短編集

「ん………」

聞き慣れた独特のエンジン音が耳に入る。

目を開けばあたりは真っ暗で、まだ夜は明けてないのだと俺は目を閉じた。

なぜだかとてつもなく目が重く、無性に眠かったんや。








「ハァッ、ハァッ……なに」

俺が異変に気付いたのは意識がはっきりとし出した頃。

夜だと思っていた暗さは時間の問題ではなく、目隠しをされているからだ。

外そうと思っても俺の手は両手の指を握り合い、その下で布のようなものでキツく縛り上げられていて外すことが出来ない。

一つわかるのは先程、夢現で聞いた少し変わったエンジン音が今もBGMとして鳴り響いていること。

もちろんこんなことをしでかすのはただ一人。

「めめっ……これはどういうことや」

「………… 」

俺とお揃いの香水を香らせるこの車の持ち主はあきらかに俺の隣にいるのに、返事をしない。

理由はただ一つ。


これはきっと、俺へのお仕置きだ。













真っ黒な世界








「……ッ!なぁ、返事くらいせぇ、っん
お前、昨日の酒に……あァっ!!なにか入れたやろ!? 」

「…………」

どれだけ問いかけてもこの車の運転手は一向に返事をしない。

それにも腹が立つが、なにより体が徐々に熱くなり、そして下半身がムズムズする。

車のエンジンの振動で服が体に擦れる。
ただそれだけの微々たる刺激で感じるなんてありえない。

この状況にまとまらない頭でなんとか最新の記憶を呼び戻す。


『康二ただいま。会いたかったよ』

『めめおかえり!俺も会いたかったで。今日もお疲れさん……んっ』

仕事から帰ってきためめと玄関で熱い抱擁を交わし、会えなかった時間を埋め尽くすように口付け合う。

『あれ?お酒飲んでるの?珍しいね』

『たまにはな〜!最近調子がええから気分もええねん』

俺の下唇を舐めて、俺の口内に残るハイボールの味にめめが首を傾げた。

『ふぅん。大御所やプロデューサーにも認められてきたもんね。おめでとう』

『おおきに!めめも一緒に飲む?』

テンションの高い俺を見てめめは微笑み、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

俺と同じ大きさの手の感触が心地よく、気分はさらに高揚する。

『いや、俺は明日予定があるから今日は遠慮しておく。康二はオフなんだし、好きなだけ飲みな』

『……俺もほどほどにしとくな。夕飯、お風呂沸いてるで』

頭上からゆっくり降りる手は俺の頬を撫で、俺はめめのカッコ良さに見惚れてしまう。

——付き合ってしばらく経つんやけど、今でもめめのことがめっちゃ好きや。

『康二は?選択の中に入ってないけど』

『俺はまだ駄目。めめがちゃんとご飯を食べて、今日の疲れをしっかり取ってからやで』

意地悪く笑い、鼻を指で摘まれ俺は唇を尖らせる。

しっかりと記憶があるのはその辺までで、それ以降はめめが俺の隣で夕飯を食べながら、遠慮する俺に酒を勧め、早々とお風呂から上がり、めめの出演するTV番組を見ていた俺にさらにビールを差し出し……

『めめぇ〜大好きっ』

『俺もだよ。康二愛してる』

酔っ払って甘える俺にめめは口移しで、また酒を俺の体に継ぎ足していく。

——あの時、めめが絶対になにか盛ったに違いない。



「ふ、ァ…ッッ!から、だがあつい……ッ」

「…………」

こうして車に揺られているということは恐らく日付が変わり、これは昨晩の出来事。

俺は今日はオフ。
めめは確か……

「ハ、ッ……よて、いあるって言うてたやん……まさかこれ、のことやったんかっ」

「…………」

車のエンジンの振動は変わらず、中々停車する気配がないことから俺はめめが高速道路を走っていることに気付く。

相変わらずめめから返事は返って来ず、めめはどれだけ怒っているんやろかと不安になった。


恐らくめめが盛った媚薬のようなモノに俺の体は翻弄され、視界が見えないせいかどうにも体の神経が不規則な動きに捕らわれ、とうとう首をもたげていた息子が完全に勃ち上がる。

