短編集
『ふぅん、今日も女優さんと触れ合うシーン……
そう、頑張ってや。いってらっしゃい』
心 配 しないで
「……さん、目黒さーん?大丈夫ですか?」
「あ、ごめん。考え事してた」
流れる景色をボーッと眺めていると、運転席からマネージャーに呼ばれていることに気付き、視線をそちらに移せば、ミラー越しに目が合ったマネージャーはニコニコと人の良い笑顔で俺に問う。
「珍しいですね、なにか考え事ですか?」
「ん?帰ったらどうやって俺の奥さんの機嫌を取ろうかなって」
よくぞ聞いてくれました!とばかりに俺が満面の笑みを浮かべれば、マネージャーの顔はすぐに聞かなければ良かったとうんざりしたものへと変わる。
「向井さんと同棲してから毎日が楽しそうでナニヨリデス」
「老若男女問わず、あんなにモテる上に俺を選んでくれたんだよ?康二と一緒に暮らして毎日が楽しくない訳がない。
そして、どれだけ俺が全世界に認められた”イイ男”であったとしても努力しないとすぐに捨てられてしまうかもしれない……。
康二のためにいつも正しい答えを模索する俺は楽しいだけじゃなく必死なんだよ、毎日ね」
シンプルな壁紙のスマホのロック画面を解除すれば、アプリのアイコンの少ないトップ画面へと切り替わり、背景には俺の心を常に悪戯にくすぐり、俺の人生を色艶やかなものへと変えてくれた、俺の腕枕で口を開けて眠るマイハニーのあどけない寝姿。
何度見ても飽きることのない写真に俺の頬は熱を加えたとろけるチーズのように落ちていく。
「そこまで聞いてないですけど……
でも、向井さんと付き合ってから目黒さん本当よく笑うようになりましたね」
惚気はもうお腹いっぱいですというようにマネージャーは白けた顔をし、赤信号を確認してブレーキを踏み、車が止まった途端、カクンと体が少し前のめりになる。
「……康二は気遣いの人だけど、俺と一緒にいる時が一番無邪気に笑ってくれてると思う。
恋人は鏡だよ。毎日綺麗に磨いていれば自分自身も綺麗に映るし、逆にどれだけ鏡を磨いても俺自身が曇っていたら、俺を映す鏡も曇って見えてしまう。
だから、俺は俺自身を磨くことも鏡を大切に愛用することも忘れずにいるんだ」
もし運転手が康二だったら、止まったことにも気付かないくらいピタリと停車するのにな、なんて考えて日常の他人の言動全てを『康二』に置き換えてしまうのが癖になっているあたり俺はもう重度の康二病だ。
「目黒さんの愛がドロッドロに甘すぎてもう砂を吐きそうです 」
うぇ〜っと舌を出すマネージャーに
『全くめめはどこでそんな甘ったるい台詞を覚えてくるん?詩吟になれるわ。
こんな歯の浮くような言葉を毎日囁かれたら砂出る。
あ、でも……、
俺以外の奴にそんなこと言ったらあかんで?』
あぐらを描いた俺の上に座った康二を俺の腕の中に閉じ込め、思いつく限りの愛の言葉を囁き、マネージャーと同じように苦い顔をして舌を出した康二。
もうええってと言いながら、思い出したように俺に釘を刺すのも忘れない。
康二にやきもちを妬いてもらえて嬉しい反面、正直妬いて欲しくはない。
康二を不安にさせることなんて俺にはなに一つないし、俺には康二しか見えてないことをそろそろ康二にもちゃんと自覚して欲しくて……
朝の康二のつまらなそうな顔にズキリと胸が痛む。
「どう愛せば康二は俺の愛を信じてくれるかな?」
「え、あんなにバ……ラブラブなのにまだ向井さんが目黒さんの愛を疑ってると思ってるんですか?」
間違いなく俺と康二のことを『バカップル』と言いかけたマネージャー。
良いんだ。これはもはや最上級の褒め言葉だから。
嫉妬深い俺たちのことだ。
むしろ周りにそう見えているくらいが、牽制にもなるし、ちょうど良いだろう。
