そのうすべに色を隠して。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※各自エピソード編、第一回目
※文次郎視点
※五年生回想
※※※かなりシリアス内容&胸糞展開含むので要注意。苦手な方は回避推奨。
一部流血、暴力描写あり。
※出現情報:素行の悪すぎるモブ(よく喋る)
あいつの隣に、君はいる。 其ノ壱
『同じ道を目指す者』
いつもの鍛錬に行く途中だった。
茂みに隠れるようにうずくまっているのが、藤色の制服の、よく知る級友の姿だと気付いて声をかける。
「陽太?何して…」
「ーーーーーーー助けて、文次郎…」
強気で意地っ張りなそいつにしては、いつになく、弱々しい、そして切羽詰まった瞳。
陽太は、立てない、とこれも弱々しい、まるで力の無い声で助けを求めてきた。
「はあ?立てない?鍛錬の途中か。ったく、だらしねぇにも程が、」
いつもの調子で軽口を叩きつつ肩を貸そうとした瞬間、ーーーーーーーーーー気付いた。
青ざめた顔、汗が滲むこめかみ、浅い呼吸。
よく見ると、右足の忍足袋に、濃い色がじわりと滲んでいた。
「お前っ…見せてみろ。…誰にやられた?!」
「っ…」
まさか、学園に侵入者でも入ったのか?追及しようとして、すぐに俺は思い直す。馬鹿か、そんなことより怪我の手当てが先に決まっているのに。
眉間に深い皺を刻む陽太の、細い腕を背中から自分の肩にかけさせながら、
「医務室行くぞ、暴れんなよ。」
背負った、ーーーーーーーーーー瞬間。肩甲骨の辺りに確かに感じた、晒を巻いていても分かる微かな"膨らみ"に一瞬気を取られかけて。すぐに、考えを振り切るように医務室を目指してひた走った。
……俺も、鍛錬がまだまだ足りないらしい。
「…黙っていたら分からないよ?」
困ったような、というより珍しく伊作は、少し怒ったような声を出した。
陽太は、利き足に毒薬の着いた手裏剣、いわゆる毒剣を喰らっていた。毒と言っても今回のはしびれ薬の類だったらしいが、それでも、血が流れるほどの傷をも負っていた。
それなのに、陽太は誰にやられたのか、言おうとしなかった。相手が誰か分からない、とも言わないのだ。
これだけ心配をかけておきながら一言も喋ろうとしない陽太に、医務室に連れてきた俺は勿論だが、手当てをした伊作が怒るのも当然、という訳である。俺もため息をついて、腕を組む。
「ね、陽太。ここには僕と文次郎しかいないんだからさ。僕らも、他の人に言わない……」
手当てをされている時から変わらずずっと俯いているその顔を、そばに座る伊作が優しく伺いかけた、その時。
「上町ー、足大丈夫かぁ?」
見知った六年生の先輩三人が、医務室の障子を開けて顔を覗かせ。
ーーーーーーーーーー俺は、いや恐らく伊作も、見逃さなかった。彼らが来たその瞬間に、陽太が一瞬ビクッと肩を震わせたのを。
「おっ流石保健委員、手当てはもう済んでるみたいだな!良かったじゃないか、上町。」
中に入って来た三人の先輩のうちの一人に手を伸ばされ、まだ痛むはずの足をおしてでも陽太は、そばにいた伊作の後ろに身を隠そうとする。
伊作も察したのか、陽太を庇うように先輩との間に自分の体を入れる。
「…先輩方、申し訳ありませんがここは医務室なので、もう少しお静かに願えませんでしょうか?」
「そーんな怖い顔すんなよ、善法寺。俺らは上町を心配して…」
「先輩。どうして陽太が医務室にいるって、分かったんです?…先輩がお声をかけられたの、戸を開ける前でしたよね?」
その時の俺の声は、意外と冷静さを保てていたように思う。
「何だよ潮江、お前までおっかねぇ顔して。」
「それに、足を怪我しているということも。……先輩方が犯人だとは、私は思いたくありませんが?」
怯えきった陽太の様子。
理解するにはそれだけで、じゅうぶんだった。
いつものこいつなら、相手が上級生であれ喩え追いかけられてもその持ち前の瞬発力と俊足で、捕まるようなことには絶対にならない。
だがそれは、罠や武器で不意打ちをかけられなければ、の話で。
そうまでしてこいつを、追い詰めるようなことをする理由があるとすれば、それは。
陽太の頭に触れようとしていた先輩は、睨み続ける俺に、おどけた様子で肩を竦めてみせる。
「何だ、見破るなんて流石、潮江だなあ!これなら俺らが卒業しても、忍術学園は安泰だな。」
「誤魔化さないで下さい。」
「……ちっ。何だよお前ら、揃いも揃ってマジな顔して。ただの遊びだろ?」
「上町がいつも覆面してんだから、一度くらい素顔を見たくなってもおかしくねぇじゃねえか。大体上町、お前だって手裏剣の一つくらい躱せないと駄目だろ。」
「こいつの覆面を外させるのは、先生方からも禁止されていることです。先輩ともあろう方たちが、それをお忘れとは思いも寄りませんでしたが。」
