そのうすべに色を隠して。
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※各自エピソード編、第二回目
※夢主視点→長次視点→夢主視点
※出現:ご都合モブ
※ふぁんたじー要素あり
あいつの隣に、君はいる。其ノ弍
『ねこねこ騒動記』
「いっ、伊作のバカぁっ……ほんと信じらんない、何考えてるんだよっ…!」
忍たま長屋の縁側でぐしぐしと泣き続ける私に、ほんの少し空けた隣に座る長次は何も言わないけど、大きな手で頭をぽん、ぽんと撫でてくれている。
私がこうして長次に愚痴っているのは、少し前に起きたとある出来事が原因だった。
話は、伊作が学園長先生を通じて課せられた忍務から、帰ってきたつい先ほどまで遡る。
「陽太、ただいま。」
「おーお帰り。護衛任務お疲れ様。不運起こしてない?」
「もう、そうそう毎回起こさないよっ。何事もなく無事に終わりました!ついでに帰り道も!」
「はは、それは失敬。今回の依頼主、二回目なんでしょ?護衛頼まれるの。すごいよねえ。」
「うーん、あはは…前も直近だったしたまたま覚えて下さってた、ってことかなあ。」
「良かったじゃん、信頼されて。…ところでどうしたの、その風呂敷包み。」
「あ、これ?今日護衛した姫様から頂いちゃったんだ。…随分遠慮したんだけど、どうしてもって押し切られちゃって…。」
困ったように笑いながら伊作が、持っていた風呂敷の結び目を解くと、中から立派なお重が。更にその蓋を開けると、見ただけで高価なものとすぐ分かる菓子がずらりと敷き詰められていた。
「うわー、これまた豪華な菓子だこと…。余程感謝されたのねえ。」
「良かったら食べない?僕一人じゃ食べきれないし。」
「え、いいの?やった!じゃあおひとつ、いただきまーす。…うわ美味しい!流石、こりゃ相当に上等な菓子だわ。」
「ほんとだ。後で留三郎たちにも持って行こう。」
「うん、それがいいよ。それにしても菓子箱も綺麗……ん?何これ。」
「どうしたの?」
「何か紙挟まってた、ほら。」
「あれ、本当だ。気付かなかったな。」
「お菓子の説明書きかな…えーとなになに、このお菓子は『お慕いしております』………は?」
「……え?」
冒頭から熱烈な告白の文言を皮切りに、
『私を守ると誓って下さいましたのに、どうしてあなたは私の元を去ってしまうのでしょうか?』
と切なげに綴られたその紙は明らかに、恋文。
『あなたにしかと握られた手の温もりを、私は生涯忘れないでしょう』
『あなたがいつか私を攫いに来てくれるまで、私はいつまでも待ち続け』
…の所で、私はとうとうブチっときてしまった。
「い〜〜さ〜〜く〜〜〜〜?!?!」
「ま、待って待って!落ち着いて陽太…!」
「仮にも忍務中にお前は一体何しとるんじゃあああああ!?!?!?!」
「違うよ誤解だってば…!護衛してる時にその姫様が足を滑らせて転びそうになったから、僕が咄嗟に手を貸しただけで…」
「言い訳するなああああ!!!」
私の叫びに被せるように、点火した焙烙火矢が爆発する音が校庭の片隅に鳴り響いた。
…で、事の顛末を知った長次に今の今まで泣きついていた、という訳である。
「い、いくら護衛だからって、そんな、手…手ぇ握ったりするなんてっ…!ばかばかっ!あんぽんたん!フケツ!いつもより多く転べ!ばかーっ!!」
ここには居ない伊作に向けて罵倒しながら、ーーーーーーー私も、本当は分かっていた。伊作が忍務中にそんなことをする訳がないことくらい。不可抗力だったのだということくらい。
でも、分かっていても、その光景を想像しただけでムカムカしてしまう。
信頼されてるどころか、お慕いされてんじゃん!と。
…自分でも、だんだんと論点がずれてきていることは自覚している。
それでも、そんな私を長次は窘めることもなく、ただ黙ってずっと愚痴を聞いてくれていた。
中在家長次という人物を、主に下級生は無口で何を考えてるか分からないだとか、怖いとか言っているみたいだけれど、実際は六年生の中でも優しいほうだと思う。
確かに怒ったら怖いけれど、でもそれはいつも正当な理由があってのことで、基本は穏やかな性格なのだ。
そんな長次に、言葉の代わりに、優しく頭をぽんぽん撫でられていると、だんだん落ち着いてくるから不思議だ。
でもいくら優しいからといって、いつまでも、私のくだらない愚痴なんかに付き合わせるわけにはいかない。私は、自分の手ぬぐいで最後の涙をゴシゴシと拭った。
「…ありがとう、長次。聞いてくれてちょっとスッキリした。ごめんね、ずっと時間取らせて。」
「…気にするな…」
と、ここで初めて発言した。そして珍しいことに、続けてまた喋ったけれど、今度は先程とうって変わって緊迫した声音だった。
