夜 桜



——あのさ、昨日今日で消えて無くなるほど俺の康二を好きって気持ちは軽くないよ。

「良かった……。あのな俺、めめとキスしたいんやけど」

俺の返答に満足した康二はくしゃっと微笑み、今度は俺にキスを強請る。

本当に同じ男なのだろうかというくらい、愛くるしい康二に俺はマジで頭がおかしくなりそうだった。

これが仮にもし夢だったら、覚めた時に俺は間違いなく絶望で死んでしまうだろう。

「……じゃあ、康二からして?」

キスはしょっぴーと長いこと付き合っていた康二の方が、きっと手慣れているはず。

そして、俺はなんとなく康二のリードする男らしい姿を見て見たいなんて思った。

「ん……。じゃあ今からキスするから、目ぇ閉じて」

康二に言われるがまま、俺がそっと目を閉じると唇に当たる薄い感触。

康二の唇の感触は昔舞台で俺の誕生日に一度だけ無理矢理されたあの頃となに一つ変わっていなかった。

今思えば、回数は翔太君には負けるだろうが、康二と先にキスした順番は俺の方が早いんだよな。

あの時、抵抗せずにみんなの前でもっと堪能しておけば良かったななんて……。

俺がふと考えていると…

「………めめの唇柔らかい」

「康二ちゃんと捕まってて」

ただ少し唇を重ねただけで俯き、はにかむ康二。

「へ?……うわっ!?」

そんなうぶな康二にリードされたいなんて思っていた俺の欲望は早々に爆発してしまう。

俺の頬を挟んでいた康二の両手をしっかりと俺の首に回させ、俺は軽々と康二を抱えて立ち上がる。

急な浮遊感に驚いた康二が俺にしがみつき、さらに密着した康二の薄い体に俺はもう我慢の限界だった。

「あんまり可愛いことすると、康二のこと食べちゃうけどいいの?」

寝室のドアを開け広いベッドに康二を座らせる。   

「…………」

薄明かりの中、瞳を潤ませた康二は隣に腰掛ける俺から視線を逸らさずにコクリと小さく頷いた。

「っ、康二好きだよ」

「……俺もめめが好きや」

俺を真っ直ぐ見つめて、気持ちを伝えてくれる康二の唇に俺は吸い寄せられるように己の唇を重ね、角度を変えては康二の下唇に吸い付き、チュッチュと卑猥な音を立てながら康二の柔らかな唇の質感を堪能する。

「(今康二とキスしてるのは夢じゃない。けど……)」

毎日ケアを怠らないこの艶やかで、魅惑的な唇を俺以外の人間も知っているのだと思うと少しモヤっとするが、そんな心のざわつきが康二への想いをさらに加速させた。

「ん……」

「!?」

頭の中で色んな思いがせめぎ合う中、俺との拙い唇だけの触れ合いに物足りなくなったのであろう康二の舌がぬるりと、俺の上唇を撫であげた瞬間、俺はその行為に驚き康二の唇から身を引く。

「……ちゃんと舌と舌も絡めて欲しいねんけど 」

「……っ〜!」

康二は赤く長い舌で自身の下唇をゆっくりと舐め上げ、康二の唾液で色付いた唇が俺を誘惑する。

先程の反応からして、絶対受け身だろうと思っていた康二が案外、性に対して積極的だと知り、そのギャップに俺は驚愕し体温がまたさらに上がっていくのが分かる。

——これは翔太君も康二にぞっこんになるわけだ。

康二はファンだけではなく周囲の人間、そして男心も掴むのが絶妙に上手いときた。

この男は今まで、どれだけの人間を虜にしてきたのだろう。

「………」

「ん…、はぁ……っ」

熱に浮かされた俺の瞳の奥深くをジッと見据える康二を見つめたまま、俺はもう一度康二の唇に吸い付き、そろりと姿を現した康二の舌を自身の口腔に向かい入れた。

「ふっ、う、ンっ……はぁ、んあ…ぁッ」 

互いの舌の表面を擦り合わせ、少しザラりとした康二の舌に肌が粟立つ。

「(甘い……)」

そのまま康二の舌裏に移動し、俺はクニュクニュとした下顎の柔らかい部分を先端で突いた後、康二の口内を縦横無尽に移動し、最後に康二の舌に自分のものを巻き付けてやる。

うっとりした目付きで俺を見ながらくぐもった声を上げ、俺の舌を貪欲に貪りキスに酔いしれていく康二。 

そんな艶を含んだ康二の鼻から抜ける少し高い声に、俺の腹の下がだんだんと渦を巻いていくのが分かった。

「……ん、ふぅん…ぁっ、…ンンッ」

「は、あっ……」

俺と康二の唾液が混ざり合い、濡れた康二の上唇と猫のような舌の表面が俺の唇を包み、まるで舌を抜き取るかのように少し強めに引っ張りながらにゅるりと吸いついた時、粘膜同士が触れる濃厚な痺れに俺も堪らず声が漏れる。

