そのうすべに色を隠して。
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『十三頁 秘める追憶の雨音』
※過去話。三年生の時の回想。
※全体的に暗め、シリアス。
※出現情報:割とよく喋るモブ女子など。
※いじめ描写あり。
※流血あり注意。
※一部、R15手前くらいのちょっと注意。背後にお気を付けてお読みください。
どうやら、友達だと思っていたのはまるきり自分の側だけだったらしい。
それならいっそ、遭遇したくなかった。
来るとは聞いてなかったのに、自室から出てきた、同い年のくの一教室の女の子三人の姿を見た時に、ひまりはそう思った。
タイミングからして、部屋の中を確認するまでもなく、きっと、いつもみたいに"あの紙"か何かが置き去りにされていると分かっていた。
その三人はこちらに気付いても、最初と同じようにクスクス笑い続けていて。
本当に、遭遇したくはなかった。
「…あんたたちがやってたの?」
やっと、そう言うと、その三人は眉をひそめる。
「あら、証拠でもあるっていうわけ?」
「そんなもの、ないじゃない。」
「決めつけるなんて、ひっどーい。」
自分たちの方が被害者だと言うその口は、ずっと、笑っている。
その笑い声は、外の曇天に、いつまでもこだまするようだった。
「…ひまり、あのさ。」
「何?」
ひまりは、隣を歩く伊作にふと声をかけられて振り返る。
二人は学園長のお使いで出ており、いつも着ている忍術学園の制服ではなく、外出用の服装をしていた。
お使い自体はもう済んでいて、その、帰る途中のことだった。話しかけた方の伊作は、言おうか言うまいかと、少し迷っているような様子を見せていたが。
「僕の勘違いだったら、ごめんね。…でも、最近、元気ないような気がして。」
「そう?」
「この前、留三郎が、遊びに呼んだのに断られたって言ってたから。それに、時々考え事してるみたいだし。…何か、悩み事でもあるのかい?」
「……ううん。大丈夫。」
「…そう…。」
「最近テストが続けてあったから、疲れちゃっただけよ。」
「そっか。…それなら、今日のおつかい、僕一人で行ってくれば良かったね。ごめん、気付かなくて。」
「元々、最初は私が学園長先生から頼まれたご用だもの。私が行かなくちゃ。…伊作ってさぁ、いつも謝りすぎ。周りに気を遣ってばっかりじゃ、あんたの方が疲れちゃうわよ?」
「そう、だね。…」
「…何で、笑ってるのよ。」
「やっぱり、ひまりは優しいなあって。僕の心配をしてくれてるから。」
「もー呑気なこと言って…。ほら、雨も降りそうだし、急いで帰ろう。」
空模様を伺うフリで、伊作の笑顔から目を逸らす。
本当は、ずっと隣を歩いていたいと思っているはずなのに。どうしても、素直になれない。
伊作の顔を見ていると何だか、面映ゆい気がするから、………だけじゃない。
一緒にいてはいけないんじゃないか、という気持ちも、湧き出てくるのだ。
…でも、
ーーーーーーーー男子に色目使って。
ーーーーーーーーいっつも、男子とばっかり遊んでるのよ。
ーーーーーーーーあの子って、ずるいわよね。
いつか耳にした聞こえよがしなヒソヒソ話が、自分の中で繰り返し響いて。心の中で反発を募らせる。
友達と一緒にいて、何が悪いのだろう。話したり、遊んだりして、何がおかしいのだろう。気が合うから、友達なんじゃないのか。
ぐるぐる、確かに伊作の言う通り、考え事をしてしまう。
黙っていたらまた心配させてしまう、と何とかして別の話題を持ち出そうと、した時だった。
行く手を、人相の悪い男が三人、阻んでいた。
三人とも、抜刀している。
