さぁ、今こそ!



「めめ、お願いやからたまにはゆっくり休んで?俺な、めめの無理して頑張る姿を見るのもうキツいねん」

両目を手のひらで覆い、楽屋のソファに深く腰掛けるめめに俺はそっと声を掛ける。

同じ局、しかしお互い別々のドラマの番宣をする特番で訪れためめの楽屋。

ノックをして声を掛けたが本人から返事は無く、俺が「めめ入るで」と一声掛けて楽屋の扉を開ければ案の定そこにはめめの疲れ果てた姿があった。

「……今Snow Man全体が勢いに乗ってるところで、弱音なんか吐いてらんないよ。そういう康二だって、休んでないでしょ?俺とキャンプに行く約束もいまだに果たせてないし」

俺を責める言葉に力は無く、めめの弱々しい姿に俺は心が酷く痛んでは自身の耳たぶに触れ、頭を悩ませる。

「……分かった。今度こそ二人で予定を空けて、めめのしたいことしよ?俺がめめのやりたいこと全部叶えたるから、なんでも言ってや」

「……なんでも?」

期待を込めてチラッとこちらを見遣るめめに俺は力強く頷く。

めめが少しでも休んでくれるなら、俺はどんなことでもしてあげたい。

「あぁ、俺が出来ることなら」

「康二がそこまで言うなら休みを取るよ。

でも、今度こそ約束を守ってね」

まさかこの後、めめが俺の予想を360度越える
”とんでもないお願い”をするなんてこの時は思ってもみなかった。

「もちろんや!漢に二言はない」

「康二と過ごす次の休みが楽しみだな」

久しぶりに見ためめの穏やかな笑みに胸がときめく。

二人でレギュラーを務めていた人気番組も終わり、それから俺とめめはドラマや映画の出演も増え、多忙を極めていた。

例え、会える時間は減ってもめめとはメンバーの中ではほんまに気の合う仲で、連絡は毎日取り続けていて、実はそれが俺の心の支えだったりするんやけど……

めめは俺と話していてもいつの間にか寝落ちしてしまうくらい疲れが体や精神にまで蓄積していた。

『ごめん、康二。昨日も途中で寝落ちしちゃって……』

『なぁ、めめ。いい加減休まんとそろそろ限界なんちゃう?』

『まだ大丈夫だよ』

しかし、めめはどれだけ忙しくても弱音を吐くことは一切なく、俺はそんなめめがすごく心配やった。

——俺とめめは同じグループのメンバー、そして男同士。

にも関わらず、俺はめめに『恋』をしている。

この恋は決して実ることはないが、それでも俺はめめのベストコンビとしてめめを誰よりも笑顔にしたいと思ってんねん。

「約束だよ?」

「おっ、指切りしよか!」

差し出されためめの右手の小指に俺の指を絡め、指切りをした。

久しぶりに触れためめの手は相変わらず冷たく、俺がめめの心も体も温めることが出来たらなんて、ふと思った。

俺がそんなことを考えていたからか、






「康二とエッチなことしたい」

「は?

………………すまん、なんか俺の聞き間違いやったかもしれん。もう一回言って? 」

めめの声は低く、ボソッと喋るから多分、
「リッチなことしたい」を俺が変なふうに聞き間違えたんやろ。 

互いに休みを取る約束をした時と全く同じ状況下。

めめの楽屋を訪れ、ワクワクしながら「明日の休みにしたいことは決まったんか」と問う俺に楽屋のソファーに深く腰掛ける姿は以前と変わらない。

ただ一つ違うのはこないだの疲れ切った表情とは打って変わってめめが至極楽しそうに微笑んでいることや。

そんなめめの爆弾発言に俺は一瞬時が止まり、その場に立ち尽くす。

「康二とSEXしたい」

「はっ!?ちょ、ちょ、なにいうてんの!?
お前そういう冗談いう奴やないやろ!ほんまやめてえ〜な」

やはりめめも相当疲れが溜まってるんやろか?
俺が苦手なソッチ系の話題で、俺を揶揄って遊ぼうとしている。   

「……康二」

「うわっ!」

露骨に拒否反応を示す俺にめめの顔がくしゃっと歪み俺の腕を引っ張る。

「俺が冗談でこんなこという奴じゃないってわかるでしょ。俺さ、康二とそーいうことしてみたいってずっと思ってた」

「ッ!」

突然のことにバランスを崩した俺はソファーに座るめめの体の中へとすっぽりと収まり、耳元で低く囁かれた言葉に顔が一気に赤くなっていくのが分かった。

「なんでもするって約束したよね?漢に二言はないんでしょ?

