さぁ、今こそ!

「目黒くんは今気になってる人いないんですか?」

「気になってる人?いないよ。まぁ、いつかは結婚もしたいけど今はまだ一人でいたいかな」

「…………」

グループ問わず気の置けないメンバーが集まった事務所の一室。

俺たちの年齢も年齢だ。
恋愛観をぶっちゃけることだって勿論ある。

テーブルを囲むメンバーの中にはラウールやテレビに引っ張りだこのジュニアのメンバーも。

そんな中、鏡台の前で何やら真剣な表情でカメラを調整する康二が俺の返答にピクリと肩を揺らしたのを俺は見逃さなかった。

彼はこういう会話が苦手で、恋愛の話となるとどこかに逃げる傾向がある。

自分の経験を話すのが嫌なのか、はたまた俺の恋愛観を聞きたくないのか。

——今回の答えは間違いなく後者であることを俺は知っていた。

なぜなら







『ん〜っ、もう歩けなぁい!!』

『康二本当飲み過ぎ。ちゃんと歩けって』

ドームツアー真っ只中。
何万人という観客の中で行われるライブが終了した後も俺たちの熱は中々冷めやらず、特に康二や佐久間くん、あべちゃんあたりは普段そんなに飲まないのにこの日はかなり酒が進んでいて、そして、早いこと酔い潰れた康二をラウールがまだ未成年のために気を遣って飲まなかった俺がホテルまで一緒に帰ることになった。

久々にメンバー全員が揃って集まる飲み会は悪ノリを極め、この土地のツアーが今日で最終日なのをいいことに二次会に突入する。

そして、ラウールは俺の気遣いは何処へやらそれに参加すると言い出し、康二は俺は帰って寝る⭐︎と言ったが、千鳥足でヘロヘロの康二がどうしたって一人でホテルに帰れるわけはなく、素面の俺が送る羽目に。

『めめ……お願いおんぶして』

『全く仕方ねぇな。ほら』

タクシーから降りた康二は俺にまとわりついておんぶをせがむ。

ベストコンビも受賞した仲で、もはや相棒だと思っている康二は俺よりも歳上で先輩のくせに普段から甘えん坊なのだが、意外と面倒見のいい性格も兼ね備えていて常識人でもあり、こんなに酒に酔うのは中々珍しかった。

ましてや、普段俺と会話することはあっても康二は俺にはあまりベタベタしてこない。

『んー!めめのシャンプーええ匂い!』

しゃがんだ俺の背に康二はえいっ!と飛びつき、俺はその勢いに前につんのめりそうになりながらも、なんとか耐えて康二を背中に背負う。

『くすぐったいって』

すりすりと俺の首に頬を擦り付けてくる康二に俺は苦笑いをしながら、ホテルのフロントの受付の男性に会釈をする。

『ライブってええなぁ』

『楽しかったね』

エレベーターに乗り、俺が目的の階のボタンを押せば康二がボソッと呟く。

『なぁ、めめー』

『ん?』

目的の階へ静かに上がっていくエレベーター。
甘えた声で俺の名前を呼ぶ康二。
首筋に当たる吐息は俺の耳まで擽ってくる。

『さっきみんなで性欲の話してたやろ?』

『あぁ、うん。思ってたよりみんな下劣な感じだったね』

先程のメンバー内の会話を思い出し、例えアイドルであっても男が数人、そして酒が入ればする会話は一つだ。

意外と性欲が強そうで淡白なメンバー、逆も然り。
年頃のラウールはその手の会話に大いに喜んでおり、それに反して普段はお調子者の康二は下ネタが始まった瞬間に顔が引き攣り、ただただ酒を飲んでは聞き流し、こうして酔い潰れてしまったのだ。

『めめはどうなん?』

メンバーといる時は露骨に嫌そうな顔をしていたが、ノリノリに聞いてくるあたり、康二の酔いレベルはピークを迎えている。

『俺は人並みだと思うけど。そういう康二はどうなの?』

今まではこの手の話を康二が嫌がると知っていたから、知る機会はなかったが今ならなんでも答えてくれるだろう。

正直相手の反応を伺いながらするSEXは面倒くさく、一人でする方が楽な上に俺もどちらかというと淡白な方だから、康二の性欲についてはあまり関心はなかったが、なんとなく流れで聞いてみた。

『俺?普段は全くないけど、ライブのツアー中は興奮冷めやらずって感じ』

『へぇ。じゃあ、今なんかヤバいんじゃない?』

『せやな。……それこそ一人じゃ発散出来へんくらい』

首に巻かれた腕がギュッと締め付けられ、密着した康二の行動、それと一緒に放たれた言葉に俺は眉を寄せる。

『誰か』

『…………』

ピンポーン

“相手がいるの?”

