短編集
「お金をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ」
「……ええ加減にせんとそろそろ照兄に言いつけるで」
魔女の格好をしたグループ一お金にだらしの無い最年長はつぶらな瞳で口を尖らせ、俺に手を出してお金を強請ってくる。
「世の中、魅力のあるものばっかでさ〜!本当にいくら稼いでも足りないのよ」
「欲しいものをどんどん買うんやのうて、少しは自制せい!」
年々だらしなくなってくるメンバーにほとほと呆れ、溜息をつく俺にこれ以上お願いしても仕方がないと諦めたふっかさんはちぇーっと言って肩を竦める。
「おい、間違ってもめめに借りるんやないで」
「貸すか貸さないかはめめ次第!じゃっ⭐︎」
俺が一応念を押すと、ふっかさんは満面の笑みで俺から去っていく。
めめがふっかさんにお金を貸した後の俺はいつも碌なことがない。
というのもお礼と称してふっかさんがめめに得体の知れない物をよこすからや。
それのせいで今まで俺がどんな酷い目に遭って来たことか……!
俺はめめがふっかさんにお金を貸さないことを切実に祈った。
「Trick or Treat?—No.」
「は……?嘘やろ?え?」
ありえない光景に姿見の前で自身の姿を何度も確認する。
“めーめ!朝やで!ほら起きて?うわっ!やあっ、ほんまにくすぐった、ンッ、ハァ……めめ駄目やって、これから仕事やろ?もう堪忍して……!”
まず、恋人の携帯から放たれる自分の卑猥な声に目が覚めて真っ先に感じたのは恋人の部屋に訪れた記憶がないのに、なぜか自分が恋人のベッドで目が覚めたのかということ。
というか俺の彼氏はなんちゅーもんを録音し、朝のアラームにしてくれてんねん。
そして、互いの家に泊まった夜はだいたい朝まで二人で素っ裸で過ごすんやけど、家の主人であるめめの姿はどこにもあらへん。
「めめ……?」
呟いた言葉が低く、自分のものではない、しかし聞き覚えのある声で俺は違和感を覚えた。
とりあえず喉が渇き水を飲もうと立ち上がり、クローゼットの横の姿見に写った”めめ”を見て俺は固まる。
「めめ!え、え? 」
突然現れためめに「なんで俺めめの家におるん?」と俺が問おうとしたら、その言葉はめめ自身が関西弁で発しており、俺はなにかがおかしい事に気付く。
「俺、めめになってるやん!?!? いたっ!!」
多分仕事の疲れが溜まり、中々会えない恋人が恋しくなって変な夢を見ているんやろと俺が思い切りめめの頬を抓ってみれば痛みを感じて、めめの男前の顔が歪む。
「な、なんで?どういうこっちゃ……」
現実でこんなことが起こり得るのか、俺はしばらく考え込む。
「待って、これが夢じゃないとしたら俺の体は?!めめはどうしてるん?!」
もしかしたら、俺とめめの体が入れ替わってしまったのではないかと俺はめめのベットに戻り、枕元にあるめめのスマホを手に取り、Touch IDで開いた画面に俺は絶句する。
「これまたなんちゅー画像をトップに設定してんねん!」
それは俺がめめに抱かれた後、素っ裸で気持ちよく寝ている写真で、こんなのを誰かに見られたらどうするのかと俺が慌てて画像を変えようとめめのアルバムを開けば出てくるのはいつ撮られたのか分からない、俺の肌色多めのエッチな写真ばかり。
「え、怖い、怖い……」
昔から俺への執着心が度を超えていると思っていたんやけど、まさかここまでやったとは。
とりあえず、この画像もどうにかしなければならないが、まずはそんなことよりもめめに連絡を取らねばと、スマホの通話ボタンを押す。
—プルルルル
—プルルルル
—プルルルル
「ぜんっぜん繋がらへん!」
何度掛け直しても俺のスマホには繋がらず、居ても立っても居られなくなった俺は上着を羽織り、めめの家を飛び出した。
「うわぁ……本当に俺、康二になってる」
軽快なアラームに目が覚め、普段よりも目覚めが良く体が軽いことに気付く。
とりあえず感じた尿意に何気なくトイレに向かい、用を足し手を洗うために行った洗面台に写った康二の姿に俺は見入り、なぜかはわからぬが自分が今、康二になっているのだと把握する。
「あー、俺の康二。マジ可愛いすぎ……」
寝癖の付いた目に入れても痛くない愛しい恋人の姿。
ベッドに置いてあるスマホがずっと鳴り響いているが、恐らく異変を察した康二が電話をかけてきているのだろう。
