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——キミガイナ イセカイ


「明日は俺とスノボ行く約束だったやろ?なんでいつもそう自分勝手なん?」

「はぁ……ドラマで一緒の先輩たちに誘われたら断れないって康二もわかるだろ?スノボはまた別の日に行けばいいじゃん」

それは厳寒が続き、珍しく暖かい気温を迎えた一月末のこと。

怒りを露わにして詰め寄る俺にめめは面倒くさそうに頭を掻き、大きな溜め息を吐く。

—めめにデートの約束を何度も反故にされ、俺も限界が来ていた。

「それ何回め?俺はめめが嫌がるから先輩や後輩からの誘いも出来るだけ断ってるやん。なのになんでお前はそう自分勝手やの? 」

グループが周年を迎えるたびにめめと俺は個人の仕事がメンバーの中でも格段に増えて互いに忙しく、二人きりで会える時間が取れずにいた。

最初はめめも俺と過ごす時間が取れないことに寂しがっていたが、日々ハードなスケジュールをこなしていくのに精一杯となった今では、俺との予定よりも芸能界での交友関係を重視するようになる。

「仕方ないだろ。この厳しい世界で生き残っていくためには付き合いが大切なんだから」

「……めめほんまに変わってもうたな」

俯き呟いた俺を冷たい目で見下ろし、蔑む恋人。

その行動にパリン!と音を立てて心が割れる。

『俺はゴマをするんじゃなくて、自分の実力で仕事を勝ち取って行きたい!』

まだ若りし頃、目に希望を宿し胸を張って叫んだ熱い魂はどこへ行ってしまったのか。

「はっ……!もうこの話はやめようぜ。
……ねぇ、康二。久しぶりに会えたんだから早くヤらせてよ」

俺を小馬鹿にするように鼻で笑った後、今までのやり取りはなんだったのかというほど、めめはニッコリと微笑み残酷なひと言を放つ。

パリン!

また一つ。

「やっ……!!」

腕を強引に引かれ、ベッドに押し倒され首筋に強く吸い付くめめに俺は必死で抵抗する。

今、俺の目の前にいるめめは俺の好きなめめやない。

「可愛い。康二、愛してるよ」

「い、やっ……めめ!いややっ!!」

鎖骨を舐めて行くねっとりとした粘膜の感触が気持ち悪く、嫌悪から涙が溢れる。

「愛してる、ずっと好きだよ」

そんな俺を恍惚とした顔で見下ろした後、めめは俺の涙をザラりとした舌ですくい取り耳元で愛を囁く。

「え…………」

——その瞬間、めめのシャツの中に見えたのは左肩にくっきりと残る赤い斑点。

パリッ

壊れる心がなくなった俺は抵抗することをやめ、めめの愛撫をされるがまま受け入れた。

『康二がいれば俺はいつだって頑張れる』

『康二が俺の支えだよ』

『康二のことが本当に好きなんだ……だから、俺と付き合って欲しい』

俺やって、そうやで?
どんなに苦しい時もめめがおったからこそ頑張れたし、めめとこれから先の人生も同じ道を駆け抜けたいと思ったから、心の弱い俺でも踏ん張ることが出来た。