「ガキ共、金目のモン置いていけよ。」
「言う事聞きゃ、命までは取りはしねぇからよ。」
ひまりはしまった、と青くなる。その日に限って、武器になるものを何も持って出ていなかった。
伊作は毅然と、盗賊らしいその三人を睨みつける。
「僕たち、金目のものなんて持ってない!ただのお使いなんだから。」
「けっ、何がオツカイだ。見逃して貰おうったってそうはいかねぇよ。」
「ひまり、僕の後ろに下がって。」
「伊作…」
懐から苦無を取り出して男たちに向けて構えながら、伊作はひまりを庇おうとする。三人の内の一人が、抜き身の刀をギラつかせながら、下卑た笑いを浮かべて一歩近付いてきた。
「そっちのカワイイお嬢ちゃんは、人買いに売ればそこそこ儲かりそうだな……へへへ……」
「この子に手を出すな!ひまり、先に逃げるんだ。」
「そんな、駄目だよ、あんただけ置いていくなんてできるわけ…」
「ゴチャゴチャ言ってねぇでさっさと渡せ!」
「うわっ……!」
「伊作ッ!!」
苦無で応戦する前に、振り下ろされる銀の刃。その切っ先が伊作に届いてしまったらーーーーーーー
考えるより先に、体が勝手に動いていた。伊作と、その男の間に入って、
左頬に走る、一瞬の冷たい痛みと、すぐにそれを掻き消す、熱く鋭く長い痛み。
手をついて地面に倒れ込んだ時、地面に散った血飛沫が視界に入った。
土を染めたそれを目にしても、その時は何故か、現実感が無かった。自分の血のはずなのに。
斬られた所から、後からどんどん血が流れ続けて、頭がぼうっとしてくる。
「ひまり!!」
伊作が強く呼ぶ声さえ、遠く感じられた。
「こ、このガキ…!」
咄嗟に、伊作は懐から目潰しを取り出し盗賊たちに向けて投げつけた。
「うっ?!」
「何だ…痛ぇ!」
「目が……!?」
三人が怯んでいる隙に、伊作に肩を貸されながらひまりは、一緒に走った。
「しっかりして、ひまり…!」
それからは、無我夢中で盗賊たちから逃げて。
山の中を進む内に、雨が降り出してきて。偶然近くの洞窟を見つけて、強くなっていく雨を一旦そこで凌ぐことになった。
「ひまり……」
伊作に声をかけられても、ひまりはうまく答えることができない。雨に濡れ、傷口から血は流れ続け、まるで心の臓がドクドクいうように、痛みがいつまでも消えない。気が遠くなりそうだった。
「…こんな時に、包帯も血止めできるものも、何も持っていないなんて……。」
代わりになるものを探しても、二人の服は盗賊に襲われた時と雨によって汚れてしまい、清潔なものは用意できそうになかった。
一刻も早く忍術学園に戻って、医務室で治療をしてもらわなければと、分かりきっている二人を追い詰めるように、洞窟の外の雨音は、強まるばかり。
遠くでは雷も鳴り、今、外に出るのは却って危険な状況だった。
「ひまりは僕を助けてくれたのに……どうして、僕は、君を助けられないでいるんだろう……せめて血を止められたら、」
後悔と焦りに満ちた伊作の呟きと共に、手を握られる。
洞窟の入り口の方から聞こえてくる激しい雨の音以外、ひまりは、自分の浅い呼吸が耳に入るだけだった。
「………そうだ…!」
思いついたように伊作が声をあげるのを、何?と訊く代わりに目線だけ伊作の方に動かすと。伊作の手が、顔に添えられた。
「ひまり。ちょっと、じっとしてて。……ごめんね。」
傷口を直接、舌で這われ、刺すような鋭い痛みが走った。
「いッ………!」
「ごめん、……痛いだろうけど、ちょっとだけ我慢して。」
また一度、更にもう一度、と伊作の舌が、傷口を舐める度に。
痛みではなく、心の臓のドクン、と跳ね上がる音が、意思に反したその大きな震えが、全身を襲う。
