夜 桜
※目黒蓮、超腹黒。
「康二君!!」
俺がめめの家の玄関の扉を開けた瞬間、大きな声とともに突如巨大な物体に視界を遮られた。
「ラウ……?すまん、苦し、い」
恐らくめめから事情を聞いていたのであろうラウは窒息死するんやないかというほど、俺の体をギュウギュウに締め付ける。
「あっ、ごめん。体調はもう大丈夫なの?」
大きな手で俺の顔を挟んで覗き込むラウ。
その目はめめと同じくらい俺を心配してくれている。
「今日で心も体もだいぶ、楽になったわ。
今までみんなに心配と迷惑をかけてごめんな」
「仲間なんだから、そんな寂しいこと言わないでよ」
申し訳なさそうに俯く俺をラウは叱咤する。
昔はメンバーの中で一番年下ということもあり遠慮しいな性格やったけど、ラウもだいぶ大人の男となり、今は全くといっていいほど距離感が無くなった。
「おおきに。これからは一人で抱え込まず、みんなにちゃんと相談するな」
ニッコリと微笑む俺にラウも微笑み、
「今日もめめの家に泊まってくでしょ?」
「え?」
俺はラウにも心配をかけたことを謝ってから、帰ろうと思ってたんやけど、まるでさも当たり前のようにラウに言われ俺は固まる。
「ただいま。って、康二まだ玄関にいたの?」
そこに車を地下の駐車場に停めたこの家の主が帰ってくる。
「めめおかえり〜!久々に康二君と二人で過ごせて良かったね。僕も康二君と話したいから、上がってってよ〜!僕がコーヒーを入れるからさ?ねっ、ね」
めめを出迎え、俺の腕を引いて引き止めるラウはなぜだか異様にテンションが高く、そんなラウをめめはうんざりとした表情で睨む。
「康二。こいつもうるさいし、帰りは俺が送ってくから少しゆっくりしてかない?」
目を輝かせるラウとめめに困った表情で提案され、俺は頷く。
「俺もラウが淹れてくれるコーヒー飲みたいし、時間も大丈夫やで」
「やった!」
「うわっ! 」
早速準備をするね!とラウがリビングのドアを開けると、目にも止まらぬ速さでフワフワのなにかが飛び出し、そして俺の脚にピョンピョンと飛び付いているのはめめの愛犬や。
「「 え……?」」
飼い主のめめでもなく、溺愛するほど可愛いがっているラウでもなく、いわゆるお客様の俺に懐くめめの愛犬に明らかに眉を寄せるめめとラウ。
「抱っこして欲しいんか?ほら、おいで」
俺が抱っこすると、めめの愛犬ちゃんはペロペロと俺の顔を舐めてクゥーンと甘えた声を出す。
「「 …………」」
「あーっ、ほんまかわええなぁ〜!二人ともなんて顔しとるん?ヤバいで」
思わず頬を緩ませる俺の顔をまるで、彼女を寝取られた彼氏みたいな表情で見ているめめとラウがあまりにも滑稽で俺は声を出して笑った。
「……どうぞ」
「ラウ、康二のこと睨みすぎだから」
俺の膝の上で当たり前のように寛ぐ、めめの愛犬を見て、さっきまでハイテンションだったラウが苦虫を噛み潰したような顔でコーヒーをテーブルに置く。
そういうめめの顔もなんだかぎこちない。
「あっ、ラウにお土産買ってきたんや。これ喜多方ラーメンとお菓子な」
「えっ、いいの?ありがとう!」
「近いうちラウも一緒にどこか行こうな 」
どっさりとお土産の入った紙袋を渡せば、うちの末っ子の機嫌はすっかり元通りや。
「で、めめとのデートはどうだった?」
「……ぶふぅっ!」
「うわっ!めめ大丈夫か?!」
ニコニコして紙袋の中身を探りながら、ラウは俺に問いかけ、俺の隣でめめが口に含んだコーヒーを吹き出し咽せる。
「ゴホッ、ゴホッ!」
「なに動揺してんの?も〜汚いなぁ。ほら、タオル 」
俺がめめの背中を撫でていると、ラウは呆れたようにめめにタオルを差し出し、コーヒーの飛び散った床を拭く。
そんなラウールをめめは涙目で睨み付ける。
あたりを拭き終えたラウは立ち上がり、めめを見下ろしニヤリと笑い、
「めめはデビューする前からずっと、康二君が大好きだからね」
「え?」
「っ、ラウールてめぇ!!!!」
ラウの発言にめめは声を上げ立ち上がり、ラウの胸倉を勢いよく掴む。
