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狼と夜

莎印side
監督と別れて私は選抜された選手の集合場所に向かった。
他の人達は今頃ユニフォームに着替えている頃だろう。
でも私は元から日本代表メンバーになる事は決まっていたから予め着てきた。女子は1人だけだし色々面倒だから。

案の定集合場所には誰も居なかった。流石に早すぎたか。
少し待っているとさっきまで言葉を交わしていた趙金運が目の前に現れる。

「そろそろ皆さんが来ますよー。莎印さんは全員初対面だと思いますので紹介しますね」


私はサッカー選手としてはある程度知られているが、自校の部には入ってはいない。
たまに他校の助っ人として入ったりしている中で何故か注目を浴びてしまったのだ。


複数の足音と話し声が聞こえてくる。壁から背を離し、髪を整えた。
そしてさっきまでの自分からは考えられない程の満面の笑みを浮かべた。
これで準備は終わり。
さあ、ここから気を付けないと…ね。



「みなさーん、特別選手を紹介しますよー」
監督の声に全員の視線が私に刺さる。私は表情に不自然さが出ないよう笑いかける。

「初めましての方がほとんどですね。初めまして、皆さんと同じく日本代表に入ることになりました。織乙莎印といいます。よろしくお願いします」

慣れない口調で挨拶をして、選手の皆に笑いかける。反応を見る限り、印象は良いようだ。


よろしく、と声をかけられている所で趙金運が声をあげた。
「みなさーん挨拶は一旦終了デース!急いで並んで下さーい!」

全員が慌てて列を作る。私は後ろの方に並んだ。隣は青髪の男。
「よろしくお願いします」
「えぇ…よろしく」
彼は笑顔で挨拶をしてくる。私も同じように答えた。
前にいる選手がこちらをチラッと見たがすぐに前に向き直る。声に反応しただけのようだ。
今の会話は誰が見てもただの挨拶に聞こえるだろう。
でも今の挨拶は多分…それだけでは無いだろう。相手は"そういう意味"で言ったのだ。

きっと誰も、"私達"の事を知らない。
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