その震えは自分の呼吸さえ詰まらせるようで、苦しくて喘いでしまう。
「………や、」
やめて、と言おうとするのに、痛みで口が動かせない。
伊作は、ずっと真剣な表情で、必死で血を止めようとしている。
それなのに、舌が肌を這う感触が来る度に、ビク、と反応してしまう自分の体が、恥ずかしくて、嫌でたまらなくて。
拳もギュッと握って全身に力を入れて、絶対に動かないように、しようとしているのに。
少しでも自分が身じろぎしてしまったら、唇が触れてしまいそうな距離なのに。
かすかに漏れてしまう声も、もう、傷口に痛みが走るせいばかりじゃなかった。
幸い伊作は、その反応がただひたすら痛みによるものだと思っているらしく、それだけではないということには気付いていないようだった。ひまりにとっては、そのことが今は、唯一の救いで。
もう、優しく舌先が撫ぜる頬だけじゃなくて、かすかに吐息の当たる耳たぶや、手を添えられる顎にすら、びりびりとしたものが走るように感じられてしまう。
早く血が止まってほしいと、ひたすら願うことしかできなかった。
「………うん、殆ど止まったみたい。良かった…。」
伊作の少し安堵した声に、全身に力を入れまくっていたひまりは気が抜け、大きく息をつきながら洞窟の壁に背をもたれた。
それがぐったりしたように見えたのか、伊作が慌てる。
「ひまり?!…やっぱり、痛かったよね?ごめ……」
否、実際に、ぐったりしていたのだった。
顔だけでなく、首筋も、さっき伊作が握っていた手の指先さえほんのり赤く。ひまりは全身、熱を帯びていた。
伊作が呼びかけても、浅く息をしながら、目を閉ざしたまま。
伊作がふと、洞窟の外を見ると、雨足はだいぶ弱まっていた。すぐにひまりを背負い、洞窟を出て山を下る道へと急ぐ。
忍術学園に着く頃には雨は殆どあがっていて、雲間から僅かに覗く空は、夜を迎える一歩手前の色だった。
※過去話。三年生の時の回想。
※全体的に暗め、シリアス。
※出現情報:割とよく喋るモブ女子など。
※いじめ描写あり。
※流血あり注意。
※一部、R15手前くらいのちょっと注意。背後にお気を付けてお読みください。
どうやら、友達だと思っていたのはまるきり自分の側だけだったらしい。
それならいっそ、遭遇したくなかった。
来るとは聞いてなかったのに、自室から出てきた、同い年のくの一教室の女の子三人の姿を見た時に、ひまりはそう思った。
タイミングからして、部屋の中を確認するまでもなく、きっと、いつもみたいに"あの紙"か何かが置き去りにされていると分かっていた。
その三人はこちらに気付いても、最初と同じようにクスクス笑い続けていて。
本当に、遭遇したくはなかった。
「…あんたたちがやってたの?」
やっと、そう言うと、その三人は眉をひそめる。
「あら、証拠でもあるっていうわけ?」
「そんなもの、ないじゃない。」
「決めつけるなんて、ひっどーい。」
自分たちの方が被害者だと言うその口は、ずっと、笑っている。
その笑い声は、外の曇天に、いつまでもこだまするようだった。
「…ひまり、あのさ。」
「何?」
ひまりは、隣を歩く伊作にふと声をかけられて振り返る。
二人は学園長のお使いで出ており、いつも着ている忍術学園の制服ではなく、外出用の服装をしていた。
お使い自体はもう済んでいて、その、帰る途中のことだった。話しかけた方の伊作は、言おうか言うまいかと、少し迷っているような様子を見せていたが。
「僕の勘違いだったら、ごめんね。…でも、最近、元気ないような気がして。」
「そう?」