俺の膝に座っていためめの愛犬はそんな主人の態度に驚き、一目散にキッチンへと走る。
「ちょ、ちょ、めめなにしとるん?!」
突然の展開に俺はついて行けず、今にもラウに殴りかかりそうなめめを俺が引き離そうとすると、ラウは俺を見て問う。
「康二君、今日一日めめと一緒にいてなにも気付かなかったの?」
「えと…… 」
「やめろ」
めめの目が血走り、ラウの胸倉を掴む手に力が籠る。
俺はラウの言葉と初めて見るめめの激昂する姿に頭が混乱し、思考が上手く纏まらない。
「めめは康二君がしょっぴーと付き合う前から、康二君のことが好きなんだよ」
「黙れ!!!!」
「……っ!! 」
ラウが言葉を発した瞬間、めめが腕を振り上げ叫び、俺はラウが殴られる!と目を瞑り、身を縮こまらせた。
「……康二君?殴られてないから、大丈夫だよ」
「……あ、良かった」
「めめ、離して」
ラウの落ち着いた声に目を開けば、めめのこぶしがラウの左頬のすんでのところで止まっていて、その手は大きく震え、俺は脱力する。
「…………」
「……めめ、大丈夫か?」
「……っ、康二ごめん」
息の上がっためめはキツく掴んでいたラウの服と振り上げた腕を下げ、俺と目が合った後、気まずそうに寝室へと踵を返す。
酷く辛そうなめめの表情に俺はめめを追いかけた方がいいのか迷ったが、その前に確認することがある。
「……なぁ、めめとラウは俺がしょっぴーと付き合ってたこと知ってたん?」
「僕も何年も前にめめから聞くまでは知らなかったよ 」
「…………」
俺は今しがためめと海辺で話した会話を思い出す。
……俺には叶わない恋だとわかってても、ずっと好きな人がいるんだ。他の人を好きになろうと何度も努力もしたけど全然駄目で、今は俺がその人を忘れることはこの先もないなって思ってる。
俺はね、康二。好いた相手にはどんな形でも幸せになってもらいたいんだ
一緒に幸せになろう。
「……もしかしてめめの片想いの相手って、俺か?」
「うん。めめの寝室に康二君とベストコンビで撮った写真があるし、康二君が今着てる服もめめが康二君がよく着てるから、どこのものか調べてお揃いで買った服だよ。めめが康二君を見る顔はすごく康二君のことが好きなんだなぁって、誰が見ても分かりやすいと思うんだけど……」
康二君って結構鈍感だよねぇと言われ、顔が熱くなるのを感じた。
なるほど。
めめと仲良くしないでと言ったしょっぴーもめめが俺のことを好きやって気付いてたんやな……。
「…………」
めめの寝室のドアの前で俺は佇む。
『康二君もしょっぴーと別れて辛かったと思う。でも、めめも康二君のことを諦め切れずに長いこと苦しい思いをしてるのを俺は知ってる。
康二君がさ、めめのことをどう思ってるのかはわからないけど、そろそろめめを恋の痛みから解放して欲しい。
僕はこの子を連れて帰るから、めめのことよろしくね』
めめの愛犬をケージに入れ、ラウは淡々と話す。
ラウはめめの苦しむ姿をずっと、間近で見ていたんやろう。
俺が癒してあげたいと思っためめの傷はそもそも俺が原因で、今日のめめの俺を見る眼差しは愛おしいものを見る目そのもので……
———めめは俺が好き。
めめは俺としょっぴーが付き合っていることにいつ気付いたのか。
「(そして、俺はこれからどうすればええんやろう)」
とりあえず、まずはめめと話をしよう。
「……めめ、話しがしたいんやけどええかな? 」
俺は深呼吸をして、めめの寝室をノックする。
「……どうぞ」
「じゃあ、入るな」
あまり聞いたことのないめめのいつもより低い声で返ってきた返事に俺は息を飲み、ドアノブを回す。
月明かりで照らされた部屋のベッドの上にめめは体育座りで顔を俯かせ、小さくなっている。
俺は大きなクイーンベッドにめめと少し距離を置いて座り、ふと香る俺と同じ匂いのめめの寝室になんだか胸がこそばゆくなった。
「……あのさ、めめは俺のことが好きなん?」
「…………うん。出逢った頃から、ずっと好きだよ」
蚊の鳴くような声で好きだと言われ、胸がギュッと痛む。
