デビュー十年目


※あべさく?あり。


康二side


「「お疲れ様でした」」

新曲の振り付け練習が終わり、メンバーだけが残った室内。

新しい振りを何度も何度も確認し、必死で頭に叩き込んで踊り、この二日間めめとあつ〜い夜を過ごした俺の腰はとうに悲鳴をあげていた。

踊っている最中は特にめめのがまだ入っているような異物感に苛まれ、昨晩の夜を何度もフラッシュバックさせ、振り覚えの悪い俺をめちゃくちゃに悩ませた。

「(腰、めっちゃ痛〜ッ!)」

俺はズキズキと限界を訴える腰を叱咤し、あくまで平静を装う。

佐「蓮!康二!」

ラ「マネージャーに怒られなかった?大丈夫?」

メンバーが俺とめめを囲むように集まる。

「みんな驚かせてほんまごめんな。マネージャーには先ずみんなと話すよう言われてな」

先程ふっかさんがめめが俺を好きな事をメンバー全員が気付いていると言うとったけど、そのおかげ(?)もあってか、めめとの交際発表をしてもメンバーからは特に嫌悪感などは感じられず、逆にマネージャーからお咎めがあったのではないかと心配をされる始末で、俺はこの状況に拍子抜けしてしまう。

舘「…………」

「(舘さん……)」

小さく安堵した俺は隣にいた舘さんと目が合い、若干の気まずさに俯いたが、舘さんの視線は話の続きを促していた。

今後のことも含めてメンバーにどう話そうか、考えているとめめが真っ先に口を開く。

目「あのさ、A子さんと康二が結婚するってマネージャーから聞いて、いてもたってもいられなくなった俺がタイから戻った康二に好きだって告白したんだ」

「……っ」

渡「めめ康二のことずっと好きだったもんな」

そっと肩に手を回され、改めてメンバーの前でストレートに報告するめめに俺は顔が真っ赤に染まる。

目「それで、みんなも気付いてた通り俺は態度に出やすいから、康二との関係を隠すんじゃなく世間に公表したいと思ってるんだけど、」

阿「別にあえて公表しなくてもいいんじゃない?」

めめがどうかな?と言い終える前にあべちゃんが笑顔で言葉を被せる。

岩「…………」

深「…………」

岩本君とふっかさんがそんなあべちゃんの様子をチラリと横目で伺う。

———あべちゃんとさっくんはもしかしたら付き合っているかもしれない。

仮にほんまに付き合っていたら、二人はそのことを他のメンバーに知らせていない。

ならば、俺らのカミングアウトに抵抗があるのも頷ける。

「えと、確認やけどみんなは俺たちの関係はどう思ってるん?」

ラ「僕は二人が幸せなら別に。でも、めめは康二君ばっか構ってないでたまには俺とも遊んでよね〜」

目「はいはい」

何年経っても末っ子気質なラウールはめめのほっぺをツンツンし、めめはそれを適当に受け流す。

深「俺と照はさっきも言ったけど、メンバー同士、男同士交際していてもいいと思ってる」

渡「私情をグループ内に持ちまなければ俺も問題なーし」

めめがメンバーの前でボロが出ないかそこは心配だが、照兄とふっかさん、しょっぴーも俺とめめの交際を特に気にした様子は無い。

残るは舘さん、さっくん、あべちゃんの三人だ。

舘「俺は交際は反対じゃないけど、阿部と同じく世間に公表するのは考えた方がいいと思う」

佐「……俺もそう思う」

舘さんはあべちゃんと同じ意見だろうというのは俺はこれまでの舘さんとの付き合いで聞かずとも、分かっていた。

問題なのはなんとなく歯切れの悪いさっくんとあべちゃんや。

目「これは俺たちだけじゃなく、Snow Man全体に関わることだから、誰か一人でも反対のメンバーがいたら俺も康二としっかりと話し合って今後のことを決めて行きたい」