「……そういえば先週、康二と撮影でタイに行ったよね?康二にちょっかいかける奴らいなかった?」
数え切れない人が横断するスクランブル交差点。
見上げた先には康二の主演の映画の広告がデカデカと取り付けられ、初めて見るそれに俺の目は釘付けとなる。
——あぁ、やっぱり俺の康二はいつだって写真写りがいい。
吸い込まれるようなハニーブラウンのつぶらな瞳が元より愛らしいのに、康二はメイクをするとさらに彫刻のように美しくなり、ぶっちゃけ毎日眺めつくしている顔だというのに康二の顔が視界に入るだけで俺の胸は高鳴り、途端に呼吸が出来なくなってしまう。
そして、この映画をメインで撮影したのもタイであった。
俺の康二は流暢なタイ語も話せることから、年に数回定期的に仕事でタイに行くことが増え、今や世界で活動し、個々の能力が際立つ俺たちはグループの活動よりも個人の仕事が圧倒的に増えたが故に、もちろんその分康二と過ごす時間も比例して減っていく。
付き合う前からそれに対してずっとモヤモヤしていたのだが、康二はそんな俺をやる気にさせるのがとても上手かった。
『めーめ、おはよう。今日めっちゃいい天気やで。
俺は今東京やけど、この空が続いていてめめが世界のどこかにいると思うと俺も頑張れるわ』
『今回のドラマも本当良かったで、舞台の公演の合間に舞台の出演メンバーと一緒に見たんやけど、俺また泣いてもうて、周りにいたみんなが抱きしめてくれたんやけど、ほんまはすぐめめのところに駆けつけたかったんよ』
思い返せば俺以上に砂を吐くような甘い台詞を言ってるのは康二の方ではないか。
毎日SNSや通話でこんなことばかりを言われたら誰だって心は浮き足立ち、その日はいい気持ちで過ごせるでしょ。
——関西出身の康二は笑いに貪欲でいつもみんなを笑わせてくれ康二がいる現場はとても明るく、笑声が絶えない。
しかし、一見芸人さんのように場をコントロールする大胆さがありながら、その中身は嘘が付けなくて、とても素直で純粋。
あとは意外と多趣味でどんなことでもそつなくこなすのに、苦手なことに対しては涙を流しながらも出来るようになるまで一生懸命努力する直向きさと涙脆いところには守ってあげたくなる儚さもあって。
それ故に康二は人の弱さにも敏感で老若男女問わず誰にでも優しく、手を差し伸べる。
さらに礼儀正しく気遣いの神でありながら、天性の弟気質ですぐに相手の懐に入っていくため、ファンのみならずこの芸能界でも一目置かれているのだ。
『このショーのめめもかっこええなぁ……。
めめは出会ってからずっと、俺の一番の被写体やから、俺も近くでめめの写真撮りまくりたかったわ』
……康二の艶のある唇から放たれるのは俺の心を心地良く撫でる裏表のない言葉ばかり。
こんな康二を俺が好きにならない訳がないんだよなぁ。
『……じゃあ、俺と一緒に暮らす?
そうしたら俺のプライベートの写真も撮り放題だよ』
カメラの画面を弄りながら、楽屋のソファーで体育座りでしょぼくれる康二が可愛いくて、俺は康二を逃さぬように康二が座るソファーの背に両手を乗せ、康二を真っ直ぐ見下ろして問う。
『……なんで?』
俺の気持ちを知っていて、上目遣いで問い返され、
康二は確信に迫ってくる。
康二のこういう駆け引きにどれだけの者が引っ掛かり、魅了されているのか。
『……今の顔、今すぐキスしたいくらい可愛い。
そう思うのは俺の身も心も康二にゾッコンだからだよ
これじゃダメかな?』
赤くなる顔を手で覆って隠したかったが、ここで康二を囲う手と視線を逸らせば彼はスルリとどこかに逃げていっただろう。
—カシャ!
『うん、オッケーカフ。
俺もめめのことがな、ず〜〜っと好きやねん!