「…待て。敵がいる…」
「えっ?……」
長次が、それまで座っていた縁側に片膝を突いて立ち上がったので、私も慌てて、泣く時濡れないようにと下ろしていた頭巾を目の下まで上げる。私が懐の手裏剣に手を伸ばした時には、長次は既に縄鏢を撃つ態勢に入っていた。
私が手裏剣を撃つ構えに入った瞬間、長次は離れた茂みの一つに向かって撃ち込んだ。縄鏢を避けて茂みから侵入者が飛び出す。どこの城の忍者かは分からなかったが、私はそいつに向けて手裏剣を撃った。
「くっ…」
相手もなかなか俊敏だった。かろうじて避けられてしまい、侵入者はそのまま走り去ろうとする。
「すまない、外した!」
「追うぞ、回り込め。」
「了解!」
縁側から飛び降り、私は侵入者の行く手を阻むため先回りする。
私が前に立ちはだかり棒手裏剣を構えると、後ずさろうとした侵入者だったが、後ろは既に長次が道を塞いでいた。
「くそっ…これでも喰らえ!!」
「うっ……?!」
「… 陽太!」
侵入者が私に向けて、袋に入った粉末のようなものを浴びせてきた。怯んだ私の隙をついて、侵入者は塀を越えて学園の外に逃げ出す。
長次は一瞬追おうとしたけれど、私が咳き込んでいるのを見て駆け寄ってきてくれた。
「陽太、大丈夫か…?」
「す、すまん…油断し、ゴホッ!」
目潰しか?と思ったが、どうも違う気がする。咳が止まらない。それに、だんだん、汗も出てきた。
「… 陽太?!」
「ご、ごめ…なんか、急に体が…」
体の言うことが聞かず、膝が崩れ遂にうずくまってしまった。とにかく、熱い。息も苦しい。背中をさすってくれる長次に支えられながら、私は浅い呼吸を繰り返す。
長次は、汗をかき苦しげに呼吸する私の頭巾を外させ、とにかく医務室へと思ったらしく、私の背中と膝裏を支えて体を持ち上げようとした。
その時だった。
「……にゃあ。」
「………?……………?!」
奇声、というか、鳴き声というか、突然聞こえたその声に、私の顔を見た長次はその時、目を丸くしてしばらく固まってしまったらしい。
私の頭に生えた、猫の耳を見て。
ーーーーーーーーーー
同級生、立花仙蔵は私、中在家長次に冷静に訊いた。
それはお前が強要したプレイではないだろうな?と。
私は答えた。断じて違うと。
「うああぁ… 陽太〜……」
「情けない声出すんじゃねぇよ伊作…。しかし、本当にそんな効果のある薬があるのか?俄かには信じられないが…。」
涙目の伊作をしゃがんで横から慰める留三郎を初め、私から事の顛末を聞いた他の六年生たちは半信半疑な目を向けていたが。最早その言葉を信じざるを得ない状況であろう。
追っていた侵入者が陽太に向けて浴びせた謎の粉末によって、陽太に本物の猫そっくりの耳が生えてしまったことを。
更には、耳だけでなく尻尾も生えており、行動そのものも猫のようになってしまい。現在、私に頭を擦り寄せている、という状態であった。
「ふむ。耳は、頭の皮膚と完全に繋がっているようだな。……おっと。」
ふしゃー!と威嚇されたために仙蔵は、耳を検分しようとしていた手を引っ込める。
陽太はしばらく仙蔵を警戒するように唸っていたが、私が頭を撫でてやると、機嫌が直ったように再びゴロゴロと擦り寄ってきた。
その様子を、小平太、文次郎、留三郎が観察している。
「それにしても、長次によく懐いてるなあ。」
「普段からこれくらい静かなら、いいんだけどな。」
「言えてるな、それ。俺たちにも、手懐けられるかな?」
留三郎はしゃがんだまま、こちらに両手を広げてみせた。
「おーい陽太、今度はこっちに来いよ。」
すると、陽太は振り返って留三郎の顔を見るや、
「フシャアアア!!」
と威嚇した。撃沈した留三郎に代わり、今度は文次郎が、
「お前、目つき悪いからなー。陽太、俺の方なら来るよな?」
と、同じように両手を広げたが尻尾を膨らませて更に激しく威嚇され、二人揃って撃沈した。
「…文次郎は目つきどころか顔全体が凶悪だからな。」
「でも何で、長次にはあんなに懐いているんだろう?」
腕組みをして呆れる仙蔵に、小平太が訊く。
「長次はいつも、私に怒られた陽太を庇ったり、留三郎や文次郎と喧嘩した時にも慰めたりしているからな。今の猫陽太は、本能的に相手を選んでいるのだろう。」
「じゃあ、私は陽太とは喧嘩したりしてないから、私だったら懐くかな?」
「……喧嘩してるしてないの話は説明が面倒なので置いておくとして、それでも、恐らくだがお前も威嚇されるぞ。」
「えっ?何で?」
「猫は、うるさい人間が嫌いだからだ。」
「えーーー?!?!」
「ほら見ろ、もう睨んでるぞ。」
「何だぁ、私も駄目なのかぁ……」
小平太は近付く前から落選し、がっくりと肩を落とす。
「そんなにショックを受けなくても良かろうに。」
