夜 桜
「しょっぴー!しょっぴー……なんでっ! !」
「……康二、落ち着いて。大丈夫だから」
翔太君の首に腕を巻き付け、錯乱し大粒の涙を溢し声を上げる康二。
そんな康二を翔太君は強く抱きしめ返し、まるで愛しい者を守るように慈悲深く、康二の背を優しく撫でて宥めていく。
その左手の薬指にはシルバーの結婚指輪。
「………」
俺は目の前の俄かに信じ難い光景に拳を強く握り、切れてしまうのではないかという程、下唇を噛み締めギリギリのところで感情が大きく爆発するのを抑えた。
「めめ……」
ドス黒く醜い嫉妬心を抱えた俺、そして翔太君と抱擁を交わす康二をラウールが俺の隣で狼狽しながら交互に見やる。
頭に包帯を巻かれ、傷だらけでパニック状態の康二。
広い病院の個室でその場にいるメンバー全員に動揺が走った。
「(これは俺への罰か……)」
——奪えば、いつか奪われる。
悪い夢ならば早く覚めてくれ。
誰か嘘だと言ってくれ!!!!
夜 桜 -忘-
「やぁッ、めめぇっ!……駄目!激しッ!!」
「嫌なら……やめる?」
「え…… 」
クッションに寄りかかる俺に騎乗位で跨り、下から激しく突き上げられては乱れ、康二は止めどなく溢れる快感にはしたない声を上げる。
さらに極限まで膨張した自身からは我慢汁が垂れ流れ、もうすぐ絶頂を迎えようとしていた。
俺がそんな康二を見上げピタッと腰を止めれば、康二は困惑した顔で俺を見下ろす。
「康二が嫌がることを俺はしたくないな」
……これは忙しさにかまけて俺への連絡を怠った康二に対する罰だ。
「なに言うてんの……わかってるやろ」
「だって、康二が駄目って」
眉をハの字に、口をへの字に曲げて俺がわざとらしく、悲しげな表情を浮かべれば康二の顔がくしゃっと歪む。
「ちがっ、それは気持ち良くてこれ以上はおかしくなってまうって意味でっ……!!」
「ふふっ……嘘だよ、康二」
「えっ……?」
目に涙を浮かべ必死に言い訳をする康二が可愛くて、俺はつい笑みが溢れた。
「じゃあ、もっとおかしくなんな」
「ひっ、ぁァァンッ……!!!!」
俺が下から康二の最奥を目指し、大きく腰を打ちつければ康二の体は弓なりとなり、己のしなやな腹をめがけて白い液体を勢いよく放つ。
——あぁ、俺は狂おしい程に目の前の彼を愛している。
その想いは日に日に薄れるどころか色濃く増していき、俺は荒波のように押し寄せる康二への愛に毎日悩まされ思考を働かせた。
どうすれば康二を俺だけの鳥籠に閉じ込められるのだろう?
