そのうすべに色を隠して。
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『十五頁 あの時と変わらずに』
※時間軸現在に戻ります。
校舎の角を曲がろうとして、私は踏みとどまる。
話し声が聞こえたからだ。仙蔵と、ーーーーーーー伊作の。
外出先で喧嘩別れのようになってしまって以来、数日経っても、伊作とは顔を合わせづらかった。……何かこういうの、前にもあったような。
でも、多分、その時よりも状況は悪い気がした。
気持ちに整理がつかなくて。けれど、このままでいいとも思えない。
あんな酷いことを言ってしまったんだ、それを謝るくらいはせめて、しなくちゃ。
けれど、何て声をかければいいのだろう。
そして伊作は、私に何て声をかけてくるのだろう?…考えるのさえ、怖い。
「陽太、何してるんだ?こんな所で。」
「わっ、小平太…!」
隠れていると、後ろから小平太に声をかけられてしまった。
「何を驚いてるんだ?あ、そういえば、もう決めたか?今度のペア実習の相手。」
「え?」
「ほら、五年生とペア組めって言われてただろ。もしかして忘れてたんじゃないだろうな?」
「あ、いや…」
「やたらでかい話し声が聞こえると思ったら…丁度私たちも、その話をしていた所だ。」
建物の陰から果たして、仙蔵と伊作が姿を現して。
目を合わせることもできない。
「…ごめん、用事あるから、先行く。」
声を、かけられてしまう前に。踵を返してしまった。
こんな、感じの悪いことしたらますます嫌われるって、分かってるのに。
無理矢理、頭を切り替えようとして、いつもみたいに木陰で本を読んでいても、内容なんて頭に入ってこなかった。
はぁ、と小さくため息をついて、立ち上がりかけた時。
「ーーーーーーーばあ!」
「ッ?!!」
突然、小平太がまた姿を現して私はしこたま驚き、尻餅をついてしまった。
何しろその登場の仕方というのが、私が座っていたすぐ上の枝から、鉄棒のように足を引っ掛けたままぐるんと、逆さにぶら下がって至近距離でいきなり顔を見せるというもので。
急に駆け足になった心の臓が収まらない間、笑いながら地上に降り立った小平太をベシベシと叩いて抗議する。
「痛い痛いっ、そんな怒らなくたっていいじゃないか!」
「…何の用だよ。」
漸く落ち着いて、小声で改めて用事を訊くと。
「陽太、今日の夜、学園の裏門に来い。」
「はあ…?何、急に…」
「待ってるからな。絶対に来いよ!じゃあな!」
「あっ、え?ちょ、小平太?!」
呼び止める前に、小平太は駆けて行ってしまった。
何なんだ一体、と思いつつ、裏門に、ということは外出をする、ということだろうかと私は推測してみる。夜に、というのも忍術学園の出入り口の番人、事務員の小松田さんの目を盗んでこっそり、ということだろうかと。
その推測は概ね当たっていて、但し、夜に、の理由は何もこっそり外出するからだ、というだけではなかったらしい。
「久しぶりに、見たくなってな。こないだ雨降ったし、今日は晴れてたからよく見えそうだろう?」
「そうかもしれないけど……でもほんと、何で急に…?」
裏門を出て、忍術学園からも大分離れて。
普段から、先に説明するということが頭に入ってない小平太に連れられて、私は裏山の道をゆく。
その時には"目的地"は辛うじて聞き出せてはいたけれど、私はまだ訝しんでいた。何故急に、行こうなんて言いだしたのだろうかと。
とは言っても、彼のことだ。特に理由なんて、実は無いのかもしれない。
「まあ、細かいことは気にするな!」
「はいもう、それ言うと思いましたよ七松小平太さん。」
「はははっ、よく分かってるじゃないか。」
「そりゃ一年の時からの付き合いですからね。嫌と言うほど。」
「嫌なのか?」
急に声のトーンが、真面目な感じになった小平太に覗き込まれて、思わず反射的に顔を逸らす。
「…別にそういう意味じゃなくて。もうっ、細かいことは気にしないのっ!」