やっと、俺に告白してくれたな。待ち侘びてたで』
何故なら彼は愛すよりもとびきり愛されたい方の人で、好きな人にはめちゃくちゃ束縛されたいタイプだから。
白い歯を見せて無邪気に笑う姿が、可愛い。
カメラがシャッターを刻み、今この瞬間の俺が康二のコレクションの一枚になったように、捉えられているようで俺を捉えているのは実は康二の方だ。
『昔から、俺と付き合える人が羨ましいって言ってたよね?今自分がその立場になってみてどう?』
彼が兼ねてから公言していた
好きな人には束縛されたいという言葉。
実はそれが”俺に束縛されたい”という願望であることに気付いたのは上の俺の問いにあるような目の前の彼のいくつもの言葉や行動での誘導が日に日に露骨になってきたからだ。
いくらうとい俺でもここまで言われたら流石に気付く。
『それはもうサイコー、でも知っとる?
めめはさっき俺にゾッコン言うたけど、俺の方がめめのこと好きなんやで』
切なげに寄せられる眉。
康二にそんな顔をして欲しくなくて俺は真っ先にその言葉を否定をする。
『いや、負けてないと思うよ』
『俺はな、めめと話す人、めめに触れる人、めめを視界に入れる人、めめの名前を呼ぶ全ての人間に嫉妬してまうくらいめめのことしか眼中にないねん』
『…………』
なるほど。
だから、俺のファンを昔から自分のファンにすると公言し、実行していたのか。
それにしても康二があんなに大切にしていると思っていた周囲の人たちを康二がそんな風に思っていたなんて意外だった。
『安心して。これからは俺の身も向井康二だけのものだから』
『ん……約束やで?』
俺の胸の中に康二を閉じ込めれば、康二は待ってましたと言わんばかりに俺の首に腕を回し、頬擦りをして甘えてくれる。
「で、やっぱり向井さんの人柄は日本だけじゃなくて……あの、目黒さん自分から聞いておいて脳内の向井さんとイチャコラするのやめてもらえません?」
マネージャーの話をそっちのけで康二の映る看板に魅入ってしまった俺に気付いたマネージャーは盛大な溜息を吐く。
「ごめん、ごめん。最新映画の告知看板の康二が可愛いくてさ。
それで康二がどこの国に行ってもモテちゃうって話だよね。その点についてはどうすればいいと思う?」
長い信号が青に変わり、車はまたゆっくりと目的地に進んでいく。
「いや、どうしようもなくないですか?」
はぁ?お前なに言っちゃってんの?
と言う声が聞こえそうなほど、マネージャーの顔は引き攣っており、自分の後ろで突拍子もなくぶっ飛んだことばかり言う俺を無意識に振り返りたくなるのを運転に集中することでなんとか抑えている。
「個別の仕事もまだ国内なら、なんとか我慢出来るんだけど、海外になってくると俺も康二がそばにいない寂しさと嫉妬と不安で爆発しそうでさ、おかしくなりそうなんだよね」
「すごく今更な話ですね……。
今までも耐えてきたんですから、これからも頑張って耐えて下さいよ。
向井さんも向井さんで、タイにいても寄ってくる俳優さんや監督を上手にあしらってましたし、なんなら向井さんもめめ今なにしとるんやっけ?あぁ、今日も女優さんとラブシーンあるんか、へぇ、〇〇〇いいのに。とか、めめに早く会いたくてこの身が引き裂かれそうやとか…」
「くそっ、マジで康二可愛いしか言葉が出ないっ!」
げんなりとした顔で語るマネージャーの言葉に康二がそう言っている姿がいとも簡単に脳裏に浮かび、また無意識に俺の口角が上がっていく。
ミラー越しにそれを確認したマネージャーが何度目かもしれない溜息を吐き、
「もう向井さんと目黒さんだけに言えることじゃないんですけど、暇さえあれば恋人の惚気ばかりするグループのマネージャーは大変なんですよ?痴話喧嘩に巻き込まれたり、ご機嫌取りのプレゼント選びに付き合わされたり。僕にはプライベートのプの字もありません。
僕だって思わず惚気てしまうくらい可愛い恋人が欲しいです。
でも、みなさんのマネージャーとして毎日が忙しくてそれどころじゃないんですよ!」
ハンドルを叩いてブチギレるマネージャーに俺はそれだ!とマネージャーの願望はどこか他所に手を叩く。
「じゃ、マネージャー今日もありがとう。
明日はグループ仕事だから、タイヘンダネ」
「ソウデスネ、向井さんにもよろしくお願いします」
俺と康二が暮らすマンションの裏口。
どうすれば康二と四六時中一緒にいられるのか頭を悩ませていた俺はいい解決の糸口が見つかり、これから康二に会えることに加えて気分が良かった。
これ以上惚気を聞きたくないマネージャーは俺を車からおろして颯爽と帰っていく。
エレベーターの中、康二の待つ最上階までがとてつもなく長く感じ、何百段もの階段を駆け上がった方が早かったんじゃないかと思うくらい頭の中は康二でいっぱいだ。
『ふぅん、今日も女優さんと触れ合うシーン……
そう、頑張ってや。いってらっしゃい』
俺のスケジュールと今撮影しているドラマの台本を照らし合わせて、唇を尖らせた康二。
俺はもう康二にそんな顔をさせたくなくて……
チーン!