「……潮江、お前ちょーっと調子に乗ってないか?」
胸倉を掴まれかけた時。校医の新野先生が戻ってこられた。先生は、先輩三人に向けて穏やかに話しかける。
「おや、君たち。病気や怪我をしているようには見えないけど?良ければ診てあげようか。」
流石に先生相手では、先輩方も強く出られないようで、青い顔で愛想笑いを浮かべながらそそくさと退出していった。
新野先生に、しばらく休んでいくように言われた陽太に、俺と伊作もそのまま付き添うことにした。
簡易に用意されたベッドの上に座り込む陽太の近くに俺は腰を下ろして、伊作は保健委員としての仕事や新野先生の手伝いをしながら。
包帯を巻かれた右足を見つめて沈んだように黙っている陽太に、俺は声をかけてやる。
「相手が先輩だからって、遠慮することなかっただろ。使われたの、毒剣だぞ?」
それでもその横顔は、思い詰めたような顔のままだった。
伊作の手伝いを受けながら薬を整頓していた新野先生が、執り成すように話しかけてくる。
「まあ、潮江君。心配だろうけど、幸い後遺症が残るようなものではないから。」
今回の件は、陽太が医務室に運び込まれた時点で先生方も把握されていたらしく、外出から戻られたばかりの新野先生も、事の顛末を他の先生から共有されて既にご存知だったそうだ。
医務室を出て行った先輩方も、今頃、先生方にとっ捕まって厳重に警告されていることだろう。
「彼らは、忍者よりも忍者らしいね。良い意味だけでなく、悪い意味でも。」
先生の、その何気ない一言が妙に耳に残った。そして、その言葉に俺を含めその場の誰も返すことができない。
俺も、少しショックを受けていたのかもしれない。先輩がこんなことをするなんて、と。
普段周りにいる連中があまりにも良い奴らすぎて、それは甘いと言われてしまっても仕方がないけれど、つい忘れてしまっていたのだろうか。
自分たちは、忍者なのだと。
陽太が、ぽつりと呟く。
「…私、守られてるばっかりだよね。情けないなぁ。」
随分と弱気な姿に、どうしてだか、苛々してしまう。それは多分、似合わないと思ってしまうからで。
「けっ。そう思うんだったら、弱音吐く前にもっと鍛錬しやがれ。」
「……文次郎きらい。」
「はあ?!何だよそれ?!」
「まあまあ、喧嘩しないで…。」
苦笑する伊作に止めに入られて、そのまま会話は終わってしまった。俺の方からも、もう声をかけることはしなくて。
…忠告しておくべきかどうか、その時はまだ迷っていたから。
そんなことがあって。その、数日後のことだった。
「潮江ぇ、この前は上町の世話ご苦労だったなあ。」
人気の無い校舎裏で、囲んでいきなり人の横っ面をぶん殴っておきながら、先輩のその、さも、感謝してるとでもいうような声音に薄ら寒さすら感じる。
「……御用がお済みならもう行ってもいいですか?」
「まぁ待て待て。ゆっくり話そうぜ?」
取り合わないようにしようと、殴られた頬に手を当てながら去ろうとする俺を、別の先輩が首は絞めない程度に腕を回して、引き止めてくる。そして、耳打ちされた。
「上町って、覆面してるけど男の割に可愛い目元してるよなあ。…まるで女みたいだよな。」
ーーーーーーーーーー見抜いていたのだ。
それがいつからなのか、もうそんなことはどうでもいいけれど。その次の、また別の先輩の言葉は、到底どうでもいいと捨て置くわけにはいかなくて。
「なあ潮江、一つ頼まれてくれよ。俺たち、上町とどうしても話したいことがあるんだ。…そこの古い倉庫の中で待ってるから、上町を連れてきてくれないか?」
ぞわり、と。走る寒気に全身を襲われる。
陽太を女だと見抜いている先輩たちが、何故そんなことを頼んでくるのか。
その言葉の意味が、分からないわけでは決してなかった。
もしあいつを連れてきたらその後にどんな結末が待っているか、想像できてしまうほどには俺も無知ではなくて。
三人がかりでなくとも簡単に押さえ込まれる四肢。恐怖に震え、あげたくもないはずの声。
抵抗すれば、また毒剣をちらつかせられ、脅されて。
そして、意に反して素肌を晒される、体。
ーーーーーーーーーー起こり得る結末としての、あいつのその"姿"が想像の中に浮かんだだけで、心の臓が嫌な音を立ててしまうのはやはり俺の精神が脆弱だからなのだろうか。……だけど、
「俺らが楽しんだ後に、お前にも、良い思いさせてやるからよ。早く連れてこいよ。」
それを。あいつに少しは信頼されているはずの俺に、手引きまでさせて、黙って見ていろと。
その上で俺に、自分たちと同じ罪を被れと。
見くびられている。この自分が。
先輩たちの誘いに乗るものと思われている。この俺が。