「この前、留三郎が、遊びに呼んだのに断られたって言ってたから。それに、時々考え事してるみたいだし。…何か、悩み事でもあるのかい?」
「……ううん。大丈夫。」
「…そう…。」
「最近テストが続けてあったから、疲れちゃっただけよ。」
「そっか。…それなら、今日のおつかい、僕一人で行ってくれば良かったね。ごめん、気付かなくて。」
「元々、最初は私が学園長先生から頼まれたご用だもの。私が行かなくちゃ。…伊作ってさぁ、いつも謝りすぎ。周りに気を遣ってばっかりじゃ、あんたの方が疲れちゃうわよ?」
「そう、だね。…」
「…何で、笑ってるのよ。」
「やっぱり、ひまりは優しいなあって。僕の心配をしてくれてるから。」
「もー呑気なこと言って…。ほら、雨も降りそうだし、急いで帰ろう。」
空模様を伺うフリで、伊作の笑顔から目を逸らす。
本当は、ずっと隣を歩いていたいと思っているはずなのに。どうしても、素直になれない。
伊作の顔を見ていると何だか、面映ゆい気がするから、………だけじゃない。
一緒にいてはいけないんじゃないか、という気持ちも、湧き出てくるのだ。
…でも、
ーーーーーーーー男子に色目使って。
ーーーーーーーーいっつも、男子とばっかり遊んでるのよ。
ーーーーーーーーあの子って、ずるいわよね。
いつか耳にした聞こえよがしなヒソヒソ話が、自分の中で繰り返し響いて。心の中で反発を募らせる。
友達と一緒にいて、何が悪いのだろう。話したり、遊んだりして、何がおかしいのだろう。気が合うから、友達なんじゃないのか。
ぐるぐる、確かに伊作の言う通り、考え事をしてしまう。
黙っていたらまた心配させてしまう、と何とかして別の話題を持ち出そうと、した時だった。
行く手を、人相の悪い男が三人、阻んでいた。
三人とも、抜刀している。
「ガキ共、金目のモン置いていけよ。」
「言う事聞きゃ、命までは取りはしねぇからよ。」
ひまりはしまった、と青くなる。その日に限って、武器になるものを何も持って出ていなかった。
伊作は毅然と、盗賊らしいその三人を睨みつける。
「僕たち、金目のものなんて持ってない!ただのお使いなんだから。」
「けっ、何がオツカイだ。見逃して貰おうったってそうはいかねぇよ。」
「ひまり、僕の後ろに下がって。」
「伊作…」
懐から苦無を取り出して男たちに向けて構えながら、伊作はひまりを庇おうとする。三人の内の一人が、抜き身の刀をギラつかせながら、下卑た笑いを浮かべて一歩近付いてきた。
「そっちのカワイイお嬢ちゃんは、人買いに売ればそこそこ儲かりそうだな……へへへ……」
「この子に手を出すな!ひまり、先に逃げるんだ。」
「そんな、駄目だよ、あんただけ置いていくなんてできるわけ…」
「ゴチャゴチャ言ってねぇでさっさと渡せ!」
「うわっ……!」
「伊作ッ!!」
苦無で応戦する前に、振り下ろされる銀の刃。その切っ先が伊作に届いてしまったらーーーーーーー
考えるより先に、体が勝手に動いていた。伊作と、その男の間に入って、
左頬に走る、一瞬の冷たい痛みと、すぐにそれを掻き消す、熱く鋭く長い痛み。
手をついて地面に倒れ込んだ時、地面に散った血飛沫が視界に入った。
土を染めたそれを目にしても、その時は何故か、現実感が無かった。自分の血のはずなのに。
斬られた所から、後からどんどん血が流れ続けて、頭がぼうっとしてくる。
「ひまり!!」
伊作が強く呼ぶ声さえ、遠く感じられた。
「こ、このガキ…!」
咄嗟に、伊作は懐から目潰しを取り出し盗賊たちに向けて投げつけた。
「うっ?!」
「何だ…痛ぇ!」
「目が……!?」
三人が怯んでいる隙に、伊作に肩を貸されながらひまりは、一緒に走った。
「しっかりして、ひまり…!」
