夜 桜
※なべこじあり
「おはよう、しょっぴー。今日は少し蒸し暑いな」
「康二………。もう大丈夫なのか?」
事務所の控室のドアを開き、俺はその場で固まる。
なぜならソファーに浅く掛けて俺としっかりと目を合わせ、にこやかに微笑む康二の姿があったからだ。
康二の陽だまりのような微笑みを見るのはいつ以来だろうか?
俺の好きだった、いや本音を言えば今も俺の人生の全てである元恋人の笑顔に不覚にもときめき、そこから二度と戻らぬ過去が一気に脳内に押し寄せ俺の胸が急激に高鳴り出す。
そして———
なぜまた笑えるようになった?
昨日までの康二は俺と目を合わせることすらもままならず、仕事が終わればすぐに俺のいる空間から立ち去ってしまうほど、俺のことを露骨に避けていたはず。
『康二ごめん。
好きな人が出来た。
俺さ、その人と結婚したいと思ってる』
『嘘、やろ…?
俺とずっと一緒におるって言うてくれたやん……。 俺のこと愛してるって!』
今からちょうど一年前。
俺の突然の別れの言葉に泣き崩れ、必死な思いで俺の足元に縋った康二。
聞いてくれ、康二。
俺はお前を愛してるし、永遠にお前のそばにいたいと言った気持ちも決して嘘なんかじゃないんだ。
泣きじゃくる康二に胸が酷く痛み、放ったばかりの別れの言葉を取り消そうと、俺は何度も自分の心の中で足掻いた。
——どんなに辛くとも、俺はお前のことを手放さなければならない。
『翔太…!お願い、行かないでっ!!』
放心状態の康二に俺は無情にも背を向けて歩く。
この時、悲痛な声で俺の名前を何度も叫ぶ康二に後ろ髪を強く引かれたが、振り返ることは断じて許されず……
「(ごめん、康二。本当にすまない)」
こんな方法でしかお前を守れない、情け無い俺を許して欲しい。
穏やかな春の日。
失恋で身も心も痛めた康二は淡い桜の花弁とともに次第に朽ちていく。
俺はその姿を見る度、別れも結婚も脱退も全てが無かったことに出来ればいいのにと何度も強く願った。
また君に綺麗な桜を咲かせて欲しいと。
結婚は嘘だよ、俺にはお前だけだと抱きしめて康二をこの胸で安心させてやりたくて……
そんなこと出来るわけないのに。
弱々しくなっていく康二の背中をいつか時間が解決していくだろうと俺はそっと見守ることしか出来ない
だが、破局から一年が経っても繊細な康二の心の傷は癒えることなく、かえって深く広がっていくばかりで、メンバーとも距離を取るようになり、どんどん孤立していく……
俺の卒業が日に日に差し迫る中、今も一人で涙をこぼす康二を見て、この男は十年愛した渡辺翔太を一生心に飼って生きていくのだと胸が締め付けられた。
そして、俺との別れの痛みを抱える向井康二がいつしか俺の心の拠り所へと変わっていき、康二が俺を忘れさえしなければ、俺達はどこかで通じ合っていられる……
彼は俺だけが知る、儚く美しい桜だったのだと、俺は康二の涙の跡が残る横顔を見る度に酔いしれていた。
なのに、なぁ。
康二、なんでだよ。
どうしてそんな清々しい顔をしてるんだよ。
「しょっぴー、今まで心配かけてごめんな」
「二人きりなんだから、翔太って呼んでよ」
付き合っていた当時、俺は二人でいる時は必ず康二に下の名前で呼ばせていた。
素の康二の少し低い声で翔太と呼ばれると、康二への愛くるしさに俺の欲望全てをぶちまけたい衝動に駆られ、それを毎日必死に抑えるのが本当に大変だった。
だが、康二が俺を高い声でしょっぴーと呼び、それが今物凄く他人行儀に感じ、俺と康二の心の距離を痛感する。
まぁ、とっくに別れたのだから名前を呼ぶことを強要するのもおかしな話だが。
「………」
「………」
離れても相変わらずな俺に康二は苦笑いをし、俺は康二のその姿をこの目に焼き付けるようにジッと見つめた。
久しぶりの康二と二人きりの空間。
仕事が重なる時はここで身を寄せ合い、他愛のない話を康二とたくさんした。
あの頃のように俺を避けずに話をしてくれている。
それだけで俺の心は忙しなくなる。
今、この瞬間は瞬きすらも惜しい。
「……昨日のラジオ聴いたで。しょっぴーの気持ちがすごく嬉しかった。でも、もう俺のことは忘れて婚約者と新たな人生を歩んで幸せになって欲しい」
「…………俺がお前のことを忘れられるわけないだろ」
俺の声や態度に敏感だった康二が昨日のラジオを聴いたのなら、俺の想いにきっと康二も気が付いたはず。
俺がどれだけ康二を深く愛しているかわかってるだろ?