ここ最近、康二が他のグループのメンバーと絡むことが多くなり、俺は康二が俺以外の誰かに盗られてしまうのではないかと不安を抱き、そして恐れた。
「っ、」
康二がイッた衝動で波打つ腸壁に俺自身も感じたが、イくにはまだモノ足らず、俺の男根を咥えたまま放心している康二の両手を引っ張り俺の胸へと倒れさせる。
「やッ……んっ!」
体位を変えれば、康二のナカで俺のモノが当たる角度も変わり、康二が俺の聴覚がとろけるような甘くてエッチな声を漏らす。
それにより俺の勃起した陰茎がまた一回り大きくなった。
「康二、俺まだイッてないからさ……もう少し付き合ってね」
「嘘…っ、もう無理やって!あんッっ、はァッ、めめっ、めめっ!!」
康二の尻を両手で揉みしだき、その柔らかさを堪能しながら、俺は何度も腰を振っては康二に固くなったペニスを打ち込んでゆく。
パンパンと肌がぶつかり合う音と、康二の生々しく喘ぐ声は俺の心を満たしてはその心地良さに酔いしれる。
しかし、それは極々わずかな時間で、欲深い俺はすぐに新たな刺激を求めてしまう。
「ん……」
「ふっ、んぅ、めめっ、ハァっ、アんっ……!!」
俺のすぐ間近で赤い舌を覗かせ、奥まで擦れる刺激に喘ぐ康二の舌を絡めとってやると、焦点のハッキリしない眼の康二がそれに必死で応えてくれる。
まるで麻薬のような康二の存在が、今の俺の全て。
「康二、愛してる……愛してるよ」
「あぁ、っん!俺もっ、めめが大好きやでッ!」
毎日どれだけ伝えても足りず、
愛してる以上の言葉を知らない俺は飽きる事なく、闇雲に康二に愛を囁く。
「はあっ……!中に出すからねッ」
「…ああっ、めめのっ、いっぱい出てる!」
俺の全てをまるごと奪う康二のいない世界は
俺にとってなんの価値も無い。
——康二への愛が一秒ごとに大きくなっていくと、次第に康二に対する独占欲や誰かに奪われる不安も比例して大きなものとなり、俺はその負の感情にどうしても抗うことが出来なかった。
「あっ、こう……」
「………」
康二に初めて不信感を抱いたのは小雨が降る、渋谷駅のスクランブル交差点の前での出来事だ。
互いに別々の仕事で終わりの時間が重なり、康二と中間地点である渋谷で軽く飲もうと待ち合わせをしていた。
黒の傘をさし、帽子を被り、さらにカラーレンズのサングラスを掛けて変装をしていてもそこにいるのが康二だと俺にはすぐに分かる。
「チッ」
康二に会えた喜びに俺が声を掛けようとすると、その目はどこか一点を凝視し、さも面白くなさそうに舌を鳴らしては俯き、そして帽子ごと頭を掻く。
「……え」
初めて見る康二の別人のような姿に俺は戸惑い、一瞬康二と見間違えた赤の他人かと思ったが、そこにいるのは間違いなく俺の恋人の康二。
いつも陽気で明るい彼の表情を曇らせるものはなんなのか。
俺は急いで康二の見ていた視線の先を追った。
そこにはスクランブル交差点を一つの傘の下で腕を組み横断するカップル。
男女共にシンプルな装いだが、康二同様変装をしていてもそこはかとなく溢れるオーラで嫌でも誰だか分かってしまう。
康二が見ていたのは結婚してしばらく経つといつのに相変わらずつまらなそうな翔太君と、そんな翔太君にうっとりとした眼差しを向けるあの女だ。
「はぁ……」
「(もしかして、康二はまだ翔太君のことを……?) 」
大きく溜息をつき、サングラスを取り目頭を押さえる姿に俺はその場で立ち尽くすことしか出来なかった。
そうして、康二の苛立つ表情に動揺した俺はひとまずその場から離れ、康二に遅れるから先に店に行っていて欲しいと伝え、近くのビルのトイレの個室に入っては何度も深呼吸をし心を落ち着かせた。
「めめ、今日もお疲れさん。疲れたやろ?」
「康二お待たせ。……会いたかったよ 」
「俺もやで」
それから数十分後、先に店に来店していた康二は俺に屈託のない笑みを浮かべ、康二が頼んでくれたビールを飲みながらいつも通りの調子で今日あった出来事を報告してくれる。
「他のグループのSがな番組の収録で〜」
「……へぇ、そうなんだ」
「めめ、どこか調子が悪いん?」
康二の話をどこか上の空で聞く俺の顔を康二が心配そうに覗き込む。
いつもなら、そのつぶらな瞳に胸が熱くなり、抱きしめたい衝動に駆られるのに……
しかし、今日の康二の瞳はまるで感情の読めないブラックホールのようで、無闇に近付いてはならないような気さえした。
なのに、不安に苛まれた俺はよせばいいのに、早くそのどんよりとした感情を心の中から打ち消したくて確信に触れてしまう。
「……さっき、通りで翔太君を見かけてさ」
言いにくそうに歯切れ悪く話す俺に
「俺も嫁と腕を組んで歩いてるのを見たで。元気そうやったな」
康二は何事もないようにしれっと話し、焼き鳥を頬張る。その姿が逆に俺を深く悩ませた。
——元気そうだった?