それからは、無我夢中で盗賊たちから逃げて。
山の中を進む内に、雨が降り出してきて。偶然近くの洞窟を見つけて、強くなっていく雨を一旦そこで凌ぐことになった。
「ひまり……」
伊作に声をかけられても、ひまりはうまく答えることができない。雨に濡れ、傷口から血は流れ続け、まるで心の臓がドクドクいうように、痛みがいつまでも消えない。気が遠くなりそうだった。
「…こんな時に、包帯も血止めできるものも、何も持っていないなんて……。」
代わりになるものを探しても、二人の服は盗賊に襲われた時と雨によって汚れてしまい、清潔なものは用意できそうになかった。
一刻も早く忍術学園に戻って、医務室で治療をしてもらわなければと、分かりきっている二人を追い詰めるように、洞窟の外の雨音は、強まるばかり。
遠くでは雷も鳴り、今、外に出るのは却って危険な状況だった。
「ひまりは僕を助けてくれたのに……どうして、僕は、君を助けられないでいるんだろう……せめて血を止められたら、」
後悔と焦りに満ちた伊作の呟きと共に、手を握られる。
洞窟の入り口の方から聞こえてくる激しい雨の音以外、ひまりは、自分の浅い呼吸が耳に入るだけだった。
「………そうだ…!」
思いついたように伊作が声をあげるのを、何?と訊く代わりに目線だけ伊作の方に動かすと。伊作の手が、顔に添えられた。
「ひまり。ちょっと、じっとしてて。……ごめんね。」
傷口を直接、舌で這われ、刺すような鋭い痛みが走った。
「いッ………!」
「ごめん、……痛いだろうけど、ちょっとだけ我慢して。」
また一度、更にもう一度、と伊作の舌が、傷口を舐める度に。
痛みではなく、心の臓のドクン、と跳ね上がる音が、意思に反したその大きな震えが、全身を襲う。
その震えは自分の呼吸さえ詰まらせるようで、苦しくて喘いでしまう。
「………や、」
やめて、と言おうとするのに、痛みで口が動かせない。
伊作は、ずっと真剣な表情で、必死で血を止めようとしている。
それなのに、舌が肌を這う感触が来る度に、ビク、と反応してしまう自分の体が、恥ずかしくて、嫌でたまらなくて。
拳もギュッと握って全身に力を入れて、絶対に動かないように、しようとしているのに。
少しでも自分が身じろぎしてしまったら、唇が触れてしまいそうな距離なのに。
かすかに漏れてしまう声も、もう、傷口に痛みが走るせいばかりじゃなかった。
幸い伊作は、その反応がただひたすら痛みによるものだと思っているらしく、それだけではないということには気付いていないようだった。ひまりにとっては、そのことが今は、唯一の救いで。
もう、優しく舌先が撫ぜる頬だけじゃなくて、かすかに吐息の当たる耳たぶや、手を添えられる顎にすら、びりびりとしたものが走るように感じられてしまう。
早く血が止まってほしいと、ひたすら願うことしかできなかった。
「………うん、殆ど止まったみたい。良かった…。」
伊作の少し安堵した声に、全身に力を入れまくっていたひまりは気が抜け、大きく息をつきながら洞窟の壁に背をもたれた。
それがぐったりしたように見えたのか、伊作が慌てる。
「ひまり?!…やっぱり、痛かったよね?ごめ……」
否、実際に、ぐったりしていたのだった。
顔だけでなく、首筋も、さっき伊作が握っていた手の指先さえほんのり赤く。ひまりは全身、熱を帯びていた。
伊作が呼びかけても、浅く息をしながら、目を閉ざしたまま。
伊作がふと、洞窟の外を見ると、雨足はだいぶ弱まっていた。すぐにひまりを背負い、洞窟を出て山を下る道へと急ぐ。
忍術学園に着く頃には雨は殆どあがっていて、雲間から僅かに覗く空は、夜を迎える一歩手前の色だった。