今までも何人もの女と付き合ったが、これまでの人生でこんなにも俺の心を掻き乱す人物は向井康二、ただ一人だけだ。
康二の悟りを開いたような穏やかな眼差しに、俺は現実を直視したくなくて俯いた。
お願い康二、俺を忘れないで。
康二にはいつまでも俺のことだけを想って生きて欲しい。
そうすれば、それがこの先の人生、俺の生きる糧となるから。
だけど、
「しょっぴー俺な今気になってる人がおるねん」
「…………っ、」
康二の予想外の言葉に俺は思わず勢いよく顔を上げ、康二を見る。
康二は俺と目が合い照れ臭そうに微笑んだ。
その姿に俺はただ、ただ唖然とする。
誰だ?
二日前までいつもと変わらず塞ぎ込んでいたのに。
康二に会えなかった、たったこの一日で一体なにが起こった?
「一昨日までの俺はしょっぴー以上に愛せる人なんて、もうこの世におらんと思ってた。
でも、それはこれ以上傷付きたくなくて俺が見ないようにしてただけで、失恋から立ち直るきっかけや恋のチャンスは実はそこら中に転がってたんやね」
自分の胸に手を当て、白い歯を見せてニカッと笑う康二は俺が長いこと愛していた向井康二そのものだ。
「…………相変わらず可愛いな、康二は」
その太陽のような笑顔で何人もの人間を魅了していることに康二は気付いてしまったんだな。
俺もそのうちの一人だった。
——康二は青い空を高く舞う、穢れ無き大きな翼を持つ自由な鳥だった。
「俺、康ちゃんのことほんまに好きやねん。
まさかSnow Manに加入するなんて思わんくて……。こうやって離れ離れになるなら、もっと早くに康ちゃんに好きやって伝えれば良かった」
「(あれは康二の関西の後輩……。アイツも康二のことが好きなのか?)」
康二と長年関西で活動していた幼い顔立ちの青年二人と俺はバラエティ番組で共演し、撮影終わりに彼らの秘密話をたまたま聞くことができた。
——清らかな康二を見上げ、捕まえようと必死になっているのは俺だけじゃなかったのだ。
「まぁ、俺らもこの先もずっと康ちゃんと一緒におるもんやと思ってたからな。気持ちを伝えるなら早くせんと康ちゃんはもっと遠くに行ってまうで」
——でも、羽を広げて楽しそうに飛ぶ康二の目には手を伸ばす俺達の姿なんて映っておらず……
「男の俺が告白して気持ち悪がられないかな?」
「大丈夫や。だって、康ちゃんはな」
俺は必死で策を考え、君を我がものにしようとするやつらに康二を奪われたくなくて、さっさと捕まえて俺だけの鳥籠に閉じ込めることにした。
「過去にあった出来事で女性恐怖症になって、今は男が恋愛対象やねん。それも強引なタイプにめちゃくちゃ弱い。不意打ちにキスして男らしく好きや言うてみ。それでイチコロや」
「あーっ!めっちゃ緊張するけど、次会った時やってみるわ」
「(……へぇ。康二は女が好きだと思ってたけど、それなら俺でも行けるんじゃないか?)」
——ズルい俺はすぐさま君を捕らえることに成功する。
