A lump of the love

『俺な、やっぱり家族が欲しい』

喜びも悲しみも分かち合い、
どんな時も想いあって触れあえる家族。

他にはなにも望まない。

でも、それは俺には簡単に手に入らないもの。

多くの人が当たり前に持っているのに自分には縁のないもの。

『じゃあ、俺が康の家族になるよ』

数年ぶりに再会したまさに愛くるしい天使のようだった幼馴染の蓮。  

蓮は成人を迎えた俺よりも遥かに男らしい顔付きと体躯を持つ青年となった。

さらに俺に引っ付いては中々離れなかったあまちゃんだった蓮と俺の関係も変化する。

今では、甘えられる方と甘える方で立場が逆転し、蓮は俺の全てを唯一曝け出すことの出来る頼もしい存在となった。

両方の肩に手を乗せられ真剣な眼差しで俺を見つめる蓮に正直な話、少女漫画の主人公バリにときめいている。

『それって……どういう意味?俺らは今でも兄弟みたいなもんやろ?』

この時にはもうすでに分かっていた。

蓮が俺を”兄弟以上”の存在として見ていることに。

ただ、蓮の口から直接聞いてみたかったんや。

『……康のこと出会った時からずっと追い求めてた』

この言葉を。

『………』

低い声で素直な気持ちを打ち明けられてはドクン、ドクンと胸が鳴り、吸い込まれるような蓮の黒い瞳に俺は釘付けとなる。

『これからは康が寂しくないように俺が康のそばにずっといるし、康のことは俺が守ると誓うよ。

俺はね、康。
この世界で一番に康を愛してるんだ』

長年憧れ続けた俺の”家族”に蓮がなってくれるという。

『……っ、うっ』

『泣かないでよ、康』

蓮のプロポーズに喜びでポロポロと涙が頬を伝っていき、言葉を返したいのにたくさんの想いが込み上げて声にならない。

嗚咽が漏れ、口元を押さえる俺を蓮が優しく抱きしめてくれる。

『俺もっ……蓮のことが好きや、ほんまに愛しとる』

お互い青年となり、再会を果たした時。 
蓮は俺と初めて出会った『あの日』と同じ笑顔で俺に微笑んだ。

そして、成長して顔付きが変わっても俺はそれが蓮であることにすぐに気付く。

強い安心感と懐かしさ。
この時抱いた蓮に対する愛おしさは……

きっと生涯忘れることはない”強い想い”

