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——キミガイナ イセカイ


『◯◯スキー場の雪崩発生から三日。未だ複数の行方不明者が見つかっておりません。また孤立している——』

「…………」

「レン、コージが心配なのワカル……でも、ちょっとでも寝ないと、体にヨクナイ」

「……ありがとうございます」

康二とそっくりなカタコトの日本語混じりの女性にふわりと康二が愛用しているブランケットを肩にかけられ、愛しい人の香りを強く感じ、眉間がツンとする。

マネージャーから連絡をもらって以降、俺の精神面を心配した社長が仕事のスケジュールを調整し、俺に少しばかりの休暇を与えた。

今や国民的どころか国際的アイドルであるSnow Manの向井康二がスキー場で遭難したことを世間に悟られないように、俺と康二は流行り風邪で休んでいることになっている。

「ワタシ、コージーが大丈夫って信じてる 」

「そう……ですよね」

康二が遭難した件は康二のご家族に早い段階で警察から連絡が行っていたらしく、康二のお父さんやお兄さんは康二を出来るだけ早く迎えられるようにと可能な限りスキー場の近くに宿泊していて、兼ねてから俺と康二の交際を応援してくれている康二のお母さんは俺を心配して一人でここまで来てくれたのだ。

「レンが悲しんでたらコージも悲しむ」

康二の家のリビングのテーブルに伏せ、いつでも康二と連絡が取れるようにスマホを手元に置いて置き、四六時中テレビに張り付く俺に常に優しい言葉を投げかけてくれるお母さんが一番辛いはずなのに……

『損とか得とかやなくて、みんなが笑ってくれればそれでええねん!せやから、めめも笑って?でも、スベってほんまにキツイ時はめめが慰めてな?』

気丈に振る舞う姿にいつも周りを明るくしようとおちゃらける陽だまりのように暖かい恋人の姿が思い浮かぶ。

『スベんないよ。康二のどんなギャグでも俺は必ず笑うから』

『さすが俺の運命の相手!めめちゃん早く結婚しよ♡』

ギュッと抱きしめられ、頬擦りをして甘える康二に少しだけ意地悪をしたい気持ちが芽生え、俺は真顔で康二から顔を逸らす。

『…………』

『そこは反応せぇへんのかーい!!』

『ふっ、はははは!!嘘だよ、今すぐ結婚しよ康二』

バリバリの関西のツッコミを欲するあたり、俺はこの先の人生は向井康二なしでは到底成り立たないだろうと深く感じた。

『〜〜っ、めめはほんまカッコ良すぎてずるい』

康二の方に顔を戻し、口角を上げプロポーズの言葉を返せばりんごのように真っ赤に染まる顔。

『……冗談じゃなく本気で愛してる。康二が俺の全てだよ』

『……俺も。めめがいないともう生きてかれへんよ』

その可愛らしい顔をずっと隣で眺めていたいと思ったんだ。

康二が男だろうが女だろうが関係ない。

これほどまでに愛せる相手はどこにもいない。

……いつの世も。



「お母さんメンバーも康二と連絡が取れず、気付き始めてます……」  

ポコポコと通知を知らせるSMSはメンバーのグループの通知音。既読を付けずに読んだメッセージは康二がスキー場で遭難した確信を得ていて、特に佐久間くんは俺に何か知っているのではないかと名指しで連投し、その後に着信が何度も鳴り響く。

「コージのことを言えばみんなあなたのようにナル」

テーブルの上のスマホを見て首を振る康二のお母さんはただ「コージは無事、絶対大丈夫」と繰り返すばかりだ。

同じ不安を抱いているメンバーに康二のことを隠していることが申し訳なく、何よりこの状況をつくり出したのが俺自身であることが罪深く、変われるのなら遭難した康二と変わりたい。

康二は寒い場所と一人が苦手だから。










五日後。
降り続いた雪は止み、捜索が進んで数名の行方不明者が発見されたがそこに康二の名前はなかった。

大雪で山頂に雪が積もったことで二次被害が懸念され、捜索は一旦打ち切りとなる。

俺は絶望に打ちひしがれ、目の前が真っ暗になった。











速報 ◯月◯日に起きた××スキー場の雪崩にSnow Manの向井康二さんが巻き込まれ、行方不明となっていることが先程判明いたしました。




「……失礼します」

「蓮っ!!お前康二が遭難してることを知ってただろう!?なんでもっと早く俺たちに教えてくれなかったんだよ!!!!」

社長から康二を除いたメンバー全員に事務所に来るようにと収集がかかり、俺が社長室の扉をノックしドアを開けた瞬間。

「……っ、ごめん……」

「佐久間さん、お気持ちはわかりますがやめてください!」

佐久間くんに勢いよく胸ぐらを掴まれ、康二が遭難してからまともに眠れていない俺は後ろに大きくよろけたが、後から来たマネージャーが力強く支えてくれ、涙ぐみながら俺をキツく睨む佐久間くんをやんわりと引き剥がす。