「仙蔵は威嚇もされたのに、ショックではないのか?」
「私は元々、動物にはあまり懐かれない方だからな。別に気にしていない。」
「うう〜、陽太…僕にも懐いてくれない……」
因みに伊作、既に猫陽太にねこぱんち&シャーされている身である。
「泣くな伊作。仕方なかろう、直前にあんなことがあったのだから、無理もない。」
「うう…反省してます……」
「あんなことって?」
「まあ、後で話してやる。ここは長次に任せて、私たちは一旦席を外すぞ。長次、頼めるか?」
「…分かった…」
「ほら、伊作も泣いていないで立て。あそこで撃沈している馬鹿二人を連れて行くぞ。」
「長次、がんばれよー!」
小平太の謎の激励を最後に、障子が閉められた。
急に静かになった空間で、自分が陽太の頭を撫でる音と、陽太が自分に擦り寄る音が、さっきまでよりも妙に大きく聞こえるような気がする。
猫になってしまったこの現象が薬による効果であれば、時間が経てば耳も尻尾も引っ込んで元の人間の陽太に戻るはずだ。それまでは、大人しくこの部屋に匿うしかない。
幸い、何故か自分には懐いてくれているので、このまま相手をしていれば、外に出て行くようなことはないだろう。
元に戻るまで、同室の小平太には部屋の外に出ていてもらうことになるが、そこまで気にしていなさそうなので大丈夫だろう。
「……にゃあ。」
ふと、それまで擦り寄っていた陽太が顔を上げて、何か言いたげに鳴いた。
「……?」
人間としての声帯はそのままのはずだが、言葉を喋らないのが厄介だった。何を考えているのかが、分かりにくい。
とりあえず、エノコログサみたいな、何かおもちゃになりそうな物があっただろうかと、部屋に置いてある私物入れの中を探そうとした。
……が、立ち上がりかけた私は、床にべしゃっと引き倒されてしまった。離れたくなかった陽太が、足を引っ張ったらしい。
顎をしこたま打ちつけたが、流石に相手が猫状態では怒れない。やれやれ、とそのまま、仰向けに寝転んだ。
すると、覆い被さるように、陽太の顔が頭上に来る。
「にゃー?」
「………」
もしかして、心配しているのだろうか。
そう思って、大丈夫だ、という意味を込めて、その頭を撫でてやる。
撫でられて、ふにゃ〜っと、破顔する陽太。
「……………」
いや、断じて、伊作を裏切ろうなどという気持ちは無い。微塵もありはしない。
だが、普段から一緒にいる同級生の女の子が、猫の耳と尻尾を生やして、自分にだけ懐いてて、その上至近距離でこんな笑顔を見せてくるのに、心の臓をドキドキさせるなという方が無理な話だと思う。多分。恐らく。
あまり顔を見ないようにしよう、と陽太の頭を撫でる手はそのままに、目を他所に逸らした。
すると、ふっと、撫でていたはずの頭の感触が消えた。次の瞬間、自分の顎を何か、生温かい感触が撫ぜていき、私は硬直する。
陽太が、顎を舐めたのである。
ぶつけた所を心配しているのか、何度かぺろぺろと舐めて、私が何も反応を示さないので不思議に思ったのか、今度は頬を舐めてきた。
硬直したまま、それでも必死で、自分の口を手で覆っていた。流石にそこは、舌と触れてしまうとまずい。何がまずいって、それはもう、色々と。そうして己と戦う苦行のような時間がしばらく続いたが、ようやく飽きたのか、陽太は私の上からどいた。
まるで全身が心の臓そのものになったかのように、鼓動がいつもの数倍大きく感じられる。
ぐったりと床の上に身を横たえたままでいると、すーっと障子の開かれる音がした。
「…!」
慌てて起き上がると、陽太が四つん這いのまま開けた障子から外に出て行こうとするのが目に映って。
「っ行くな、」
咄嗟に腕を伸ばす。
引き寄せて、もう片方の腕も、自分より遥かに細いその体に回して。
幸い、長屋の廊下にも庭にも誰も居なかった。もし見られたら、非常にまずい。陽太の素顔どころかこんな姿も、
ーーーーーーーーーーこうして私が、腕の中に彼女を閉じ込めている所も。
陽太は、腕にほんの少し力を込めても、特に嫌がりもせず私に抱きしめられたまま大人しく座り込んでいる。
私は膝立ちのまま、願った。
いっそ嫌がってくれたら。暴れてくれたら、押さえ込むことを抱きしめる理由にできるのに。
手を離せ、私。
心の臓がまた、早鐘のように鳴る。
彼女の匂いをこれ以上吸ってはいけない気がした。
不可抗力とはいえ、猫の意識になっているからとはいえ、
こんなふうに抱きしめ続けてしまっては、伊作を非難することもいよいよできないだろう。
それほどに意味を持ちそうになる。自分が彼女を抱きしめる、ということは。
伊作の方は、忍務先でのことは意図などあろうはずもない。
でも、私は。
これ以上彼女のことを拘束するのは、意図的でしかないのではないか?