『康、これだけは絶対に忘れないで。俺は康のこと、もう二度と離しはしないから』

『あぁ、蓮がずっと俺を掴んどいてな』

俺を抱きしめる手に力を込め、蓮の体温がさらに身近なものとなっては胸が酷く痛み、この感覚を俺はずっと昔から知っているような気持ちになった。

そう、蓮との出会いが運命であると思えるほどに。




「ん?」

度重なる番組やドラマの撮影、雑誌の取材や打ち合わせで疲れが出て、俺はどうやら白昼夢を見ていたようや。

『可愛い仕草……?うちのメンバーで言うと向井康二がよくするてんちですかね』

俺の家のリビングにあるテレビの大画面に映る誰もが見惚れるイケメン。

アイドルになる夢を叶えた俺の背中を追いかけ今や、同じグループのメンバーとして活躍する俺の家族の蓮だ。

蓮は二人きりの時以外は俺のことを「康二」と呼び、俺も蓮のことを他のメンバーと同じように「めめ」と呼んでいる。

しかし、互いを下の名前で呼んでいるのは二人だけのとっておきの秘密だ。

「まーた俺の話ばっかして。蓮は何回康二言うねん!お前らほんまに出来てるんか?ってファンに言われるで」

生放送で俺の話を口角を上げながら楽しそうに話す蓮に俺はクスクスと笑い、視聴者はまさか俺と蓮が本当に付き合っているとは思わないだろう。

『康二にはいつも笑わせてもらってます』

「……俺やって蓮にたくさん笑わしてもうとるよ」

近くにあるクッションを抱え、ギュッと抱きしめる。

肝心なところで記憶を飛ばした俺の旦那様になった蓮。  

俺にめっちゃくちゃ甘々で、正直なんで俺なんかを一途に想っとるんやろ?なんて思う部分もあるが、こんなに真っ直ぐに愛されて嫌なわけがない。

「蓮、好き……」

大きな画面に映る蓮に気持ちを伝えれば、偶然にも生放送中の蓮が画面越しにこちらを見てはにかむ。

「っ……!」

そして、後ろから蓮に抱きしめられる感覚をふと思い出し、途端に胸が苦しくなる。

昔から寂しがりやの俺は常に誰かの温もりを求めていた。

——暗い空間を常に一人で当てもなく彷徨い、途方に暮れる……そんな俺を蓮が見つけてくれた。

「蓮、早く帰ってきて」

強く抱きしめて、熱い口付けと、
溶けてなくなるほどの愛を俺に囁いて。

ぐるぐると渦巻く感情が俺の腹へとくだってゆく。

腹に手を当て、優しく撫でれば蓮のいない寂しさが和らぐ気がした。




蓮side



「康、ただいま。康? 」

俺が玄関のドアを開ければ無機質な照明がカチッと付くだけで、俺は期待していた眩い笑顔がないこと落胆する。

『蓮!おかえり!めっちゃ会いたかったで!!』

今日、康はオフの日だ。
そういう日は康が決まって俺をニコニコと出迎えてくれるのだが、さて?どうしたものか。

「靴はあるし、寝てるのかな」

下を見れば、白にオレンジの紐が付いた康のお気に入りのスニーカーが綺麗に揃えられている。
これは俺がプレゼントした康のお気に入りの靴だ。

リビングからはテレビの音が漏れ、人がいる気配もある。 

家にいるならば康が俺を出迎えないはずがないので、きっと、テレビを見ながら寝てしまったのだろうと俺は結論付けた。

靴を脱いで康のスニーカーの横に綺麗に並べ、ゆっくりとした足取りで康の元へと向かう。

早く康に会いたい。
腕の中にすっぽりと収まる華奢な体を抱きしめ、顔中にキスの雨を降らせては寂しがりやな彼に飽きるほど愛してると囁き、安心させてやりたい。

「…………すぅ」

「……泣いたのか」

リビングの扉を開ければ案の定、ソファーの片隅で片方の手でクッションを抱え、もう片方の手を腹に乗せ丸まって眠る康の姿。

「康、もう泣かないで欲しいんだ。君の泣く姿を見ると胸が苦しくなるから」

「ん……」

暗い部屋でテレビの光に照らされた康の顔には涙の跡。

目尻に溜まった涙をそっと拭えば、寝苦しそうな表情が穏やかなものへと変わり、俺は安心する。

『蓮、好き……』

リビングの食卓にラップをかけて並べられたおかずは俺の好物ばかり。

一生懸命作ってくれる姿が頭に浮かび、康のことがさらに愛おしくなる。

「俺も康が好きだよ」

「ん……」

カーペットの上に膝をついて康のお腹に乗せられた手に自身の手を重ね、永遠と眺めていられる康の整った寝顔に笑が漏れる。

彼は俺が出演する生放送を食い入るように見ていただろう。 

途中で康に向けて微笑んだのを康は気付いてくれただろうか。

「……康」

「ふっ………蓮?おかえり。ご飯出来てるで」

康の薄い唇を親指でゆっくり撫で上げれば、康はそのくすぐったさに身をよじり、ゆっくりと目を開く。