そして、そこだけではなく何度もめめのモノを咥え込んだ下の口が強い刺激を求めて収縮を繰り返した時、

「な、に!?」

尻穴に固い何かが埋め込まれていることに気付く。

それと同時に

———カチッ

「ァあっ!!ン、ンッ!!やァッっ?! 」

小さなスイッチ音とともになかのソレが大きく振動し、俺の中で大きく暴れ出す。

初めての刺激に俺は動揺し、高く卑猥な声を上げる。

「……ッ」

俺のその姿に隣で小さく息を飲む音が聞こえた。




『最近めめ目当ての女優やタレントと距離が近いんちゃう?』

新しく始まるめめのドラマの番宣で出演した番組を立て続けに見ていると、どうにも共演した女優やタレント陣の距離が近いことに気付く。

ルックスも良くて歌もダンスも完璧。
演技力もずば抜けていて、今やドラマに映画に引っ張りだこ。 

加えて国際的なモデル活動も行っているめめを交際相手、結婚相手として狙っている女性は芸能界でもかなり多い。

『……康二だって誰彼構わず、他のメンバーとスキンシップ多いよね。俺だってアレいまだに嫌だよ?』

『それは俺の昔からの性分やし、俺が好きなんはめめなんやからいい加減慣れてくれ』

思ったよりも低く出た声に自分でも驚いた。

普段なら絶対にこんな言い方はしない。
何年経っても俺はめめへの気遣いを忘れたことは一度もない。

やけど、めめから飲まされた強い酒に支配されつい普段は絶対出さない本音が漏れてまう。

同棲するにあたり、二人で選んだソファーに寄り添い俺の腰に回されためめの手の力が俺の放った言葉によりグッと籠る。


『じゃあ、俺も康二のことが好きだから。他の女性とどれだけスキンシップをとっても心配しないでよ』

『はっ……!』

——確かこれをきっかけに滅多に喧嘩しないめめとの口論が始まってしまったのだ。

なぁ、めめ。
昨日はただ安心させて欲しかっただけなんよ。

……俺はどれだけめめに愛されてても、ほんまはいつか他の誰かに目黒蓮を奪われてしまうんやないかって、いつも不安に思ってるんやで?




ピンポーン

「 あっ、ふうっ、ん!やぁっ!」

どこまで来たんやろう?
ETCの通過音が鳴る。

でも、そんなことは今はどうでも良くて。

断続的に与えられる無機質な刺激に俺のモノはパンパンに固く張り詰め、そこから放たれる液体でパンツの中はビショビショだ。

「……やだぁ、っ、んんっう!ああっ!?め、めっ、 」

視界が遮られていることにより過敏となった体はとにかく熱くて堪らない。

解放を待ち望む俺の陰茎、そしてめめ大きな男根で何度も慣らされた俺の奥はめめのガチガチに勃起したものを求め何度も収縮を繰り返す。

その度に中の壁をローターで刺激され、気が触れおかしくなりそうやった。

でも、

「ぁアッ……!めめぇっ、いややぁ!こんなんでイキとうない!!

