そのうすべに色を隠して。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※各自エピソード編、第五回目
※仙蔵視点
※二年生回想
※仙蔵に彼女(登場無し)いる設定あります
あいつの隣に、君はいる。其ノ伍
『その温もりはただ一つ』
急に冷え込みが強くなった、冬の初め。
医務室の障子を開けて中をそっと伺ってきた、見知った同い年のくのたまに。私は、熱で重たい頭をそちらに向けて、せいぜいいつもと変わらない調子で言ってやる。枕の上から。
「……まあ、ナントカは風邪を引かない、というのが証明されたというわけだ。」
「はいはい。思ったより元気そうで。」
「元気なわけあるか、アホ。」
ひまりは少し笑って、小さい土鍋と器を乗せたお盆を抱えたまま中に入り、障子を閉める。
「でも珍しいよね、風邪ひくなんて。」
「珍しくはない。…私はな。」
元々あまり体は丈夫な方ではない。去年はたまたま病気にならなかっただけで、忍術学園に入学する前はこの季節になると決まって風邪をひいていた。
「まあ、確かに小平太や文次郎よりかはひきそう、って感じだもんね。」
「うるさい…」
「あはは、ごめんごめん。ところで、食堂のおばちゃんにお粥作ってもらったんだけど、食べる?今お腹空いてる?」
喋るのが億劫で、返事の代わりに、布団の上に手をついて上体を起こしているとひまりは、布団のすぐそばまで来て座り、お盆を脇に置いた。
土鍋の蓋を開け、湯気の立つお粥をレンゲで掬って器に何度か盛ってくれた。
「薬飲まなきゃ、だもんね。…これくらいでいい?」
コク、と頷いてレンゲと共に器を受け取る。お粥には梅干しが入っていた。
「いただきます。」
少し掬って、冷ましてから口に運ぶ。レンゲの底の方にある分がまだ若干熱かったが、口の中で撹拌するように冷ましながら、ほんの少し咀嚼して飲み込む。
「全部食べられなかったら、残してもいいからねって。おばちゃんが。」
いつになく気味が悪いほど優しい、その声。
しばらく黙って食べていたが、ふとひまりの顔を振り返る。
「…そういえば、何で、お前が見舞いに?」
「何でって、伊作が外出中だから……ああ、えっと、あの子なら今日はどうしても外せない用事があって、それで…。」
あの子、というのはひまりと同じくの一教室の、今私が付き合っているくのたまのことだ。
一瞬流れた気まずい空気を無かったことにしようとするかのように「早く良くなるといいね」と、笑ってみせるひまり。
………下手くそめ。
「……すまん、ここまでだ。」
盛られた分だけ完食して、器の淵にレンゲの柄を置き、ごちそうさまと呟く。空の器を受け取ったひまりは、土鍋の側にそれを置いた。
「薬、そこに置いてるやつ?」
「自分でやる。」
「あ、うん。…白湯、新しいの貰って来ようか?」
「いい。」
今朝別の保健委員に持って来てもらっていた、とっくに冷めてしまっている白湯で苦い薬を流し込む。一瞬ゾワリとしたが、布団をかぶって寝てしまえば忘れるだろう。そう思って、再び横になった。
でも、熱のせいか、布団にぴっちり包まれているのにゾクゾクする。
そのくせ、全身がヒリヒリとして。とても怠い。
苦しい。
「……じゃあ私、これ片付けてくるから。ゆっくり休んで。」
目を閉じていたせいか寝ると思われたようで、ひまりが私を気遣うようにそっと腰を上げる気配。
「…待て。」
彼女の、ヒンヤリとした指先を掴む。
私自身も普段は低体温症なのだが、今日は風邪のせいで全身が火照りに侵されてしまっている。
だから、その温度が今の私には必要で。掴んだまま、自分の額に当てさせる。
思わず、ため息がもれた。
「…あんたのカノジョに怒られそうなんだけど。」
「見舞いにも来ん女が、私のカノジョなわけがなかろう。」
「だからぁ、あの子は用事で忙しいんだって。さっき言ったでしょ?」
呆れたように言いつつも、立ち上がりかけていた腰を再び下ろすひまり。
「…それで、暇なお前が代わりに来たというわけだ。」
「悪うございましたね、私なんかで。」
ありがとう、と言うのは癪だ。
嬉しいなんて、そんなはずない。
でも、起き上がらないこの体は目の前のこいつが側にいることを欲している。
それを認めざるを得なかった。
「まあ、私の方も寒かったし。丁度いい熱源だわ。」
私が勝手に額に置かせた手を、私が掴む手を離しても嫌がりもせずそのまま置き続ける。
伊作のこと好きなくせに。
伊作のこと好きなくせに。ーーーーーーーー
いつか、彼女に向けて放った言葉がどういうわけか自分の中に留まり続けている。
「……… ひまり、」
「ん?」
