夜 桜

めめside

「めめと会うの一週間半ぶりやね。マネージャーも久しぶり 」

「うん……会いたかったよ」

四月の半ばでもかなり蒸し暑い那覇空港。

手荷物受取所から待ち侘びていた人物が屈託の無い笑みを浮かべて現れ、その愛らしさに思わず腕の中に閉じ込めてしまいそうになったが、俺の隣にはマネージャーもいる。

「向井さんだいぶ調子が戻ってきましたね」

「メンバーやマネージャーのおかげや」

ニコニコする歳下のマネージャーとの再会に康二も微笑み、俺と視線を合わせてさらにクシャッと笑った。

俺と会わない間、だいぶご飯も食べられるようなったのか、痩せすぎだった体には少しだけ肉が付き、毎晩ビデオ通話でやり取りはしていたが、実物を前にすると愛する康二に触れたくて、触れたくて俺は堪らなくなってしまう。

四月に入ってからは海外でのモデルショーや新しく始まるドラマ撮影で慌ただしくなって、対する康二もドラマやバラエティーの収録が立て続けに入っており、俺たちが両想いになった日から一週間半が経とうとしていた。

「めめ、二日間よろしくな」

「沖縄の収録楽しみだね」

「あぁ……俺もめっちゃ楽しみにしとった」

昔、康二と二人でレギュラーを務めた番組の特番の撮影があり、会えなかった一週間半、俺も康二もこの日がとても待ち遠しかった。

——なぜなら今日の夜、俺は記念すべき康二のハジメテを頂戴するからだ。

お互い期待を込めた目と目を合わせ、頷き合う。

そんな二人の世界に入る俺たちにマネージャーが頭にはてなを浮かべて首を傾げる。

マネージャー。
ファンの多いめめこじの再来に真っ先に立ち会えるなんて、サイコーじゃない?

この二日間、胸焼けするくらい康二とたくさんイチャイチャするからよろしく。





「いやぁ〜、めめもそうやけどほんま先輩方、酒強いわぁ。めめ代わりに飲んでくれてありがとうな」

沖縄の中でも喧騒から離れ、特に星空がくっきりと綺麗に見える地域で、ほんのり頬が赤く染った康二とともに撮影したお店からホテルまでの道なりを歩く。

十年前に一緒に番組を盛り上げていたメンバーが集結し、夜はそのまま宴の開催となった。

くっきりとした色合いの多い無数の沖縄料理が並び、先程まで大御所の先輩方とわいわいと賑やかに沖縄のビールや泡盛を飲み交わしていたが、俺達は激務が続いている為、体調を気遣ってくれた先輩方により先にホテルに帰して貰えた。

「康二がベロンベロンに酔っ払って、そのまま寝られたら困るから。わかってるよね?夜はこれからだって」

「……うん」

マネージャーはスケジュールの管理や雑務が溜まっており、撮影をしたお店が歩いて数分の距離なので、ホテルでお留守番をしている。

だから、今は人気の無い薄暗い夜道で康二と二人きり。

待ちに待った、心置きなく康二と本音で話せる時間。

「康二が心から笑えるようになって安心したよ」

「めめのおかげやで」

火照った康二の頬に触れ、康二がくすぐったそうに身を捩る姿が可愛くて、俺は息を呑む。

「……ねぇ。康二、キスさせて」

「………ん」

突然の俺の要求にアルコールでは無い別の理由で康二の顔が一気に赤く染まり、小さく頷くのを見届けた後、俺は曲がり角の電柱に康二を引っ張り、塀に追い込み唇を重ねる。

「………」

「ぅ、ん……」

どこか遠くで聞こえるゆったりとした夜の海の静かな波音。

番組が用意したお揃いのかりゆしを康二と身に纏い、電柱の灯りに照らされするキスは背徳感を覚える。

「……っ」

「ふ、ぅ、んッ……やァっ、めめぇっ…!」

一週間半ぶりに味わう康二のなめらかな唇と鼻から抜けるくぐもった声が堪らなく甘美で、俺は康二の舌に己の舌を巻き付け康二の呼吸を無我夢中で奪い取り、それにより息が出来なくなった康二が俺の胸を必死で叩く。

……地元の人が見たら若いカップルが盛っていると思うだろうか。
 
今の所、人どころか車一台横切らないけど。

「失敗したな」

「はぁっ、はぁっ…………なにが」

名残惜しくも康二の口内から舌を抜き去り、目に涙を浮かべ口元を拭い、息を整える康二の頬にキスをすると康二のビー玉のような瞳が俺を捉え、俺はそのどこか艶を纏った視線にさらに欲情してしまう。