最上階へと辿り着いたエレベーターのドアが完全に開くのを待つことなく、わずかな隙間を潜り抜け、俺と康二の愛の巣へとダッシュで駆け抜ける。
「康二!!ただいま!!」
「……おかえり、そんな汗かいて走ってきたん?」
玄関のドアを素早く解除し、ドアを開けた先には俺があげたオレンジのチェックのエプロンをして畳んだバスタオルを浴室に持って行こうとしていた康二がおり、なんの前触れもなく突如開いたドアとその先に現れた汗だくの俺を見て驚いていた。
彼を抱きしめて俺の決意を告げれば、
さて、彼はどんな顔をするだろう?
「康二、安心して!
もうなにも不安になることはないよ?
俺、Snow Manをやめて康二専属のマネージャーになるって決めたから!」
“そしたらずっと、なんの心配もなく俺と一緒にいられるよ”
end……
イチャイチャする二人を書こうと思ったのですが何故だか可愛い嫁を惚気るめめが出来上がりました笑
めめの言葉の後のこじの反応はみなさんの予想にお任せします笑
そう、頑張ってや。いってらっしゃい』
心 配 しないで
「……さん、目黒さーん?大丈夫ですか?」
「あ、ごめん。考え事してた」
流れる景色をボーッと眺めていると、運転席からマネージャーに呼ばれていることに気付き、視線をそちらに移せば、ミラー越しに目が合ったマネージャーはニコニコと人の良い笑顔で俺に問う。
「珍しいですね、なにか考え事ですか?」
「ん?帰ったらどうやって俺の奥さんの機嫌を取ろうかなって」
よくぞ聞いてくれました!とばかりに俺が満面の笑みを浮かべれば、マネージャーの顔はすぐに聞かなければ良かったとうんざりしたものへと変わる。
「向井さんと同棲してから毎日が楽しそうでナニヨリデス」
「老若男女問わず、あんなにモテる上に俺を選んでくれたんだよ?康二と一緒に暮らして毎日が楽しくない訳がない。
そして、どれだけ俺が全世界に認められた”イイ男”であったとしても努力しないとすぐに捨てられてしまうかもしれない……。
康二のためにいつも正しい答えを模索する俺は楽しいだけじゃなく必死なんだよ、毎日ね」
シンプルな壁紙のスマホのロック画面を解除すれば、アプリのアイコンの少ないトップ画面へと切り替わり、背景には俺の心を常に悪戯にくすぐり、俺の人生を色艶やかなものへと変えてくれた、俺の腕枕で口を開けて眠るマイハニーのあどけない寝姿。
何度見ても飽きることのない写真に俺の頬は熱を加えたとろけるチーズのように落ちていく。
「そこまで聞いてないですけど……
でも、向井さんと付き合ってから目黒さん本当よく笑うようになりましたね」
惚気はもうお腹いっぱいですというようにマネージャーは白けた顔をし、赤信号を確認してブレーキを踏み、車が止まった途端、カクンと体が少し前のめりになる。
「……康二は気遣いの人だけど、俺と一緒にいる時が一番無邪気に笑ってくれてると思う。
恋人は鏡だよ。毎日綺麗に磨いていれば自分自身も綺麗に映るし、逆にどれだけ鏡を磨いても俺自身が曇っていたら、俺を映す鏡も曇って見えてしまう。
だから、俺は俺自身を磨くことも鏡を大切に愛用することも忘れずにいるんだ」
もし運転手が康二だったら、止まったことにも気付かないくらいピタリと停車するのにな、なんて考えて日常の他人の言動全てを『康二』に置き換えてしまうのが癖になっているあたり俺はもう重度の康二病だ。
「目黒さんの愛がドロッドロに甘すぎてもう砂を吐きそうです 」
うぇ〜っと舌を出すマネージャーに
『全くめめはどこでそんな甘ったるい台詞を覚えてくるん?詩吟になれるわ。
こんな歯の浮くような言葉を毎日囁かれたら砂出る。
あ、でも……、
俺以外の奴にそんなこと言ったらあかんで?』
