そのうすべに色を隠して。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『十八頁余白(おまけ) 和解とか仕返しとか』
※留三郎、仙蔵視点(三年生軸
数日前にひまりが忍術学園に戻って来ていることは人伝てで耳にしてはいたが、当初は本人が忙しくしていたのか会うことはできなかった。
先に偶然会ったらしい文次郎、小平太、長次に行き合ったので、その時の様子を訊くつもりだったが文次郎が終始ブツクサ言っているのを聞かされるばかりで、大した情報収集にはならなかった。
「へっ、女なのに男装して忍たまになるとか…あいつ、どうかしてるぜ。」
「でも文次郎が一番、戻ってこないんじゃないかって心配してたじゃないか。」
小平太のツッコミに、文次郎はすぐさま反論する。
「はあ?!心配なんかしてねぇよ!うっかり戻ってきたら、またうるせぇことになるって思っただけだ。そしたら本当に戻ってきやがって!」
「…文次郎、内心嬉しいと思ってる…」
「う、嬉しくなんかねぇし!変なこと言うな長次!」
噛みつき散らかす文次郎を適当に無視して、俺は三人とは別れて改めてひまりを探しに行く。
そして、漸く見つけた。
「ひまり。」
くのたまの、ではない、俺たちと同じ浅葱色の制服。傷を隠すためなのか、目元まできっちりと覆った頭巾。ーーーーーーー事前に話を聞いてはいても、振り返るその姿に一瞬戸惑う。流石に、見慣れるまでにはもう少し時間が必要だろうな。
「あ。留三郎。ただいま。」
それでも、いつものように、彼女は笑った。
「ああ。おかえり。」
「どうしたの、何かあった?」
まるで、何も無かった、かのような口ぶりで訊かれるものだから、一瞬何でもないと答えようかとも思ったが、やはり思い直す。
「…その、あん時は、悪かったよ。責め立てたりして。お前にはお前の事情があるんだろうし。」
言わないと、どうもスッキリしないような気がして。
するとひまりも、苦笑を浮かべた。…俺たちの前で泣いたことに対して、だろうか。
そして少し照れたように、「留三郎、ありがとね。」と言う。
「それに、ごめん。私も、皆に心配させるだけで何も話さなくて。しかも、女になったことないくせに、とか……完全に八つ当たりだった。」
心配なんて、そもそも俺たち側が勝手にしていたことで、そのことについてひまりに謝らせるのは、違うんじゃないかという気がしていた。
だからそう言われてしまうと、逆に居心地の悪さを覚えてしまう。
「いいんだ、気にするなよ。…けど、何でもない、って言うなよ?今度からは。」
「…そうだね。何でもない、は嘘だった。」
「助けが必要ないんだったら、そう言えばいいから。」
「うん。……それで、自分じゃどうしようもなくなったら、」
「俺たちが助けてやる。」
ハッキリと、誓いを立てるようにそう口にする。俺のその台詞に、そう言われるだろうとおおよそ見当がついていたようにひまりは、目を細めた。
「…ま、そんな機会がまたあるかどうか、だけどねぇ。」
「お前なぁ…今、約束したぞ?」
「分かってるって。」
また苦笑したけれど、今度は少しおどけたような雰囲気もあった。全く、本当に分かっているのかと疑わせる所がこいつの問題ではあるが、叱るのは、その"機会"の時にでもしよう。
そう思い直してから、ふと、俺は気になっていたことを訊く。
「ところで、何でそんなもん担いでんだ?」
「知らないの?最近こういうのが流行ってるんだよ。」
「…マジでか。そりゃ、知らなかったわ。」
流石に冗談だと分かった上で受け流す俺の声音に、ひまりも笑い返して、くるりと背を向ける。
「どこか行くのか?」
「ん、ちょっとね。ああ、そうだ。私これから名前変わるから、上町陽太、って。…改めて、よろしくな。」
「はあ、…え?何で?」
「何で、って男装するんだから当たり前だろ?うっかり女の名前の方で呼ぶなよ?」
もしバレたらお前も道連れにするからな、と冗談のように脅しながら、笑って立ち去るその後ろ姿を見送る。
「…相変わらず、おっかねー女だな。本当に。」
初めて見た泣き顔に、一瞬だけ心が揺れたのは気のせいだったのかもしれないと思ってしまうほどだった。
ーーーーーーーーーー
「ひまり、……じゃなくて陽太、だったな。」
振り返った彼女は、覆面をしていた。男装のつもり、なのだろう。
文次郎などは随分文句というか、「無理だ」とか「考えが甘い」とかいつまでも小言のように言っていたが、彼女が己で決めたことだ。それについては、私はとやかくは言うまい。