ふうっ、暗い、怖い……!
めめっ、めめ!助けて!! 」

「っ、」

昨晩の出来事を思い出し、例え見えずとも隣にいる最愛の人を心が求める。

俺がボロボロと涙を流し、叫べばローターのスイッチが止まり、同時に車もゆっくりとブレーキがかかりどこかへ停車した。

「めめ…………」

俺を暗闇に閉じ込めていたアイマスクが外され、突如明るくなった世界に俺は目を細める。

「康二……ごめん」

その中には眉を下げ、せつなげに俺を見るめめの姿。

「うっ……めめ、めめっ」

ずっと、そばにいたのにめめとまるで長い間会うことの出来なかったような錯覚に陥り、俺の目からまた大粒の涙が溢れだす。

めめに抱き付きたいのに縛られた手がそれを邪魔し、苦しくなる。

「康二待ってね」

「っ、ひっ、くっ……めめ、めめ!」

俺の手首の紐を解き、めめは俺を強く抱きしめてくれた。

その瞬間、めめの香水の香りが俺の鼻腔を擽り、その安心感で一気に満たされる。

「康二、本当にごめん。俺はちゃんと康二のそばにいるから泣かないで……」

何度もめめの名を呼び、存在を確かめるように俺もめめを強く抱きしめ返した。




「う、ん、はぁっ……めめ」

「ん、康二……」

めめが車を走らせたのは人っこ一人いないどこかの山奥。

二人で見つめ合い舌を何度も絡めて濃厚なキスを交わす。

「まだ、体が熱い……めめ、早く抱いて 」

「……じゃあ、近くのホテルに行くまで我慢出来る?」

めめとのキスでなんとか治りかけていた熱がまたぶり返す。

「そんなん、待ってられへんっ……お願いここでシてっ」

「……わかった」


めめの服の袖を握り俺が上目遣いで懇願すれば、めめがゴクリと喉を鳴らす。



(この車……まさか)」

めめが俺に内緒でこの車を納品し、初めて見せてくれた時のことを思い出す。

マルコポーロホライゾンなんて、
正直、めめらしくないと思った。

でも、すぐにキャンプが好きな俺のために選んでくれた車なのだと気付く。

そして多分やけど、いつか俺とこうやって車で”する”ことも狙ってたんやないやろか……

「……山に車を停めてするなんて背徳感があるね」

「よく言うわ、元々この予定やったんやろ……」

俺が目を細めてめめを見れば、めめがくすりと笑い俺の座るシートを倒し俺の上に覆い被さる。

男二人でも狭く感じない車内は恐らくどんな体位も可能だ。

「違うけど?まぁ、それは後でのお楽しみということで……じゃあ」

——昨日は結局食べれなかった康二をいただくよ。

「ええから、早う食べて……」

低く、甘い声で耳元で囁かれれば俺はめめ以外の全てを忘れ、黒の世界に貪欲に飲み込まれていくのだ。




「康二……すっごく可愛いよ」

「あっ、ふぅ、ん…… 」

めめは俺の唇から頬に、おでこに、鼻、目に軽いキスの雨を降らせ最後に首筋に跡の残らない程度に吸い付く。

今日の俺の格好は白いタンクトップに細かなストライプ柄の水色のシャツを羽織り、白のワイドパンツを履いていた。

もちろんこれは俺が眠っている間にめめが着替えさせたのだが、着ている服は全てめめのものだ。

めめは自分色に俺を染めるのが好きなんや。

さらに後部席には俺のお気に入りの帽子とカメラが置かれているのもなんともめめらしい。

「康二のここ早く触ってって、立ち上がってるよ」

「いちいち言うな……アアッ!」

タンクトップの上からプクりと存在を主張する乳首をめめが摘み、いきなりの刺激に腰が浮く。

「今、触ってあげるからね」

「うっ、ふぅん、はぁっ!ンンッ!! 」

服を捲り上げ、めめは濃い色へと変わった俺の突起を口内に向かい入れ、丁寧に舐めては強く吸い付く。

気持ちいい、でも……

——こんなんじゃ足りない。

「っ、康二、なにしてるの? 」 

少し腰を浮かせめめの固く勃起している男根に同じくガチガチになった俺のもの強く擦りつければ、その行動に驚いためめから吐息が漏れる。

やけど、それだけやない。

「めめ、もう我慢出来ひん……

早く、めめの大きくて固いの俺のナカに挿れて?」

「今日はもう泣いて嫌だって言ってもやめないから 」

めめが大好きだという俺のおねだりでめめを悩殺してやる。



「うわ……すごくヤラシイ匂いがするよ」

二人で後部席へ移動し、めめがすぐさまシートを倒していく。

車中泊が可能なこの車は席を倒せば完全なベッドとなり、カーセックスにも持ってこいだ。

「うるさいっ、誰のせいや……」

めめによって完全に裸にされた俺を見るめめの目は嬉々としており、車内に冷房は付いていたものの、謎の体の火照りで俺はたくさん汗をかき、さらにローターで弄ばれた俺の性感帯からはエロい汁が二つの穴から溢れ出でしまっている。