だけど、俺にはさらに強力なライバルが一人。
『しょっぴー俺さ、実は康二に告白しようと思ってる』
康二と付き合っても俺を毎日嫉妬で狂わせる人物がすぐ側にいた。
それは康二とベストコンビ大賞を受賞し、めめこじの名を世間に轟かせた同じグループの後輩である目黒蓮だ。
俺よりも先に康二と親しくなり、レギュラー番組でも共演し、常に康二の隣に並ぶのが当たり前の男。
そんな目黒が康二を恋愛対象として見ていたのはデビュー前から誰が見ても一目瞭然だった。
しかし、鈍感な康二は目黒蓮の露骨な愛情表現を持ってしても気付かず……
『康二のこと本当に好きなんだ。やっぱ、男同士で気持ち悪いかな?』
二人がベストコンビ大賞を受賞した時、火山が噴火するような嫉妬心に苛まれたが、この時には康二はすでに俺の恋人で、付き合ってから初めて知ったが、康二はとても一途な人間だったということ。
目黒が康二のタイプを知り、もし俺より先に行動に移していたら、きっと康二は目黒と深く愛し合ったかもしれない。
でも、康二の心を先に射止めたのはこの俺。
『いや、気持ち悪くなんかない。……想いはちゃんと伝えるべきだと思う。頑張れよ』
例え目黒が康二に告白をしても俺は奪われない自信があったし、毎日舐め回すように穢らわしい目で康二を見る目障りな目黒の叶わぬ恋にさっさと見切りをつけてもらいたかった。
まるで、初めて恋をした少女のようにはにかむ目黒を俺は心の中で嘲笑う。
『康二、お願い俺以外の奴にもう触れないで。
俺以外の奴の家に行っちゃだめ。
特に目黒には気を付けて欲しい。
康二を取られそうで俺、怖いんだ……
——康二、俺だけを見ていて』
そんなことを言いつつも俺は康二にしっかりと釘を刺すのも忘れない。
そして、康二は意外にもそれ以降、俺以外の人間と必要以上の接触を分かりやすいくらいに避けてくれるようになり、俺は酷く安心したものだ。
真っ白で無垢な君の羽を何処にも行けないようにもいでしまった俺は、代わりに君がこれ以上壊れぬことのないよう大切に扱った。
一切、穢すことなく。
→
「おはよう、しょっぴー。今日は少し蒸し暑いな」
「康二………。もう大丈夫なのか?」
事務所の控室のドアを開き、俺はその場で固まる。
なぜならソファーに浅く掛けて俺としっかりと目を合わせ、にこやかに微笑む康二の姿があったからだ。
康二の陽だまりのような微笑みを見るのはいつ以来だろうか?
俺の好きだった、いや本音を言えば今も俺の人生の全てである元恋人の笑顔に不覚にもときめき、そこから二度と戻らぬ過去が一気に脳内に押し寄せ俺の胸が急激に高鳴り出す。
そして———
なぜまた笑えるようになった?
昨日までの康二は俺と目を合わせることすらもままならず、仕事が終わればすぐに俺のいる空間から立ち去ってしまうほど、俺のことを露骨に避けていたはず。
『康二ごめん。
好きな人が出来た。
俺さ、その人と結婚したいと思ってる』
『嘘、やろ…?