好きなんや。
出会った頃からずっと、優しく俺の肩に置かれる手も抱きしめてくれる力強い腕も、柔らかな微笑みも、低く落ち着く穏やかな声も。

「は、ぁっ、康二気持ちいいよ……っ!やっぱり俺には康二が一番だ」

「(でも、お前はもう俺のことなんて”見えて”ないんやな) 」

俺を組み敷いて、歯を食いしばり一心不乱に腰を振るめめに俺はそっと目を閉じる。

上っ面だけの愛の言葉。
そんなものはもう必要ないし、

俺もお前を”見る”ことはもう二度とない。

めめとなら永遠も信じられた。

やけど、変わらぬ『愛』などこの世にありはしないんやね。





「…………」

「すぅ……」

最悪な目覚め。
これまで安心していた”彼”の匂いに吐き気がする。

隣でぐっすりと眠る男に何度も抱かれ、体に残るのは無数の赤い痕と腰の鈍痛。

その代わり心の痛みはとっくに消えていた。

なぜなら、めめは行為の最中一度も服を脱がなかったから。

『康二、約束して?俺に隠し事はなしだよ』

俺はめめと付き合ってから嫉妬深く、心配性なめめを不安にさせないように日々努めた。

なのにお前は俺に隠すようなことばかりする。

「すぅ……」

「…………」

目の下にはくっきりとクマが出来、ずっと眺めていられると思っていた恋人の寝顔も今は一ミリたりとも興味が湧かない。

腰に回された手をどかし、強引に抱かれ体の節々が痛かったが、俺は床に散らばった服に無心で腕を通す。

全てを着用し終えた後、ふと視線を感じそちらを見れば、

「っ、 」

そこにあるのは肩を組み合い幸せそうに微笑む数年前のまだ若い俺たち。

写真立てに飾られた写真には埃が被り、まるでそんな時間はなかったかのようにただ置いてあるだけの写真立てを俺はそっと伏せ、振り返ることなくめめの家を後にした。




そうして、めめとは別れたどころか二度と会うこともなくなってしまったけど。








「××××、めめ」









——♩——♩——♩


「ん、はい……」

ベッドの上でけたたましく鳴り響く着信音に俺は手探りでスマホを探す。

その最中、隣で眠っていたはずの恋人の姿がないことに気付き重いまぶたを開け、音を立てて震える機械を手に取り耳に当てる。

『蓮、お前今日康二と一緒にスノボ行くって言ってたよな?今どこ?』

普段明るく電話越しでもテンションが高くてうるさい同じグループの先輩からの着信。

深妙な声で問われ、俺は広い部屋を見渡し、康二の姿を探しながらベッドから起き上がる。

「俺は今日ドラマのメンバーとご飯に行く予定が出来て、スノボはまた今度行くことになったけど」

カーテンの隙間から漏れるのは恐らく、朝日ではなく夕日のオレンジ。

疲れが溜まり、隣に康二が寝ていた安心感もあり、ずいぶんと深い眠りについていたようだ。

確か夢にも康二が出て来て優しく微笑んでくれ、今俺の心は酷く満たされている。

『じゃあ、康二はスノボに行ってないんだな!?』

それなのに酷く焦った声で耳元で問いかけてくる佐久間くんに俺は気分が悪くなり、眉根を寄せる。

「行ってないよ……夜は康二と一緒にいたし。なんで?」

どうしてそんなことを聞くの?と俺が尋ねれば佐久間くんは安堵した声で

『良かった……お前たちが行く予定だったスキー場で数時間前に雪崩が起こって今数人が行方不明だってニュースが流れてきたんだ』

「え……」

佐久間くんの話に俺の胸がドクンと音を立てる。

いや、そんなはずはない。
きっと、康二は俺の部屋のリビングにいて、いつものように俺が起きるのを待っているはず。

『ニュースを昼に見て康二と連絡がつかないから、もしかしてって思ったけど、俺の思い違いだったみたいだな』

「う、ん……」

その後、電話越しの佐久間くんの話は一切耳に入ってこず、俺は駆け足で家の中を歩き回り康二の姿を探す。

しかし、康二の姿はどこにもなくて気付けば佐久間くんとの通話はとっくに切れていた。

リビングから玄関に行き康二の靴の有無を確認し、康二がこの家にいないことを認識してから寝室へ戻り、ベッドに腰掛ける。

何故だかわからないが、心臓がバクバクと波打ち、それを康二が眠っていた場所に触れることで心を落ち着かせようとした。

「そうだ、俺も康二に電話しないと 」

ふと思い直し、常に着信履歴の上にいる恋人に連絡をする。

プルルルル
プルルルル……

「っ、 」

しかし何度鳴らしても康二は電話に出ず、胸騒ぎをかき消すように髪を振り乱し、顔を上げて感じた違和感。

——それは俺のデスクに伏せられた一つの写真立て。俺と康二の思い出の写真。

呼吸が止まり、途端に夢の中で康二が俺に微笑みながら言った言葉が甦る。




「さよなら、めめ」



「いや、違う……そうだ、康二の家に行こう」

鳥肌が立ち、寒気が俺を襲う。

……あれはただの夢だ。

俺は寝癖もそのままに上着を羽織り、スマホと康二の家の合鍵が付いた鍵を持ちタクシーを捕まえて康二の家へと急いだ。












「……きっと、俺の態度に怒ってどこか出掛けてるんだ」

自分にそう言い聞かせることで俺は現実から逃れようとした。

合鍵を使って入った康二の玄関に靴は一足もなく、そして地下の駐車場には康二の車もなければ、康二が大切にしているボードが入ったバッグも部屋にはなかった。

——つまり、康二は一人でスノボに行ったのだ。

「お願いだ、康二…… 」

プルルルル
プルルルル……

震える手で何度も康二にコールする。
しかし無情にも音は鳴り続けるばかり。

大好きな人の匂いが充満し、落ち着くはずの空間なのに吸い込む空気の冷たさはどこか居心地が悪く、この家の主の存在を必死で求める。

「早く電話に出てくれよ!!!! 」

俺はドラマのメンバーとのご飯の約束を断り、康二の家で康二の帰りを待った。

そして、深夜。
マネージャーから来た連絡に心臓が止まった。




『……向井さんがスキー場で雪崩に巻き込まれ、遭難しました』




——キミガイナ イセカイ



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