そのうすべに色を隠して。
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『二十一頁 青天の「はにゃ」』
※方言…ガンバぇ…
「…下記のような状況にある城攻めにおいて最も有効に作用する術を述べよ、か。……!」
授業が終ったあと。上町陽太は自室に戻り、夕食までの時間で座学の授業で出された課題を片付けるべく、机に向かっていた。
不意に、頭上の、ーーーーーーー天井裏から人の気配を感じて懐の手裏剣に手を伸ばす。曲者か、と思った時だった。
「よー、ひまり!」
「…与四郎?!」
天井の板が外れ、そこから顔を出したのは、風魔流忍術学校の錫高野与四郎だった。手裏剣からは手を離すが、陽太の表情は更に険しくなる。
「『よー』って、何こんな所まで来てるんだよ…!」
「実はよ、…よっ、と。今日は、俺の後輩の喜三太に会いに来たっさァ。そんで帰る前に、どうしてもおめーにひと目会いたくってよー。」
「馬鹿、ここはくの一教室と一緒の区画だから、入っちゃ駄目だって前にも…」
天井から降りて、あっけらかんとして言う彼を咎めていると。
「はにゃ?…ここ、くの一教室なんですかあ?」
降ってきた、もう一つの声に。
二人同時に、ぎょっとして頭上を振り返る。
「……え?」
「喜三太!おめー、ついてきちまったのか?」
「与四郎先輩、ごめんなさい。僕、どうしても気になっちゃって……」
おずおずと顔を覗かせているのは、一年生の忍たま、山村喜三太だった。喜三太は、バツが悪そうに与四郎に謝る。二人は、喜三太が風魔流忍術学校にいた頃の先輩と後輩だった。
「あっちゃー…しまったべぇなー。喜三太、とりあえず降りてきな。」
「はぁーい。」
「おい、招き入れるなよ…!」
陽太は、屋根裏から降りる喜三太を下でキャッチしている与四郎に抗議する。
「つっても、こうなっちまったんだから仕方ねぇだよ。」
「仕方ないって…大体あんたが、」
「あのー…ところで、どうして上町先輩が、こんな所にいらっしゃるんですか?」
床に降ろされた喜三太が見上げて不思議そうに訊いてくるのを見て、陽太は一旦、与四郎へのクレームを飲み込む。
もう、喋るところは見られてしまっている。腰を落として、改めて、向き直った。
「確か、一年は組の転入生の、山村喜三太だったな。乱太郎、きり丸、しんべヱと同じクラスの。」
「はい!僕も、その三人から上町先輩のことを聞いたことがあって、……って、上町先輩、普通にお話できるんですか?絶対に喋らない人だって聞いてたのに…?」
普通に会話を続けかけて、喜三太は漸くそのことに気付いたらしい。
「喜三太君。突然ですまないが、頼みがある。これから私が話すことは、絶対、誰にも喋らないと約束してほしい。」
「はにゃ?誰にも、って…」
「仲の良い友達にも、だ。勿論、乱太郎、きり丸、しんべヱの三人にも。…いいな?絶対だ。」
「わ…分かりました。」
何だかよく分からないという顔をしつつも頷いた喜三太が、「…ん?あれ?声…」と呟きかけて、次の瞬間、目を見開いた。
陽太が覆面を下ろした、その下にある素顔をーーーーーーー女の顔を見て。頬の大きな傷痕にも、恐らく驚いているだろう。
「見ての通り、私は、女なんだ。今は訳あって、忍たまとしてこの学園にいる。」
「ほえぇっ…上町先輩が、くの一…?!」
「詳しくは話せないが、私はくの一としてではなく忍者として授業を受けなければならない。だから卒業するまで、女であることを隠さなければならないんだ。このことは誰にも秘密にしていてほしい。頼む、約束してくれ…。」
「ぼ、僕、急にそんなこと聞いたら…頭こんがらがって……」
「喜三太、俺からも頼む。」