あぐらを描いた俺の上に座った康二を俺の腕の中に閉じ込め、思いつく限りの愛の言葉を囁き、マネージャーと同じように苦い顔をして舌を出した康二。
もうええってと言いながら、思い出したように俺に釘を刺すのも忘れない。
康二にやきもちを妬いてもらえて嬉しい反面、正直妬いて欲しくはない。
康二を不安にさせることなんて俺にはなに一つないし、俺には康二しか見えてないことをそろそろ康二にもちゃんと自覚して欲しくて……
朝の康二のつまらなそうな顔にズキリと胸が痛む。
「どう愛せば康二は俺の愛を信じてくれるかな?」
「え、あんなにバ……ラブラブなのにまだ向井さんが目黒さんの愛を疑ってると思ってるんですか?」
間違いなく俺と康二のことを『バカップル』と言いかけたマネージャー。
良いんだ。これはもはや最上級の褒め言葉だから。
嫉妬深い俺たちのことだ。
むしろ周りにそう見えているくらいが、牽制にもなるし、ちょうど良いだろう。
「……そういえば先週、康二と撮影でタイに行ったよね?康二にちょっかいかける奴らいなかった?」
数え切れない人が横断するスクランブル交差点。
見上げた先には康二の主演の映画の広告がデカデカと取り付けられ、初めて見るそれに俺の目は釘付けとなる。
——あぁ、やっぱり俺の康二はいつだって写真写りがいい。
吸い込まれるようなハニーブラウンのつぶらな瞳が元より愛らしいのに、康二はメイクをするとさらに彫刻のように美しくなり、ぶっちゃけ毎日眺めつくしている顔だというのに康二の顔が視界に入るだけで俺の胸は高鳴り、途端に呼吸が出来なくなってしまう。
そして、この映画をメインで撮影したのもタイであった。
俺の康二は流暢なタイ語も話せることから、年に数回定期的に仕事でタイに行くことが増え、今や世界で活動し、個々の能力が際立つ俺たちはグループの活動よりも個人の仕事が圧倒的に増えたが故に、もちろんその分康二と過ごす時間も比例して減っていく。
付き合う前からそれに対してずっとモヤモヤしていたのだが、康二はそんな俺をやる気にさせるのがとても上手かった。
『めーめ、おはよう。今日めっちゃいい天気やで。
俺は今東京やけど、この空が続いていてめめが世界のどこかにいると思うと俺も頑張れるわ』
『今回のドラマも本当良かったで、舞台の公演の合間に舞台の出演メンバーと一緒に見たんやけど、俺また泣いてもうて、周りにいたみんなが抱きしめてくれたんやけど、ほんまはすぐめめのところに駆けつけたかったんよ』
思い返せば俺以上に砂を吐くような甘い台詞を言ってるのは康二の方ではないか。
毎日SNSや通話でこんなことばかりを言われたら誰だって心は浮き足立ち、その日はいい気持ちで過ごせるでしょ。
——関西出身の康二は笑いに貪欲でいつもみんなを笑わせてくれ康二がいる現場はとても明るく、笑声が絶えない。
しかし、一見芸人さんのように場をコントロールする大胆さがありながら、その中身は嘘が付けなくて、とても素直で純粋。
あとは意外と多趣味でどんなことでもそつなくこなすのに、苦手なことに対しては涙を流しながらも出来るようになるまで一生懸命努力する直向きさと涙脆いところには守ってあげたくなる儚さもあって。
それ故に康二は人の弱さにも敏感で老若男女問わず誰にでも優しく、手を差し伸べる。
さらに礼儀正しく気遣いの神でありながら、天性の弟気質ですぐに相手の懐に入っていくため、ファンのみならずこの芸能界でも一目置かれているのだ。
『このショーのめめもかっこええなぁ……。
めめは出会ってからずっと、俺の一番の被写体やから、俺も近くでめめの写真撮りまくりたかったわ』
……康二の艶のある唇から放たれるのは俺の心を心地良く撫でる裏表のない言葉ばかり。
こんな康二を俺が好きにならない訳がないんだよなぁ。
『……じゃあ、俺と一緒に暮らす?
