A lump of the love

「蓮君……好き」

「うん。ねぇ、俺たち家族にならない?」

「(は……嘘やろ)」

ステージ裏で熱く見つめ合い、抱き合う男女に胸が酷く締め付けられ、途端に上手く呼吸が出来無くなる。

『俺が康の家族になるよ』

今、男が女に囁いた言葉はほんの数ヶ月前に俺も言われたばかりの言葉だ。

『ごめん、蓮。蓮のことは小さい頃から知っとって、もう家族みたいな存在やけど、俺はな普通に結婚して、子どもをつくって家庭を持ちたいんよ』

『……そっか、俺も康には幸せになって欲しい』

切なげに微笑む彼に胸が少しだけ締め付けられたが、俺やってお前には誰よりも幸せになって欲しいって思ってるんやで。

家族を知らない俺たちは大人になった今も
”家族”というものに憧れを抱いているから。

やけど、お前は誰彼構わず家族になろうって言うような奴なんか。

それともその子のことが本気で好きなん?

「蓮君、私と結婚してくれるの?嬉しい……っ」

男の胸で涙を流すのは今をときめくトップアイドルのセンターを務める、スタイルも性格も美貌も兼ね備えた誰が見ても100点満点の女性。

今やアイドル活動のみならず、ドラマ出演やモデルの活動でもはや世界的に有名となった目黒蓮の結婚相手に申し分のない人物だ。

「俺が世界一幸せにするって約束するよ」

蓮の言葉に涙を流す女の頬に蓮は手を添え、二人の唇が次第に近付いていく。

『康ちゃんのことは俺が幸せにするんだ!』

『……ほんまに?約束やで、蓮』

幼い頃、屈託のない笑みで俺と指切りをし、交わした約束を俺以外の人間と結ぶ蓮に一粒の涙が俺の頬を伝った。

「蓮君、大好き……」

「俺もだよ」

「やめて……」

—どうしてこのタイミングで気付いてしまったのか。

蓮のことが好きやという事に。

胸が痛み、溢れる想いを今更自覚したところで、手遅れだと分かっていても、思考とは裏腹に体は勝手に動いてしまう。

「蓮っ!俺以外の人と家族になったらあかん!!」

「きやっ、向井君!?」

「……康?」

舞台袖からいきなり現れた俺に女は身をすくめて驚き、蓮は目をぱちくりさせる。

「二人とも急にごめん。俺、俺な蓮のことが好きなんや……」

俺は今後、芸能界で場違いで空気の読めないに加え、男が好きなキッショい奴やとレッテルを貼られるかもしれない。

でも、今言わねばきっと後悔する。

震える手と唇。
それに反して蓮への想いは湯水のように湧き上がる。

「ちょっと!いきなり出てきてなにを言ってるの!?蓮君は私のことを好きなんだよ!?」

「………」

「ほんまにごめんな!だけど、蓮のことを幸せに出来るのはこの世で俺が一番やと思うねん」

突如現れた恋敵。
しかも男。

一世紀に一人と言われるトップアイドルも髪を振り乱して怒るんやなと俺の心の中は意外と冷静やった。

「ふーん……」

「蓮君!こんな人放っておいて行こ!」

「蓮……」

女に手を引かれる蓮を見て、俺は縋るように蓮を見る。 

どうかこの想いが届きますようにと。

そんな俺たちをなにを考えているのか分からない目で交互に見つめる蓮。

そして、俺をジッと見つめてニカっと笑う。
それは俺が小さな頃からよく知る、蓮が俺だけに見せる特別な笑顔。

「馬鹿だな康。今更俺のことが好きだって気付いたの?」

「……っ、あぁ。俺、蓮と本当の家族になりたいんよ」

「ちょ、ちょ、蓮君!?なに言ってるの!?」

蓮の大きな手で頭を撫でられ、心がくすぐられる。

「ははっ!おねーさん、ゴメンネ。

俺がこの世界で愛してるのはあなたじゃなくて、ここにいる向井康二ただ一人なんだ。だから、俺のことは忘れて幸せになって下さい」

「わっ、蓮……!!」

蓮に腕を引かれ、おでこにキスをされる。

「ハァ〜!??嘘っ!?意味が分からない!!!」

目を見開き、声を上げるトップアイドルに蓮は声を上げて笑い、俺は蓮を横から掻っ攫って申し訳なく思いながらも、心の中は酷く満たされていた。

——俺は蓮と家族になれるのだから。