そして、俺の感じる声を聞いた康二が目を細め、俺の声をさらに引き出そうと絶妙に舌を動かし、俺も負けじとそれに応えることで、俺たちの口付けはまるで限界を知らぬかのようにどんどんと深いものとなっていく。

「(康二キス上手すぎだろっ……!) 」    

脳天が痺れるような康二のディープキスによる快感とこの接吻が翔太君と培ったものだと思うと、再度俺は嫉妬心に苛まれ、眉根を寄せ、見つめ合っていた康二から視線を逸らした。

「……めめ、もしかしてしょっぴーに嫉妬してるん?」

俺の変化に気付き、唇を離す康二。
一人で勝手にモヤモヤしておきながら、離れてしまった舌がなんだか名残惜しかった。

「……まぁね。なんか、俺かっこわる」

改めて康二に言葉にされるといい歳をして余裕のない自分が情けなくなり、髪を掻き上げ俺は俯く。

「…………」

そんな俺をふわりと康二が包み込む。

「……康二?」

「これから、ありのままのめめをまた俺にたくさん見せ欲しい」  

———俺が全部受け止めたるから。

「……っ、」

康二のはっきりとした口調で放たれた言葉は力強く、俺たちの離れてしまった距離があの頃と同じように少しずつ戻ってきている。

それがすごく嬉しい。

俺が康二をキツく抱き締め返すと、康二は俺の背中を我が子をあやすようにゆっくりと撫でながら、言葉を紡ぐ。

「俺な、先月末にしょっぴーと話した後、事務所の休憩室でずっとめめのこと考えてたんやで。しょっぴーがいなくなる寂しさよりもめめをこの先どうしたら幸せに出来るかなって、早くめめの笑顔が見たいなぁって」

「……そうなの?」

「そうやで。あんなに落ち込んで、すぐに立ち直って薄情な奴って思うかもしれへんけど、俺は今めめのことが大好きやねん」

あの瞬間はてっきり翔太君のことを考えているのだとばかり思っていたが、康二の脳内にはどうやら俺がいたらしい。

十年間翔太君一筋だった康二の気持ちがそこまで俺に傾いていると知り、俺はここにいる康二と本当に両想いになれたのだと深く実感した。

康二の大好きという言葉がただ、ただ嬉しく、

今、この上なく幸せだ。

「俺も康二が大好きだよ」

「俺たちベストコンビだけじゃなく、ベストカップルにもなれるかもな」

「俺の愛は他所と比較出来ないくらい大きいけど、康二の愛はどうかな〜」

「たかだか若干の差やから大丈夫や」

ベッドの上で抱き合いながら、クスクスと笑い合う。

「(まだ翔太君への未練が少しでもあればやめようと思ってたけど……もういいかな)」

「………うン、ッぅ!?」

康二の腰に回していた手を康二のカッターシャツの中に忍びこませ、康二の腰から上のくびれた部分をスッと撫で上げる。

突然の刺激に康二が甘い声をあげ、しなった体が俺にしがみついた。

「うっ、」

今ので、軽く勃っていた俺のモノが一気に天を仰いだのがわかる。

「めめの………すごく大きいんやね」

「……康二がイヤラシイ声を出すからだよ」

俺の膨張した股間は密着した康二との間にある為、もちろん俺の脚の中にいる康二にもダイレクトにあたり、康二の胸の鼓動が早くなったのが伝わる。

多分、翔太君と別れて以来、久々のsexで康二もとても緊張してるんだろう。

康二に優しく、大切にしたい。
これは長い耐久戦になるなと、俺は身を構えた。
今こそ余裕のある大人の男になれ、目黒蓮。

「イヤラシイって!…やんっ、ぁっ!」

「コウイウ、コエ」

茶化す俺の首筋から離れ、怒りの声を上げる康二。 

そんな康二の左の乳首を人差し指の腹で素早く撫で上げると、不意打ちの刺激に感じた康二がまた俺の元へと帰ってきた。

「……ぁ、あッ…!!」

耳元で囁き、フッと息を吹きかけると康二の体が震える。

「康二って感じやすいんだね」

「ひゃんッ!!……う、うるさいっ」

恍惚とした声で康二に伝え、耳たぶを甘噛みすれば俺の顔を押し返し、俺が噛んだ場所を押さえて涙目で俺を睨む康二。

「……そういうの反則でしょ」

さっきまであんなに巧みなキスをしておいて何故、まるで全てが初めてのように、こんなにも乙女になるなのか。

「わっ!!!」

ここまで欲を掻き立てられて、やっぱり優しくなんて出来るわけがない。

——康二を早く俺だけのモノにしてしまいたい。

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