問いかける言葉は俺たちの部屋の階の到着を知らせる音に掻き消され、俺は口を継ぐんで康二の部屋へと歩き出す。

……何故だろう。
今すごくモヤモヤする。

『康二、キーは?』

『は〜い』

康二はシャツの胸ポケットから出したキーを俺に差し出し、受け取った俺はドアを開けキーを建て付けの壁に差し込む。

パッと部屋の電気がつき康二をベッドに下ろした俺は

『眩しい……めめ照明落として』

『っ!』

額に手を当て目を細める康二の色香に息を呑む。

少しの間、それから目が離せなくなり、

『めめ?』

『あっ、うん。今暗くするね』

康二に名前を呼ばれて急いで康二の枕元の明かりを落とす。

薄暗くなる室内。

『ん〜、めめおおきになぁ』

『いいよ。じゃあ、俺は部屋に戻るから』

酒が程よく体に回っているのか。
幸せそうに微笑みながら器用にシャツのボタンを外していく康二。

それに対して妙な居心地の悪さを覚えた俺が自室へ行こうと踵を返せば、康二にいきなり力強く腕を引かれ、俺は突然のことで大きく後ろにバランスを崩す。

『な!?』

『めめ……』

そして、ベッドに倒れ込んだ俺の上に跨った康二と目が合い、いきなりのことに俺の脳内は思考を停止し、さらにこの後に続く康二の言葉に心臓までもが止まるかと思った。

『体が熱くて熱くてたまらへん……

なぁ、お願いめめ。俺を抱いて』

『は…………』

はだけたシャツがはらりとシーツに落ち、あらわになる康二の赤く染まったしなやかな上半身。

今まで何度も見てるそれは俺と大した変わらず、別に視界に入れたところで”ナニ”かを感じることなど一度だって無かったのに……

『俺、今すごくめめに抱かれたい』

『…………』

艶を纏ったその素肌に俺の男根が鎌首をもたげ、無意識に康二の胸元へと手が伸びてゆく。

そして、俺を見下ろし、とてつもない色気を放つ康二が過去にもこんなふうに男を誘っているのではないかと思うと頭に血が昇っていくのが分かった。

『あっ、ん!!』

『……すげぇ、エロい声』

右手で康二のピンクの乳首を摘めば、それに感じた康二の顔は仰け反り、さらにはズボンの中で康二の下肢が大きく立ち上がる。

この瞬間、康二の高く上擦った声に俺は生まれて初めての感情を抱く。

『(……もっと、康二の感じるところを見たい)』

『めめ、もっと』

そんな俺を知ってから知らずか、涙目で懇願する康二に俺は耐えられなくなり、ベッドに手をついて起き上がり、康二を素早く押し倒す。

『一応確認するけど、俺が康二を抱いてもいいんだよね?』

据え膳食わぬは男の恥。

確認はするが、ここまでされたら逃す気はない。
逃げられないように康二の両手に指を絡めて、シーツに貼り付け、唇と唇が触れる寸前で康二の目を見て問う。

『……うん。俺な、自分でする時はいつもめめとエロいことしてんの想像してするんやで。せやから、俺の初めてをめめに奪って欲しい』

『はっ、なに言ってんの……お前ヤバすぎ』

『めめ、早く触って』

ふわりと微笑む康二になにもかもが掻き乱され、初めてを奪って欲しいというその言葉の真意を探るよりも早く、体が真っ先に動いた。

吸い寄せられるように康二の赤い口に己の唇を重ねた瞬間、

その薄い唇からもっと俺の名前と普段聞くことの出来ない卑猥な言葉を紡がせたいと思ってしまったのだ。









『すぅ……』

『……自分から誘っておいて寝るなよな』

俺が唇を重ねた瞬間、酒により深い眠りに落ちた康二。

俺は気持ちよさそうに寝息を立てる康二の鼻を摘み、溜め息を吐く。

淫らな康二により勃ち上がった自身の息子をどう治めればいいのか、そして

その、何度も俺に抱かれたいとせがんだ康二はもしかして俺のことが好きなのだろうか……。

『ん〜……』

『…………』

ぐっすり眠る康二の体を隈なく見て、親指の腹で唇を撫でる。

俺の行為でくすぐったそうに身を捩る姿に俺は自然と自分の唇を重ねていた。


翌朝。

『頭が痛い……』

『康二、昨日めちゃくちゃ飲んでたけど大丈夫?』

朝食会場にはテーブルと一体化する康二とグロッキーな康二にしじみの味噌汁を差し出す舘さんの姿があり、俺は会場の入り口で二人の会話に聞き耳を立てる。