「… ひまり、」
彼女自身の名前で呼びかけると、そのせいなのか、耳がぴこ、と微かに揺れた。
手を離す理由が、早く欲しい。
「…伊作の所に行くか?」
猫語では返事をせず、尻尾が、ぺしぺしと私をゆるく叩いてくる。
やだ、とでも言っているように。
思わず苦笑が小さく溢れる。
…私に抱きしめられていることを、猫ではなく人間の彼女自身が、本当は分かっているんじゃないだろうか?
「……伊作に見られたら困るのではないか?」
それでも、離れる様子はない。
本当は伊作の方がいいはずなのに。
要するに彼女は、まだ駄々をこねているのだろう。
今は伊作には会いたくない、と。
それは、喩え今だけだったとしても、私の方がいい、ということなのかと。とんでもなく自惚れてしまいそうになる。
ーーーーーーーーーー『じゃあ、俺たちの中で誰だったら一番アリなんだ?』
ーーーーーーーーーー『だったら、中在家君かなー?』
幼い頃の他愛もないあの会話。
その言葉の理由を、私は結局知らない。
冗談なりに理由があるのだろうと、
……いや。理由なんてそもそも無かったんだろうか。
ふと、陽太の首がかくん、と一瞬だけ前に傾ぐ。
体から力が抜けていくように、寄りかかってくる胸に増す重み。
ずるずると甘えてくる彼女を突き放すことも放り出すこともできないで、私はただ、ため息をつく以外になくて。
微睡み始める、気ままで甘えたがりの彼女。
私は遂に膝立ちを諦めて、ストンと座って彼女を抱え直す。
…早く、伊作の元に行ってしまえばいいのに。
ーーーーーーーーーー
「あ〜、随分長いこと寝ちゃったなあ。なんか、頭痛いや…。」
「全く、呑気なものだな、お前も。」
「そんな言い方無いだろ、仙蔵。私は侵入者に、変な薬を浴びせられて大変だったんだからな?……その後のことはよく覚えてないけど。」
「…覚えてないのか?」
「え?私、その後何かあった?ずっと寝てると思ってたんだけど…。あ、長次!」
目が覚めると医務室に寝かされていて、迎えに来てくれた仙蔵と話しながら廊下を進んでいく途中、長次の姿を見つけて私は駆け寄った。
「さっき仙蔵から聞いたよ。寝てる時、ずっとそばにいてくれたんだってね。ごめんね本当に、迷惑かけて。」
謝る私に、長次は。
無言のまま私の顔をじっと見て。
「…どうかし、」
頬に伸ばした指先で痛くない程度に、つまんでくる。
「…」
近付いた仏頂面。いつもならそれは、機嫌が良い時の表情。
けど、何となく分かってしまった。
多分……怒ってる。
「あの…長、次…?」
パッと手を離され、声をかけても、長次は最後まで何も言わず踵を返して立ち去っていった。
「…え、怖い。私やっぱり何かしたのかな…?仙蔵、何か知ってる?」
振り返って訊いても、仙蔵は首を横に振るのみ。
「さあな。だが、何も言わないということは、そんなに気にしなくて良いということなんじゃないか?」
「えー?そうなのかなぁ…」
「…気にした所で何か変わるわけでもないだろうしな。」
「え?何か言った?」
「いや。ただの独り言だ。」
「何なんだよもう、皆して…。」
口を尖らせても、この件について仙蔵が口を開くことはもう無かった。
おまけ・伊作と留三郎の部屋にて。
伊作が頂いたという菓子を食べながら、留三郎は例の"恋文"に目を通していた顔を上げる。
「…まあ、今度依頼が来ても丁重にお断りするしかないな。」
「はい……」
「…俺が代わりに行こうか?」
「何卒お願い致します……」
深々と頭を下げ、文字通り、同室に頭が上がらない伊作であった。
後書き。
仏頂面で、今回はその表情の通りに不機嫌な長次。
言うつもりはない、けど"何か"を残さずにはいられない。
痛くない程度に、明日にはもう忘れてしまってもいいけど、今だけ。だから頬をつねる。
彼からしたら、気まぐれ&わがまま&甘えんぼ猫化夢主に振り回されて、その上猫化した時のこと結局覚えとらんのかーい、て感じですよね…。
最後までギャグ調で行こうと思ったんですけど、どうもシリアスを混ぜがちになってしまう。
因みにですが伊作に護衛を依頼した姫様(モブその2)は、足を滑らせたのもきっと確信犯でしょうね。笑
そして代わりに来た留三郎に目移りしてまた恋文出すけど、「へー、三禁破りじゃん」と夢主の反応は伊作の時と180°違うっていう。笑
※夢主視点→長次視点→夢主視点
※出現:ご都合モブ
※ふぁんたじー要素あり
あいつの隣に、君はいる。其ノ弍
『ねこねこ騒動記』
「いっ、伊作のバカぁっ……ほんと信じらんない、何考えてるんだよっ…!」