「康二が可愛すぎて、ホテルまで我慢出来なさそう」

「めめ、さすがにホテルまでは我慢してくれ」

俺のズボンの膨らみに気付いた康二は初めてがこんなところで青姦は嫌やと冷静に言い放ち、想いを告げあった一週間前の俺を惑わす淫らな康二とのギャップがおかしく、ツボに入り笑ってしまう。

「ふふっ!」

「……ほら、ホテル帰るで」

そんな俺に康二は苦笑いし、当たり前のように俺の手を握り、俺がすかさず指を絡め恋人繋ぎをすると康二も強く握り返してくれた。



「……すごいな」

「めめ!風呂がジャグジーのビューバスや!朝になったら海見ながら風呂入れんで!」

ホテルの正面玄関の前で、康二と繋いだ手を名残惜しく離し、受け付けで名前を伝え鍵を受け取ると、部屋は最上階のオーシャンスイートだと伝えられ、康二が何かの間違いじゃありませんかと受付の人に尋ねると、

『T様から今回番組の収録で当ホテルに宿泊されるゲストのみなさまの部屋をグレードアップするように仰せつかっております』

と。

なんとも気の利いた気遣いだ。

「康二こういうインテリア好きだよね」

「めっちゃ好き!」

広々としたリビングには南国リゾートらしく、ウォーターヒヤシンス、バンブーを使用した天然素材の家具、深みのあるターコイズのやちむんやヤシの木が特別な非日常を醸し出し、さらに正面の窓から見える月明かりに照らされた漆黒の海と星空のロマンチックな光景に康二もとても嬉しそうだ。

俺も子どのようにはしゃぐ康二にテンションが上がり、この部屋を用意してくれたTさんに改めて感謝した。

「じゃあ、康二。俺とお風呂入ろっか」

「………うん」

喜ぶ康二を背後から抱き締め、耳元で囁けば康二は静かに頷いた。


「……はぁ、め、め」

「ん、康二……少し焼けたね」

脱衣所で軽い口付けをしながら、互いのかりゆしのボタンを外し合う。

日焼け止めを塗っていたにも関わらず焼けてしまった康二の肌が俺の視覚を煽り、クラクラする。

服を脱ぎ、現れた華奢な上半身を俺がうっとりとした表情で軽く撫で上げると、康二が身を捩り俺の首に腕を巻き付け言った。

「めめ、早くしよ……俺もう我慢出来ひん」

「っ、俺もだよ……」

今日一日、一週間半ぶりの康二を前にしてよく平気な顔をして番組の撮影が出来たもんだ。

そんな自分を絶賛するくらい、俺は丸呑みしてしまいたい程、可愛い康二に悩殺され、さらにこの後、康二の底知れぬ誘惑により心臓が止まりそうになる。



「………」

「……あんな俺、めめに会えなかった一週間半、自分で広げる練習をしたんよ」

浴室で溶けて無くなるのではないかという程、康二と舌を絡めながら互いの体を清めた後はバスローブを纏い俺は康二に手を引かれベッドへと移動した。

初めてのアナルセックスで康二を不安にさせないように、痛い思いをさせないようにと緊張で固まる俺を見て、康二はあろうことか枕に寄り掛かり、両脚を思い切り開き、俺に初めて見た時よりも口を開いた秘部を惜しみ無く見せつける。