そうしたら俺のプライベートの写真も撮り放題だよ』
カメラの画面を弄りながら、楽屋のソファーで体育座りでしょぼくれる康二が可愛いくて、俺は康二を逃さぬように康二が座るソファーの背に両手を乗せ、康二を真っ直ぐ見下ろして問う。
『……なんで?』
俺の気持ちを知っていて、上目遣いで問い返され、
康二は確信に迫ってくる。
康二のこういう駆け引きにどれだけの者が引っ掛かり、魅了されているのか。
『……今の顔、今すぐキスしたいくらい可愛い。
そう思うのは俺の身も心も康二にゾッコンだからだよ
これじゃダメかな?』
赤くなる顔を手で覆って隠したかったが、ここで康二を囲う手と視線を逸らせば彼はスルリとどこかに逃げていっただろう。
—カシャ!
『うん、オッケーカフ。
俺もめめのことがな、ず〜〜っと好きやねん!
やっと、俺に告白してくれたな。待ち侘びてたで』
何故なら彼は愛すよりもとびきり愛されたい方の人で、好きな人にはめちゃくちゃ束縛されたいタイプだから。
白い歯を見せて無邪気に笑う姿が、可愛い。
カメラがシャッターを刻み、今この瞬間の俺が康二のコレクションの一枚になったように、捉えられているようで俺を捉えているのは実は康二の方だ。
『昔から、俺と付き合える人が羨ましいって言ってたよね?今自分がその立場になってみてどう?』
彼が兼ねてから公言していた
好きな人には束縛されたいという言葉。
実はそれが”俺に束縛されたい”という願望であることに気付いたのは上の俺の問いにあるような目の前の彼のいくつもの言葉や行動での誘導が日に日に露骨になってきたからだ。
いくらうとい俺でもここまで言われたら流石に気付く。
『それはもうサイコー、でも知っとる?
めめはさっき俺にゾッコン言うたけど、俺の方がめめのこと好きなんやで』
切なげに寄せられる眉。
康二にそんな顔をして欲しくなくて俺は真っ先にその言葉を否定をする。
『いや、負けてないと思うよ』
『俺はな、めめと話す人、めめに触れる人、めめを視界に入れる人、めめの名前を呼ぶ全ての人間に嫉妬してまうくらいめめのことしか眼中にないねん』
『…………』
なるほど。
だから、俺のファンを昔から自分のファンにすると公言し、実行していたのか。
それにしても康二があんなに大切にしていると思っていた周囲の人たちを康二がそんな風に思っていたなんて意外だった。
『安心して。これからは俺の身も向井康二だけのものだから』
『ん……約束やで?』
俺の胸の中に康二を閉じ込めれば、康二は待ってましたと言わんばかりに俺の首に腕を回し、頬擦りをして甘えてくれる。
「で、やっぱり向井さんの人柄は日本だけじゃなくて……あの、目黒さん自分から聞いておいて脳内の向井さんとイチャコラするのやめてもらえません?」
マネージャーの話をそっちのけで康二の映る看板に魅入ってしまった俺に気付いたマネージャーは盛大な溜息を吐く。
「ごめん、ごめん。最新映画の告知看板の康二が可愛いくてさ。
それで康二がどこの国に行ってもモテちゃうって話だよね。その点についてはどうすればいいと思う?」
長い信号が青に変わり、車はまたゆっくりと目的地に進んでいく。
「いや、どうしようもなくないですか?」
はぁ?お前なに言っちゃってんの?
