そのうすべに色を隠して。
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『二十二頁 閑話 みんなの知らないキミとボク』
※オリジナル設定わっさり。
※本命との絡み無し。
忍術学園四年は組の編入生、斉藤タカ丸は六年い組、上町陽太の姿を遠目で見つけるや、手を振って声をかけた。
「あ。ねえ!髪結いさせ…」
その瞬間、木の根元に腰を下ろして読書していたその相手は、すぐさま立ち上がって走り去ってしまった。
「ああ、行っちゃった…」
ため息をついていると、「おやまあ。」と下の方から声がする。
「タカ丸さんじゃないですかぁ。どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね。上町先輩に髪結いさせてもらいたかったんだけど。…喜八郎こそ、何してるの?」
タカ丸と同じ四年生の綾部喜八郎が、彼が地面に掘ったらしい小さめの穴にすっぽり収まるように体育座りをしていたのでそう訊ねる。
「見ての通り、たこツボに入ってます。ター坊22号です。タカ丸さんも入りますか?」
同じ学年だが、タカ丸が途中編入の十五歳で年上ということで喜八郎は、敬語混じりでそう受け答えする。いわゆる一人用の塹壕、たこツボに入るかと何故か訊かれたタカ丸は、苦笑して首を振る。
「ううん、僕はいいよ。」
「タカ丸さーん。見てましたよ、さっきの。」
今度は背後の方から声をかけられて、振り返ると。タカ丸もよく見知っている年下の先輩二人が立っていた。
「久々知君、それに竹谷君も。」
「駄目ですよ、遠くから声かけるんじゃ。なるべく近付いてからじゃないと、あの人、初速ハンパないですからね。」
最初にもタカ丸に声をかけた竹谷八左ヱ門が笑って助言する横で、久々知兵助も言い添える。
「上町先輩を捕まえるのは容易ではないですよ?僕たち二人がかりでも、なかなか捕まらないんですから。」
「上町先輩って、色んな人から逃げてるんですねえ。」
たこツボのター坊22号の中から、喜八郎ものんびりとした口調で相槌を打っている。兵助も頷いて、腕を組んで小さくため息をついた。
「まあなぁ。…悪い人ではないとは思うんだけど、やっぱり、ねえ。」
「そもそも全然喋らない上に他学年ともあまり交流されないから、なんか、近寄りがたい感じするもんな。」
「けど、それでも貴重な六年生枠だからな。いつか必ず、我が火薬委員会の委員長にお迎えするんだ!」
「おい、ちょっと待てよ!先輩をお迎えするのはうちの生物委員会だぞ!」
「何を?!…あ、そうだ!タカ丸さんも火薬委員会なんですから、今度は是非僕と一緒に上町先輩を……って、あれ?」
「あれっ、タカ丸さんいない?」
「久々知先輩と竹谷先輩が言い争っている内に、どこかへ行ってしまいましたあ。」
のんびりと喜八郎が二人に教えた通り、その時既にタカ丸はその場を立ち去っていた。
「…皆ときたら、知った風に言っちゃってさ。」
歩きながら、口を尖らせてそう呟く彼は、ふと気配を察知して足を止める。すぐ近くの茂みから、顔をちょっとだけ出して手招きをする相手の方に近付いて。
「もう、ひまりちゃん。急に逃げるなんて、酷いよぉ。」
しゃがんで不満そうに言うと、相手、上町陽太はバツが悪そうに苦笑を返した。
「悪かったよ。さっきは久々知と竹谷の姿も遠くに見えていたからな。」
「あの二人、ひまりちゃんに委員長になってほしいんでしょ?何で、逃げてるの?」
「こっちにも色々と事情があるんだよ…。あとな、タカ丸。前にも言ったと思うがこの姿の時は、陽太と呼べ。女の名前で呼ぶな。」
「そう言われてもさあ…第一、それお兄さんの名前じゃない。僕、まだ馴染めないよ…。」
タカ丸が初めて忍術学園の四年生として編入してきた時、陽太は驚いたものだった。というのも、二人は幼い頃に家が近所同士だった、幼馴染なのである。
と言っても、タカ丸が現在住んでいる町に引っ越すまでの間のことで、最後に会ったのも精々五、六歳くらいの頃で。こうして再会するのも全くの偶然だった。