——だから今日の夜、康二の初めてを俺にちょーだい」

「お、お、お、おぅ」

脳内が真っ白になり、吃った返事を返す俺にめめは満面の笑みを浮かべて俺をキツく抱き締める。

「ふっ……!番組の収録が終わったら俺の家に一緒に帰ろ」

「ぅ、うんっ!わかった!」

めめの男らしい厚い胸板にパニック状態の俺は上擦った声しか出ない。

しょっぴーやさっくんの胸には容赦なく飛び込めるのに、それがめめに出来ひんのはめめと触れる度、心臓どころか俺の全てが爆破しそうなくらいドキドキするからや。

「……じゃあ、康二」

「う、うん!」

めめの腕に閉じ込められている時間が果てしなく長く感じ、そしてめめの心臓の音も心なしか少し早い気がして、俺の胸の鼓動が波打つ。

「また後で」

「……え?!」

これまでにないくらいの至近距離。
柔らかな眼差しで俺を見て微笑むめめは俺のおでこに軽いキスをし、俺をソファーに座らせ楽屋を後にする。

「(……俺とSEXをしたいというのは、もしかしてめめも俺のことを好いてくれてるんやろか?)」

この後の番組の収録はめめと目が合っては動揺してまう自分を叱咤し、めめに抱かれる夜が脳裏に過っては何度も発狂しそうになり気が触れそうやった。






「あれ?今日お二人ご一緒ですか?そっか、明日からのオフは二人でどこか行かれるんですね」

「うん。康二が俺のために色々やってくれるんだって」

車に乗り込み、マネージャーに「今日は康二も俺の家で」と嬉々として告げるめめ。
なんだか楽しそうなめめの表情に歳下のマネージャーの顔も綻ぶのがミラー越しに分かる。

マネージャーもめめの休みがないことを気にかけていたのだ。

「あっ、じゃあキャンプに行く予定なんですか?」

「いや、サプライズでまだナニをするか教えてくれないんだ」

「…………!」

めめがマネージャーとなにやら意味深に話している間、俺はというと

「ね、康二」

「お、おう!めめのためにとびきりの計画を立てとるから楽しみにしとき!」

「いいですね〜」

送迎用の十人乗りのハイエースの前から二列目。
運転席に座るマネージャーの真後ろに乗り込んだ俺。

そしてめめは席はいくつも空いているというのに、さも当たり前のように俺の隣に座り、あろうことか俺の左手に指を絡めてきた。

俺がその行為に驚き、動揺しながらもなんとかマネージャーにいつもの調子で返し、すぐ隣にいるめめを凝視するがめめはそれに気付かないフリをしてマネージャーと明日のオフの話を続ける。

「(さっきからめめがなにを考えてるのかわからへん……)」

めめと繋いだ手により、まるで太鼓のようにバクバクと大きく鳴る俺の心臓。

幸い夜ということもあり、指を絡め合う俺たちの姿はマネージャーには見えてへん。

俺は実はめめにも胸の音が聞こえているのではないかと高鳴る鼓動を抑える為、窓際に頬杖をつき、都会の街並みを見つめながら番組収録終わりの出来事を思い出す。








『康二、お疲れ様。今日もキレッキレのギャグだったね』

『……めめもお疲れさん』

ドアが二回、小さく響く音に俺は身構える。
めめが俺を迎えに来たのだ。

——俺が約束を反故にしないように。

楽屋に備え付けられた鏡越しに目が合っためめはやはり笑顔を浮かべており、俺をジッと見つめながら俺の背後へそっと忍び寄る。

それに耐えられずに俺は逃げるようにめめから目を逸らして俯き、鏡の前にある「大人の夜の雰囲気づくり」というタイトルの女性誌に視線を移した。

そこにはなんともいえぬ表情で表紙を飾る上半身裸のふっかさんがおって「なんかもっと違うポーズなかったんか」とツッコミどころ満載のふっかさんに一瞬意識を奪われ、関西の血が騒ぐ。