そしてそれ以上に湧き上がってくる感情に、俺は気付いていた。
「級友だからって遠慮してるのか?…大丈夫さ、俺たちは何も悪くない。油断する方が悪いんだから。なあ?」
「裏切るのは忍者の性、ってな。」
困った所は多々あれど、曲がりなりにもこの人たちを、先輩だと思っていたのに。
仮にも、だ。
相手が女だからだとしても、そいつに隙があるからいけないのだとしても。
仮にも、同じ学園に通う後輩を相手に、そんなことを考えているとは。
俺の同級生に対して、そんな目を向けているとは。
男の風上にも置けない、とはこういう奴らのことを言うのだろうと。
そんなふうに思ったら、口から笑いが漏れてきて。
先輩たちの顔がみるみる険しくなっていっても、その笑いが止まることはなかった。
「…何がそんなにおかしい?」
「ええ先輩、これほどおかしいことも、そうそうないですよ。」
新野先生の仰った通り、彼らは忍者よりも忍者らしいのだろう。
目的のためならどんな手でも使おうとする。どんな武器を使うことも、どんなやり方を取ることも厭わない、その姿勢はむしろ潔ささえ感じるほどだ。
けれど。
標的にされたのが陽太だったからなのか。こんなにも、怒りを覚えてしまうのは。
こいつらが俺の目指すものと同じものになろうとしているなんて、到底認められなくて。
忍者らしくはあるかもしれないが、こいつらは、忍者なんかじゃない。
己の欲に忠実なだけの、ただの獣と同等か、それ以下だ。
そう、思ったら。
俺は目の前の先輩に掴みかかっていた。
その後のことは、実はあまりよく覚えていない。
気を失っていたらしく、気が付くと俺は医務室に運ばれていたようで、目を開けて最初に映り込んだのはその部屋の天井と、
覆面を下ろした陽太の、ーーーーーーーひまりの、涙とか鼻水でぐっしゃぐしゃになった顔だった。
「文次郎っ…!!」
俺と目が合ったからなのか、その瞳は、またぶわり、と涙を溢れさせて。
「良かった、目が覚めて。」
「大変だったぞ、お前を運ぶの。」
伊作、仙蔵の声もする。
起きあがろうとしたが、「駄目だよ肋骨折れてるから!」と慌てて言う伊作の声と同時に激痛が走り、殆ど上がらないまま再び布団の上に身を預ける羽目になった。
腕も、足も、あちこち包帯が巻かれている感触。
一体、どれほど時間が経っていたのだろうな。
そんなふうにぼんやり考える俺の胸の上に、ひまりが額を落として泣きつく。
「ばか、ばか、ばかっ!何で、喧嘩なんか、こんなになるまで…もんじろ、の、ばかぁ……っ」
胸の辺りに、ぬくい涙がじんわりと染みていくのを感じた。
「文次郎、が、あの時、私を助けたから…先輩に食ってかかったから、…私を庇うからっ…私のせいで……!」
「……馬鹿だな、お前。」
頬に貼られた湿布を鬱陶しく思いながら、口を開く。
こんな言い方しかできないのは、もう、性分なんだろうな。
「やられたのがお前じゃなくたって、俺はそうする。」
まあ、留三郎だけは放っとくけどな、と思い浮かべた相手に向けて心の中で舌を出しつつ。
「この件で言い合うの、もうナシだからな。疲れてんだ、俺はもう一回寝る。」
しっし、と手の先だけ動かして追い払う真似をする。まだ何か不満そうにぎゃあぎゃあ言っているそいつを、宥めながら医務室の外に連れて行く伊作に任せて、俺は目を閉じようとした。
「……言わなくて良かったのか。」
ついでに仙蔵にも出て行って貰いたかったと思いながら。
「何の話だよ。俺マジでまだ眠ぃんだから、」
「それとも、伊作に気でも遣ったか?」
とぼけるつもりだったが仙蔵は、はぐらかされる気はないらしい。面倒だな、と思った。
「私は別にお前を責めてるわけではない。好いた女がもしかしたら手籠にされていたかもしれないというのに、自分が気付いてやれなかったのだと知ったら奴とて、ショックどころでは…」
「俺がそこまで情を移してると思うか?伊作に対しても、…あいつに対しても。」
どうしたってお前は女の体なんだからもっと警戒しろよ、とも。
後悔したくないなら今度はちゃんと守ってやれ、とも。
親切のつもりの助言はどちらも、第三者の俺の口から言うべきじゃない。自分たちで気付くべきだと、思ったから。
「…俺が先輩を殴ったのも、別にあいつの為とかじゃない。俺自身が見くびられたからだ。」
「お前も大概、素直ではないな。」
ほっとけ、と呟くのは心の内にとどめておく。
「私からも言わないでおいてやる代わりに、手負いのお前を運んだ労働力と運ぶ時に血が着いた制服を洗う手間に釣り合う対価をきちんと払ってもらうからな。」
「あーもう分かったから…悪かった。動けるようになったらまた何か奢ってやるから、とりあえず今はホントに寝かせてくれ。」
「案ずるな。先輩たちが来ないよう見張っててやる。ゆっくり養生しろ。」