ありえない状況だが、康二になった今、普段見ることの出来ない康二を堪能しなければもったいない!と俺はすぐさま服を抜いで浴室へと突入した。
「康二の体は俺をいつもどう感じてるのかな……っ」
浴室の鏡に映る康二の裸体に俺はうっとりとし、興奮した康二の中心部がゆっくりと勃ち上がっていく。
側から見たら自分自身に興奮してるただのナルシストの変態だ。
「んっ、康二……」
俺をいつも悦ばせてくれる康二の体に指を這わせ、康二の体の感度を確かめる。
自然と漏れる声は高く、官能的で自分で発しているのにまるで脳内が痺れていくようだ。
カメラの前では大胆なのに俺の前では照れ屋な康二。
普段は好きとか愛してるとか、気持ちいいとかそういう言葉をあまり言ってくれない。
だから、
「めめっ、好きっ!気持ちいいっ
もっと……シてぇっ!!」
俺が望む言葉を康二が発し、その声に俺のいや、康二のちんこはギンギンになる。
「……康二の体って本当エロいよなぁ」
白い蜜を垂れ流す、俺のとは違う男根に指を絡ませ、俺が上下に扱けば
——ガラッ!!
「……なにしてん」
「あっ、康二っ、ッ…!!」
突然、浴室の扉が開きその先には息を上げた俺、いや康二が怪訝な顔をして立っていた。
康二の体に刻まれた本能か、俺の姿を認識した康二の体は震え、大した触ってもいないのに絶頂を迎えてしまう。
「あんなぁ、お前には危機感ってもんがないんか!?」
「俺たち本当に入れ替わったんだね」
頑なに服を着るのを嫌がった俺の下半身に康二はタオルを巻き、康二は悲しみに暮れながら俺の肩を揺らす。
関西弁を話す目の前の自分に不思議な気分になるが、その中身が康二だと思うとなんだか急に愛おしくなる。
「なんでこんなことになってるん?めめは思い当たることある?」
「んー?そういえば昨日魔女の格好したふっかさんがお金を貸してって言いにきたけど」
涙目で頭を悩ませる康二の手を引きながら、俺は昨日の出来事を思い返す。
「……貸したんか」
やっぱりアイツあの後めめのところに行ったんやねと低く呟かれた声に俺は苦笑いする。
「いや、康二が嫌がると思って今回はちゃんと断ったよ。そしたら、お金を貸してくれないなら悪戯するからって言われて……思い当たるのはそんくらい?」
俺の前で玩具の魔法の杖をクルクルと回し、なにか唱えていたような気がするが、あんなのはただのおふざけだ。
「貸さなかったんはえらい!やけど、こうなった理由はわからんままか……って、なんでベッドに連れて来たん!?」
理由がわからず、項垂れ落ち込む康二を俺は引っ張り康二とベッドに雪崩れ込む。
二人でいるのに、俺以外のことに頭を悩ませる康二が面白くなかった。
「考えても仕方なくない?とりあえず久しぶりに会えたんだし、SEXしよ?」
「……はぁー?なんで?しかもするって、どうやって」
首を傾げて、妖艶に微笑んで康二を誘って見たものの中身はこの体の持ち主なので誘惑は失敗し、康二は至極嫌そうな顔で俺を見下ろす。
「康二は俺に挿れてみたくない?」
「いや、自分自身にツッこんでなにが楽しいん……」
それはそうだ。
俺だって、俺に突っ込まれても別に面白くはない。
だけど、俺が知りたいのは康二が俺にされてどう普段感じているのか、それが知りたかった。
「考えたってわからないし、もしかしたらエッチしたら戻るかもしれないよ?」
—最悪、俺は戻れなくても向井康二を演じて生きてく自信があるけどね。
「それだけは嫌やわぁ……んっ!」
意地悪く微笑む俺に康二は身の危険を察知し、俺から離れて行こうとし、面白くない俺は康二の首に腕を回して唇を奪う。
「ふぅ、ん……康二」
「め、め……」
康二の声で康二に甘え、いつもとは違う康二とのキスに俺は酔いしれ、もっともっとと康二の舌に己の舌を絡ませる。
「はあっ、あっ!気持ちい……」
自然と溢れる甘い声と体の疼きに一度放った欲望がまた芽を出し、その先を求める。
「……本当にするで?ええんやな 」
康二の股間に俺の勃ち上がった竿を擦り付ければ、康二はゴクリと唾を飲み、熱の籠った目で俺を見下ろした。
「うん。普段康二がどんなふうに俺で気持ちよくなってるのか俺は知りたい」
「分かった。この体で教えたる」
前に体を重ねたのはいつだったか。
康二も性欲が溜まっているのかもしれない。
俺の尻の穴は初めて経験する挿入を待ち侘び、何度も収縮している。
「くぅ、アッ——!!