『ねぇ、』

『な、に……』

俺がそんなことを考えている間にめめは俺の真後ろに立ち、俺を真綿で包むように背後から抱きしめた。

先ほどと同じように低い声で囁かれ、その声に今度は俺の思考、視線や体温、肌に神経全てがめめに集中していく。

『……本当にいいの?』

どこか自信のないめめの問いかけ。
今更やけど、ぶっ飛んだお願いをしたとめめも自覚してるんやろ。

でも、めめは冗談でそんなお願いをする奴やない。

『めめが俺と本気でシたいなら……俺はええよ』

自分で言っておきながら猛烈に恥ずかしくなり、俺はめめの絡められた腕を握り、キツく目を閉じ言葉を紡いだ。

『俺もめめとその……してみたいと思ってたから』

『……じゃあ、行こうか』

小さく呟く俺をめめはさらに強く抱きしめる。
首筋に当たるめめの温かい吐息がくすぐったく、この後のめめとの行為を鮮明に連想させた。

駐車場までの間、俺は前を歩くめめの広い背中を眺め、この男らしい体躯に組み敷かれ、いやらしく鳴く自分を想像しては体の中心に熱を帯びて行くのが分かった。



「それでは向井さん、目黒さん久しぶりのお休みゆっくり楽しんでくださいね!」

めめのマンションの裏口へ車は停車し、ハイエースのドアが自動で開く。

「うん。また休み明けにね」

「っ、マネージャーも気いつけて帰ってな」

「じゃあ、お休みなさい」

先に腰を上げためめは俺が離そうとした手を離すことなく、マネージャーに声をかけ、俺の手を引き車から降りる。

「……康二の手あったかいね」

「めめの手が冷たすぎるんやろ……」

二人で次第に小さくなっていくマネージャーの運転する送迎車を見送り手を繋いだまま、めめの住むマンションのエントランスへと歩みを進める。

めめはお辞儀をするコンシェルジュを気にも止めず、俺の手をキツく握り、ハンズフリーのオートロックを潜り抜け最上階へ向かうエレベーターを二人で並んで待つ。

「…………」

「(誰か降りてきたらどないしよ……)」

番組終了からずっと口角の上がっためめの横顔を横目に、俺が再度繋いだ手を離そうとすれば、めめは眉根を寄せて俺を見て、あろうことか今まで軽く絡めていた指を俺の指にがっしりと絡めて来た。

「駄目だよ康二。今夜はもう離さないから」

「も、もし誰かに見られたらどないするんっ!?」

「俺は構わないよ」

真剣な眼差しで見つめられ、繋いだ俺の左手の甲にキスをするめめ。

「め、め……」

ピンポーン

「さ、行こうか」

それと同時に開いたエレベーターは誰一人として乗っておらず、俺たち二人を濃密な夜の世界へと誘う。

——それは長きに渡り待ち侘びた、めめとの長い夜の始まり。



「ん?最上階やなくてB2?」

乗り込んだエレベーターのドアが閉まり、めめが押したのは自身の部屋があるフロアではなく、このマンションの住人の車が停まった地下駐車場のボタンやった。

「うん。今から康二をいいところに連れて行ってあげる」

至近距離で俺を見下ろすめめが小さな子どもみたいにすごく楽しそうに微笑むもんやから、そんなめめに俺も自然と頬が緩む。

「……なんや、早速ベッドに連れてかれるもんやと思ってたのに、楽しみやわ」

駐車場に行くということは車に乗るということや。
現在の時刻は深夜二十三時半。
てっきりめめの部屋で、営みをするのかと思っていたらどうやら違うらしい。

エレベーターが目的の階に到着し、めめに手を引かれ乗り込んだめめの愛車はT社のランクル。 

しかも中々手に入らない300をめめの尊敬する先輩から贈られたものだと聞いた時には車が好きな俺は流石にめめに嫉妬した。

「康二の初めてをそこでもらうから 」

「っ〜〜! 」

目を細めて笑うめめに何度もときめいてしまい、早くも体が持たない。

そして、俺との休暇のためにめめが特別な場所を用意してくれたという気遣いがなんだかすごく嬉しく、俺はまるでめめの恋人になったような錯覚に陥る。

高身長のめめが乗ってもゆったりとした車内。

俯く俺にめめはふっと微笑み、

「康二シートベルトして」

「……自分で出来るのに」

俺の方に軽く身を乗り出し助手席のシートベルトを引っ張る。

「俺がやってあげたいんだよ。
そういえばこのシートベルトのバックルにはめる部分の名前知ってる?」

「……知らん」

クイズ番組で得た知識なんやろが、今はそんなことよりもめめの顔が近いことの方が気になり、俺は硬直した。

俺がめめのことをめちゃくちゃ意識していることを分かっていて、めめは俺を何度もドキドキさせる。

「英語でタングって言うんだって。意味は?」

「……舌やろ」

めめは正解と口角を上げ、カチッとタングをバックルにはめた。

日常の何気ない行為が意味を知るだけで、卑猥なものに見えてはこの後、俺もめめとこのシートベルトのように一つになるのだと改めて実感し、俺の脳内はグツグツと煮立つ。

この様子やとめめは俺の気持ちにとっくに気付いてるんやろな……。

「はい」

「…………」

マンションの駐車場を出たところで、めめが当たり前のように左手を俺に差し出し、俺がなにも言わずにその掌に自分の手を重ねればめめはそれに指を絡めた。

恥ずかしさでいっぱいとなった俺は窓の外のまだ暗い、しかしネオンで明るい東京を眺めることでなんとか平静を保つ。

正直、過去に誰かと付き合ったことのない恋愛初心者の俺には中々刺激の強い空間で、オフだというのにこれでは心が全く休まらない。

「……そんな意識されると俺も緊張してくるな」

「嘘つけ。さっきから俺の反応見てめちゃくちゃ楽しんどるやん 」

「ははっ!バレた?」

「普通に分かるわ!てか、遠出するん?」

声を上げて笑うめめは夜間で交通量の少ない都内を抜け、首都高速の入り口へと進路変更していく。

てっきり近場のホテルに行くもんやと思っていた俺はそれに驚き、めめを見る。

「休みは三日間もあるんだし、その全てを康二に癒してもらう予定だから。よろしく」

「……あぁ、めめのしたいこと全部叶えたる」

俺もめめと過ごす時間に癒され、めめのしたいことは俺のしたいことでもあって、俺はこんな甘い関係をこの先もずっとめめの”恋人”として続けていきたいと俺が思ってることをこの旅でめめに伝えようと考えている。

せやけど、めめは……

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