「おう…。」
その口ぶりで、医務室の外にも"見知った級友"たちが守りを固めて待機しているのだと見当づけることができた。流石の俺も、余計なことだと突っぱねるには少々重傷を負いすぎた。
治ったら、今までの倍以上、鍛錬しないとな。そう考えながら、その時は再び目を閉じたのだった。
まだ動くなと怒る伊作の忠告を聞き流しながら、鍛錬を徐々に再開していった頃。
塀の上に腰掛けてボンヤリ遠くを見つめる様子の、陽太の背中を見つけて声をかける。
「何してんだ。」
「別に。何でもいいじゃん。」
隣に立った俺をチラリと見上げただけで、陽太は張りのない声で返してくる。
「…聞いたかもしれないが、先輩たちのこと、」
「うん。全員退学だってね。別にどうでもいいけど。」
「そうだな。別に、俺たちにはもう関係無いことだ。」
あの三人が卒業を待たず退学になったのは、何も、今回の陽太や俺にまつわる件が絡んでいるというわけではなくて。先輩が行ったインターン先で問題を起こしていたのが発覚したからだとか、隠れて外部で色や酒に溺れていただとか、そういうくだらないことばかりで。
もう、さして興味もないことだった。
けれど。それなら何故陽太は、こんなにも浮かない顔をしているのか。
その答えは、ふとこぼれた彼女の呟きが教えてくれた。
「こんなことになるの、…私が女の体だから駄目なのかな。」
ーーーーーーーーーー三人に狙われていたことに、本当は気付いていたのだろうか。
自分の体が女である故に男に狙われることを、それよりも前から理解していたのか。
それとも、単に、男に腕力で敵わないことを嘆いているのか。利き足を狙われたら簡単に対処できなくなる、己の力不足に。
どちらの意味だったのか。その一言だけでは図りかねる。
…だが、いずれであったとしても、自分が言うべきことは別にある。
「お前、泣き言言うためにここにいるのか?」
「…違う。」
「なら、理由にするな。自分が女だってことを。」
この件で言い合うのはもうナシだと俺は言ったんだ。
お互いに負い目を感じながらなんて、息苦しくて俺はそんなのごめんだ。
今まで通りで、いいんだから。
また、きらい、とか言われるのだとばかり思っていた所へ、こうだ。
「文次郎。…ありがとう。」
半分以上"わざと"が含まれるため息を、これ見よがしについてやる。
「お前な、"それ"も、忍者の三禁の内だからな?」
「は?何だよ、人が折角素直になってやったっていうのに…!」
バッと顔を上げてぶうたれるその様子に、何故だか、笑いが込み上げてくる。
その頭に、ぽん、と手を置いた。
「だから、これでおあいこ、な。」
二、三度。軽く叩いてから手を下ろして、俺はそのまま塀から降りてそこを立ち去る。
泣きそうになっている顔を、想像しながら。
泣いてちゃ忍者になれねぇぞと、心の中で呼びかけながら。
振り返らずに歩く中、遥か後ろの方でもう一度、ありがとう、と呟く声が聞こえた気がした。
俺も本当に、まだまだ鍛錬が足りないらしい。
後書き。
このページからは伊作以外の五人それぞれの視点でのエピソードを順番に上げていきます。
第一回目は文次郎で、唯一の過去話となりました。
でもこれ、本当に夢小説か???っていうくらいヘビーな内容になってしまいました。汗
そして、どクズなモブ先輩登場させてすんませんでした……
一応、六年生の先輩は他にも数名いるという脳内設定です。今回の三人以外はマトモな人格のはず。多分。知らんけど(
本当は忍術学園にあんな先輩いてほしくないんですけど、世の中良い奴ばっかりじゃないっていうことで…所詮モブですし…
その代わり(?)今回は文次郎を男前に書いたつもりです。つもりだけど。笑
人一倍強い気持ちで忍者を目指す彼の矜持というか、真剣さみたいなところが書けていたらいいなと思います。
ちょっと補足。後半の医務室の仙蔵との会話で、伊作と夢主それぞれに敢えて何も助言しない、みたいなこと言ってたのは、忍者の三禁の一つ、"色"を破らないという彼自身の誓いからきています。ここでの色は、イコール他人に対する情というか。広義な意味の方で。
なので終盤、弱気になっている夢主に慰めるようなことをした時、彼としてはその誓いを破ってしまったことになると思っています。弱音を吐いたり、ありがとうと言ってしまったりと夢主もある意味"色"を破ってしまっているので、それに対して「おあいこ」という訳です。
これがもし留三郎だったら熱血な彼らしいというか、情が厚いということで、ちょっとキレ気味にすぐ助言するんでしょうね。拙宅文次郎も別に全くの無情ってわけではないんですが。厳しいお父さん的な…
どうあっても父性が取り除けない文次郎。笑