「はッ……」

それだけでなく、はだけたバスローブから伸びるスラっとした悩ましい脚、天に向く康二の生殖器。

そして、俺の勃ち上がったモノでこれから新たに開発されるであろう康二の第二の性感帯は俺の侵入を早く早くと待ち望んでいる。

「だから、めめのを俺にちょーだい」

首を傾げ、妖艶に微笑む康二。

——この男はどこまで俺をおかしくさせれば気が済むのだろうか。

康二の痴態に俺は呼吸が荒くなり、今にも目の前の淫乱に襲いかかろうと逸る気持ちを必死で抑えつける。

康二が自分の尻穴に指を入れ、解す姿が脳内に過ぎり、正直その想像だけで俺は何度もイッてしまいそうだった。

「明日は足腰が立たなくなって撮影がキツくなるかもね。でも、それは康二が悪いんだよ?」

熱のこもった目で俺を見つめる康二の頬を撫で、あくまで紳士でいようとする俺に康二は口角をあげて笑う。

「十四年分の愛をようやく俺に打ち込めるな。
……早う俺に狂っためめを見せてーな」

「お望み通りめちゃくちゃにしてあげるから、覚悟しな」

——こんなにも俺の心を掻き乱す悪い子には、どうやら少しばかりお仕置きが必要だ。

俺はお風呂に入る前にあらかじめベット脇に用意していたクリームをたっぷり自身の指に塗りたくり、それを一気に二本、康二の肛門に突き立てた。

「アっ、ァァン……ッ!!!」

いきなりの刺激に康二の背中が大きく仰け反り、俺の指を締め付ける。

指だけでもこんなに圧迫感を感じるなら、俺のを挿れたら康二のお尻は破裂してしまうんじゃないかと、心の中でこの後に及んで康二の身を案じた。

「気持ちいい?」

「……あほう、もうちょっと優しくしぃ 」

涙目で眉根を寄せる康二に俺は気分が良くなる。 
どうやらお仕置きは効果覿面だったらしい。

今度は康二のナカに入った指をゆっくり、ゆっくりと康二のお尻の粘膜を傷付けないよう抜き差しを繰り返す。

「んふっ、あ、っ……はぅっ、ンンッ!」

次第に俺の指の動きに合わせて康二が自ら腰を揺らし、ある一点の場所に触れると感じる声がより一層高くなった。

……どうやら俺が思ってるよりもココを自己開発済みらしい。

「へぇ、もう自分が気持ちいい場所わかってるんだ?康二って本当に淫乱だよね」

「アッ!めめぇっ、ソコッ!!気持ちい、いぃッ!!」

目の端に涙を溜めて良がる康二をもっと見たくて、俺は執拗に康二のイイトコロを攻め立てた。

康二の男根は腹に張り付くくらい勃ち上がり、先走りを漏らし、筋が浮かぶくらいに固くなっている。

まぁ、俺のモノは淫らな康二の姿により、それ以上にパンパンに張り詰めているのだが……。

「……もう少し、慣らした方がいいかな?」

俺が三本目の指をゆっくり押し進めて行くと、康二の口から信じられないくらい卑猥な言葉が紡がれる。

「もう、いいからっ!早くめめのチンコを俺のナカに入れてやッ」

「康二っ、挿れるよ」

意外と下ネタが苦手な康二から放たれたワードに臍の下が一気に重くなり、俺の尿道からはカウパーが溢れ出す。

そして俺の逸物は康二の穴に挿しこもうと少し角度を変えるのですらも痛いくらい、臨戦体制に入っていた。

「アッっ、イダッ…ぃぃ!!」

「くっ……!」

くっつくんじゃないかという程、両目をギュッと閉じる康二に俺は構う事なく、大きく勃起したモノを康二の奥まで押し進めて行く。

……初めて感じる康二の尻穴のあまりの気持ち良さに、俺の康二に対する気遣いなんてものは遥か彼方に吹っ飛んでしまった。

「ん、ッ!やァッ、めめっ、こわいっ……抱きしめて!!」

「うん、大丈夫だよ」

一体どこまで入るのか、俺のペニスを美味しそうに丸呑みする康二の秘部はわなわなとヒクつき、そして、ナカは燃えるように熱い。

俺の竿が奥まで到達した途端、康二が初めての快感に体全体を震わし、両手を伸ばす。

そんな姿に庇護欲よりもさらに加虐心が湧き、俺は康二に覆い被さり甘いキスを贈り、まずは俺の背中に腕を回させた。

「ふぅ、ん、めめっ、あっ、きもちぃッ…」

「……これからもっと、二人で気持ち良くなろうね」

俺の体温に安心しきった康二に俺は優しく微笑み、気の緩んだ康二は俺との啄むだけのキスに夢中になる。

そして、恐怖で強張っていた康二の体の力が抜け、緩んだ穴を合図に俺は康二に大きく腰を打ち付けた。

「アぁ、ァあッ……!?!!」

「ん、クッ……!」

目をカッと見開き、康二の意識が一瞬どこかに飛び、康二のアナルが俺のペニスをこれまで感じたことのない程締め付けてきて俺の意識もどこかにぶっ飛んでいきそうだ。

「やぁっ、ンぅッ、アァッ…!!めめっ、イイッ!
!」

「俺もっ、すごく気持ちいいよ……」

一心不乱に腰を打ち付け、康二もそれに応えるように腰を揺らす。

ただ一人、唯一俺だけを写し出す綺麗な眼からは透明な涙を。

俺の名前を必死で呼び、艶のある喘ぎ声を放つ口からははしたないくらい唾液が流れ、さらに康二の陰茎からは白く濃い我慢汁が溢れ出し、愛する人の痴態に俺の心と体はとっくに限界だった。

「めめっ、俺もう……!!」

「う、ん……俺もイきそうだよッ」

苦しいくらい康二の腕が俺の背を締め付け、互いの体がピタリとくっつき、挿入が深くなっただけではなく、康二のモノが俺の硬い腹筋で擦れ、その刺激で康二も達してしまいそうだ。