……さすが自分の弱いところは自分が一番よく知ってるね」
「せやね、でも俺をそういう体にしたのはめめ、お前やで」
俺の耳に舌を這わせ、ねっとりと舐め上げ、両方の乳首を指の腹で転がされれば初めての気持ちよさに腰が大きく跳ね上がる。
俺が舌を舐めあげ、康二を煽れば康二は目を細めて俺の舌を絡めとり、その柔らかさを堪能していく。
「っぅ、康二っ、ふぁっ!もっと俺を気持ち良くさせて……」
「っ……」
俺が堪らずに下半身に巻かれたタオルを取り、勃起した陰茎を康二の前に見せつければ、康二は吸い寄せられるようにそれに舌を這わせ、丁寧に舐め取っていく。
もちろん康二にフェラされたことがないわけではないが、実際俺の体でされる時よりも気持ち良く感じるのは、康二の体の感度の良さが関係しているのではないだろうか。
「いやぁっ、ンンッ!——は、ぁぁん!ん、んッ、康二ぃっ、おかしくなっちゃ!!」
ねっとりとした舌で亀頭を舐められ、大きな手は竿を扱き玉を優しく包み、
俺は普段上げたことのない淫らな声を康二の口から上げる。
俺はそれにすら酔いしれて、普段こんな快感を俺から与えられている康二が心底羨ましくなってしまうほどだった。
「俺はそんなはしたなく鳴かないで?だらしのないお口は塞がんとな。ほら、舐めえ」
「ふっぅ、ん……」
冷めた目で俺の長い指を一気に三本も突っ込まれ、俺は必死に自分の指を咥えてビチョビチョに濡らす。
……攻めになるとSっ気が混じる康二も最高だ。
「見て、めめの体が俺を必死で求めとるよ 」
「……うん、早く康二と一つになりたい」
俺の体からいつもと変わり映えのない俺が現れ、俺はそれが早く欲しくて堪らない。
康二の体が、脳が、俺の熱を全力で欲している。
もちろんそれは目の前の目黒蓮の体も同じだ。
康二の肛門は俺の指の侵入を喜び、大きく口を開ける。
これまでどれだけこの体に欲情し、精を叩き込んだか。
何度しても飽きの来ない、魅力的な康二。
そして、そんな向井康二のことが大好きな俺が普段どんな目で康二のことをどんな風に見ているのか、まさか今知ることになろうとは。
「あッ、嘘っ……すっごく気持ちいい!!」
「うっ!めめ、締め付けすぎや……もっと力抜いて?」
指が引き抜かれ、次に入るのは大きく張り詰めた俺のちんこ。
正直、康二目線から見ればこんなものが入るのかとドキドキしたが、俺はこれを康二が奥深くまで咥え込むのをよく知っている。
だけど、尻の穴に挿入されるのがこんなにも気持ちいいなんてことは知らなかった。
「む、むりぃっ!!……アアッ、やあっ!!」
力の抜き方が分からず、俺は気持ちよさに無我夢中で腰を振る。
「……嘘や、ろッ?……ハ、ァっ!!」
いきなりのことに康二の思考が追いつかず、訳もわからぬまま康二は俺の中に白い液体を放つ。
濡れた前髪から覗く、快感に歪められた目黒蓮の表情はとても色っぽく、その顔にまた欲情するなんてどうかしている。
「まだ康二が足りない」
「ほんまにこの体どうなってるん?絶倫にも程があるやろ!?」
俺はかれこれ康二によって八回ほどイカされ、康二はというと抜かずの五発。
俺が絶倫というわけではない。
康二の体を前にするとどうしたって性欲の抑えが効かなくなってしまうのだ。
「正直SEXしてる場合ちゃう!どうしたら元に戻れるか考えへんと!」
「いやぁ、俺はこんなに気持ちいいならもう戻れなくてもいいかも……なんて」
康二に跨り、俺は気の済むまで腰を振り、奥に何度も俺のモノを擦り付ければ、それに感じた康二は重たい吐息を吐く。
正直、戻れなくても俺は康二さえこの世に存在していればそれだけでいいのだ。