タカ丸の方は再会した時も大袈裟なくらい喜んでいたものだが、陽太にしてみれば人前でうっかり自分の本名を呼ばれないかと毎回ヒヤヒヤさせられて、正直なところ、あまりおおっぴらに会いたい相手ではなかった。
「…それと髪結いのことだが、特に困っていないので遠慮させてもらう。ずっと懇意にしているお店もあるからな。」
「そんなあ。僕は、君だったらいつでもどこでも、何度でも、髪結いしてあげるのに。」
「そんな特別扱いなどしてもらわなくて結構だ。」
タカ丸としてはかなりアピールしているつもりだったが、彼の目から見ても陽太の方は、心を動かされた様子は無い。タカ丸は一旦諦めて、しゃがんだまま陽太の方にやや近付くと少し真剣な顔をして言った。
「ねえ、訊きたいんだけどさ。どうしてわざわざ男に混じってまでプロ忍目指してるの?女の子なのに。」
「何だよ、目指しちゃいけないって言うのか?別にいいだろ、そんなの。」
「ひまりちゃん。そんな乱暴な言葉遣い、女の子なんだからしちゃ駄目だよ。」
「……。」
どんどん、相手が不機嫌になっていくのがタカ丸には分かる。けど、言わずにはいられなかった。
立ち上がって去ろうとする彼女を、咄嗟に手を掴んで引き留める。
「…顔に傷があるって言ってたね。でも僕は、そんなの全然気にしないよ。僕の父さんだって、きっと気にしない。」
「…私の生き方なんて私が決めることだ。」
不機嫌そうに下ろされる目線を、タカ丸は下から逸らさず真っ直ぐ見つめ返す。
「僕は、ひまりちゃんと結婚するって約束したんだから。前にも言ったでしょ?いつか必ず君を迎えに来るって。だから…ちゃんと待っててくれないと、やだよ。」
「そんなこと言われたって、……っ!」
片膝をついて、手の甲に口付けをすると、彼女は真っ赤になって手を振り払った。
「何するんだよっ?!」
「愛おしい人にするものだよ。海の向こうの国では、挨拶の意味もあるらしいけど。僕は、他の人にはこんなことしない。…ひまりちゃんが本当に好きなんだ。」
今日は、これ以上は無理かな。と、立ち上がりながらタカ丸は内心苦笑して、警戒心から一定の距離を保ち続ける彼女に精一杯笑いかける。
「また今度、髪結いさせてね。」
一方的に言い残して、返事は敢えて待たず、踵を返して立ち去った。
「……流石、女性にモテるだけあってアプローチも熱烈だな。」
陽太が立っている近くの木の上から声が降ってきたかと思うとその人物が降りてきて。その相手、仙蔵をじろりと睨む。
「……趣味悪いぞ。」
「まあそう言うな。たまたま通りがかっただけだ。斉藤には気付かれないようにしただろう?」
「それはそうだけど…。」
「それにしても、お前と斉藤が知り合いだったとはな。…で?お前は覚えているのか?その約束とやらを。」
予想通り、さも面白いと言わんばかりの顔で追及され。…近くにいると気付いた時からこれをやられると分かっていたから、陽太はさっさと立ち去りたかったのだった。
「……覚えてない。」
「うわっ、悪女〜。」
「誰が悪女だっ!だってしょうがないじゃん、五、六歳くらいの時の話なんだから…。それ以来、会ってないし。」
「しかしそうして考えると、斉藤の方はえらく一途だな。」
「何が良くて、私なんか。」
不可解そうな表情を浮かべてポツリと呟く彼女の、高く結った髪の毛先を仙蔵が軽く触れる。
「まあ、本人は気付いていない魅力とやらが、他人目線だとよく見えているものなのかもしれんな。」
「……髪結いにとって、手入れしたくてたまらないほど傷んだ髪をしてるって言いたいのか?」
「さあな、斉藤に訊け。…ところで、お前本当に毛先傷んでるぞ?」
「うるさいなもう、実習続きだったんだから仕方ないだろ。今度リンス貸して。」
「断る。」
「ケチ。」
べーっ、とわざわざ覆面を下ろして舌を出すと、仙蔵は愉快そうにくつくつと笑っていた。