「お?うつったな!」
「…何嬉しそうにしてんだか。」
歩きながら、月明かりだけで辺りは暗いし、他に人もいないだろうと思い、私は普段は滅多に外さない頭巾の覆面を、顎の下におろした。
「……ひまりって美人だよなー。」
「な、何だよ急に…。というか、そっちの名前で呼ぶなって。」
「いいじゃないか。ひまり!」
「…はぁ全く。まあ、今はいいか。」
与四郎もだけど、小平太も、あまり人の話を聞いてないみたいな所がある。もしかしたらこの二人、似ているのかもしれない、と思った。何となくだけれど。
与四郎のことが頭に浮かんで、それをきっかけに、先日会った時のことも思い出してしまう。
与四郎に怒ってしまったのも、悪いことをしたと思っている。でもまさか、私の好きな人が誰か知ってるか、なんて、……よりにもよって伊作に訊くなんて思わなかったから。
訊いた相手が伊作でなかったら、あそこまで怒らなかったかもしれないけれど。動揺してしまったのだと今では分かる。そして動揺を悟られたくなくて、あんなふうに…
与四郎のことも、傷付けてしまった。私の側の都合で。
私は友達も大事にできないのかと、ますます自己嫌悪に陥るばかりだった。
「おっ。ひまり、着いたぞ!」
私が考え事をしていても、さして気にした様子もなくひたすら歩いていた小平太は、前方を指差している。
山道の、上り坂が終わった所は開けた場所に出ていて、その場所自体は、何の変哲もない平原だけれど。
「……わあ、」
「おー!よく見えるな。思った通りだ!」
見上げれば、夜の帳の隅々に散りばめられた、無数の星。
すぐそこに迫っているような錯覚に陥りそうなくらい、視界を埋め尽くすその星空に目を奪われる。
ーーーーーーーあの時と、同じ光景。
昔、合同の野外演習で他の皆とも来たことがあった。
演習は夜に行われて、終わってからふと気付いたその頭上の光景を、全員で見上げていたんだった。
落っこちてきそう、とか、何で今まで気付かなかったんだろう、とか、言い合いながら。
演習の疲れを忘れてしまうほどに、並んでいつまでも見入っていた。
あの時、私の隣に並んだ伊作は、やっぱりいつも通りに、きれいだねと笑いかけてくれたことを、思い出す。
いつも、伊作はただ、どこまでも優しいだけなんだ。
私が、素直になれないばっかりで。
「ここも久しぶりに来るなあ。…よっと。」
小平太がその場に腰を降ろすので、私も、その隣に座った。
溢れるようなその星々を、いまひとたび見上げた瞬間。
胸が締め付けられるような気がした。
伊作に私がしたこと、あの時の伊作の傷付いたような顔。
小平太が、行こうと急に誘った時も、今ですら何も言おうとしない、そのことさえ。
胸の内に込み上げてきては、目の奥から涙を押し出そうとする。
あんたなんて何も考えていなさそうなくせに。こんな気遣ってるみたいなのは、らしくないくせに。
らしくないけど、素直になってみればやっぱりそれは、嬉しいと思うことで。
そして、本当は心配をかけさせてしまっていたんだと、自覚させられた。
「…ありがとね、小平太。」
「んー、何がだ?」
「ううん、何でもない。」
だから、何でもなくても言いたくなった。ありがとう、と。
泣きそうでも、もうバレバレでも、笑ってそう言いたくなった。泣いちゃ駄目だ、笑ってなきゃ。
訊き返すけれど小平太も、ただ笑っていた。…笑っていてくれて、ありがとうね。それは心の中だけで呟いて。
また上を見上げて、しばらく黙って星空を眺める。
コテ、と。急に。
小平太の頭が、私の方に寄りかかってきた。思わずそちらを振り返ると、膝を抱えたまま静かに目を閉じている。
「小平太、寝たの?」
声をかけても、返事はない。
「…あんたが連れてきたくせに…。」
なんか妙に、どぎまぎする。小平太の匂い、頭の重み。肩を通して、急に近くなってしまったから。
……まあどうせ、何も考えちゃいないのだろうから、こいつのこの行動を私が何か勘繰ることもあるまい。