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
※文次郎視点
※五年生回想
※※※かなりシリアス内容&胸糞展開含むので要注意。苦手な方は回避推奨。
一部流血、暴力描写あり。
※出現情報:素行の悪すぎるモブ(よく喋る)
あいつの隣に、君はいる。 其ノ壱
『同じ道を目指す者』
いつもの鍛錬に行く途中だった。
茂みに隠れるようにうずくまっているのが、藤色の制服の、よく知る級友の姿だと気付いて声をかける。
「陽太?何して…」
「ーーーーーーー助けて、文次郎…」
強気で意地っ張りなそいつにしては、いつになく、弱々しい、そして切羽詰まった瞳。
陽太は、立てない、とこれも弱々しい、まるで力の無い声で助けを求めてきた。
「はあ?立てない?鍛錬の途中か。ったく、だらしねぇにも程が、」
いつもの調子で軽口を叩きつつ肩を貸そうとした瞬間、ーーーーーーーーーー気付いた。
青ざめた顔、汗が滲むこめかみ、浅い呼吸。
よく見ると、右足の忍足袋に、濃い色がじわりと滲んでいた。
「お前っ…見せてみろ。…誰にやられた?!」
「っ…」
まさか、学園に侵入者でも入ったのか?追及しようとして、すぐに俺は思い直す。馬鹿か、そんなことより怪我の手当てが先に決まっているのに。
眉間に深い皺を刻む陽太の、細い腕を背中から自分の肩にかけさせながら、
「医務室行くぞ、暴れんなよ。」
背負った、ーーーーーーーーーー瞬間。肩甲骨の辺りに確かに感じた、晒を巻いていても分かる微かな"膨らみ"に一瞬気を取られかけて。すぐに、考えを振り切るように医務室を目指してひた走った。
……俺も、鍛錬がまだまだ足りないらしい。
「…黙っていたら分からないよ?」
困ったような、というより珍しく伊作は、少し怒ったような声を出した。
陽太は、利き足に毒薬の着いた手裏剣、いわゆる毒剣を喰らっていた。毒と言っても今回のはしびれ薬の類だったらしいが、それでも、血が流れるほどの傷をも負っていた。
それなのに、陽太は誰にやられたのか、言おうとしなかった。相手が誰か分からない、とも言わないのだ。
これだけ心配をかけておきながら一言も喋ろうとしない陽太に、医務室に連れてきた俺は勿論だが、手当てをした伊作が怒るのも当然、という訳である。俺もため息をついて、腕を組む。
「ね、陽太。ここには僕と文次郎しかいないんだからさ。僕らも、他の人に言わない……」
手当てをされている時から変わらずずっと俯いているその顔を、そばに座る伊作が優しく伺いかけた、その時。
「上町ー、足大丈夫かぁ?」
見知った六年生の先輩三人が、医務室の障子を開けて顔を覗かせ。
ーーーーーーーーーー俺は、いや恐らく伊作も、見逃さなかった。彼らが来たその瞬間に、陽太が一瞬ビクッと肩を震わせたのを。
「おっ流石保健委員、手当てはもう済んでるみたいだな!良かったじゃないか、上町。」
中に入って来た三人の先輩のうちの一人に手を伸ばされ、まだ痛むはずの足をおしてでも陽太は、そばにいた伊作の後ろに身を隠そうとする。
伊作も察したのか、陽太を庇うように先輩との間に自分の体を入れる。
「…先輩方、申し訳ありませんがここは医務室なので、もう少しお静かに願えませんでしょうか?」
「そーんな怖い顔すんなよ、善法寺。俺らは上町を心配して…」
「先輩。どうして陽太が医務室にいるって、分かったんです?…先輩がお声をかけられたの、戸を開ける前でしたよね?」
その時の俺の声は、意外と冷静さを保てていたように思う。
「何だよ潮江、お前までおっかねぇ顔して。」
「それに、足を怪我しているということも。……先輩方が犯人だとは、私は思いたくありませんが?」
怯えきった陽太の様子。
理解するにはそれだけで、じゅうぶんだった。
いつものこいつなら、相手が上級生であれ喩え追いかけられてもその持ち前の瞬発力と俊足で、捕まるようなことには絶対にならない。
だがそれは、罠や武器で不意打ちをかけられなければ、の話で。
そうまでしてこいつを、追い詰めるようなことをする理由があるとすれば、それは。
陽太の頭に触れようとしていた先輩は、睨み続ける俺に、おどけた様子で肩を竦めてみせる。
「何だ、見破るなんて流石、潮江だなあ!これなら俺らが卒業しても、忍術学園は安泰だな。」
「誤魔化さないで下さい。」
「……ちっ。何だよお前ら、揃いも揃ってマジな顔して。ただの遊びだろ?」
「上町がいつも覆面してんだから、一度くらい素顔を見たくなってもおかしくねぇじゃねえか。大体上町、お前だって手裏剣の一つくらい躱せないと駄目だろ。」
「こいつの覆面を外させるのは、先生方からも禁止されていることです。先輩ともあろう方たちが、それをお忘れとは思いも寄りませんでしたが。」