阿「別に難しく考えず、人生は一度きりなんだから上手くやればいいじゃん」

まるで言葉の半分は佐久間君の受け売りのような楽観的なあべちゃんの発言にその場にいた全員が驚き、あべちゃんを見る。

阿「俺はグループも自分たちの恋愛も、ファンのみんなも全て守って行ける方法はなにも公にしないことだと思う。そうじゃない康二?」

康「え?あぁ、あべちゃんがそう言うなら、また考え直さなきゃやね」

目「…………」

佐「…………」

全てを話すことだけが誠実じゃないよ。

あべちゃんのいつもの『あべちゃんらしからぬ主張』に一同は驚愕した。




目「あべちゃんと佐久間君なんか様子がおかしかったね」

「せやね、俺からは見えてたんやけど、さっくんが照兄の後ろで複雑な顔をしとった。この件は日を改めて二人と話さなあかん」

メンバーから祝福の言葉を貰い、レッスン室には俺とめめの二人きり。

とりあえず、俺とめめの関係を世間に公表する話しはあべちゃんの意見により一旦保留となり、気になるのはさっくんや。

本人から何か言われるまでは、あべちゃんのことは触れない方がええんやろか。

いくら同じグループのメンバーとはいえ言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあるだろう。

——それはもちろん俺にだってある。

とりあえず、メンバーにはいくつかのルールを設けて俺たちの交際を認めてもらうことができ、俺はホッと一息ついた。

そんな俺の顔をめめの冷たい手が優しく撫で、俺はゆっくりと視線を上げた。

目「康二さ、俺になにか言ってないことあるよね?」

目が合っためめは口角を上げ、所謂満面の笑みを浮かべるがその目の奥は多分笑って、ない。

「なにかって、なに?」

目「……わからない?」

綺麗な微笑みの裏側に狂気を感じ、俺は背筋がゾッとするのを感じた。

メンバーから分かりやすいと言われ、本人は隠しているつもりなんやろが、この笑顔の奥に隠れているのは恐らく嫉妬……。

「えと〜」

俺が隠していることの検討が付かず、頭を巡らせる。

些細なことでヤキモチを妬くめめが今日嫉妬するような出来事といえば色々あるが…………

「あ、もしかして舘さん?」

目「そう。なんかさっき、舘さんとワケありの顔してた」

「あ……」

あの一瞬でなにかを察しためざといめめに俺は舘さんのことを話すべきか頭を悩ませる。

目「俺に隠し事はもう無しって言ったよね」

これまではあえて誰かに話す必要は無かったが、恋人同士になったからには確かにコレは言っておかないとマズいかもしれへん。

「めめ、よーく落ち着いて聞いてや」

保険の為、しっかりと前置きを入れる。

目「大丈夫だよ」

だから、俺に話して?と首を傾げて言うめめを信じた俺がアホやった。

終始、口角を上げながら全てを聞いためめが両腕を組み初めたあたりから、これはヤバいと直感が働いたのだが

目「俺、康二の淹れてくれたコーヒーが飲みたいから今日も俺んちきてくれる?」

「……えーと、今日はムリかな〜」

俺の腰がこれ以上はやめておけとサイレンを鳴らす。

目「…………」

「すみません!ぜひ、行かせて下さい!」 

めめの目は断れば、ここで犯すと言わんばかりの般若の顔に変わり、俺はピシッと両手を揃え真っ直ぐお辞儀をした。

この場で嫉妬に狂い、俺を抱きしめてキスをしなかっただけメンバーに打ち明けたことは俺にとっても、めめにとっても良かったのだろう。

どこで誰が見てるかわからんし、気をつける事に越したことはない。

『……実はな舘さん、俺のことが好きやねん。俺がめめのこと好きなの分かっとって、舘さんは定期的に俺を好きって言ってくれる』

俺がめめの心に大きなミサイルを落としたというのは。言わずもがなやがな。

それはそうやろ。
舘さんが俺に恋心を持っているのを分かった上で、俺は舘さんに引っ付いたり、一緒に出掛けたり、そしてお互いの家に泊まったりもしてたんやから。

全てを話すことだけが誠実じゃないと言ったあべちゃんの言葉はごもっともだ。



目「…………」

窓にもたれて眠るめめに俺は苦笑いをする。 
普段はマネージャーの送迎か電車に乗って帰るのだが、事務所を出て早々にめめがタクシーを捕まえマンションの住所を淡々と告げた後に、着いたら起こしてと俺に言ってめめはすぐに目を閉じた。