「何?仙蔵。」
彼女に追いつくと、歩みを止めないので私もその隣に並んで歩く。
「さっき向こうで、お前の元同級生の女子三人が怒ってたのを見かけたぞ。確か、落とし穴なんか掘って卑怯だとか何とか、言っていたな。」
「へえ?一体誰が掘ったんだろうねぇ。」
「……お前じゃないのか?」
私のその声は呆れていたが、顔は笑ってしまっていることに自分でも気付いていた。
「さあ?何のことかな。」
「…ま、お前が今担いでる土の付着した踏鋤については、敢えて追及するまい。」
「私がやったという可能性はあっても、どこに、その証拠がある?」
「それもそうだな。」
歩きながら、彼女は後ろにくるりと体の向きを変えて、その方向に向かって舌を出す。
「これで、おあいこだもんねーだ。」
「楽しそうだな、随分と。」
悪戯っぽいその表情にそう言ってやると、また正面に向き直って彼女は小首を傾げて見せた。
「そう見える?…そうだ、仙蔵も折角女装似合うんだから、いっそ、くのたまになったら?」
「はは、私は勘弁だな。面倒な女の輪に混じるなど。」
「えー?…やる時は結構、ノリノリな癖に。」
「それとこれとは話が別だ。」
「ふーん…。」
「それよりお前、男装するならその内股もう少し何とかしたらどうだ?」
「何だよ、仙蔵だってモデル歩きの癖にさ。」
「私は美しさの追求をしているだけだ。需要に応えてな。」
「どこの需要だよ…。」
ひまりを見ていると、来世も男で十分だな、などと思ってしまう。
弱い所を見せたくないのだと分かっていた。
訊きだそうとしたところで、何でもないとますます頑なになって、逆効果だろうということも。
それならば見守るしかなくて。
いずれ、何らかの形で自分で解決しようとするのだろうと思っていたから。
それも駄目だった時に、手を差し伸べてやればいい。
そうして、もどかしくも待っていれば、強くあろうとする彼女は答えを見つけてきたようで。
文次郎とて、小言を言いはするものの内心では分かっているはずだ。
彼女は、彼女の責任においてこの道を選んだのだ。
だから、誰も、彼女の望む道を否定したりしない。笑ったりもしない。
…私たちは、"仲間"、"友達"、なのだろうから。
こそばゆい、陳腐な表現が思い浮かんでしまう自分に一人で苦笑していると、ひまりはまた、不思議そうに小首を傾げていた。
※留三郎、仙蔵視点(三年生軸
数日前にひまりが忍術学園に戻って来ていることは人伝てで耳にしてはいたが、当初は本人が忙しくしていたのか会うことはできなかった。
先に偶然会ったらしい文次郎、小平太、長次に行き合ったので、その時の様子を訊くつもりだったが文次郎が終始ブツクサ言っているのを聞かされるばかりで、大した情報収集にはならなかった。
「へっ、女なのに男装して忍たまになるとか…あいつ、どうかしてるぜ。」
「でも文次郎が一番、戻ってこないんじゃないかって心配してたじゃないか。」
小平太のツッコミに、文次郎はすぐさま反論する。
「はあ?!心配なんかしてねぇよ!うっかり戻ってきたら、またうるせぇことになるって思っただけだ。そしたら本当に戻ってきやがって!」
「…文次郎、内心嬉しいと思ってる…」
「う、嬉しくなんかねぇし!変なこと言うな長次!」
噛みつき散らかす文次郎を適当に無視して、俺は三人とは別れて改めてひまりを探しに行く。
そして、漸く見つけた。
「ひまり。」
くのたまの、ではない、俺たちと同じ浅葱色の制服。傷を隠すためなのか、目元まできっちりと覆った頭巾。ーーーーーーー事前に話を聞いてはいても、振り返るその姿に一瞬戸惑う。流石に、見慣れるまでにはもう少し時間が必要だろうな。
「あ。留三郎。ただいま。」
それでも、いつものように、彼女は笑った。
「ああ。おかえり。」
「どうしたの、何かあった?」
まるで、何も無かった、かのような口ぶりで訊かれるものだから、一瞬何でもないと答えようかとも思ったが、やはり思い直す。
「…その、あん時は、悪かったよ。責め立てたりして。お前にはお前の事情があるんだろうし。」
言わないと、どうもスッキリしないような気がして。
するとひまりも、苦笑を浮かべた。…俺たちの前で泣いたことに対して、だろうか。
そして少し照れたように、「留三郎、ありがとね。」と言う。
「それに、ごめん。私も、皆に心配させるだけで何も話さなくて。しかも、女になったことないくせに、とか……完全に八つ当たりだった。」
心配なんて、そもそも俺たち側が勝手にしていたことで、そのことについてひまりに謝らせるのは、違うんじゃないかという気がしていた。