「……潮江、お前ちょーっと調子に乗ってないか?」
胸倉を掴まれかけた時。校医の新野先生が戻ってこられた。先生は、先輩三人に向けて穏やかに話しかける。
「おや、君たち。病気や怪我をしているようには見えないけど?良ければ診てあげようか。」
流石に先生相手では、先輩方も強く出られないようで、青い顔で愛想笑いを浮かべながらそそくさと退出していった。
新野先生に、しばらく休んでいくように言われた陽太に、俺と伊作もそのまま付き添うことにした。
簡易に用意されたベッドの上に座り込む陽太の近くに俺は腰を下ろして、伊作は保健委員としての仕事や新野先生の手伝いをしながら。
包帯を巻かれた右足を見つめて沈んだように黙っている陽太に、俺は声をかけてやる。
「相手が先輩だからって、遠慮することなかっただろ。使われたの、毒剣だぞ?」
それでもその横顔は、思い詰めたような顔のままだった。
伊作の手伝いを受けながら薬を整頓していた新野先生が、執り成すように話しかけてくる。
「まあ、潮江君。心配だろうけど、幸い後遺症が残るようなものではないから。」
今回の件は、陽太が医務室に運び込まれた時点で先生方も把握されていたらしく、外出から戻られたばかりの新野先生も、事の顛末を他の先生から共有されて既にご存知だったそうだ。
医務室を出て行った先輩方も、今頃、先生方にとっ捕まって厳重に警告されていることだろう。
「彼らは、忍者よりも忍者らしいね。良い意味だけでなく、悪い意味でも。」
先生の、その何気ない一言が妙に耳に残った。そして、その言葉に俺を含めその場の誰も返すことができない。
俺も、少しショックを受けていたのかもしれない。先輩がこんなことをするなんて、と。
普段周りにいる連中があまりにも良い奴らすぎて、それは甘いと言われてしまっても仕方がないけれど、つい忘れてしまっていたのだろうか。
自分たちは、忍者なのだと。
陽太が、ぽつりと呟く。
「…私、守られてるばっかりだよね。情けないなぁ。」
随分と弱気な姿に、どうしてだか、苛々してしまう。それは多分、似合わないと思ってしまうからで。
「けっ。そう思うんだったら、弱音吐く前にもっと鍛錬しやがれ。」
「……文次郎きらい。」
「はあ?!何だよそれ?!」
「まあまあ、喧嘩しないで…。」
苦笑する伊作に止めに入られて、そのまま会話は終わってしまった。俺の方からも、もう声をかけることはしなくて。
…忠告しておくべきかどうか、その時はまだ迷っていたから。
そんなことがあって。その、数日後のことだった。
「潮江ぇ、この前は上町の世話ご苦労だったなあ。」
人気の無い校舎裏で、囲んでいきなり人の横っ面をぶん殴っておきながら、先輩のその、さも、感謝してるとでもいうような声音に薄ら寒さすら感じる。
「……御用がお済みならもう行ってもいいですか?」
「まぁ待て待て。ゆっくり話そうぜ?」
取り合わないようにしようと、殴られた頬に手を当てながら去ろうとする俺を、別の先輩が首は絞めない程度に腕を回して、引き止めてくる。そして、耳打ちされた。
「上町って、覆面してるけど男の割に可愛い目元してるよなあ。…まるで女みたいだよな。」
ーーーーーーーーーー見抜いていたのだ。
それがいつからなのか、もうそんなことはどうでもいいけれど。その次の、また別の先輩の言葉は、到底どうでもいいと捨て置くわけにはいかなくて。
「なあ潮江、一つ頼まれてくれよ。俺たち、上町とどうしても話したいことがあるんだ。…そこの古い倉庫の中で待ってるから、上町を連れてきてくれないか?」
ぞわり、と。走る寒気に全身を襲われる。
陽太を女だと見抜いている先輩たちが、何故そんなことを頼んでくるのか。
その言葉の意味が、分からないわけでは決してなかった。
もしあいつを連れてきたらその後にどんな結末が待っているか、想像できてしまうほどには俺も無知ではなくて。
三人がかりでなくとも簡単に押さえ込まれる四肢。恐怖に震え、あげたくもないはずの声。
抵抗すれば、また毒剣をちらつかせられ、脅されて。
そして、意に反して素肌を晒される、体。
ーーーーーーーーーー起こり得る結末としての、あいつのその"姿"が想像の中に浮かんだだけで、心の臓が嫌な音を立ててしまうのはやはり俺の精神が脆弱だからなのだろうか。……だけど、
「俺らが楽しんだ後に、お前にも、良い思いさせてやるからよ。早く連れてこいよ。」
それを。あいつに少しは信頼されているはずの俺に、手引きまでさせて、黙って見ていろと。
その上で俺に、自分たちと同じ罪を被れと。
見くびられている。この自分が。
先輩たちの誘いに乗るものと思われている。この俺が。
そしてそれ以上に湧き上がってくる感情に、俺は気付いていた。