と言う声が聞こえそうなほど、マネージャーの顔は引き攣っており、自分の後ろで突拍子もなくぶっ飛んだことばかり言う俺を無意識に振り返りたくなるのを運転に集中することでなんとか抑えている。
「個別の仕事もまだ国内なら、なんとか我慢出来るんだけど、海外になってくると俺も康二がそばにいない寂しさと嫉妬と不安で爆発しそうでさ、おかしくなりそうなんだよね」
「すごく今更な話ですね……。
今までも耐えてきたんですから、これからも頑張って耐えて下さいよ。
向井さんも向井さんで、タイにいても寄ってくる俳優さんや監督を上手にあしらってましたし、なんなら向井さんもめめ今なにしとるんやっけ?あぁ、今日も女優さんとラブシーンあるんか、へぇ、〇〇〇いいのに。とか、めめに早く会いたくてこの身が引き裂かれそうやとか…」
「くそっ、マジで康二可愛いしか言葉が出ないっ!」
げんなりとした顔で語るマネージャーの言葉に康二がそう言っている姿がいとも簡単に脳裏に浮かび、また無意識に俺の口角が上がっていく。
ミラー越しにそれを確認したマネージャーが何度目かもしれない溜息を吐き、
「もう向井さんと目黒さんだけに言えることじゃないんですけど、暇さえあれば恋人の惚気ばかりするグループのマネージャーは大変なんですよ?痴話喧嘩に巻き込まれたり、ご機嫌取りのプレゼント選びに付き合わされたり。僕にはプライベートのプの字もありません。
僕だって思わず惚気てしまうくらい可愛い恋人が欲しいです。
でも、みなさんのマネージャーとして毎日が忙しくてそれどころじゃないんですよ!」
ハンドルを叩いてブチギレるマネージャーに俺はそれだ!とマネージャーの願望はどこか他所に手を叩く。
「じゃ、マネージャー今日もありがとう。
明日はグループ仕事だから、タイヘンダネ」
「ソウデスネ、向井さんにもよろしくお願いします」
俺と康二が暮らすマンションの裏口。
どうすれば康二と四六時中一緒にいられるのか頭を悩ませていた俺はいい解決の糸口が見つかり、これから康二に会えることに加えて気分が良かった。
これ以上惚気を聞きたくないマネージャーは俺を車からおろして颯爽と帰っていく。
エレベーターの中、康二の待つ最上階までがとてつもなく長く感じ、何百段もの階段を駆け上がった方が早かったんじゃないかと思うくらい頭の中は康二でいっぱいだ。
『ふぅん、今日も女優さんと触れ合うシーン……
そう、頑張ってや。いってらっしゃい』
俺のスケジュールと今撮影しているドラマの台本を照らし合わせて、唇を尖らせた康二。
俺はもう康二にそんな顔をさせたくなくて……
チーン!
最上階へと辿り着いたエレベーターのドアが完全に開くのを待つことなく、わずかな隙間を潜り抜け、俺と康二の愛の巣へとダッシュで駆け抜ける。
「康二!!ただいま!!」
「……おかえり、そんな汗かいて走ってきたん?」
玄関のドアを素早く解除し、ドアを開けた先には俺があげたオレンジのチェックのエプロンをして畳んだバスタオルを浴室に持って行こうとしていた康二がおり、なんの前触れもなく突如開いたドアとその先に現れた汗だくの俺を見て驚いていた。
彼を抱きしめて俺の決意を告げれば、
さて、彼はどんな顔をするだろう?
「康二、安心して!
もうなにも不安になることはないよ?
俺、Snow Manをやめて康二専属のマネージャーになるって決めたから!」
“そしたらずっと、なんの心配もなく俺と一緒にいられるよ”
end……
イチャイチャする二人を書こうと思ったのですが何故だか可愛い嫁を惚気るめめが出来上がりました笑
めめの言葉の後のこじの反応はみなさんの予想にお任せします笑