A lump of the love


















「……なんちゅー夢見てんねん」

カーテンから差し込む太陽の陽射しと激しい頭痛、そして下腹部の違和感で目が覚める。

こんなしょうもない夢を見るなんて、我ながらどうかしとると呆れるとともに、夢を見たことにより知ってしまった自分の想い。

「俺……蓮のこと好きやったんか」

言葉にすればより一層実感が湧き、心臓がバクバクとリズムを刻んでいく。

蓮の夢を見て、さらに中心部を反応させて目を覚ますなんて……俺は思春期のガキか。

まずはトイレに行って出すもん出しとこなんて思っていたら、次の瞬間、俺の心は思考とともに大爆発することになる。

「えー、昨夜もたくさん蓮好き、愛してるって俺に何度も言ったの覚えてないの?」  

背後で聞こえる呆れた声はよく知る俺の幼馴染であり、家族のような存在であり、同じグループのメンバーでもある目黒蓮の声だ。

「………」    

「康おはよ。今日も可愛いね」

一人だと思っていた自室に人がいることに心臓が跳ね上がり、ゆっくりと振り返れば、白い歯を見せつけ微笑む蓮の姿がそこにあった。

「え……蓮?」

振り返ったままフリーズする俺の頬にキスをし、耳元で

「……ねぇ、もう一回シよっか」

低く、男らしい声で囁かれ、その色気に鳥肌が立つ。

「な、なにを?」

少しずつ時間が経つにつれ、気付いたこと。

それは、俺の家の俺のベッドの上で俺が蓮に背後から抱きしめられていること。

そして、やけに背中に感じる熱い体温で分かったのはシーツを纏った俺と蓮は一糸纏わず姿で、二人とも裸であること。

「なっ…………?!」

「くっ……!康、急に締め付けないでよ……」

最後に俺の尻穴に”ナニ”かが刺さっていること。

低く、色っぽい声を出す蓮に俺はパニックになる。

「まさか、これも夢!?」

「はぁ……まーた記憶をどっかに飛ばしてんね。康は昨晩、俺と結ばれたことまで忘れちゃうの?」

俺はガキの頃から寝るとたまに一部の記憶が飛んでしまうことがある。

出会った人物を忘れることはないんやけど、会話や出来事を忘れてしまうことがたまにあり、中でも蓮と一緒にいる時にそれはよく起こる。

その時は決まって激しい頭痛がセット。

小さな頃に病院で検査をしてもらったが、特に脳に異常はないらしい。

「えと、すまん。なんも思い出せへん。

……俺、もしかして昨日の夜に蓮とsexしたんか」

急に今の状態が恥ずかしくなり、俺の言葉尻がどんどん小さくなっていく。

そんな俺を見て蓮はクスクスと笑い、

「何度もシたし、今も康のナカに俺のが入ってるよ」

蓮が腰をゆっくり突き出すと、俺の知らない場所に当たる蓮のナニ。 

「ッ、ぁあんっ!!」

初めての経験なのに蓮からの刺激を受け、ありえへん声を漏らす自分に心底驚いた。

そして、なんなん?尻の奥ってこんなに気持ちええもんなんか……?

今、まさに俺の心を読んだかのように蓮がふふっと笑い、俺の耳元でとろけるような甘い声を出し、再度囁く。

「……俺たち性格だけじゃなくてsexの相性もいいみたいだね」

「あんッ!やっ、蓮!待って……!」

蓮が出し入れを繰り返す度、俺の尻穴はグチュグチュ
と卑猥な水音を立て、これは恐らく蓮の精液が俺の知らぬ間にたっぷりナカに注がれたからであろう。

それが、いい潤滑剤となり、初めてにも関わらず蓮の大きな男根を受け入れるのにとても役立っている。

これから起こることへの恐怖に俺は行為を必死で止めようとする。

「大丈夫だよ、康……昨日の夜もすごく気持ち良さそうに何度も俺のコレでイッたし、今もほら康のも勃ってる」

「や、ぁあッ……!!うっ、ンっ! 」

蓮が俺の最奥を先端で突き、右手で俺の陰茎を握る。

そこで初めて自分のモノがただの朝勃ちではなく、蓮の大きく勃起したものが自身のあらぬ所に挿入されていることにより固く立ち上がったことに気付き、いまだに状況が理解出来ない俺は蓮にされるがままになる。