忍たま長屋の縁側でぐしぐしと泣き続ける私に、ほんの少し空けた隣に座る長次は何も言わないけど、大きな手で頭をぽん、ぽんと撫でてくれている。
私がこうして長次に愚痴っているのは、少し前に起きたとある出来事が原因だった。
話は、伊作が学園長先生を通じて課せられた忍務から、帰ってきたつい先ほどまで遡る。
「陽太、ただいま。」
「おーお帰り。護衛任務お疲れ様。不運起こしてない?」
「もう、そうそう毎回起こさないよっ。何事もなく無事に終わりました!ついでに帰り道も!」
「はは、それは失敬。今回の依頼主、二回目なんでしょ?護衛頼まれるの。すごいよねえ。」
「うーん、あはは…前も直近だったしたまたま覚えて下さってた、ってことかなあ。」
「良かったじゃん、信頼されて。…ところでどうしたの、その風呂敷包み。」
「あ、これ?今日護衛した姫様から頂いちゃったんだ。…随分遠慮したんだけど、どうしてもって押し切られちゃって…。」
困ったように笑いながら伊作が、持っていた風呂敷の結び目を解くと、中から立派なお重が。更にその蓋を開けると、見ただけで高価なものとすぐ分かる菓子がずらりと敷き詰められていた。
「うわー、これまた豪華な菓子だこと…。余程感謝されたのねえ。」
「良かったら食べない?僕一人じゃ食べきれないし。」
「え、いいの?やった!じゃあおひとつ、いただきまーす。…うわ美味しい!流石、こりゃ相当に上等な菓子だわ。」
「ほんとだ。後で留三郎たちにも持って行こう。」
「うん、それがいいよ。それにしても菓子箱も綺麗……ん?何これ。」
「どうしたの?」
「何か紙挟まってた、ほら。」
「あれ、本当だ。気付かなかったな。」
「お菓子の説明書きかな…えーとなになに、このお菓子は『お慕いしております』………は?」
「……え?」
冒頭から熱烈な告白の文言を皮切りに、
『私を守ると誓って下さいましたのに、どうしてあなたは私の元を去ってしまうのでしょうか?』
と切なげに綴られたその紙は明らかに、恋文。
『あなたにしかと握られた手の温もりを、私は生涯忘れないでしょう』
『あなたがいつか私を攫いに来てくれるまで、私はいつまでも待ち続け』
…の所で、私はとうとうブチっときてしまった。
「い〜〜さ〜〜く〜〜〜〜?!?!」
「ま、待って待って!落ち着いて陽太…!」
「仮にも忍務中にお前は一体何しとるんじゃあああああ!?!?!?!」
「違うよ誤解だってば…!護衛してる時にその姫様が足を滑らせて転びそうになったから、僕が咄嗟に手を貸しただけで…」
「言い訳するなああああ!!!」
私の叫びに被せるように、点火した焙烙火矢が爆発する音が校庭の片隅に鳴り響いた。
…で、事の顛末を知った長次に今の今まで泣きついていた、という訳である。
「い、いくら護衛だからって、そんな、手…手ぇ握ったりするなんてっ…!ばかばかっ!あんぽんたん!フケツ!いつもより多く転べ!ばかーっ!!」
ここには居ない伊作に向けて罵倒しながら、ーーーーーーー私も、本当は分かっていた。伊作が忍務中にそんなことをする訳がないことくらい。不可抗力だったのだということくらい。
でも、分かっていても、その光景を想像しただけでムカムカしてしまう。
信頼されてるどころか、お慕いされてんじゃん!と。
…自分でも、だんだんと論点がずれてきていることは自覚している。
それでも、そんな私を長次は窘めることもなく、ただ黙ってずっと愚痴を聞いてくれていた。
中在家長次という人物を、主に下級生は無口で何を考えてるか分からないだとか、怖いとか言っているみたいだけれど、実際は六年生の中でも優しいほうだと思う。
確かに怒ったら怖いけれど、でもそれはいつも正当な理由があってのことで、基本は穏やかな性格なのだ。
そんな長次に、言葉の代わりに、優しく頭をぽんぽん撫でられていると、だんだん落ち着いてくるから不思議だ。
でもいくら優しいからといって、いつまでも、私のくだらない愚痴なんかに付き合わせるわけにはいかない。私は、自分の手ぬぐいで最後の涙をゴシゴシと拭った。
「…ありがとう、長次。聞いてくれてちょっとスッキリした。ごめんね、ずっと時間取らせて。」
「…気にするな…」
と、ここで初めて発言した。そして珍しいことに、続けてまた喋ったけれど、今度は先程とうって変わって緊迫した声音だった。
「…待て。敵がいる…」
「えっ?……」
長次が、それまで座っていた縁側に片膝を突いて立ち上がったので、私も慌てて、泣く時濡れないようにと下ろしていた頭巾を目の下まで上げる。私が懐の手裏剣に手を伸ばした時には、長次は既に縄鏢を撃つ態勢に入っていた。