それを俺が体を丸めて隠せば、めめは捕食者のように意地悪く微笑み、自身も服を脱いで行く。

「車の中で二人で裸って、どんな気持ち?」

「っ……そんなん聞かんでもわかるやろ!恥ずかしい一択!!!」

どうやらめめのお仕置きはまだまだ続いているようで、何度も焦らされては体が強くめめを欲して俺はもどかしさで堪らなくなる。

「これからたくさん気持ちよくしてあげるから」

めめは俺の尻穴に指を入れ、中に入ったロータを探りゆっくりと引き抜いていく。

「ふぁッ、ん」

引き抜く途中、指の関節の甲でわざとらしく中を刺激され、俺は何度も艶のある声を上げてしまう。

そして、俺の恥部から出てきためめの手の中にある小さなパステルカラーのロータを凝視する。

「初めての玩具はどうだった? 」

「……こんなのいらへん。

俺の中に入ってええのはめめだけや」

「………… 」

俺が小さく呟けばめめはロータをポイっとその辺に投げ、俺をシートに寝かせ俺の口内にねっとりした舌を差し込む。

「あっ、ふっ、んっ、……ん!」

「康二、挿れてあげるから自分で脚を開いてごらん」

甘い誘惑に俺が脚を大きく開けば、俺の尻穴がパックリとめめの太い男根を待ち望み、ひくつき……

「んっっ、ぁあァっ……!?」

「ッ、く……!!」

めめは容赦なく俺のナカに侵入した。










「やっ、めめぇ激しっ……! あっ!やぁ、ッ!!……気持ちいぃっ!!」

「ふぅーっ…… 」

何度も何度も奥をめめの俺とは色も形も全然違う先っぽで突かれ、俺はめめの背に腕を回し快感でよがり狂う。

いつもなら、もう既に達するのに俺の体はどうしたのか……

イくにはまだまだ刺激が全然足りず、そしてしばらく腰を振っているめめも中々イかず、腰を止めて一呼吸おく。

こんなことは初めてや。

……これはつまり

「めめ、

“俺ら”は一体なにを飲んだん……?」

そう問う俺にめめは至近距離で笑い、

「ふっかさんからもらった遅効性の媚薬。

効果は一日。
今日は康二にサプライズでキャンプをする予定だったけど……」

めめはチラッと後部席に積まれたキャンプの道具を見た後に爆弾発言をする。


———今日は二人で裸で一日中愛し合おうか。

「やっ、嘘やろー?!なんでそんなん飲ましたん!?」

「さぁ、なんでだろうね?——愛してるよ康二」

「え……ちょ、ヒッ!ッ、んんんんんう……!!」

清々しい顔の裏にはそこ知れぬ黒い感情が見え隠れし、セックスを再開するめめに俺は恐怖を感じた。







めめside


「これ、助けてくれたお礼に一滴飲めば一日体が疼いて堪らなくなる”幻の媚薬”あげる!」

歳を重ねるにつれ金遣いの荒くなったふっかさんは度々俺にお金を借りるようになった。

アイドルとしてそれはいかがなものかと思うが、本人はそれをキャラとして受け入れているし、俺も約束をした手前断われなくなり、康二には貸すなと言われているがついついお金を貸してしまう。

それに貸した金と一緒に返ってくる対価は俺なんかじゃ手に入れることの出来ない中々珍しいものばかりだった。

芸能界でめちゃくちゃ顔の……広いふっかさんが今回寄越したのは小瓶に入った怪しげなピンクの液体。

「……これを一体誰に使えと」

「え?めめは康二以外に使う相手誰かいんの?」

呆れた顔で小瓶を見て呟く俺にふっかさんは興味津々だ。

「じゃなくて、こんな得体の知れないモノを康二に使えるわけないでしょって言ってるの!」

俺は康二のことを出会った頃から誰よりも愛しているし、浮気相手なんているわけがない。

ましてや、こんなの使わなくたって俺は康二を悦ばせてるし……

「まっ、本当に貴重な秘薬だから持ってて損はないと思うよ」

俺の肩を叩き、楽屋を後にするふっかさん。

俺は処分に困り、とりあえず媚薬をジャケットのポケットに閉まった。




『俺たちやって、いつまで一緒にいられるかなんてわからんやろ?』

昨日康二と意図せず始まった口論で、まさかコレを使うことになるなんてこの時は思ってもいなかった。

康二に酒をたっぷり飲ませ、深く眠らせてサプライズキャンプを仕掛けようとしていたのに互いの嫉妬心が普段しない喧嘩を生み出した。

そして、俺は康二に対する独占欲から、康二がトイレに行ったのを見計らって康二が飲んでいる酒に幻の媚薬やらを足してしまったのだ。

———しかも一滴だけではなく、何滴も。

康二への歪んだ愛に飲み込まれた俺はこんなことも出来てしまうのか……

「ははっ……!別れるなんて絶対にあり得ない」

本当に秘薬だというなら、この不安が吹き飛ぶくらい、康二と俺を二人だけの世界へ誘ってくれ。

俺は残りの媚薬をグッと飲み込んだ。


意外と酒に強い康二は二日酔いも無く、どれだけ飲んでも翌日にはスッキリと目が覚める。

しかし、今回は薬の効果もあってか康二は移動の最中ぐっすりと眠ってくれた。

そして——

「ァあっ!!ン、ンッ!!やァッっ?! 」

「(早く康二を犯してやりたい……っ)」

俺はミラー越しに康二のいやらしい姿を見てはめちゃくちゃ興奮していた。

アイマスクで視界を閉鎖し、手を絞り自由を奪う。
口からは涎が垂れ、まるで康二を監禁しているかのような錯覚に陥る。

AVでしか見たことのない非日常な行為と媚薬が俺の体にも強い効果をもたらし、竿が強く反応して痛いくらいだ。


早く目的地に着いてくれと、はやる気持ちを強く抑える。

——ねぇ、康二。
もし二人の関係が終わるとしたら
それは康二からかな?

でも、俺は君を離さないよ。
もし君が離れていこうものなら

その長い手足を切り落としてでも、
俺は康二を離さないから。

二人で暗い愛の渦に飲まれていこうか

end

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