「本当、初めてとは思えない感度の良さだね……」

俺の後ろで恍惚した声を上げ、蓮から漏れる熱い吐息に背中がワナワナとした。

「蓮っ、おねが、ハァアンッ!……待って!! 」

俺のイイトコロを蓮が的確に狙い撃ち、その都度与えられる強烈な刺激に俺は思考が停止し、そんな蓮から俺が逃れようと身を捩らせると、逃がさないというように両脇の下から蓮の長い腕が伸び、俺の胸に巻き付いた。

「待たない。俺が康の家族になるって言って、康も泣いて喜んで、受け入れてくれたのに……」

忘れちゃうなんて悲しいなぁ、と呟く蓮の声はむしろ楽しそうで、

「ご、ごめん……」

「これは二人の大切な想い出を忘れてしまった、悪い子への罰ね」

「え?

——アァ、ッッ……!!?」

腕を回したついでに両方の乳首を強く摘まれ、俺は今まで経験したことのない刺激に目がチカチカし叫び声を上げ蓮のモノを自分でも分かるくらいギュッと締め上げ、白い液体を自身の腹にぶちまけた。

「ッ———!!」

そして、蓮も俺と同時に欲を放ち、俺の体の中心部にたっぷりと愛を注いでいく。

「ん……ふぅっ」

それは熱く、甘美でクセになる心地よさ。
中に出されたところで俺は男やし、別に妊娠することはないねんけど、まるで蓮に支配されているような特別感を感じ、ドキドキする。

改めて、俺は蓮のことを恋愛の意味で好きだったのだと実感し、早音を打つ鼓動が蓮に聞こえているのではないかと俺の顔が熱くなる。

「……康」

「んぅっ……!」

蓮がゆっくりと俺の恥部からペニスを引き抜けば、ゴプっと音が出るくらい、蓮の精子が溢れ出した。

粘り気のある液体が太ももに伝う感覚に俺は身震いし、さらに蓮が今度は俺の両手に指を絡めシーツに縫い付け、

「康、愛してる。……康は俺のこと愛してる?」

「っ、」

目に穴が開くんやないかというほど、真剣な眼差しで愛していると言われ、胸が急激に締め付けられる。

『……は……もう……しない。康を……んだ』

それと同時に頭の中に流れた蓮の言葉。
たまにある消えてしまった記憶の断片だ。

脳内で再生された蓮の声はこれまでに聞いたことのない、切ない声で俺になにかを告げている。

——愛してるんだ。

「……俺も蓮をこの世界の何よりも愛してる。蓮しかいらへん」

誰をも魅了する目黒蓮の瞳に写り、その心を唯一捉えたのは俺。 

蓮の黒い眼に反射された自分の笑みは至極幸せそうで、俺が目の前にいる蓮のことをどれだけ想っているのか自覚する。

「康……」

「ん……」

これまでに何万回も呼ばれた蓮だけが呼ぶ俺の愛称がこそばゆく、いつも彼は俺の名前をまるで壊れ物を扱うかのよう大切に呼んでくれる。

「俺と家族になろう」

「うん、俺は蓮と夫婦になりたい」

何度も聞いたその言葉に俺はそっと、目を伏せ蓮に口付けを強請る。

「もう離さないから」

「…………」

——離れることなど、あるわけがない。
世界中の誰よりも俺は目黒蓮のことを愛してるんやから。

蓮の唇が重なり、蓮の俺を好きって想いが俺の全身を巡るような錯覚に静かに涙が溢れた。

『もう二度と離しはしない…!』

今度は声だけでなく、頭の中に現れた追憶の中の彼も涙をこぼしており、それは見ているこちらも胸が痛むほど、なにか後悔をしているような悲痛な声で叫んでいたからや。

「(もう泣かないで欲しい。俺が永遠にそばにおるからな)」

絡め合った指にキツく力を込めれば、それ以上の力で返ってきて蓮が唇を離し、俺をそっと見つめる。

「康、好きだ。愛してる」

「ふふっ、何回言うん?俺も蓮が好き。めっちゃ、愛してんで」

男同士で結婚は出来ひんし、形には残らへんのやけど、俺には蓮と目には見えないそれ以上の確固たる絆がある。

『離さないで……』

なぁ、蓮。
俺はな蓮のそばにいたいんよ。

やから、幼いあの頃のようにこの手をずっと握ってくれな。

続く
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