このまま放っといて、私一人だけでも星空を鑑賞していよう。
けれど、そうして見上げているうちに、やはり夜だったからか私も寝てしまったようで。
朝だと気付いた時には自室の布団の上にいた。
どうやら、小平太が送ってくれたみたい。というかあいつ、また女子区画に無断で入ったな…。
起き上がり、とりあえず顔を洗いに行こうと部屋を出て、外を歩いていると。
「六年い組上町陽太君、六年ろ組七松小平太君、どこですか?!出てきて下さいーッ!!」
拡声器で学園中に響き渡るほど、小松田さんに呼ばれて。顔がサーッと青ざめるのが分かった。ヤバい、バレてる。
「陽太っ!」
すぐ側の茂みから小平太が姿を現した。流石に焦っている。
「こ、小平太、何でバレたんだろ…?」
「分からん、とにかく逃げるぞ!」
「こらぁ!見つけましたよ二人共!」
「ヤバいっ、逃げろ!」
「待てぇー!!」
忍術学園のサイドワインダーこと、小松田秀作の追跡から逃れるのは不可能で。
結局、私と小平太は捕まり、無断で外出したことと入出門時に必要なサインをしなかったことを、正座させられながらこっぴどく怒られてしまった。
もう絶対にしないように、と釘を刺してから、立ち去っていく小松田さんの姿が見えなくなった所で、私は隣の小平太を振り返る。
「…もー、小松田さんマニュアル通り過ぎ。もうちょっと融通利かせてくれても、ねえ?」
「…だよなっ。」
わざとのように口を尖らせてみせる私の台詞に、小平太が同意して。二人で、笑い合った。
ーーーーーーーそんな小平太と、同じように友達でもある伊作のことを、あんな言い方して、傷付けたままでいたくない。
また喧嘩みたいになったらどうしようとか、気まずい空気になったらどうしようとか、考える前に。
やっぱり、ちゃんと、謝らなきゃ。
言いたいことは、もう、とっくの昔に決まっていたのかもしれない。
その日、授業が終わってからすぐに、私の足は、はやるように駆け出していた。
※小平太と、(拙宅の)与四郎が似ているかもしれない。
※時間軸現在に戻ります。
校舎の角を曲がろうとして、私は踏みとどまる。
話し声が聞こえたからだ。仙蔵と、ーーーーーーー伊作の。
外出先で喧嘩別れのようになってしまって以来、数日経っても、伊作とは顔を合わせづらかった。……何かこういうの、前にもあったような。
でも、多分、その時よりも状況は悪い気がした。
気持ちに整理がつかなくて。けれど、このままでいいとも思えない。
あんな酷いことを言ってしまったんだ、それを謝るくらいはせめて、しなくちゃ。
けれど、何て声をかければいいのだろう。
そして伊作は、私に何て声をかけてくるのだろう?…考えるのさえ、怖い。
「陽太、何してるんだ?こんな所で。」
「わっ、小平太…!」
隠れていると、後ろから小平太に声をかけられてしまった。
「何を驚いてるんだ?あ、そういえば、もう決めたか?今度のペア実習の相手。」
「え?」
「ほら、五年生とペア組めって言われてただろ。もしかして忘れてたんじゃないだろうな?」
「あ、いや…」
「やたらでかい話し声が聞こえると思ったら…丁度私たちも、その話をしていた所だ。」
建物の陰から果たして、仙蔵と伊作が姿を現して。
目を合わせることもできない。
「…ごめん、用事あるから、先行く。」
声を、かけられてしまう前に。踵を返してしまった。
こんな、感じの悪いことしたらますます嫌われるって、分かってるのに。
無理矢理、頭を切り替えようとして、いつもみたいに木陰で本を読んでいても、内容なんて頭に入ってこなかった。
はぁ、と小さくため息をついて、立ち上がりかけた時。
「ーーーーーーーばあ!」
「ッ?!!」
突然、小平太がまた姿を現して私はしこたま驚き、尻餅をついてしまった。
何しろその登場の仕方というのが、私が座っていたすぐ上の枝から、鉄棒のように足を引っ掛けたままぐるんと、逆さにぶら下がって至近距離でいきなり顔を見せるというもので。