「そんなの嫌やぁ!」
「なんで……?康二が目黒蓮になったって俺は康二のことを愛する自信があるけど」
涙目で俺を見上げる康二に俺は意地悪く微笑み、康二のモノをギュッと締め付けてやる。
「っ、やって、俺やってめめの体で感じたいねんっ」
「はっ……!」
——全く、この男はどれだけ俺を惚れさせれば気が済むのか。
可愛く言われ、俺の全身に電流が流れて欲望が溢れ出す。
康二の体で絶頂を迎えるのもいいけど、俺はやっぱり康二を鳴せる方が性に合っているのかもしれない。
「ん……」
目を開けば、真っ暗な自身の部屋。
体が重く、部屋の乾燥により声が掠れている。
ハロウィンの今日、とんでもない夢を見たなと非現実的な夢に思わず苦笑いが漏れた。
「えっ…… 」
「あ、康二……急に動いたら、うっ! 」
うがいでもしに行こうかと俺がベッドから起きあがろうとすると、背後には聞き慣れた恋人の艶の混じった吐息が漏れ、
「あ、んっぅ!」
俺のナカには熱い液体が注ぎ込まれていく。
……これは一体どういうことなのか。
「な、な、なに!?なんでめめがうちにおるん!?」
「どうやら元に戻ったみたいだね」
背中と腸に感じる熱い熱に俺はパニックになり、ジタバタと体を動かす。
「俺たちの体が入れ替わったの忘れたの?」
「え!?あれ夢じゃないん!?」
そんな俺を宥めるようにめめは俺の腰を撫でて、クスクスと笑う。
「夢じゃないよ。ほら、俺の精子が康二の中にこんなにいっぱい」
今放ったばかりだというのにめめの大きな逸物はグチャとグチャと俺の柔らかくなったナカをかき乱していき、先程の激しい行為を思い出させる。
「ふぁっ、ああっ!やっ、めめっ!……これ以上はだめやてえッ!!」
めめが俺の体で淫らによがりまくったおかげで俺の体はもうヘロヘロや。
「駄目じゃないよね?さっき俺の体で感じたいねんって言ってたでしょ」
バックでゆっくりと腰を振られてしばらくしていなかったSEXに俺は涎を垂らし、女のような声を上げてまう。
「も、もう体が限界やねん!ンンッ!あ、ぅ…あっ!」
「あー、はしたない声で鳴いちゃって……誘ってるとしか思えないんだけど」
固くなった竿をにぎにぎと揉まれて、その刺激で俺の尻がめめの男根を深くまで咥え込んでいき、俺はもう気が狂いそうやった。
“正直に言ってごらん。康二、俺とするの好きだよね?”
体が入れ替わり、俺の感度の良さをその身で知ってしまっためめに、いいえ、好きではありませんとは言えないやろ……。
「めめとエッチするの大好き……っ」
「俺も……好きだよっ!」
どんなお菓子よりも甘い恋人の悪戯はもうしばらく続くのやった。
「あ、康二おはよ!」
「ふ、ふっさんおはよ……」
背後から元気に声をかけられ、俺の心臓は高鳴る。
彼は媚薬や一切嘘のつけなくなる薬を手に入れるだけでなく、なんと魔法まで使うことが出来るんや。
「なに?なんでそんなビクビクしてんの?」
「べ、別に?」
怪しそうな顔でこちらを見るふっかさんから俺は目を逸らす。
「そういえばめめがさっき、満面の笑みでまたお願いねって言ってきたんだけど、なんのことかわかる?」
くそっ、アイツ!
また余計なことを……
「さぁ〜?なんやろね〜。そうそう、ふっかさんに差し入れ持ってきたんよ!ドラマの撮影頑張ってな!
」
「え、ありがと〜これ俺がめっちゃ好きなやつじゃーん♩」
これ以上悪戯をされない為に俺が並んで買ってきたのは古くから愛される高級店のお高い洋菓子。
ニコニコと楽しそうに笑うふっかさんに俺は一安心や。
ハロウィンに現れた悪魔や魔女は元いた場所へと帰り、平穏な日常が舞い戻る。
end