与四郎も腰を落として、戸惑う喜三太に目線を合わせて頼み込む。そして、陽太に向けて申し訳なさそうに謝った。
「すまねぇ、俺の不注意でこうなっちまって…。」
「全くだ。今後この部屋に忍び込んだら、もう絶対に許さないからな。」
「そんなぁ、ひまり〜……」
「だから、陽太と呼べって。これだから、男装の時あんたと会うの嫌なんだよ…。」
側に寄ろうとする涙目の与四郎と、それを手を突っかえて拒否し続ける陽太に、喜三太が声をあげる。
「上町先輩、与四郎先輩!僕、絶対に約束守りますから、喧嘩しないでくださいっ…!」
言い合っていた陽太と与四郎は、喜三太を振り返る。
「ほ、本当に、守ってくれるのか?」
「はい!僕、与四郎先輩のこと大好きですから!先輩がお困りでいらっしゃるなら、僕にできることは何でもします!」
「喜三太ぁ…!ありがとなぁ〜!!」
「えへへ〜っ」
与四郎にガバッと抱きしめられ、嬉しそうに笑っていた喜三太は、また、陽太の顔を振り返った。
「上町先輩、僕、誰にも先輩の秘密を言いません!…だから、与四郎先輩のこと、怒らないで下さい…。」
必死で訴える、その目を見るうちに。陽太はふっと、表情を緩ませた。本当に、与四郎を先輩として慕っているんだな、と思ったからだ。
それは与四郎が良い先輩だからだというのも、ひしひしと伝わってくる。喜三太がこちらに転校しても、わざわざ足柄山から会いに来るほど、後輩思いな先輩なのだろう。
「…分かった。もう、怒ってないよ。」
「本当か、ひまり…?」
「うん。許してあげる。」
「ひまり…!愛してるべ〜!!」
「抱きついていいとは言ってない。」
すぐさま抱きしめようとするのを、再び突っ張った手でガードする。与四郎は、ガックリ肩を落とした。
「うう…道のりは険しいべな……」
「与四郎先輩っ、元気出して下さぁい…」
落ち込む与四郎を励ます喜三太を見て、陽太は思わず笑みがこぼれた。
「それにしても、いい後輩じゃないか、与四郎。」
「おー、喜三太はいい子だんべ!」
「そのようだな。…喜三太君、ありがとうね。約束を守るって言ってくれて。」
「えへへっ、おやすいご用です!」
頭を軽く撫でると、屈託なく笑い返してくる彼に、何となく与四郎と似た雰囲気を感じた。その顔が、ふと首を傾げる。
「でも僕、気になることがあって。」
「何だ?」
「どうして与四郎先輩は、わざわざこの女子区画に入ってまで、上町先輩に会いに来られたんですか?」
「あー、それはだな……」
ここは濁すか、と言葉を探しかけた時、与四郎が先にあっさり答えてしまった。
「俺は、ひまりをいつか嫁に貰いてえと思ってるだぁよ。好きな子に会いに行きてえと思うのは、当たり前だんべ?」
「こ、こら!またそんな恥ずかしいこと言って…!」
「恥ずかしくねーだよ、俺の本当の気持ちだべ。」
喜三太もすっかり鵜呑みに、そして何やら勘違いしてしまったらしい。興奮気味に、少し赤い頬で目をキラキラとさせている。
「与四郎先輩、すごいです!僕、お二人のこと応援しますっ!」
「しなくていいしなくていい!」
「ありがとなー喜三太!…さて、あまり長居すんのも良くねーべ、そろそろ行くか。」
「はーい、与四郎先輩!」
「おい、先に誤解を解いてから行けよ!ていうか話を聞けって…!」
喜三太を先に屋根裏に行かせてから、与四郎は一旦陽太の方を振り返って。
「今日は急だったからなー、今度は前もって、文を届けてもらうからよ。また、一緒に出かけんべーよ。」
前髪をかき上げた額に、軽く唇を寄せる。
「っ!!」
「んじゃな、ひまり!」
陽太が固まっている内に、与四郎はパッと離れて、爽やかな笑顔を残して天井裏へと消えていった。
「………ったく、あいつ……。」