それなら、先程見たあの怒りの表情や舌打ちは一体誰に向けたものなのだろう。
「もう大丈夫なんだね……」
「俺にはめめがおるから」
「……うん」
俯く俺に康二は肩をすくめ優しく微笑み、俺はそっと顔をあげ康二と視線を合わせる。
「そういえば」
「どうしたの?」
そして、康二から放たれた質問に俺は再度体を硬直させることになる。
「めめってしょっぴーの嫁と顔見知りなん?」
「え?いや、知らないけど。……なんで?」
咄嗟の判断だったと思う。
長い事ドラマや番組に出演し、培った演技力の反射神経がここで役に立つ。
そして、唐突に訪れた罪悪感と焦燥感。
……康二になにか気付かれたか。
「俺の知り合いが前にどこかで見かけた言うてな、でも人違いやったみたいやね」
「俺は美容外科を利用したこともないし、女性と外で会うこともないから」
康二と目を合わせ、困ったように話す俺に康二もそうやろなと笑い、二人でビールを胃の中にグッと流し込む。
「(あの女との接触を誰かに見られてた……?)」
康二についた嘘にドクドクと心臓が波打ち、向かいに座る康二にそれが聞こえないことを必死で願った。
彼の前では素直でありのままの自分でいたかったが、そんな彼に明かせない俺が抱える唯一の秘密……。
この時、スクランブル交差点で抱いた康二の苛立ちが、翔太君やあの女にではなく、俺に対して向けられていたものだなんて俺は夢にも思わず、
——康二との関係を守る為についた嘘が、二人の関係全てを壊していくのだと、この時の俺は何も分かっていなかった。
この日は十月の夜だというのにとても蒸し暑く、地面をザァザァと叩きつける雨の音と、流れる汗が俺をさらに不快な気持ちにさせた。
→
「……康二、落ち着いて。大丈夫だから」
翔太君の首に腕を巻き付け、錯乱し大粒の涙を溢し声を上げる康二。
そんな康二を翔太君は強く抱きしめ返し、まるで愛しい者を守るように慈悲深く、康二の背を優しく撫でて宥めていく。
その左手の薬指にはシルバーの結婚指輪。
「………」
俺は目の前の俄かに信じ難い光景に拳を強く握り、切れてしまうのではないかという程、下唇を噛み締めギリギリのところで感情が大きく爆発するのを抑えた。
「めめ……」
ドス黒く醜い嫉妬心を抱えた俺、そして翔太君と抱擁を交わす康二をラウールが俺の隣で狼狽しながら交互に見やる。
頭に包帯を巻かれ、傷だらけでパニック状態の康二。
広い病院の個室でその場にいるメンバー全員に動揺が走った。
「(これは俺への罰か……)」
——奪えば、いつか奪われる。
悪い夢ならば早く覚めてくれ。
誰か嘘だと言ってくれ!!!!
夜 桜 -忘-
「やぁッ、めめぇっ!……駄目!激しッ!!」
「嫌なら……やめる?」
「え…… 」
クッションに寄りかかる俺に騎乗位で跨り、下から激しく突き上げられては乱れ、康二は止めどなく溢れる快感にはしたない声を上げる。
さらに極限まで膨張した自身からは我慢汁が垂れ流れ、もうすぐ絶頂を迎えようとしていた。
俺がそんな康二を見上げピタッと腰を止めれば、康二は困惑した顔で俺を見下ろす。
「康二が嫌がることを俺はしたくないな」
……これは忙しさにかまけて俺への連絡を怠った康二に対する罰だ。
「なに言うてんの……わかってるやろ」
「だって、康二が駄目って」
眉をハの字に、口をへの字に曲げて俺がわざとらしく、悲しげな表情を浮かべれば康二の顔がくしゃっと歪む。
「ちがっ、それは気持ち良くてこれ以上はおかしくなってまうって意味でっ……!!」
「ふふっ……嘘だよ、康二」
「えっ……?」
目に涙を浮かべ必死に言い訳をする康二が可愛くて、俺はつい笑みが溢れた。
「じゃあ、もっとおかしくなんな」
「ひっ、ぁァァンッ……!!!!」
俺が下から康二の最奥を目指し、大きく腰を打ちつければ康二の体は弓なりとなり、己のしなやな腹をめがけて白い液体を勢いよく放つ。
——あぁ、俺は狂おしい程に目の前の彼を愛している。
その想いは日に日に薄れるどころか色濃く増していき、俺は荒波のように押し寄せる康二への愛に毎日悩まされ思考を働かせた。
どうすれば康二を俺だけの鳥籠に閉じ込められるのだろう?
