゃいそうなんですぅ…!」
何とか話を逸らそうとしているのがバレバレだが、宿題のこともまあ嘘ではあるまい。必死な顔の三人を見てると陽太は内心可笑しかったが、何とか笑いを堪えて、『いいよ』と書いて見せる。目に見えて、彼らの表情がホッとした。
「じゃあ、宿題を取りに一旦俺たちの部屋に戻ろうぜ!」
「そうだね!先輩、後で長屋の方にお伺いしますので!」
部屋に来られるのはマズい。というより、男子の忍たま長屋に陽太の部屋が"無い"ことに気付かれるのは困る、ということで陽太は自室に戻ろうとした乱太郎の腕を掴んで引き止めた。
そして手帳の新しいページに、『私がお前たちの部屋に行くから、待っていなさい』と書きつけて、見せた。
「えっ、でも…」
遠慮するような顔に、気にするな、という意味で頭を軽く叩く。
そして自室が六年生の長屋にあるフリで、その方角に先に立って歩いて向かった。
しばらく歩いていき、立ち止まって三人に自分の姿が見えなくなったか振り返って確かめる。実際には自室があるわけではないので、適当に時間をずらして行こうと考えた時、そういえばと懐に入れていた手紙の存在をふと思い出した。
差出人の記載が無い、綺麗に畳まれたそれを開いて目を通し始め。
その間、周囲に生徒や教職員の姿は無く。
彼女のすぐそばを静かな風が通り過ぎる。
やがて、眉一つ微動だにせず、手紙を開いていた手はそのまま目の前の紙を細かく裂いていく。
風が遊ぶように攫おうとも、彼女がそれらに目を向けることは最早なく。
その足は、学園の目立たない裏門へと向かっていった。
「よーし、今日こそ上町先輩を捕まえような、八左ヱ門!」
「ああ!どっちが捕まえても恨みっこナシだからな、兵助!」
「二人共、相変わらず追っかけてるんだね。…で、その上町先輩はどこに?」
「会う約束でもしてるのかい?」
「何を言ってるんだ勘右衛門、雷蔵。約束なんてしてるわけないだろう、だからこれから探しに行くんじゃないか。」
「大体の見当はついてるさ。いつもどこかの木陰で読書なさっているからな。」
「…それを毎度毎度邪魔してたってこと?よく今まで怒られなかったな…。」
「へえー、優しいんだねえ、上町先輩って。中在家先輩みたい。」
「え?」
「ん?」
長屋の廊下を歩きながら、しんべヱが隣の乱太郎ときり丸を振り返る。
「ねー、やっぱり緊張するね……六年生の長屋に行くのって。」
「私は伊作先輩のお部屋で保健委員の包帯巻きの仕事をするから、たまに来るけど。」
「何で医務室でやらないんだ?」
「学園長先生が時々、お昼寝しに来られるんだよね…。」
「あ、それ僕聞いたことある。突然の思いつきが浮かばないから、寝てリフレッシュしたいんだって。」
「うわー、迷惑な話だぜ!」
つい話が盛り上がりかけた時、留三郎が自室から出てきて叱った。
「こらっ、お前たち廊下で騒ぐんじゃない!」
「わあ食満先輩!ごめんなさい!」
「どうしたんだ?こんな所にまで来て。」
「お忙しいところすみません、上町先輩のお部屋ってどちらですか?」
「陽太?……何か用事か?」
「上町先輩に、宿題の分からないところを教えて頂くお約束をしてたんですけど……」
「先輩が僕たちの部屋に行くって仰ったんスけど、いらっしゃらなかったので。それで僕たち、こっちに…。」
「いつ、約束したんだ?」
「えっと、半刻ほど前です。」
乱太郎やきり丸の返答を受けて、留三郎が思案する。
ーーーーーーー待たせるにしても、時間が経ち過ぎている。