急に静かになった自室で、額を押さえてその場にへたり込んだ陽太は、もっと自重しろとか何とか、どこにもぶつけようのない文句をしばらく赤い顔でブツブツ呟いていた。
※方言…ガンバぇ…
「…下記のような状況にある城攻めにおいて最も有効に作用する術を述べよ、か。……!」
授業が終ったあと。上町陽太は自室に戻り、夕食までの時間で座学の授業で出された課題を片付けるべく、机に向かっていた。
不意に、頭上の、ーーーーーーー天井裏から人の気配を感じて懐の手裏剣に手を伸ばす。曲者か、と思った時だった。
「よー、ひまり!」
「…与四郎?!」
天井の板が外れ、そこから顔を出したのは、風魔流忍術学校の錫高野与四郎だった。手裏剣からは手を離すが、陽太の表情は更に険しくなる。
「『よー』って、何こんな所まで来てるんだよ…!」
「実はよ、…よっ、と。今日は、俺の後輩の喜三太に会いに来たっさァ。そんで帰る前に、どうしてもおめーにひと目会いたくってよー。」
「馬鹿、ここはくの一教室と一緒の区画だから、入っちゃ駄目だって前にも…」
天井から降りて、あっけらかんとして言う彼を咎めていると。
「はにゃ?…ここ、くの一教室なんですかあ?」
降ってきた、もう一つの声に。
二人同時に、ぎょっとして頭上を振り返る。
「……え?」
「喜三太!おめー、ついてきちまったのか?」
「与四郎先輩、ごめんなさい。僕、どうしても気になっちゃって……」
おずおずと顔を覗かせているのは、一年生の忍たま、山村喜三太だった。喜三太は、バツが悪そうに与四郎に謝る。二人は、喜三太が風魔流忍術学校にいた頃の先輩と後輩だった。
「あっちゃー…しまったべぇなー。喜三太、とりあえず降りてきな。」
「はぁーい。」
「おい、招き入れるなよ…!」
陽太は、屋根裏から降りる喜三太を下でキャッチしている与四郎に抗議する。
「つっても、こうなっちまったんだから仕方ねぇだよ。」
「仕方ないって…大体あんたが、」
「あのー…ところで、どうして上町先輩が、こんな所にいらっしゃるんですか?」
床に降ろされた喜三太が見上げて不思議そうに訊いてくるのを見て、陽太は一旦、与四郎へのクレームを飲み込む。
もう、喋るところは見られてしまっている。腰を落として、改めて、向き直った。
「確か、一年は組の転入生の、山村喜三太だったな。乱太郎、きり丸、しんべヱと同じクラスの。」
「はい!僕も、その三人から上町先輩のことを聞いたことがあって、……って、上町先輩、普通にお話できるんですか?絶対に喋らない人だって聞いてたのに…?」
普通に会話を続けかけて、喜三太は漸くそのことに気付いたらしい。
「喜三太君。突然ですまないが、頼みがある。これから私が話すことは、絶対、誰にも喋らないと約束してほしい。」
「はにゃ?誰にも、って…」
「仲の良い友達にも、だ。勿論、乱太郎、きり丸、しんべヱの三人にも。…いいな?絶対だ。」
「わ…分かりました。」
何だかよく分からないという顔をしつつも頷いた喜三太が、「…ん?あれ?声…」と呟きかけて、次の瞬間、目を見開いた。
陽太が覆面を下ろした、その下にある素顔をーーーーーーー女の顔を見て。頬の大きな傷痕にも、恐らく驚いているだろう。
「見ての通り、私は、女なんだ。今は訳あって、忍たまとしてこの学園にいる。」
「ほえぇっ…上町先輩が、くの一…?!」
「詳しくは話せないが、私はくの一としてではなく忍者として授業を受けなければならない。だから卒業するまで、女であることを隠さなければならないんだ。このことは誰にも秘密にしていてほしい。頼む、約束してくれ…。」
「ぼ、僕、急にそんなこと聞いたら…頭こんがらがって……」
「喜三太、俺からも頼む。」
与四郎も腰を落として、戸惑う喜三太に目線を合わせて頼み込む。そして、陽太に向けて申し訳なさそうに謝った。