ここ最近、康二が他のグループのメンバーと絡むことが多くなり、俺は康二が俺以外の誰かに盗られてしまうのではないかと不安を抱き、そして恐れた。
「っ、」
康二がイッた衝動で波打つ腸壁に俺自身も感じたが、イくにはまだモノ足らず、俺の男根を咥えたまま放心している康二の両手を引っ張り俺の胸へと倒れさせる。
「やッ……んっ!」
体位を変えれば、康二のナカで俺のモノが当たる角度も変わり、康二が俺の聴覚がとろけるような甘くてエッチな声を漏らす。
それにより俺の勃起した陰茎がまた一回り大きくなった。
「康二、俺まだイッてないからさ……もう少し付き合ってね」
「嘘…っ、もう無理やって!あんッっ、はァッ、めめっ、めめっ!!」
康二の尻を両手で揉みしだき、その柔らかさを堪能しながら、俺は何度も腰を振っては康二に固くなったペニスを打ち込んでゆく。
パンパンと肌がぶつかり合う音と、康二の生々しく喘ぐ声は俺の心を満たしてはその心地良さに酔いしれる。
しかし、それは極々わずかな時間で、欲深い俺はすぐに新たな刺激を求めてしまう。
「ん……」
「ふっ、んぅ、めめっ、ハァっ、アんっ……!!」
俺のすぐ間近で赤い舌を覗かせ、奥まで擦れる刺激に喘ぐ康二の舌を絡めとってやると、焦点のハッキリしない眼の康二がそれに必死で応えてくれる。
まるで麻薬のような康二の存在が、今の俺の全て。
「康二、愛してる……愛してるよ」
「あぁ、っん!俺もっ、めめが大好きやでッ!」
毎日どれだけ伝えても足りず、
愛してる以上の言葉を知らない俺は飽きる事なく、闇雲に康二に愛を囁く。
「はあっ……!中に出すからねッ」
「…ああっ、めめのっ、いっぱい出てる!」
俺の全てをまるごと奪う康二のいない世界は
俺にとってなんの価値も無い。
——康二への愛が一秒ごとに大きくなっていくと、次第に康二に対する独占欲や誰かに奪われる不安も比例して大きなものとなり、俺はその負の感情にどうしても抗うことが出来なかった。
「あっ、こう……」
「………」
康二に初めて不信感を抱いたのは小雨が降る、渋谷駅のスクランブル交差点の前での出来事だ。
互いに別々の仕事で終わりの時間が重なり、康二と中間地点である渋谷で軽く飲もうと待ち合わせをしていた。
黒の傘をさし、帽子を被り、さらにカラーレンズのサングラスを掛けて変装をしていてもそこにいるのが康二だと俺にはすぐに分かる。
「チッ」
康二に会えた喜びに俺が声を掛けようとすると、その目はどこか一点を凝視し、さも面白くなさそうに舌を鳴らしては俯き、そして帽子ごと頭を掻く。
「……え」
初めて見る康二の別人のような姿に俺は戸惑い、一瞬康二と見間違えた赤の他人かと思ったが、そこにいるのは間違いなく俺の恋人の康二。
いつも陽気で明るい彼の表情を曇らせるものはなんなのか。
俺は急いで康二の見ていた視線の先を追った。
そこにはスクランブル交差点を一つの傘の下で腕を組み横断するカップル。
男女共にシンプルな装いだが、康二同様変装をしていてもそこはかとなく溢れるオーラで嫌でも誰だか分かってしまう。
康二が見ていたのは結婚してしばらく経つといつのに相変わらずつまらなそうな翔太君と、そんな翔太君にうっとりとした眼差しを向けるあの女だ。
「はぁ……」
「(もしかして、康二はまだ翔太君のことを……?) 」