『……俺、昨日どうやって部屋に帰ったん?』

『目黒に部屋まで送ってもらったの覚えてないの?』

『あ〜、全く覚えてへん。あとでめめに謝らんと』

多分、あの様子じゃ昨晩のことは記憶に残っていないだろうと思っていたが、案の定康二は俺とのことをすっぱりと忘れている。

正直、お互い変な気まずさを抱えるよりは、それでいいと思っていた。

そして、仮に康二が本気で俺に抱かれたいと思っていても酒の勢いではなく、出来れば素面のままの康二の本心が知りたかった。

その時が来て、康二がまだ俺に抱かれることを望んでいるのなら、康二の初めてを俺が貰うんだ。

それ以降、俺は康二を見てはホテルでの出来事を思い出し康二に欲情する。

そして、脳内に康二を召喚して自分を慰める回数も格段と増え、頭の中は常に康二でいっぱいとなり、仕事が多忙を極めて康二と会えない日が続けばそれに苛立っては精神的な疲れが続き……


『めめ?俺やけど、中におるん?』

お互い同じ局の別々のドラマに出演し、番宣のための特別番組で久々に康二と会えることになり、この日の俺は楽屋で感極まっていた。

毎日電話で聞いている康二の生の肉声に俺の全身の血流が良くなっていくのがわかる。

自然と上がっていく口角、下がっていく目尻を抑えられず、どうしたものかと俺が考えていると

『めめ、入るで』

その一声に、俺はドアが開く前に慌てて目元を手で覆った。

『…………』

『めめ、お願いやからたまにはゆっくり休んで?
俺な、めめの無理して頑張る姿を見るのもうキツいねん』

久しぶりの康二の気配、香りに口を開くと顔が緩んでしまいそうで、俺は言葉を発することが出来ない。

さらに両目を手のひらで覆っているため、康二はソファーに腰掛ける俺が酷く疲れていると勘違いしてしまったようだ。

『……今Snow Man全体が勢いに乗ってるところで、弱音なんか吐いてらんないよ。そういう康二だって、休んでないでしょ?俺とキャンプに行く約束もいまだに果たせてないし』

心配してくれていることが嬉しく、そして少しだけ康二を苛めたい気持ちが芽生える。

俺の言葉に困って、耳たぶに触れる姿が安易に想像出来た。

『……分かった。今度こそ二人で予定を空けて、めめのしたいことしよ?俺がめめのやりたいこと全部叶えたるから、なんでも言って』

『……なんでも?』

思ってもいない康二の提案、そして夢のような言葉に俺は思わず康二を見る。

『あぁ、俺が出来ることなら』

力強く頷く康二に俺はチャンスだと思った。

康二によって生まれた性欲をこれを機に康二にぶつけることが出来るのではないかと。



『康二がそこまで言うなら休みを取るよ。

でも、今度こそ約束を守ってね』

『もちろんや!漢に二言はない』

胸を叩く康二に俺は今度はにやける顔を隠すことはせず、康二に立てた小指を差し出す。

『康二と過ごす次の休みが楽しみだな。約束だよ?』

『おっ、指切りしよか!』

久しぶりに触れた康二の手は昔と変わらず温かく、早く俺の全身で康二と体温を分かち合いたいと心が逸り、この日の収録は気付けば無意識に康二のことをずっと目で追ってしまっていた。



「すぅ……」

深夜二時。
流石に朝から起きている康二は俺の隣の助手席で疲れて寝てしまった。

目的地まではまだ二時間ほどかかる。
ライブツアー以来見る康二の寝顔を横目に、俺は無意識に笑みが溢れる。

今日の康二の反応を見る限り、あれから一年以上が経過しているが、俺に抱かれたいという康二の気持ちは今も全く変わっていないらしい。

俺の言動に動揺し、さらに一喜一憂する姿が可愛いく、早く康二を俺のモノにしたくて堪らなかったが、俺たちの初めては二人の記憶に残る特別なものにしたくて、俺は康二が喜んでくれそうな計画を立てた。

「早く康二を抱きたいな」

「ん、めめ……」

繋いだ康二の手の甲にキスを贈れば康二は幸せそうに微笑む。

目が覚めたら、今度はちゃんと覚えててくれてるよね?

今日こそ康二を抱いてあげるから。

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