「級友だからって遠慮してるのか?…大丈夫さ、俺たちは何も悪くない。油断する方が悪いんだから。なあ?」
「裏切るのは忍者の性、ってな。」
困った所は多々あれど、曲がりなりにもこの人たちを、先輩だと思っていたのに。
仮にも、だ。
相手が女だからだとしても、そいつに隙があるからいけないのだとしても。
仮にも、同じ学園に通う後輩を相手に、そんなことを考えているとは。
俺の同級生に対して、そんな目を向けているとは。
男の風上にも置けない、とはこういう奴らのことを言うのだろうと。
そんなふうに思ったら、口から笑いが漏れてきて。
先輩たちの顔がみるみる険しくなっていっても、その笑いが止まることはなかった。
「…何がそんなにおかしい?」
「ええ先輩、これほどおかしいことも、そうそうないですよ。」
新野先生の仰った通り、彼らは忍者よりも忍者らしいのだろう。
目的のためならどんな手でも使おうとする。どんな武器を使うことも、どんなやり方を取ることも厭わない、その姿勢はむしろ潔ささえ感じるほどだ。
けれど。
標的にされたのが陽太だったからなのか。こんなにも、怒りを覚えてしまうのは。
こいつらが俺の目指すものと同じものになろうとしているなんて、到底認められなくて。
忍者らしくはあるかもしれないが、こいつらは、忍者なんかじゃない。
己の欲に忠実なだけの、ただの獣と同等か、それ以下だ。
そう、思ったら。
俺は目の前の先輩に掴みかかっていた。
その後のことは、実はあまりよく覚えていない。
気を失っていたらしく、気が付くと俺は医務室に運ばれていたようで、目を開けて最初に映り込んだのはその部屋の天井と、
覆面を下ろした陽太の、ーーーーーーーひまりの、涙とか鼻水でぐっしゃぐしゃになった顔だった。
「文次郎っ…!!」
俺と目が合ったからなのか、その瞳は、またぶわり、と涙を溢れさせて。
「良かった、目が覚めて。」
「大変だったぞ、お前を運ぶの。」
伊作、仙蔵の声もする。
起きあがろうとしたが、「駄目だよ肋骨折れてるから!」と慌てて言う伊作の声と同時に激痛が走り、殆ど上がらないまま再び布団の上に身を預ける羽目になった。
腕も、足も、あちこち包帯が巻かれている感触。
一体、どれほど時間が経っていたのだろうな。
そんなふうにぼんやり考える俺の胸の上に、ひまりが額を落として泣きつく。
「ばか、ばか、ばかっ!何で、喧嘩なんか、こんなになるまで…もんじろ、の、ばかぁ……っ」
胸の辺りに、ぬくい涙がじんわりと染みていくのを感じた。
「文次郎、が、あの時、私を助けたから…先輩に食ってかかったから、…私を庇うからっ…私のせいで……!」
「……馬鹿だな、お前。」
頬に貼られた湿布を鬱陶しく思いながら、口を開く。
こんな言い方しかできないのは、もう、性分なんだろうな。
「やられたのがお前じゃなくたって、俺はそうする。」
まあ、留三郎だけは放っとくけどな、と思い浮かべた相手に向けて心の中で舌を出しつつ。
「この件で言い合うの、もうナシだからな。疲れてんだ、俺はもう一回寝る。」
しっし、と手の先だけ動かして追い払う真似をする。まだ何か不満そうにぎゃあぎゃあ言っているそいつを、宥めながら医務室の外に連れて行く伊作に任せて、俺は目を閉じようとした。
「……言わなくて良かったのか。」
ついでに仙蔵にも出て行って貰いたかったと思いながら。
「何の話だよ。俺マジでまだ眠ぃんだから、」
「それとも、伊作に気でも遣ったか?」
とぼけるつもりだったが仙蔵は、はぐらかされる気はないらしい。面倒だな、と思った。
「私は別にお前を責めてるわけではない。好いた女がもしかしたら手籠にされていたかもしれないというのに、自分が気付いてやれなかったのだと知ったら奴とて、ショックどころでは…」
「俺がそこまで情を移してると思うか?伊作に対しても、…あいつに対しても。」
どうしたってお前は女の体なんだからもっと警戒しろよ、とも。
後悔したくないなら今度はちゃんと守ってやれ、とも。
親切のつもりの助言はどちらも、第三者の俺の口から言うべきじゃない。自分たちで気付くべきだと、思ったから。
「…俺が先輩を殴ったのも、別にあいつの為とかじゃない。俺自身が見くびられたからだ。」
「お前も大概、素直ではないな。」
ほっとけ、と呟くのは心の内にとどめておく。
「私からも言わないでおいてやる代わりに、手負いのお前を運んだ労働力と運ぶ時に血が着いた制服を洗う手間に釣り合う対価をきちんと払ってもらうからな。」
「あーもう分かったから…悪かった。動けるようになったらまた何か奢ってやるから、とりあえず今はホントに寝かせてくれ。」
「案ずるな。先輩たちが来ないよう見張っててやる。ゆっくり養生しろ。」
「おう…。」