大きく溜息をつき、サングラスを取り目頭を押さえる姿に俺はその場で立ち尽くすことしか出来なかった。
そうして、康二の苛立つ表情に動揺した俺はひとまずその場から離れ、康二に遅れるから先に店に行っていて欲しいと伝え、近くのビルのトイレの個室に入っては何度も深呼吸をし心を落ち着かせた。
「めめ、今日もお疲れさん。疲れたやろ?」
「康二お待たせ。……会いたかったよ 」
「俺もやで」
それから数十分後、先に店に来店していた康二は俺に屈託のない笑みを浮かべ、康二が頼んでくれたビールを飲みながらいつも通りの調子で今日あった出来事を報告してくれる。
「他のグループのSがな番組の収録で〜」
「……へぇ、そうなんだ」
「めめ、どこか調子が悪いん?」
康二の話をどこか上の空で聞く俺の顔を康二が心配そうに覗き込む。
いつもなら、そのつぶらな瞳に胸が熱くなり、抱きしめたい衝動に駆られるのに……
しかし、今日の康二の瞳はまるで感情の読めないブラックホールのようで、無闇に近付いてはならないような気さえした。
なのに、不安に苛まれた俺はよせばいいのに、早くそのどんよりとした感情を心の中から打ち消したくて確信に触れてしまう。
「……さっき、通りで翔太君を見かけてさ」
言いにくそうに歯切れ悪く話す俺に
「俺も嫁と腕を組んで歩いてるのを見たで。元気そうやったな」
康二は何事もないようにしれっと話し、焼き鳥を頬張る。その姿が逆に俺を深く悩ませた。
——元気そうだった?
それなら、先程見たあの怒りの表情や舌打ちは一体誰に向けたものなのだろう。
「もう大丈夫なんだね……」
「俺にはめめがおるから」
「……うん」
俯く俺に康二は肩をすくめ優しく微笑み、俺はそっと顔をあげ康二と視線を合わせる。
「そういえば」
「どうしたの?」
そして、康二から放たれた質問に俺は再度体を硬直させることになる。
「めめってしょっぴーの嫁と顔見知りなん?」
「え?いや、知らないけど。……なんで?」
咄嗟の判断だったと思う。
長い事ドラマや番組に出演し、培った演技力の反射神経がここで役に立つ。
そして、唐突に訪れた罪悪感と焦燥感。
……康二になにか気付かれたか。
「俺の知り合いが前にどこかで見かけた言うてな、でも人違いやったみたいやね」
「俺は美容外科を利用したこともないし、女性と外で会うこともないから」
康二と目を合わせ、困ったように話す俺に康二もそうやろなと笑い、二人でビールを胃の中にグッと流し込む。
「(あの女との接触を誰かに見られてた……?)」
康二についた嘘にドクドクと心臓が波打ち、向かいに座る康二にそれが聞こえないことを必死で願った。
彼の前では素直でありのままの自分でいたかったが、そんな彼に明かせない俺が抱える唯一の秘密……。
この時、スクランブル交差点で抱いた康二の苛立ちが、翔太君やあの女にではなく、俺に対して向けられていたものだなんて俺は夢にも思わず、
——康二との関係を守る為についた嘘が、二人の関係全てを壊していくのだと、この時の俺は何も分かっていなかった。
この日は十月の夜だというのにとても蒸し暑く、地面をザァザァと叩きつける雨の音と、流れる汗が俺をさらに不快な気持ちにさせた。
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