私が手裏剣を撃つ構えに入った瞬間、長次は離れた茂みの一つに向かって撃ち込んだ。縄鏢を避けて茂みから侵入者が飛び出す。どこの城の忍者かは分からなかったが、私はそいつに向けて手裏剣を撃った。
「くっ…」
相手もなかなか俊敏だった。かろうじて避けられてしまい、侵入者はそのまま走り去ろうとする。
「すまない、外した!」
「追うぞ、回り込め。」
「了解!」
縁側から飛び降り、私は侵入者の行く手を阻むため先回りする。
私が前に立ちはだかり棒手裏剣を構えると、後ずさろうとした侵入者だったが、後ろは既に長次が道を塞いでいた。
「くそっ…これでも喰らえ!!」
「うっ……?!」
「… 陽太!」
侵入者が私に向けて、袋に入った粉末のようなものを浴びせてきた。怯んだ私の隙をついて、侵入者は塀を越えて学園の外に逃げ出す。
長次は一瞬追おうとしたけれど、私が咳き込んでいるのを見て駆け寄ってきてくれた。
「陽太、大丈夫か…?」
「す、すまん…油断し、ゴホッ!」
目潰しか?と思ったが、どうも違う気がする。咳が止まらない。それに、だんだん、汗も出てきた。
「… 陽太?!」
「ご、ごめ…なんか、急に体が…」
体の言うことが聞かず、膝が崩れ遂にうずくまってしまった。とにかく、熱い。息も苦しい。背中をさすってくれる長次に支えられながら、私は浅い呼吸を繰り返す。
長次は、汗をかき苦しげに呼吸する私の頭巾を外させ、とにかく医務室へと思ったらしく、私の背中と膝裏を支えて体を持ち上げようとした。
その時だった。
「……にゃあ。」
「………?……………?!」
奇声、というか、鳴き声というか、突然聞こえたその声に、私の顔を見た長次はその時、目を丸くしてしばらく固まってしまったらしい。
私の頭に生えた、猫の耳を見て。
ーーーーーーーーーー
同級生、立花仙蔵は私、中在家長次に冷静に訊いた。
それはお前が強要したプレイではないだろうな?と。
私は答えた。断じて違うと。
「うああぁ… 陽太〜……」
「情けない声出すんじゃねぇよ伊作…。しかし、本当にそんな効果のある薬があるのか?俄かには信じられないが…。」
涙目の伊作をしゃがんで横から慰める留三郎を初め、私から事の顛末を聞いた他の六年生たちは半信半疑な目を向けていたが。最早その言葉を信じざるを得ない状況であろう。
追っていた侵入者が陽太に向けて浴びせた謎の粉末によって、陽太に本物の猫そっくりの耳が生えてしまったことを。
更には、耳だけでなく尻尾も生えており、行動そのものも猫のようになってしまい。現在、私に頭を擦り寄せている、という状態であった。
「ふむ。耳は、頭の皮膚と完全に繋がっているようだな。……おっと。」
ふしゃー!と威嚇されたために仙蔵は、耳を検分しようとしていた手を引っ込める。
陽太はしばらく仙蔵を警戒するように唸っていたが、私が頭を撫でてやると、機嫌が直ったように再びゴロゴロと擦り寄ってきた。
その様子を、小平太、文次郎、留三郎が観察している。
「それにしても、長次によく懐いてるなあ。」
「普段からこれくらい静かなら、いいんだけどな。」
「言えてるな、それ。俺たちにも、手懐けられるかな?」
留三郎はしゃがんだまま、こちらに両手を広げてみせた。
「おーい陽太、今度はこっちに来いよ。」
すると、陽太は振り返って留三郎の顔を見るや、
「フシャアアア!!」
と威嚇した。撃沈した留三郎に代わり、今度は文次郎が、
「お前、目つき悪いからなー。陽太、俺の方なら来るよな?」
と、同じように両手を広げたが尻尾を膨らませて更に激しく威嚇され、二人揃って撃沈した。
「…文次郎は目つきどころか顔全体が凶悪だからな。」
「でも何で、長次にはあんなに懐いているんだろう?」
腕組みをして呆れる仙蔵に、小平太が訊く。
「長次はいつも、私に怒られた陽太を庇ったり、留三郎や文次郎と喧嘩した時にも慰めたりしているからな。今の猫陽太は、本能的に相手を選んでいるのだろう。」
「じゃあ、私は陽太とは喧嘩したりしてないから、私だったら懐くかな?」
「……喧嘩してるしてないの話は説明が面倒なので置いておくとして、それでも、恐らくだがお前も威嚇されるぞ。」
「えっ?何で?」
「猫は、うるさい人間が嫌いだからだ。」
「えーーー?!?!」
「ほら見ろ、もう睨んでるぞ。」
「何だぁ、私も駄目なのかぁ……」
小平太は近付く前から落選し、がっくりと肩を落とす。
「そんなにショックを受けなくても良かろうに。」
「仙蔵は威嚇もされたのに、ショックではないのか?」
「私は元々、動物にはあまり懐かれない方だからな。別に気にしていない。」