「……いや、やっぱり何でもない。」
「そう。」
ーーーーーーーー本当は、聞いているのだ。
女同士というものは実に信用ならない。秘密も何もかも筒抜けで。
そのくせ見栄を張り合って、貶め合って。
…いや、こいつは誰かを貶めるような人間ではないのだが。
でも、とにかく、今回のことはどうせ"本人"から聞いているのだろう。
私と"カノジョ"は、もうーーーーーーーー
「病気してる時ってさ、気が弱くなるんだって。だから、あんまり悪いこととか、嫌なこと考えちゃダメだよ?」
ひまりは私の額に手を置いたまま、まるで励ますように話しかけてくる。
「楽しいこと考えなよ。そうだ、元気になったらさ、また皆でバスケやろ!仙蔵、最近シュート入るようになってきてたじゃん。」
私の相槌の有無とは関係無く、彼女は話し続けている。
「あ、それとさ!こないだ町の紅屋さんで季節限定の色出てたんだ!今度の休み、一緒に見に…」
「ひまり。」
「うん?何?」
「うるさいから出て行け。眠れん。」
「…はあ〜?!」
さっき引き止めたのあんたでしょうが!とプンスカしながら、お盆を持って荒々しく障子を閉めて出て行った。その、女とも思えない振る舞いに一人で思わず吹き出して、
目尻に留まる涙を、私は指で拭った。
涙が滲むのは、高すぎる熱のせいだ。
たぶん、そう。
ありがとうなんて言ってやらない。絶対に。
だけど。
来たのが、他の誰でもなくひまりで良かったと。噛みしめるようにそう思いながら、私は目を閉じたのだった。
うなされて嫌な夢を見たくないから。
どうか早く、熱が下がりますように。
後書き。
いよいよ寒くなってきたので、健康第一!ってことで。(嘘つけ
入学前の立花仙蔵は、冷え性に悩まされて毎年冬に足が霜焼けになってそう…あたためてあげたい。入学してからは体力がだんだんついてきて今年は霜焼けになってない!って喜んでたら可愛いですね。冷え性は辛いから…(管理人も冷え性
今回の仙蔵エピソード、本当は全く違う話を考えていたのですが上手くまとまらなくて、そっちはボツになってしまいました。
そのせいもあってちょっと他より短くなっちゃったかな……何はともあれ、これで各自エピソード編は終わりです。
連載は少しずつ終盤に向かっていっております。
あともう少しの間お付き合いいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!
※仙蔵視点
※二年生回想
※仙蔵に彼女(登場無し)いる設定あります
あいつの隣に、君はいる。其ノ伍
『その温もりはただ一つ』
急に冷え込みが強くなった、冬の初め。
医務室の障子を開けて中をそっと伺ってきた、見知った同い年のくのたまに。私は、熱で重たい頭をそちらに向けて、せいぜいいつもと変わらない調子で言ってやる。枕の上から。
「……まあ、ナントカは風邪を引かない、というのが証明されたというわけだ。」
「はいはい。思ったより元気そうで。」
「元気なわけあるか、アホ。」
ひまりは少し笑って、小さい土鍋と器を乗せたお盆を抱えたまま中に入り、障子を閉める。
「でも珍しいよね、風邪ひくなんて。」
「珍しくはない。…私はな。」
元々あまり体は丈夫な方ではない。去年はたまたま病気にならなかっただけで、忍術学園に入学する前はこの季節になると決まって風邪をひいていた。
「まあ、確かに小平太や文次郎よりかはひきそう、って感じだもんね。」
「うるさい…」
「あはは、ごめんごめん。ところで、食堂のおばちゃんにお粥作ってもらったんだけど、食べる?今お腹空いてる?」
喋るのが億劫で、返事の代わりに、布団の上に手をついて上体を起こしているとひまりは、布団のすぐそばまで来て座り、お盆を脇に置いた。
土鍋の蓋を開け、湯気の立つお粥をレンゲで掬って器に何度か盛ってくれた。
「薬飲まなきゃ、だもんね。…これくらいでいい?」
コク、と頷いてレンゲと共に器を受け取る。お粥には梅干しが入っていた。
「いただきます。」
少し掬って、冷ましてから口に運ぶ。レンゲの底の方にある分がまだ若干熱かったが、口の中で撹拌するように冷ましながら、ほんの少し咀嚼して飲み込む。
「全部食べられなかったら、残してもいいからねって。おばちゃんが。」
いつになく気味が悪いほど優しい、その声。
しばらく黙って食べていたが、ふとひまりの顔を振り返る。
「…そういえば、何で、お前が見舞いに?」
「何でって、伊作が外出中だから……ああ、えっと、あの子なら今日はどうしても外せない用事があって、それで…。」
あの子、というのはひまりと同じくの一教室の、今私が付き合っているくのたまのことだ。