「(これはめめ、めっちゃ不貞腐れてるっ)」

機嫌の悪さを狸寝入りで隠してんのは一目瞭然やった。

およそ15分程タクシーに揺られタクシーは俺のマンションの前を通過し、今日もあそこに帰ることはないなと俺は心の涙を流し、寝たフリをしているめめを起こす。

「起きて。家に着いたで」

目「ん……う、まだ眠い」

「寝るのは家についてからにし。運転手さん、ありがとうございました」

めめは眠くない目を擦り精算をする。 
めめとタクシーから降り、マンションの高層階用のエレベーターにめめと二人で乗り込んだ。

「ほんまに芝居の上手い奴やなぁ」

横目で何事も無かったように立つめめに胡散臭そうに言ってやるとめめは俺を見て意地悪く笑い、

目「メンバーにカミングアウトしてなかったら、ここで康二の唇を舐め回したかもね」 

ペロッと自分の唇の端をゆっくりと舐めた。

「……っ、」

大人の色香を漂わせるめめに俺は痛む腰が急激に疼くのを感じ、めめから視線を逸らす。

目「どうした康二。

———今のでヨクジョウ、しちゃった?」

そんな俺を見透かし、めめは俺の頭をクシャッと撫でた後に開いたエレベーターのドアの先へと進んでいく。

「……うわ〜、今のはヤバい」

全世界の目黒ファンごめんなさい。
目黒蓮のこんなエロい姿を見られるのはSnow Manであり、目黒蓮の彼女である俺だけです。

目「ただいまー」

「……おかえり」

玄関のドアを大きく開け放って、一人暮らしなのにただいまと言うのはめめの癖で、

俺がめめの家に邪魔する時は決まっておかえりと返してやると屈託のない笑顔で喜ぶのがめめや。

これからは俺も「お邪魔します」より、「ただいま」とこの家に帰ってくる方が多くなるかもしれない。

カチッ。

玄関の照明が住人を歓迎するように明るくなり、


——パタン。

と、小さな音を立てて玄関のドアが閉まる。
広い玄関でめめは靴を脱ぐことをせず、立ち止まった。

目「…………」

「…………」

めめが醸し出す怪しげな雰囲気に俺は来る!と体を硬直させ、キスに備えて目をギュッとつぶったが、予想が外れたのかなにも来ず……

目「ふっ、ははっ!康二、なに目つぶってんの?なんか期待した?」

「っ〜、あぁあぁ!?!!指差すな! 
俺ほんま、恥ずかしいぃッ……!!」

こちらを向いて俺を指差し、腹を抱えて笑うめめに昨日の女々しいめめちゃんはどこに行った?!と俺は全身が茹で蛸状態になった。



目「まずは飯食おっか」

「めめ、ご飯頼んでくれてたんやね。ありがとな」

目「ん、いただきます」

「いただきます」

リビングに着き上着をハンガーに掛けていると、チャイムが鳴ってめめが玄関へと歩いて行く。

戻って来ためめが持っている袋には有名な定食屋の名前が入っていた。

いつの間にかめめが和食のデリバリーを頼んでくれたらしい。

今朝、軽い朝ごはんを作った時にめめの家の冷蔵庫にはわずかな物しか入っておらず、今日こそは絶対に買い物に行くぞと決めていたのだが、これから買い出しに行くのは無理やろなと心の中で独りごち、味噌汁を啜る。

「めっちゃ美味い」

この三日間でいろんなことがあり、温かいしじみの味噌汁が五臓六腑に染み渡る。

目「本当だ!ウマッ!康二、俺のほっけ焼き食べてみな。ほら、あーん」

「生姜焼きもめっちゃ美味いで。タイ料理も美味いけど、やっぱ和食はええな」

めめにあーんをしてもらい、パリッと焼けたホッケに舌鼓を打つ。

ちょっとぶりの日本の味を噛み締めながら俺はふと、タイにいるじぃちゃんの言葉を思い出す。


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