俺とずっと一緒におるって言うてくれたやん……。 俺のこと愛してるって!』
今からちょうど一年前。
俺の突然の別れの言葉に泣き崩れ、必死な思いで俺の足元に縋った康二。
聞いてくれ、康二。
俺はお前を愛してるし、永遠にお前のそばにいたいと言った気持ちも決して嘘なんかじゃないんだ。
泣きじゃくる康二に胸が酷く痛み、放ったばかりの別れの言葉を取り消そうと、俺は何度も自分の心の中で足掻いた。
——どんなに辛くとも、俺はお前のことを手放さなければならない。
『翔太…!お願い、行かないでっ!!』
放心状態の康二に俺は無情にも背を向けて歩く。
この時、悲痛な声で俺の名前を何度も叫ぶ康二に後ろ髪を強く引かれたが、振り返ることは断じて許されず……
「(ごめん、康二。本当にすまない)」
こんな方法でしかお前を守れない、情け無い俺を許して欲しい。
穏やかな春の日。
失恋で身も心も痛めた康二は淡い桜の花弁とともに次第に朽ちていく。
俺はその姿を見る度、別れも結婚も脱退も全てが無かったことに出来ればいいのにと何度も強く願った。
また君に綺麗な桜を咲かせて欲しいと。
結婚は嘘だよ、俺にはお前だけだと抱きしめて康二をこの胸で安心させてやりたくて……
そんなこと出来るわけないのに。
弱々しくなっていく康二の背中をいつか時間が解決していくだろうと俺はそっと見守ることしか出来ない
だが、破局から一年が経っても繊細な康二の心の傷は癒えることなく、かえって深く広がっていくばかりで、メンバーとも距離を取るようになり、どんどん孤立していく……
俺の卒業が日に日に差し迫る中、今も一人で涙をこぼす康二を見て、この男は十年愛した渡辺翔太を一生心に飼って生きていくのだと胸が締め付けられた。
そして、俺との別れの痛みを抱える向井康二がいつしか俺の心の拠り所へと変わっていき、康二が俺を忘れさえしなければ、俺達はどこかで通じ合っていられる……
彼は俺だけが知る、儚く美しい桜だったのだと、俺は康二の涙の跡が残る横顔を見る度に酔いしれていた。
なのに、なぁ。
康二、なんでだよ。
どうしてそんな清々しい顔をしてるんだよ。
「しょっぴー、今まで心配かけてごめんな」
「二人きりなんだから、翔太って呼んでよ」
付き合っていた当時、俺は二人でいる時は必ず康二に下の名前で呼ばせていた。
素の康二の少し低い声で翔太と呼ばれると、康二への愛くるしさに俺の欲望全てをぶちまけたい衝動に駆られ、それを毎日必死に抑えるのが本当に大変だった。
だが、康二が俺を高い声でしょっぴーと呼び、それが今物凄く他人行儀に感じ、俺と康二の心の距離を痛感する。
まぁ、とっくに別れたのだから名前を呼ぶことを強要するのもおかしな話だが。
「………」
「………」
離れても相変わらずな俺に康二は苦笑いをし、俺は康二のその姿をこの目に焼き付けるようにジッと見つめた。
久しぶりの康二と二人きりの空間。
仕事が重なる時はここで身を寄せ合い、他愛のない話を康二とたくさんした。
あの頃のように俺を避けずに話をしてくれている。
それだけで俺の心は忙しなくなる。
今、この瞬間は瞬きすらも惜しい。
「……昨日のラジオ聴いたで。しょっぴーの気持ちがすごく嬉しかった。でも、もう俺のことは忘れて婚約者と新たな人生を歩んで幸せになって欲しい」
「…………俺がお前のことを忘れられるわけないだろ」
俺の声や態度に敏感だった康二が昨日のラジオを聴いたのなら、俺の想いにきっと康二も気が付いたはず。
俺がどれだけ康二を深く愛しているかわかってるだろ?
今までも何人もの女と付き合ったが、これまでの人生でこんなにも俺の心を掻き乱す人物は向井康二、ただ一人だけだ。
康二の悟りを開いたような穏やかな眼差しに、俺は現実を直視したくなくて俯いた。
お願い康二、俺を忘れないで。
康二にはいつまでも俺のことだけを想って生きて欲しい。
そうすれば、それがこの先の人生、俺の生きる糧となるから。
だけど、
「しょっぴー俺な今気になってる人がおるねん」
「…………っ、」
康二の予想外の言葉に俺は思わず勢いよく顔を上げ、康二を見る。
康二は俺と目が合い照れ臭そうに微笑んだ。
その姿に俺はただ、ただ唖然とする。
誰だ?
二日前までいつもと変わらず塞ぎ込んでいたのに。
康二に会えなかった、たったこの一日で一体なにが起こった?