陽太はすっかりヘソを曲げて、自室に戻っていく。今週の休みは必ず、いつもの髪結いのお姉さんのとこに行こうと、胸の内で予定を立てながら。
※オリジナル設定わっさり。
※本命との絡み無し。
忍術学園四年は組の編入生、斉藤タカ丸は六年い組、上町陽太の姿を遠目で見つけるや、手を振って声をかけた。
「あ。ねえ!髪結いさせ…」
その瞬間、木の根元に腰を下ろして読書していたその相手は、すぐさま立ち上がって走り去ってしまった。
「ああ、行っちゃった…」
ため息をついていると、「おやまあ。」と下の方から声がする。
「タカ丸さんじゃないですかぁ。どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね。上町先輩に髪結いさせてもらいたかったんだけど。…喜八郎こそ、何してるの?」
タカ丸と同じ四年生の綾部喜八郎が、彼が地面に掘ったらしい小さめの穴にすっぽり収まるように体育座りをしていたのでそう訊ねる。
「見ての通り、たこツボに入ってます。ター坊22号です。タカ丸さんも入りますか?」
同じ学年だが、タカ丸が途中編入の十五歳で年上ということで喜八郎は、敬語混じりでそう受け答えする。いわゆる一人用の塹壕、たこツボに入るかと何故か訊かれたタカ丸は、苦笑して首を振る。
「ううん、僕はいいよ。」
「タカ丸さーん。見てましたよ、さっきの。」
今度は背後の方から声をかけられて、振り返ると。タカ丸もよく見知っている年下の先輩二人が立っていた。
「久々知君、それに竹谷君も。」
「駄目ですよ、遠くから声かけるんじゃ。なるべく近付いてからじゃないと、あの人、初速ハンパないですからね。」
最初にもタカ丸に声をかけた竹谷八左ヱ門が笑って助言する横で、久々知兵助も言い添える。
「上町先輩を捕まえるのは容易ではないですよ?僕たち二人がかりでも、なかなか捕まらないんですから。」
「上町先輩って、色んな人から逃げてるんですねえ。」
たこツボのター坊22号の中から、喜八郎ものんびりとした口調で相槌を打っている。兵助も頷いて、腕を組んで小さくため息をついた。
「まあなぁ。…悪い人ではないとは思うんだけど、やっぱり、ねえ。」
「そもそも全然喋らない上に他学年ともあまり交流されないから、なんか、近寄りがたい感じするもんな。」
「けど、それでも貴重な六年生枠だからな。いつか必ず、我が火薬委員会の委員長にお迎えするんだ!」
「おい、ちょっと待てよ!先輩をお迎えするのはうちの生物委員会だぞ!」
「何を?!…あ、そうだ!タカ丸さんも火薬委員会なんですから、今度は是非僕と一緒に上町先輩を……って、あれ?」
「あれっ、タカ丸さんいない?」
「久々知先輩と竹谷先輩が言い争っている内に、どこかへ行ってしまいましたあ。」
のんびりと喜八郎が二人に教えた通り、その時既にタカ丸はその場を立ち去っていた。
「…皆ときたら、知った風に言っちゃってさ。」
歩きながら、口を尖らせてそう呟く彼は、ふと気配を察知して足を止める。すぐ近くの茂みから、顔をちょっとだけ出して手招きをする相手の方に近付いて。
「もう、ひまりちゃん。急に逃げるなんて、酷いよぉ。」
しゃがんで不満そうに言うと、相手、上町陽太はバツが悪そうに苦笑を返した。
「悪かったよ。さっきは久々知と竹谷の姿も遠くに見えていたからな。」
「あの二人、ひまりちゃんに委員長になってほしいんでしょ?何で、逃げてるの?」
「こっちにも色々と事情があるんだよ…。あとな、タカ丸。前にも言ったと思うがこの姿の時は、陽太と呼べ。女の名前で呼ぶな。」
「そう言われてもさあ…第一、それお兄さんの名前じゃない。僕、まだ馴染めないよ…。」
タカ丸が初めて忍術学園の四年生として編入してきた時、陽太は驚いたものだった。というのも、二人は幼い頃に家が近所同士だった、幼馴染なのである。
と言っても、タカ丸が現在住んでいる町に引っ越すまでの間のことで、最後に会ったのも精々五、六歳くらいの頃で。こうして再会するのも全くの偶然だった。