出逢った頃からって……
めめと出逢ってもう十四年が経つ。
そんなにも俺を好きでいてくれてるのかいな。
「めめと昼に海で話した時、めめも長いこと片想いで苦しんでるって知って、めめが俺の気持ちを楽にしてくれたように俺もめめを救いたいって思ったんやけど……」
「…………」
「まさか俺がめめにそんな想いをさせてる張本人やなんて……なんか、ごめんな」
黙って俺の話を聞くめめ。
俺も謝ることしか出来ず、めめと同じようにその場で黙り込んでしまう。
「…………」
「…………それってつまり」
気まずい時間が流れ、めめが先に口を開く。
「俺は康二に振られたってことでいいの?」
暗闇の中、ゆっくりと顔を上げためめと視線がかち合う。
まるで捨てられた子犬のようなめめに俺は複雑な思いや。
「……俺もしょっぴーとのことを今日清算したばかりで、まだ誰かと付き合うとかそんな気持ちになれないというか……時間が欲しいんよ」
「俺のことはそういう風には見られない?」
しどろもどろに言葉を紡ぐ俺にめめは物悲しげに微笑む。
「えと…………っ」
めめの問いに困惑し、俺は自分の手が小刻みに振動していることに気付く。
——まだ、人を愛することが怖い。
震えを抑える為に両手を握り、胸の前に抱え込んだ。
めめにちゃんと返事をしなければ。
誤解されてまう!
「(でも、なんて伝えれば……)」
「康二」
ふと、迷い、悩み、戸惑う俺をめめが後ろから優しく包みこむ。
「めめ…っ」
「好きだよ」
その言葉は初めて俺に想いを告げたしょっぴーと重って……。
「うっ、う…!」
めめの告白により俺の目からボロボロと涙が溢れ、めめがその姿に慌てふためく。
「康二っ、ごめん!俺、康二を困らせる気はなくて……ただ、康二をもう他の誰にも奪われたくないんだ」
十四年間、出逢った頃からひたむきに俺だけを見ていためめ。
あの雨の日の告白のうんと前からめめは俺のことを好きでいてくれた。
めめはしょっぴーと付き合っていることを知ってから、一体どういう気持ちで俺たちを見ていたのか。
そして、俺は不安がるしょっぴーの為にめめを露骨に避けた。
それからどんな想いでめめが今まで過ごして来たのかと思うと胸がとてつもなく苦しい。
「俺っ、めめのこと嫌いやなくて、これからちゃんと向き合いたいってほんまに思っとって…!」
「うん、分かってる。俺が焦り過ぎた。だから、お願い康二。自分のことを責めないで」
大きく体を震わせる俺の両手ごとめめは後ろから俺を強く抱き込み、何度も謝る。
違う、めめはなにも悪くない。
「こんなこと言うんは、自分勝手だって思うんやけど……」
「いいよ、俺は康二の全てを受け止めるからなんでも話して」
めめの吐息を首筋に感じ、俺にはこの先も目黒蓮という存在が必要不可欠であると今はっきりと痛感した。
「俺のことを諦めないで欲しい」
「……馬鹿だな。今まで諦めようと何度も頑張ったけど、しょっぴーと付き合ってるのを知っても諦められなかったくらい俺は康二のことが好きで、その気持ちは日に日に増してる。だから、俺はいつまでも康二を待つよ」
「っ、う、ぁあっ…!」
めめの優しさと力強さに何度も、何度も助けられ俺はいくつもの想いが重なり子どものように泣きじゃくる。
そんな俺を昨晩同様、頭を撫でて、抱き締めて一生懸命に宥めてくれるめめ。
数時間前までしょっぴーを想って、涙を流した。
今度は俺に対するめめの深い恋慕に心が大きく揺れ動き、涙し気付く。
……俺はもう目黒蓮を一人の男として見てしまっていることに。
窓際で月の明かりに照らされて、うっすらと存在を主張するめめと俺の少し褪せた昔の写真。
身を寄せ合い、屈託のない顔で微笑むまだ若い俺たち。
めめの困った顔ばかりじゃなく、俺はめめのあの頃と同じ笑顔が見たい。
今の俺にはめめの隣でそれが出来るはず。
——だって、俺もめめのことを好きになってもうたから。
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「康二君!!」