「うう〜、陽太…僕にも懐いてくれない……」
因みに伊作、既に猫陽太にねこぱんち&シャーされている身である。
「泣くな伊作。仕方なかろう、直前にあんなことがあったのだから、無理もない。」
「うう…反省してます……」
「あんなことって?」
「まあ、後で話してやる。ここは長次に任せて、私たちは一旦席を外すぞ。長次、頼めるか?」
「…分かった…」
「ほら、伊作も泣いていないで立て。あそこで撃沈している馬鹿二人を連れて行くぞ。」
「長次、がんばれよー!」
小平太の謎の激励を最後に、障子が閉められた。
急に静かになった空間で、自分が陽太の頭を撫でる音と、陽太が自分に擦り寄る音が、さっきまでよりも妙に大きく聞こえるような気がする。
猫になってしまったこの現象が薬による効果であれば、時間が経てば耳も尻尾も引っ込んで元の人間の陽太に戻るはずだ。それまでは、大人しくこの部屋に匿うしかない。
幸い、何故か自分には懐いてくれているので、このまま相手をしていれば、外に出て行くようなことはないだろう。
元に戻るまで、同室の小平太には部屋の外に出ていてもらうことになるが、そこまで気にしていなさそうなので大丈夫だろう。
「……にゃあ。」
ふと、それまで擦り寄っていた陽太が顔を上げて、何か言いたげに鳴いた。
「……?」
人間としての声帯はそのままのはずだが、言葉を喋らないのが厄介だった。何を考えているのかが、分かりにくい。
とりあえず、エノコログサみたいな、何かおもちゃになりそうな物があっただろうかと、部屋に置いてある私物入れの中を探そうとした。
……が、立ち上がりかけた私は、床にべしゃっと引き倒されてしまった。離れたくなかった陽太が、足を引っ張ったらしい。
顎をしこたま打ちつけたが、流石に相手が猫状態では怒れない。やれやれ、とそのまま、仰向けに寝転んだ。
すると、覆い被さるように、陽太の顔が頭上に来る。
「にゃー?」
「………」
もしかして、心配しているのだろうか。
そう思って、大丈夫だ、という意味を込めて、その頭を撫でてやる。
撫でられて、ふにゃ〜っと、破顔する陽太。
「……………」
いや、断じて、伊作を裏切ろうなどという気持ちは無い。微塵もありはしない。
だが、普段から一緒にいる同級生の女の子が、猫の耳と尻尾を生やして、自分にだけ懐いてて、その上至近距離でこんな笑顔を見せてくるのに、心の臓をドキドキさせるなという方が無理な話だと思う。多分。恐らく。
あまり顔を見ないようにしよう、と陽太の頭を撫でる手はそのままに、目を他所に逸らした。
すると、ふっと、撫でていたはずの頭の感触が消えた。次の瞬間、自分の顎を何か、生温かい感触が撫ぜていき、私は硬直する。
陽太が、顎を舐めたのである。
ぶつけた所を心配しているのか、何度かぺろぺろと舐めて、私が何も反応を示さないので不思議に思ったのか、今度は頬を舐めてきた。
硬直したまま、それでも必死で、自分の口を手で覆っていた。流石にそこは、舌と触れてしまうとまずい。何がまずいって、それはもう、色々と。そうして己と戦う苦行のような時間がしばらく続いたが、ようやく飽きたのか、陽太は私の上からどいた。
まるで全身が心の臓そのものになったかのように、鼓動がいつもの数倍大きく感じられる。
ぐったりと床の上に身を横たえたままでいると、すーっと障子の開かれる音がした。
「…!」
慌てて起き上がると、陽太が四つん這いのまま開けた障子から外に出て行こうとするのが目に映って。
「っ行くな、」
咄嗟に腕を伸ばす。
引き寄せて、もう片方の腕も、自分より遥かに細いその体に回して。
幸い、長屋の廊下にも庭にも誰も居なかった。もし見られたら、非常にまずい。陽太の素顔どころかこんな姿も、
ーーーーーーーーーーこうして私が、腕の中に彼女を閉じ込めている所も。
陽太は、腕にほんの少し力を込めても、特に嫌がりもせず私に抱きしめられたまま大人しく座り込んでいる。
私は膝立ちのまま、願った。
いっそ嫌がってくれたら。暴れてくれたら、押さえ込むことを抱きしめる理由にできるのに。
手を離せ、私。
心の臓がまた、早鐘のように鳴る。
彼女の匂いをこれ以上吸ってはいけない気がした。
不可抗力とはいえ、猫の意識になっているからとはいえ、
こんなふうに抱きしめ続けてしまっては、伊作を非難することもいよいよできないだろう。
それほどに意味を持ちそうになる。自分が彼女を抱きしめる、ということは。
伊作の方は、忍務先でのことは意図などあろうはずもない。
でも、私は。
これ以上彼女のことを拘束するのは、意図的でしかないのではないか?