「一昨日までの俺はしょっぴー以上に愛せる人なんて、もうこの世におらんと思ってた。
でも、それはこれ以上傷付きたくなくて俺が見ないようにしてただけで、失恋から立ち直るきっかけや恋のチャンスは実はそこら中に転がってたんやね」
自分の胸に手を当て、白い歯を見せてニカッと笑う康二は俺が長いこと愛していた向井康二そのものだ。
「…………相変わらず可愛いな、康二は」
その太陽のような笑顔で何人もの人間を魅了していることに康二は気付いてしまったんだな。
俺もそのうちの一人だった。
——康二は青い空を高く舞う、穢れ無き大きな翼を持つ自由な鳥だった。
「俺、康ちゃんのことほんまに好きやねん。
まさかSnow Manに加入するなんて思わんくて……。こうやって離れ離れになるなら、もっと早くに康ちゃんに好きやって伝えれば良かった」
「(あれは康二の関西の後輩……。アイツも康二のことが好きなのか?)」
康二と長年関西で活動していた幼い顔立ちの青年二人と俺はバラエティ番組で共演し、撮影終わりに彼らの秘密話をたまたま聞くことができた。
——清らかな康二を見上げ、捕まえようと必死になっているのは俺だけじゃなかったのだ。
「まぁ、俺らもこの先もずっと康ちゃんと一緒におるもんやと思ってたからな。気持ちを伝えるなら早くせんと康ちゃんはもっと遠くに行ってまうで」
——でも、羽を広げて楽しそうに飛ぶ康二の目には手を伸ばす俺達の姿なんて映っておらず……
「男の俺が告白して気持ち悪がられないかな?」
「大丈夫や。だって、康ちゃんはな」
俺は必死で策を考え、君を我がものにしようとするやつらに康二を奪われたくなくて、さっさと捕まえて俺だけの鳥籠に閉じ込めることにした。
「過去にあった出来事で女性恐怖症になって、今は男が恋愛対象やねん。それも強引なタイプにめちゃくちゃ弱い。不意打ちにキスして男らしく好きや言うてみ。それでイチコロや」
「あーっ!めっちゃ緊張するけど、次会った時やってみるわ」
「(……へぇ。康二は女が好きだと思ってたけど、それなら俺でも行けるんじゃないか?)」
——ズルい俺はすぐさま君を捕らえることに成功する。
だけど、俺にはさらに強力なライバルが一人。
『しょっぴー俺さ、実は康二に告白しようと思ってる』
康二と付き合っても俺を毎日嫉妬で狂わせる人物がすぐ側にいた。
それは康二とベストコンビ大賞を受賞し、めめこじの名を世間に轟かせた同じグループの後輩である目黒蓮だ。
俺よりも先に康二と親しくなり、レギュラー番組でも共演し、常に康二の隣に並ぶのが当たり前の男。
そんな目黒が康二を恋愛対象として見ていたのはデビュー前から誰が見ても一目瞭然だった。
しかし、鈍感な康二は目黒蓮の露骨な愛情表現を持ってしても気付かず……
『康二のこと本当に好きなんだ。やっぱ、男同士で気持ち悪いかな?』
二人がベストコンビ大賞を受賞した時、火山が噴火するような嫉妬心に苛まれたが、この時には康二はすでに俺の恋人で、付き合ってから初めて知ったが、康二はとても一途な人間だったということ。
目黒が康二のタイプを知り、もし俺より先に行動に移していたら、きっと康二は目黒と深く愛し合ったかもしれない。
でも、康二の心を先に射止めたのはこの俺。
『いや、気持ち悪くなんかない。……想いはちゃんと伝えるべきだと思う。頑張れよ』
例え目黒が康二に告白をしても俺は奪われない自信があったし、毎日舐め回すように穢らわしい目で康二を見る目障りな目黒の叶わぬ恋にさっさと見切りをつけてもらいたかった。
まるで、初めて恋をした少女のようにはにかむ目黒を俺は心の中で嘲笑う。
『康二、お願い俺以外の奴にもう触れないで。
俺以外の奴の家に行っちゃだめ。
特に目黒には気を付けて欲しい。
康二を取られそうで俺、怖いんだ……
——康二、俺だけを見ていて』
そんなことを言いつつも俺は康二にしっかりと釘を刺すのも忘れない。
そして、康二は意外にもそれ以降、俺以外の人間と必要以上の接触を分かりやすいくらいに避けてくれるようになり、俺は酷く安心したものだ。
真っ白で無垢な君の羽を何処にも行けないようにもいでしまった俺は、代わりに君がこれ以上壊れぬことのないよう大切に扱った。
一切、穢すことなく。
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