俺がめめの家の玄関の扉を開けた瞬間、大きな声とともに突如巨大な物体に視界を遮られた。
「ラウ……?すまん、苦し、い」
恐らくめめから事情を聞いていたのであろうラウは窒息死するんやないかというほど、俺の体をギュウギュウに締め付ける。
「あっ、ごめん。体調はもう大丈夫なの?」
大きな手で俺の顔を挟んで覗き込むラウ。
その目はめめと同じくらい俺を心配してくれている。
「今日で心も体もだいぶ、楽になったわ。
今までみんなに心配と迷惑をかけてごめんな」
「仲間なんだから、そんな寂しいこと言わないでよ」
申し訳なさそうに俯く俺をラウは叱咤する。
昔はメンバーの中で一番年下ということもあり遠慮しいな性格やったけど、ラウもだいぶ大人の男となり、今は全くといっていいほど距離感が無くなった。
「おおきに。これからは一人で抱え込まず、みんなにちゃんと相談するな」
ニッコリと微笑む俺にラウも微笑み、
「今日もめめの家に泊まってくでしょ?」
「え?」
俺はラウにも心配をかけたことを謝ってから、帰ろうと思ってたんやけど、まるでさも当たり前のようにラウに言われ俺は固まる。
「ただいま。って、康二まだ玄関にいたの?」
そこに車を地下の駐車場に停めたこの家の主が帰ってくる。
「めめおかえり〜!久々に康二君と二人で過ごせて良かったね。僕も康二君と話したいから、上がってってよ〜!僕がコーヒーを入れるからさ?ねっ、ね」
めめを出迎え、俺の腕を引いて引き止めるラウはなぜだか異様にテンションが高く、そんなラウをめめはうんざりとした表情で睨む。
「康二。こいつもうるさいし、帰りは俺が送ってくから少しゆっくりしてかない?」
目を輝かせるラウとめめに困った表情で提案され、俺は頷く。
「俺もラウが淹れてくれるコーヒー飲みたいし、時間も大丈夫やで」
「やった!」
「うわっ! 」
早速準備をするね!とラウがリビングのドアを開けると、目にも止まらぬ速さでフワフワのなにかが飛び出し、そして俺の脚にピョンピョンと飛び付いているのはめめの愛犬や。
「「 え……?」」
飼い主のめめでもなく、溺愛するほど可愛いがっているラウでもなく、いわゆるお客様の俺に懐くめめの愛犬に明らかに眉を寄せるめめとラウ。
「抱っこして欲しいんか?ほら、おいで」
俺が抱っこすると、めめの愛犬ちゃんはペロペロと俺の顔を舐めてクゥーンと甘えた声を出す。
「「 …………」」
「あーっ、ほんまかわええなぁ〜!二人ともなんて顔しとるん?ヤバいで」
思わず頬を緩ませる俺の顔をまるで、彼女を寝取られた彼氏みたいな表情で見ているめめとラウがあまりにも滑稽で俺は声を出して笑った。
「……どうぞ」
「ラウ、康二のこと睨みすぎだから」
俺の膝の上で当たり前のように寛ぐ、めめの愛犬を見て、さっきまでハイテンションだったラウが苦虫を噛み潰したような顔でコーヒーをテーブルに置く。
そういうめめの顔もなんだかぎこちない。
「あっ、ラウにお土産買ってきたんや。これ喜多方ラーメンとお菓子な」
「えっ、いいの?ありがとう!」
「近いうちラウも一緒にどこか行こうな 」
どっさりとお土産の入った紙袋を渡せば、うちの末っ子の機嫌はすっかり元通りや。
「で、めめとのデートはどうだった?」
「……ぶふぅっ!」
「うわっ!めめ大丈夫か?!」
ニコニコして紙袋の中身を探りながら、ラウは俺に問いかけ、俺の隣でめめが口に含んだコーヒーを吹き出し咽せる。
「ゴホッ、ゴホッ!」
「なに動揺してんの?も〜汚いなぁ。ほら、タオル 」
俺がめめの背中を撫でていると、ラウは呆れたようにめめにタオルを差し出し、コーヒーの飛び散った床を拭く。
そんなラウールをめめは涙目で睨み付ける。
あたりを拭き終えたラウは立ち上がり、めめを見下ろしニヤリと笑い、
「めめはデビューする前からずっと、康二君が大好きだからね」
「え?」
「っ、ラウールてめぇ!!!!」
ラウの発言にめめは声を上げ立ち上がり、ラウの胸倉を勢いよく掴む。