「ただいま康」

「えっ、ちょ、んっ!ふぅ……やぁッ」

康の瞳に俺が写り、微笑む姿に堪らなくなる。
俺がすかさず康の唇を奪い、舌を差し込むと康はいきなりのことに身を捩る。

しかし後ろはソファーの背もたれで、康に逃げ場はない。

「そんな顔されたら、まずは康のこと食べたくなるんだけど」

「っ、駄目……ちゃんとご飯を食べてや」

頬杖をついて今度は康の鼻先にパクッと吸い付く。

それにより真っ赤になった康は腕で顔を隠し、これ以上俺に触れられないようにガードをする。

「ははっ、康って本当何をしても可愛いよね」

「うるさい…… 」

仕事中もそれ以外の時間も四六時中、康のことでいっぱいな俺の脳内。

常にパンク寸前だというのに康はそれ以上の向井康二で埋め尽くしてくれる。

「じゃあ、康が作ってくれたご飯を食べようか。おかずチンするね」

「蓮」

俺が立ち上がり、真っ先にリビングの電気を付けようとすると俺の腰に康が縋り付く。

全く。
幼い頃はしっかりしたお兄ちゃんだったのに……
再会した康はとびきりの甘えん坊となり、今ではどちらが年上かわからない。

「こーう。そういうことするならベットに連行するけど、いいの?」

「…………」

何も言わず、額を俺の背に擦り付ける康の両手に俺の両手を重ねる。

「俺はどこにも行かないよ。これからは何があっても二度と康から離れないって約束する」

「絶対やで」

弱々しく呟く康の腰に巻き付いた手を解き、ソファーに腰掛ける康に正面から跪く。

切なげな表情で俺を見下ろす康。

「うん。例え地球が滅んだとしても、また違う存在となって俺は康を探すんだ」

「それは大袈裟やな」

その目にはまだ不安が揺らいでいる。
俺は康に気付かれないようにゆっくり息を吸っては吐く。

……本当はもう少し準備を整えてから渡したかったのだが、今が絶妙なタイミングなんじゃないだろうか?

俺は着ているジャケットの左ポケットに入った箱を探って中身を器用に取り出し、それを握り拳の中に納める。

そして、康の左手を右手でそっと取り、俺がこの世で最も美しいと思う少しうるみがかかった康の瞳をジッと見据えた。

「目黒蓮は健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、向井康二を愛し敬い、慰め、助け、この命ある限り真心を尽くすことを誓います」

目黒蓮の嘘偽りのない、向井康二への1000%の愛。

「……ドラマの為に練習しただけあって、心に響くわぁ」

右手で目頭を押さえ俯く康。
その声はわずかに震えていた。

「茶化さないで。俺は本気だよ。ほら、」

掴んだ左手の薬指にポケットから出したシルバーの指輪をはめてやる。

「……っ、」

「二回目のプロポーズになっちゃったけど、これで俺の愛を信じてくれる?」

自身の指にピッタリとはまった指輪を見て大粒の涙を流す愛しい人は赤子のように無垢で、とても純粋で、一秒たりとも目を離すことの出来ないたった一つの俺の光。

「ほんまに、俺にはこの先も蓮しかおらんっ
………!」

「うん、俺にも康だけだ」

その通りだよ康。

この世界には俺と君の『二つ』の存在だけ、だったんだ。









「…………」

「…………」

結局あの後、康をベッドへと連れ去り、康が泣いてやめてと懇願するまで、何度も何度も俺の愛を康の全てに注いだ。

激しく抱かれたにも関わらず、俺の隣で安らかな顔で眠る康のあどけない顔にキスをする。

幼い頃、隣で眠る康に毎日こっそりチュウをしていたと言ったら康はどんな表情をするだろうか。

「……れん」

「あー、俺の康マジ可愛い」

寝言で俺の名前を呼んで、今日はどんな夢を見ているのだろう。 

願わくば幸せな夢を見て欲しい。

先程、康が俺に甘えた理由は俺がもうすぐモデルの仕事で海外に行くからだ。

その日が近づく度に寂しがりやの康は目に見えて落ち込んでいた。

康を洋服のポケットに入るサイズに出来るライトがあれば、康といつでも一緒にいられるのになんてありもしないことを想像して笑ってしまう。

「この様子だと早そうだな」

俺は今康に深く愛されていると、実感している。

だから康、君が望む夢の”完成系”がもうすぐ手に入るかもしれないよ?

シーツの上から腹に手を乗せる康の手に、俺の手を優しく重ねた。

そうしたら、俺たちは永遠に一緒にいられる。

あぁ、楽しみだ。

続く
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