「佐久間、今説明しただろう。目黒にこのことを伏せるように言ったのは私だ」

「「…………」」

低く放たれた声に俺がゆっくりとそちらを見上げれば、ソファーに腰掛けて悲しげに俯くメンバーたちの姿が俺の視界に一斉に映し出され、特に最年少のラウールは顔面を両手で覆いながら嗚咽を堪え、それを岩本くんがラウの背中に手を回し、広い肩に抱き寄せているが切長の瞳は涙が溢れないようにキツく閉じられている。

「(俺は……)」

それにより俺の見ている世界がぐらりと傾き、フラフラする俺を酷く心配したマネージャーが「目黒さんもあちらに」と空いている舘さんの隣に座るよう施した。

「……どうしてもっと早くに教えてくださらなかったんですか 」

着席した俺を確認した後、あべちゃんは社長へと向き直り歯を食いしばりながら社長に質問をする。

その拳は太ももの上でギュッと握られ、大きく震えていて……俺の手もあべちゃんの手に連動するように忙しなく動き出す。

「それが向井のご家族のご意向であり、そして……この事実を知ったらお前たちも向井を探しにスキー場に行っただろう?今××スキー場はこれまでの寒波と急な気温差、さらに続いた大雪で捜索が難航するほど危険な状況。プロの捜索隊ですら現場に近付くのは不可能なんだ」

「っ、それでも!! 」

壁にかけられた大きなモニターに映る上空から撮影されるスキー場のLive中継を瞬きすることなく見つめ、淡々と説明する社長にいつもの威厳はどこにもなく、なにを考えているのか、感情の読めない社長に痺れを切らしたふっかさんがバンッ!と音が鳴るほど机を叩き立ち上がる。

「……落ち着けよふっか。俺らが行ったところでなにも出来やしないし、社長だって今すぐ康二を探しに行きたいに決まってる。今俺らに出来るのは康二の無事を信じるだけだ」

ふっかさんの前に座るしょっぴーは力無くふっかさんを見上げる。

しかし、その目に光はなく、康二のお母さんも言っていた希望の言葉の裏側ですでにしょっぴーは悟っているのだ。


——康二の生存確率は0であると。

「…………」

ヘリから撮影される雲一つない澄み渡った空、真っ白な雪山を舘さんは俺が部屋に入ってから、一度も視線を逸らすことなく眺めていて、この中のどこかにいるかもしれない康二に「必ず生きていろよ、絶対に戻ってこいよ」と念を送っているのだろう。

「……向井さんの遭難が明かされたことでメンバーの精神面を考慮した企業やドラマ制作サイド、出版社などからスケジュールの再調整を行ってくださると連絡をいただきました」

マネージャーはたくさんの書類が挟まったバインダーを俺たちの前に差し出す。

こんなふうに企業や制作サイドがスケジュールの融通を利かせてくれるのは俺たちSnow Manがこれまでどんな仕事にも全力で取り組み、プロデューサーや企画の方々、スタッフさんたちや俳優さんたちと良好な関係を築いて来たからだ。

「(それを誰よりも一番大切にしていたのは康二だった)」

『めめのことは俺が誰よりも幸せにしたる!!せやから目黒蓮にこの世で怖いものなんてなしやで!!』

明るくて、人懐っこくて、優しくて、世界中の多くの人と出会ってはみんなを笑顔にしたいと屈託なく笑うのは……この広い宇宙で見つけた、俺のたった一人のかけがえのない存在。

康二が俺の隣にいるだけで、俺の世界はピカピカに輝いていたし、毎日がとても楽しかった。

常に心がポカポカして、人を愛することがこんなにも幸せなことなんだと教えてくれた人。

「…………」

目を閉じれば脳裏にはいとも簡単に君の姿が浮かぶのに……

俺の頬にボロボロと涙が伝い、スッと差し出される白いハンカチ。

「……向井が見つかるまでは取材が押し寄せてくるだろう。お前たちは全員しばらく自宅で待機するように。特に目黒……お前早まるんじゃないぞ」

「……はい」

深刻な顔をして俺の前に立つ社長。
俺の心を見透かしているのか、その目の奥には強い祈りが込められている。

——あぁ、もし、もしも康二が死んでいたら?

俺は君がいない世界が怖い。

「(ねぇ、康二早く俺の元に帰ってきて

俺は康二がいないと生きていけないよ) 」

お願い、康二。
俺を捨てていかないで……

俺は社長から差し出された、康二を連れ去った雪山と同じ色をした白いハンカチをキツく握ることで、その場で泣き叫ぶのをなんとか堪えた。

「「………………」」

静まり返った社長室。

今、苦しいのは”俺”だけじゃない。

こんな時、いつも真っ先に口を開いては場を和ませる俺の相棒は無音で冷たい世界に閉じ込められたまま。

そう。

俺の大切な人を連れ去ったのは


惜しくも俺たちのグループを象徴する

白い雪


続く
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