宿題を教えるだけなのだから、何か準備が必要なわけもないだろうに。
「その前にどこかに出かける用事があった……は、無いか。」
「無いと思います、そうは仰ってませんでしたし。」
「だよなあ…。あ、仙蔵。」
「どうした、留三郎?」
「陽太を見なかったか?あいつ、この三人に宿題を教えに行くと約束したらしいんだが、半刻経っても来なかったらしいんだよ。」
その場にたまたま通りがかった仙蔵は、ーーーーーーー瞬き一つ分で察して口裏を合わせてくる。
「…さっき前を通ったが、部屋にはいなかったぞ。何か他の急用ができたのではないか?」
「だとしても、乱太郎たちの約束の方が先だろうに。」
「あ、でもっ、お忙しいんでしたら私たちは…」
遠慮しようとした乱太郎たちに、留三郎は頑として首を振る。
「いや、そうはいかん。用事ができたらできたで、一言行けなくなったと伝えるべきだ。よしお前たち、ちょっとここで待ってろ。後輩待たせんなって、俺が首根っこ捕まえて連れてきてやるから。」
「あ、はい…。」
戸惑いつつも頷く彼らを置いて、留三郎は仙蔵と共に早足気味に歩いていく。
しばらく行った先で、仙蔵が呟く。
「……まあ、本当にただの急用の可能性もあるが。」
「一応、部屋まで見に行くか?」
「くの一の敷地に?いまだに学習しない小平太じゃあるまいし。」
「いや、お前が女装すればバレずに入れるじゃねえか。」
「馬鹿言うな、こんな些細なことで女装するほど私は暇じゃない。」
「…お前、ひまりと出かけるのに女装する時、嬉しそうなくせにな。」
「なっ……!」
眉根を寄せる仙蔵が何か言い返そうとした瞬間、二人のすぐそばに降り立つ人物がいた。
「よっ、仙蔵!留三郎!いさしかぶり!」
「与四郎?!いさしかぶり、ってお前…こないだ来たばっかりなのにまたもう来たのか?」
「へっ、ひまりの近くにおめーらがいると思うと、なげーこと留守になんかできねーだよ。手ェ出してねーだろうな?」
「あのなあ、最初から出してねえっつってんのに…。」
「ところでよー、ひまり、どっか出かけてんのか?」
マイペースな奴め…と心の中で舌打ちする留三郎の横で、仙蔵が肩をすくめる。
「いや、それは私たちの方が訊きたいくらいなのだが…。」
「俺、さっき屋根裏から部屋覗いて見たんだけどよ、居なかったイテッ!」
留三郎の手刀が与四郎の脳天に振り落とされた。
「男子禁制区域に堂々と忍び込んでんじゃねえよお前は!」
「学習しない奴・2号機か。追尾機能搭載型の。」
「仙蔵、冗談言ってるバヤイじゃないぞ。あいつ、乱太郎たちとの約束もほっぽり出して、ホントにどこ行きやがったんだ?」
「まあ待て、外出してるとは限らん。小松田さんに聞けば、届け出を提出してるかどうか分かるはずだ。」
「あ…小松田さんといえば俺さっき、入門票にサインせずに入っちまっただぁよ。やっぱマズかったかな?」
「え、正門から入ったんだろ?小松田さん居なかったのか?」
「んー、しばらく待ってはみたんだけどよ。来ねえから、俺も早くひまりに会いたかったし、そのまま入っちまった。」
「小松田さーん!ここに侵入者がいますよー!」
「早く捕まえて追い出してくださーい!」
「おい!俺は侵入者じゃねーだよ…!」
何だかんだと言い合いつつ、三人で揃って小松田の行方を探し始めた。
「むむ、また侵入者の気配!今度はこっちか!逃がさないぞ〜っ!!」
あっちこっちと、入門票を手に走り去っていくその背中を伊作は見送り、
「小松田さんも大変だなあ…。」
と苦笑した。