———好きな人と肌を合わせることがこんなにも気持ちがいいなんて……。 

そして、俺は今日康二の初めての男になれた。
それがすごく嬉しくて、嬉しくて俺は仕方がない。

「康二、一緒にイくよ……っ」

「あんンッ!ふぅんッ、ぁッ、ハァっ!
っ、めめっ、めめ!!イッちゃっ————! 」

「ッ、こーじ愛してるっ……!」

今日初めて知った康二の感じる場所に何度も何度も俺の精子が出る部分を強く打ち付け、ありもしないのにこのまま中に出せば康二が俺との子どもを孕むんじゃないかと馬鹿みたいな妄想が頭を過ぎり、絶頂を迎えて全てを喰らい尽くす康二の強烈な締め付けにより、解放を待ち望んでいた俺は康二と一緒に達する。

「はぁっ、はぁっ、俺も……」

「ふぅー…………ん?」

二人で射精の余韻に浸り抱きあいながら、息を整えていると、ふいに康二が小さく呟く。

俺はそれが聞き取れず、康二と目を合わせると、

「……俺もめめのこと愛してるで」

——もう俺のこと離さんといてな?

「っ、」

潤んだ瞳に上気した頬。
汗を掻き張り付いた前髪に快感によがり、掠れる声。
しなやかな体には康二が出した性液が飛び散り、俺の視覚や聴覚を捕獲する。

長いこと俺の心を捕らえていたのは康二だというのに……

向井康二を例えるなら桜。

桜の美しさに日本人は虜になり、春になればみな桜を一目見ようと桜の前へと足を運び、すぐさま心を奪われる。

それは一度見れば忘れない、古くから俺達の遺伝子にインプットされたものなのだろう。

康二もそうだ。

一人でなんでも抱え込む弱々しさは開花を待ち望む桜の蕾。

分け隔てなく全てを包む優しさは桜の薄紅のような淡い柔らかさがあって心地よく。 

見ている人も思わず笑顔になる屈託のない微笑みはまさに満開の桜。

そんな桜は儚さを含んた散り際が一番美しく、誰もが次の開花を待ち望む。

「俺は出逢って十四年間、康二が好きで今はこの体も向井康二に魅了されてる。もう離れられる訳がないじゃんか」

これから康二と交わる夜が待ち遠しくなるだろう。
長いこと恋焦がれ、手に入れた俺の康二。
彼の美しさは俺だけのモノだ。
花弁一枚すら誰にも触らせたくない。

黒い背景を上手く使いこなし、自分の美しさを際立たせる昼とは違った印象を与える夜に咲く魅惑の桜。

「……めめ、もっと、シよ」

うっとりと俺を見上げ、微笑む姿に俺はまたも悩殺され、自我を保てなくなる。

その虜になれば最後。
死んでもキミを忘れる事はない。
遺伝子に刻み込まれる程、キミの存在は俺にとって特別だ。

この日の初夜に俺は歯止めが効かず、康二の淡いピンクに染まった肌に吸いついては枯れてしまうくらい何度も康二を昇天させた。






「目黒君おはよう。昨日あんなに呑んだのにえらく、スッキリした顔してんな〜」

康二の意識が飛ぶまで激しいSEXをし、一睡もしていないが十四年間溜まりに溜まった想いを全て康二に解放し、心と体が酷く満たされたことで頭が冴えている。

朝の六時。
どうにもニヤける顔が治らず、俺がホテルのプライベートビーチで透明な海を眺めていると背後から声がかけられる。

大先輩のTさんだ。

「Tさん、昨日は部屋のグレードアップありがとうございました。康二もすごく喜んでました」

立ち上がり、Tさんに深々と会釈をするとTさんはええって、ええってと手を振り、口角を上げて意味深に俺に問う。

「……昨日の夜は楽しめた?」

「……はい、とても。これもTさんのおかげです 」

俺はそんなにわかりやすいのだろうか。

それでいい。
過去にベストコンビを受賞した目黒蓮が向井康二を寵愛しているとなれば、横からそれを掻っ攫おうと企てる者はいない。

さらに俺は初めて男同士で性交をする康二の体に何度も何度も快感を叩き込み、康二も行為にハマり、元々性欲が強いのか、あの様子だと会えば俺の体を欲するだろう。

脳内で再生される康二のエッチな姿に俺はTさんの前だと言うのに緩む口元が抑えられず、そんな俺を見てTさんは「康二も大変やなぁー」と苦笑いして呟いた。

続く
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