その口ぶりで、医務室の外にも"見知った級友"たちが守りを固めて待機しているのだと見当づけることができた。流石の俺も、余計なことだと突っぱねるには少々重傷を負いすぎた。
治ったら、今までの倍以上、鍛錬しないとな。そう考えながら、その時は再び目を閉じたのだった。
まだ動くなと怒る伊作の忠告を聞き流しながら、鍛錬を徐々に再開していった頃。
塀の上に腰掛けてボンヤリ遠くを見つめる様子の、陽太の背中を見つけて声をかける。
「何してんだ。」
「別に。何でもいいじゃん。」
隣に立った俺をチラリと見上げただけで、陽太は張りのない声で返してくる。
「…聞いたかもしれないが、先輩たちのこと、」
「うん。全員退学だってね。別にどうでもいいけど。」
「そうだな。別に、俺たちにはもう関係無いことだ。」
あの三人が卒業を待たず退学になったのは、何も、今回の陽太や俺にまつわる件が絡んでいるというわけではなくて。先輩が行ったインターン先で問題を起こしていたのが発覚したからだとか、隠れて外部で色や酒に溺れていただとか、そういうくだらないことばかりで。
もう、さして興味もないことだった。
けれど。それなら何故陽太は、こんなにも浮かない顔をしているのか。
その答えは、ふとこぼれた彼女の呟きが教えてくれた。
「こんなことになるの、…私が女の体だから駄目なのかな。」
ーーーーーーーーーー三人に狙われていたことに、本当は気付いていたのだろうか。
自分の体が女である故に男に狙われることを、それよりも前から理解していたのか。
それとも、単に、男に腕力で敵わないことを嘆いているのか。利き足を狙われたら簡単に対処できなくなる、己の力不足に。
どちらの意味だったのか。その一言だけでは図りかねる。
…だが、いずれであったとしても、自分が言うべきことは別にある。
「お前、泣き言言うためにここにいるのか?」
「…違う。」
「なら、理由にするな。自分が女だってことを。」
この件で言い合うのはもうナシだと俺は言ったんだ。
お互いに負い目を感じながらなんて、息苦しくて俺はそんなのごめんだ。
今まで通りで、いいんだから。
また、きらい、とか言われるのだとばかり思っていた所へ、こうだ。
「文次郎。…ありがとう。」
半分以上"わざと"が含まれるため息を、これ見よがしについてやる。
「お前な、"それ"も、忍者の三禁の内だからな?」
「は?何だよ、人が折角素直になってやったっていうのに…!」
バッと顔を上げてぶうたれるその様子に、何故だか、笑いが込み上げてくる。
その頭に、ぽん、と手を置いた。
「だから、これでおあいこ、な。」
二、三度。軽く叩いてから手を下ろして、俺はそのまま塀から降りてそこを立ち去る。
泣きそうになっている顔を、想像しながら。
泣いてちゃ忍者になれねぇぞと、心の中で呼びかけながら。
振り返らずに歩く中、遥か後ろの方でもう一度、ありがとう、と呟く声が聞こえた気がした。
俺も本当に、まだまだ鍛錬が足りないらしい。
後書き。
このページからは伊作以外の五人それぞれの視点でのエピソードを順番に上げていきます。
第一回目は文次郎で、唯一の過去話となりました。
でもこれ、本当に夢小説か???っていうくらいヘビーな内容になってしまいました。汗
そして、どクズなモブ先輩登場させてすんませんでした……
一応、六年生の先輩は他にも数名いるという脳内設定です。今回の三人以外はマトモな人格のはず。多分。知らんけど(
本当は忍術学園にあんな先輩いてほしくないんですけど、世の中良い奴ばっかりじゃないっていうことで…所詮モブですし…
その代わり(?)今回は文次郎を男前に書いたつもりです。つもりだけど。笑
人一倍強い気持ちで忍者を目指す彼の矜持というか、真剣さみたいなところが書けていたらいいなと思います。
ちょっと補足。後半の医務室の仙蔵との会話で、伊作と夢主それぞれに敢えて何も助言しない、みたいなこと言ってたのは、忍者の三禁の一つ、"色"を破らないという彼自身の誓いからきています。ここでの色は、イコール他人に対する情というか。広義な意味の方で。
なので終盤、弱気になっている夢主に慰めるようなことをした時、彼としてはその誓いを破ってしまったことになると思っています。弱音を吐いたり、ありがとうと言ってしまったりと夢主もある意味"色"を破ってしまっているので、それに対して「おあいこ」という訳です。
これがもし留三郎だったら熱血な彼らしいというか、情が厚いということで、ちょっとキレ気味にすぐ助言するんでしょうね。拙宅文次郎も別に全くの無情ってわけではないんですが。厳しいお父さん的な…
どうあっても父性が取り除けない文次郎。笑
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!