そこへ、敵意の無い、大きな影が近くに降り立つ。
「久しぶりだね。というか、こないだのインターンから一週間も経ってないけどね。」
「あっ、あなたは!」
振り返った伊作は、お決まりの台詞を言う時のような、やや棒読み混じりの驚きの声で。
「タコ」「ガレドキ」
「…城忍組頭の、ちょ」「っ渡昆奈門」
「…さん、こんにちは!」
彼の台詞に訂正を被らせた雑渡昆奈門は、肩をすくめて見せる。
「伊作君ねぇ、流石にわざとやってるでしょ?それ。」
「いやぁ、これもお約束なんで。」
「誰とのお約束?まあ、いいんだけどね、ウチの忍者隊が居ない時限定にしといてよ。一応、周りに示しがつかないから。」
「はい、すみません。…あれ?雑渡さん、小松田さんに見つからずに入って来られたんですか?」
「うん。そういえば、今日はえらく走り回ってるみたいだねえ、彼。そんなに大勢侵入されて大丈夫なの?忍術学園は。」
「あはは……その侵入者の一人である雑渡さんに言われたらぐうの音も出ないですね…。」
乾いた笑いの伊作に、雑渡昆奈門は思い出したように言う。
「ところで、最近元気?伊作君の恋人。」
「ざ、雑渡さん!恋人じゃないですってば…!」
「あれ、まだ付き合ってなかったの?早く告らないと私が奪っちゃうよ?」
「ええっ?!う、奪うって、何でそうなるんですか……というか、駄目です!雑渡さんみたいな大人の人に僕が敵うわけないじゃないですか…!」
「えー伊作君、彼女のこと信用してないのォ?」
「いや、信用とかそういう問題じゃなくて……!」
「いずれにせよ彼女、あれだけ美人なんだから。私でなくとも、誰にいつ横取りされても不思議じゃないよ。……で、一体誰の事を言っているのかな?」
「え、えぇええええ?!?!」
語るに落ちる、とはこのことだろう。
恋人じゃないと言いつつ、『駄目です!』なんて。"彼女"への想い故の焦りがダダ漏れなことにきっと本人は気付いていまい。そう思うと、雑渡昆奈門は可笑しくて仕方が無かった。
「ーーーーーーー組頭、あまりからかいすぎて伊作君のヘソ曲げないで下さいね。他の城の面接に行かれては困ります。」
「陣左か。ただのコミュニケーションだよ、上司と部下としてのね。」
二人の側に降り立った、タソガレドキ忍軍の高坂陣内左衛門が呆れた目を向ける。
「インターンに来てもらっただけで、まだ部下じゃないでしょうに…。伊作君、すまないな。」
「ああ、いえ。…ところで、珍しいですね。高坂さんも雑渡さんと一緒にいらしてたなんて。」
「いや、私は偵察に出ていたんだ。組頭がこちらにいらっしゃると聞いて、報告に来ただけだよ。」
「そうだったんですね。」
それを聞いて、伊作はさりげなく二人と距離を取った。タソガレドキの忍者でもない自分が城の機密を聞いてしまうのを遠慮してのことだ。勿論、周りに聞こえないように耳打ちでの報告にはなるだろうけれど。と、思っていると「伊作君、」と雑渡昆奈門に手招きされた。
「君も、聞いておいた方が良さそうだ。"彼女"に関わることのようだからね。」
だから恋人じゃなくて……と、言いかけて呼称が"彼女"なことに気付く。まどろっこしいなと、「…陽太が、どうしたんですか?」とささやかな抗議の意も込めて男装の方の名前を出して訊くと。
彼は、こんなことを言った。
「伊作君。もしかして"彼女"、今、忍術学園に居ないんじゃないの?」
その台詞が紡がれるのに合わせるように。
少し強い風が、足元の木の葉を巻き込んで彼らのそばを通り過ぎていった。