「すまねぇ、俺の不注意でこうなっちまって…。」
「全くだ。今後この部屋に忍び込んだら、もう絶対に許さないからな。」
「そんなぁ、ひまり〜……」
「だから、陽太と呼べって。これだから、男装の時あんたと会うの嫌なんだよ…。」
側に寄ろうとする涙目の与四郎と、それを手を突っかえて拒否し続ける陽太に、喜三太が声をあげる。
「上町先輩、与四郎先輩!僕、絶対に約束守りますから、喧嘩しないでくださいっ…!」
言い合っていた陽太と与四郎は、喜三太を振り返る。
「ほ、本当に、守ってくれるのか?」
「はい!僕、与四郎先輩のこと大好きですから!先輩がお困りでいらっしゃるなら、僕にできることは何でもします!」
「喜三太ぁ…!ありがとなぁ〜!!」
「えへへ〜っ」
与四郎にガバッと抱きしめられ、嬉しそうに笑っていた喜三太は、また、陽太の顔を振り返った。
「上町先輩、僕、誰にも先輩の秘密を言いません!…だから、与四郎先輩のこと、怒らないで下さい…。」
必死で訴える、その目を見るうちに。陽太はふっと、表情を緩ませた。本当に、与四郎を先輩として慕っているんだな、と思ったからだ。
それは与四郎が良い先輩だからだというのも、ひしひしと伝わってくる。喜三太がこちらに転校しても、わざわざ足柄山から会いに来るほど、後輩思いな先輩なのだろう。
「…分かった。もう、怒ってないよ。」
「本当か、ひまり…?」
「うん。許してあげる。」
「ひまり…!愛してるべ〜!!」
「抱きついていいとは言ってない。」
すぐさま抱きしめようとするのを、再び突っ張った手でガードする。与四郎は、ガックリ肩を落とした。
「うう…道のりは険しいべな……」
「与四郎先輩っ、元気出して下さぁい…」
落ち込む与四郎を励ます喜三太を見て、陽太は思わず笑みがこぼれた。
「それにしても、いい後輩じゃないか、与四郎。」
「おー、喜三太はいい子だんべ!」
「そのようだな。…喜三太君、ありがとうね。約束を守るって言ってくれて。」
「えへへっ、おやすいご用です!」
頭を軽く撫でると、屈託なく笑い返してくる彼に、何となく与四郎と似た雰囲気を感じた。その顔が、ふと首を傾げる。
「でも僕、気になることがあって。」
「何だ?」
「どうして与四郎先輩は、わざわざこの女子区画に入ってまで、上町先輩に会いに来られたんですか?」
「あー、それはだな……」
ここは濁すか、と言葉を探しかけた時、与四郎が先にあっさり答えてしまった。
「俺は、ひまりをいつか嫁に貰いてえと思ってるだぁよ。好きな子に会いに行きてえと思うのは、当たり前だんべ?」
「こ、こら!またそんな恥ずかしいこと言って…!」
「恥ずかしくねーだよ、俺の本当の気持ちだべ。」
喜三太もすっかり鵜呑みに、そして何やら勘違いしてしまったらしい。興奮気味に、少し赤い頬で目をキラキラとさせている。
「与四郎先輩、すごいです!僕、お二人のこと応援しますっ!」
「しなくていいしなくていい!」
「ありがとなー喜三太!…さて、あまり長居すんのも良くねーべ、そろそろ行くか。」
「はーい、与四郎先輩!」
「おい、先に誤解を解いてから行けよ!ていうか話を聞けって…!」
喜三太を先に屋根裏に行かせてから、与四郎は一旦陽太の方を振り返って。
「今日は急だったからなー、今度は前もって、文を届けてもらうからよ。また、一緒に出かけんべーよ。」
前髪をかき上げた額に、軽く唇を寄せる。
「っ!!」
「んじゃな、ひまり!」
陽太が固まっている内に、与四郎はパッと離れて、爽やかな笑顔を残して天井裏へと消えていった。
「………ったく、あいつ……。」
急に静かになった自室で、額を押さえてその場にへたり込んだ陽太は、もっと自重しろとか何とか、どこにもぶつけようのない文句をしばらく赤い顔でブツブツ呟いていた。