急に駆け足になった心の臓が収まらない間、笑いながら地上に降り立った小平太をベシベシと叩いて抗議する。
「痛い痛いっ、そんな怒らなくたっていいじゃないか!」
「…何の用だよ。」
漸く落ち着いて、小声で改めて用事を訊くと。
「陽太、今日の夜、学園の裏門に来い。」
「はあ…?何、急に…」
「待ってるからな。絶対に来いよ!じゃあな!」
「あっ、え?ちょ、小平太?!」
呼び止める前に、小平太は駆けて行ってしまった。
何なんだ一体、と思いつつ、裏門に、ということは外出をする、ということだろうかと私は推測してみる。夜に、というのも忍術学園の出入り口の番人、事務員の小松田さんの目を盗んでこっそり、ということだろうかと。
その推測は概ね当たっていて、但し、夜に、の理由は何もこっそり外出するからだ、というだけではなかったらしい。
「久しぶりに、見たくなってな。こないだ雨降ったし、今日は晴れてたからよく見えそうだろう?」
「そうかもしれないけど……でもほんと、何で急に…?」
裏門を出て、忍術学園からも大分離れて。
普段から、先に説明するということが頭に入ってない小平太に連れられて、私は裏山の道をゆく。
その時には"目的地"は辛うじて聞き出せてはいたけれど、私はまだ訝しんでいた。何故急に、行こうなんて言いだしたのだろうかと。
とは言っても、彼のことだ。特に理由なんて、実は無いのかもしれない。
「まあ、細かいことは気にするな!」
「はいもう、それ言うと思いましたよ七松小平太さん。」
「はははっ、よく分かってるじゃないか。」
「そりゃ一年の時からの付き合いですからね。嫌と言うほど。」
「嫌なのか?」
急に声のトーンが、真面目な感じになった小平太に覗き込まれて、思わず反射的に顔を逸らす。
「…別にそういう意味じゃなくて。もうっ、細かいことは気にしないのっ!」
「お?うつったな!」
「…何嬉しそうにしてんだか。」
歩きながら、月明かりだけで辺りは暗いし、他に人もいないだろうと思い、私は普段は滅多に外さない頭巾の覆面を、顎の下におろした。
「……ひまりって美人だよなー。」
「な、何だよ急に…。というか、そっちの名前で呼ぶなって。」
「いいじゃないか。ひまり!」
「…はぁ全く。まあ、今はいいか。」
与四郎もだけど、小平太も、あまり人の話を聞いてないみたいな所がある。もしかしたらこの二人、似ているのかもしれない、と思った。何となくだけれど。
与四郎のことが頭に浮かんで、それをきっかけに、先日会った時のことも思い出してしまう。
与四郎に怒ってしまったのも、悪いことをしたと思っている。でもまさか、私の好きな人が誰か知ってるか、なんて、……よりにもよって伊作に訊くなんて思わなかったから。
訊いた相手が伊作でなかったら、あそこまで怒らなかったかもしれないけれど。動揺してしまったのだと今では分かる。そして動揺を悟られたくなくて、あんなふうに…
与四郎のことも、傷付けてしまった。私の側の都合で。
私は友達も大事にできないのかと、ますます自己嫌悪に陥るばかりだった。
「おっ。ひまり、着いたぞ!」
私が考え事をしていても、さして気にした様子もなくひたすら歩いていた小平太は、前方を指差している。
山道の、上り坂が終わった所は開けた場所に出ていて、その場所自体は、何の変哲もない平原だけれど。
「……わあ、」
「おー!よく見えるな。思った通りだ!」
見上げれば、夜の帳の隅々に散りばめられた、無数の星。
すぐそこに迫っているような錯覚に陥りそうなくらい、視界を埋め尽くすその星空に目を奪われる。
ーーーーーーーあの時と、同じ光景。
昔、合同の野外演習で他の皆とも来たことがあった。
演習は夜に行われて、終わってからふと気付いたその頭上の光景を、全員で見上げていたんだった。
落っこちてきそう、とか、何で今まで気付かなかったんだろう、とか、言い合いながら。