だからそう言われてしまうと、逆に居心地の悪さを覚えてしまう。
「いいんだ、気にするなよ。…けど、何でもない、って言うなよ?今度からは。」
「…そうだね。何でもない、は嘘だった。」
「助けが必要ないんだったら、そう言えばいいから。」
「うん。……それで、自分じゃどうしようもなくなったら、」
「俺たちが助けてやる。」
ハッキリと、誓いを立てるようにそう口にする。俺のその台詞に、そう言われるだろうとおおよそ見当がついていたようにひまりは、目を細めた。
「…ま、そんな機会がまたあるかどうか、だけどねぇ。」
「お前なぁ…今、約束したぞ?」
「分かってるって。」
また苦笑したけれど、今度は少しおどけたような雰囲気もあった。全く、本当に分かっているのかと疑わせる所がこいつの問題ではあるが、叱るのは、その"機会"の時にでもしよう。
そう思い直してから、ふと、俺は気になっていたことを訊く。
「ところで、何でそんなもん担いでんだ?」
「知らないの?最近こういうのが流行ってるんだよ。」
「…マジでか。そりゃ、知らなかったわ。」
流石に冗談だと分かった上で受け流す俺の声音に、ひまりも笑い返して、くるりと背を向ける。
「どこか行くのか?」
「ん、ちょっとね。ああ、そうだ。私これから名前変わるから、上町陽太、って。…改めて、よろしくな。」
「はあ、…え?何で?」
「何で、って男装するんだから当たり前だろ?うっかり女の名前の方で呼ぶなよ?」
もしバレたらお前も道連れにするからな、と冗談のように脅しながら、笑って立ち去るその後ろ姿を見送る。
「…相変わらず、おっかねー女だな。本当に。」
初めて見た泣き顔に、一瞬だけ心が揺れたのは気のせいだったのかもしれないと思ってしまうほどだった。
ーーーーーーーーーー
「ひまり、……じゃなくて陽太、だったな。」
振り返った彼女は、覆面をしていた。男装のつもり、なのだろう。
文次郎などは随分文句というか、「無理だ」とか「考えが甘い」とかいつまでも小言のように言っていたが、彼女が己で決めたことだ。それについては、私はとやかくは言うまい。
「何?仙蔵。」
彼女に追いつくと、歩みを止めないので私もその隣に並んで歩く。
「さっき向こうで、お前の元同級生の女子三人が怒ってたのを見かけたぞ。確か、落とし穴なんか掘って卑怯だとか何とか、言っていたな。」
「へえ?一体誰が掘ったんだろうねぇ。」
「……お前じゃないのか?」
私のその声は呆れていたが、顔は笑ってしまっていることに自分でも気付いていた。
「さあ?何のことかな。」
「…ま、お前が今担いでる土の付着した踏鋤については、敢えて追及するまい。」
「私がやったという可能性はあっても、どこに、その証拠がある?」
「それもそうだな。」
歩きながら、彼女は後ろにくるりと体の向きを変えて、その方向に向かって舌を出す。
「これで、おあいこだもんねーだ。」
「楽しそうだな、随分と。」
悪戯っぽいその表情にそう言ってやると、また正面に向き直って彼女は小首を傾げて見せた。
「そう見える?…そうだ、仙蔵も折角女装似合うんだから、いっそ、くのたまになったら?」
「はは、私は勘弁だな。面倒な女の輪に混じるなど。」
「えー?…やる時は結構、ノリノリな癖に。」
「それとこれとは話が別だ。」
「ふーん…。」
「それよりお前、男装するならその内股もう少し何とかしたらどうだ?」
「何だよ、仙蔵だってモデル歩きの癖にさ。」
「私は美しさの追求をしているだけだ。需要に応えてな。」
「どこの需要だよ…。」
ひまりを見ていると、来世も男で十分だな、などと思ってしまう。
弱い所を見せたくないのだと分かっていた。
訊きだそうとしたところで、何でもないとますます頑なになって、逆効果だろうということも。
それならば見守るしかなくて。
いずれ、何らかの形で自分で解決しようとするのだろうと思っていたから。
それも駄目だった時に、手を差し伸べてやればいい。
そうして、もどかしくも待っていれば、強くあろうとする彼女は答えを見つけてきたようで。
文次郎とて、小言を言いはするものの内心では分かっているはずだ。
彼女は、彼女の責任においてこの道を選んだのだ。
だから、誰も、彼女の望む道を否定したりしない。笑ったりもしない。
…私たちは、"仲間"、"友達"、なのだろうから。
こそばゆい、陳腐な表現が思い浮かんでしまう自分に一人で苦笑していると、ひまりはまた、不思議そうに小首を傾げていた。