俺の膝に座っていためめの愛犬はそんな主人の態度に驚き、一目散にキッチンへと走る。
「ちょ、ちょ、めめなにしとるん?!」
突然の展開に俺はついて行けず、今にもラウに殴りかかりそうなめめを俺が引き離そうとすると、ラウは俺を見て問う。
「康二君、今日一日めめと一緒にいてなにも気付かなかったの?」
「えと…… 」
「やめろ」
めめの目が血走り、ラウの胸倉を掴む手に力が籠る。
俺はラウの言葉と初めて見るめめの激昂する姿に頭が混乱し、思考が上手く纏まらない。
「めめは康二君がしょっぴーと付き合う前から、康二君のことが好きなんだよ」
「黙れ!!!!」
「……っ!! 」
ラウが言葉を発した瞬間、めめが腕を振り上げ叫び、俺はラウが殴られる!と目を瞑り、身を縮こまらせた。
「……康二君?殴られてないから、大丈夫だよ」
「……あ、良かった」
「めめ、離して」
ラウの落ち着いた声に目を開けば、めめのこぶしがラウの左頬のすんでのところで止まっていて、その手は大きく震え、俺は脱力する。
「…………」
「……めめ、大丈夫か?」
「……っ、康二ごめん」
息の上がっためめはキツく掴んでいたラウの服と振り上げた腕を下げ、俺と目が合った後、気まずそうに寝室へと踵を返す。
酷く辛そうなめめの表情に俺はめめを追いかけた方がいいのか迷ったが、その前に確認することがある。
「……なぁ、めめとラウは俺がしょっぴーと付き合ってたこと知ってたん?」
「僕も何年も前にめめから聞くまでは知らなかったよ 」
「…………」
俺は今しがためめと海辺で話した会話を思い出す。
……俺には叶わない恋だとわかってても、ずっと好きな人がいるんだ。他の人を好きになろうと何度も努力もしたけど全然駄目で、今は俺がその人を忘れることはこの先もないなって思ってる。
俺はね、康二。好いた相手にはどんな形でも幸せになってもらいたいんだ
一緒に幸せになろう。
「……もしかしてめめの片想いの相手って、俺か?」
「うん。めめの寝室に康二君とベストコンビで撮った写真があるし、康二君が今着てる服もめめが康二君がよく着てるから、どこのものか調べてお揃いで買った服だよ。めめが康二君を見る顔はすごく康二君のことが好きなんだなぁって、誰が見ても分かりやすいと思うんだけど……」
康二君って結構鈍感だよねぇと言われ、顔が熱くなるのを感じた。
なるほど。
めめと仲良くしないでと言ったしょっぴーもめめが俺のことを好きやって気付いてたんやな……。
「…………」
めめの寝室のドアの前で俺は佇む。
『康二君もしょっぴーと別れて辛かったと思う。でも、めめも康二君のことを諦め切れずに長いこと苦しい思いをしてるのを俺は知ってる。
康二君がさ、めめのことをどう思ってるのかはわからないけど、そろそろめめを恋の痛みから解放して欲しい。
僕はこの子を連れて帰るから、めめのことよろしくね』
めめの愛犬をケージに入れ、ラウは淡々と話す。
ラウはめめの苦しむ姿をずっと、間近で見ていたんやろう。
俺が癒してあげたいと思っためめの傷はそもそも俺が原因で、今日のめめの俺を見る眼差しは愛おしいものを見る目そのもので……
———めめは俺が好き。
めめは俺としょっぴーが付き合っていることにいつ気付いたのか。
「(そして、俺はこれからどうすればええんやろう)」
とりあえず、まずはめめと話をしよう。
「……めめ、話しがしたいんやけどええかな? 」
俺は深呼吸をして、めめの寝室をノックする。
「……どうぞ」
「じゃあ、入るな」
あまり聞いたことのないめめのいつもより低い声で返ってきた返事に俺は息を飲み、ドアノブを回す。
月明かりで照らされた部屋のベッドの上にめめは体育座りで顔を俯かせ、小さくなっている。
俺は大きなクイーンベッドにめめと少し距離を置いて座り、ふと香る俺と同じ匂いのめめの寝室になんだか胸がこそばゆくなった。
「……あのさ、めめは俺のことが好きなん?」
「…………うん。出逢った頃から、ずっと好きだよ」
蚊の鳴くような声で好きだと言われ、胸がギュッと痛む。