演習の疲れを忘れてしまうほどに、並んでいつまでも見入っていた。
あの時、私の隣に並んだ伊作は、やっぱりいつも通りに、きれいだねと笑いかけてくれたことを、思い出す。
いつも、伊作はただ、どこまでも優しいだけなんだ。
私が、素直になれないばっかりで。
「ここも久しぶりに来るなあ。…よっと。」
小平太がその場に腰を降ろすので、私も、その隣に座った。
溢れるようなその星々を、いまひとたび見上げた瞬間。
胸が締め付けられるような気がした。
伊作に私がしたこと、あの時の伊作の傷付いたような顔。
小平太が、行こうと急に誘った時も、今ですら何も言おうとしない、そのことさえ。
胸の内に込み上げてきては、目の奥から涙を押し出そうとする。
あんたなんて何も考えていなさそうなくせに。こんな気遣ってるみたいなのは、らしくないくせに。
らしくないけど、素直になってみればやっぱりそれは、嬉しいと思うことで。
そして、本当は心配をかけさせてしまっていたんだと、自覚させられた。
「…ありがとね、小平太。」
「んー、何がだ?」
「ううん、何でもない。」
だから、何でもなくても言いたくなった。ありがとう、と。
泣きそうでも、もうバレバレでも、笑ってそう言いたくなった。泣いちゃ駄目だ、笑ってなきゃ。
訊き返すけれど小平太も、ただ笑っていた。…笑っていてくれて、ありがとうね。それは心の中だけで呟いて。
また上を見上げて、しばらく黙って星空を眺める。
コテ、と。急に。
小平太の頭が、私の方に寄りかかってきた。思わずそちらを振り返ると、膝を抱えたまま静かに目を閉じている。
「小平太、寝たの?」
声をかけても、返事はない。
「…あんたが連れてきたくせに…。」
なんか妙に、どぎまぎする。小平太の匂い、頭の重み。肩を通して、急に近くなってしまったから。
……まあどうせ、何も考えちゃいないのだろうから、こいつのこの行動を私が何か勘繰ることもあるまい。
このまま放っといて、私一人だけでも星空を鑑賞していよう。
けれど、そうして見上げているうちに、やはり夜だったからか私も寝てしまったようで。
朝だと気付いた時には自室の布団の上にいた。
どうやら、小平太が送ってくれたみたい。というかあいつ、また女子区画に無断で入ったな…。
起き上がり、とりあえず顔を洗いに行こうと部屋を出て、外を歩いていると。
「六年い組上町陽太君、六年ろ組七松小平太君、どこですか?!出てきて下さいーッ!!」
拡声器で学園中に響き渡るほど、小松田さんに呼ばれて。顔がサーッと青ざめるのが分かった。ヤバい、バレてる。
「陽太っ!」
すぐ側の茂みから小平太が姿を現した。流石に焦っている。
「こ、小平太、何でバレたんだろ…?」
「分からん、とにかく逃げるぞ!」
「こらぁ!見つけましたよ二人共!」
「ヤバいっ、逃げろ!」
「待てぇー!!」
忍術学園のサイドワインダーこと、小松田秀作の追跡から逃れるのは不可能で。
結局、私と小平太は捕まり、無断で外出したことと入出門時に必要なサインをしなかったことを、正座させられながらこっぴどく怒られてしまった。
もう絶対にしないように、と釘を刺してから、立ち去っていく小松田さんの姿が見えなくなった所で、私は隣の小平太を振り返る。
「…もー、小松田さんマニュアル通り過ぎ。もうちょっと融通利かせてくれても、ねえ?」
「…だよなっ。」
わざとのように口を尖らせてみせる私の台詞に、小平太が同意して。二人で、笑い合った。
ーーーーーーーそんな小平太と、同じように友達でもある伊作のことを、あんな言い方して、傷付けたままでいたくない。
また喧嘩みたいになったらどうしようとか、気まずい空気になったらどうしようとか、考える前に。
やっぱり、ちゃんと、謝らなきゃ。
言いたいことは、もう、とっくの昔に決まっていたのかもしれない。
その日、授業が終わってからすぐに、私の足は、はやるように駆け出していた。
※小平太と、(拙宅の)与四郎が似ているかもしれない。