「… ひまり、」
彼女自身の名前で呼びかけると、そのせいなのか、耳がぴこ、と微かに揺れた。
手を離す理由が、早く欲しい。
「…伊作の所に行くか?」
猫語では返事をせず、尻尾が、ぺしぺしと私をゆるく叩いてくる。
やだ、とでも言っているように。
思わず苦笑が小さく溢れる。
…私に抱きしめられていることを、猫ではなく人間の彼女自身が、本当は分かっているんじゃないだろうか?
「……伊作に見られたら困るのではないか?」
それでも、離れる様子はない。
本当は伊作の方がいいはずなのに。
要するに彼女は、まだ駄々をこねているのだろう。
今は伊作には会いたくない、と。
それは、喩え今だけだったとしても、私の方がいい、ということなのかと。とんでもなく自惚れてしまいそうになる。
ーーーーーーーーーー『じゃあ、俺たちの中で誰だったら一番アリなんだ?』
ーーーーーーーーーー『だったら、中在家君かなー?』
幼い頃の他愛もないあの会話。
その言葉の理由を、私は結局知らない。
冗談なりに理由があるのだろうと、
……いや。理由なんてそもそも無かったんだろうか。
ふと、陽太の首がかくん、と一瞬だけ前に傾ぐ。
体から力が抜けていくように、寄りかかってくる胸に増す重み。
ずるずると甘えてくる彼女を突き放すことも放り出すこともできないで、私はただ、ため息をつく以外になくて。
微睡み始める、気ままで甘えたがりの彼女。
私は遂に膝立ちを諦めて、ストンと座って彼女を抱え直す。
…早く、伊作の元に行ってしまえばいいのに。
ーーーーーーーーーー
「あ〜、随分長いこと寝ちゃったなあ。なんか、頭痛いや…。」
「全く、呑気なものだな、お前も。」
「そんな言い方無いだろ、仙蔵。私は侵入者に、変な薬を浴びせられて大変だったんだからな?……その後のことはよく覚えてないけど。」
「…覚えてないのか?」
「え?私、その後何かあった?ずっと寝てると思ってたんだけど…。あ、長次!」
目が覚めると医務室に寝かされていて、迎えに来てくれた仙蔵と話しながら廊下を進んでいく途中、長次の姿を見つけて私は駆け寄った。
「さっき仙蔵から聞いたよ。寝てる時、ずっとそばにいてくれたんだってね。ごめんね本当に、迷惑かけて。」
謝る私に、長次は。
無言のまま私の顔をじっと見て。
「…どうかし、」
頬に伸ばした指先で痛くない程度に、つまんでくる。
「…」
近付いた仏頂面。いつもならそれは、機嫌が良い時の表情。
けど、何となく分かってしまった。
多分……怒ってる。
「あの…長、次…?」
パッと手を離され、声をかけても、長次は最後まで何も言わず踵を返して立ち去っていった。
「…え、怖い。私やっぱり何かしたのかな…?仙蔵、何か知ってる?」
振り返って訊いても、仙蔵は首を横に振るのみ。
「さあな。だが、何も言わないということは、そんなに気にしなくて良いということなんじゃないか?」
「えー?そうなのかなぁ…」
「…気にした所で何か変わるわけでもないだろうしな。」
「え?何か言った?」
「いや。ただの独り言だ。」
「何なんだよもう、皆して…。」
口を尖らせても、この件について仙蔵が口を開くことはもう無かった。
おまけ・伊作と留三郎の部屋にて。
伊作が頂いたという菓子を食べながら、留三郎は例の"恋文"に目を通していた顔を上げる。
「…まあ、今度依頼が来ても丁重にお断りするしかないな。」
「はい……」
「…俺が代わりに行こうか?」
「何卒お願い致します……」
深々と頭を下げ、文字通り、同室に頭が上がらない伊作であった。
後書き。
仏頂面で、今回はその表情の通りに不機嫌な長次。
言うつもりはない、けど"何か"を残さずにはいられない。
痛くない程度に、明日にはもう忘れてしまってもいいけど、今だけ。だから頬をつねる。
彼からしたら、気まぐれ&わがまま&甘えんぼ猫化夢主に振り回されて、その上猫化した時のこと結局覚えとらんのかーい、て感じですよね…。
最後までギャグ調で行こうと思ったんですけど、どうもシリアスを混ぜがちになってしまう。
因みにですが伊作に護衛を依頼した姫様(モブその2)は、足を滑らせたのもきっと確信犯でしょうね。笑
そして代わりに来た留三郎に目移りしてまた恋文出すけど、「へー、三禁破りじゃん」と夢主の反応は伊作の時と180°違うっていう。笑