出逢った頃からって……
めめと出逢ってもう十四年が経つ。
そんなにも俺を好きでいてくれてるのかいな。
「めめと昼に海で話した時、めめも長いこと片想いで苦しんでるって知って、めめが俺の気持ちを楽にしてくれたように俺もめめを救いたいって思ったんやけど……」
「…………」
「まさか俺がめめにそんな想いをさせてる張本人やなんて……なんか、ごめんな」
黙って俺の話を聞くめめ。
俺も謝ることしか出来ず、めめと同じようにその場で黙り込んでしまう。
「…………」
「…………それってつまり」
気まずい時間が流れ、めめが先に口を開く。
「俺は康二に振られたってことでいいの?」
暗闇の中、ゆっくりと顔を上げためめと視線がかち合う。
まるで捨てられた子犬のようなめめに俺は複雑な思いや。
「……俺もしょっぴーとのことを今日清算したばかりで、まだ誰かと付き合うとかそんな気持ちになれないというか……時間が欲しいんよ」
「俺のことはそういう風には見られない?」
しどろもどろに言葉を紡ぐ俺にめめは物悲しげに微笑む。
「えと…………っ」
めめの問いに困惑し、俺は自分の手が小刻みに振動していることに気付く。
——まだ、人を愛することが怖い。
震えを抑える為に両手を握り、胸の前に抱え込んだ。
めめにちゃんと返事をしなければ。
誤解されてまう!
「(でも、なんて伝えれば……)」
「康二」
ふと、迷い、悩み、戸惑う俺をめめが後ろから優しく包みこむ。
「めめ…っ」
「好きだよ」
その言葉は初めて俺に想いを告げたしょっぴーと重って……。
「うっ、う…!」
めめの告白により俺の目からボロボロと涙が溢れ、めめがその姿に慌てふためく。
「康二っ、ごめん!俺、康二を困らせる気はなくて……ただ、康二をもう他の誰にも奪われたくないんだ」
十四年間、出逢った頃からひたむきに俺だけを見ていためめ。
あの雨の日の告白のうんと前からめめは俺のことを好きでいてくれた。
めめはしょっぴーと付き合っていることを知ってから、一体どういう気持ちで俺たちを見ていたのか。
そして、俺は不安がるしょっぴーの為にめめを露骨に避けた。
それからどんな想いでめめが今まで過ごして来たのかと思うと胸がとてつもなく苦しい。
「俺っ、めめのこと嫌いやなくて、これからちゃんと向き合いたいってほんまに思っとって…!」
「うん、分かってる。俺が焦り過ぎた。だから、お願い康二。自分のことを責めないで」
大きく体を震わせる俺の両手ごとめめは後ろから俺を強く抱き込み、何度も謝る。
違う、めめはなにも悪くない。
「こんなこと言うんは、自分勝手だって思うんやけど……」
「いいよ、俺は康二の全てを受け止めるからなんでも話して」
めめの吐息を首筋に感じ、俺にはこの先も目黒蓮という存在が必要不可欠であると今はっきりと痛感した。
「俺のことを諦めないで欲しい」
「……馬鹿だな。今まで諦めようと何度も頑張ったけど、しょっぴーと付き合ってるのを知っても諦められなかったくらい俺は康二のことが好きで、その気持ちは日に日に増してる。だから、俺はいつまでも康二を待つよ」
「っ、う、ぁあっ…!」
めめの優しさと力強さに何度も、何度も助けられ俺はいくつもの想いが重なり子どものように泣きじゃくる。
そんな俺を昨晩同様、頭を撫でて、抱き締めて一生懸命に宥めてくれるめめ。
数時間前までしょっぴーを想って、涙を流した。
今度は俺に対するめめの深い恋慕に心が大きく揺れ動き、涙し気付く。
……俺はもう目黒蓮を一人の男として見てしまっていることに。
窓際で月の明かりに照らされて、うっすらと存在を主張するめめと俺の少し褪せた昔の写真。
身を寄せ合い、屈託のない顔で微笑むまだ若い俺たち。
めめの困った顔ばかりじゃなく、俺はめめのあの頃と同じ笑顔が見たい。
今の俺にはめめの隣でそれが出来るはず。
——だって、俺もめめのことを好きになってもうたから。
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