タカ丸の方は再会した時も大袈裟なくらい喜んでいたものだが、陽太にしてみれば人前でうっかり自分の本名を呼ばれないかと毎回ヒヤヒヤさせられて、正直なところ、あまりおおっぴらに会いたい相手ではなかった。
「…それと髪結いのことだが、特に困っていないので遠慮させてもらう。ずっと懇意にしているお店もあるからな。」
「そんなあ。僕は、君だったらいつでもどこでも、何度でも、髪結いしてあげるのに。」
「そんな特別扱いなどしてもらわなくて結構だ。」
タカ丸としてはかなりアピールしているつもりだったが、彼の目から見ても陽太の方は、心を動かされた様子は無い。タカ丸は一旦諦めて、しゃがんだまま陽太の方にやや近付くと少し真剣な顔をして言った。
「ねえ、訊きたいんだけどさ。どうしてわざわざ男に混じってまでプロ忍目指してるの?女の子なのに。」
「何だよ、目指しちゃいけないって言うのか?別にいいだろ、そんなの。」
「ひまりちゃん。そんな乱暴な言葉遣い、女の子なんだからしちゃ駄目だよ。」
「……。」
どんどん、相手が不機嫌になっていくのがタカ丸には分かる。けど、言わずにはいられなかった。
立ち上がって去ろうとする彼女を、咄嗟に手を掴んで引き留める。
「…顔に傷があるって言ってたね。でも僕は、そんなの全然気にしないよ。僕の父さんだって、きっと気にしない。」
「…私の生き方なんて私が決めることだ。」
不機嫌そうに下ろされる目線を、タカ丸は下から逸らさず真っ直ぐ見つめ返す。
「僕は、ひまりちゃんと結婚するって約束したんだから。前にも言ったでしょ?いつか必ず君を迎えに来るって。だから…ちゃんと待っててくれないと、やだよ。」
「そんなこと言われたって、……っ!」
片膝をついて、手の甲に口付けをすると、彼女は真っ赤になって手を振り払った。
「何するんだよっ?!」
「愛おしい人にするものだよ。海の向こうの国では、挨拶の意味もあるらしいけど。僕は、他の人にはこんなことしない。…ひまりちゃんが本当に好きなんだ。」
今日は、これ以上は無理かな。と、立ち上がりながらタカ丸は内心苦笑して、警戒心から一定の距離を保ち続ける彼女に精一杯笑いかける。
「また今度、髪結いさせてね。」
一方的に言い残して、返事は敢えて待たず、踵を返して立ち去った。
「……流石、女性にモテるだけあってアプローチも熱烈だな。」
陽太が立っている近くの木の上から声が降ってきたかと思うとその人物が降りてきて。その相手、仙蔵をじろりと睨む。
「……趣味悪いぞ。」
「まあそう言うな。たまたま通りがかっただけだ。斉藤には気付かれないようにしただろう?」
「それはそうだけど…。」
「それにしても、お前と斉藤が知り合いだったとはな。…で?お前は覚えているのか?その約束とやらを。」
予想通り、さも面白いと言わんばかりの顔で追及され。…近くにいると気付いた時からこれをやられると分かっていたから、陽太はさっさと立ち去りたかったのだった。
「……覚えてない。」
「うわっ、悪女〜。」
「誰が悪女だっ!だってしょうがないじゃん、五、六歳くらいの時の話なんだから…。それ以来、会ってないし。」
「しかしそうして考えると、斉藤の方はえらく一途だな。」
「何が良くて、私なんか。」
不可解そうな表情を浮かべてポツリと呟く彼女の、高く結った髪の毛先を仙蔵が軽く触れる。
「まあ、本人は気付いていない魅力とやらが、他人目線だとよく見えているものなのかもしれんな。」
「……髪結いにとって、手入れしたくてたまらないほど傷んだ髪をしてるって言いたいのか?」
「さあな、斉藤に訊け。…ところで、お前本当に毛先傷んでるぞ?」
「うるさいなもう、実習続きだったんだから仕方ないだろ。今度リンス貸して。」
「断る。」
「ケチ。」
べーっ、とわざわざ覆面を下ろして舌を出すと、仙蔵は愉快そうにくつくつと笑っていた。
陽太はすっかりヘソを曲げて、自室に戻っていく。今週の休みは必ず、いつもの髪結いのお姉さんのとこに行こうと、胸の内で予定を立てながら。