一瞬流れた気まずい空気を無かったことにしようとするかのように「早く良くなるといいね」と、笑ってみせるひまり。
………下手くそめ。
「……すまん、ここまでだ。」
盛られた分だけ完食して、器の淵にレンゲの柄を置き、ごちそうさまと呟く。空の器を受け取ったひまりは、土鍋の側にそれを置いた。
「薬、そこに置いてるやつ?」
「自分でやる。」
「あ、うん。…白湯、新しいの貰って来ようか?」
「いい。」
今朝別の保健委員に持って来てもらっていた、とっくに冷めてしまっている白湯で苦い薬を流し込む。一瞬ゾワリとしたが、布団をかぶって寝てしまえば忘れるだろう。そう思って、再び横になった。
でも、熱のせいか、布団にぴっちり包まれているのにゾクゾクする。
そのくせ、全身がヒリヒリとして。とても怠い。
苦しい。
「……じゃあ私、これ片付けてくるから。ゆっくり休んで。」
目を閉じていたせいか寝ると思われたようで、ひまりが私を気遣うようにそっと腰を上げる気配。
「…待て。」
彼女の、ヒンヤリとした指先を掴む。
私自身も普段は低体温症なのだが、今日は風邪のせいで全身が火照りに侵されてしまっている。
だから、その温度が今の私には必要で。掴んだまま、自分の額に当てさせる。
思わず、ため息がもれた。
「…あんたのカノジョに怒られそうなんだけど。」
「見舞いにも来ん女が、私のカノジョなわけがなかろう。」
「だからぁ、あの子は用事で忙しいんだって。さっき言ったでしょ?」
呆れたように言いつつも、立ち上がりかけていた腰を再び下ろすひまり。
「…それで、暇なお前が代わりに来たというわけだ。」
「悪うございましたね、私なんかで。」
ありがとう、と言うのは癪だ。
嬉しいなんて、そんなはずない。
でも、起き上がらないこの体は目の前のこいつが側にいることを欲している。
それを認めざるを得なかった。
「まあ、私の方も寒かったし。丁度いい熱源だわ。」
私が勝手に額に置かせた手を、私が掴む手を離しても嫌がりもせずそのまま置き続ける。
伊作のこと好きなくせに。
伊作のこと好きなくせに。ーーーーーーーー
いつか、彼女に向けて放った言葉がどういうわけか自分の中に留まり続けている。
「……… ひまり、」
「ん?」
「……いや、やっぱり何でもない。」
「そう。」
ーーーーーーーー本当は、聞いているのだ。
女同士というものは実に信用ならない。秘密も何もかも筒抜けで。
そのくせ見栄を張り合って、貶め合って。
…いや、こいつは誰かを貶めるような人間ではないのだが。
でも、とにかく、今回のことはどうせ"本人"から聞いているのだろう。
私と"カノジョ"は、もうーーーーーーーー
「病気してる時ってさ、気が弱くなるんだって。だから、あんまり悪いこととか、嫌なこと考えちゃダメだよ?」
ひまりは私の額に手を置いたまま、まるで励ますように話しかけてくる。
「楽しいこと考えなよ。そうだ、元気になったらさ、また皆でバスケやろ!仙蔵、最近シュート入るようになってきてたじゃん。」
私の相槌の有無とは関係無く、彼女は話し続けている。
「あ、それとさ!こないだ町の紅屋さんで季節限定の色出てたんだ!今度の休み、一緒に見に…」
「ひまり。」
「うん?何?」
「うるさいから出て行け。眠れん。」
「…はあ〜?!」
さっき引き止めたのあんたでしょうが!とプンスカしながら、お盆を持って荒々しく障子を閉めて出て行った。その、女とも思えない振る舞いに一人で思わず吹き出して、
目尻に留まる涙を、私は指で拭った。
涙が滲むのは、高すぎる熱のせいだ。
たぶん、そう。
ありがとうなんて言ってやらない。絶対に。
だけど。
来たのが、他の誰でもなくひまりで良かったと。噛みしめるようにそう思いながら、私は目を閉じたのだった。
うなされて嫌な夢を見たくないから。
どうか早く、熱が下がりますように。
後書き。
いよいよ寒くなってきたので、健康第一!ってことで。(嘘つけ
入学前の立花仙蔵は、冷え性に悩まされて毎年冬に足が霜焼けになってそう…あたためてあげたい。入学してからは体力がだんだんついてきて今年は霜焼けになってない!って喜んでたら可愛いですね。冷え性は辛いから…(管理人も冷え性
今回の仙蔵エピソード、本当は全く違う話を考えていたのですが上手くまとまらなくて、そっちはボツになってしまいました。
そのせいもあってちょっと他より短くなっちゃったかな……何はともあれ、これで各自エピソード編は終わりです。
連載は少しずつ終盤に向かっていっております。
あともう少しの間お付き合いいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!